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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第01話01

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(flag.X1 紅き月の覚醒)


「…ここには、必要なものがありませんわ」
泣きそうな顔で、少女は少年に対して言葉を絞り出す。
「…お父様も、お母様も、クルデンホルフの名も、ここでは何の意味もなさない。始祖ブリミルより賜りしメイジの魔法も、"虚無"でも無ければこの世界に数多くある"力"の1つに過ぎない…
 この世界では…私は…無力な少女に過ぎない…」
ぶるりと、その言葉に震える。
少女を支えてきたプライドが折れそうになる感覚に。そして、すがるような瞳で、少年を見る。
「…貴方もそう、思っているのでしょう」
その瞳に少年の顔が移る。あのどこか間の抜けたシュヴァリエ・サイトと同じ国の出身とは思えぬほどに整った顔立ちの、黒髪の少年。
不安に震える少女の前に突如現れ、共に過ごしてきた"他校"の少年。
少年はメガネ越しにじっと少女の顔を見据え、ただ一言いう。
「…ああ。そうだね。君はボクにとっては無力な女の子だ」
少女が俯く。唇をグッと噛みしめながら。
否定して欲しかった。
そんなことは無い、君は素晴らしいメイジで、特別な存在だと言って欲しかった。
「貴方に…あなたなんかに、何が分かるのよっ!?」
その願いを裏切られたことがただ苦しくて、少女は顔を上げて少年に言葉をぶつける。
「私が無力ならば、あなたはなんなのっ!?魔法も使えなければそれに並ぶような力も無い!剣すらまともに握れない、ただの平民の癖に!なのに…何故なの!なぜあなたは…あなたは…」
―――そんなに、自信を持っていられるのよ…
そう、少年と共に過ごしたこの2週間、少年は1度として揺るがなかった。ただ、あるがままに、泰然としていた。
少女は既に知っていた。この少年は…"強い"と。
「…自分を信じるのに、力なんて必要ないさ」
そんな少女をまっすぐに見据え、少年はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「…ただ自分は自分だって信じること。それさえ忘れなければいい。それだけなんだ」
まっすぐに少女を見据え言葉を続ける。
「だからボクが…いや、君以外の誰がどう思おうと関係ない」
少年の言葉が少女に届くよう、精一杯の"思い"を込めて。
「ボクがボクを信じるように、君は君を信じて。君は特別な女の子だって。他の誰でもない、君自身が。そうじゃなきゃ駄目なんだ」
「私が…?」
「そう。他の誰でもないベアトリス、君自身がだ」
呟く少女に少年は言葉を重ねる。
「…無理だわ。私は、私をそこまで信じられない」
「それじゃあボクが困る。だって…」
メガネを外し、少女を更に見つめる。少女の青い瞳に少年の真剣な顔が写り込む。
「ボクにとって、君は無力で弱くて…それでも大切な、この世界で出会えた特別な女の子なんだ」
少年の瞳に映った少女の顔が驚きに見開かれる。その少女の顔を映したまま…
「お願いだ。ベアトリス…信じて。君が特別な女の子だって。君も、ボクも、そう思ってるんだって、ボクに信じさせてくれ」
ゆっくりと顔を寄せる。そして…少女はビクリと身体を震わせて目を閉じ。
「…ケイマ」
2人はその唇を、合わせた。

―――舞島学園西校舎屋上

「神様、やりましたね!これで"こちら"に来て5匹目です!」
翌日、ドクロを模した髪飾りをつけた少女が嬉しそうに少年に報告する。その手には怪しげな化け物が入った、小さな瓶。
「ベアトリスさんもすっかり元気になったって、テファさんが言ってました。これでもう大丈夫ですね!」
満面の笑顔でその後を報告する少女に、手にしたゲーム機から一時も目を離さずに神様と呼ばれる少年がぼやく。
「…まったく、駆け魂もよその学校の連中に逃げ込むなんて、何考えているんだ」
この、リアルの癖に下手なゲームよりよっぽどぶっ飛んだ設定の学園世界に来てからと言うもの、少年はあちこちで"攻略"を繰り返している。
「大体ボクは忙しいんだ。駆け魂なんて執行部だか心霊部だかに任せておけばいい」
無責任な発言をするこの少年の名は…桂木桂馬。1万人の美少女を(ゲームの中で)攻略してきたと言う"落とし神"
「忙しいって、神様ず~~~~~~~~~~っとゲームやってるだけじゃないですか…」
その桂木桂馬を神様と慕う少女の名は…エリュシア・デ・ルート・イーマ。地獄からやってきた悪魔で通称"エルシィ"
「当然だろう?この世界にはまだ僕の攻略していないギャルゲーが山とある。遊んでいる暇なんて無いんだ」
契約で結ばれたこの2人の次のターゲットの少女の名は…

