誰がために黒兎は戦う ◆l.qOMFdGV.



 かつん、かつん、と、本来ならばざわめきに掻き消されるだろう高い足音が、人が時を過ごした証拠に薄汚れた、しかし不潔感のない県立空美中学校の廊下の空気を震わせた。生気が失せた廊下に射し込む陽光は、密度のない空間に溶けて虚しく消える。
 そう、本来ならば暖かい喧騒に満ち、大人の庇護のもと伸びやかに笑う子供の城である学校。それが悲嘆と憎悪に彩られ、何かの庇護にすがることも許されない殺し合いのステージとして用いられる……。
 「皮肉が効いてるな」と独りごちるのはグリードが一人。昆虫を思わせるメタリックな装甲を時折照り返らせて歩くウヴァだ。その複眼は何を映すのか、ウヴァはただ揺るぎない足取りで歩み続ける。
 学び舎を血で汚すことに罪悪感はなく、また他に感慨もない。それでも、よき事のために建てられたものが悪意に充たされることが何よりの皮肉であることは、充分に理解できた。

 廊下の端に差し掛かり、ウヴァは足を止めた。脇を見やれば遥か上階へと、踊り場でぶつ切りにされた階段が続く様が見える。目的地はその先、屋上だ。

 戯れに階段を数えながら登る。果たして、踊り場までの段数は、どうやら十二段からなるそれであるらしかった。何の気なしの行動だったが、一つ連想されることがあった。絞首刑の処刑台の階段は十三段、と言われる都市伝説だ。
「どこまでいこうと処刑台には届かない十二段、か」
 まるで殺人こそが罰されない正解であるこの場を象徴するようだと、踊り場で折り返し足を止めることなく階段を行き続けながら、柄にもなく詩的なことをウヴァは胸中で溢す。
 他に何を思うところもない、ただ底無しの欲望が全てを飲み込む穴を空けるその心の中で、小さく何かが蠢いた。そんな気がした。

 それが、人間でいうところの「後ろ暗い期待」と「被虐の喜悦」がない交ぜになった思いであったとは、少々蛇足が過ぎるだろうか。

◆●
 人気のない校舎の階段を登るウヴァには、いくつか考えることがあった。
 陣営間の戦力差の不公平についてと、それに関連したウヴァ自身の方針だ。

 戦力差の具体例をいくつか述べよう。
 例えば仮面ライダーW。
 あの憎きオーズに匹敵する力を持つ、二人で一人の仮面ライダーだ。つまりこれは誰もが認める強大な「戦力」ということになる。これを思うがまま振るえられれば、陣営の勝利は大きく近づくことだろう。
 ところが、である。「二人で一人」に変身するWであるが、変身後の超人を操る意思の主導権は、ウヴァの陣営にいる二人の片割れ、フィリップだけが持つ訳ではない。最悪なことに、カザリ配下の左翔太郎なる男もまた、その超人を操る術を握るのだ。
 それだけならまだ仮面ライダーWという戦力は、ウヴァとカザリの共通戦力と言ってもよかったかも知れない。だが、Wの肉体自体は翔太郎の物であり、つまりその戦力は本質的にカザリの陣営に属することになる――不公平だろう。

 例えばバーサーカー
 人を超え英霊という存在にまで昇華したソレは、文句の付け所のない一級品の「戦力」だ。首輪の制限からバーサーカーが完全に解放されてしまえば、同じく戒めを取り払い完全態となったウヴァでさえ確実に勝てるとは言い切れない、正真正銘の化け物だ。つまり現状のバーサーカー、その戦力は、制限があるにも関わらずサーヴァント、いや全参加者中トップクラスのそれとなる。
 そのようなパワーバランスを容易に打ち砕く駒をアンクの陣営が持つ――不公平極まりない。

 例えば志筑仁美
 彼女の友人らはみな揃いも揃って魔法少女なる超越者だという。時を操り剣を振るい、槍で薙ぎ弓で穿つ。時を操るのはともかく魔法少女だというのに武具を振るうなど「魔法」の部分が少ないのでは、なんてウヴァの疑問はさておき、いずれも超常の力を振るうばりばりの武闘派だ。
 そんな中。ウヴァの陣営にいる志筑仁美は、彼女らの関係者のうちただ一人――ただ一人! ――、何の変哲もないいたいけな少女なのだ。しかも何やら真木に渡された資料によると、ここにいる彼女は「魔女の口づけ」なるものを受け正気を失っているという――不公平と呼ばずして何と呼べようものか。

