終わりと始まりと殺し合い ◆l.qOMFdGV.
OOO OOO OOO OOO
半球状の天井は高く、それと床の間を充たす静謐は闇で覆われている。
動く者のないその空間に己の望む「終末」を垣間見たように感じた真木清人は、背筋を走る興奮に小さく身を震わせた。
感じた、とは言え彼がお膳立てしたこの戦いの宴、その幕開けといえば確かに「終わりの始まり」に相違ない。
故に、この感覚はあながち間違いとは言えませんね、と、彼は胸中で小さく零した。彼の上腕に座る魂なき人形が、小さく笑った。
OOO OOO OOO OOO
《オープニング》 終わりと始まりと殺し合い
OOO OOO OOO OOO
「寒いのか」
前触れなく、闇の中から彼を慮るような言葉が飛んだ。確かにここの気温は低い。真木を中心に据えたドーム、
無限を思わせるほど広大なその床に、彼を取り囲むよう転がる「参加者達」も、その寒さにいずれ目を覚ますことだろう。
オールバックに緑色のジャケットを着こなすこの青年は、端から見ても判るほどに震えた自分のことを気遣ったのだろうか――いや、と、真木は考えを否定する。
彼らグリードには欲望しかない。コアメダルとセルメダルによって作られたグリードは、何をしても決して満たされない飽くなき欲の化身だ。
だというのに全てを求めて止まないグリードらには、己の欲以外について思考するような余裕は存在できない。
畢竟、真木に声をかけた事すら、仲間を慮っての事ではなく、己の欲を充たす事にのみ繋がっている。
最もそれは、紫色のコアメダルを体内に持ち、グリードへと変貌しつつある真木とて同じではあるが。
「随分とグリードに近づいてるようだけど、そんな人間みたいな感覚がまだ残っていたのねぇ?」
そんな調子で大丈夫なのかしら、と婀娜っぽく嘲笑うのは
メズールだ。ブーツに扇情的なももをむき出しにするパンツ、
カジュアルなブラウスを合わせたどこにでもいそうな少女は、しかしグリードである。
先に真木へ声をかけた
ウヴァに並ぶように立った彼女――それ、と言うべきだろうか。グリードに命はなく、メダルだけで出来た存在だ――は、
ウヴァにしな垂れかかり、それを嫌がるウヴァの振り払う仕種にやれやれと首を竦めた。じゃれあうようなひどく「人間じみた所作」に、真木の背に今度こそ本当の寒気が走る。
「何も問題はありませんよ。ウヴァ君、メズール君」
真木は、震えた時だろう、気づけばそっぽを向いていた腕に座る人形の居住まいを正しながら答えた。
「私の欲望、君達の欲望。全ての終着点がもはや視界に入っているのです。今更問題など、おこるはずがない」
いつになく饒舌な真木を見るメズールの目は鋭い。何を思うのだろうか、その目に自分の視線をかちあわせた真木が少しだけ考えたところで、それをウヴァの脳天気な声が遮った。
「ならいい、ならいい」
メズールを離れ、真木に並びたち、
「気を悪くしないでくれ、ドクター。俺はあのオーズとの戦いでコアをくれ加勢してくれたお前を信じているぞ」
真木の肩を叩く。
『連れて来られた』タイミングの関係で、その一瞬先に起こること――例えば、ウヴァの拒否を意に介さず、その器の許容量以上のコアを真木が捩込むだとか――
を知らないその身は実に滑稽で、もはや真木にはその手を振り払う気力すらわかない。
「……そうですか。ありがとうございます」
おざなりの感謝に満足したのか、ウヴァは頷き真木から離れていった。そんなウヴァに小さく鼻を鳴らすメズールを尻目に、真木は黙したまま歩を進める。
そして、「参加者」達が芋のように転がるドーム内を視界に収める。
もう間もなく、異常を感じ取った鋭い者から目を覚ましてゆくだろう。程度の差こそあれ、ここに集められた者の多くは己の物語を苛烈に生き抜く戦士だ。
物理的に戦う力を持つ戦士も、そうでない戦士もまた一様に、ここで美しい終末を迎えるべき者たち――