―――学園世界C地区

休日のお昼前。学生たちでごった返す街角で、朱野ユリは女の子の手を引きつつ、歩いていた。
女の子は不安そうな表情できょろきょろと辺りを見回すのをかれこれ30分近く続けている。
「いないよぉ…」
目当ての少年が見つからず、泣きそうになりながら少女が呟く。
「大丈夫。すぐに…とはいかないけどちゃんと見つけてあげるから」
「ほんとう?」
「うん。ほんとほんと。お姉さんを信じなさい。ね?」
そんな会話をしていた時だった。
「…あ、電話だ。ちょっと待ってて」
震える0-phoneに気づいたユリが女の子に断り電話に出る。相手は…
「もしもし?あ、智?どしたの?」
ユリと同じ選抜159番隊に所属する、部隊の仲間だった。
ユリが頼んでいたことがわかったらしく、ハイテンションでそれを伝えてくる。
「え!?この子のお兄ちゃんらしき子が見つかった!?よかったあ~それで…うん。分かった。51番隊の詰所だね」
「お兄ちゃん、見つかったの?」
ユリの言葉に女の子が反応し、問いかける。それにユリは笑顔で答える。
「そう。今、選抜の詰所にいるって。こっからだと…あ、ちょうど近いや」
0-phoneのナビで場所を確認しつつ、言う。
「じゃ、いこっか?」
「うん!」
ユリの笑顔につられるように、女の子が笑顔になった。

「お兄ちゃ~ん!」
女の子が大きな声を上げて少年に駆けよる。
「こら!心配したんだぞ…」
「ごめんなさい…」
少年は女の子を軽く怒ったあと、優しく女の子をなでる。
「すみませんでした。妹がお世話になったみたいで」
人当たりの良さそうな、中学生くらいの少年がしきりにユリに頭を下げる。
「気にしないで。あたしも好きでやってるんだからさ」
そんな少年の姿にこそばゆくなりながら、ユリは照れ隠しにぽりぽりと頬を掻きながら答える。
「ありがとう!選抜委員のおねえちゃん!」
「どういたしまして。もう、迷子になっちゃ駄目だぞ?」
「うん!じゃあ、またね!」
女の子はブンブンと手を振りながら、少年に手をひかれ、町へと消えていった。

「いやー、同じ選抜の連中が女の子見つけていてくれて助かったぜ」
「そうですね。あ、そうだ。隊長たちにも知らせないと…それと、そちらの選抜委員の方も連れてきてくださってありがとうございました」
迷子探しが一段落し、51番隊の少女がユリに丁寧に頭を下げる。
「いえいえ。アタシも一応選抜ですから…あれ?その服って輝明学園の制服ですよね?」
にこやかに返答を返していて、ユリは気づく。少女の来ている服が見慣れた紫色の制服…輝明学園の制服であることに。
「制服?…ああ、そういやあお前いっつもその服だな。休みの日くらい私服で来りゃあいいのに」
初めて気がついたとでも言うように言う少年に、少女が少しだけムッとして答える。
「…仕方ないでしょう。これは戦闘用の防具でもあるんですから」
「へ?防具?」
「そうです。輝明学園の改造制服は下手な鎧より防御力があるんですよ?」
そんな風に少年と言葉を交わす少女に、ユリは問いかける。
「改造制服?じゃあ、あなたは…"ウィザード"なんですか?」
「え?そりゃあ、まあ。と言うと貴方も輝明学園の…にしては月衣を纏っていませんね。もしかして、イノセントの方でしたか?」
「はい」
少女の問いにユリはこくんと1つ頷いた。

ナイトウィザード…異世界の侵略者と戦う夜闇の魔法使いの存在をユリが知ったのは、この学園世界にやってくる少し前のことである。
少し前…ユリが"夜見トオル"と再会し、ついで自らが甲冑の化け物と入れ替わった通称フルアーマーユリ事件。
あの事件のあと、ユリはトオルたちから聴かされた。
ファー・ジ・アース…世界の"本当の名"と、それを狙う侵魔と冥魔、そして世界を守るため戦う魔法使いたちの存在。
まるでおとぎ話か小説のような物語に最初は困惑したが、フルアーマーユリ事件と彼女の幼馴染や親友、
そして先輩たちが見せたウィザードの技を見ては信じざるをえない。

