ぐらすうぉーず。
ゆらりゆらりと幽鬼のような足取りで、廃墟の中を進んでいくメガネの少女。
その後ろを、新八と氷室は警戒しながら尾行していた。
彼らは先ほど長門の連絡で手に入れたルートで例の熱源の集中しているという廃墟の中にもぐりこみ、メガネの人間の向かう先を確かめるために行動していたのだ。
新八は真剣な様子で、ぽつりと呟く。
その後ろを、新八と氷室は警戒しながら尾行していた。
彼らは先ほど長門の連絡で手に入れたルートで例の熱源の集中しているという廃墟の中にもぐりこみ、メガネの人間の向かう先を確かめるために行動していたのだ。
新八は真剣な様子で、ぽつりと呟く。
「……さっきから思ってたんですけど」
「なんだ志村。なにか気づいたことでも?」
「気づいたっていうか、氷室さんはないんですか? このイヤな感じ」
「なんだ志村。なにか気づいたことでも?」
「気づいたっていうか、氷室さんはないんですか? このイヤな感じ」
彼は、この建物に入ってからなんともいえない不気味な感覚を受けている気がしていた。
理解のできない謎の言語の音をずっと聞かされているような、何か大きなものが近くにあってそれから逃げ出したいような、不気味な感覚。
その問いかけに氷室は目を細めて答える。
理解のできない謎の言語の音をずっと聞かされているような、何か大きなものが近くにあってそれから逃げ出したいような、不気味な感覚。
その問いかけに氷室は目を細めて答える。
「わたしもそれは感じている。
原因もわかっているぞ。長門嬢がさっきの連絡で教えてくれた情報によると、ここには莫大な量の存在力が存在するらしい」
「すいません、僕専門用語には明るくないんですけど」
「わたしもそこまで理解しているわけではないがな。
他の世界の言葉に直すと、『色のない魔力』『プラーナ』『可能性の力』『リューン』などが挙げられるか。
学者連中に言わせると量子力学がどーのとか、短期間におけるカオス理論の観測がどーのとか言うらしいが、一言で表すと『選択を肯定する力』というやつだ」
「すいません、全然わかりません」
「わたしもよくわからん。
長門嬢に聞いたらもっとよくわからん単語が出てきたぞ、情報爆発だのなんだの。
要は人間が現実世界に存在するものを認識した時にその存在を肯定する力、だそうだ。
今まで聞いた中で一番わかりやすいたとえで説明すると、『信じる心は力になる』というものかな。いささかロマンティックだがね」
原因もわかっているぞ。長門嬢がさっきの連絡で教えてくれた情報によると、ここには莫大な量の存在力が存在するらしい」
「すいません、僕専門用語には明るくないんですけど」
「わたしもそこまで理解しているわけではないがな。
他の世界の言葉に直すと、『色のない魔力』『プラーナ』『可能性の力』『リューン』などが挙げられるか。
学者連中に言わせると量子力学がどーのとか、短期間におけるカオス理論の観測がどーのとか言うらしいが、一言で表すと『選択を肯定する力』というやつだ」
「すいません、全然わかりません」
「わたしもよくわからん。
長門嬢に聞いたらもっとよくわからん単語が出てきたぞ、情報爆発だのなんだの。
要は人間が現実世界に存在するものを認識した時にその存在を肯定する力、だそうだ。
今まで聞いた中で一番わかりやすいたとえで説明すると、『信じる心は力になる』というものかな。いささかロマンティックだがね」
聞いてはみたが、新八にはよくわからない。
しかしそのたとえで行くと、その力はどうも持っている人間の願いをかなえる力っぽい。気がする。
だから彼は確認をとることにした。
しかしそのたとえで行くと、その力はどうも持っている人間の願いをかなえる力っぽい。気がする。
だから彼は確認をとることにした。
「……つまり、ここにあるその存在力っていうのが黒幕のものだとすると、相当ヤバい状況ってことですか?」
「端的に言うとそうなるな。というか、世界がひっくりかえるレベルのものだと思ってくれていいそうだぞ」
「そーゆーことは早く教えといてくださいっ」
「ついてくると言ったのは汝の方だぞ?」
「端的に言うとそうなるな。というか、世界がひっくりかえるレベルのものだと思ってくれていいそうだぞ」