と、そんな闇の中、一つの影が横たわり動くことのなかったその身を震わせた。真木が睥睨する闇の下には、未だ多くの人影が眠っている。
しかし異常は確実に伝播し、地に臥したままでいることを許さない。
「そろそろか」
ウヴァが呟き、真木の背後の方向に横たわる「参加者」を見回したことが気配で知れた。
「ウヴァ君、メズール君」
「わかってるわよ」「任せておけ」
短く言葉を交わし、二体のグリードが真木に背を向ける。背中合わせに三人、ドームの全周を見渡す形になった彼らの視界のなか、「参加者」たちはゆっくりと覚醒していく。
「さあ、始まりますよ」
呟くそれは一体誰に宛てた言葉なのか――
OOO OOO OOO OOO
真木清人、一世一代の大舞台。終局の序幕が今、確かに切って落とされた。
OOO OOO OOO OOO
知己を捜す声が飛び交う。しかしそれが用を為すことはない。それは単純に「連れ去った」のちこのホールに転がす時、知己同士の距離を離していたため。
そしてもう一つ、メズールが発する超音波によるジャミングのためだ。波長を乱された波は雑音となり、求めるものの耳朶を打つことなく消える。
音は聞こえどもその意味を解することができないという状況は、力のないただの人からだけではなく百戦錬磨の兵(つわもの)からも、勘任せの行動を起こすという選択肢を奪った。
覚醒していないものはない。「参加者」達の視界は、夜目が利くはずの者のそれすらも闇に飲み込まれている。前述の事柄も合わせ、
耳目の官を奪われたにも関わらずの無謀を働く愚か者がないことに満足し真木は、
「頃合いですね」
と呟いた。
OOO OOO OOO OOO
「おはようございます、皆さん」
雑音と暗闇に覆われた世界に突如として、明瞭な声と男の姿が映った。黒いスーツに眼鏡は落ち着いた大人といった雰囲気を与えるが、
その左手上腕に腰かける白い人形とのコントラストは、雰囲気全てを違和感へと変える力があった。足元からのスポットライトで浮かび上がるその男真木に
誰何の声一つない訳は、誰もが呆気に取られていたからだろう。真木は先ほどとは違う静謐に充たされたドームの真ん中で一人続ける。
「まず招待状もなく君達を招待した不躾をお許しいただきたい」
さして大きくも明瞭なわけでもないその声は、闇に包まれたドーム中へ浸透していく。
「ここに集まってもらった理由は他でもありません。君達に頼みたいことがあるからです」
ウヴァとメズールは人間形態よりその真の姿、グリードとしての形態へとその姿を戻している。それぞれバッタとシャチを想起させる姿の二体は、黙してこの宴の主旨の宣言を待つ。
そして、真木より齎される、決定的な一言。
「――ここにいる62人。そして既に会場へと向かった3人のグリード……合計65人。君達に殺し合いをしてもらいます」
OOO OOO OOO OOO
それは「明日の天気は晴れそうだ」なんて適当に言うことよりも意味のある言葉なのだろうか――
そう問いたくなるほど簡単に、真木清人は言った。ざわ、と、真木を中心に衝撃と疑問の波紋が広がる。先まで音を妨げていた超音波はすでにない。
それに気付いてか気付かずか、ざわめきは確かに広がっていく。疑問、恐怖、怒り。いきなりそんなことを言われても何がなんだかわからない。そんな声が聞こえてくるようだった。
真木の投じた一石の波紋は様々な形の思いに姿を変える。そしてそれがドームの隅にまで行き渡ったと見るや、真木はやはり事もなげに言葉を続けようと――
「おいおいおい、ちょっと待てよおっさん!」「翔太郎、よせ!」「殺し合い……!?」「一夏!?」「真木博士!」「グリード……!?」「オカリン、どこだお!」「ダル君!」「まゆりっ!?」
――と、したところで。ジャミングがなくなり聴覚を、真木を照らす光により輪郭程度ではあるが視覚を取り戻した彼らの狂乱に、真木のその言葉は遮られた。
真木を照らす光源から離れてしまえば未だ隣の人間の顔すら判別できない暗さとはいえ、聴覚の復活は混乱を爆発的に増進させたのだ。
