Iの慟哭/信じたいモノ ◆SXmcM2fBg6
―――エンジェロイドは。
それが如何なるモノであれ、マスターの命令を遂行することが存在意義だ。
そこに、エンジェロイド自身の感情を挟む余地などない。
たとえそれが、自分の大切なモノを傷つける行為であっても。
たとえそれが、自分自身の身体を壊す行為であっても。
エンジェロイドである以上、マスターの命令は絶対なのだ。
私は戦略エンジェロイド・タイプα「Ikaros(
イカロス)」。
マスター・
桜井智樹の御命令により、マスターの所属する赤陣営を優勝させるため―――
―――それ以外の陣営の参加者を、殲滅しなければなりません。
……私の知るマスターならこんな命令は絶対にしない。
けれど、私に命令を下したのは確かにマスターだった。
ならば、エンジェロイドである私はその命令に従わなければならない。
たとえ私が何を思い、何を感じようと、それが私の役目であり、存在意義なのだから。
だから。
「さあ答えろよ! 殺し合いに乗るのか! 乗らねぇのか!
お前の言葉で、お前の意思で決めろッッ!!」
だから私は、この人を、みんなを殺さないといけない。
いけない、のに―――
「私……私、は……―――!」
エンジェロイドにとってマスターの御命令は絶対で。
けど私はみんなを殺したくなんてなくて。
でもマスターはみんなを殺せといって。
私はどうしたらいいのかわからなくて。
「ッ………――――!!」
「あっ! 待てッ! 待ちやがれテメェ―――!!」
気が付けば私は。
目の前の男も、質問の答えも、マスターの命令も、何もかもを投げ出して逃げ出していた。
遠くへ。少しでも遠くへ。
せめて、近くに誰もいない場所を目指して。
【一日目-正午】
【D-2/商店街】
【
鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(中)、疲労(大)
【首輪】80枚:0枚
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(胸部陥没、頭部亀裂、各部破損)
【道具】不明支給品1~3
【思考・状況】
基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
1.逃げた少女を捕まえて答えを聞きだす(殺し合いに乗るなら容赦しない)。
2.他のヒーローを探す。
3.ジェイクとマスター?を警戒。
【備考】
※能力減退が始まって以降からの参加です。具体的参加時期は後の書き手さんにまかせます。
○ ○ ○
「ッ……ハァ……ハァ……。
ここまで来れば……大丈夫よね」
疲労と痛みに乱れた息を整える。
迂回して逃げたとはいえ、まだ安心はできない。広域レーダーを展開して周囲をサーチする。
―――反応は、ない。
ジャミングによって今一つ信用できないが、あの男が追いかけてきた様子はない。
もともと追いかけて来なかったのか、それとも別の参加者と鉢合わせたのか、あるいは死んだのか。
なんにせよ、その事実に一安心してレーダーを切る。
万全を期すなら常時レーダーを展開し続けるべきだが、メダルの消費を抑える為にもそれは出来ない。
「あれで死んでくれてたらいいんだけど……期待は出来ないわね」
何せこちらの行動を完全に読んでいた奴だ。
逃げる時の一撃も読んで対処した可能性は多大にある。
次に遭遇してしまった時のために、何か対策を考える必要はあるだろう。
だが、それにしても―――
「やってくれるじゃない、真木清人……! 見つけたらグチャグチャにしてやるんだから……ッ!」
湧き上がる憤りを、この殺し合いを仕組んだ主催者にぶつける。
居場所さえ分かれば今すぐにでも殺しに行ってやりたいが、相手だって当然それは承知しているのだろう。
会場でか、首輪でかは判らないが、とにかくジャミングが掛けられていて、レーダーの性能が落ちているのだ。
これではトモキたちを探すこともままならない。
「早くアルファーたちと合流できると良いんだけど……」
あの男みたいな奴が他にもいるんだったら、戦闘能力の低い私や、トモキたちじゃ簡単に殺されてしまう。
そうなる前に、アルファーかデルタのどちらかと合流する必要がある。
それになにより、はやくトモキ(マスター)に会いたい。
インプリンティングさえしていれば、鎖を辿ってすぐにトモキの元へ行けたのに。
羽が生えたことに浮かれて、うっかり忘れてしまったのが悔やまれる。
「トモキたちなら、きっと中学校に寄るわよね。擦れ違いになるかもしれないけど、それなら部室に伝言を置いておけばいいし」
当然殺し合いに乗った人物に伝言を見られる可能性もある。
だが、新大陸発見部を知らない人間が、ピンポイントで部室を探るようなことはほぼないだろう。
「そうと決まれば、はやく向かわないと」
まだ近くにあの男がいる可能性がある以上、この場に留まるのは危険だ。
扉越しでステルスを見破るような奴だ。どこかに隠れる意味なんてない。
遭遇したくないのなら、とにかく移動することが先決だろう。
そう思い、空美中学校に向けて足を向けた、
その瞬間―――
ドガンッと、空から何かが落ちてきた。
「え!? ちょっと!? いきなり何!?