「そーゆーことは早く教えといてくださいっ」
「ついてくると言ったのは汝の方だぞ?」
妖艶に微笑んで、氷室。
別に彼女も意図なく隠していたわけではない。
聞かれなかったから答えなかったのも確かだが、この少年に事態の危険性を話せば足が止まるのではないかと見たのだ。
恐怖で足がすくんでしまえば、もう一歩も動けなくなる。彼女としても一緒に言ってくれると言った相手を虜囚にさせたいわけではないのだ。
ゆえに、今まで話そうとしなかったのだが―――氷室にとっては予想外なことに、志村新八という少年は見かけによらず骨があったということだろう。
新八はぶつぶつ言いながらも監視対象から目を離さず、廃墟の中を進んでいく。
氷室はその様子をくすりと笑いながら、彼の後を追った。
別に彼女も意図なく隠していたわけではない。
聞かれなかったから答えなかったのも確かだが、この少年に事態の危険性を話せば足が止まるのではないかと見たのだ。
恐怖で足がすくんでしまえば、もう一歩も動けなくなる。彼女としても一緒に言ってくれると言った相手を虜囚にさせたいわけではないのだ。
ゆえに、今まで話そうとしなかったのだが―――氷室にとっては予想外なことに、志村新八という少年は見かけによらず骨があったということだろう。
新八はぶつぶつ言いながらも監視対象から目を離さず、廃墟の中を進んでいく。
氷室はその様子をくすりと笑いながら、彼の後を追った。
やがて幽鬼のような足取りの少女はある部屋のところまでやってくると、はじめてその戸に手をかけて入り、戸を閉めた。
目を見合わせ、一つ頷く。
音を立てないように戸の近くまで走り寄ると、周囲を確認。人影がないことを確かめる。戸の向こうにはたくさんの人間の気配と何者かの声。
新八は深呼吸し、氷室を見る。
彼女もまた新八をみかえし、緊張した面持ちでこくりと頷く。
考えていることは同じ。この先がおそらくは『アタリ』だということだ。
目を見合わせ、一つ頷く。
音を立てないように戸の近くまで走り寄ると、周囲を確認。人影がないことを確かめる。戸の向こうにはたくさんの人間の気配と何者かの声。
新八は深呼吸し、氷室を見る。
彼女もまた新八をみかえし、緊張した面持ちでこくりと頷く。
考えていることは同じ。この先がおそらくは『アタリ』だということだ。
二人して息を殺す。弾けそうな鼓動。戸に触れる。一際高鳴る胸。そろりそろりと覗ける程度の隙間を開き、その先の光景を目に映す。そこには―――
大歓声を上げる民衆。
熱狂的な彼らに囲まれた台座には、50センチほどの像がある。
人と象を足してこねくり回し、オレジャシンメガネエンペラーコンゴトモヨロシクみたいないびつに合体事故が起きた感じの像が、
かけているメガネをビカビカ光らせながら、CV:某大佐みたいな声で熱狂的な民衆に語りかけている。
熱狂的な彼らに囲まれた台座には、50センチほどの像がある。
人と象を足してこねくり回し、オレジャシンメガネエンペラーコンゴトモヨロシクみたいないびつに合体事故が起きた感じの像が、
かけているメガネをビカビカ光らせながら、CV:某大佐みたいな声で熱狂的な民衆に語りかけている。
『諸君、わたしはメガネが好きだ。
諸君、わたしはメガネが好きだ。
諸君、わたしはメガネが大好きだ以下省略。
前置きはここまでにしておこう。
よくぞ集まってくれたわが野望の偉大なる同志、<メガネの使徒>たちよ!!』
諸君、わたしはメガネが好きだ。
諸君、わたしはメガネが大好きだ以下省略。
前置きはここまでにしておこう。
よくぞ集まってくれたわが野望の偉大なる同志、<メガネの使徒>たちよ!!』
その声に応え、爆発するように歓喜にして喚起の声が巻き起こる。
洗脳された人々―――<メガネの使徒>たちは、その広い空間に見えるだけでゆうに千人を超えている。
そんな彼らが一斉に、各々の感情のままに熱狂的に叫ぶのだ。まさに自然災害のような怒号が鳴り響く。
洗脳された人々―――<メガネの使徒>たちは、その広い空間に見えるだけでゆうに千人を超えている。
そんな彼らが一斉に、各々の感情のままに熱狂的に叫ぶのだ。まさに自然災害のような怒号が鳴り響く。
「……氷室さん、僕もう帰っていいですか」