 無論、仮面ライダーWにせよバーサーカーにせよ、通りいっぺんに陣営へ尽くすような連中ではなく、陣営戦のための戦力として運用するのであれば、籠絡は一筋縄ではいかないだろう。それは上記の例以外の戦力においても同様だ。そもそも戦力非戦力問わず、ウヴァのいう「不公平」はかなり平等に陣営へ配分されている。故に、参加者たちを一概に「陣営の戦力」という単位で測るのは不可能だ。

 とはいえ、戦力差は戦力差である。戦って勝利するのであれば、どのように言葉遊びをしようと立ちふさがる「障害」であると言えよう。
 が、これは、この主観的な戦力差の不公平は、「己以外の参加者は全て障害」と捉えたウヴァにとって、バトルロワイヤルに付随するちょっとしたゲーム性とでも言うべきものになっていた。

 言うなれば「参加者」は陣営という名のグリードを成す「セルメダル」だ。コア、つまり陣営のリーダーを包み、それを守る肉の壁。そのコアを穿つ前に立ち塞がる「障害」。通常のセルメダルとの差異は、コアたるウヴァ達の意に沿わぬことだけだ。
 例え陣営の盟主に従わずとも、彼らは生きるため、グリードと真木に反逆するため、彼ら自身の欲望のために戦う。往々にして人の意思は干渉しあい、反発しあう。その矛先がどこを向くにせよ、「セルメダル」は誰にとってもまごうことなき「障害」となるだろう。
 この個の意識を持った「セルメダル」が鎬を削りあう様は、さながら大量の水がぶつかり合う激流だ。陣営を同じくしても向きを同じくしない、千差の意思ベクトルが渦巻くその中をウヴァ一人のまま進もうとすれば、その苛烈な「障害」の流れに飲み込まれるのは道理というものだろう。

 そんな己にとっても敵にとっても、各人以外の全てが「障害」たりうるこの場で、万難を排すとまではいずとも、その激流を乗り越え、立ちはだかる関門を減らすには如何に立ち回るべきか?
 そして、結論としてウヴァはこう考える。

 ――一人で流れに呑まれると言うのなら、一人でなければいい。
 ――このゲームの本懐は、いかにして己に従う兵力を増やすか、それに尽きるのだ。
 ――一人では飲み込まれる欲望と悪意の激流を、向きを同じくする数の力で乗りこなす。
 ――陣営間の戦力差はそうして越えるべき「障害」の一側面でしかない。
 ――そして、自陣営へ引き入れる……つまりその意思に勝利という向きを与えることで「障害」を越える足しとする、また陣営間の戦力差を覆すための足しともなるボーナス、いわば「勝利の鍵」として存在する寄る辺のない兵力が、紫陣営。

 ――この戦いは、「仲間」がものを言う。

 意のままになる戦力を補強すること。常よりオーズに破られ歯噛みするしかなかった小細工を弄するより、陣営に、己に貢献する戦力を集め勝利の筋道を立てること。
 数さえ集まれば激しい流れを乗り越えられる。上記のバーサーカーの例にあるような、個人単位の戦力差の「不公平」すらも容易く飲み下すだろうというのは、想像に難くない。
 勿論従わない者もいるだろうが、それは放置しておいても大きな問題はないだろう。干渉し合う個の「セルメダル」は、間違いなく敵の「セルメダル」を減らす。ならば好きにさせておき、やりたいようにさせるべきだ。その間に、一つの意思を持って突き進むウヴァとその手の内にある兵力が動き、他陣営のグリードを狩るなり「セルメダル」を間引くなりすれば、非常に効率よく陣営のアドバンテージが稼げるだろう。
 万が一、勝手に動かせておいた連中がウヴァ自身の勝利への道に立ちはだかるようなら、数の力で適宜排除していけばいい。

