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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第15話

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だれでも歓迎! 編集
 その日、銀成市から人が消えた。
 いや、人とは言わず一切の生物の気配が消失したその街は、整然とした街並みであるにも関わらずどこか滅び去った廃墟を思わせる。
 紅の月に照らされた瓦礫の都市の一角。
 街を一望できるその場所には、かつてこの街に住む若者達が通う銀成学園があった。
 だが、現在そこには校舎の姿はなく――代わりに街には不釣合いなほど巨大な洋館が聳えている。
 ”秘密侯爵”リオン=グンタが街に展開した月匣。そしてその中心に具現化した彼女の居城。
 天の紅月に向かって伸びる時計塔の頂上にて、甲冑の女騎士は一人刻を待つ。
 彼女の足元、巨大な時計盤が静かに時を告げる。
 風など起こるはずのないその世界に、疾風が通り抜けた。
「……来たか」
 モーリーは瞑目していた瞼を開き、天を見据える。
 真っ赤に染め上げられた空が、たわんでいた。
 その歪みは次第に強く、大きくなっていき、その壁の向こう側にあるモノが輪郭を帯びて形になってくる。
 月匣の結界を強引に突き破り、侵攻してこようとするモノ。
 事実関係で言えばその立場は全く逆なのであろうが、少なくともこの場において、ソレはまるで世界を食い破るケモノのようであった。
 空が割れる。
 穿たれた月匣の障壁から黒い威容が突入する。
 ――結界徹甲機能搭載、輸送型箒『ブロンズスター』。
 機体ごと洋館に向けて激突する勢いで、ウィザード達の乗るであろうブロンズスターが急加速した。
 時計塔の頂上でそれを見届けたモーリーは目を細め、軽く地を蹴る。
 中空に身を投げ出しながら彼女は虚空から自らの魔剣を取り出し、巨大なその刃を肩に担ぐようにして構えた。
「ふっ――!」
 同時にモーリーの身体から膨大な魔力が放出される。
 街一つを灰燼に帰するであろうその威力をただ一振りの魔剣に注ぎ込み、彼女は己――己の後ろに聳える洋館に向かって突進するブロンズスター
に向かって撃ち放った。
 輸送能力に優れるものの機動性において大きく劣るブロンズスターがその一撃を避けられるはずもない。
 モーリーから放たれた魔力の斬撃はブロンズスターの機首に直撃し、紅の空を破砕音と爆炎で染め上げた。
 機体がひしゃげ、ばらばらに砕け散り、消滅し、粉々になって空に撒き散らされる。
「―――」
 感慨を催さない鉄屑の流星雨をやはり無表情に見据えながらモーリーはソレを見た。
 飛散する瓦礫に混じって尾を引く四つの残光。
 その動きは明らかにブロンズスターの残骸ではなく、箒が空を疾走する軌道だった。
 ブロンズスターのようなデカ物で事を成せる、などと思うような者達ではない事はモーリーとて理解している。
 故に先の一撃などはその実、これからの戦いの戦鐘のようなものでしかない。
「……そこか」
 四つの箒の動きと、それに搭乗している者の姿を確認して、モーリーは空を蹴った。
 常識の枠外の急加速で空を疾走し、一瞬にして彼我の距離を詰める。
 狙う相手はただ一人。それ以外の者達など彼女の考慮の対象ではなかった。


