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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第03話01

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ぐらすうぉーず


 新八は走っていた。
 途中から崩れ落ちる建物の中を、一心不乱に走っていた。

「……今日はもうフルマラソンくらい走ってるような気がするな」
「その感想には実に同意ですけどっ、口を動かすヒマがあったらその分足を動かすべきだと、思いますっ!」

 その割には長台詞を叫びまくりながら走り続けているわけだが。彼のツッコミ魂に乾杯。
 そんな新八を横目で見ながら、男子の全力疾走についていっている穂群原学園陸上部所属の氷室は、こんな時もアイロニーなブラックジョークを忘れない。

「知っているかね? マラソンは結構死亡率の高いスポーツなのだそうだ。
 ひとつの大会で4人が死んだなどという話もあるそうでな」
「なんで今!? なんで今『本当は怖いマラソン』話!? それ今本当に必要なことかちょっと考えましょうっ!?」
「今やっていることの危険性を確認するというのは、危機管理上実に大切なことだぞ」
「そんなこと考えてるヒマがあったら足動かせってんですよォォォォ!?」

 崩れていく音は頭上から。
 まるで鳥の雛が卵の殻を破るように。
 がつりがつりと重く硬い音と共に建物に激震が走っていく。
 コンクリートのブロックをなんとか回避しながら、半分回転レシーブ的な転がり方をしながら入り口から出た二人。

「で、出たっ!」
「何を安堵の息をついている、こっちだ!」

 氷室が言うが早いか新八の手をつかんで引き寄せる。
 刹那の差で鉄筋コンクリが地味メガネの背後を落下しアスファルトの舗装を砕き崩した。

「まだ終わっていないぞ、走れ! これはおそらく……」
「こ、これはおそらくなんですかっ!?」

 言いながら、新八は再び自分の足で地面を踏み蹴った。
 氷室はメガネを上げながら、額に汗を浮かべながら、不敵に笑って一言答えた。

「特撮の悪役お得意の、『ボスの巨大化』というヤツだ」

 氷室の言葉が新八の耳から脳に届くよりも早く。
 けたたましい轟音をまきちらしながら、建物の瓦礫という瓦礫が降り注いでくる。
 雨とかあられとかのレベルではなく、人間以上のサイズの破片すらもが落下してくる。
 逃げる。必死で逃げる。
 当たるどころかかするだけで命に関わりかねない。そんな直接的かつ物理的な死の雨から、命の危機から必死に逃げ続ける。
 粉塵がもうもうと立ち込めて視界が奪われる。
 それでも必死に逃げ続け、落下によるものと思われる振動がなくなった頃、力尽きたこともあってようやく二人は足を止めた。
 息を吸い込みたいものの、粉塵が正常な呼吸を阻害する。
 咳きこみながらもなんとか息をして、粉塵が薄くなるのを待っている二人。
 そして、薄くなる煙の向こうに『それ』は現れた。

 顔は象。四つの腕を持ち、とがった耳の生き物に乗り、キャスケットのような帽子にちょんまげのようなアクセントをつけ、インド風の衣、そして―――メガネ。

 先ほど彼らがメガネの使徒の集会場で見たメガネ邪神像が、先ほどまでいた建物を崩しながらその巨体を現したのだった。

「まじでかァァァァ!」
「現実を見ろ、現実を」
「いや驚きましょうよ氷室さん! なんでそんな落ち着いてるんですかアンタ!?」
「さすがに巨大化はあまり見ないが、報道委員なんぞをやっていると大抵の事態には耐性がつくくらい見慣れてしまうものだ」

 何気にボケ殺しの集団なのかな報道委員って、と内心で新八が思っていると、巨大メガネ邪神像が動いた。
 四本の腕を器用に組み、体に見合う大きな音で声を出す。

学園世界の諸君。
 お初にお目にかかる、我が名はメガネ大邪神!
 偉大なる メガネ王国(グラスキングダム)を築くため、この世界をメガネ色に染めつくすプロジェクト・グラスワールドの頭目である!』

