<幕間4・世界のあちこちから>
ある高校の中で、五人の少女たちがある教室に閉じこもっていた。
みな一様にサーモンピンクのセーラー服にボウタイ、小豆色のスカートの制服を着た、この学校の生徒たちだ。
ショートカットの少女が、バリケードの向こうの今にも破られそうな扉をにらんで呟く。
みな一様にサーモンピンクのセーラー服にボウタイ、小豆色のスカートの制服を着た、この学校の生徒たちだ。
ショートカットの少女が、バリケードの向こうの今にも破られそうな扉をにらんで呟く。
「くそ、もうあんまり猶予なさそうだぜ」
「これ……」
「これ……」
そう言って、一緒にこの教室に立てこもっている腰まである長い黒髪の少女がデッキブラシを彼女に手渡す。
ショートカットの少女は満面の笑顔で答える。
ショートカットの少女は満面の笑顔で答える。
「おぉ、さっすが榊。いざとなったらこれでぶちのめせってことだな!」
「で、できれば穏便に……」
「で、できれば穏便に……」
クールな外見に似合わず少し困ったように、長身の黒髪の少女―――榊は教室で見つけたモップを自分も手にする。
なにせなりふり構っていられる状況ではなさそうだ。榊自身は乱暴は苦手だが、多少手荒になっても仕方がないと覚悟を決めたのだった。
と、そこへその二人のプロポーションから比べるとかなり凹凸のない、肩までのストレートを伸ばした少女が話しかけてくる。
なにせなりふり構っていられる状況ではなさそうだ。榊自身は乱暴は苦手だが、多少手荒になっても仕方がないと覚悟を決めたのだった。
と、そこへその二人のプロポーションから比べるとかなり凹凸のない、肩までのストレートを伸ばした少女が話しかけてくる。
「なぁなぁ二人ともー、あっちでバケツ見つけたー」
「お前こんな時にバケツ見つけてどうすんだよ。両手に持って廊下に立つのか?」
「ちっちっち。神楽ちゃん甘いで、これに水入れて入り口にトラップとして仕掛けるー。
するとー、入ってきた人たちがびしょぬれに!」
「すげぇ! 大阪お前天才かっ!?」
「あの、大阪さん。ここ水道引いてないから水くみに外に行かなきゃいけませんよ?」
「お前こんな時にバケツ見つけてどうすんだよ。両手に持って廊下に立つのか?」
「ちっちっち。神楽ちゃん甘いで、これに水入れて入り口にトラップとして仕掛けるー。
するとー、入ってきた人たちがびしょぬれに!」
「すげぇ! 大阪お前天才かっ!?」
「あの、大阪さん。ここ水道引いてないから水くみに外に行かなきゃいけませんよ?」
バカ二人の会話にツッコミをいれたのは高校生からすると並外れて身長の低いおさげ風味に髪を二つにくくった少女。
彼女がそう言うと、大阪と呼ばれた少女―――本名は春日 歩という―――はあーそうかー、と今気づいたようにしんなりしながらバケツを片付けにいく。
残されたデッキブラシ少女こと神楽は、今度は小さな女の子にたずねた。
彼女がそう言うと、大阪と呼ばれた少女―――本名は春日 歩という―――はあーそうかー、と今気づいたようにしんなりしながらバケツを片付けにいく。
残されたデッキブラシ少女こと神楽は、今度は小さな女の子にたずねた。
「ちよちゃんは何かいいもの見つけたか? できればちよちゃんには天才らしく超ひらめきを期待してんだけど」
「一応チョークの粉とか見つけましたー。これを上からかけたりすれば目くらましになったりすると思いますよ。
さすがに天井に張り付いてるような人はいないみたいですしー」
「おぉ、さすが天才。早速実行だ、榊ー!」
「一応チョークの粉とか見つけましたー。これを上からかけたりすれば目くらましになったりすると思いますよ。
さすがに天井に張り付いてるような人はいないみたいですしー」
「おぉ、さすが天才。早速実行だ、榊ー!」
わかった、と答える少女たちのなかで一番の長身な榊。
彼女はすぐさま廊下側の窓のカギを一つ開き、チョークの粉投下。再び即座に窓を閉めてカギをかける。
扉の向こうが密集した集団だったこともあってか、すぐにせきと悲鳴が蔓延する。
その様子にハイタッチする榊とちよと呼ばれた女の子、美浜 ちよと神楽。チョークの粉を吸ったのかへーちょ、とくしゃみする大阪。
彼女はすぐさま廊下側の窓のカギを一つ開き、チョークの粉投下。再び即座に窓を閉めてカギをかける。
扉の向こうが密集した集団だったこともあってか、すぐにせきと悲鳴が蔓延する。
その様子にハイタッチする榊とちよと呼ばれた女の子、美浜 ちよと神楽。チョークの粉を吸ったのかへーちょ、とくしゃみする大阪。
彼女たちの様子を見ながら、もう一人の少女は複雑そうな表情で呟いた。
「みんな、ごめん……」
彼女はいつもよりも低いトーンの声で、何かをこらえるようにそう言った。
彼女の言葉に、ちよが首を傾げる。
彼女の言葉に、ちよが首を傾げる。
「よみさん、どうかしたんですか?」
「どうかって……私のせいでこんなとこに閉じこもる羽目になっちゃったんだろ。
みんなを巻き込んじゃって、本当に悪いと思ってる」
「どうかって……私のせいでこんなとこに閉じこもる羽目になっちゃったんだろ。
みんなを巻き込んじゃって、本当に悪いと思ってる」
さらに落ち込む少女―――よみに、ちよはうまくかける言葉が見つからなかった。
クラスが同じ彼女たちが帰るために連れ立って歩いていたら、急によみが襲われた。
その場は榊が襲ってくる相手を突き飛ばしたもののそいつはめげずに追ってくる上、次々と襲撃者の仲間が増えていく。
だからこそ彼女たちは空き教室の一つに逃げ込んで、今に至る。
襲われているのが自分だという自覚があり、いつも誰かの面倒をみることの多いよみだからこそ、彼女は誰かに迷惑をかけていることに人一倍重荷を感じていた。
けれど。
クラスが同じ彼女たちが帰るために連れ立って歩いていたら、急によみが襲われた。
その場は榊が襲ってくる相手を突き飛ばしたもののそいつはめげずに追ってくる上、次々と襲撃者の仲間が増えていく。
だからこそ彼女たちは空き教室の一つに逃げ込んで、今に至る。
襲われているのが自分だという自覚があり、いつも誰かの面倒をみることの多いよみだからこそ、彼女は誰かに迷惑をかけていることに人一倍重荷を感じていた。
けれど。
「そんなこと気にせんでええよー、よみちゃん」
「そーそー。私ら友だちだろ、水くさいこと言いっこなしだぜ」
「そーそー。私ら友だちだろ、水くさいこと言いっこなしだぜ」
―――バカという人種は、そんな垣根をたやすく飛び越える。
ウソをつくだけの頭のない二人の言った言葉は、紛れもなく心の底から出た言葉でしかありえない。
そんな二人の言葉に後押しされるように、ちよが力強く続いた。
ウソをつくだけの頭のない二人の言った言葉は、紛れもなく心の底から出た言葉でしかありえない。
そんな二人の言葉に後押しされるように、ちよが力強く続いた。
「そ、そうですっ! よみさんはともだちで、困ったら助け合うのがともだちです!」
「誰も迷惑だなんて思ってない」
「誰も迷惑だなんて思ってない」
口数少ない榊も頷いた。
仲間たちのはげましによみは自分が一人ではないことを実感する。
鼻の奥がつんとするが、巻き込んだ本人が手伝ってくれている友人たちよりもいつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。
それに、湿っぽいのは彼女のスタイルではなかった。
水原暦は自分の日常を守るために、自分が非日常に連れて行かれないための 戦い(ていこう)を決意する。
仲間たちのはげましによみは自分が一人ではないことを実感する。
鼻の奥がつんとするが、巻き込んだ本人が手伝ってくれている友人たちよりもいつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。
それに、湿っぽいのは彼女のスタイルではなかった。
