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魍魎の宴

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魍魎の宴


「柊蓮司、だな?」

 警備中の柊を、背後から、野太い男子の声が呼び止めた。
 柊が後ろを振り返ると、そこには、屈強な体つきをした浅黒い肌の男子と、ひょろっとした、いかにもインドア風の少年がいた。
 その制服には見覚えがある。
 最近学園世界に接続された、川神学園とかいう学園のものだ。

「……だったら?」

 やや喧嘩腰に聞き返す。
 が、それに怒る様子もなく、男子二人は話を始めた。

「俺様は、島津岳人。知ってると思うが、最近この世界に来た川神学園2-Fに所属している」
「僕は師岡卓也。同じく川神学園2-Fだよ」
「その島津と師岡が、俺に何の用があって来た?」

 柊は確信する。
 喧嘩の申し込み。
 この世界に来てから、喧嘩とは縁遠い生活だったが、久しぶりに腕が鳴りそうだ。
 柊は心の中で、指を鳴らし始める。
 だが、

「おめでとう!」
「おめでとう!」

 二人の反応は予想外のものだった。
 拍手をしながら、おめでとうを連呼する二人に、柊は腰が砕けそうになった。

「ちょ、ちょっと待て! 何なんだお前ら、いきなり!?」
「あんたは俺様たちの学園で開催される闇の祭典、魍魎の宴の参加資格を得た」
「……はあ?」
「今日は、二人でその告知をしに来たんだ」
「……何だその怪しげな宴は?」
「それは参加してからのお楽しみと言うやつさ」

 岳人がにやりと笑う。
 ちり、と首筋に、嫌な予感が走った。

「柊先輩が参加する気なら、この地図の場所に来て。時間は17時きっかり。受付の合言葉は、“チチカカ湖はどしゃ降り”だから」

 卓也は、手に小さなメモを、柊に握らせる。

「待ってるぜ、同士」

 背を向け、不自然なまでにさわやかに振り向き、すばらしくいい笑顔で岳人はそのまま柊の前を去っていく。
 卓也も、その後ろに続いた。
 残された柊は、手に握らされたメモを広げる。そこは、川神学園の体育館のようだ。

「魍魎の宴…… 名前からして嫌な予感しかしねえが……」

 もしも、危険な宴ならば、自分が止めるしかない。
 柊は、あえて虎の尾を踏みに行く決意をした。


 川神学園の体育館。
 柊は、受付に、教えられた合言葉を告げ、中に入る。
 そこは、暗幕が下ろされ、暗闇に包まれた体育館。
 そして、

「なんだあ…… この異様な雰囲気は……」

 そこにいるのはすべて男。制服が違うところから見て、各学園の男子生徒が寄り集まっているらしい。
 しかも、どこか全員、負のオーラを撒き散らしている、贔屓目に見て、モテない連中ばかりだ。
 こんな連中がこぞって集まって何をしようというのか。
 柊はますます嫌な予感を募らせた。

「あ、来た来た。柊先輩、こっち」

 見知った顔が、立ち上がり、手を振った。卓也だ。

「遅かったな。来ないかと思ったぜ」
「何なんだ、ここは…… てゆーか、なんか全員、目がぎらついてるんだが……」
「みんな色々あるんだよ。色々ね……」
「つか俺、何でこの宴に呼ばれたんだ?」
「あんたは以下のふたつに該当したんだ」

 柊の疑問に、岳人が答える。

「ひとつ、今まで女がいない」
「まあ、確かに女はいなかったがな…… だからと言って……」
「そしてもうひとつ。学年が下がった体験をした、以上の二つだ」
「そんな項目あんのかよ!? つか嬉しくねえんだよ!」
「それ以外にもあるんだがな。とにかくここにいる連中は全員、何らかの理由で心に傷抱えているやつらなんだ。で、精神的に魍魎になった」
「な、なるほどな……」
「そろそろ始まるよ」