 それは、宣戦布告だった。
 自分が世界の敵であるということをこれほど堂々と世界中に対して宣誓した世界の敵も類を見ないだろうな、とどこか他人事風味に思っていた氷室。
 その隣で、新八がとんでもない量の汗をかきながら、ぽつりとつぶやいた。

「……あの、氷室さん。僕マズいことに気が付いちゃったんですけど」
「ど、どうした志村。その汗の量は割と尋常じゃないぞ?」
「僕ら、結構必死に逃げてきちゃいましたけどあの中に、たくさん人いましたよね。下手したら今ので……」

 尋常じゃない量の汗をかきながら新八は途中までで言葉を飲み込むものの、その先についてはすぐに氷室も思い当たり血の気が引く音が聞こえるような錯覚を起こした。
 人間サイズなどゆうは超えるだろう瓦礫すらが降り注ぐ崩壊の只中にいたのだ、その中の人間が無事なはずはないだろう。
 と、その時不意に予想外の声が割り込んだ。

『なんとも心優しい少年だ。同じメガネを愛する者として鼻が高い』

 意外にも優しそうな声音でそう言ったのは、巨大メガネ邪神像……もとい自称『メガネ大邪神』であった。
 そんな方向から声をかけられるとは思っていなかった新八が奇声をあげながらびくりと身を震わせる。
 新八の様子を気にした様子もなく、メガネ大邪神は相変わらずどこから声を出しているのかわからない構造ながらも言葉を続けた。

『安心するがいい、少年。
 我が神兵、<メガネの使徒>たちは常に私とともにある』

 そら、と一言呟く。次の瞬間、メガネ大邪神を守るように囲んだ、万に届こうかという雑多な服を身に着けた統一性のないメガネの人間が現れた。

 彼は自慢げに続ける。

『私とメガネの使徒たちとの絆はそれほど浅くはない。
 この程度の人数、あふれんばかりの私のメガネへの愛をもってすれば崩壊から救いあげることなど造作もない』
「いや、メガネへの愛とアンタの力に何の関係があるんですか……」
『ほほう、少年は私の生まれを知りたいというのか。なかなか好奇心旺盛だな』
「そんなことは一言も言ってねェェェェ!!」
「落ち着け志村っ。自分から話してくれると言っているのだ、ここはしゃべってもらった方が得だろう」
『おぉ、なんと冷静なクールビューティだ。是非とも我が軍に欲しい』
「……。と、ともかくだ。話してもらえるのならば話してもらえないだろうか?
 私たちは朝から追われっぱなしだったからこうして逃げ続けていたのであって、その理想に共感できれば協力するかもしれないだろう?」

 氷室お得意の口車に乗せられたか、ふむとうなずき彼は答えた。

『私はこの世界の人間たちのメガネへの愛が蓄積され、愛が昇華される際になんやかんやで生まれた世界中のメガネ愛好家の意思に望まれることで生まれし意識体。
 多くの人間の抱いたメガネへの愛が積み重なり、可能性の力をこううまい具合に巻き込み、そのすばらしさを世界中に広げるという使命に唐突に目覚めた。
 その使命を果たすため、私はメガネの使徒を集め、この世界を変革する<プロジェクト・グラスワールド>を立ち上げたのだ!』
「『なんやかんや』って言いましたね、アレ」
「『こううまい具合に』とも言ったな。なんとも適当な世界の危機だ」

 本当のところは彼にもよくわかっていないだろう偶然がたくさん積み重なっているようだ。
 もっとも、これほど大規模な世界の融合現象が起きている場所なのだ。偶然も積み重なればこんな世界の危機を招くことのひとつやふたつもありえるのかもしれない。
 ともあれ。
 そんな超適当なくせに超大規模な世界の危機のど真ん中にいる氷室は頭を抱えながらもうひとついいか、とたずねる。