水原暦は自分の日常を守るために、自分が非日常に連れて行かれないための 戦い(ていこう)を決意する。
「大阪、まだ長物残ってるか」
「ほうきが残っとるよー。ちょっと短いけど」
「ほうきが残っとるよー。ちょっと短いけど」
大阪からほうきを受け取り、よみは襲いくるだろう扉一つ隔てた先の群集に意識を集中する。
正直、怖い。
足は小刻みに震えているし、心臓の高鳴りはストップ高。このまま際限なしに上がってしまいそう。
けれど彼女は一人じゃない。
自分を助けるためにこんなところに一緒にこもって、今なお助けようとしてくれている友がいる。
彼女たちは自身が狙われていないから平然としているわけではない。
自身が狙われていないからといって、扉の向こうの群集が向かってくる状態が怖くないはずがない。現に最年少のちよは顔を青ざめさせてすらいる。
それでも彼女たちはよみのためにこの場所にいてくれているのだ。よみ一人が弱音を吐けるはずもない。
足は小刻みに震えているし、心臓の高鳴りはストップ高。このまま際限なしに上がってしまいそう。
けれど彼女は一人じゃない。
自分を助けるためにこんなところに一緒にこもって、今なお助けようとしてくれている友がいる。
彼女たちは自身が狙われていないから平然としているわけではない。
自身が狙われていないからといって、扉の向こうの群集が向かってくる状態が怖くないはずがない。現に最年少のちよは顔を青ざめさせてすらいる。
それでも彼女たちはよみのためにこの場所にいてくれているのだ。よみ一人が弱音を吐けるはずもない。
どん、どん、と今にも破られそうな扉。
5人の少女たちがそれぞれの抵抗の体勢に移行し、緊張が極限まで高まった、その時。
5人の少女たちがそれぞれの抵抗の体勢に移行し、緊張が極限まで高まった、その時。
―――どごぉぅんっ!! と。廊下で何かが膨れ上がって弾け飛んだような爆音が轟いた。
廊下側の窓ガラスがびりびりと震える。あまりの音に思わず5人が耳をふさぐ。
爆音に混じってたくさんの悲鳴のような小さな声が混じるが、耳をふさいだ彼女たちには届かない。
少女たちがショックから覚めるよりも早く、あまりにも無造作に、あまりにも唐突に。がらりと扉が開かれる。
爆音に混じってたくさんの悲鳴のような小さな声が混じるが、耳をふさいだ彼女たちには届かない。
少女たちがショックから覚めるよりも早く、あまりにも無造作に、あまりにも唐突に。がらりと扉が開かれる。
そこには、彼女たちと同じくこの高校の女子制服を着て、片手でとりまわせるスリングショットとバズーカの合いの子のようなプラスチックフレームを持った少女が一人。
彼女はゴーグルを頭にかけなおして、にひひと笑った。
彼女はゴーグルを頭にかけなおして、にひひと笑った。
「ようよみ、大丈夫だった?」
「おまえ……遅いんだよ」
「おまえ……遅いんだよ」
この中の誰よりも長くからの付き合いの少女が現れたことで、緊張の糸がとぎれて笑ってしまいそうになるよみ。
彼女にそんなところを見られるのは長い付き合い上後で絶対からかわれるとわかっているので不覚以外の何者でもないのだが、今の彼女にその笑みは止められそうにない。
くせっ毛で、ついでに選抜委員のバッチと腕章をしたその少女―――滝野ともは、まわりを見渡しはっはっは、と笑う。
彼女にそんなところを見られるのは長い付き合い上後で絶対からかわれるとわかっているので不覚以外の何者でもないのだが、今の彼女にその笑みは止められそうにない。
くせっ毛で、ついでに選抜委員のバッチと腕章をしたその少女―――滝野ともは、まわりを見渡しはっはっは、と笑う。
「私がいなくて心細かったみたいだねー諸君! さあ、この選抜委員のヒーロー、ともちゃんに惜しみない賞賛を送るがいい!」
「遅いぞこの役立たずっ!」
「神楽くーん、それが助けてくれた人に対する口の利き方かねー?」
「助けにくるならもっと早くに来いこの役立たずっ!」
「あれ、ホントにヒドくない?」
「あの……」
「遅いぞこの役立たずっ!」
「神楽くーん、それが助けてくれた人に対する口の利き方かねー?」
「助けにくるならもっと早くに来いこの役立たずっ!」
「あれ、ホントにヒドくない?」
「あの……」
ともと神楽とよみの口争に、物静かな榊が割り込んで廊下とは反対側の窓を指差す。
窓の先には、機械の翼を広げた機械式の鳥が浮かんでいる。それには、ともと同じく選抜委員の腕章とバッチをつけた輝明学園の制服の少女が立ち乗りしている。
ともは窓に駆け寄り、窓を開けた。
窓の先には、機械の翼を広げた機械式の鳥が浮かんでいる。それには、ともと同じく選抜委員の腕章とバッチをつけた輝明学園の制服の少女が立ち乗りしている。
ともは窓に駆け寄り、窓を開けた。
「こらともー! 屋内で使うのは14番までって決まってるでしょ、何を平然と20番代の属性付加射弾使ってるのー!?」
「あっはっはごめん間違えた」
「あぁもうっ……始末書、自分で書いてね。わたし絶対肩代わりしないから」
「えー、ユリ厳しくない? じんめいきゅーじょだぜじんめいきゅーじょ」
「自分でやったことでしょ。まったく、いくら友達が心配だったからって対軍勢制圧用の20番代後半使うなんて何考えてるんだか……」
「別に心配したわけじゃありませんー。よみの面白顔見たかっただけですー」
「ほほーう?」
「あっはっはごめん間違えた」
「あぁもうっ……始末書、自分で書いてね。わたし絶対肩代わりしないから」
「えー、ユリ厳しくない? じんめいきゅーじょだぜじんめいきゅーじょ」
「自分でやったことでしょ。まったく、いくら友達が心配だったからって対軍勢制圧用の20番代後半使うなんて何考えてるんだか……」
「別に心配したわけじゃありませんー。よみの面白顔見たかっただけですー」
「ほほーう?」
そう言い合っている中で聞き逃せない言葉を聞いたよみは、容赦なくともの頭をわしづかんだ。
まったくもっていつものやりとりができるほどの心の余裕が生まれていることに内心苦笑しながら、よみはともの頭にアイアンクローを仕掛ける。
「そのために出待ちみたいなタイミングまで待ってたってかこの選抜委員のヒーロー(笑)様は?」
「うぉあああ、よみよみギブギブギブギブ! 頭が割れるよーに痛いんですケドっ!?」
「割れ。いっそのこと3階から地面に叩きつけられて割れ」
「容赦ないっ!? ちょ、みんなへーループー! みんなのともちゃんが今DIE・ピーンチっ!」
「うぉあああ、よみよみギブギブギブギブ! 頭が割れるよーに痛いんですケドっ!?」
「割れ。いっそのこと3階から地面に叩きつけられて割れ」
「容赦ないっ!? ちょ、みんなへーループー! みんなのともちゃんが今DIE・ピーンチっ!」
そんなやりとりに苦笑するユリこと朱野ユリとちよ。そこだーやっちまえーと同調する神楽。おろおろしている榊と、仲ええなーとどこかズレた大阪。
がたり、という音。
廊下から聞こえたそれに反応し、ともはクラスメートの友だちに不敵に笑いながらサムズアップ。
がたり、という音。
廊下から聞こえたそれに反応し、ともはクラスメートの友だちに不敵に笑いながらサムズアップ。
「さーて、そんじゃあお仕事の続きといきましょうか。
みんなユリの<コウノトリ>に飛び移って。ちよちゃんと大阪は榊ちゃんか神楽にでも抱えてもらいな」
みんなユリの<コウノトリ>に飛び移って。ちよちゃんと大阪は榊ちゃんか神楽にでも抱えてもらいな」
<コウノトリ>とは、選抜委員のために開発部が作ったエンジン付飛翼機関通称<フリューゲルシリーズ>の一つ正式名称『シュトルヒ』のことだ。
小型級ながら運搬積載量が最大6人と同クラス内で飛びぬけて高い輸送機だ。
なお、他にも中型強襲の花形<タカ>こと正式名称『ファルケン』や、小型低空飛行を得意とする<ツバメ>こと『シュワルベ』、