 ※ ※ ※


「敵の月匣の位置が判明しました」
 一同が介する宮殿のテラスで、アンゼロットは静かにそう切り出した。
 モニターに浮かび上がるのは紅に染められた銀成市。
 ただ、カズキ達にとって見慣れているはずのその光景に大きな違和感を与えるのは、丘の上にあったはずの銀成学園の校舎がどこにもなく、
代わりに巨大な洋館が聳え立っている事だ。
「見ての通り、銀成市一帯及び銀成学園に重なる形で月匣が展開されています。恐らくはモーリー=グレイとリオン=グンタが作り出したモノ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
 開口一番叫びを発したのはカズキである。
 彼はモニターに食い入るような視線を向けたまま、身を乗り出してアンゼロットに詰め寄る。
「街の皆は! 寄宿舎の皆はどうなってるんだ!?」
「ロンギヌスの調査では、月匣内は無人との事でした。恐らく、月匣を展開する時に内部の人間を排除したのではないかと」
「そ、そっか……よかった」
「排除? なんだってそんな事を」
「現状、既に世界総てがマーニの月匣に囚われている状態ですから、殊更に彼らを取り込む必要性がなかったのでしょう」
 蓮司の問いに彼女はそう応えると、怜悧な目を僅かに細めてから表情を引き締める。
「ですが、それはわたくし達にとっても好都合。月匣内部では現実世界や一般人に対する被害を想定する必要はありません」
 更に、万一に備えて銀成市の月匣をその上から覆うようにロンギヌスが結界を敷いた。
 何らかの要因で変化が生じてもある程度はその侵食を抑えられるはず。
 そう説明をした後でアンゼロットは手元のコンソールを操作して、別の映像を映し出した。
 そこには輸送用の箒であるブロンススターが映っている。
「月匣への突入は結界徹甲機能を搭載したブロンズスターを使います。
 強化装甲を施しておきましたので、突入した後は弾頭として使ってくださって結構」
「神風仕様かよ……随分と派手にやるもんだな」
「それほど事態は逼迫しているのです。世界結界の異常は速やかに矯正しておかねば修復後にも影響を及ぼしますから」
「もっとも魔王達が甘んじてそれを許すとは思えないが……」
「ええ、そこらへんのエミュレイターならともかく魔王級が相手ならいいとこ空中で撃墜、爆散ですね」
「それでは単なるバンザイアタックだろう……」
 嘆息交じりにもらす斗貴子にアンゼロットは「ご心配なく」と微笑を返した。
「ブロンズスターには自動操縦機能もありますし、テンペストも搭載させています。ダメっぽかったらそれで各自突入を」
「ダメっぽいとかいきなり俗っぽく言うなよ……」
「ほっといて下さい。ともかく、ウィザードの方々は操縦のフォローをお願いしますね」
 各々に頷いてみせるウィザード達を確認すると彼女は満足そうに一つ頷き、そしてナイトメアと共に背後に控えているブラボーに目をやってから
再び全員に向き直る。
「なお、今回の作戦において切り札と成り得るのは言うまでもなくブラボーさんです」
 現在、月匣内を含めた全世界においてヴィクター化したマーニによるエネルギードレインが発動している。
 蓮司達が纏う月衣はその吸収能力を幾分か減殺できるものの、戦力の低下は免れない。
 ブラボーであれば自身の戦闘能力も十二分であるし、何よりも彼の武装錬金であるシルバースキンはその特性によってエネルギードレインを無効化できるのだ。
 出撃の時間が差し迫る中、世界の守護者は力強く言葉を続ける――



 ※ ※ ※



 ――常識を逸脱したモーリー=グレイの接近を避けられない事を、ブラボーは彼女が自分を見据えた刹那に理解していた。
 モーリーが空を蹴った瞬間、彼は箒――テンペストから跳んで身を宙に躍らせた。
 同時に箒をモーリーに向かって蹴り飛ばす。
 彼の重量を失い、そして蹴足によって加速したテンペストが交差的に彼女に直撃する。
 激突し、爆砕するテンペスト。その爆炎の中から、全く勢いを減じないモーリーの斬撃がブラボーに叩き込まれた。
 女公爵の魔剣を腕で受け止める。シルバースキンと魔刃が火花を散らして交錯する。
 思ったよりも威力がない、と感じた瞬間には、襟首を捕まれていた。
 彼女は始めからブラボーを捕縛するために、片腕で剣を振るっていたのだ。
 反応するより早く、世界が反転して天上の街に向かって吹き飛ばされる。
「ブラボー!」
 蓮司の操るテンペストに同乗しているカズキの声が轟いた。
「――構うな、先に行け!」
 叱咤するように叫ぶと、テンペストは小さく円を描いてから洋館に向かって飛んで行く。
 残光をまとって紅の空を疾駆する二つのテンペストを安堵して見届けた後、ブラボーは身体を反転させて地面に激突した。
 遥か上空から投げつけられた勢いと着地の衝撃でアスファルトが瓦解する。
 委細構わず上空を見上げると、そこには既に魔剣を振りかぶる女騎士の姿。
 迸る魔力が斬撃と共に放たれる、その刹那。
「!」
 モーリーは僅かに身を翻した。
 彼女自身が動いた、というよりは何か見えない糸に手繰られるように不自然に挙動が崩れ、放たれた魔力はブラボーの脇にあるビルへと直撃した。
 爆炎と轟音が響き渡り、ビルが打ち砕かれて崩壊する。
 現実であれば大惨事といったところだろうが、異世界と同義であるこの月匣の中では人的被害も物的被害も考慮する必要がない。
 標的を討ち損なったモーリーの表情が僅かに歪む。
 そんな彼女を見上げるブラボーの脇に、ナイトメアと剛太が乗ったテンペストが降り立った。
「……やはりというべきか。足止めに来たな」
「問題はない。むしろこちらの方が好都合だ」
 中空からゆっくりと降下してくるモーリーを鋭く見据えながら、ブラボーは力強く語る。
「カズキが無事に敵の許に向かった。切り札と呼ぶのなら俺よりもアイツの方が相応しい」