「その、<プロジェクト・グラスワールド>というのはいったいどんな計画なのだ?
 やっていることといえば、メガネをかけた人間を片っ端から集めて自意識を奪っているだけのようだが」
『それは少し違う。
 メガネの使徒たちは、私が自ら分け与えたメガネへの愛を理解した者たちだ。
 メガネへの純度100%の愛から、グラスワールド完成に動く私へと忠義を尽くしてくれているにすぎない』

 つまりはメガネ大邪神を構成している『想い』である『メガネへの愛』の一部を分離し、植えつけたのがメガネの使徒と呼ばれる者たちであるということだった。
 自律した意識体を構成・維持するほどの強烈で強力な一方向への突き抜けた『意思』を植えつけるという行為は、もはや精神を侵食する呪いとほとんど変わりはない。
 そんなものを受けてまともでいることは、肉体という器がある人間ならばまず不可能だ。
 ゆえにこそ『メガネの使徒』は自意識のないメガネ大邪神の僕と化した存在と化したのだろう。
 彼は、続ける。

『メガネを必要と感じている者たちに呼びかけ、世界中のメガネの人間を<メガネの使徒>とする。それが第一段階だ。
 それが済んだ後、<メガネの使徒>たちによるメガネ聖戦―――世界中の人間に強制的にメガネをかけさせ、この世界をメガネとその愛で埋め尽くす。
 それこそが<プロジェクト・グラスワールド>の最終段階だよ』
「……なぜそこまで世界中をメガネの人間だらけにしたがるのだ?」
『知れたこと、それが私を構成する全てだからさ。
 私は人間のメガネを愛する心から生まれた。だから私は世界をメガネ色に染め上げる。
 世界がメガネを愛するようになれば、私はそこで更なるメガネへの愛を得て己の存在を強くすることができるだろう』

 思念体である彼にとっては、他者からの認識と自分を構成する他者の意思の量と質とが彼自身の存在としての強度となる。
 生命の本能として生の渇望は当然のものだ。

 それを聞いて、氷室はため息をついて答える。

「そちらの事情は理解できた。説明は感謝する」
『おぉ、理解してくれたか!
 では君たちも来るがいい。我々は新たなメガネの使徒として君たちを歓迎しよう』

 たくさんの人間に囲まれたそこらのビルなどよりもよほどの巨体が鷹揚にそう言うのを見て、少年と少女は口々に答えた。

「だが断る」
「お断りですよそんなもん」

 間髪を入れず。何一つ迷いなどなく。ただ真っ直ぐに二人はそう告げた。

「世界の敵の手先になっても私には何一つ恩恵がない。そんな取引はごめんこうむる」
「自分の意識がまったくないってのは、人間としては死んでるも同然でしょう」
「特にメガネしか特徴がない人間には存在意義の危機だしな」
「氷室さん? それ僕のこと言ってます?」
「被害者面するのはよくないぞ。自分がこれまで特徴をアピールしてこなかったのが悪いのだからな」
「アンタどっちの味方ァァァァ!!?」

 こんな時もネタを忘れない氷室とツッコミを忘れない新八に惜しみなく拍手。
 そんなやりとりを見ていたメガネ大邪神はそうか、と静かなまでに淡々と応え。

『ならば仕方あるまい。
 前に出よ、<メガネの使徒>最高最強の戦士―――<メガネ十二人衆>よ!』

 その言葉とともに、メガネの使徒の中から十二の影が<メガネの使徒>たちの群れから飛び出し、彼らと氷室たちとの間に着地する。
 逆光と目深にかぶった簡素なフード付きのローブのせいで何者かまでは判別がつかないが、プレッシャーはかなりのものだ。思わず氷室も新八もじり、と数ミリ後退する。
 メガネ大邪神が言葉を続ける。

『彼らこそはメガネの使徒の中でも屈指の力を誇る<メガネ十二人衆>だ。
 その能力は通常のメガネの使徒のおよそ4万倍を数える超人ぞろい。我が愛を受けなお己の意思を保ちながら私に忠誠を誓う最強の戦鬼共よ』