 卓也が時間を確認し、そう告げる。
 それと同時に、会場の熱気が、だんだんと高まっていくのが、肌で分かる。

「始まるぞ、月に一度の宴が」
「童帝様が、ご光臨なされる!」
「童帝! 童帝!! 童帝!!!」

 柊は気になる単語を見つけた。

「な、なあ童帝って、誰だ?」
「しっ、静かに!」

 だが、その質問は、卓也によって黙殺される。
 そして、壇上に、小柄なパンツ一枚の男子生徒がぬっと現れる。

「俺は童帝! 愛も情けも許さない!!」
「あれが、童帝……?」

 どう見ても普通の男子生徒なのだが……

「そうだよ。うちのクラスの福本育郎。あだ名はヨンパチ」
「だが、ここでは絶対権力者、童帝なのさ」
「なるほど……」

 柊が一人で納得していると、童帝ことヨンパチは、両手を広げて高らかに宣言した。

「今こそ、大いなる祝福の刻…… 彼なりし亜の刻、亜なりし彼の地へよくぞ集った!」

 会場がいっせいに熱気に包まれる。

「童帝! 童帝!! 童帝!!!」
「童帝! 童帝!! 童帝!!!」

 そのコールに気をよくしたのか、童帝は、ふっ、と意味ありげな笑みを浮かべる。

「では、最初の生贄を祭壇へ!!」
「い、生贄だあ?」
「まあ、先輩が考えてるようなものじゃないよ」

 物騒な単語を聞きつけた柊が、狼狽するが、そこは卓也が制止する。
 しんと静まり返った会場に、一人の男子が壇上に上がった。メガネ坊主小太りと、いかにも非モテ系街道まっしぐらの男だ。

「じゃ、じゃあ僕から……」

 男子はおそるおそる手の中にしまったあるものを差し出した。

「これは、桃月学園1-A、柏木優菜ちゃんが使い終わったリップクリーム。捨てられていたものを、僕が拾ってきました」
「ほほう、アイドル級のかわいさと評判の子じゃないか…… 証拠映像はあるか!?」
「も、もちろんです」

 そう言うと、スクリーンに一枚の写真が投影される。
 そこには、確かに優菜が、今まさにリップクリームを付けんとしている写真であった。

「このときに付けているリップクリームがこれです」
「本物のようだな…… では、競り合え!」

 童帝が、腕を広げると同時に、

「5000!!」
「6000!!」
「8000!!」

 次々と湧き上がり、つりあがっていく値段。
 それを見て柊はようやく理解した。
 どうしてこれが魍魎の宴を言われているのかを。

「なるほどな。これは闇の宴とか言われるわけだぜ」
「こうして美女グッズを競り落としていくんだ」
「もともと、僕らの学園のグッズだけを取り扱ってたんだけど、この世界に来てからは、こうして各学園のグッズがどんどん競り落とされてくるようになったんだ」
「それと同時に、ほかの学園のやつらも、この宴に参加させようって話になってな。今じゃこうして、学園世界中の魍魎たちの集う一大イベントになったのさ」
「待て。じゃあ、俺たちの学校のやつらのも競られてんのか!?」
「うん。結構高値がつくよ」
「かなりレベルが高い学校だからな。人気もひとしおだぜ」

 よく見れば、確かに輝明学園の生徒の制服もちらほらと見られた。
 気づかなかったが。
 いまさらの柊の観察が終わるのと同時に。

「では、このリップクリームは15000円で落札! 次は誰だ!?」
「俺が行くぜ! 光綾学園3年、鈴木ぼたんの使い古したペン先だ! 使い終わって捨てられたのを、俺が回収した!」

 忍者服の男子が壇上に上がり、声高らかに宣言した。

「ほう、ツンデレと評判高い子じゃないか…… さあ競るんだ!」
「俺のものだ! 4000!」
「いいや俺だね! 7000!!」

 こうして、次々と学園中の美少女グッズが、魍魎たちの手によって競り落とされていく。
 柊は、その様子を黙ってみていた。というより、参加する気になれなかった。

「てゆーか、なんであいつ、あんなに偉そうなんだ?」
「この集会がばれたら、一人で罪をかぶるからだよ」
「な……!?」
「だから、権力を自分に集中させてるんだけどね」

 その答えは予想外だった。というより、こんなものに身体を張る理由が分からない。

「先輩には理解できないだろうさ…… あいつの心意気が」
「心意気?」
「学生の美女グッズを欲しがるやつがいる。あいつが身体を張るには十分な理由なんだよ」
「理解したくねえよ!?」

 ろくでもない理由だった。


 柊の心からのツッコミが響いたのと同時に、

「宴もたけなわだな…… では、いよいよ俺のグッズを出す!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 会場のボルテージが最高潮に達した。
 足をいっせいに踏み鳴らす。地鳴りにも似た轟音が、会場中に響き渡った。

「な、なんだあ?」
「来たぞ、童帝秘蔵のフォトコレクション!」
「この瞬間をどれだけ待ち望んだことか!」
「今回は、学園世界中の美女の選りすぐりの瞬間を捉えたものだ! 是非ご覧いただこう! 最初は健全なやつから!」

 童帝がそう宣言すると、スクリーンに一枚の写真が映し出された。
 その写真に柊は噴出しそうになる。

「く、くれは!?」
「まずはこれ! われ等の学園世界を統括する、赤羽くれは! 公務で学園世界を歩いているところを、俺が撮影した! まあ、今回のは割りと普通の一枚だが、思い人の写真ならば、きっとご利益があることだろう」
「いや、いくらなんでもまずいだろこれ!? 目線通ってねえし!」
「まあ、盗撮すれすれだね」
「今回のやつは割りと普通のやつだぜ。場合によっちゃ、もっと過激なやつも出ることもある」
「おいおいおい…… やばいだろ、誰も止めないのかよ……?」
「まあ、本当に危険なやつは出回らないよ」
「ばれたら洒落じゃすまんからな」
「この一枚を、まずウルトラレア、UR1とする。続いてUR2……」