そして、それから少しして起こった、否、現在進行形で起こり続けている輝明学園の異世界転移事件。
この世界結界の存在しない学園世界に来てから、ウィザードはその正体を隠す必要が無くなった。
と言うより本来の"常識"の通用しない人間がいくらでもいる学園世界でウィザードがその正体を隠していても余計な混乱を招くだけ。
そんな判断もあり、輝明学園で赤羽くれはが理事長代理に就任したときの集会で、輝明学園は自らの学園の一般生徒や発足のための
準備を始めた極上生徒会に向けて『魔法』と『ウィザード』の存在を明らかにした。
(と言っても当時の極上生徒会の構成員の大半は現執行部特別執行委員から聞かされ、その存在を事前に知っていたのだが)
それから4ヶ月。転移当初は内外で色々と混乱もあったが今では輝明学園は異界のモンスターと生身で戦える特殊技能者『ウィザード』を抱える学園として、
それなりの地位と知名度を有し、一般生徒に混じってウィザードが普通に勉強していると言う状況も受け入れられている。
(余談だがその状況が輝明学園に特殊な"留学生"がやってきやすい理由の1つだったりする)

「へぇ。ウィザードじゃねえのに選抜やってんのか。珍しいな」
少年が素直に驚きを口にする。選抜委員はモンスターや犯罪者と戦うこともあり、結構危険な仕事だ。
数ヶ月前、選抜委員が今ほど組織だって無かった頃、"悪魔"と戦って大けがした選抜委員が出てからは適正を考え、
危険を少しでも減らすよう部隊を編成し、連携して動くようになって大分危険度が薄れたとは言え、それでも大変な仕事には変わりない。
「そうですね。私の知っている輝明学園の選抜はウィザードのみだったので、少し驚きました」
少女の方も予想外だったらしい。ユリを見て、意外そうに言う。
「ええまあ。その、なんて言うかあたしも何かしたいなって」
その言葉にユリは照れつつ答える。

そう、朱野ユリはウィザードではなく、イノセントだった。今、このときの…3時間後までは。

 *

昼下がり。朱野ユリは人ごみにごった返す街中を走っていた。
(ちょっと遅くなっちゃった…失敗失敗)
あの後、迷子探しから帰ってきた51番隊のメンバーに誘われ、一緒にお昼を食べた。
そして食べ終わっておしゃべりをしていたところでさっさと帰って来いと言う電話を受けて、今に至る。
(それにしても…いい人たちで良かったなあ)
走りながら、ユリは先ほどまで話をしていた51番隊の面々を思い出す。
51番隊は全部で6人いる部隊委員のうちいわゆる剣と魔法の世界の生徒が半分を占めている。
彼らの元住んでいた異世界の話やそこで起きた事件、こちらに来て選抜部隊が出来た頃の話、そしてこの前部隊がピンチに陥った時に会ったと言う特選隊の話。
それらの話はユリにとっても興味深く、話していたらつい時間が過ぎるのを忘れてしまった。
(戻ったら智にも教えてあげよっと)
そんなことを考えながらなせいか、ユリの顔も自然と緩む。
誰が相手でも物おじせず、話しかけられることはユリの一種の才能である。
元からなのか、特殊な体験をしてきたからなのかユリは『未知のもの』を恐れる気持ちが薄い。
それこそ、普通の人間ならば思わず躊躇してしまうような相手にも平気で声をかけられるし、仲良くすることもできる。
(もっともそれが高じて執行委員きっての武闘派2人を事情聴取と言う名目で詰所に連れて来た時には隊長に怒られたが)
そんなよく言えば豪胆、悪く言えば大雑把な性格なお陰でこういう先ほどのような迷子探しやフリーの冒険者(異世界系の出身者が多い)と
協力しあうような仕事では割と重宝されている。
持ち前の明るさと、優しさが武器と言ってもいい。それが朱野ユリと言う少女であった。
「あれ?あの子…?」
そして、そんな彼女だからこそ、道端で俯いている、少女を無視できず、立ち止まり声をかけた。
…それが、彼女に重大な転機をもたらすことになるとも知らぬまま。