 ※ ※ ※



「――加えてもう一つ」
 アンゼロットが七人に向かって言葉を続ける。
「やや本末転倒ですが、この状況になって我々にはもう一枚切り札ができました」
「もう一枚?」
「そう。それは――貴方です、武藤 カズキさん」
「オ……オレ?」
 アンゼロットの言葉と共に向けられた多くの視線に、カズキはたじろいで自らを指差す。
「そうです。黒い核鉄を奪われた貴方は、現在白い核鉄と同化して命を繋いでいる状態」
 それはある意味、彼自身が白い核鉄と同じ存在だという事。
 そして白い核鉄の力は、黒い核鉄の力を無効化する。
「……つまり、貴方は黒い核鉄をコアにして励起するエネルギードレインの影響を受け付けない、唯一の存在なのです」
「オレが……」
 知らず己の胸に手を当てながら呟くカズキを見やり、アンゼロットは次いで蓮司達に目を向けてから口を開いた。
「本作戦はカズキさんとブラボーさんを中心に行います。おそらくリオン=グンタであれば二人の情報も知っているでしょうから、
 その除外に当たる事は大いに予想される……ゆえに、柊さん達は二人の援護を。両者あるいはいずれかをマーニの許へと辿り着かせてください」
「……わかった。任せとけ」
「うん、わかったよ」
「了解です」
 蓮司、くれは、剛太が頷いて返すのをカズキは言葉もなく見やっていた。
 と、隣に座っていた斗貴子が軽く肩に手を添える。
「大丈夫だ。……私達が、キミを守る」
「斗貴子さん……」
 カズキは斗貴子の顔を見つめたまま、胸に添えた手に力を込めた。
 そして静かに瞑目する。

 ――誰かがオレを守ってくれるのならば、オレは皆を守る力になる――

「……よろしいですね、カズキさん?」
 響くアンゼロットの声に、カズキは目を開いて彼女を見据えた。
 その瞳はもう何の憂いもない。ただ突き進むのみ。
「――わかった」
 宣言も宣誓もない、しかし万感を込めてただ一言首肯する。
 アンゼロットはカズキの真っ直ぐな視線を受け止め、口元を綻ばせてから彼と同じように小さく頷いた。


 そして、八人の許に出撃準備完了の通信が届いた。



 ※ ※ ※



「それより、何故ここに残った? 斃すべき相手はマーニだけだろう」
「公爵位の魔王を一人で相手取らせる訳にもいかんさ。それに、エミュレイターと闘うのはウィザードの使命でもある」
 ハットの隙間から僅かに非難めいた視線を向けたブラボーに委細構わずナイトメアは告げる。
 彼の駆るテンペストに同乗していた剛太は半ば付き合わされた形になるのだが、別段それに不満の意を示している訳ではなく――
「俺達も一緒に戦います。三人でやって早く決着をつければ、あいつ等にも追いつける」
 むしろ、意趣返しの機会を得た事に高揚している様でもあった。
 核鉄を手放そうとした時のような消沈した表情は既になく、逆に自信に満ちた剛太の表情を見てブラボーは小さく苦笑を浮かべた。
(……カリスマという奴か)
 見て取れる容姿や交わした言葉というよりは、ただあるだけで有無を言わさず相手を魅了するその存在感。
 ウィザードを率いるあの銀髪の少女は、まさに世界の守護者に相違ない。
「――侮られたものだ」
 がしゃり、と甲冑が音を鳴らして地面に降り立った。
 その言葉を吐き出したのが戦力外ともいえる剛太であった事もあるのだろう、魔剣を携えた女公爵はその美貌に怒気を孕ませて三人を見据える。
「その小僧の言う通り、決着は早々につけよう。一人だろうが三人だろうが、たかが人間如きを葬るに僅かばかりの時も必要ない」
「―――」
 モーリーの言葉を受けて、ブラボーが一歩前に進み出る。
 彼女が放つ強大な魔力と剣気を真っ向から受け止めて、彼はその脚で地を穿つ。
 その踏み込みは大地を砕き、世界を震わせる。
「――侮られたものだ」
 そして彼女がそういったように、彼もまたそう言った。
 両の拳を静かに構え、両の掌に魔力を編み、両の手に武器を生む。
 そうして人間達は魔王に立ち向かう。
「ならば見るがいい、裏界の王よ。世界を守る人間達の意思とその力を――!」