ってあれ? まさか……アルファー!? いきなり落ちてくるなんて、どうしたのよ!」
落ちてきたモノの正体は、先ほど早く合流出来たらいいと考えていたアルファー本人だった。
おそらくはレーダーを切ったと同時にこちらに接近してきたのだろう。
彼女は落下の衝撃で出来たクレーターに、仰向けになって倒れていた。
「ニン……フ……? どう……して……」
「アルファー……泣いてる……の?」
彼女が空から落ちてきた理由はわからない。
わからないが、とにかくアルファーが泣いていた。
「ちょっと待ってなさい、すぐそっちに行くから!」
「来ないで……ッ!!」
「え――――ッ!?」
それを見て駆け寄ろうとした瞬間、イカロスが必死な声で叫んだ。
それと同時に、突然頭の中にミサイルアラートが鳴り響く。
アルファーは、ゆっくりと立ち上がってこちらを見ていた。
涙を流し続けるその瞳を、紅く染め上げて。
「ちょっとアルファー! 一体どういうつもり!?」
「マスターの………御命令……です………」
「トモキの……?
な、なにそれ。あんたの冗談、ちっとも面白くないんだけど……」
アルファーはただ、静かに首を振る。
それは嘘だと、言外に告げる私の言葉を、否定するように。
「マスターが私に……殺し合いに乗るようにと、命令しました………」
「なに言ってんのよアルファー! トモキがそんな命令するはずないじゃない!
カオスの時のこと忘れたの!? アンタに命令したって言うトモキだって、アイツみたいに誰かが化けた偽物に決まってるわ!」
「それでも……御命令……です……!
私は……マスターのエンジェロイド……だから………ッ!」
アルファーは絞り出すように叫ぶ。
エンジェロイドだから、マスターの命令に従わなければいけないのだと。
その泣いている様な声に、一気に頭に来た。
「バカ言わないで! そんなふうに泣いて言われたって、説得力なんてないわよ!!」
「あ…………」
その事に、今気付いた様に頬に手を触れる。
流れている涙は、冷たくその手を濡らしていた。
その姿が―――どうしてか昔の自分と重なって見えた。
だからだろう。いつか、彼が言ってくれたことを思いだした。
「ねぇアルファー。エンジェロイドは、夢を見ちゃダメ?
エンジェロイドは、マスターの命令を聞かなきゃダメ?
エンジェロイドは、羽がなきゃダメ?」
ずっと鎖で繋がれていた。
聞きたくもない命令に従って、思ってもいない事を口にして、面白くもないのに笑顔を作った。
そうやって、ずっとずっと耐えてきた。
壊されるのがイヤで、捨てられるのがイヤで、蹲って命乞いをした。
「スイカかわいがって育てたり。家を変なふうに改造したり。文化祭の後夜祭で、手を繋いで踊ったりしちゃダメなの―――!?」
「それ……は……―――」
「私は―――!!」
それを―――彼が解き放ってくれたのだ。
バカで、エッチで、どうしようもない変態だけど、それでも助けてくれた。
そうして気が付けば、彼に恋をしていた。どうしようもないほど好きになっていた。
「私は……いいと思う」
その言葉に、どれだけ救われたかわからない。
羽を失くして、何も出来なくなって、ただの出来損ないでしかなかった私を、それでもいいと彼は言ってくれた。
「だって……これ全部、トモキが言ってくれたことなんだよ?
