シャンゴ(Shango)


西アフリカのヨルバ人の雷神。

『幻想地名事典』によれば、ナイジェリアのコソという地について、火を噴く暴君で呪術師であったシャンゴが、大臣に追いまくられ、正室3人の内2人を失ってコソへ追われた果てに死に、後祟り神になったという伝承があるという*1。檀原照和は、実在した大王である可能性を示唆している*2

 これを拝んでいるヨルバの人が、キューバへ引っ張って行かれ、奴隷として一応こき使われた際、故郷の信仰体系をアレしてレグラデオチャとかサンテリーアとか呼ばれる宗教を興した。さらにこっちでは、スペイン系の旦那さま方がその儀礼について興味深く観察したり儀礼を実践したりという生暖かいアプローチをしており、その神々(オリシャという)がスペイン語訛りで「オリチャ」となって拝まれるようになった。このオリシャ(あう)も、スペイン語訛りになると「S音がT音に」なるそうなので、チャンゴとなる。さらに、その黒人系の賢者とスペイン系の皆さんが、「カトリックと習合ていうか」をする際に、聖バルバラ(クロスボウとか大砲とかを司る守護聖人で、実在の可能性は低い。娘がナゾラ派ユダヤ教に嵌ったのを折檻するサンタバーバラの御父上が、雷に打たれたという伝承が一応ある)があてられる。そして、奴隷としては古参であるコンゴ系の信仰体系にある、ンサシやシエテ・ラージョと呼ばれる神(ンプンゴという)とも習合することになった。

 アフリカでは、神の怒り即ち神鳴りを司る神であったが、ラテンアメリカでは両刃の手斧を持ち、紅白ストライプのシャツ&ルーズなズボン(20世紀後半からは七分丈のもあるとか)を着て電や放射線、火を支配し、戦争と儀礼用の太鼓バタをコントロールする、ほとばしるエネルギーとマチズモの象徴であるこのオリシャ(あうあう)は、堪え性がなく、遊び好きで女たらし、嘘つきで喧嘩早く、ギャンブルが好きでフィエスタでは太鼓持って一晩中踊り続けるという、アフリカで実在した大王なのにラテン系なキャラクターになってしまった。そんなわけでラテンアメリカでは信徒が結構多く、トリニダード&トバゴにおいてはバプティストオリシャという、この神だけを拝む宗教がある。

 さらにアフリカでは3人、キューバの伝承では2人と、人間であったときはきちんとした制度に基づいてちゃんと結婚した正室がいらっしゃるのだが、神様になると、キューバの伝承では、貞節なオリシャ、オバ(軍神ともされるがお迎えを司る)と結婚してたのだが別れ、女性のジェンダーロールが服着て歩いてる、女性らしいオリシャ、オチュンと再婚し、戦闘他においては、お迎えとか台風とかを司り泣きながら敵を倒すといわれる女神オジャ(Oyaについて檀原照和先生しかオジャって書いてないけど ちなみに彼女はオグンの嫁とされている)と戦闘上のパートナーでかつ、結構親密なお付き合いをしている。檀原は他の女神様と付き合ってる可能性を示唆している。

 ハイチで興ったヴードゥー教は、フォン人の信仰の影響が強いが、ヨルバ人のも一応入ってはおるので、捜すとシャンゴ信仰が一応認められる。ハイチの信仰では影の薄いそのスジのソボと呼ばれるロアについて、先住民族の儀礼を襲った「ソボの入った石」を拝んでいるが、サンテリーアでは、「雷はチャンゴの落す石」と言われ、それをご詠歌歌いながら洗浄して犠牲の血液とかをかけ、チャンゴの霊(オリシャの霊はアシェとか言われる)を入れる。この儀礼はどっから湧いて出たのかは不明である。

ブラジルで出来たアフリカ人による宗教バトゥーキでは「シニョール(senhor)」と呼ばれるエンカンタード*3の高位に属する者の1柱で、ウンバンダでもXango(シャンゴ) ミナ・ナゴではバデと言う。バトゥーキでも精霊を呼ぶ石(石器時代の石斧)をもたらすとされる。ブラジルの宗教ではヒエロニムスと関連する。バトゥーキではあんまり霊媒に降りてくれないらしい*4。ブラジルの信仰について、ヒエロニムスが彼に習合しているのは、ヒエロニムスの持ち物であるライオンが、ヨルバの興したオヨ王朝で王族を表す生き物であるからという可能性がある*5

イブ・ボンヌフォワは、一応、「彼に敵対する人々が「彼は首を括った(オバ・ソ)」と囃し立てていたが、そのモノらは雷霆によって滅び、彼を奉ずる者らが「オバ・コソ(彼は首を括ってない)」といった」という根拠のようなものをあげる。

「ヨルバの雷神サンゴ」は「アヤン木で棍棒を作る」とする南方熊楠は*6、古代人が石器時代の「武威を表す」石斧を雷を放つ神聖なものとして信仰する習俗をあげるが先生の資料で斧佩くサンゴが出てこないが、他の諸資料ではシャンゴはオシェと呼ばれる諸刃の斧を持つと言われる*7

イブ・ボンヌフォワは、バーバラの信徒が紅白の恰好をする点をあげる*8

参考文献

 檀原照和『ヴードゥー大全』
 山北篤編『幻想地名事典』154~155頁
 中村圭志『図解世界5大神話入門』287頁
 朝里樹/えいとえふ『世界怪異伝説事典』367頁
 自由国民社『世界の神話伝説・総解説 増補新版』232頁
 ニール・フィリップ/松村一男『ビジュアル博物館 神話 時空を超えた神々の世界をビジュアルで訪ねる』30, 36, 50頁
キャロル・ローズ『世界の妖精、妖怪事典』
『ラルース世界の神々・神話百科―ヴィジュアル版』2006年原書房刊 フェルナン コント著 蔵持不三也 翻訳

イヴ・ボンヌフォワ『世界神話大事典』

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最終更新:2024年12月14日 16:52

*1 山北篤『幻想地名事典』154頁

*2 檀原照和『ヴードゥー大全』431頁

*3 encantado は檀原照和は「自然霊」と訳す

*4 キャロル・ローズ『世界の妖精、妖怪事典』176頁

*5 『ラルース世界の神々・神話百科―ヴィジュアル版』2006年原書房刊 フェルナン コント著 蔵持不三也 翻訳 481頁

*6 南方熊楠『南方熊楠全集1』472頁

*7 イブ・ボンヌフォワ50頁 なお同著では、シャンゴがアセンションしたらしい所にアヤン木が生えているという伝承をあげる

*8 イブ・ボンヌフォワ50頁