 ※ ※ ※



 モーリー=グレイを抜き先行した蓮司やカズキ達は、当然ながらそのまま聳える洋館へと招待された訳ではなかった。
 闇色の威容から零れだすように溢れ出したクリーチャー達が彼等の駆るテンペストへと迫っていたのだ。
 その数は圧倒的という程ではなかったが、状況が悪すぎた。
「くそ、このままじゃ鴨撃ちだぞ……!」
 上空から振り下ろされたクリーチャーの爪牙を紙一重で回避し、すれ違い様にカズキのランスがその身体を打ち砕く。
 箒の扱いに不慣れではないといっても、それは一人で乗っている時の話。
 同乗者が――それも箒に乗った事のないカズキや斗貴子が共にいては当然ながら機動性はかなり落ちる。
 加えて蓮司とカズキは共に持つ武器が近接戦用であり、くれははクリーチャー達を一掃できる魔法を扱えはするものの操縦をしながらではそれも難しい。
 空中というフィールドであるが故に文字通り四方八方から襲ってくるクリーチャー達の対応に追われて進む事が叶わないでいる。
 箒の扱いに長け、砲撃等の中距離戦闘を旨とする緋室 灯が戦線から離脱していた事が、ここにきて仇になっていた。
「くれは、降りるぞ!」
 蓮司は舌打ちして後ろに疾るテンペストに声をかけて、箒を下降させる。
 このまま不利な空中戦を続けていても敵の壁を突破できない。
 それはくれはもわかっているのだろう、彼女は蓮司に追随して大地に向かって箒を駆る。
 半ばテンペストを乗り捨てるようにして四人は地面に降り立つと、すぐに散開してくれはの周囲に位置取った。
 上空に群がっていたクリーチャー達が蓮司達を取り囲むように着地する。
 目指す洋館まではまだかなりの距離がある。
 湧き出すように生まれてくる魔物達の群を見ながら、くれはの魔法の完成まで敵の侵攻を食い止める――

 ひらりと、黒い蝶が舞った。

「――!?」
 気付けば周囲、四人を取り囲むクリーチャー達に混じって何羽もの黒蝶が飛び交っている。
 カズキと斗貴子がその正体に気付くと同時、ばちりと火花が弾け彼等の周囲を爆炎が包み込んだ。
「蝶野!」
 耳をつんざくような爆裂。
 紅の月に染められた世界を焦がすかのように巻き上がった轟炎に浮かび上がるように、蝶の羽根を纏ったパピヨンが宙に浮かんでいた。
「お前……宮殿で傍観とか言ってなかったか」
「気が変わった」
 訝しげに問いかける蓮司に、パピヨンは至って軽く即答した。
 その言いようがどこぞの大魔王の口振りと似ていて蓮司は不快そうに眉を潜める。
 しかしパピヨンはそんな蓮司を気にする風でもなく、呆気に取られているカズキとくれはを見やり、警戒心をあらわにして睨みつけている
斗貴子に目を向け、そして口元を半月に歪めて嗤った。
 まるで道化師のように手を大きく広げ、恍惚の入り混じった表情で踊るかのように語る。
「とても、とても、とても面白い玩具を手に入れたんだ。こんな所で世界が終わってしまっては困る」
「なんだと……?」
「協力してやろう、と言っているんだ」
 くつくつと心底楽しげにパピヨンは嘯くと、ゆっくりと自分を見上げる四人に向かって手を翳した。
 彼の纏う黒色の羽根が大きくわななき、燐粉が吐き出される。
「……ニアデスハピネス!」
 身構える隙もなかった。
 協力すると言った舌の根の乾かぬうちにパピヨンは力を解放し、溢れ出した黒い燐光が四人を包み込んだのだ。
「な――!」
「パピヨン、貴様……!」
「慌てるなよ」
 憤る蓮司と斗貴子をよそに、パピヨンは軽く肩を竦めて見せる。
 四人を包み込んだ黒色火薬の武装錬金は、先のクリーチャー達を退けた時のように爆発する事なく消滅していた。
 一体何をされたのかわからないまま周囲を見渡そうとすると、
「はわあ!?」
 くれはが素っ頓狂な声を上げた。
 驚いて三人が彼女を振り返る――振り返ろうとした時。
 三人は同時にそれに気付いた。
「うわあああっ!?」
 愕然として蓮司と斗貴子が互いを凝視する。厳密には互いではなく、そのすぐ背後。