夜間装備満載の<フクロウ>こと『オイレ』に、最大50名積載可能な大型輸送機<アホウドリ>こと『アルバトロス』などなど、さまざまな型がある。
小型級ながら運搬積載量が最大6人と同クラス内で飛びぬけて高い輸送機だ。
なお、他にも中型強襲の花形<タカ>こと正式名称『ファルケン』や、小型低空飛行を得意とする<ツバメ>こと『シュワルベ』、
夜間装備満載の<フクロウ>こと『オイレ』に、最大50名積載可能な大型輸送機<アホウドリ>こと『アルバトロス』などなど、さまざまな型がある。
閑話休題。
ともの言うことを聞き、5人が次々と立ち乗り式の白い機械飛翼へと飛び乗っていく。
ちよが叫んだ。
ともの言うことを聞き、5人が次々と立ち乗り式の白い機械飛翼へと飛び乗っていく。
ちよが叫んだ。
「ともちゃんも早く!」
「あっはっは、何言ってんだちよちゃん。そいつは6人までしか乗れないんだよ。
ほらユリ、さっさと行って。私も後から追っかけるから」
「了解!」
「ちょ、ちょっと待てとも! おまえはどうするんだよ!?」
「あっはっは、何言ってんだちよちゃん。そいつは6人までしか乗れないんだよ。
ほらユリ、さっさと行って。私も後から追っかけるから」
「了解!」
「ちょ、ちょっと待てとも! おまえはどうするんだよ!?」
よみが叫ぶ。
自分を助けに来てくれた友人が、たった一人で敵のど真ん中で取り残されるなんてあってはならないことだ。
そう思って叫んだ彼女の声に、しかし一人残った彼女は笑顔で応える。
自分を助けに来てくれた友人が、たった一人で敵のど真ん中で取り残されるなんてあってはならないことだ。
そう思って叫んだ彼女の声に、しかし一人残った彼女は笑顔で応える。
「心配ないって。聞いた話じゃこいつらメガネかけた奴にしか反応しないらしいから、私は何の問題もないの。
それよりよみがここにいると真っ正直にまっすぐ進んでくるから私が逆に危なくなるんだよ。ほらさっさと行った行った」
「で、でも―――」
「あーもう、ユリ発進! あたしもダッシュでここから出るから!」
「はいはい。じゃあとも、後でね!」
それよりよみがここにいると真っ正直にまっすぐ進んでくるから私が逆に危なくなるんだよ。ほらさっさと行った行った」
「で、でも―――」
「あーもう、ユリ発進! あたしもダッシュでここから出るから!」
「はいはい。じゃあとも、後でね!」
それだけ言い残し、ユリはすぐさま機体を浮遊待機から全速天駆へモード移行。
推進剤を使い切りそうな全力加速。景色が目にも留まらぬ速度で前から後ろへ駆け去っていく。
すでに高校は豆粒ほどの大きさに見えるほど。そんな中で、ユリは遅くなっちゃってごめんね、と後ろの5人に話しかけた。
推進剤を使い切りそうな全力加速。景色が目にも留まらぬ速度で前から後ろへ駆け去っていく。
すでに高校は豆粒ほどの大きさに見えるほど。そんな中で、ユリは遅くなっちゃってごめんね、と後ろの5人に話しかけた。
「実はあたしたちも状況をきちんと把握できたのはついさっきなんだよね。
なんでもメガネかけた人たちが操られて、仲間を増やすためにメガネかけてる人を狙ってるんだって」
「よく、事情はわからないですけど……それで私たちはどこに連れて行かれるんですか?」
なんでもメガネかけた人たちが操られて、仲間を増やすためにメガネかけてる人を狙ってるんだって」
「よく、事情はわからないですけど……それで私たちはどこに連れて行かれるんですか?」
ちよの言葉に、ユリは力強く笑う。
「今いくつかできつつある避難所の一つ。
選抜委員も含め、戦う力のある人たちっていうのは限られてるからね。逆に拠点を作って、そこに一般の生徒を集めてまとめて守っちゃおうって話なわけ。
で、選抜委員はそこで拠点防衛するチームと一般のメガネ生徒を助けて運搬するチームに分かれて活動してるの」
選抜委員も含め、戦う力のある人たちっていうのは限られてるからね。逆に拠点を作って、そこに一般の生徒を集めてまとめて守っちゃおうって話なわけ。
で、選抜委員はそこで拠点防衛するチームと一般のメガネ生徒を助けて運搬するチームに分かれて活動してるの」
そこまで言って、ユリはくすりと思い出し笑い。
「大変だったんだから。
ともってば指定された場所に行かなきゃいけないのに『よみの奴は重いから絶対他のみんなに迷惑かけてるんだ』って駄々こねてね。
一刻も早くあなたたちを助けにいきたかったみたいで。
仕方がないからあたしも一緒に指令飛ばしてくるインカム切って、ともの無茶に付き合ってるの」
ともってば指定された場所に行かなきゃいけないのに『よみの奴は重いから絶対他のみんなに迷惑かけてるんだ』って駄々こねてね。
一刻も早くあなたたちを助けにいきたかったみたいで。
仕方がないからあたしも一緒に指令飛ばしてくるインカム切って、ともの無茶に付き合ってるの」
そんな話を聞いて、全部が終わったらとりあえずともをぶん殴ってから夕飯くらいはおごってやろう、と思うよみだった。
***
「如月、こっちだ!」
ポニーテールの少女は、そう叫んだ友人に思い切り背中を押されてアスファルトをころころと転がった。
「って、トモカネあんたなんつー避難のさせ方すんの!?」
「大丈夫か、如月殿」
「大丈夫か、如月殿」
栗色の髪のくせっ毛の少女がその光景にツッコミを入れ、ポニーテール―――キサラギと呼ばれた少女の手を黒髪ロングストレートの少女が取りながら案じる。
あいたたた、と呟きながらキサラギこと山口 如月(やまぐち きさらぎ)は差し出された手をとった。
あいたたた、と呟きながらキサラギこと山口 如月(やまぐち きさらぎ)は差し出された手をとった。
「だ、大丈夫です。ありがとうございますキョージュさん」
ケガがなくてなによりだ、とその言葉に頷く黒髪少女。
ちなみにキョージュというのはあだ名であり本名は大道 雅(おおみち みやび)という。仲間内では誰も本名で呼ばないが。
如月にケガがなさそうだということで力加減を間違ったことを笑いながら謝るトモカネ。ちなみにこれは苗字であり友兼と書く。
ちなみにキョージュというのはあだ名であり本名は大道 雅(おおみち みやび)という。仲間内では誰も本名で呼ばないが。
如月にケガがなさそうだということで力加減を間違ったことを笑いながら謝るトモカネ。ちなみにこれは苗字であり友兼と書く。
「いやー悪い悪い、急がないとと思ったらつい」
「ついって、おまえ如月をアスファルトのでこぼこでおろす気か」
「大根おろしならぬ如月殿おろしか……」
「怖い想像しないでくださいナミコさんキョージュさんっ!?」
「ついって、おまえ如月をアスファルトのでこぼこでおろす気か」
「大根おろしならぬ如月殿おろしか……」
「怖い想像しないでくださいナミコさんキョージュさんっ!?」
半泣きでキョージュとくせっ毛少女・ナミコさんこと野崎 奈三子(のざき なみこ)に叫ぶ如月。
そんな様子を見ながら、路地裏にもぐりこんだ仲間たちの最後の一人が駆け寄ってくる。
そんな様子を見ながら、路地裏にもぐりこんだ仲間たちの最後の一人が駆け寄ってくる。
「ただいまー。みんな、ノダちゃんのお帰りだよー?」
「おうノダ、どうだった?」
「ダメダメうろうろしてるよ。もうちょっとで避難所なのにねー」
「おうノダ、どうだった?」
「ダメダメうろうろしてるよ。もうちょっとで避難所なのにねー」
明るい髪色の髪を派手に結っているその少女は野田 ミキ。
彼女たちは、学校から5人で近くにあるという避難所まで移動するところなのだった。
彼女たちは、学校から5人で近くにあるという避難所まで移動するところなのだった。
5人の学校は、授業終了間際大量のメガネの使徒によるメガネ狩り襲撃を受けた。
ともかくそこから逃げ出した彼女たちは、どこからか雅が聞き出したらしい『この近くに避難所がある』という情報に従って移動している最中なわけである。