それなのに、トモキがそんな命令するはずないじゃない………!」
トモキたちと出会えて、私は狭い鳥籠から解放されて、広い空の下に飛び立てた。
好きな事をやって、好きな物を食べて、好きな人のそばに居られて、空を自由に飛べるという、たったそれだけのことが、どんなに嬉しかったか。
それなのに、本当にトモキがそう言ったのだとしたら、私が救われてきた全ては、一体何だと言うのだ。
「でも……マスターは………」
アルファーは言う。それでもマスターは、命令を下したのだと。
泣きだす程にイヤなくせに、彼女はそれに従おうとしている。
それを、はいそうですかと納得することなんて、出来るワケがない。
「アルファー。私だって、マスターの命令に従わなきゃいけないって思うのはわかる。
でも、イヤな命令をイヤだって言うぐらい、したっていいじゃない―――!」
エンジェロイドにとって、マスターの命令は絶対だ。
けどそれでも、感情が――心が無い訳ではない。
たとえマスターの命令であっても、イヤなものはイヤなのだ。
「だからアルファー、アンタが決めなさいよ……!
私はシナプスの命令に逆らったし、
アストレアは自分で鎖を切ったわ。
だからアンタも、マスターの命令に従うのかどうかくらい、自分自身で決めなさいよ……!!」
かつて、彼がそう言ったように。
彼のエンジェロイドに向かって、心のままにそう叫んだ。
―――その言葉に、彼女は、どうすることも出来なくなった。
マスターの命令から逃げだして、逃げ出した先で
ニンフと出会って、反射的に命令に従おうとした。
躊躇う間もなく捕捉して、後はアルテミスを発射するだけになって―――でも撃てなかった。
それどころか、来ないで、と彼女へと叫んでさえいた。
でも彼女は逃げなかった。
彼女の言った、カオスのことは分からない。
でも、彼女の言いたい事は理解出来た。
それでも、マスターの命令である事には変わりなかった。
たとえ偽物かもしれなくても、エンジェロイドであるこの身体は、確かに命令に従おうとしていたのだから。
それなのに、ニンフは言った。
聞く必要はないと。嫌なものは嫌と言えばいいのだと。
他でもない。あれほどマスターの命令を欲しがっていたニンフが、そう言った。
「私……は………」
私は、どうすればいいのかわからなくなった。
マスターの命令に従えばいいのか、逆らえばいいのか。
それともまた逃げ出して、同じことを繰り返せばいいのか。
そうやって迷って間に、ニンフが私に向かって歩いてきた。
「アルファー。アンタだってホントは、そんな命令聞きたくないんでしょ?
そうじゃなきゃ、私に「来ないで」だなんて言わないものね」
「ダメ、ニンフ……! 近づいたら―――!」
「撃てるもんなら撃ってみなさいよ!!」
「ッ――――!」
「マスターの命令なんでしょ!? 私を壊さなきゃいけないんでしょ!?
それならとっとと、アルテミスで粉々にすればいいじゃない――ッ!!」
「あ………ッ!」
けれどニンフは、立ち止まらなかった。
だから私は、彼女を壊さなきゃいけなくて……壊さなきゃ、いけないのに―――
「ほらやっぱり。アンタだって、そんなことしたくないんじゃない」
気が付けば―――ニンフは私を……抱きしめていて………。
私はニンフを……撃つことが………出来なくて―――!
「私―――私は………」
「アルファー、私ね……嬉しかったんだよ?
アンタたちに助けてもらえて、そのことが幸せだって感じて、今なら笑えるって思ったんだよ……?
