モパネ・オリヅルランは、SF作品『クロノ・ガーデン:第七大陸の双葉』に登場する主要な人物の一人である。彼女の公式な役職は、「第七浮遊大陸アイギス」の生態系管理局に所属する公認植物工学者である。具体的には、アイギス内の第三研究部門「エーテルプラント応用開発室」の主任研究員を務めている。エーテルプラントとは、大気中の希薄なエネルギーを吸収して成長する特殊な植物群の総称であり、アイギスの主要な動力源でもある。物語の序盤において、彼女は主人公たちが追う「枯渇病」と呼ばれる謎の植物病に関する専門家として登場する。当初は中立的な立場の技術者であり、主人公たちとは利害関係に基づいた協力関係を結ぶ。しかし、物語が進行するにつれて、彼女自身の研究と過去が「枯渇病」の発生に深く関わっていることが判明し、物語の中心的な役割を担うことになる。
彼女の出身地は、かつて豊かな鉱物資源を産出したが、過度な採掘によって環境が著しく悪化した「旧第三鉱区」とされる。この地域は慢性的な大気汚染と土壌汚染に苦しんでおり、彼女は幼少期に、故郷の植物が生命力を失い、灰のように崩れ落ちていく「灰化現象」を日常的に目撃していた。この原体験が、彼女を植物工学、特に劣悪な環境でも生育可能な種や、環境を浄化する能力を持つ植物の研究へと向かわせる強い動機付けとなった。彼女は幼い頃から学術的な才能を示し、アイギス中央アカデミーの奨学制度を利用して特待生として選抜された。アカデミーでは生態工学とエネルギー変換学を専攻し、特にエーテルプラントの潜在能力に着目した研究で注目を集めた。卒業後は「アイギス植物研究所」に入所し、当時の所長であったアリス・ウィステリア博士の指導を受けることとなる。研究所では、エーテルプラントから高純度のエネルギーを安定的かつ効率的に抽出する新技術「オリヅルラン・プロセス」の基礎理論を確立した。この成果はアイギスのエネルギー問題に光明をもたらすものとして高く評価され、彼女は主任研究員という異例の速さでの昇進を果たした。しかし、彼女の研究手法は既存の理論や倫理規定を度外視することも多く、研究所の保守的な上層部や、自然の摂理を重んじるアリス博士としばしば対立していた。
物語における彼女の初登場は、アイギスの厳重管理区域である「レベル4植物試験場」である。主人公たちは「枯渇病」の手がかりを求めてこの区域に侵入し、そこで違法な野外実験(レギュレーション違反の高濃度エーテル注入実験)を行っていたモパネと遭遇する。彼女は主人公たちを侵入者として拘束しようとするが、彼らが所持していた「枯渇病」のサンプル(未知の変異菌)に強い学術的関心を示す。彼女は自身の研究施設と情報へのアクセスを提供する見返りに、主人公たちにサンプルの追加採取と、病原菌の生態調査への協力を要求し、一時的な協力関係が成立する。物語中盤、彼女が開発した「オリヅルラン・プロセス」の技術データが、アイギス内部の軍事強硬派によって盗用される事件が発生する。この技術は植物を急速に成長させるだけでなく、異常な攻撃性を持たせることも可能であり、結果として制御不能な植物兵器「ソーン・クリーパー」が市街地で暴走する。モパネは、自らの研究が引き起こした惨状を目の当たりにし、技術者としての責任を痛感する。彼女は主人公たちと本格的に協力し、暴走した植物兵器の活動を停止させるため、エーテルプラントの生育パターンを逆用した「カウンター・シグナル」の開発と実行に奔走する。物語の終盤、彼女は「枯渇病」の正体が、かつて自らが理論段階で破棄したはずの「自己増殖型エーテル捕食菌」の変異体であることに気づく。これは、彼女が「オリヅルラン・プロセス」を考案する過程で生まれた副産物であった。彼女は自らの過ちを公に認め、研究の全データをアイギス管理局に提出する。そして、汚染された大陸全土を浄化し、捕食菌を根絶するための最後の手段として、自らの名を冠した大規模環境再生計画「プロジェクト・モパネ」の実行を決意する。