運動の苦手な上、俗にいうトロい子な如月はしゅんとしてうつむいた。
ともかくそこから逃げ出した彼女たちは、どこからか雅が聞き出したらしい『この近くに避難所がある』という情報に従って移動している最中なわけである。
運動の苦手な上、俗にいうトロい子な如月はしゅんとしてうつむいた。
「すみません、わたしがトロいばっかりに……」
「気にすんなってそんくらい」
「そーそー、いざとなったらトモカネが如月ちゃん背負ってくからだいじょーぶだいじょーぶ」
「ノダ。ちょっと膝突き合わせて話そうか」
「気にすんなってそんくらい」
「そーそー、いざとなったらトモカネが如月ちゃん背負ってくからだいじょーぶだいじょーぶ」
「ノダ。ちょっと膝突き合わせて話そうか」
ノダの言葉に膝蹴り的な意味でという意味をこめてそう返すトモカネ。
そんなやりとりがいつも通りの光景で、如月は少しだけ緊張をほぐされたように笑う。
そんなやりとりがいつも通りの光景で、如月は少しだけ緊張をほぐされたように笑う。
暴れる子どもたち二人を引き剥がしながら、最年長(といっても月単位レベルだが)のナミコさんがケンカを仲裁する。
「あーはいはい暴れないの。
にしても困ったな、なんとかして避難所まで行きたいんだけどここで行き止まりか……。
雅(マサ)、なんかイイ手思いつかない?」
「すまない」
にしても困ったな、なんとかして避難所まで行きたいんだけどここで行き止まりか……。
雅(マサ)、なんかイイ手思いつかない?」
「すまない」
話を振られたキョージュはノータイムで返答。
頭脳担当のあっさりとした希望を絶つ発言にめげそうになるナミコさん。
そしてそこへ追い討ちをかけるように引き剥がされた子どもたちが口々にしゃべりだす。
頭脳担当のあっさりとした希望を絶つ発言にめげそうになるナミコさん。
そしてそこへ追い討ちをかけるように引き剥がされた子どもたちが口々にしゃべりだす。
「ねーねーナミコさん。空飛んでったらどうかなーとかノダちゃんは思ったりするんだけど。
ほら、追っかけてくる相手ってみんな地面走って来てたでしょー? つまり海と空は安全なんだと思うんだよねー」
「ノダはほんとーに変なとこに観察眼があるな」
「そこは着目点が他の人と違うとかさっすがノダちゃんとか言ってほしいな!」
「はいはいエラいエラい。で、どーやって空飛んでく気?」
「そうだナミコ隊長! 高いトコ上ってパラシュート降下すればいいんじゃねえか!?」
「誰が隊長だ。それでそのパラシュートとやらはどこで用意すればいいんだ?」
ほら、追っかけてくる相手ってみんな地面走って来てたでしょー? つまり海と空は安全なんだと思うんだよねー」
「ノダはほんとーに変なとこに観察眼があるな」
「そこは着目点が他の人と違うとかさっすがノダちゃんとか言ってほしいな!」
「はいはいエラいエラい。で、どーやって空飛んでく気?」
「そうだナミコ隊長! 高いトコ上ってパラシュート降下すればいいんじゃねえか!?」
「誰が隊長だ。それでそのパラシュートとやらはどこで用意すればいいんだ?」
そんなやりとりを横目に見ながら、如月があはは、と困ったように笑った。
「今日は空を見てる余裕がなかったから気づきませんでしたけど、そんなところに気がつくなんてノダちゃん、すごいです」
「でしょー。もっとほめてほめて」
「如月ほめなくていい。図に乗るから」
「あぁでも、空を飛べる道具みたいなものがあったら楽に移動できるんでしょうねぇ……」
「このような?」
「でしょー。もっとほめてほめて」
「如月ほめなくていい。図に乗るから」
「あぁでも、空を飛べる道具みたいなものがあったら楽に移動できるんでしょうねぇ……」
「このような?」
キョージュの声に振り向く如月。
―――そこには、空飛ぶマンタがいた。
あまりのファンタジーな光景に口を酸素不足の金魚みたいにぱくぱくさせる如月。表情にまったく変化のないキョージュ。口をあんぐり開けて言葉を失う他三名。
そんな衝撃事態についていけていない彼女たちに対し、さらにシュールレアリズムは加速度的に進行する。
そんな衝撃事態についていけていない彼女たちに対し、さらにシュールレアリズムは加速度的に進行する。
「へぇ、こんなとこに女の子がごっそりいるとはね」
「マンタさんがしゃべりましたよ!?」
「空を飛ぶ上人語を解し発声する海産物。学園都市産か?」
「なるほど、さすがはトンでも科学学園だな!」
「これは今度の交換学生制度でGAに来るって生徒が楽しみだね!」
「おまえらどこまで本気なんだ。特に雅」
「マンタさんがしゃべりましたよ!?」
「空を飛ぶ上人語を解し発声する海産物。学園都市産か?」
「なるほど、さすがはトンでも科学学園だな!」
「これは今度の交換学生制度でGAに来るって生徒が楽しみだね!」
「おまえらどこまで本気なんだ。特に雅」
ストッパーナミコさんの日ごろの苦労が伺える発言。
そんなやりとりに興味を持ったのか、ビルの3階くらいの高さに滞空していたマンタはゆったりとした動きで降下してくる。
よく見れば、そのマンタの背中には一人の少女がいた。思えばさっきのマンタの声は、このくらいの年頃の女の子の声だったようにも思える。
そんなやりとりに興味を持ったのか、ビルの3階くらいの高さに滞空していたマンタはゆったりとした動きで降下してくる。
よく見れば、そのマンタの背中には一人の少女がいた。思えばさっきのマンタの声は、このくらいの年頃の女の子の声だったようにも思える。
よく見れば、そのマンタの背中には一人の少女がいた。思えばさっきのマンタの声は、このくらいの年頃の女の子の声だったようにも思える。
制服は麻帆良学園中等部のもの。特徴的な触角のような髪が生えている頭。
特注のものなのかフリルのついた前掛けと、脇にはスケッチブックと羽ペン。スケッチブックのリングには鎖で繋がれた丸フラスコ型のインク壺がある。
少女は、あれ? と首を傾げた。
制服は麻帆良学園中等部のもの。特徴的な触角のような髪が生えている頭。
特注のものなのかフリルのついた前掛けと、脇にはスケッチブックと羽ペン。スケッチブックのリングには鎖で繋がれた丸フラスコ型のインク壺がある。
少女は、あれ? と首を傾げた。
「その制服彩井学園の高等部だよね、おねーさんたち」
「おうよまほ中生。一人中学生みたいなの混じってるがな!」
「トモカネー、それはケンカ販売してるのかな?」
「よしなさいノダ。
で、えーと一応聞きたいんだけど。空飛んで現れたあなたはゾンビの味方? あたしらの味方?」
「おうよまほ中生。一人中学生みたいなの混じってるがな!」
「トモカネー、それはケンカ販売してるのかな?」
「よしなさいノダ。
で、えーと一応聞きたいんだけど。空飛んで現れたあなたはゾンビの味方? あたしらの味方?」
ナミコさんの質問に、少女はあっけらかんとした笑みで答える。
「ロボットと魔法使いと幽霊の知り合いはいるけど、さすがにゾンビとは知り合いじゃないね。
私は麻帆良学園中等部3-Aの早乙女 ハルナ。おねーさんたちは?」
「彩井学園一年芸術科Aクラス、大道雅」
「同じくGA一年野田ミキちゃんだよー。ここ大事だけど高校生だからね! おねーさんだからね!」
「そこまで強調することかい。
あたしは野崎奈三子。一応他も全員GAの一年だ」
「オレは友兼」
「山口如月です。みなさん如月って呼んでくれます」
私は麻帆良学園中等部3-Aの早乙女 ハルナ。おねーさんたちは?」
「彩井学園一年芸術科Aクラス、大道雅」
「同じくGA一年野田ミキちゃんだよー。ここ大事だけど高校生だからね! おねーさんだからね!」
「そこまで強調することかい。
あたしは野崎奈三子。一応他も全員GAの一年だ」
「オレは友兼」
「山口如月です。みなさん如月って呼んでくれます」