 つまり、「仲間」だ。セルメダルに例えられた自陣営の者たちではない。れっきとした己の血肉となる「己」。それを作ることができれば、勝利とほぼ同義だ。
 グリードに匹敵する戦力がさほど珍しくないこの場において、様々な問題点に目を瞑れば、これは非常に確実性の高い「策」だった。

 スタート地点がとある紫陣営の人間のそばであったことはウヴァにとって全く僥倖なことであった。
 誰の唾もつかない、無垢のままでいる彼女を手始めに勧誘できれば、ウヴァ自身の野望へと大きく前進する。頭の回るカザリや狡猾なメズールの間者でないと言い切れる存在を手駒にできることは、非常に大きな利点だ。

「俺はツイてる。完璧な作戦だ……」
 小声は誰に届くことなく、屋上のドアを目前にした踊り場で溶けて消える。
 一呼吸とおかず蹴破ったそのドアの向こうには、果たして小柄な少女が一人、ウヴァに背を向け立っていたのだった。

●◆●
 透き通るような銀髪、子供のような矮躯。眼帯に隠された左目は伺えこそしないが、どのような色を浮かべているかは容易に想像できる。もう片方の赤い右目、強く虚空を睨みつけるその眼を見れば、彼女の想いは理解できるからだ。

「馬鹿な奴だ」
 腕を組み、そんなことを言いたい訳ではないのに、そんな言葉しか出てこない自分に歯噛みする。ラウラが嫁と呼ぶ男の心中を察してだけではない。これは確かに、ラウラ自身の感情であった。

「仇は討つぞ。箒」
 決意を口にして、その形を新たにする。
 仲間は、友達は、これ以上傷つけさせない。
 まるで嫁のように甘いことを言うな、と場違いな苦笑が彼女の口の端に浮かんだ。ドイツからIS学園へ来た当初ならあり得ない考えだろう、軍人として部下に対する考えではなく、親愛をもって感じる友への想い……。こんな風に思えるようにしてくれたのは、嫁とあの騒がしくも愛おしい仲間たちだ。

「いや……箒も嫁も、仇討ちなんて望まんな」
 彼らのことを想うと、胸が熱い何かで満たされる。しかし奪われた穴は、決して埋めることができない。
 これ以上の欠員は認められない、とラウラは呟いた。部下と違って――無論部下らも掛け替えのない存在ではあるが――、ラウラと対等な彼らは何より大切な存在なのだから。

 険しい表情を崩さぬまま虚空を眺めるラウラ。だが、その瞳はただ抜けるような青空を反射している訳ではない。彼女の“視界”に写るのは現在地よりはるか五キロ先、D-2に鎮座する大桜の根元で起きている騒乱だ。

 真木のいうところの制限のためか性能が著しく落ちているハイパーセンサーでは、越界の瞳と併せて運用したところでたかだか前方五キロすら見通せない惨状である。ではなぜラウラがその騒乱を見ることができているのかといえば、これもまた真木の差し金、「支給品」とやらの力だった。
 魔界の凝視虫(イビルフライデー)というらしいそれは、実におぞましい外見をしていた。眼球に虫を彷彿とさせる手足を生やさせ、不快な音を立てながら動き回るそれ。小瓶の中に緑色の粘液と共に詰め込まれていたそれは、持ち主――この定義は瓶を者だ――の指示した現場まで飛んでいき、そこで己が身体を成す瞳に映す映像を持ち主の視界にそのまま映し出す力をもつと言う。
 瓶に巻きつけられた説明書を一通り読み、ラウラはものは試しと虫の一匹にその射程限界である「地図ひとマス分の距離」まで飛ぶように指示を下した。そして見つけたのが、大桜の根元で戦う三つの人影だった、という訳だ。

 嫁を連れて見に来れば、さぞ雅な光景が楽しめるだろう――そんな感慨を抱かせる大桜はしかし、もはや「花見」などという平穏からかけ離れた彼岸に居た。その根元で暴れる「異常」が、大桜を殺そうとしている。

 ――ラウラはそこで起こった殆どを眺めていた。
 見れば見るほどぼやけていく謎の黒い甲冑。
 さながらISを発動する際のように光を発しながら纏う服を変えた変身する少女。
 甲冑が吼え、少女もまた応ずるように不敵に笑う。
 これもまたISの武装のように虚空から取り出す槍を振るい、鎧が持つ竿竹と何合も撃ち合う少女。
 決めの大技を打ち破られた彼女が陥る劣勢、そして現れる、二人の助っ人。さらに加速する激戦――。