 ――四人の背中に、パピヨンと同じ黒色の羽根が生えていた。

「うわあ、斗貴子さんに羽根生えてる……結構似合ってるかも」
「あっははははは!! ひ、柊に羽根生えてる! 面白すぎるっ!!」
「「お前等うるさいっ!!」」
 珍奇な格好にされたことがよほど恥ずかしいのか、蓮司と斗貴子は顔を紅くしてカズキとくれはを一喝し、
そしてその元凶たるパピヨンを向き直って怨嗟の篭った視線を投げかけた。
 しかし当のパピヨン本人はといえば、不満そうに眉根をひそめて四人を睥睨している。
「むう、服が全く合っていない。噴飯モノだが、この際贅沢は言ってられんか……」
「服とかそんな事はどうでもいい! なんなんだよコレはっ!?」
「お前っ、一体何を考えてるっ!!」
「最初に言っただろうが、協力してやると」
「この馬鹿げた格好のどこが協力だと――!」
「武藤!」
 斗貴子の声を遮ってパピヨンは洋館を指差す。
 カズキとくれはが、そして業腹ではあったが斗貴子と蓮司も彼の声に引かれてそちらに視線を向ける。
「今から穴を空ける。タイミングを合わせて突破しろ」
 パピヨンの声が何時の間にか真面目に戻っていたからだろう、カズキは一つだけ頷いてから進路を遮る
クリーチャー達に向かってサンライトハートを構えた。
 エネルギーを展開すると同時、陽光にも似た輝きが溢れ出す。
 その光に反応したのか、軍勢が奇怪な雄たけびを上げて一気呵成に突進してきた。
 迫ってくる闇色の壁を挟んだ、その背後。
 カズキの放つ陽光に呼応するかのように、蒼白い閃光が立ち上った。
「なんだ……!?」
 サンライトハートの輝きに似ているが、色合いが違う。
 僅かに眉を潜める斗貴子であったが、少なくとも彼女の知識の中にそれを類推できる要素は存在しない。
 天空を貫く稲妻のような光が噴出して駆け抜ける。
 黒い軍勢を薙ぎ払い、四人に向かって疾走してきた。
「往け、武藤!」
「おおっ!!」
 パピヨンの号令と共にカズキが吼え、地を蹴る。
 同時に四人が纏った黒い羽根が、火を噴いた。
「ま、まさか……!」
「ちょっ――!」
 ようやく背中の羽根の意図に気付いた斗貴子と蓮司が青ざめて呻く。
 しかし、パピヨンとカズキは委細構わずに叫んだ。
「ニアデスハピネス!」
「サンライトクラッシャー!」

『――明日への蝶加速ゥ!!!』

 陽光の輝きが黒の軍勢を吹き飛ばし爆走する。
 背中の羽根からジェット噴射のように迸った爆炎がその突進を加速し、まさに空を翔るように四人の身体が疾走する。
 それはまさに、周囲の闇を切り裂く鮮やかな陽光に導かれて宙を駆けて疾駆する四羽の蝶。
「はわーーーーー!!」
「い、いやだ! こんな突入の仕方はいやだあああぁあぁあぁぁ!!」
「覚えてろパピヨン! 戻ったら絶対にブチ撒けてやるぅううぅう!!」

 遠ざかっていく三人の悲鳴を聞きながらパピヨンは満足気に頷いた。
「……うむ、美しい」

 黒色の異形達を貫く陽光と、闇色の魔獣達を穿つ雷光。
 似て非なる輝きが一瞬だけ交じり合い、そしてそしてすれ違う。
 その刹那、カズキと斗貴子は見た。
 白い衣装とオレンジのマフラーを身に纏い、三叉槍の武装錬金から雷光を迸らせる少年の姿を。
 同時に、その少年も見た。
 突撃槍の武装錬金から陽光を迸らせるカズキと、彼によりそう斗貴子の姿を。