 次の写真もかなり際どかった。


「同じく、輝明学園2年、緋室灯が、ガンナーズブルームで飛行中の写真を、俺が撮った!」
「パンチラ寸前じゃねえか! ばれたら消されるぞ!?」
「そしてUR3、至宝エリス! これも健全なやつだが、是非見ていただこう!」

 次々と知り合いの写真が公開されていくのを見て、めまいすら覚える柊。

「……以上、ウルトラレア。続いてスーパーレア! SR1川神百代、SR2椎名京……」

 そして、童帝はそんな柊の様子などお構いなく、次々と写真に番号を振っていき、

「……以上がコモン! これで全部! さあ競るんだ!!」
「UR2に4000! SR3に5000!」
「UR1に3000! R3が5000!」

 次々と競られていく写真たち。
 さすがにこれはやばいと感じたのか、柊は勢いよく手を上げた。

「UR1に10000! UR2が8000! UR3、6000!!」
「うおおおおおおおっ!!」

 どっと、歓声が上がった。

「あいつ、勇者か!? 全部ウルトラレア狙っていきやがった!」
「いや待て! やつはまさか、柊蓮司!?」
「やつなら…… あり得る!!」

 ヒートアップしていくオークション。
 特に柊が参戦したことにより、ウルトラレアを付けられた写真が、どんどんと高騰していく。
 だが、

「UR1、15000! UR2、20000!! UR3、18000!!」
「おおおおおおおおおおおおっ!!」
「ではUR1、UR2、UR3はそれで落札! なかなかに白熱した戦いだった!」

 なんとか柊は落札に成功した。
 この写真は後でそっと処分しよう。
 柊はそう考えるが、後にこの写真がノーチェの手によって暴かれ、くれはたちに激しい詰問を受けることになるのだが、それはまた別の話である。


「次は、かなり際どい写真だ! まずはこれ! マユリ=ヴァンシュタイン!」

 一枚の写真が映し出される。
 それは、宣言どうりかなり際どい写真だった。
 なにしろ、指についたご飯粒を、なんともいい表情で舐め取っているようなものだったからだ。

「好物のおむすびを頬張っているところを、俺が激写した!」
「素晴らしい! 素晴らしいぞ童帝! 8000!!」
「10000!!」
「12000!!!」
「……てゆーか、あの童帝ってやつは、稼いだ金をなんに使ってるんだ?」
「ほとんどカメラに使ってるよ」
「または、シャイでエロ本買えないやつに買い与えてるんだってよ。儲けた金で」
「なかなかできることじゃないよね」
「褒めるところじゃねえよ!?」
「まさしく、エロの伝道師ってところだ。いつまでもああであって欲しい」

 その前に、いつか極上生徒会に粛清されそうだ。
 まあ、そんな日が来ないことを願おう。

「なんだあ? 新顔か?」

 横から声をかけられてきた。
 くたびれたスーツの、いかにもだらしのない中年男性だ。

「あんたは……?」
「俺は宇佐美巨人。まあ、かの学園の教師をやってる」
「教師まで参加すんのかよ」
「目付け役みたいなもんだ。行き過ぎないようにな。お前も白熱すんなよ。みっともないからな」

 どこまでも、大人の貫禄をかもし出す巨人と名乗る男。

「次は、わが学園の梅先生が、昼飯のときにバナナを食べているフォト。これはまあ、そんなにエロくないが、各自想像力で……」
「50000!!!」

 すばやく巨人が叫ぶ。
 それに、会場は誰も応えない。

「……即決だな」
「見たか。これが大人買いだ、ガキどもめ!!」

 その光景はたしかにみっともなかった。

「続いては、桃月学園教師、レベッカ宮元先生が、うどんを一生懸命ほおばっているフォト」
「3000!」
「4000!!」
「黙れこの雑魚ども!!!!」

 すさまじい形相で、スキンヘッドの生徒が立ち上がった。

「100000!!!!!」

 しーんと会場が静まり返った。
 誰も名乗りを上げない。

「相変わらず強いな、魍魎108!!」
「さすが医者の息子だね」
「この写真は俺が大事に保管しておく。 大事に、な……」

 打って変わって慈愛の表情を見せるスキンヘッドの生徒。
 その顔を見て、柊はあることを察した。

「まさか、そういう趣味のやつか?」
「そうだよ」

 肯定された。
 聞くんじゃなかった。柊はそう思った。



 魍魎の宴。
 それは闇に潜み、今も学園世界で繰り広げられる。
 この世界にモテないやつらがいる限り、それは永遠に終わることはないだろう


  • 元ネタ:真剣で私に恋しなさい!!

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