「……近いな。おい、離れろ……おい、あっ」

ラウラに眼球が破裂する怪我の経験はなかったが、それはおそらくこういうものなのだろう。視界いっぱいに広がった瓦礫が魔界の凝視虫――つまりラウラ自身の眼球を押しつぶす瞬間は、なんら影響を受けていないはずの瞳を庇いたくなるほど不快な経験だった。

「くそ、一匹減ってしまった」
魔界の凝視虫の数は少なくはないが当然ながら有限だ。有用さを実感した今となってはたった一つの消費がとてつもなく惜しまれるものだった。

だがそのことは捨て置こう、もはやその程度の些事に構うより、もっと重要な事項がある。
凝視虫が見た限り、あの戦場にラウラの尋ね人はいない。だがあの明らかな危険人物である黒い甲冑、その驚異的な戦闘能力は充分に警戒に値する。あれの観察と情報収集は、現時点において仲間を探すことよりも重要度が上だ。
仲間のためにもアレは「遭遇した場合、出来るならば確実に排除せねばならない敵」としなければならない。もう一度送りだそうと瓶に指をつっこみ、ぎょろりと凝視虫の視線が彼女の指に注目したことに不快感を覚えた、その瞬間だった。

ISのハイパーセンサーは制限によってか、思うようにその感知できる範囲を広げられない。だがラウラがいる屋上に近ければ、それは充分に機能する。
即座に瓶の蓋を閉めデイバッグに放り込む。同時にハイパーセンサーに全神経を集中させて、その“音”を聞いた。

 誰かが階段を登ってくる。その足音だ。

◆●◆●
 機先を制したのはラウラだった。
「失せろ」「おい! おま……ぐっ」
 闖入者が遮られ、言葉を詰まらせる様子は見ずとも理解できる。

 鞄に瓶を詰めたのち、ラウラは未だに屋上の扉に背を向けていた。故にその眼にウヴァは収まっていない。ハイパーセンサーには背面を視界として捉える機能もあるが、それすら機能させていない状態で、だがラウラはその声の主を看破した。忘れもせぬ、あの場にいて、箒の命を奪った真木に最も近い場所にいた怪人だ。

「貴様か、虫頭」
「誰が虫頭だ、小娘!」
「くだらん挑発に乗るそこが虫だというんだ」
「貴様……!」

 重ねた挑発に耐えかねて、声の色を苛立ちから怒りへと変えるウヴァ。本来の目的を忘れウヴァはラウラに詰め寄ろうと足に力を込め、そしてようやく気付いた。

「う、動かんっ」
「ふん」
「AIC……かっ」
「ほう、博識だな、虫頭。こちらに来ないで失せるつもりなら解除してやろう。私は貴様らの望むような殺し合いはしない、故に貴様も殺さない。……ああ、だが、失せる前に洗いざらい、あの真木とやらの情報は吐いてもらうがな」

 AIC制御のため、銀髪の上に顕現したウサ耳ヘッドギアが踊っている。蜘蛛の巣に捉えられた虫のようなウヴァの焦りに、ラウラは息をついた。そしてゆっくりと向き直る。純粋に己の視界にウヴァを捉えた、その瞬間だった。
 顕現しているISはヘッドギア部分のみ。エネルギーシールドも張らず、装甲を全て格納したまま振り返りウヴァに対面したのは、やはりラウラの油断という他ないだろう。
 虫を模したウヴァの触覚と角の間に、雷光が迸った。

「っ……ぐうぅっ!」「馬鹿が!」
 緑がかった稲光がラウラを手酷く打ちすえる。苦悶に歪んだその表情は泣くのを我慢する幼子のようなそれで、そしてウヴァは、そんなものに躊躇するような存在ではなかった。
 激痛とショックにラウラが手放したAICの操作に必要な集中力、その隙を逃さず、解放されたウヴァが飛びかかった。突き飛ばし、屋上のフェンスに押し付ける。

「ガキが……手古摺らせやがって」
「ぐっ……!」
 襟首を締めあげて、その手の鉤爪を突きつけ苛立ちを露わにするウヴァ。表情の読めない複眼だが、それは「ISを展開させれば殺す」と如実に物語っていた。