芸術科の生徒さん、と驚いたように目を丸くして、ハルナは動きを止めた。
そんな彼女を胡乱げな目で見ながらナミコさんは問いかける。
「あたしたちは一応ゾンビ集団から逃げてきたとこなワケだけど、早乙女さんはどうしてまたそんな目立つもんで空飛びまわってたの?」
「へ? あぁ、その理由だったら簡単だよ。
私はこの近くの避難所から来てるの。避難所の近くにはメガネゾンビがいっぱいいるから、自力で逃げ出してきた人たちが捕まっちゃいやすいんだよね。
そんな人たちが捕まる前に逆にこっちで捕獲して、避難所まで安全に送り届けようって作戦なわけ」
「なるほど! つまり今の状況そのままってことだね!」
「ナイスタイミングだぜ。まるで映画みてーだな」
「パニックホラー系の映画では安心しきった時にこそ危機がくるのが定石だな」
「そういうこと言わない。ほんとにありえそうな気がしてくるでしょーが」
「へ? あぁ、その理由だったら簡単だよ。
私はこの近くの避難所から来てるの。避難所の近くにはメガネゾンビがいっぱいいるから、自力で逃げ出してきた人たちが捕まっちゃいやすいんだよね。
そんな人たちが捕まる前に逆にこっちで捕獲して、避難所まで安全に送り届けようって作戦なわけ」
「なるほど! つまり今の状況そのままってことだね!」
「ナイスタイミングだぜ。まるで映画みてーだな」
「パニックホラー系の映画では安心しきった時にこそ危機がくるのが定石だな」
「そういうこと言わない。ほんとにありえそうな気がしてくるでしょーが」
ほっとしたのか軽口を叩く面々。
そんな勝手な奴らを横目に、如月はハルナに話しかける。
そんな勝手な奴らを横目に、如月はハルナに話しかける。
「助かりました。私たちなんとか避難所に行こうとしてたところで……」
「なるほどねー。まーま、とりあえず乗ってよ。そろそろ気づかれちゃうだろうし、私も早く離陸しちゃいたいしね」
「なるほどねー。まーま、とりあえず乗ってよ。そろそろ気づかれちゃうだろうし、私も早く離陸しちゃいたいしね」
と目線をGA組の後ろの方に向けるハルナ。
そちらの方を見れば、空飛ぶマンタに引き寄せられたのか目の光のないメガネの学生たちがメガネ、メガネと言ってゆらゆら体を揺らしながら群れを成してきていた。
現状を理解し、5人は奇声を上げながらぴょいぴょいとマンタに飛び乗っていく。
最後の如月がキョージュとナミコさんに引きずりあげられ、ハルナがマンタを離陸させた直後。
一人のメガネの使徒がマンタのしっぽを掴んで空へ付いていこうとし、
そちらの方を見れば、空飛ぶマンタに引き寄せられたのか目の光のないメガネの学生たちがメガネ、メガネと言ってゆらゆら体を揺らしながら群れを成してきていた。
現状を理解し、5人は奇声を上げながらぴょいぴょいとマンタに飛び乗っていく。
最後の如月がキョージュとナミコさんに引きずりあげられ、ハルナがマンタを離陸させた直後。
一人のメガネの使徒がマンタのしっぽを掴んで空へ付いていこうとし、
「お前はついてくんなっ!!」
トモカネの見事なヤクザキック(一般的に言う前蹴り)を顔面に受け、彼は落下した。
離陸直後だったためそれほど高さもない。あの分なら命に別状はないだろう。
直後、マンタの羽ばたきが地面に風を叩きつけて揚力を得、上昇。風に打たれたメガネの使徒たちは体勢を崩してそのマンタを見送った。
うまく空へ逃れられたことで安心したのか、脱力する一同。
離陸直後だったためそれほど高さもない。あの分なら命に別状はないだろう。
直後、マンタの羽ばたきが地面に風を叩きつけて揚力を得、上昇。風に打たれたメガネの使徒たちは体勢を崩してそのマンタを見送った。
うまく空へ逃れられたことで安心したのか、脱力する一同。
「トモカネよくやった」
「すごかったよー。さすがは破壊神トモカネー」
「なんだよそのダメっぽいロボみたいなあだ名!?」
「わーっ!? ちょちょちょ、あんまり暴れないでここ空中なんだからーっ!?」
「すごかったよー。さすがは破壊神トモカネー」
「なんだよそのダメっぽいロボみたいなあだ名!?」
「わーっ!? ちょちょちょ、あんまり暴れないでここ空中なんだからーっ!?」
マンタが搭乗者の動きに煽られぐにゃんぐにゃんと不規則に揺れる。
そのせいで如月が放り出されかけるが見事にキョージュが彼女と飛びかけたメガネをキャッチした。
しばらくして彼女たちはようやくおちついて息をつく。
そうして下を見れば、いつもみんなと肩を歩く街並みがある。
うわぁ、と如月が感じ入ったような声を上げた。
そのせいで如月が放り出されかけるが見事にキョージュが彼女と飛びかけたメガネをキャッチした。
しばらくして彼女たちはようやくおちついて息をつく。
そうして下を見れば、いつもみんなと肩を歩く街並みがある。
うわぁ、と如月が感じ入ったような声を上げた。
「すごいです……まるでモザイク絵みたい」
「あぁ、そういう風にも見えるよね。あたしもちぎり絵に見えるー」
「様々な色の建物が無作為に置かれている状態を俯瞰して観察することにより、何がしかの作為を見出そうという脳の補整機能の結果と思われる。
ともあれ、これは壮観だな」
「眉一つ動かさず言われてもあんまり感動してるように思えないんだけど」
「そうか。これでも相当驚いているのだが」
「キョージュはあんまり表情出ないからなー」
「あぁ、そういう風にも見えるよね。あたしもちぎり絵に見えるー」
「様々な色の建物が無作為に置かれている状態を俯瞰して観察することにより、何がしかの作為を見出そうという脳の補整機能の結果と思われる。
ともあれ、これは壮観だな」
「眉一つ動かさず言われてもあんまり感動してるように思えないんだけど」
「そうか。これでも相当驚いているのだが」
「キョージュはあんまり表情出ないからなー」
そんないつものやり取りの5人を見て、くすりとハルナが笑う。
「ほんとにおねーさんたち芸術科の学生さんなんだね」
「はい。……そういえば早乙女さんもスケブ持ってますよね。絵を描くのがお好きなんですか?」
「好きには好きなんだけどーこう、『げーじゅつ』って感じよりはもっと娯楽よりな感じ? 漫画家的な?」
「漫画家さんなんですか。漫画も構図とか人体把握とか動きとか表情とか背景とか、色々と難しい世界なんだって伺ってます」
「うは。そーゆー誉められかたするのは初めてだわ、さすがは芸術家の卵!」
「ちちち違いますそんな大層なものではっ……!」
「はい。……そういえば早乙女さんもスケブ持ってますよね。絵を描くのがお好きなんですか?」
「好きには好きなんだけどーこう、『げーじゅつ』って感じよりはもっと娯楽よりな感じ? 漫画家的な?」
「漫画家さんなんですか。漫画も構図とか人体把握とか動きとか表情とか背景とか、色々と難しい世界なんだって伺ってます」
「うは。そーゆー誉められかたするのは初めてだわ、さすがは芸術家の卵!」
「ちちち違いますそんな大層なものではっ……!」
誉められて照れたハルナが誉め返し、一気に恐縮してしまう如月。
そんな年上の少女を見て、ハルナは内心好ましく思う。どこか彼女がハルナの友人の一人に似ているところも好ましさに拍車をかけているような気がする。
そのままごそりと前掛けのポケットの手をつっこんで、ふと気づく。
そんな年上の少女を見て、ハルナは内心好ましく思う。どこか彼女がハルナの友人の一人に似ているところも好ましさに拍車をかけているような気がする。
そのままごそりと前掛けのポケットの手をつっこんで、ふと気づく。
「ありゃりゃ、これはまたちょーどいいものが」
「どうかしました?」
「そのポケットが四次元ポケットだったことに気がついたとかー」
「ポケットを叩いたらビスケットが割れてたとかー」
「猫型ロボットなようには見えないが」
「昔懐かしい歌のモデルでもないと思うけど」