真木を注視し静寂を保つものは少なくないが――飛びかかり取り押さえんと身構える者すらいる――この混乱は、終末への前哨戦として相応しくない。
美しい終わりを迎えるための催しであるというのに、この狂態とは……。
いつの間にやら肩を竦めたキヨちゃん人形に倣い、真木は眼鏡の位置を神経質に直し、表情に苛立ちをだすことなく嘆息した。
「全く、嘆かわしい」
無表情に言う。その瞳に浮かぶ光は、既にヒトの括りにあるものに理解できるものではなかった。
OOO OOO OOO OOO
飛び交う言葉のボルテージはあがっていき、もはや怒号に近いものがある。
「アイリ……!」「智ちゃん!」「ジェイク!?」「ねねねねネウロ! なんなのこれ!?」「さやかちゃん、どこ!?」
ヒートアップしていく、疎通もままならない言葉たち、合流を求めてか駆け出す人影。熱狂が最高潮に達しようとする、その瞬間――
OOO OOO OOO OOO
「まゆりっ!」
真木の正面、一組の男女が互いに駆け寄る。パッと顔を綻ばせ、不安など消し飛んだといわんばかりの笑顔で駆け寄る少女に、必死な表情の白衣の青年。
互いの首には、服装に似合わない鈍色の首輪が嵌められている。その違和に気付けなかったことはさて、幸か不幸か。
「オカリン!」
俯瞰する真木がその手より銀色のコインを放った。コイン――セルメダルが少女の首もとに、狙いをあまたず飛んでいく。
それは、少女の首で鈍い光沢を放つ首輪に弾かれることなく吸い込まれ、そして。
「まゆり、どうして――」
そして響く、命を絶つにしてはあまりにも間の抜けたその音――
ぽんっ。
「――――――――――は?」
OOO OOO OOO OOO
この状況下で冷静にいることのできる人間は、この場においても少なくはない。そして、そんな彼らぐらいだろう。可愛らしい帽子を被って笑顔を浮かべた彼女が、
なぜ首と胴体とが泣き別れする羽目になったのかを即座に悟ることができたのは。
爆発音ののち、一瞬の静寂。己の身に何が起きているのか理解する前に、見知らぬ少女の身に何が起こったかを理解してしまった者たちの哀れな悲鳴がこだまする。
先んじて状況を把握していた者に続けて、光景を目の当たりにした全員が理解した。
少女がつけている首輪が爆発したのだ。いつの間にやら己にも填められていた首輪と、全く同じそれが!
白衣の青年がよろよろと頭を失った肢体に近づく。膝を折りそれを抱きかかえ、覇気のない声で、まゆり、まゆり、と繰り返し呼びかける。彼以外に動くものはいない。
動けるはずもない。セルメダルと爆発の因果を理解できなかったものは恐怖で、そして鋭いものは命を握られている現状を把握してしまったがために。
「お分かりいただけたでしょう」
茫然自失といった様の青年に集まっていた衆目をその一言が引きつける。
「君たちにつけられた首輪は私の意志によって爆発します」
改めて突きつけられた現実に寒気を覚えなかったものはどれほどいたことだろうか。
「説明しましょう、この殺し合いの……バトルロワイヤルの
ルールを」
真木の目が紫色に光ったように見えたのは、おそらく気のせいや光の加減なんていった陳腐なものではない――
OOO OOO OOO OOO
そして真木は滔々と語った。
いわく、この殺し合いは全部で五人いる「グリード」をリーダーとするチーム五つとチームに所属できないものたち、計六つの陣営によるチーム戦である。
いわく、「勝利条件」は所属するチーム以外のリーダーを屠ることである。
いわく、六時間ごとに行われる「放送」によりチームの戦績、その時点での死亡者、状況に応じての連絡事項が発表される。
いわく、首輪は「侵入禁止エリア」と呼ばれる、前述の「放送」により伝えられるエリアに踏み込むことで爆発する。他にもMAP外へ出ようとすれば爆発し、
