うぶめは、一応女性の死霊である。村上健司は、口承文芸の中から発生したもので、生活経験から出た者ではないとするが、柳田國男によれば、肥後で、妊婦が死亡した場合、胎児を出して埋葬しないとこれになると言われ、どうしても取り出せない場合は藁人形を遺体の背中に括りつける習俗があり、「夜乾し(よぼし)」と呼ばれる、夜に赤子の衣類を干すことを忌む習俗について、「ウブメに血をかけられるから」と言っている。
また、
中国の「姑獲鳥」の伝播と考えられる伝承がある。南方熊楠は、姑獲鳥の特徴である「その辺から子を取る」習性がウブメにない等の若干異なっている点を指摘している。
ウブメの方は、下半身が血だらけの女性という形をしており、四つ辻や川の岸辺などへ出没する。
一応、おっさんが夜の川べりを歩いていると、子供を抱いてるお姉さんが彼へ、
「すいませんちょっとトイレに行きたいんで子供預かってもらっていいですかね?」
とか言ったので、彼が言われるまま抱っこしてると、ガキがものすごく重くなったけども根性で抱いてたところ、便所から出て来た娘さんがお礼を言って子どもをどうたらで、その後その抱いてた人は物凄い筋肉さんなったとかの伝承があるでいいらしい。ウブメとパワートランスファー関係は柳田國男『
妖怪談義』でも指摘されている。
『今昔物語』に、卜部季武が川でウブメから子供を預かるくだりがある。
姑獲鳥さん
中国の姑獲鳥(こかくてう)は、鳥の形をするとか言っても人間、特に女性の頭におっぱいを持つという、多分
ハーピーを連想しておけばいいらしいもので、夜間に飛行し、子供を拉致して育てるあるいは夜まで干してある子供の洗濯物へ自分の血を擦りつけると言われ、ソレを着た子供は病気になると言う。南方熊楠は、「人間でいう胸部に乳房みたいな模様がある鳥」と、衣類へ擦り付けられる鳥類の羽毛とかによる伝染病への観察からこんな伝承ができたのではと言っている。
篠田耕一は、姑獲鳥は、「夜行遊女」「天帝少女」「釣星」「陰飛鳥」とも呼ばれ、「女子を養子にする」特徴はあるが、邪悪ではないとし、九頭鳥あるいは鬼車と呼ばれる妖怪との混同があった可能性を示唆している。
産女の皆さん
この妖怪あるいは「うぶめ」と呼ばれる妖怪の、バリエーションは多数である。村上健司によれば一応、
a 難産で死んだ女の霊とされるもの と
b 中国の姑獲鳥伝承の伝播によるもの
の2系統に分かれる。多田克己先生がこれの間の「赤ん坊を抱かせる鳥みたいな」人伝承を紹介している。
aについては、山口県で伝わっていたアカダカショ、コヲダカショと呼ばれるもの、東松浦の山村で伝えられていた、死亡した妊婦の霊で、子供は実はあれな割に欲しいものを授けてくれるという「ウグメ」等が挙げられる。
bの、夜に「飛行」して「幼児の命を奪う」「鳥」で、「夜に干される子供の服へ自分の乳汁を付ける」というものでは、
茨城県の「ウバメトリ」、長崎県壱岐の「ウンメトリ」、東京都三宅島の「
オゴメ」が挙げられる。
また、多田克己によればオゴメは「木霊」と考えることができる
が、長崎県壱岐で、「難産で死んだ女の霊」と説明され、空を波型を描いて飛び回る青い鬼火が「ウブメ」の転訛とされる ウンメ、ウゥメ、ウーメと呼ばれまた怪火を指すウグメ、ウーメなどは舟幽霊の呼称としても使われる。柳田國男によれば、北九州で「海で死んだ者の亡霊」とされる「ウグメ」は「アカとり」を要求するのでそこを抜いたものを貸すという。
南方は、『奇異雑談』にある「産婦の霊が死後出てくる際、赤子の泣くのを「ウブメ泣く」という」、林道春『梅村載筆』にある「夜中に赤子が泣いてるような声を聴いたので、調べてみたらアオサギだった」という記述を典拠にあげ、そのウブメがa赤子の鳴き声のような声で鳴く、b光る点から、おそらくアオサギであろうとしている。
南方熊楠は、肥後の人の話として、その地にでる、雨の夜「安かろう」という産婦の霊を載せる。また同著では、『耳嚢』中篇にある産後死んだ女性が人に預けた子供を抱きに来た話をうぶめの類として載せるが、村上健司も弘前での雪女の話が、産女譚に似る点を指摘している。また柳田は海姫磯姫、
濡れ女との関連を指摘している。
参考文献
村上健司『日本妖怪大事典』KADOKAWA刊 単行本 文庫版
南方熊楠『南方熊楠全集 第二巻』平凡社刊
篠田耕一『幻想世界の住人たち3』新紀元社刊 文庫版
多田克己『幻想世界の住人たち4』新紀元社刊 文庫版
柳田國男『禁忌習俗事典』(河出書房刊 文庫版) 『妖怪談義』(筑摩書房刊『柳田國男全集20巻』所収)
最終更新:2023年01月19日 14:28