それなのに、今度はアンタが笑えなくなってどうするのよ……」
「ぁ…………」
いつか、ニンフと交した言葉を思い出した。
あの広い空の下で、何を思って、何を感じていたか。
「私は、トモキがみんなを殺せって命令しただなんて、絶対に信じない……。
だからアンタも、自分の信じたいことを信じなさいよ……」
「……ニンフ………」
そう言って、より強く抱きしめられる。
その温もりに、必死に抑え込んでいた感情が溢れた。
私には……なんでマスターがこんな命令をしたのか、全然わからない……。
―――けれど、一つ確かな事があった。
私の知るマスターは平和な日常が好き。
マスターは私がお小遣いでスイカを買うと喜んでくれた。
マスターは、私が兵器で良かった、おかげで友達を救けられると言ってくれた。
「私は……―――」
エンジェロイドにとって、マスターの命令は絶対だ。
けれど私には、マスターの命令が正しいとは思えない。
マスターがニンフやそはらさんを殺して喜ぶ人ではないと信じたい。
「私は……私の信じるマスターを、信て……いたい――――!」
そうして私は、頬を濡らして、泣くようにそう言っていた。
私の信じたいこと。私が信じられること。私が、マスターの傍で笑えた理由。
あの時感じた想いを、過ごした日々を、嘘にしたくないと、そう思ったから――――
その言葉を、確かに聞いた。
マスターの命令に従おうとしていた彼女の告白。
そんな事はしたくないと告げた、願いの籠められたその言葉を。
「アルファー―――」
それがどうしようもなく嬉しくて、同時に安心した。
もちろんアルテミスのロックが解除されたからというのもある。
どんなに強がっても、怖いものは怖いのだから。
けどそれ以上に、アルファーが彼女の知るトモキを信じてくれたのが嬉しかった。
「でも……ニンフ……。私はこれから……どうしたら………」
「そうね。アンタ人一倍自主性がないから、そう言うの決めるのは苦手だもんね」
これからのことをどうするか考えないといけない。
トモキに会っても、このままでは今回の二の舞になる。
何かそのことに対する対策を考えなければいけない。
少なくともトモキの命令に対して、一考するだけの余裕が必要だろう。
であれば、
「ねぇアルファー。やっぱり私ね、アンタに命令したトモキは―――」
「変態ニャーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」
偽物だと思う。と続けようとした言葉は、別所からの少女の叫びに遮られた。
何事かと声のした方向に振り返れば、ネコミミメイドが全力疾走していた。
「変態ニャ変態ニャ変態ニャ変態ニャ変態ニャーッ!!
全裸の変態が出たニャーーーーーーーーーッッ!!!」
ネコミミ少女は「変態」と繰り返し叫んでいる。
内容からして、先ほどの叫びは彼女のものだろう。
だがそのことよりも、彼女が叫ぶ「変態」という言葉に気を取られた。
「変態って………まさかトモキのこと!?」
桜井智樹は、見空中学校屈指の変態だ。
変態と言えば桜井智樹を容易に連想し得るほどに。
加えて、ついさっきまでトモキに関することを考えていただけに、余計に気を取られてしまったのだ。
そしてそれがいけなかった。
「ニャーーーーーーーーーーッッッ!!!!」
何がそんなに衝撃的だったのか、ネコミミ少女は全力で走っている。
同じ言葉を繰り返しながら、脇目も振らずに、ニンフたちへと向かって一直線に。
「変態」という言葉に気を取られ、行動の遅れたニンフに少女を避けることは敵わず、結果。
「え……ちょ、ちょっとアンタ待―――!!」
周りを見ずに突進してきた少女と、まともに激突することとなった。
(お……覚えてなさいアルファー………!)