 ――交錯は一瞬。
 彼等が出会い互いを知るのは今この時ではない。





 交錯を経て一気にパピヨンの元まで辿り着いた少年――ソウヤは手にした武装錬金を露を払うように一閃してから眉を歪めた。
 周囲に群がるクリーチャー達を一瞥して、唇を噛む。
「なんなんだ、コイツ等は……『この世界』は一体どうなってる!?」
「ふん、大方どこぞのカミサマが悪趣味な饗宴(パーティ)でも催したくなったんだろうさ」
「……訳がわからない」
 いかにもつまらなそうに鼻を鳴らしてパピヨンが答えると、ソウヤは一層表情を険しくしてパピヨンをねめつける。
 無論この状況が彼のせいではないというのは理解しているのだが、半ば巻き込まれた形になった彼としては非難の色の一つも出るだろう。
 しかし一方のパピヨンはそんなソウヤの目線を受けても全く動じる事はない。
「そら、来るぞソウヤ。お前の願いを叶えたいなら、まずは目の前の問題を片付けないとな」
「………」
 唸り声を上げつつにじり寄って来るクリーチャーを見つめたままパピヨンが言うと、ソウヤは小さく舌打ちしてから彼に背を預けた。
 構えた三叉槍の矛先、その向かう先にたむろする魔獣達。姿形は全く違うが、彼の目には彼の記憶の中にある敵と同じモノに見えた。
「協力はしてもらう。だが、それを別にしてもコイツ等は放っておけない。『この世界』も『オレの世界』も、毀させやしない」
「……なるほど」
 ソウヤの言葉を聞いてパピヨンが得心したように呟いた。
 それが一体何に対しての得心であったのかは彼以外には知る由もなく、恐らくこの場においては知る意味もないだろう。
 群がるクリーチャー達に手を掲げ、黒死の蝶を羽撃かせる。
 三叉槍を展開し、雷光を疾走らせる。
 そして、

「ニアデスハピネス!」
「ライトニング・ペイルライダー!!」

 爆裂と極光が戦場を貫いた。 



 ※ ※ ※



 紅の月に照らされた外の世界とは一変して、洋館の中は静寂に包まれていた。
 外に溢れていたクリーチャー達の姿はそこに侵入してからただの一度も出現していない。
 どこにあるのか知れない光源に照らされて白く浮かぶ屋内は乱れ一つなく整然としている。
 長く長く続く回廊、左右に並ぶ扉、その奥にあるのは高く聳える巨大な本棚。
 それは数え切れないほど膨大な蔵書を収めた書物庫であり、同時に”秘密侯爵”リオン=グンタが形作る月匣だった。
 そんな場所に侵入してどれほどの時間が――月匣内において通常の時間経過など考慮できないが――経ったのだろうか。
 蓮司とカズキは現在――

「「ううぅうおおおおおぁぁああぁああ!?」」

 その静寂をブチ破って回廊を爆走していた。

「カズキ! てめえ、迷宮化した月匣では迂闊に扉開けるなって最初に言っただろ!?」
「そんな事言ったって開けないと進めないだろ!?」
「トラップの探知をしろって言ってんだよ!」
「そんなのやった事ないし! っていうか最初に罠に引っかかった蓮司に言われたくないぞ!?」
「あ、あれは……探知に失敗しただけだ!」
「失敗したんならやってないのと同じじゃんか!」
 互いに罵りあいながら、しかし決して速さを緩めずに我先にといった風体で二人は回廊を必死に走り続ける。
 何故か、と問うまでもなくその原因は二人を背後から追いかけている物体だ。
 汽笛の咆哮が唸りを上げ、車輪の回転音がけたたましく鳴り響く。
 ソレが吐き出した黒煙が周囲を塗りつぶし、煙の中から広い回廊を目一杯に占拠する黒鉄の巨躯が姿を現す。
 日本国有鉄道(国鉄)の前身である鉄道省が設計したD51形蒸気機関車――通称デゴイチは目の前の二人を踏み潰さんと爆走していた。