バトルロワイヤル開始より24時間以上たっても死者が出ない場合は全員の首輪が爆発する。
いわく、超常の力は「制限」されており、その行使には「欲望を満たすことにより生まれるセルメダル」を必要とする。
いわく、――
「おいドクター。もういいんじゃないのか」
長すぎる説明に飽きたのだろう、観客に徹しきれなかったウヴァが真木の説明を遮った。背中合わせでウヴァは真木の表情を伺えなかったが、
真木の対面にいる「参加者」たちはひどく歪んだ真木の顔を目にした、ということは蛇足だろう。
「……いいでしょう。確かにほぼすべてのルールは説明し終わりました。もう一度確認したい場合は、各自に配布されるルールブックをお読みなさい」
白衣の青年はもう何も呟かない。そんな彼の背中に視線をやりながら真木は、
「……読まなければ、さぞや醜い終わりを迎えてしまうことでしょうから、ね」
OOO OOO OOO OOO
その背後でのことだった。待機状態にあったISと呼ばれるパワードスーツが、発光とともに展開する。瞬きするほどの間に無骨な闘争の武器を纏ったポニーテールの少女は、
紅い光に気を取られた人間の視線が彼女に集まるより早く、エネルギーソードを抜き放ち大地を蹴った。
「嬢ちゃん、よせ!」「箒!!」
「貴様らっ!」
激昂し吠える箒に、静止の言葉は届かない。
真木の背後に立つウヴァが咄嗟に飛び掛かり、IS『紅椿』に剛腕を打ち付けた。エネルギーソードとの鍔迫り合いになったウヴァは、ひどく焦った声で叫ぶ。
「おいドクター、どういうことだ! 制限があるんじゃないのか!?」
しかし真木は拮抗状態に陥った二人を見ない。黙したまま、少女の突撃に刺激され、けれど飛び出すことのできない戦士たちを見回し、呟く。
「あなた達は実に賢い。そんなあなた達が醜くなる前に――」
――業を煮やしたウヴァが振り向いてキヨちゃん人形としか視線を合わせられなかったその一瞬、少女は武装を一気呵成に押し切る。
「はあああっ!」「うぐおッ!」
大きく体勢を崩したウヴァを捨て置き、箒は叫んだ。
「お前は許さん! そのメダルを避けさえすれば――」
ぽんっ。
「――終末を迎えられることは、素晴らしいことです」
決して小さくない閃光と破砕音。爆風が真木の髪を揺らし、キヨちゃん人形は気付けば吹き飛ばされまいと真木の腕にひしとしがみ付いていた。
ISを操る少女、篠ノ之箒。正義感に任せて飛び掛かった彼女は、首輪が起爆しその命を絶たれてなお、その目から義憤の光を消すことはなかった。
OOO OOO OOO OOO
もはや身じろぎするものすらいなかった。起爆する方法がセルメダルだけだと誰が言いましたか、と真木は小さく呟く。
「ウヴァ君、起きなさい」
「ぐっ……」
ふらふらとバッタ頭が立ち上がった。周囲を視線で威嚇しながら、嘲るようにウヴァを見るメズールの横に戻るウヴァ。そちらをやはり見やることもせず、真木は口を開いた。
「ではよろしいですね。これ以上言葉にすることもないでしょう」
周囲を睥睨する。未だ混乱の中にあるもの、怒り心頭といったもの、既に二つの命が散ったこの宴に喜悦を隠さないもの。十人十色のその気色を、真木は美しいと感じた、気がした。
だからこそ終末を迎えなければならない。そうすることこそが真木の欲望の全てなのだから。
「会場へは転送させていただきます。各々の能力、武装はその時点で制限がかけられるので、無暗な発動に十分注意をしてください。支給されるセルメダルは、一先ずは有限です」
自分で生産しなければ、何もできないまま死んでいくことになるだろう……言葉の外にそう滲ませる。
今度こそ伝えるべきを伝え終わり、真木は言った。
「転送が終わり次第、あなた達にはバトルロワイヤルを始めていただきたい」
OOO OOO OOO OOO
転送装置の作動は指先を動かすだけで済む。それまでの一瞬、「参加者」の表情を目に焼き付けようと一拍置いたその時。
一人の男が手を挙げた。
OOO OOO OOO OOO