「私も今ひっじょーに帰りたいのだが……なんだろうな、あの光景は」
「私も今ひっじょーに帰りたいのだが……なんだろうな、あの光景は」
見ただけでSAN値がおろし金でがりがり削られそうな光景を見て、メガネを拭きながら呟く新八と、頭を押さえる氷室。
なんだあれは、という疑問に答えを出そうとすると脳が拒否反応を起こしそうな光景だ。無理もないだろう。
なんだあれは、という疑問に答えを出そうとすると脳が拒否反応を起こしそうな光景だ。無理もないだろう。
「場所確認できたんですし、ここから僕らがいなくなったあとに爆弾でも落としてもらえばいいんじゃないですか?」
「ギャグ時空以外から来ている人間は死ぬことになるからその決定は無理だろうな。
誰も死なないならぜひともその方法で抹消してほしいんだが。私の記憶ごと。残念だ。非常に残念だ」
「ギャグ時空以外から来ている人間は死ぬことになるからその決定は無理だろうな。
誰も死なないならぜひともその方法で抹消してほしいんだが。私の記憶ごと。残念だ。非常に残念だ」
心の底から本気でそう思っているだろう彼女の言葉に心から同意しながら、新八は一つため息をついて思考を正常に戻す。
「僕らもここまで来た以上、一応少しでも多くの情報を掴んでおくべきでしょう。もうちょっと様子を見てみませんか」
「……汝、順応性が高すぎやしないかね」
「異常事態には割と慣れてるんで。主にクラスメイトとか家族とか担任とかのせいで」
「そうか。そうだな、もう少し様子を見よう」
「……汝、順応性が高すぎやしないかね」
「異常事態には割と慣れてるんで。主にクラスメイトとか家族とか担任とかのせいで」
「そうか。そうだな、もう少し様子を見よう」
目の前の少年の日常に激しく同情しつつ、再び隙間から様子を伺う氷室。
そんな彼女の心優しい心情など知る由もなく、同じく様子を伺う新八。
そんな彼女の心優しい心情など知る由もなく、同じく様子を伺う新八。
彼らのことなど気づく様子もなく、温度差はそのままに目の前の光景は進んでいく。
『時は世紀ま―――ではなく。
同志諸君、時は来た。これまでの雌伏の時を、覆す時が来たのだ!
人間の生み出したる究極の芸術にして至高の機能。おはようからおやすみまでありとあらゆる時間を共に過ごす最高にして至上の宝具!
同志諸君、時は来た。これまでの雌伏の時を、覆す時が来たのだ!
人間の生み出したる究極の芸術にして至高の機能。おはようからおやすみまでありとあらゆる時間を共に過ごす最高にして至上の宝具!
その名をメガネ。人間のありとあらゆる夢と希望を詰め込んだ最強の幻想が再びその権勢を誇る時が来たのだ!
古来、メガネは太陽であった。
視力の弱い人々の生活を照らし、明日への希望を抱かせる最高の人間の友であった!
今はどうだ。世間の愚かしき者共はその恩恵に感謝を忘れ、メガネっ娘の着脱可能ゆえの「一粒で二度おいしい」の心すら忘れる始末。
そう。今メガネは月である。
しかしそれでは終わらせない。終わらせてなどなるものかっ!!
我々メガネを愛する者たちの<メガネ愛>! それをもってすれば、この世界を<学園メガネ世界>に改名することすら可能!
諸君! 今こそメガネへの愛を持ってすべてのメガネ愛好家たちを仲間に引き入れ、その後にこの世界をメガネ色に染め上げる計画、すなわち
視力の弱い人々の生活を照らし、明日への希望を抱かせる最高の人間の友であった!
今はどうだ。世間の愚かしき者共はその恩恵に感謝を忘れ、メガネっ娘の着脱可能ゆえの「一粒で二度おいしい」の心すら忘れる始末。
そう。今メガネは月である。
しかしそれでは終わらせない。終わらせてなどなるものかっ!!
我々メガネを愛する者たちの<メガネ愛>! それをもってすれば、この世界を<学園メガネ世界>に改名することすら可能!
諸君! 今こそメガネへの愛を持ってすべてのメガネ愛好家たちを仲間に引き入れ、その後にこの世界をメガネ色に染め上げる計画、すなわち
―――<プロジェクト:グラスワールド>への道を開く真の使徒への道を歩むのだ!
さぁ私、この<メガネ邪神>の元に集いし使徒よ。
悠久にて深遠なる<メガネ王国(グラスキングダム)>建設のため、その世界でメガネ邪神からメガネ邪神帝王へと昇りつめる私のため!!