「あーいやいや。これから避難所に行くわけなんだけど―――おねーさんたちにもちょっと活躍してもらおーかと思ってね?」
「どうかしました?」
「そのポケットが四次元ポケットだったことに気がついたとかー」
「ポケットを叩いたらビスケットが割れてたとかー」
「猫型ロボットなようには見えないが」
「昔懐かしい歌のモデルでもないと思うけど」
「あーいやいや。これから避難所に行くわけなんだけど―――おねーさんたちにもちょっと活躍してもらおーかと思ってね?」
悪だくみした少女の笑みに、五人は揃って疑問符を浮かべたのだった。
***
高い外壁に囲われた避難所の一つ。
航空手段のあるものたちは空へ駆けて避難民を集め回り、選抜委員や特殊なスキル・アイテムを保有する者たちはメガネの使徒の進行を防いでいる。
具体的には、
航空手段のあるものたちは空へ駆けて避難民を集め回り、選抜委員や特殊なスキル・アイテムを保有する者たちはメガネの使徒の進行を防いでいる。
具体的には、
「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ!」
「アネット・ティ・ネット・ガーネット!」
「「魔法の射手(サギタ・マギカ)・戒めの風矢(アエール・カプトゥーラエ)!!」」
「23番閃光弾と28番煙幕弾もっと持ってきてー! 奴ら視覚で認識してるから目潰しは有効みたいだよん!」
「みんな行くのだー! 奇めーん、フラッシュ!」
「……『トンネル』」
「イエス・アマゾネス!!」
「くっ、しまった。……うむ、こういう時こそ―――『猛虎落地勢』ー!」
「風神、突風くらいで出力調整!」
「我は紡ぐ光輪の鎧!」
「うにうにうにうにうにうにうにうにうにうに―――っ!!」
「チェーンバインド! で、ついでにそっちにはストラグルバインド!」
「ゴム弾だから痛くないもん!!」
「まずケガをさせるようなもんを撃つなって言ってんだよ!?」
「オレ様の筋肉に酔いな―――<プロヴォック>!!」
「……『トンネル』」
「みんなー! そろそろみんなのアイドルLUNARちゃんの『戦いの歌』、はっじまっるよー!!」
「若はわたしが守ります―――呪いの吹雪・『雪山殺し』!」
「斬るしかできん奴はこういう時に役に立たんな……えぇい縛道の一、『塞』っ!」
「ふもっふ! ふもも、ふももっふー!」
「バケツマン二号、参上です!」
「知識の、ハンマぁぁぁぁぁっ!」
「食らえ真鍮ダイスー!!」
「をっほっほっほ!! わたくしが手ずから用意した即席ながらのトラップ地帯っ、抜けられるものなら抜けてみるがいいですわー!!」
「でたー! 星弓刻人のジャイアントスイングだー!」
「はいはい開発部謹製スタンロッドならぬスタン竹刀だよー。これで思うさま叩いて落としてきてね 珠姫ちゃん(きりこみたいちょー)!」
「……『トンネル』」
「アネット・ティ・ネット・ガーネット!」
「「魔法の射手(サギタ・マギカ)・戒めの風矢(アエール・カプトゥーラエ)!!」」
「23番閃光弾と28番煙幕弾もっと持ってきてー! 奴ら視覚で認識してるから目潰しは有効みたいだよん!」
「みんな行くのだー! 奇めーん、フラッシュ!」
「……『トンネル』」
「イエス・アマゾネス!!」
「くっ、しまった。……うむ、こういう時こそ―――『猛虎落地勢』ー!」
「風神、突風くらいで出力調整!」
「我は紡ぐ光輪の鎧!」
「うにうにうにうにうにうにうにうにうにうに―――っ!!」
「チェーンバインド! で、ついでにそっちにはストラグルバインド!」
「ゴム弾だから痛くないもん!!」
「まずケガをさせるようなもんを撃つなって言ってんだよ!?」
「オレ様の筋肉に酔いな―――<プロヴォック>!!」
「……『トンネル』」
「みんなー! そろそろみんなのアイドルLUNARちゃんの『戦いの歌』、はっじまっるよー!!」
「若はわたしが守ります―――呪いの吹雪・『雪山殺し』!」
「斬るしかできん奴はこういう時に役に立たんな……えぇい縛道の一、『塞』っ!」
「ふもっふ! ふもも、ふももっふー!」
「バケツマン二号、参上です!」
「知識の、ハンマぁぁぁぁぁっ!」
「食らえ真鍮ダイスー!!」
「をっほっほっほ!! わたくしが手ずから用意した即席ながらのトラップ地帯っ、抜けられるものなら抜けてみるがいいですわー!!」
「でたー! 星弓刻人のジャイアントスイングだー!」
「はいはい開発部謹製スタンロッドならぬスタン竹刀だよー。これで思うさま叩いて落としてきてね 珠姫ちゃん(きりこみたいちょー)!」
「……『トンネル』」
……とまぁ、こんな感じである。
人が集まれば当然戦える人間も増える、のだが。
対人殺傷力が高すぎる者はケガをさせずに足止めなんて器用なことができなかったりするし、攻撃一発が城塞破壊級の人間は論外。そもそも能力を隠している者もいる。
ともあれ、そんな彼らは選抜委員の物資運搬の手伝いを進んでやっていたり、高い場所から人外視力で現状報告をしていたりもするのだった。
人が集まれば当然戦える人間も増える、のだが。
対人殺傷力が高すぎる者はケガをさせずに足止めなんて器用なことができなかったりするし、攻撃一発が城塞破壊級の人間は論外。そもそも能力を隠している者もいる。
ともあれ、そんな彼らは選抜委員の物資運搬の手伝いを進んでやっていたり、高い場所から人外視力で現状報告をしていたりもするのだった。
そんな避難所の中にたどり着いた、空を泳ぐマンタ。
ハルナは五人を避難所内部の一般生徒待合い場ではなく、前線に向かう人間たちの詰め所へと連れて行く。
ちなみに彼女たちの様子はといえば、物騒な空気におろおろしっぱなしの如月。お祭り騒ぎに心浮かれるノダ。
戦闘に目を奪われているトモカネ。胡乱げなナミコさん。無表情のキョージュと、見事に全員バラバラなのだった。
ハルナは五人を避難所内部の一般生徒待合い場ではなく、前線に向かう人間たちの詰め所へと連れて行く。
ちなみに彼女たちの様子はといえば、物騒な空気におろおろしっぱなしの如月。お祭り騒ぎに心浮かれるノダ。
戦闘に目を奪われているトモカネ。胡乱げなナミコさん。無表情のキョージュと、見事に全員バラバラなのだった。
ともあれそんな怒号が飛び交う中を一つのテーブルに陣取り、五人に座るよう促した後ハルナはしばらく席を外し、2分ほどして戻ってきた。
「おっまたせー! 作戦の許可取ってきたよん」
「いや、作戦とか言われても……正直、なんの説明もないから何をすればいいのかわかんないんだけど」
「はいっ! オレ尚敬高の士魂号に乗りたいです!」
「パイロット適正がない奴は黙ってなさい」
「なんだよ、ないかどうかは乗ってみないとわかんないだろー?」
「トモカネ殿。尚敬高校の生徒はこの第2避難所にはいないらしい。彼らがいるのは第5避難所だそうだ」
「そっかー、それじゃーダメだな。残念」
「いや、作戦とか言われても……正直、なんの説明もないから何をすればいいのかわかんないんだけど」
「はいっ! オレ尚敬高の士魂号に乗りたいです!」
「パイロット適正がない奴は黙ってなさい」
「なんだよ、ないかどうかは乗ってみないとわかんないだろー?」
「トモカネ殿。尚敬高校の生徒はこの第2避難所にはいないらしい。彼らがいるのは第5避難所だそうだ」
「そっかー、それじゃーダメだな。残念」
そんなやりとりを見ながら、そのこと話したっけ? と内心首を傾げるハルナ。
キョージュはここに来てから誰とも言葉を交わしていないがどうやってそれを知ったのか。
ハルナの疑問を知ってか知らずか、如月が話の流れを変えた。
キョージュはここに来てから誰とも言葉を交わしていないがどうやってそれを知ったのか。
ハルナの疑問を知ってか知らずか、如月が話の流れを変えた。
「あの、それで早乙女さん。私たちができることってなんでしょう?
