アットウィキロゴ
ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第02話

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

吸血鬼が多すぎる #02

学園が現れた。

 ゴツゴツとした岩が転がり、乾いた風が吹き荒ぶ荒野に、西洋の城を思わせる建物が現れた。
 高い石壁が城壁の如くそびえ立ち、大きな時計塔がセントラルキープの如く周囲を睥睨している。
 堅牢そうなアーチ門───おそらくこれが校門だろう───の前に、一人の少年が立ち尽くしていた。
「……どうしよう……」
 固く閉ざされた門扉を前に、少年──ダグラス・チェンバレンは途方に暮れていた。


 ***


「さて、ダグラスくん。これからするあたしのお願いに、『はわ』か『はわわ』でお返事してね♪」
「……は……はあ……」
「はあ、じゃなくて、『はわ』だよ?」
「……は……はわ」
 テーブルを挟んだ差し向かいで、にこやかに微笑む赤羽くれは理事長代理のお願いに、ダグラスは力ない笑みを浮かべて頷くしかなかった。
 ダグラスはその日の授業を終え、帰宅の途に着こうとしていた。そこへ、くれはからの呼び出しが掛かかり、現在に到る。
「はわ、ありがと~! ダグラスくんも色々忙しいのに、ごめんね~」
「いえ、まあ……」
(……僕はロンギヌスですから……)
 だから、世界の守護者代行のお願いを断れるはずがないのだ。
 学園世界へと転移してきているロンギヌスの数は少ない。ダグラスのように輝明学園秋葉原分校に通っている学生ロンギヌスと、たまたまスクールメイズに潜っていた者たちだけだ。
 くれはの直属として極上生徒会に組み込まれたロンギヌスは、対侵魔・対冥魔のスペシャリストとして学園世界の各地に散っている。学生ロンギヌスは学業の合間を縫って任務についているので、忙しさだけなら柊蓮司にも劣らないほどだ。
これが元の世界ならば休学して任務に当たることもできるが、そこはやはり学園世界、なによりもまず学業が優先されるのである。
 はい、お茶どうぞ───と、くれはが手ずから淹れた緑茶とお茶請けのおせんべいを勧められ、ダグラスは恐縮する。
「こういうのって本当は執行委員にお願いするんだけど、みんな忙しくってさ~。ついつい、ちょっと無理なお願いでも聞いてくれるロンギヌスの人たちに頼っちゃうんだよね」
 はあ、と曖昧な返事をしながら、ダグラスは内心でため息をつく。
 くれはのお願いとは、新たに学園世界に転移してきた学園への使者を務めてほしい、ということだった。
 古来より使者というのは己の命を掛けた重大な任務である。それは、赴く先が学び舎に限定されているこの世界でも変わらない。
 かつて陣代高校へと使わされた柊蓮司は、ロケットランチャーで狙撃された。トリステイン魔法学院では決闘を申し込まれ、死武専では解剖されかけた。
春風高校ではおかゆライスを振舞われ、エルクレスト学園では扱き使われ、麻帆良学園ではなぜか女子中学生に混じって授業を受けた。
 要するに、ろくな目に会わないのだ。
 こちらに転移してきたばかりの学校の人々は、当然のことではあるが、警戒心が強い。
 話し合いの前に一騒動起きるのが当たり前、それを収めた上で極上生徒会との間を取り持たなければならない。
 そこまで考えて、ダグラスはゴクリとお茶を飲み干した。
 ───渋い。
 はたして渋いのはお茶なのか、それとも今の自分の心持ちか───。
「じゃあ、お願いね。頼りにしてるよ、ダグラスくん!」
 満面の笑みと共にそう言われてしまっては、もうどうしようもなかった。