 命を握られたがそこで諦めるのはラウラの矜持と、仲間たちのために許されることではない。強い意志を持ってウヴァを睨みつけるラウラだったが、その襟元が解放された時は、流石に驚きを禁じえなかった。
 ウヴァはゆっくりと離れていく。それだけ呼び出されたヘッドギアが、ラウラの頭上で呆けるように揺らめいた。

「いやあ、すまないすまない。ついカッとなっちまってねえ? 俺のよくないところだなあ? ふふん」
「……何のつもりだ」

 乱れた襟に手をやりながら、豹変したウヴァにちょっとした寒気を感じるラウラだ。まるで子供に話しかけるような、どこかずれている猫撫で声は、生理的な嫌悪感すらを呼び起こすほどのものだった。

「いやいやぁ、俺はお前と戦いに来たんじゃあない。ちょっとしたお願いがあってなあ」
「…………」
「お前……、俺の陣営に入らないか?」
「何を……」

 突拍子のない申し出に一瞬ラウラの表情が固まる。それは、間をおかず湧きあがる怒りであっという間に残らず消えた。

「貴様、どの口で!」
「ん? ああ、あの箒とかいう娘か。可哀想だが仕方ない」
「よくも……!」
「お前、あの娘が死んで悲しいんだろう?」
「黙れ黙れ黙れ! これ以上箒を恥ずかしめることは許さん!」
「AICを使う集中力すら残らんとはなぁ、扱いやすい小娘だ……まあいい。ともかく、その悲しみをこれ以上増やしたくもないだろう」
「黙れ……!」
「それに、元いた場所に皆揃って帰りたいだろう? そのためにはお前はどこかの陣営に入らなければならん」
「だからなんなんだ……!」
「俺のもとに来れば、その両方の欲望を充たせるということだ」
「……?」

 問答が進むにつれて怒りの破棄すらラウラから失われていく。箒がいなくなった胸の穴に、感情の全てが吸い込まれていくようだ。その傷を刺激するウヴァへの怒りすら枯渇しかけたその時、ウヴァのその言葉は、まるで――。

「俺は陣営を勝利させたい。お前は元いた場所へ帰りたい……何を迷うことがある?」
「……私の仲間がいなければ、帰ったところで意味はない……」
「俺の陣営には凰鈴音がいる」
「!」
「他の連中は別の陣営だが……、なあ、優勝するってことはどうすればいいんだろうなあ?」
「……リーダーを殺すんだろう」
「そうだ、その通りだ。ルールブックは読んだか?」
 小さく首肯するラウラ。満足げにウヴァは笑い、
「だったら話は簡単だ。リーダーを殺してその陣営の連中を無所属にして――今のお前と同じだな――、そいつを俺の陣営に入れてやればいい」

 それは、光明にも似た悪魔のささやきだった。ショックからは未だ立ち直らずにいるが、徐々に冷静さを取り戻しつつあるラウラは、その策への疑問がふつふつと湧いてくる自分に戸惑う。
 疑問が湧いてくる、つまり、自分はその策を「受け入れてもいい」と考えているから――。

「……お前がその策に乗る保証は」
「俺も優勝したい。戦力が増えるためにはこの策だって乗るさ」
「……もし。もし敵のリーダーを撃破するまでに、私の仲間が……その」
「ああ、その点に関しては解決策がある」
「き、聞かせろ!」
「今は言えんなあ……。欲望は全てを解決する、とだけ言っておこうか? ふははっ」
「……優勝したところで、本当に帰してもらえるのか……」
「そこは信じてもらうしかない……が、そのほかの手段よりはよっぽど確実だな」

 しらばっくれるウヴァにラウラは思わず歯噛みする。
 未だ迷っている様子の彼女に、ウヴァは変わらず面白がるような調子の猫撫で声で、次なる言葉を吐いた。

「お前の友達も、お前と同じようなことを考えるだろうなあ……。だがあいつらはアマちゃんだ。どうせ『真木を倒して大団円!』とかそんな馬鹿なことを考えてるだろうな? ……首輪があるのに」
「……!!」
 コツコツと指で首輪を示して見せるウヴァの意図は明確だった。『逆らえば爆発させることもできる』……。