お手伝いできることならさせてもらいたいですけど、私たち特別な力があるわけじゃないですし、そんなに体力があるわけでもないですし……」
「ん? あーあー、なに言ってんのおねーさん。
自分だけが持ってる『チカラ』、否定しちゃもったいないよ?」
お手伝いできることならさせてもらいたいですけど、私たち特別な力があるわけじゃないですし、そんなに体力があるわけでもないですし……」
「ん? あーあー、なに言ってんのおねーさん。
自分だけが持ってる『チカラ』、否定しちゃもったいないよ?」
年下の少女がウィンク交じりに言った激励の言葉に、顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせる如月。
そんな同級生の将来を不安に思いつつ、頭を押さえてナミコさんがたずねる。
そんな同級生の将来を不安に思いつつ、頭を押さえてナミコさんがたずねる。
「ただでさえあんまり自分に自信ない子だからそういうこと言ってくれるのはうれしいんだけどさ。
結局なにができるかについては言ってないよな」
「ゴメンゴメーン。
話は簡単だよ。おねーさんたちの『チカラ』、絵を描く力ってのを借りたいんだよね」
結局なにができるかについては言ってないよな」
「ゴメンゴメーン。
話は簡単だよ。おねーさんたちの『チカラ』、絵を描く力ってのを借りたいんだよね」
そう言いながら、ハルナはポケットから(どういう理屈かポケットの方が小さかったのは気にしない方向で)現代人ならば誰もが見たことのある箱を取り出した。
外装にはカラフルな絵といくつものえんぴつの絵が描かれており、かなりファンシーな雰囲気をかもし出している。
空気が凍りついたように一瞬静かになり、如月がその物体の名前をつぶやいた。
外装にはカラフルな絵といくつものえんぴつの絵が描かれており、かなりファンシーな雰囲気をかもし出している。
空気が凍りついたように一瞬静かになり、如月がその物体の名前をつぶやいた。
「……色えんぴつ、ですか?」
「惜しい。正解は『魔法の色えんぴつ』なんだー」
「惜しい。正解は『魔法の色えんぴつ』なんだー」
楽しそうにそう言って、ハルナは再びウィンクした。
***
『この色えんぴつ、描いたものが本物になって出てくるの。
もともとはあるアーティファクトを研究してた開発部の人が手慰みに作ったおもちゃみたいな代物らしいんだけどね?
本物と違って効果時間はだいたい10分。簡単な命令しか聞けない上、水がかかったらただの色水になっちゃう。
けどね?』
もともとはあるアーティファクトを研究してた開発部の人が手慰みに作ったおもちゃみたいな代物らしいんだけどね?
本物と違って効果時間はだいたい10分。簡単な命令しか聞けない上、水がかかったらただの色水になっちゃう。
けどね?』
「これを使って絵描きさんにたくさん絵を描いてもらえば、足を止めることはできるんじゃないかなってか。
……まったく簡単に言ってくれるねぇ、あの子」
……まったく簡単に言ってくれるねぇ、あの子」
そうボヤいたのはナミコさん。
五人は今、ハルナと別れて避難所の外壁の上に立っていた。
今回の相手は『知性がないかのようにまっすぐメガネをかけた人間を追いかけてくるメガネの人間』だ。
相手がどんな能力を持っていても、何かに意識をのっとられているように愚直なまでにまっすぐにただ前進するのみ。
ならば、どんな単純な足止めでも効力は見込めるはず。
ハルナはその『単純な足止め』を作る魔法の色えんぴつを彼女たちに貸し与え、自分は空飛ぶマンタに乗り、再び空からかくまえそうな相手を探すとのこと。
トモカネがつぶやく。
五人は今、ハルナと別れて避難所の外壁の上に立っていた。
今回の相手は『知性がないかのようにまっすぐメガネをかけた人間を追いかけてくるメガネの人間』だ。
相手がどんな能力を持っていても、何かに意識をのっとられているように愚直なまでにまっすぐにただ前進するのみ。
ならば、どんな単純な足止めでも効力は見込めるはず。
ハルナはその『単純な足止め』を作る魔法の色えんぴつを彼女たちに貸し与え、自分は空飛ぶマンタに乗り、再び空からかくまえそうな相手を探すとのこと。
トモカネがつぶやく。
「足止めできそーなものっていうと……虎ばさみとか?」
「ねずみ取りとか!」
「だ、ダメですよお二人とも。相手の方が大ケガしちゃいます!」
「鋼鉄の処女などはどうだろう」
「雅、足止めじゃなくて拷問器具の話になってるから」
「ねずみ取りとか!」
「だ、ダメですよお二人とも。相手の方が大ケガしちゃいます!」
「鋼鉄の処女などはどうだろう」
「雅、足止めじゃなくて拷問器具の話になってるから」
一通りのやり取りをすると、トモカネがなんだよー、と唇をとがらせて如月に反論する。
「じゃあ如月はなんか思いついてるのか? 相手を大ケガさせない足止めの方法」
「えぇっ!? あ、足止め、足止め足止め足止め……だ、ダメですっ!
わたしこういう状況あせっちゃって何も思いつかなくなっちゃうんですよぅ……っ!」
「えぇっ!? あ、足止め、足止め足止め足止め……だ、ダメですっ!
わたしこういう状況あせっちゃって何も思いつかなくなっちゃうんですよぅ……っ!」
ものすごいテンパりを見せている如月の肩に、キョージュがぽんと手を置いた。
キョージュさん? と首をかしげてそちらを見る如月に、表情ひとつ変えず彼女は言う。
キョージュさん? と首をかしげてそちらを見る如月に、表情ひとつ変えず彼女は言う。
「如月殿。デザインとは機能性と効果を発揮できる形であることが最優先事項だ。
つまり足止めの効果が期待できるデザインを、この色えんぴつで描く。そんなデザインの授業だと思えばいい」
「で、デザインの授業、ですか?」
「そうだ。そしてデザインは日々の『気づき』の中から生まれることも多い」
つまり足止めの効果が期待できるデザインを、この色えんぴつで描く。そんなデザインの授業だと思えばいい」
「で、デザインの授業、ですか?」
「そうだ。そしてデザインは日々の『気づき』の中から生まれることも多い」
もしもこんなものがあったらいいのに、というアイデアは形になった時に同じことを考えていた人間に働きかける需要を生み出す。
彼女たちは今、アイデアを形にしてくれる魔法の道具を持っているのだ、あとは創造して自分の心からスケブにひきずり上げるだけ。
さっすがキョージュ、いいこと言うね。と言いながら、如月の顔をのぞきこみつつノダがその先を続けた。
彼女たちは今、アイデアを形にしてくれる魔法の道具を持っているのだ、あとは創造して自分の心からスケブにひきずり上げるだけ。
さっすがキョージュ、いいこと言うね。と言いながら、如月の顔をのぞきこみつつノダがその先を続けた。
「如月ちゃんはさ、何か『こんなのが目の前にあったら困るなー』って思うものない?
歩く邪魔になったりとか、歩く意欲がなくなったりするもの。それを描けばいいんじゃない?」
「目の前にあったら、困るもの……」
歩く邪魔になったりとか、歩く意欲がなくなったりするもの。それを描けばいいんじゃない?」
「目の前にあったら、困るもの……」
そう言われて、如月は日々の生活の中の困ったことを思い出し―――実に唐突にその答えにたどり着いた。
如月の瞳からハイライトが消える。
彼女がその答えに行き着いたと同時、ラグなしで駆け巡る衝動。
内部を新しい機構が作り変えていくような感覚とともに、色えんぴつを握った手が頭と直結するように滑らかに動く。
如月の瞳からハイライトが消える。
彼女がその答えに行き着いたと同時、ラグなしで駆け巡る衝動。
内部を新しい機構が作り変えていくような感覚とともに、色えんぴつを握った手が頭と直結するように滑らかに動く。
そう。まさにその身は今、ただひたすらにその絵を描くためだけに作り変えられたただ一個の製造機械のように―――!