すべてのメガネキャラを我が陣営に引きずりこむのだ!!』
悠久にて深遠なる<メガネ王国(グラスキングダム)>建設のため、その世界でメガネ邪神からメガネ邪神帝王へと昇りつめる私のため!!
すべてのメガネキャラを我が陣営に引きずりこむのだ!!』
メガネ、メガネ、メガネ、と謎のコールが始まりかけたその時。
「そんな世界になってたまるかァァァァっ!?」
「帝王なのにキングダムってなんだァァァァっ!?」
「帝王なのにキングダムってなんだァァァァっ!?」
……ガマンし切れなかった部屋の外の二人が同時に違うツッコみを入れた。
いや、他にもツッコミどころは満載なんだが正直ツッコミきれなかったのだ。そんなわけでツッコミきれる方は頑張ってツッコんでいただきたい。
いや、他にもツッコミどころは満載なんだが正直ツッコミきれなかったのだ。そんなわけでツッコミきれる方は頑張ってツッコんでいただきたい。
閑話休題。
空気中のチリすら止まったような、一瞬の静寂。
空気中のチリすら止まったような、一瞬の静寂。
無数の瞳が、部屋の外の二人を射抜く。
冷や汗が止まらない自分の状態を自覚しつつ、新八は気圧されながら一言。
冷や汗が止まらない自分の状態を自覚しつつ、新八は気圧されながら一言。
「氷室さん、視線で穴が空きそうです」
「あー……うん。そうだな。アレだ。私も少し冷静さを欠いていたな。うん」
「ど、どうしましょう?」
「うむ。こういう時は―――三十六計っ!!」
「あー……うん。そうだな。アレだ。私も少し冷静さを欠いていたな。うん」
「ど、どうしましょう?」
「うむ。こういう時は―――三十六計っ!!」
氷室も新八も声も目線も合わせることなくきびすを返して全力ダッシュ。
これは逃走ではない、戦力的撤退である、とその背中が如実に語っている気がしなくもない。
これは逃走ではない、戦力的撤退である、とその背中が如実に語っている気がしなくもない。
足音を隠すこともない全力の疾走に、しかし部屋の中の誰も動こうとしない。
いくつもの目は二人が廃墟の中に消えると、彼らの盟主たるメガネ邪神へと目線を移した。
瞳にハイライトのない一人のメガネの使徒が、うやうやしく胸に手を当ててメガネ邪神像へと膝を折る。
いくつもの目は二人が廃墟の中に消えると、彼らの盟主たるメガネ邪神へと目線を移した。
瞳にハイライトのない一人のメガネの使徒が、うやうやしく胸に手を当ててメガネ邪神像へと膝を折る。
「メガネ邪神様。ネズミが紛れ込んでいたようです、いかがいたしましょう」
『ネズミなどと言うな、アレも我が同志たるべき者たちだ……今はまだ志を同じくしないようだがな』
『ネズミなどと言うな、アレも我が同志たるべき者たちだ……今はまだ志を同じくしないようだがな』
それを同志とは言わない。
閑話休題。
ともかく、メガネ邪神は続ける。
ともかく、メガネ邪神は続ける。
『最初はHP0.5という卵をぶつけられただけで死ぬ程度の力しかなかった私だが、諸君ら同志が増える度に増した信仰心により莫大な力を得た。
後は機を待とうと思っていたのだが……こうなってしまってはな』
「では」
『うむ。
―――是非もない』
後は機を待とうと思っていたのだが……こうなってしまってはな』
「では」
『うむ。
―――是非もない』
なぜか本能寺っぽい台詞を吐き、メガネ邪神は宣言する。
『諸君! これより我々は戦闘態勢へと移行する!
第一目標は全世界! これより我々は―――未来を侵略するための戦いを始める! 第一種戦闘配備、私も出るぞ!
第一目標は全世界! これより我々は―――未来を侵略するための戦いを始める! 第一種戦闘配備、私も出るぞ!
さぁ征くぞ。
世界を変えるための大戦だ、皆存分にその力を奮うがいい―――!』
世界を変えるための大戦だ、皆存分にその力を奮うがいい―――!』
勝鬨の雄たけびがその建物を揺らし、ゴゴゴゴゴ、と秘密基地っぽい地響きを上げながら廃墟がその形を変えていく。
何人かのメガネ集団のメガネがキラリと光を放つが、それに気づく者はいない。
何人かのメガネ集団のメガネがキラリと光を放つが、それに気づく者はいない。
ここに―――最も馬鹿馬鹿しいながらスケールの大きな世界の危機が、始まった。