ドームの中央に立つ男が絶対的な支配権を持つことはもはや明らかである。だから、まるで挑発するようなその男を見る他の「参加者」たちの目は、
驚愕か侮蔑のどちらかであった。そんな中、挙手した男と真木の視線が交錯する。短い沈黙ののち、真木が頷いた。
「発言を許可しましょう、ワイルドタイガー君」
ワイルド君でいいよ、長いだろ、と嘯きながら男は、スポットライトの輪の中にゆっくりと歩を進める。真木の正面に進み出た男が纏ういかにも戦闘用といったスーツ、
その薄緑の肩の装甲が、光を反射してキラリと光った。
「まずはお呼びいただいたことに感謝するぜ。えーと?」
「……真木清人です」
「おお、そうかそうか。ミスター真木。こんな……こんな、くそったれた催し物、頼まれたって来たくはなかったけどな」
挑発的な言動、うっすらと笑いを浮かべる口元。一見、バトルロワイヤルを歓迎しているかのようなワイルドタイガーだ。
しかし、彼を見て気付かない……いや、気付けない者はいない。その目が理不尽な死を迎えた二人の少女への哀悼とその命を奪った悪人への怒りで強く、途轍もなく強く燃えていることに。
「宣言するぜ、ミスター真木」
「……何をです」
「俺はヒーローだ。ヒーローは決して悪人を許さない。真木清人……お前が何をやろうってんだか知らないが、それはこの俺ワイルドタイガーが全て止める! これ以上の……」
勇敢に散った少女、何もわからぬまま殺された少女、そしてその子のそばに蹲り、今もなお動くことのない白衣の青年を順繰りに見て、ワイルドタイガーは一瞬だけ瞑目した。
開かれた眼には怒りだけでなく、強い決意が浮かんでいる。真木に指を突き付けて、彼は叫んだ。
「……これ以上の殺人は一切許さねぇ! 誰も殺さないし誰も殺させない! その上でお前をふんじばって、法律で裁く! それが、俺のする戦いだ!」
OOO OOO OOO OOO
真木は何も言わない。ウヴァもメズールも、ワイルドタイガーへ視線すら寄越さない。くっ、と小さく呻いてワイルドタイガーは手をおろした。
睨むワイルドタイガーを見、他の「参加者」たちを見、真木はようやくもう一度口を開いた。
「……もうよろしいですね」
無視された形となるワイルドタイガーの視線が一層険しくなるが、意に介す様子はない。
「それでは、皆さんを会場へと転送させていただきます」
多くの人間が身構える。
「各自の奮闘を期待します」
言葉を切り息を吸う真木。そして言う。
「では、よき終わりを」
刹那の間も持たず、真木を残して全ての人間が消えた。彼を睨んでいたワイルドタイガーも、蹲ったままだった白衣の青年も、真木の背後のウヴァとメズールも、誰ひとり残らずだ。
ドームは再び静寂を取り戻した。前座の儀式は終わり、今度こそ『終末』が始まる。
「……よき終わりを……」
再び言葉を溢した真木を、キヨちゃん人形はその意志を持たぬ目でじっと見つめていた。
OOO OOO OOO OOO
やがてその姿も闇に呑まれて、ドームには誰もいなくなった……
OOO OOO OOO OOO
以上が『終末』の片鱗である。そしてこれが片鱗でしかない以上、本体が存在するのは自明のことであり、本体――《終わり》は真木の欲望の終着点へ向けて、その混沌で出来た巨体をゆっくりと、しかし確実に歩ませ始めたのだった。
【椎名まゆり@Steins;Gate 死亡】
【篠ノ之箒@インフィニット・ストラトス 死亡】
OOO OOO OOO OOO
主催するは終末の探求者。賛同せしは強欲の化身。確たる終わりに従い闘争するか逃走するか、それともあらがうか。己が欲に身をやつすもよし戦うため武器をとるもよし、各が望む終末に歩きだせ。
総ての終末が絡み交わり睦み合うその時、それこそが彼の者が渇望してやまない――
――どこかで、メダル《欲望》の散らばる音がする――
――バトルロワイヤル、開幕。
最終更新:2012年12月18日 18:21