 ――ことの次第はこうである。
 まず、蓮司が探索の途中でトラップの探知に失敗し、罠を起動させてしまった。
 床に突如出現した巨大な穴に、斗貴子とくれははどうにか回避できたものの、当事者の蓮司と、それに巻き込まれてカズキが穴に落ちた。
 こうして呆気なくパーティは分断されて、蓮司とカズキは合流するために再び探索を始めたのだが、元よりこの二人はこういった地味な探索活動にはあまり向いていない。
 ある意味当然の結果として、カズキが扉を無造作に開け放った。
 その向こうに、巨大な蒸気機関車が鎮座していた。
 状況を飲み込むよりも早くD51は雄たけびを上げて走り始め、二人は慌ててそこから逃げ出したのである。

「くそう、しつこく追ってきやがって……! このまま逃げてもキリがねえ!」
「どうするんだ!?」
「決まってんだろ――ぶっ壊す!!」
「!」
 叫びと同時に二人は足を止めて振り返る。
 立ち塞がるモノを蹂躙しようと迫ってくる機関車を二人はしかし恐れずに睨みすえた。
 先程は場の空気に呑まれて逃げ出してしまったが、相対すると定めてしまえば二人に退く脚は存在しない。
 二人は暴走機関車に駆け出し、蓮司は手にした魔剣を、カズキは構えたサンライトハートを渾身の力で敵に叩き込んだ。
 こうなってしまえばエミュレイターやホムンクルスと闘ってきた二人にとって、機関車など単なる鉄塊にしかすぎない。
 閃く刃が車体を切断し、突き出した光の槍が黒鉄を撃ち貫き、そして――
「あ?」
「え?」

 ――突如爆散した。

 避ける間も悲鳴を上げる間もなく二人は機関車の爆発に巻き込まれる。
 轟音が響き渡り爆炎が吹き荒れ、フォートレスが僅かに揺れる。
 濛々と立ち込める白煙が消え去った後に残ったのは粉砕され瓦礫になった鉄屑の山だけだった。
「……でぇい!」
「なんの!」
 山の中からボロボロになった二人が勢い良く姿を現す。
 頭まで被った破片を振り払い、瓦礫を押し退けながら山から脱出しながら二人は苦々しく呻く。
「くそ……エクスプロージョンまで仕込んでやがったのか……!」
「恐るべしフォートレス……!」
 瓦礫の山から脱出して、二人で身体の調子を確かめる。幸い深刻な被害はないようだ。

 その後二人は待ち受けていた数々のトラップを悪戦苦闘しながら潜り抜けて行った。
 部屋一面に広がった地雷原を駆け抜けたり、炎と雷が荒れ狂う部屋を突破したり、カビン→アタックウォール→リフトフロア→斬殺換気扇の
トラップコンボに芸術的に引っかかってみたり、時刻表を用いた時間差アリバイトリックに頭を悩まされたりもした。
 そうこうして幾つもの扉をくぐり、回廊を抜けた先に広がっていたのは無限に広がる書物庫。
 一見すれば通常の世界にある図書館と同じような構造だった。
 この場所にはトラップの類は全く存在しなかったが、とにかく広さに果てがない。
 右も左も前も後ろも何処までも書架が立ち並んでいる。
 こういう迷宮の類を抜けるセオリーとして目印をつけようともしたが、やはりと言うべきか月匣において形作られたその書架は傷一つつかない。
 服の切れ端をいくつか置いてはみたものの、終ぞお目にかかった事がない。
 結局二人は闇雲に書架の迷宮を走り回る他に取る道がなかった。
「蓮司、どうにかなんないのか……!」
 うんざりするほど代わり映えのしない迷宮を走りながら、カズキは少し苛立った口調で蓮司に声をかける。
 月匣に突入してどれだけ時間を浪費しているのかわからない。
 現在の状況に加えてブラボーやパピヨン達が外で奮闘している事もあって、カズキの焦りは当然ではあった。
「多分魔法的な何かだろうが……俺じゃ手が出せねえ」
 その焦燥は蓮司としても同様なのだろう、彼はカズキと同じような表情を浮かべて手にした0-PHONEのディスプレイを見つめている。
 先程からくれはに連絡を取ろうとしているが、全く繋がらないのだ。
 更に奇妙な事に、ディスプレイに表示されている時刻表示は――ブロンズスターに乗って突入した時間からあまり経っていなかった。
「くそ、壊れてんじゃねえのか……!」
 忌々しげに吐き捨ててから蓮司は0-Phoneを投げ捨てようとする。
 その瞬間、唐突に着信音が鳴り響いた。
 驚いて相手を確認する蓮司。くれはからの着信だった。
「くれは!? 繋がったのか!」
 蓮司は泡を食ってボタンを押すとまくしたてたが、帰ってきた返事は――