「俺たちには爆破権限はない。が、真木がどこでここを見てるか知れんからな。反逆の芽は早めに摘もう、なんてな」
「……うう……っ」
「だがな」

 一呼吸。表情のないグリードにも関わらず、ラウラにはその笑みがより一層残虐になったように感じられた。

「俺が口利きして、それを見逃すようにしてやってもいい。その代わりお前は俺の陣営に入り、俺と共に優勝を目指せ」
「しかし……」
「何を迷うことがある? 『優勝』を目指すのは、アマちゃんでないお前にしかできない選択肢だ。一番信頼できる選択肢を、何故見逃す?」
「…………」
「冷静になって、よぉく考えるんだ。ラウラ・ボーデヴィッヒ……はははははっ!」

「……。……わた、し、は……」

●◆●◆●
 ウヴァの策には、言うまでもなく大量の欠点がある。

 他の連中も結託したら?
 一人なら対処できるとして大量の裏切りが同時に起こったら?

 挙げればきりがないが、冷静さを失っていたラウラがそれを考慮することはできなかった。
 それに、落ち着きを取り戻しつつある今になっても、その策自体の有効性は、首を横に振れない程度にはあるのだ。乗れば、そして上手く事が運べば大きなリターンがある策……。

 ラウラは今、ウヴァに従い校舎を下りている。もう少し、もう少しだけ屋上から見えた戦場を見ていれば、彼女の想い人を見つけて、もっと違う結末があったかも知れない。
 だが、ラウラは今、ウヴァに従っている。その首元の戒めは、もはや紫色の光を放っていない。禍々しい緑が、そこに灯っていた。

 階段を降りる際、何の気なしにその段数を数えてみたところ、その階段が十三段であると知れた。それに関連して、ある都市伝説がラウラの脳裏をかすめた。
 絞首刑の処刑台の階段は十三段、という都市伝説だ。

「私は処刑台を降りてるんじゃない」

 これから登るのだ、と続きは胸中でこぼす。嫁のため、仲間のためと言い訳をして手を汚そうとする私は、さて、正しいのかどうか。
 何か言ったか、と振り向くウヴァを適当にやり過ごし、睨みつけるように天井を仰ぐ。

 彼女の先には何が待っているのか、それは誰にもわからない……。

【一日目-日中】
【D-1/県立空美中学校F3】
【ウヴァ@仮面ライダーOOO】
【所属】緑
【状態】健康
【首輪】110枚:0枚
【装備】なし
【道具】基本支給品、ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、ランダム支給品0~2(未確認)
【思考・状況】
基本:緑陣営の勝利、いいなりになる兵力の調達
  1:こんなに上手くいくとは。優勝も遠くないな。
【備考】
※参戦時期は本編終盤です。
※ウヴァが真木に口利きできるかは不明です。
※ウヴァの言う解決策が一体なんなのかは後続の書き手さんにお任せします。
※セルメダルは戦力増強に成功したため増加しました。

【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】
【所属】緑
【状態】精神的疲労(小)
【首輪】90枚:0枚
【装備】《シュヴァルツェア・レーゲン》 @インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、魔界の凝視虫(イビルフライデー)×二十匹@魔人探偵脳噛ネウロ、ランダム支給品0~2(確認済)
【思考・状況】
基本:仲間と共に帰還する、そのために陣営優勝の手助け
  1:ウヴァに協力する。
  2:この怪人は信じられるのだろうか?
  3:これも嫁と仲間のため、だから仕方ない……
  4:あの黒い甲冑は、出来るならば撃破したい。
【備考】
※魔界の凝視虫(イビルフライデー)が瓶から離れることのできる距離は「地図のひとマス分」=五キロです。

【全体備考】
※D-1の県立空美中学校の屋上へと繋がるドアが蹴破られています。


026:青い薔薇は愛ある印! 投下順 028:Iの慟哭/信じたいモノ
026:青い薔薇は愛ある印! 時系列順 029:Sの誇り/それが、愛でしょう
000:終わりと始まりと殺し合い ウヴァ 030:金獅子は騎士として全力を尽くす
GAME START ラウラ・ボーデヴィッヒ


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2013年11月01日 15:35