超高速で動く如月の指先から生まれたそれは、スケッチブックからぴょん、と飛び出す。
それをあっけにとられたように一同が見ている中、そいつは一言……『にゃあ』と鳴いた。
鳴いたそいつを見て、ナミコさんがつぶやく。
それをあっけにとられたように一同が見ている中、そいつは一言……『にゃあ』と鳴いた。
鳴いたそいつを見て、ナミコさんがつぶやく。
「えーと、これって……」
「『素猫(すねこ)』、じゃない?」
「素猫だろうな」
「『素猫(すねこ)』、じゃない?」
「素猫だろうな」
答えたのはノダとキョージュだった。
『素猫』。
もともとは漢字の読み間違いから始まった如月の想像上の生物であり、内情はただの猫である。
キョージュがさらに解説に動いた。
『素猫』。
もともとは漢字の読み間違いから始まった如月の想像上の生物であり、内情はただの猫である。
キョージュがさらに解説に動いた。
「おそらく、如月殿が街を歩いているときに猫が見えたらそこで足を止めてしまうことにヒントを得たのだろう」
「いやでもこれでどーやって足止めを……」
「意外と効果が出ているようだが」
「いやでもこれでどーやって足止めを……」
「意外と効果が出ているようだが」
そう言ってキョージュが指す先には、如月が秒間3匹くらいのペースで生み出し続けている素猫が、雪崩のように群れを成してメガネの使徒を襲っている光景があった。
襲っている、といっても噛み付いたりしているわけではない。
群れでとびかかって視界を押さえたり、ざらざらした舌でなめたり、動きを押さえつけて止めたりしているだけである。
メガネの使徒の最大の武器である『数』を、簡素な絵でも圧倒的な作画ペースで凌駕しているわけなのであった。
うぉぉ、とトモカネがうなる。
襲っている、といっても噛み付いたりしているわけではない。
群れでとびかかって視界を押さえたり、ざらざらした舌でなめたり、動きを押さえつけて止めたりしているだけである。
メガネの使徒の最大の武器である『数』を、簡素な絵でも圧倒的な作画ペースで凌駕しているわけなのであった。
うぉぉ、とトモカネがうなる。
「如月、あれ完全に量産体制に移行してるぞ。トランス状態のあいつってある意味最強なんだよな」
「トモカネトモカネー、あたしも思いついたよー?」
「トモカネトモカネー、あたしも思いついたよー?」
と言いながらトモカネの隣に立っているノダがスケブに色えんぴつの原色ピンクを走らせる。
ノダちゃんパッションフルール! と言いながら彼女が色えんぴつをスケブから離す。
そこから大量のド派手なパッションピンクカラーの花びらが噴出し、波のようにメガネの使徒たちを飲み込んで押し流した。
ノダちゃんパッションフルール! と言いながら彼女が色えんぴつをスケブから離す。
そこから大量のド派手なパッションピンクカラーの花びらが噴出し、波のようにメガネの使徒たちを飲み込んで押し流した。
それを見て創作意欲が刺激されたのか、トモカネも一本の色えんぴつを手に取る。
「負けねーぞノダ! どっちがいっぱい足止めできたか勝負だ!
食らえオレの魂の足止めマシーン……『地獄の自動千本ノックアタッカー』!」
食らえオレの魂の足止めマシーン……『地獄の自動千本ノックアタッカー』!」
そう言った彼女のスケブからにゅるんと生まれたのは、野球盤のバットとピッチングマシーンを合体させたような代物だった。
ななめ下から軽くピッチングマシーンが放った硬球を、バネ仕掛けのバットが勢いよく打ち抜いて球をがんがんとメガネの使徒たちにぶち当てていく。
そんなカオスな光景を眺めながら、ナミコさんがタメ息ひとつ。
ななめ下から軽くピッチングマシーンが放った硬球を、バネ仕掛けのバットが勢いよく打ち抜いて球をがんがんとメガネの使徒たちにぶち当てていく。
そんなカオスな光景を眺めながら、ナミコさんがタメ息ひとつ。
「ノってるなぁ……ま、こういう時にはあいつらの暴走も心強いんだけどさぁ、よっと!」
と言いながら、彼女は自分のスケブにさらさらと描いたトリモチで数人の動きを封じ、金だらいを上から出現させて昏倒させる。
彼女もこれでけっこうこの状況を楽しく思っているようだ。
創作物が形を得て誰かに影響を及ぼすのを楽しく思わない製作者はいないということだろう。
そんな、実にカオスな空間になっていくのを楽しく思いながら、ふとナミコさんが隣のキョージュに目を移すと。
彼女もこれでけっこうこの状況を楽しく思っているようだ。
創作物が形を得て誰かに影響を及ぼすのを楽しく思わない製作者はいないということだろう。
そんな、実にカオスな空間になっていくのを楽しく思いながら、ふとナミコさんが隣のキョージュに目を移すと。
―――彼女のスケブからは、それはそれはおどろおどろしい粘性の黒い黒い光の一点すらも通さないほど黒い塊がずるりずるりと這い出るように―――
「ま、雅ーっ!? おま、これ、一体ぜんたい何を生み出したんだよっ!?」
「……これほど大きなものになるとは思わなかったが、なかなかいい出来だな」
「納得してないで説明をっ!
てゆーか黒い色えんぴつもう長さ半分になってるしっ! あの名状しがたいナニカを作るのにどんだけ消費したのアンタ!?」
「……これほど大きなものになるとは思わなかったが、なかなかいい出来だな」
「納得してないで説明をっ!
てゆーか黒い色えんぴつもう長さ半分になってるしっ! あの名状しがたいナニカを作るのにどんだけ消費したのアンタ!?」
花びらと猫と硬球と黒い何かがあふれかえる大変カオスな空間の中、ナミコさんの叫び声が響き渡った。
***
たくさんの人々が、己の友を守るため、自分の仲間と共にあるため、自身の信念を貫くために、メガネの使徒の大攻勢を押しとどめている。
その抵抗はけして無駄ではないだろう。
しかしそれも時間稼ぎ以上のものにはなりえない。
いかに戦う力があろうとも、相手は理性がない代わりに痛みも感じない。
避難所に集う守護者たちはと言えば、どんどん増えていく守るべきものを守るために境界線を死守せねばならない。
それはつまり、相手を一歩も線より先に進ませない覚悟を持った消耗戦。
線を構成する内の一点でも崩れれば、必ずそこを狙われる。
底が見えてくればくるほど重くのしかかるプレッシャー。
いつになったら終わるのか、というゴールの見えないマラソンをさせられている感覚は、その圧力をさらに重く感じさせる。
その抵抗はけして無駄ではないだろう。
しかしそれも時間稼ぎ以上のものにはなりえない。
いかに戦う力があろうとも、相手は理性がない代わりに痛みも感じない。
避難所に集う守護者たちはと言えば、どんどん増えていく守るべきものを守るために境界線を死守せねばならない。
それはつまり、相手を一歩も線より先に進ませない覚悟を持った消耗戦。
線を構成する内の一点でも崩れれば、必ずそこを狙われる。
底が見えてくればくるほど重くのしかかるプレッシャー。
いつになったら終わるのか、というゴールの見えないマラソンをさせられている感覚は、その圧力をさらに重く感じさせる。
重くなった気がする体に鞭打ち、一人の選抜委員がその重さを空へと吐き出すために上を見上げ。
思わず、息をつくのも忘れて見つけたものへの驚きが声帯を振るわせた。
思わず、息をつくのも忘れて見つけたものへの驚きが声帯を振るわせた。
上空。
文句のない蒼穹を引き裂くように。
青白い光が、軌跡を残光に引きながらただ一直線に伸びる。伸び続けている。
見つけたそれが、まるで全ての重さを引き受けたかのように感じた。
全てのプレッシャーを引き受けて、その代わりに希望と燃えるように戦う意思を振りまいているかのように。
文句のない蒼穹を引き裂くように。
青白い光が、軌跡を残光に引きながらただ一直線に伸びる。伸び続けている。
見つけたそれが、まるで全ての重さを引き受けたかのように感じた。
全てのプレッシャーを引き受けて、その代わりに希望と燃えるように戦う意思を振りまいているかのように。
そうして、選抜委員は再び戦場に戻る。
あれが出たのならゴールが近いと確定したと言わんばかりに。
乾いた笑いを皮肉気な笑みにのせ、湧き上がる高揚感と共に。
あれが。
あれこそは世界の敵の天敵だと。
それと共に同じ敵に相対していることに歓喜と魂からの武者震いを感じながら。
あれが出たのならゴールが近いと確定したと言わんばかりに。
乾いた笑いを皮肉気な笑みにのせ、湧き上がる高揚感と共に。
あれが。
あれこそは世界の敵の天敵だと。
それと共に同じ敵に相対していることに歓喜と魂からの武者震いを感じながら。
―――抵抗は、今も続いている。
<幕間4・了>