『……五月蝿いわよ柊 蓮司。耳元で怒鳴らないで』

 くれはのものではない、しかし蓮司のよく知る少女のものだった。
「な、て……てめえ、ベール=ゼファー……!?」
 愕然として蓮司は呻き、食い入るようにディスプレイを確認する。
 しかし表示されている送信者は間違いなく赤羽くれはだ。つまりベルは、くれはの0-Phoneを使って蓮司に電話をかけているのだ。
「蓮司、どうしたんだ! ベール=ゼファーってこの前会った……!?」
 詰め寄ってくるカズキに蓮司は0-Phoneの音量を最大にしてから改めてベルに叫ぶ。
「てめえ、なんでくれはの0-Phoneを使ってやがる! くれははどうした!」
『……。赤羽くれはなら今あたしと紅茶を愉しんでるわ』
「ベール=ゼファー! 斗貴子さんは!? 斗貴子さんはどうしたんだ!」
『トキコ? ああ、赤羽くれはと一緒にいた錬金の戦士ね。彼女もいるわ』
 くすくすと微笑が混じったベルの声が返ってくると、蓮司は怒気を孕ませて歯を噛み締めた。
「……お前、今何処にいやがる」
『すぐ近くよ。ようやく霊界経路を繋げられたから、早く辿って来なさい。でないと――』


「……っ!」
 瞬間、蓮司とカズキは筆舌にし難い悪寒に襲われて顔を上げた。
 霊界経路とは0-Phoneの通信に使われている、時間と空間を超越する霊的なネットワークの事だ。
 月匣はある意味でそれらが断絶する異空間であるであるため挙動が不安定になってしまうのだが、ベルはそれを繋げてしまったらしい。
 大魔王の面目躍如といったところだろうが、今はそれどころではない。
 0-Phoneを通して感じる押し潰されそうな殺気。辿るまでもなく、おおよその方向が感じ取れてしまうほど。
「……二人に何かあったら、リオンより先にお前を片付けるぞ」
『あたしを前座扱いか。見ず知らずの仲でもないっていうのに、よくもそんな口が叩けるものね』
「うるせえ、すぐに行ってやるから待ってろ」
 荒々しく吐き捨ててから蓮司とカズキは駆け出した。
 リオン=グンタの月匣内においてなお強烈な存在感を放つベルの魔力は、蓮司やカズキにも容易に感じられた。
 それを頼りに二人はそれまでに増して脚を早めて無限に続く迷宮を踏破していく。

 先を急ぎながら、蓮司は既視感を伴った焦燥を感じていた。
 それは半年ほど前の事。
 かつてくれはは魔王ディングレイの依り代としてベール=ゼファーにその身を狙われた。
 要因は様々にあったがそれは単なる言い訳でしかなく、純然な事実として蓮司はくれはを守り切れず、そして彼女の身に魔王は降臨してしまったのだ。
 彼女の身体に刃を突き入れた時の感触を思い出し、蓮司は唇を噛み切る勢いで歯を食いしばる。
(くれは……!)
 果てのない迷宮の向こうに立ち上る魔王の気配に向かって、蓮司は更に脚を早めた。


 そして辿り着いたのは――書物庫の最奥。巨大な扉。
「くれは!」
「斗貴子さん!」
 全力疾走の勢いのまま扉を蹴破り、二人はその部屋に駆け込んで叫んだ。
 息を荒らげ、肩を上下させながら油断なく武器を構え状況を確かめる。
 そこにベール=ゼファーはいた。くれはと斗貴子もいる。
 円形に立ち並ぶ巨大な書架に囲まれたその部屋の中心、書物を読むためなのだろうか、テーブルとチェアが据え置かれている。

 ――ティカップの載せられたテーブルを囲んで、すまし顔のベルと、寛いだ表情のくれはと、いたたまれない表情の斗貴子が、いた。

「………なんでホントに紅茶飲んでんだよっ!!?」

 蓮司の渾身の叫びが部屋に轟き渡った。


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