アリス・ウィステリア博士は、モパネの恩師であり、彼女の才能を最初に見出した人物である。しかし、研究に対する姿勢は対照的である。アリス博士が「自然との調和」や「段階的な環境適応」を最重要視するのに対し、モパネは「積極的な技術介入」と「効率」による環境制御こそが最善であると主張する。二人は「オリヅルラン・プロセス」の危険性を巡って激しく対立し、一時は袂を分かつことになる。しかし、物語の進行と共に、互いの主張の利点と欠点を認め合い、最終的には「プロジェクト・モパネ」の実現に向けて協力する関係となる。主人公たちに対しては、当初は「利用価値のあるサンプル採取者」として見ており、非常にドライな態度で接していた。彼女は主人公たちの持つ情熱や理想論を「非合理的」と一蹴していた。しかし、彼らが危険を顧みずに他者を助けようとする姿や、彼女自身の研究の暴走を止めるために協力する様子を見るうちに、徐々に彼らを信頼するようになる。特に、主人公が持つ「枯渇病」への特異な耐性が、捕食菌の抗体を開発する鍵となると判明してからは、彼を研究パートナーとして対等に扱うようになる。敵対組織である「ダスト・イーター」とは、彼女の研究成果を巡って何度も衝突する。「ダスト・イーター」は、彼女の技術が自然のバランスを破壊するとして強く非難し、研究施設の破壊活動などを行っていた。モパネは彼らを「技術の進歩を妨げる蛮族」と呼んでいたが、内心では彼らの主張(技術の暴走がもたらす危険性)が正しい部分もあると認識しており、その葛藤が描かれる場面もある。
彼女の基本的な性格は、極めて合理的かつ論理的である。感情の起伏を他者に見せることはほとんどなく、常に冷静な分析とデータに基づいて物事を判断する。会話においても、比喩や感情的な表現を好まず、事実を淡々と述べる傾向がある。彼女の最大の関心事は研究の進展であり、真理の探求のためなら、社会的な慣習や規則、時には他者の感情を無視することさえ厭わないという危険な側面を持っている。このため、研究所の同僚や主人公たちからは、しばしば「冷たい人間」や「研究に取り憑かれたマッドサイエンティスト」と誤解されることも多い。しかし、彼女の行動原理の根底には、故郷で目の当たりにした「灰化現象」の悲劇を二度と繰り返したくないという、非常に強い情動的な動機が存在する。彼女が目指しているのは「技術による自然の完全な制御」であり、それこそが人類と環境が共存できる未来を実現する唯一の道であると固く信じている。それ故に、自らの理論や研究成果に絶対的な自信を持っている一方で、それが不完全であったり、予期せぬ悪影響を及ぼしたりすることに対しては、強い不安と恐怖を抱えている。作中では、自らの理論の根本的な欠陥をアリス博士に指摘された際に、激しく動揺し、取り乱す場面も描かれている。彼女は自らの研究がもたらす結果に対して、誰よりも強い責任感と誇りを持っている人物である。
モパネ・オリヅルランの存在と彼女の研究は、物語『クロノ・ガーデン』の根幹をなすテーマである「科学技術の進歩と倫理」を象徴している。彼女が開発した「オリヅルラン・プロセス」は、アイギスのエネルギー問題を解決する希望の光であると同時に、「枯渇病」や「植物兵器」といった深刻な災厄を生み出す原因ともなった。この二面性は、「力(技術)には常に責任が伴う」という物語全体の主題を、読者に対して具体的に提示する役割を果たしている。また、彼女自身の内面的な変化も物語の重要な軸の一つである。当初は自らの研究成果のみを信じ、他者を顧みない人物であった彼女が、主人公たちとの出会いや自らの研究の失敗を経て、他者と協力することの重要性や、自らの過ちと向き合うことの必要性を学んでいく。彼女が最終的に「プロジェクト・モパネ」の実行、すなわち自らの研究のすべてを公にし、その危険性ごと世界に示すという決断を下したことは、物語のクライマックスにおける最大の転換点となった。彼女のこの行動は、主人公たちの運命だけでなく、アイギス全体の技術に対する未来の指針にも、決定的な影響を与えた。