 おそらくは言葉どおりの実力を持っているだろう猛者が十二人だ。
 氷室も新八も、魔法・超能力・パイロット技能など戦闘的な能力はない。こと戦うという事態の渦中に陥れば『にげる』のコマンドしか使えない。
 それを知っているのかいないのか。メガネ大邪神は絶対的優位を自覚しているように倣岸に命令を下した。

『<メガネ十二人衆>よ。新たな我らが同胞をその手で掴み取れ!』

 彼らの主の声に返す者はいない。けれど行動は迅速だった。
 何人かが獣のようなスピードで氷室と新八へと迫る。出だしからトップスピードとかどんな嫌がらせなのかと思うほどの速さだ。
 それを視認した氷室は迷わずダッシュで走り去るためにきびすを返し。
 新八は最初にした約束を守るために迷わず一歩前へ出た。一緒にいる彼女が無事に逃げ切れるように一人でも多くの敵を足止めしようと。
 そして。

 次の瞬間。先頭を走るメガネ十二人衆の足元が爆発した。



 ***


 吹き飛ぶメガネ。舞い飛ぶ人。
 状況についていけないのは新八も氷室も、そしてメガネ大邪神すらもそのようだった。

『むぅ!? 我がメガネ十二人衆が一瞬にして壊☆滅!』

 初めてうろたえた声色で叫ぶメガネ大邪神。
 何があったのか、と考えをめぐらせようとしたその時。
 爆煙の中無事な姿で立つ十二人衆の内の二人がくるりと反転、メガネ大邪神の方へと向き直る。
 一人は細剣を何本も両の手に引っさげ、一人は絡み合う二匹の白蛇を模した杖を肩にかけて。堂々と言い放つ。

「誰があなたのものですか。見くびるのも大概にしてほしいものです」
「くっくっく。あの程度の精神汚染がこの私に通じると本当に思っていたのか? 愚かな奴だ」
『くぅっ!? まさか、裏切ったのか!
 いったいどうしたというのだ、メガネ十二人衆<シスター・カリー><パラサイト・ゴースト>!』

 その言葉に、二人は自分のローブを剥ぎ取りながら答えた。

「誰が裏切ってるんです。もともと私はあなたになんて仕えていません。
 私は主の意思を代行する教会の代行者、人々に仇なす害獣の駆除なんてのも業務に含まれちゃうんですよ」

 青い髪に青い瞳。編み上げブーツに黒のカソック。
 元の世界においては聖堂教会埋葬機関の第七位にあった化け物殺しの異端狩り、シエル。

「残念ながらこちらにはすでに借りが山ほどある主がいるのだ。
 お前に鞍替えするには、借りをチャラにした後でさらにワタシにメリットがある条件でなくては意味がなかろう?」

 桜色の髪、アメジストの瞳。輝明学園の高等部制服。
 元の世界においては宿主を変えながら世界を守り続けてきた転生者の魔法使い、ゲシュペンスト。

 メガネ大邪神の精神干渉をものともせずに立ちふさがる二人の少女が、そこにいた。
 彼は焦ったように叫んだ。

『馬鹿なっ!? 私の愛はメガネを必要とする心を増幅させる。普段かける頻度が高ければその分メガネへの愛が深くなるはずだ!』
「……ワタシもナメられたものだ」
「えぇ。それには非常に同感です」

 そう言いながら、二人の少女はかけていたメガネを外す。
 その瞬間、メガネ大邪神に衝撃が走った。

『そうか……っ! お前たちのそれは<伊達メガネ>か!
 本気(マジ)メガネは生活に支障をきたさないために存在するため、精神的依存度が高い!
 それに比べて変装やおしゃれメガネなどはあくまで装飾品、頻度がいかに高くとも精神依存度は格段に落ちる!』
「この場合、伊達メガネなことよりもあなたの精神支配に打ち勝った我々の特殊技能について何か言ってほしいんですがねぇ……」