「お嬢ちゃん、どうしたの?」
ユリはしゃがみ込み、女の子に目線を合わせ、問いかける。
見た目からすると小学生にも満たない位の小さな女の子。俯いていて顔は見えない。
(迷子かな…?)
もしかしたらさっきの女の子みたいに保護者とはぐれたのかも知れない。
そんなことを考えながら、ユリは再度問いかける。
「お父さんかお母さん…じゃなくてお兄さんかお姉さんはどこにいるのかな?」
ここ数か月の選抜委員の仕事ですっかり慣れた手順に従い、話しかける。返事はなし。
「え~っと…どこかにこの子の保護者は…」
立ち上がって辺りを見回した、その時だった。
「…いい、におい」
少女が初めて喋る。そして、ユリの手をつかむ。
「…ひぃ!?」
その手がぞっとするほど冷たくて、ユリは息を飲んだ。
「いいにおいがする。プラーナ。少ないけど…いいにおい。それと、あなたの中にいるそれも、おいしそう…」
顔を上げる。整った、プラスチックでできたそれは…
「人形っ!?」
ユリが慌てて離れようとして、がくりと力が抜ける。
「ねえ、たべていい?たべていいよね?」
いつの間にかあれだけいたはずの人は誰1人として見えない。そして、空に輝くのは紅い月。
(侵…魔…?)
トオルたちから聞いたことがある。紅い月の下に現れる、恐ろしい化け物。
"それ"は侵魔の中では最下級の存在であった。
たまたま居住区に漏れ出しただけの"ウィザード"であれば駆けだしでもたやすく勝てる程度の相手。
だが、それは同時に選抜委員ではあるが戦いとは無縁であったユリが勝てる相手では無かったのも事実である。
(う、動けない…)
選抜委員に渡された、月匣やワーディングによる無力化を防ぐ護符を置いてきてしまった自分のうかつさを呪う。
「い、いや…こない…で」
まともに動かない身体を引きづるように少女から離れる。だが。
「にげちゃ、だめ…」
まともに動くことが出来ないユリを追い詰めるように、侵魔はぎくしゃくとユリに近づいて行く。
(助けて…トオル…)
脳裏に浮かんだのは、ユリの大切な幼馴染の顔。そして。
「いただきます」
ゆっくりと侵魔がユリの首に手をかけたその時。
―――シヌナ!
ユリの"中"から声が聞こえ、ユリのプラーナが爆発的に膨れ上がった。

 *

「な、な…に…?」
プラーナの爆発に弾き飛ばされた人形が半ば茫然としながらユリを見る。
「ひぃ!?」
そして悲鳴を上げる。見てしまったのだ。ユリから漏れ出す…圧倒的な"瘴気"を。
「…何これ?」
ユリはユリで困惑していた。身体からあふれ出す力に戸惑いながら。
「えっと…あたし…」
人形の方を見て、どうすればいいのかを考える。
―――タタカエ
頭の中に"答え"が思い浮かぶ。
「そっか。戦わなくちゃいけないんだ」
戦わないと、死ぬ。そして今のユリにはその力がある。とりあえず分かるのはそれだけだ。
「…どうやって?」
ユリは武器も何も持っていないのだ。
「ひぃぃぃぃ!?」
そんな風に考えていた隙をつくように、怯えた侵魔が攻撃を仕掛ける。
髪が刃となり、ユリに襲いかかる。
「きゃあ!?」
咄嗟に回避。だが完全にはよけ切れず腕に刃が食い込む。
「いたっ!?」
斬られたところがしくしくと痛む。怖い。何とかしないと。
―――マホウ
そう考えていたら、自然と答えが浮かんできた。戦うための魔法とその使い方が自然とユリの頭に思い浮かぶ。
「え、え~っと…大地に潜みし巨龍よ。その顎(アギト)を持って敵を噛み砕け…《ドラゴンファング》!」
思い浮かんだ言葉を口にし、その指を人形に向ける。その瞬間!
ガァン!
無数の"牙"が突きだした地面が隆起し、顎が閉じるように人形をはさむ。
ベキバキボリ…グシャ
その圧倒的威力の前に断末魔の悲鳴すら上げる暇もなく、人形があっけなくスクラップと化す。
それと同時に紅き月が消え、喧騒が戻ってくる。
「はぁはぁ…」
緊張が解け、ユリはその場にへたり込んだ。
「うわ!?なんだ!?」
結界が消えると同時にへたり込んだユリと、噛み砕かれた人形に辺りにいた一般生徒たちが驚きの声を上げる。
その声をどこか人ごとのように聞きながら、ユリは確信する。
「そっかあたし…」
―――ウィザードになったんだ…
と。

そう、朱野ユリはイノセントであった。そして、ウィザードに"覚醒"した。
―――ソウダ。ソレデイイ…
それが"何"によってもたらされたのかも知らぬままに。



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