妖怪談義
民俗学者の泰斗、柳田國男の著作。
妖怪研究者のバイブルである。
1909年(明治42年)から1939年(昭和14年)にかけて、柳田が諸誌へ発表したものをまとめたものである。
A出現の場所(行路、家屋 山中 水上)、B信仰の度合い(「確信」するものから「いないと思ってたけど見たので考えを改める」まで)の二つを順序とし、
妖怪を集めた『妖怪名彙』、
河童や
天狗などに関するもの、子供を驚かす教育的なお化け譚『かはたれ時』の他、柳田が幼少期「日中に恒星を多数見た記憶」を切り口に妖怪がいかに民衆で共有されるかを語る『幻覚の実験(「実際の経験」の方)』、等の他、明治期から大正期にかけて、柳田は「本州先住民」に並々ならぬ関心を寄せており、山に出る妖怪がその記憶或いは人の記録なのではないか、という仮説のもと、山人や山姫、
山姥などの伝承を収集していたが、懇意にしていた南方熊楠により「柳田君のいわゆる山人」は類人猿的なものになる筈で、彼の資料にそれが日本で存在したことを証明するものはない、という批判を受けそれに関する追求をやめる。その際の『天狗の話』(発表が1909年)、久米長目名義による「山人(やまひと)の衣服」論について「山へ入ると裸足で裸。白人がどっか山奥へいっても靴は脱ぐし服も着なくなる。服着た山人は真の山人ではない」という批判を受けたため発表した『山人の市に通ふこと』などが入っている。
例えば
中国の「頭にフードのような頭巾をかぶっている」「唇が顔を覆う」と言った怪物の描写は、ナマケグマという実在する熊の特徴の伝聞によるとする論を展開する南方熊楠に対し、国内で
狒々の伝承を集めるのみに一応終始する柳田は、「発祥地である所のケルト民族の特性」を持ち「世界のおばけ中正に一異色」である「
フェアリー」が海洋的であるのに対して天狗を山地的であるという比較をしている。
目次
タイトル 発表年(括弧内は西暦)
- 妖怪談義 昭和11年(1936年)
- かはたれ時 昭和5年(1930年)
- 妖怪古意 昭和9年(1934年)
- おばけの聲 昭和6年(1931年)
- 幻覚の実験 昭和11年(1936年)
- 河童の話 大正3年(1914年)
- 河童の渡り 昭和9年(1934年)
- 河童祭懐古 昭和11年(1936年)
- 盆過ぎメドチ談 昭和7年(1932年)
- 小豆洗ひ 大正5年(1916年)「大野芳宣」名義
- 呼名の怪 大正5年(1916年)
- 團三郎の秘密 昭和9年(1934年)
- 狐の難産と産婆 昭和3年(1928年)
- ひだる神のこと 大正14年(1925年)
- ザシキワラシ一 大正8年(1919年)『柳田國男全集』では第7巻に収録
- ザシキワラシ二 大正3年(1914年)「佐々木繁」名義だけど佐々木喜善の文章が混ざってるぽい
- 己が命の早使ひ 明治44年(1911年)
- 山姥奇聞 大正15年(1926年)
- 入らず山 昭和6年(1921年)
- 山人の市に通ふこと 大正3年(1914年)「久米長目」名義
- 山男の家庭 大正4年(1915年)「久米長目」名義
- 狒々 大正6年(1917年)「大野芳宣」名義
- 山の神のチンコロ 大正3年(1914年)「久米長目」名義
- 大人彌五郎 大正6年(1917年) 付記を「尾芝古生」名義でつける。
- ぢんだら沼記事 昭和13年(1938年)
- 一つ目小僧 大正6年(1917年)「久米長目」名義
- 一眼一足の怪 大正5年(1916年)「久米長目」名義
- 片足神 大正5年(1916年)「中川長昌」名義
- 天狗の話 明治42年(1909年)
- 妖怪名彙 昭和13~14年(1938~34年)
妖怪名彙
シズカモチ タタミタタキ タヌキバヤシ アヅキトギ(「又の名」として
小豆洗い) センダクキツネ、ソロバンバウズ
コナキヂヂ カヒフキバウ コクウダイコ カハツヅミ ヤマバヤシ タケキリダヌキ テングナメシ ソラキガヘシ
フルソマ オラビソウケ
ヨブコ ヤマノコゾウ イシナゲンジョ シバカキ スナカケババ スナマキダヌキ コソコソイハ オクリスズメ オクリイヌ ムカヘイヌ オクリイタチ
ベトベトサン ビシヤガツク スネコスリ アシマガリ ヤカンザカ テンコロコロバシ
ツチコロビ ヨコヅナヘビ ツトヘビ
タンタンコロリン? キシンボウ ツルベオトシ フクロサゲ ヤカンヅル
アブラスマシ サガリ
ヌリカベ イツタンモメン ノブスマ シロバウズ タカバウズ シダイダカ ノリコシ オヒガカリ
ノビアガリ ミアゲニフダウ? ニフダウバウズ
ソデヒキコゾウ オイテケボリ オツパシヨイシ シヤクシイハ ヒトリマ ヒヲカセ ミノムシ
キツネタイマツ テンビ トビモノ ワタリビシヤク トウジ ゴツタイビ イゲボ キカ ケチビ ヰネンビ タクラウビ ジヤンジヤンビ バウズビ アブラバウ ゴンゴロウビ ヲサビ カネノカミノヒ
ヤギヤウサン クビナシウマ
刊行
- 『妖怪談義』中島河太郎解説 講談社学術文庫、1977年4月。ISBN406158135X
- 『柳田國男全集6』筑摩書房 ちくま文庫刊、1989年12月ISBN9784480024060
- 『柳田國男全集20』筑摩書房、1999年5月。ISBN4480750800
- 『新訂妖怪談義』小松和彦校注、角川学芸出版 角川文庫、2013年1月。ISBN9784044083090
なお谷川健一、大和岩雄責任編集『民衆史の遺産 第七巻 妖怪』大和書房、2015年刊、ISBN9784479861072
に一応収録
最終更新:2025年09月20日 13:35