 どこか途方にくれたように、シエル。

 シエルは一時期体を他人の精神に乗っ取られたことがあり、精神の汚染には過剰なほどに反応する。
 精神汚染に対抗する手段を数多く常時張り巡らせているのだ。
 ゲシュペンストはそもそも今は精神(寄生)体である。他人の体の効率的な掌握とその対処法、そしてハッキングに対する対処能力。
 その全てにおいて詳しくなければ他人の体を乗っ取りながらここまでの長きを生きてはこられないだろう。

 ともあれ、いまだに衝撃から回復していないメガネ大邪神に向け、ゲシュペンストが杖を掲げて告げる。

「さてどうする? 貴様ご自慢の手駒は吹き飛ばした、あとは有象無象どもにすぎんぞ」
「あなたみたいなのがうろうろしてると、厄介ごとに首を突っ込みたがる子が後を絶たないんですよ。
 個人的にも実に迷惑なので、さっさと片付けさせていただきたいんですがね」

 臨戦態勢でそう凄む二人。
 その威圧感は並みの学生ならば土下座で命乞いを始めるだろうほど。
 しかしその上でなお、メガネ大邪神は笑った。

『ほう。この数を相手に、お前たち二人で何とかなるとでも?』
「あくまで抵抗するか。ならば、それはそれでよかろう」
「えぇ、多少骨が折れるといえば折れますが。こういうド派手な裏方には慣れてます」

 邪悪なまでに楽しそうな笑みを浮かべる桜色の少女と、諦めたようながらもどこか不敵な表情の空色の少女は。口をそろえて、言った。

「「この程度で、私(ワタシ)を止められるとでも?」」

 直後。
 闇色の鎖の嵐が吹き荒れ、投擲された細剣による打突がメガネの使徒たちを薙ぎ飛ばした。



 ***

 目の前を埋め尽くす大乱闘の光景。
 それを、ただ唖然とした様子で見続けている新八。
 彼は氷室の小さなつぶやきで我を取り戻した。

「……マズいな」
「へ? ど、どうかしたんですか氷室さん」
「相手はゾンビのような連中だぞ? しかもこの瞬間も数を増やし続けている。
 いかにあの二人が効果範囲と攻撃力に優れた能力を持っていたとしても消耗しきってしまえば事態の解決にはつながらない。
 消耗させきれば、今度はあの二人の身が危うい」

 敵はメガネ大邪神なのだ。
 彼らの端末たるゾンビ連中をいくらなぎ払おうとこの事態の収束にはつながらない。
 あの数に囲まれた中では、シエルもゲシュペンストもメガネ大邪神を攻撃するのは難しいだろう。
 ……地面がはげしく隆起・破砕して燐毒を撒く蝶が飛び回ったり、投げた剣がなぜか突き刺さらずに人を押し飛ばしたり、大爆発が起きたりしているのには目をつぶれ。
 閑話休題。
 ではどうすれば、と新八が言いかけた時、氷室の携帯が着信を知らせた。
 轟く爆音に眉をしかめながら彼女がその電話に出ると、先ほどまで彼らの手伝いをしようと頑張ってくれていた少女の声がした。

『その場所一帯は危険。可能な限り早期の撤退を勧告する』
「長門嬢か。そちらも無事で何よりだ」
『私の存在する空間は現在事象隔離されている。そちらとは比較にならない安全性。
 それよりも早く。出来うる限りの最速でそこからの撤退を』

 長門の平坦な声が、氷室にはいつもよりも早口な気がした。
 珍しいこともあるものだ、と思いながら彼女は告げる。

「我々としても逃げたいのはやまやまなのだが、こちらでは今大乱戦が起きていてな。
 その最中から逃げ切るのは我々では少し難しそうだ」
『そう』

 淡々と、ただ彼女はそう告げて。

『なら、今すぐ伏せて』

 長門の電話口のその言葉に、疑問を差し挟もうとしたその直後。
 ―――長門が彼らに電話をかけた原因が、現場に到着した。



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