 ***


 ダグラスは大きなため息をついた。門扉を叩いても、大声で呼びかけても、なんの反応も無い。
 外を恐れて閉じこもってしまっているのか───かといって、無理に押し入ることも出来ない。
 一度の訪問で済ませてしまいたかったが、これでは仕方がない。明日あらためて出直してこよう───そう考えて踵を返した。
「動くな」
 突然、横合いから声が掛かった。そちらを向くと、背の高い若い男が片手で拳銃を構えて立っていた。
 咄嗟に両手を上げる。月衣を纏っている以上、銃は恐くない。抵抗の意志が無いことを示すためだ。
「何者だ」
 低く短い誰何の声。男は銃を構えたまま近づいてくる。
(制服……? この学園の生徒かな?)
 ダグラスはそれとなく男を観察する。白いラインの入った黒いブレザー、赤いネクタイ、黒いスラックス───それはやはり制服に見えた。左腕に腕章を巻いているところを見ると、なにかの役職についているのだろう。
 男は薄く青み掛かった銀髪を揺らしてダグラスに歩み寄り、絶妙な間合いで立ち止まった。遠すぎず、近すぎず。そこからならダグラスがどう動こうと的を外すことはないだろう。
「何者だと訊いているんだ……!」
 何も答えないダグラスに苛ついたのか、男は眉間に皺を寄せて睨み付けてきた。紅い瞳がギラリと光る。
「あ───ぼ、僕はですね……」
 男の剣幕に、ダグラスは一瞬気圧されてしまった。しかしすぐに気を取り直し、己の使命を全うすべく口を開いた───その瞬間。
 うなじにチリチリと焦げるような感覚を憶えた。
 男の指が銃爪に掛かるのが見えた。
 本能に近い動作で月衣を開く。中から愛用しているプレートアーマーが飛び出し、瞬時にダグラスの身体を包む。
 左腕の盾を構える。何かがそこに当たり、弾かれる。
 ───銃弾だ。男の銃から放たれた弾丸だ。
 連続で銃声が響く。ダグラスは盾を構えたまま駆け出した。襲い掛かる殺意の塊を弾きながら、近くの岩陰に飛び込む。
「出て来い、化け物」
 底冷えするような声が聞こえた。男は距離を取って立ち止まったようだった。深追いはしてこない。戦い方を知っている。まるで狩人だ。
 ダグラスは盾を見た。曲面の装甲に擦ったような痕が残っている。銃弾が月衣を突破した証だ。それはつまり、彼もまた常識外の世界の住人だという証でもあった。
「……出てこないならこちらから行くぞ」
「ま、待ってください! 僕の話を聞いてください!」
 ダグラスは必死に呼び掛ける。自分は戦うために来たのではないのだ。
「貴様、ヴァンパイアだろう」
「え……?」
「牙が見えた。貴様はヴァンパイアだ」
「た、確かにそうですけど! 僕は人間の血を吸ったりなんかしません! だから……」
「黙れ。ヴァンパイアは殺す……!」
 取り付く島もない。話し合いは絶望的だ。ならばこの場は───退くしかないか。
 土を踏む音が近づいてくる。
 ダグラスはひとつ深呼吸をした。
 幸い、銃弾はこの鎧で防げる。露出した頭は盾で庇う。あとは鎧の継ぎ目に銃弾が当たらないことを祈るだけだ。

 ダグラスが覚悟を決めて岩陰から飛び出そうとした、その時。
「ゼロっ!」
 岩の向こう、男の後方から女の声がした。ゼロというのは男の名前だろうか。
「ゼロ、止めて!」
「どけ、ユウキ! そいつはヴァンパイアだ!」
 岩陰から顔を覗かせて見ると、男と同じ制服をきた少女が銃口の先に立ち塞がっていた。
「ゼロ、落ち着いて! 理事長はこの人に会うって言ってるのよ!」
「どこの者とも知れないヴァンパイアを学園の中に入れて、何かあったらどうするつもりだ!」
「何かなら、もう起きてるじゃない! 今の状況をなんとかするためには外の情報が必要なの! それぐらい、ゼロにだって分かってるでしょう!?」
 少女はなんでもないことのように男の前に立ちはだかっていた。銃を恐れていない……というより、男の事を信頼しているのだろう。両腕を大きく広げてダグラスを背後に庇っている。
 ジリジリと続く沈黙───先に折れたのは、男の方だった。
「……勝手にしろ」
 男は銃を下ろしてそっぽを向く。少女は、くるりとダグラスの方を向くと、勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさいっ! ゼロが───うちの生徒が大変失礼なことをしてしまい、本当に申し訳ありませんでしたっ!」
「え、いや、あの……気にしてませんから、どうぞ頭を上げてください」
 ダグラスは岩陰から姿を現し、少女の勢いに若干たじろぎながら応えた。
 気にしていない、というのは本心からの言葉だった。この程度の事態は想定いたし、むしろ変にこじれる前に解決しそうで喜ばしいぐらいだった。
 ダグラスの言葉に、少女は深々と下げていた頭を上げた。短く切られた髪がさらりと揺れる。大きな鳶色の眼で真っ直ぐにダグラスの瞳を見て、少女はホッとしたように微笑した。
「ありがとうございます。私は黒主 優姫(くろす ゆうき)といいます。あっちは錐生 零(きりゅう ぜろ)。この学園の───風紀委員です」
「僕はダグラス・チェンバレンです。極上生徒会───この世界の統括機関からの使者です」
「はい、その旨は聞かせていただきました。理事長がお会いになるそうです。これからご案内いたします」
 ギギギ……という重い音を立てて門が開く。両脇に木々を従えた石畳が奥へと続き、その先に校舎が見える。
 優姫がダグラスの方を振り返って言った。
「ようこそ、私立黒主学園へ───」


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー