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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第03話02

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だれでも歓迎! 編集
 何の前触れもなく風が渦巻きながら突き抜けた。
 旋風などという言葉では言い表せぬほどに強い風の波。
 暴風などという表現では生ぬるいほどに猛る風の音。
 風の流れだけで周囲の景色が歪んで見えるほどの勢いをもった、台風にも近い災害。
 風そのものが波のように重量を増したような、叩きつけるかのごとき波濤。
 人間くらいの重さならば軽く吹き飛ばせそうなそれも、しかし一瞬のこと。
 重く叩きつける爆風は一瞬にして通り抜けた何かを追いかけ、それに従い、螺旋に渦巻き収斂し。
 それに力を貸すように集ってその意を成さんと吹き荒れる。

 新八は轟風にメガネを取られないように必死でメガネをおさえながら身を低くする。
 そして、彼は偶然見た。
 轟風の渦巻く中心。そのど真ん中にある青い光と、ほんの少しの小さな、しかし青に消されないほどに鮮烈な赤い煌きを。
 直後。
 空を翔る青い光は、一つがすでに建物数件を一気に破砕できそうな膨大な爆嵐の群れとともにメガネ大邪神に突っ込む。
 青い光の先端がメガネ大邪神の頭に触れた、その瞬間。

 光の後ろに連なっていた莫大な風がメガネ大邪神に収束。
 ただ解き放たれただけならば衝撃波となってこの一帯を蹂躙し尽くしただろうそれは、ほぼ一点に。
 巨大なメガネ大邪神を叩き斬る刃のようにそれを貫き、ただ余波のつむじ風だけが周囲を渡っていく。

 あまりのことに、その場にいた誰もが声を失っていた。
 吹き荒れていた爆音から一転。猫の足音さえ聞こえそうな完全なる静寂へ。
 その静かな世界で一番最初に響いた音は、青年の声だった。

「……おいおい、さすがにありえないだろこれは」

 あきれたように、自身の目を疑うような言葉。
 それは空というほど高くはない場所。青い光の残る鋼の塊に身を預けた青年がいる。

 柊蓮司。
 いわく執行委員代表。いわく肩書き学生。いわく女たらしの少年殺し。いわく斬撃彗星。いわく学園世界一睡眠の足りていない人間。いわくただの馬鹿。いわく斬込隊長。
 数々の呼び名を持つ、この事態を収拾すべく放たれた学園世界で一番有名なトラブルシューターである。

 今まで、有名無名含めて4桁に届こうかという学園世界内の事件を解決したその青年は、しかし背筋に冷たいものが流れる感覚を禁じえない。
 その理由を知らしめるように、メガネ大邪神が息を吐いた。

『は。ぬるい、ぬるいな。
 その程度では私に届くはずもないぞ?』

 その言葉になに? と視線を険しくさせながら柊がメガネ大邪神をにらむ。
 視線を意識しているかはわからないが、相手はただ淡々と当たり前ではないか、と答える。

『そんなメガネ愛のない一撃が、この私に届くはずがないだろう』
「「そんな理由で防げてたまるかァァァァ!?」」

 柊と新八。
 二つの世界に名をとどろかす、二人のツッコミが今、共鳴する。

 閑話休題。
 とはいえ、メガネ大邪神は今の対群勢用兵器的な破壊力に、しかしまるで堪えた様子はない。
 無意味なものは無意味なのだから仕方ないじゃないか、と告げるメガネ邪神。
 その言葉はほぼ全力に近い威力を無効化された上『その程度』扱いされた柊にとって、相当の精神的なダメージをもたらしたらしい。
 柊はゆらりと揺れるようにウィッチブレードを両の手に掴み、珍しくきちんと正眼に構え、それだけで人が殺せそうな絶対零度の視線と共に、底冷えのする声色で告げた。

「……上等じゃねぇか。
 俺(ひと)の全力がホントに無意味かどうか、てめぇの体で確かめてみるか?」

 途端。
 ぎちぎちぎちりと何かが軋む音が響く。
 それは次元の壁を食い破ろうと外から現れんとする存在があることの証左。
 空間の上げる悲鳴。それは、彼の意思に応えんと現れ出でようとする『唯一無二の相棒たち』。
 軋む音が空間を割りそうなくらいに大きくなった時、戦場に叫び声が響いた。

『すーとっっっぷぅぅぅぅ!? 蓮司、タイムタイムちょっと待つでありますお願いだから待ってェェェェ!?』

 キンキンする小娘の必死な声は柊の懐から。
 月衣にいれずに懐に入れておいた(あの突貫でも壊れないほどやけに頑丈な)0-Phoneからだった。
 気を一瞬そらされるものの、柊は表情ひとつ変えずにその声に答えた。

「止めんなノーチェ。ここまでコケにされて黙ってられるほどもともと俺は温厚にできてねぇ」
『命令を下す立場になってちょっと考えが丸くなったかと思ったらそれでありますかっ!?
 お願い! わたくし一生のお願いでありますからその広範囲破壊技見境なしに撃つのすとっぷでありますってばー!』
「心配すんな。誤射なんて馬鹿な真似しねぇよ」

 範囲選択だしな、<三千世界の剣>。
 それはともかく。完全に目が据わっている柊に、そーじゃなくてっ! と勢いこんでノーチェが言った。

『あの突貫完全に無効化されたのでありましょう!?
 さすがにあの威力を完全キャンセルできるっていう防御は異常でありますっ!
 回数制限とか、属性反応防御とか、ともかく何かしらの欠点があるはず!
 わたくしがそれを看破するまで無駄撃ちは避けてほしいのでありますよ!』

 その必死な声に、頭に上りきっていた柊の頭がほんの少し冷静さを取り戻す。
 舌打ち。
 それでも彼はひとつため息をつくと、片手を離し、半身になって構えなおす。
 全身全霊をこめた捨て身ながら一撃必倒の構えから、白兵戦距離で切り結ぶためのこのサイズの相手に対するにはひどく不釣合いな、しかし彼のいつものスタイルへと。

「……できるだけ早く見つけてくれ。わかってると思うが、俺は時間稼ぎには向いてねぇぞ」

 柊は、というよりも魔剣使いはウィザードと呼ばれる特殊能力者の中でも1、2を争うほど持久戦に向かない。落とし子・人造人間並みに身を削りながら戦うタイプだ。
 それが原因で仕事の度にエネルギー補給や調整(治療魔法、食事など。本来は睡眠も含まれるがあまり取れているとはいえないため除外)が必要な、燃費の悪い能力者だ。
 執行委員が集まる以前は、その身を引きずりながらこの仕事をしていたため、とある事件において某金髪ちびっこ先生を守りきった直後に意識を失って倒れたこともある。
 ……それから先、妙にその子供に会うたびに憎まれ口をたたかれるようになったことは本編とは関係ないので割愛する。

 ともあれ、その弱音とも信頼ともとれる言葉に了解であります! と勢いのよい声が返る。

 そんなやり取りを見ていたのかいないのか。
 自らの前に立つ一人の人間を、メガネ大邪神はひたりと見つめた。

『ひとつ聞こう。貴様は我が覇道を阻む者か?』
「他人の心を乗っ取って手先みたいに使うのがてめぇの覇道だって言うんなら、その通りだよ」

 その問いに柊はありったけの敵意をこめ、相手の戦闘力もうまく量れないがそれでもここは引かぬという意思をあらわに答えた。
 敵意をむき出しにする青年を前に、しかしメガネ大邪神はとうとうと応じる。

『そうか。
 ならば―――ここで墜ちろ、我が障害』
「やってみやがれ、置物野郎」

 挑発に挑発で返したその言葉に、メガネ大邪神のメガネがぎらりと輝いた。

『……言ったな?
 よろしい、ならばその身で受けるがいい。
 私の技の中でも最高火力を誇る、必ず殺すと書く文字通りの必・殺・技!!
 どのくらい必殺かというと1stリミブレとか、ラスアクレイジとか、かみにチェーンソーくらい必殺な技!!
 見せることもないと思っていたが、それほど見たいというのならば見せてやろう』
「見たいとは一っ言も言ってねぇぞ、言っとくが」
『シャラップ!!
 えぇい、この技はメガニスト(メガネをかけている善良なる市民のこと。対義語に<NOTメガネ>がある)には何の影響も及ぼさないメガネ除外版中性子爆弾的技!
 つまりイケてないNOTメガネたちや建物にのみ損害を与えるという最高にクリーンな技なのだ!』
「建物倒壊する時点で僕らアウトじゃないですかァァァァ!?」
「ひ、柊! できるだけこちらに向けない方向で頑張ってくれ! 私たちはそこの二人と違って100%善良かつかよわい一般市民だ!」
「失礼なことを言うなそこの女! このワタシのどこが善良な市民ではないというのだ!?」
「寄生虫は善良な市民とは認めませんよ。というか貴方とそこの巨大化器物のやっていることって、あまり変わらなくないですか?」
「一度にごちゃごちゃ言うなよ緊張感が殺がれまくるだろうが!?」

 敵が目の前にいてもツッコミを忘れない柊に脱帽。
 しかしメガネ大邪神にとっては柊が緊張感を削がれまくっていることなど関係はない。
 というかむしろ絶好の必殺技チャンスである。単に空気が読めないとも言う。

 周囲に漂うものや彼自身、そしてメガネの使徒たちから送られてくるプラーナが、メガネ大邪神に雪崩れ込む。
 収束。収斂。凝縮。集中。それは螺旋を描きながらも極一点に押さえ込まれながら彼の中のメガネ愛、つまるところの意思の力と混ざり合っていく。
 プラーナとは可能性の力。
 可能性とは意思を持って選択されるもの。
 プラーナと強い意志、その二つが揃えば強い指向性を持ったこの世の何よりも強力なエネルギーとなる。
 今この世界で最も膨大なプラーナを持ち、最も強固な意志によって維持されている存在が、その敵意の砲口をただ一人の人間へと向ける。


『隙あり! くらえ絶招・<メぇぇぇぇぇぇガネっ、ビぃぃぃぃぃぃぃム>っ!!』


 ※絶招……中国拳法における『奥義』とか『絶磨』とか『秘剣』とか『宝具』とか、そんな感じのすぺしゃるな必殺技につける単語のこと。


 閑話休題。
 ともかく、名前に恥じないほどの威力と速度を持った感じの赤褐色な極太い光の渦が、柊に向けて放たれた。
 真正面から推測するに口径はおそらく3mを超える。3000mmというのはどう考えても人間に向けるにはオーバーキルもいいところ、かすりでもすれば消し飛ぶのは確実だ。
 そう。常識で考えるのならば。

 生憎とウィザードと呼ばれる連中の第一歩は常識を覆すことから始まる。
 柊はその極光の束を前にして、ひとつ息をつくと覚悟を決めたように己が愛刃を構える。
 彼は知っている。この空を駆けながら見知らぬ誰かを助けるために西へ東へ奔走する人間がいることを。
 彼は知っている。各地に避難所を作り、時を経るごとに増える避難民をかくまいながら戦い続ける人間がいることを。
 そうやって一緒に世界を守っている人間がいる。今この瞬間も、一緒に戦い続けている仲間がいる。

 ―――だったらどうして、ここで自分一人だけ諦められるだろう。

 彼にできることなど限られている。
 刃にし得るは斬り絶ち開き、裂き削ぎ絡め、打ち突き貫くあたりが関の山。
 ならばこの局面において彼に成せることは唯一つ。
 己に成せる全力をもって、全身全霊渾身の。たった一筋の斬条閃に、全てを込めることくらいに決まっている―――!

「ォ―――ぉぉぉおおおおおお、りゃぁぁっ!!」

 その叫びだけで位の低い魔ならば退けられるような雄叫び。
 裂帛の気合と共に迫り来る力の先端に向け、一振りの 相棒(やいば)を叩きつける。

 柊は理解している。
 自身に向けられたその光は、直撃を受ければ即命に関わる威力を秘めている。
 ウィザードである彼ですら命に関わる。そんなものがこの世界を蹂躙することがあれば、どれほどの被害が出るか。
 今するべきは時間稼ぎであるが、それ以上に彼の仕事は『この世界で起きる被害を最大限に力を振り絞り、最低限に抑えること』に他ならない。
 ならば彼一人が盾になろうとも意味がない威力を持つ一撃に対して出来ることは、可能な限り力を削ぎ落とした上で人の迷惑にならない場所に向けてそらすこと。
 力の流れは見えるし掴めている。これまでの経験は柊に最善の行動を無意識の内にとらせる。
 目標地点にそらすための角度をつけた剣筋が吸い込まれるように赤褐色の光の穿孔へと向かい―――

 ―――接触した瞬間、予想をはるかに超える膨大なエネルギーが柊の総身を激震する衝撃として駆け巡った。

 瞬きよりも刹那よりもなお短く、言葉で表すのならば六徳ほどに短い間ではあるものの、その間比喩でなく完全に柊の意識は飛んだ。
 刃が押し返されるよりも早く意識が戻ったのが幸いだった。
 衝撃は未だに体を荒れ狂っている。しかし声など上げていられない。そんなことに使う余分はない。
 この一線を押しとどめ、赤い光をそらしきる。この瞬間、この刃(じぶん)はただそのためだけに存在するのだから。
 意識と衝動を焦点に。
 ただひたすらに刃筋を立ててその衝撃に抵抗する。し続ける。
 体中を駆け巡る衝撃は、行き場を失い彼の体にダメージとして蓄積されていく。
 それだけでなく刃によって削がれ散らされた光の粒は、減衰しながらも近くにある彼の身体をえぐっていく。
 軋みをあげる骨。悲鳴をあげる筋。狂ったように痛覚は信号を頭に叩き込み、すでにどこが痛いのかも把握しづらい。

 意識を投げ捨ててしまえばどれだけ楽になるだろうか。
 ここで力尽きてしまえばきっと楽になれるだろう。
 よく戦ったと認めてしまえば後は誰にでも任せられる。
 そんなことが頭をよぎらないではない。
 あぁちくしょう、と。おそらく爆音の中では誰も聞こえないだろうほど小さな声で悪態をつく。

「―――んなことができる 性質(たち)なら、端っからこんなことのために世界中駆けずり回ってねぇってんだよ……っ!!」

 見過ごすことができるほど利口なら、見ないフリができるほど器用なら、そもそも自分はここにはいないと。
 そのとおりだ。
 頭が悪くて不器用で、何より諦めが悪いからこそ。
 柊蓮司は戦場で、ただ一振りの刃を握りただひたすらに守り抜く。
 ならば己にできないことに意識を割く必要などないと、ただの弱音を叩いてつぶす。
 意思を新たに。更なる想いを重ね束ね、刃の先に意思を宿す。

「引き、裂けぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 そして刃は忠実に主の意思を遂行した。

 人を一人飲み込んでなお余りある光の渦が叩きつけられた刃によって幾筋にも裂かれた。
 最も太い一筋は廃墟の跡のクレーターにさらに大穴を穿ち、細い赤光は空や近くの建物、近くにある人間の肉体などを通って勢力を減衰させられた。
 光の渦は唐突に終わり、それを放った巨大な像はただ一言告げた。

『……なんと。私の愛の結晶を引き裂くとは、非常識な』
「存在からして非常識な奴にそんなこと言われたくねぇよっ!?」

 相当命がけで立ち向かったあともこのツッコミ。やはり侮れないと思う。
 しかしメガネ大邪神はツッコミに対してのみ鉄壁のスルー力を発揮する。

『だが、我が<惨殺絶招・メガネビーム>に真正面から立ち向かった代償はけして軽くはなかろう?』

 ネーミングセンス皆無じゃね? というのはこの場にいる全員の思いだった。
 ともあれ。
 相手の言葉に馬鹿正直に答えてやる必要はない。は、と息を吐きながら柊は相手の意識をさらに集中させるように会話に応じる。

「そっちこそどうなんだよ、さすがに今のはぽんぽん撃てる類のモンじゃねぇだろ」

 楽観的予測の混じったかまかけ。
 彼の役目は時間稼ぎ。今この場で相手を真っ二つに出来るものならしてやりたいが、できない可能性もあることを考えるとそうもいかない。
 それに対して、メガネ大邪神は真っ正直に答える。

『さすがというべきだろうな。
 伊達にヤシマ作戦世代ではないということか』
「わけのわからんこと言って勝手に納得すんじゃねぇよ!?」
『その通りだ。我が惨殺絶招は私とメガネの使徒たちが持つプラーナとメガネ愛を集め束ねて撃ち放つ文字通りの必殺の威力を持った技だ。
 ビックバン直後の四つの力よりも早く生まれた知られざる第五の力、メガネ愛は無よりいくらでも生み出せる有なる力であるゆえに問題ないが、プラーナはそうはいかん。
 メガネの使徒たちの中でもプラーナのあまり多くないものたちはいる。
 二射目は彼らの存在を奪うことになりかねん以上、私に撃てるはずもない。要はシナリオ一回制限技だ』

 なんてメタい納得のさせ方。
 ともあれ、今の一撃はもう撃てないことを確認できた柊は内心安堵しつつ―――さすがに二射目は同じことをできる気がしなかった―――相手の注意をさらに引く。

「なんだ、今のが全力かよ」
『ほう? 私に傷ひとつつけられない貴様がそれを言うのか、その有様で』

 柊の状態は傍目にもわかる。
 赤い光条によって穿たれた穴や抉られた傷は数多く、軽口を叩こうにも強がりと焦りが見て取れるほど余裕がない。
 は、と荒れた息を吐き出して内心の自嘲。

 その通りだ、と。そもそも持久戦は大の苦手、その上でこの状態まで持っていかれた。今の状況では何をどう逆立ちしても自身に勝ち目がないことは自覚できている。

 それでいい、とも思っている。
 今の彼の役割は時間稼ぎに他ならない。
 最終的に被害を可能な限り少なく、事態を出来うる限り早く収拾すること。それが柊蓮司の役割だ。
 自分でできるのならば、最後の瞬間まで諦めずに機を待ち続けてその一瞬をものにする。
 自分では不可能ならば、最後の瞬間まで投げ出さず被害を抑え続けるために立ち向かう。

 その覚悟があるからこそ彼はその状態でなお。不敵に笑いながら相手に話しかける。

「言い続けてやるよ。聞きたくなけりゃ口をきけなくするこったな。
 俺は―――いや。この世界(ここ)の連中はな、自分たちの 世界(もの)を食い荒らそうとするような奴にまで優しかねぇんだぜ?」
『本人の許可があるのならよかろう。
 潰れ堕ちればその減らず口も叩けまい―――!!』

 言って。
 世界の危機は再び世界への侵攻を開始するため、まず眼前の箒星へと襲い掛かった。


 ***


 無数に放たれる五鈷杵アンカーを空中で避け、かわし、叩き斬りつつメガネ大邪神の目を引いて回る人間を見ながら、ぽつりと新八は呟く。

「……なんですか、この怪獣大決戦みたいな状況は」
「正確にはウルトラマン怪獣対地球防衛隊みたいな感じだがな。防衛隊機ほど撃墜されやすくはないようだが」

 隣の氷室はといえば、上空ではなく眼前の光景―――万単位のメガネの使徒VSシスター&魔王の使いっ走りを見つめている。
 こちらはむしろ上空に危険を感じておらず、いつでも眼前の危機から逃げられるようにとの意味を持った『見』だ。
 氷室も新八も異能持ちではないのだから、逃げる時の準備を少しでも整えておこうという算段である。
 新八はそんな氷室の様子に気づいているのかいないのか。上空を見上げたまま、隣の事情通にひとつたずねた。

「―――勝てますかね、柊蓮司(あのひと)」
「9割方無理だろうな」

 間髪を容れない即答に、新八はツッコむよりも先に一瞬絶句した。
 思わず目の前の光景から氷室に視線を移す。彼女はやはり戦況を見定めながら、淡々と答えを続ける。

「あの巨体だ。狙わずとも当てることは不可能ではない。
 しかしどういうカラクリを使っているのか相手にダメージが通らないのでは仕方あるまい。

 ―――アレは、頭の中身が柊蓮司だからな。
 諦めるつもりなどは毛頭ないだろうが、自身が相手を倒す刃になれないのならば己をリソースにするつもりはあるだろう。
 言っておくが、これは命を捨てるという意味ではないぞ。
 痛みの時間を限界まで引き延ばしてでも戦場に立ち続け、バトンタッチする相手に少しでも有利な状況を作りだすための布石になる、ということだ」

 そのあたりを勘違いするなよ、と告げる氷室。
 新八は何かを言おうと思ったが、うまく言葉にならずに吐息は流れてただ落ちた。
 だってそれは、命を盾にどこかの誰かを守ろうとし戦い続けている目の前の青年の奮戦がただの捨石に過ぎないという意味の言葉で。
 氷室の言葉を信じるのなら、彼自身がそれでもいいと思っているということでもあるからだ。
 彼の行為が無駄だなんて言うことは、体を張り、刃を持って、護り抜くために戦っている彼にとって冒涜以外の何物でもなく。
 しかし彼自身がそれを自覚しながら、それでも今なおただひたすらに投げず腐らず自身の全力が一欠片として通用しない相手に立ち向かっているということだった。
 あれが、柊蓮司だと。
 氷室鐘はそう言った。

 柊と新八には何の接点もない。担任が何度か会ったことがあるらしく、授業中にその時の話を茶化して伝えるのがかろうじて一番近い関係性だろうか。
 要は、人の話の中に出てくる 登場人物(たにん)程度。
 そんな相手に興味を持ったことはなく。そんな人もいるのだな、と思うくらいの別世界の人間のように感じていた。
 そしてそれは正しい。
 広い世界の中では出会わない人間の方が数多く、自分の周囲こそが自分に得られている世界に他ならない。
 目の届かない範囲のことは聞いていようと別世界のことのように感じて当然だ。
 だからそれは正しかった。そう、今この瞬間までは。

 姿を見てしまった。声を聞いてしまった。戦う理由を知ってしまった。命を賭けていることを理解してしまった。それが何のためであるかを感じてしまった。
 そこまでいってしまえば、志村新八にとって柊蓮司は他人とは言えない。
 新八はそこで相手を他人とは切り捨てられない人間だった。
 言葉を交わしたことなどない。面と向かって名前を呼んだことすらない。
 それがどうした。
 氷室と行動を共にすると決めた時にも言っていたではないか。

『この異変をなんとかしようとしてる人がいて、僕もそれを知ってしまった。
 その人がたった一人で、危ないとわかっているところに向かうと知ってしまったんです。
 僕は、バケモノと戦って勝てるほど強くないです。誰かに何かを教えられるほど頭もよくないです。
 それでも―――色んな人を助けるために頑張ってる人を一人にしておくような、危険を一人に押しつけて知らんぷりしてるような、卑怯者には絶対になりたくありません』

 怖い。命の危機なんてことからはつとめて逃げ出したい。痛いことに楽しみを覚えるドMではない。
 けれど。それでも。
 見捨てるなんてことはできなかった。
 たとえ戦う力がなかろうとも。
 それで。そんなことなんかで。


 志村新八は、命を賭けてでも何かを守るために戦っている人を見捨てる理由になんかならないんだと知っている―――!


 ならば考えろ。
 戦うための力になれないのなら、せめて光明を見出すための糸口を見つけ出せ。
 どんな小さなことでもかまわない。
 幸い彼らがいるのは事件の中心地、核心へと至る手がかりを見つけるには絶好の場所。

 諦めるな。悩み続けろ。力になると決めたのなら、一瞬たりともその行動への迷いなど挟むな。
 自分の道を定めたのなら、最後の最後までそれにしがみつきくらいつけ。
 ただひたすらに、我ではなく己を通すことを貫ききる―――。
 それが彼が憧れたもの。憧れた存在の在り方。
 憧憬の対象に憧れているだけの子供でいることはとっくに卒業した。
 自力で歩くための足があることを今は知っている。ならばあとは憧れに近づくために歩き続けることができる。
 それが、志村新八という少年が選んだ道。歩んでいる道。この世界に来る以前から抱き続け、憧れた未来になるために見定めた道。
 ゆえに。新八はただこの場において、己の『士道(ルール)』を貫き通すために回想し、状況を見続ける―――。

 だから、と言うべきだろうか。
 事件の中心地にいて、空気を肌で感じ、戦いの輪には加わらず、しかし諦めずに状況を打破しようと模索し続けたがゆえに。
 新八はひとつの違和感に気がついた。

「……氷室さん」
「どうした志村。逃げ出すための策でも思いついたか?」
「いえ、そういうのじゃないんですけど……なんであの二人ってメガネ大邪神に攻撃してないんですかね?」

 彼が指差すのはド派手な魔法と体術&特殊な飛び道具で(おそらく威力は手加減していると思われる)メガネの使徒をなぎ払う桜色の娘と空色の娘。
 何を言っているんだ、というように若干責めるような冷たい視線で氷室は答える。

「見ればわかるだろう。けしかけられただけの人間があれだけいるのだ。
 あの人数が相手ではそうそう大技を出せん、周囲をなぎ払うのが精一杯だろう」

 その言葉に、新八はしばらく考えこむ。
 メガネ大邪神の言葉を思い出す。柊と二人で異口同音にツッコんだあの発言を。
 そしてもう一度、目の前の光景を眼球に灼きつけるように凝視して、決意しながらぽつりとつぶやいた。

「……確かめてみる価値はあるかな」

 どちらにしろ、今のままではジリ貧もいいところだ。ならば試すことに賭けた方がまだ可能性はある。
 打開策、というほど練り上げられているわけではない。けれど、もしもうまくいったのならあとはきっとこの場にいるみんながなんとかしてくれると信じる。
 他人任せもいいところな、策なんて口が裂けても言えない 実験精神(むぼうなこころみ)。
 それでも新八は賭けることにはためらわなかった。どの道正解が見当たらないなら、試すことに躊躇などしていられない。


 彼は周囲を見渡し、目当てのものを探す。
 新八が見つけたそれを手に取る。派手に崩れた建物のコンクリートの塊。サイズとしては片手に握って持てるくらいのものだ。
 見据えるのは世界の敵。
 一人の青年をいたぶるように追い詰める、今や世界を己がものにするのも時間の問題にもとれる最大規模の災害を引き起こしている張本人。
 その巨躯と比べれば自分の、ひいては片手に握ったコンクリ塊がいかにちっぽけかがありありとわかるほどのサイズの差。
 ごくり、と息を飲む。
 内心で深呼吸。
 確信なんてない。彼にはこれしか引っかかるものが見つからなかった。そしてこれからそれに全賭けする。ただそれだけの話。
 それが何を引き起こすかまでは彼には予測しかねる。そもそもこれが正解かすらも彼には確信がもてないのだ、その先のことなんてイメージできるはずもない。
 ただ、何が起ころうともせめて状況に一石を投じられることを強く胸に祈りながら。
 誰にでもなく、この先に後悔を抱かずに済むことを祈る自分が情けなくなりながらも、心を決める。

 軽くステップしながらの助走。
 新八は、左足を鋭く強く踏み込む。そのままありったけの力を込めながら大きく引いた右腕を振り抜きながら、叫ぶ。

「と、ど、けぇぇぇぇぇぇぇええええええっ!!」

 振りぬいた先の右手に握られていたコンクリートの塊が、一人の少年の渾身の投擲によってその手を離れる。
 健全な高校生男子とはいえ、新八は特に球技が得意だったり球技系の部活に所属しているわけではない。
 その投擲はかろうじて争いあっている人々の頭上を超え、放物線を描きながらメガネ大邪神へと向かっていく。
 とはいえ、緩やかな放物線を描いていることもありサイズ差を考えるならば人間に砂粒ひとつがかかった程度のものだろう。
 それでも放たれた塊はかん、と軽い音を立てながらメガネ大邪神の小指あたりに当たって弾かれ。


『何をするのだ少年。投石などと野蛮な行為をしてはいかんぞ、痛いではないか』


 ―――新八の狙ったとおりに、メガネ大邪神は眉をひそめてその『言葉』を口にした。
 自分が想像した通りのことが起きたことで、新八は達成感よりもなによりも先にこの現象が事実なのかどうかの判別がつかずに思考のエアポケットに陥り。

「そういうことかっ!!」
『そうでありましたかっ!!』

 新八が思考を放棄している間に、今の現象を正しく把握した二人の少女が新八の近くと柊の懐というまったく別の場所から同じ意味の言葉を吐き出した。
 そう、それこそが。
 新八が導き出したその答えこそが、今状況を打破する鍵として機能する―――!

「ゲシュペンストっ!」
「わかっている!」

 氷室の言葉に応じ、呼ばれた少女は極悪に楽しそうな笑みを浮かべた。
 メガネ十二人衆が一人<ライスボール・メイガス>の放ったタイダルフラッドを打ち消し魔法でかき消しながら、足元に落ちている勝利の鍵を掴む。

「よくやった小ぞ……いや、志村新八!!」

 その笑みは春の夜に狂い咲きする桜のように。
 彼女は己の役割を正確に把握し、勝利のために忠実にそれを実行した。

「受け取れ、代行者っ!」

 拾ったそのままの動作で、ゲシュペンストはシエルの胸に向けてそれをアンダースロー。
 シエルは周囲のメガネの使徒を本気でない程度のサマーソルトで沈めて氷室たちの方に向かおうとするメガネの使徒に向け徹甲作用を織り込んだ黒鍵を三本放ち蹴散らす。
 そのままの動きの流れで片手でゲシュペンストから託されたものを受け取った。

 地上の妙な動きに気づいたか、メガネ大邪神はそちらへと目線を向けようとし―――

「よそ見する余裕があるってことは、それだけナメられてるってことでいいのか?」

 多少の怒りを含んだ声で言った相手が目の前に箒で降下してくる。
 同時、右手に握っていたはずの五鈷杵の握りの棒状の部分がずっぱりと断ち切られてその形を成さなくなる。
 紛れもないその下手人を睨みつけ、メガネ大邪神はやはり静かに宣言した。

『……よかろう、そろそろ戯れはやめて貴様を本格的に葬ってやる。
 体の一片でも残ると思うなよ―――<漸殺・メェェェガネ、ゴォォォォルデンッ、フィスト>ォォォォォ!!』

 今度は絶招ではないらしい。
 ともあれ、メガネ大邪神は半身となって柊を撃ち抜くために大きく右の拳を振りかぶる。

 その時。

「いきますよ―――うまく受け取ってくださいね、柊くんっ!」

 ゲシュペンストから受け取ったそれを、周囲のメガネの使徒にネリチャギをかましつつ縦回転しながらシエルが柊に向けて投げた。
 懐の中の銀髪ツインテールが悲鳴のような声を上げる。
 地上から放たれた天佑の矢と同時、柊に向けて肘の先から爆発的なエネルギーを噴射させながらのメガネ大邪神による拳が発射というに相応しい速度で撃ちだされた。
 加速開始と同時に音速の壁を超過。加速開始からしてソニックブームという非常識かつはた迷惑な一撃がたった一人を狙って放たれる。
 この一撃を体のどこかに引っ掛けでもすれば、今の柊ならば戦闘不能にするどころか死に追いやってあまりある。
 その上その一撃は、柊にとってはシエルからの鍵を受け取って回避行動をとるには遅すぎる。

 文字通りの 王手(チェックメイト)。
 メガネ大邪神は相手の投了を待つ気はなく、シエルの声に半分そちらを向いた間の抜けた柊を見て殺ったと確信する。
 拳は風を殺して進む。音すら置き去りにして、たった一人を殺すにはあまりある破壊力を秘めた拳が、今の今まで殺しきれなかったしぶとい羽虫を捕らえる―――


 ―――刹那。撃ち抜いた場所にあったのは、何の手応えもない残影だけだった。


 メガネ大邪神はあまりのことに一瞬認識が遅れた。
 ひどく長く感じる一瞬。
 時間にしてみれば、本当に瞬きほどの時間だっただろう。
 彼が外界の変化を感じ取るまでの、ほんのみじかな時間の出来事。
 拳が完全に伸びきるよりも早く。
 メガネ大邪神はその身に秘めた108の特技のうちの一つ<メガネ人感知>により、今まで存在しなかったはずの場所に唐突にメガネ人が出現したことを感じ取る。
 目線だけをそちらへ。
 吸い込まれるように向けた眼下には、青い輝きを湛えるウィッチブレードに寄り添うように手を添えた人影。
 「縁だけのメガネをかけた」柊が、メガネ大邪神に不敵かつ獰猛な笑みを向けている。

 柊の突貫になんの痛痒も感じていなかったメガネ大邪神が発した『痛い』という言葉。
 純粋な破壊力で言うのならば新八の石投げと柊の全力斬撃は比較することがおかしいくらいの差がある。
 新八は、メガネ大邪神の発した『メガネ愛のない一撃が私に届くはずがない』という一言と、現状を考察。
 そして彼は『メガネ大邪神はメガネをかけた相手にしか影響を受けない』という仮定を立て―――先の実験に至ったのだった。

 ともあれ、メガネ大邪神は自らを傷つけるだけの条件を満たし、障害から天敵をメガネの奥の瞳に映して魂を削られるような恐怖を覚える。
 そんな光景を見ながら、氷室が嘆息しつつ呟く。

「『木の葉落とし』とは渋いところをつく。……どんどんに多芸になっていくな、あいつは」

 彼女が口にした零戦のお家芸と呼ばれた特殊機動の名だ。
 柊がやったのは正確には木の葉落としそのものではなく、その派生・応用に近い。
 きちんとした回避機動では間に合わない速度とタイミングの拳撃に対し、エンジンを切り勢いに逆らわず相手の起こした風圧に乗って木の葉が落ちるように半分自由落下。
 その最中でゲシュペンストからシエルに渡され、シエルがフレームを強化して柊に投げた伊達メガネをキャッチしてかけたわけで。


 そして今ようやく訪れたたった一度の反撃のチャンスを、逃すはずもなく逆しまの青いほうき星が駆け抜ける―――!


 ただ一条の青い斬撃は、その日唐突に現れた世界の敵を逆唐竹に断ち割って。
 蒼穹に溶けるように空へ舞い、世界の敵の溜め込んでいた白い灯火を宙へ導くように先駆けた。


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