少女とぶつかった衝撃で諸共空中に跳ね上げられ、グルグルと視界が迷走する。
そんな中、一人安全な距離へ退避していたイカロスへと悪態を吐いた。
直後。宙に浮いていた体は地面へと落下したのだった。
○ ○ ○
「ごめんなさいなのニャ。あまりにも嫌なものを見てしまったせいで、つい暴走してしまったのニャ」
そう言ってペコリと頭を下げる少女、フェイリス。
あの後、アルファーに軽い制裁を加えてから、お互いに自己紹介をしたのだ。
「いいわよ別に。気付いていながら避け損なったのは私もだし。
それはそうと、「変態」ってどんな奴だった? サクライ=トモキって名前じゃない?」
「フェイリスはすぐに逃げたから、名前は知らないのニャ。全裸でヒゲモジャのおっさんだったニャ」
「ああ、アイツか……ッ!」
おそらく、イカロスと会う前に接触した男のことだろう。
戦闘中だった上に、トモキのせいで多少慣れてたこともあって、そこまで気が回らなかった。
確かに全裸で徘徊する様な人間は変態と言っていいだろう。
「だとすれば、フェイリスは走ってきた方角には行けないわね」
イカロスがいれば何とかなるかもしれないが、まだ不安要素があり過ぎる。
なら、最初の予定通り空美中学校へと向かうのがいいだろう。
「アルファーはどう? 何か意見ある?」
「そっちの方には、ちょっと……」
あまり行きたくない、と言外に言う。
その様子で、何を躊躇っているのかが解った。
「なるほど、そっち側に「トモキ」がいるのね……」
「………………」
アルファーが俯く。
その様子を見て、やっぱり、と嘆息する。
「さっきも聞かれたけど、トモキって誰ニャ?」
「トモキはアルファーのマスターよ。いつもならすぐにでも合流するところなんだけど、ちょっと事情があって」
「事情? 良ければ聞かせて欲しいのニャ。フェイリスでも力になれるかも知れないニャ」
「……そうね、このまま考えていても埒が開かないし。アルファーもいいでしょ?」
「……うん………」
アルファーが頷くのを確認して、フェイリスにこれまでの経緯を話す。
―――願わくば、これが何かの進展になればいいのだけど。
「―――なるほどニャ。ズバリ、そのサクライ=トモキは偽物だニャ!
仲間に化けてその絆を壊したり利用したりするのは、悪の組織の常套手段なのニャ!
空の守護天使であるアルニャンを騙して世界を思い通りに操ろうとは、「機関」の奴らめ、許せないのニャ!」
「アルニャン……?」
バーンと。事情を聞き終えたフェイリスは、声高らかにそう宣言した。
「空の守護天使」ではなくて「空の女王」なのだが、フェイリスの中ではそんなふうに解釈されたらしい。
あとアルニャンってなんだろう。
「後半何言ってるのかよくわかんないけど………。
とにかく、やっぱりフェイリスもそのトモキは偽物だって思うわよね。
やっぱりそうだって。トモキがそんな命令するはずないもの」
「でも………」
フェイリスの言葉にニンフは呆れながらも同調する。けれど、私はやっぱり言い淀んでしまう。
あのマスターが偽物だと二人とも言うけれど、私にはそうは見えなかった。
マスターがあんな命令をする筈がないと信じたいが、それでもやっぱり躊躇ってしまうのだ。
「だからさ、それを確めに行こう、アルファー。
アンタは私と違って、ちゃんと鎖が繋がってるんだから。
だったらこの鎖の先にいるのが、アンタの本当のマスターじゃない」
「――――――」
そんな私を見兼ねたのか、ニンフは私と自分の鎖を掴んで寂しそうにそう言った。
私とマスターを繋ぐ鎖は、制限からか五メートル程度までしか伸ばせない。
けれどそれは、五メートル以内ならマスターと繋げる事が出来ると言うことだ。
だけどニンフは、マスターとインプリンティングしていない。
だから、本物か確かめようと思ったら、自分の感覚に頼るしかないのだ。
それなのにニンフは先ほどまでの影を消して笑った。
「安心しなさいって。
もしトモキが本当にそんな命令をしたんだったら、今度は私がアンタの鎖を切ってあげるわ。
アルファーたちが、私を救ってくれたみたいにね」
「ベーニャンの言う通りニャン。
フェイリスは桜井智樹のことは知らないけど、……って言うか変態らしいから会いたくない気もするけど。
とにかく、フェイリスも協力することは吝かではないのニャン」
「ベーニャン?」
ニンフも、出会ったばかりのフェイリスまでもそう言ってくれる。
そんな彼女達に私は、嬉しい気持ちと、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「それにしても、アルニャンもベーニャンもすんごく可愛いのニャン。
あ、そうだ! この殺し合いから脱出したら、「メイクイーン+ニャン2」で働かないかニャ?」
「「メイクイーン+ニャン2」? なにそれ?」
「フェイリスが考えたネコ耳メイド喫茶なのニャン。
今はちょっと事情があって開店してないけど……アルニャンやベーニャン達と一緒に働けたらきっと楽しいのニャ」
「ネコ耳メイド喫茶? たしか似たようなのが、トモキの本にもあったような……。
ていうかフェイリス。さっきから気になってたんだけど、ベーニャンってもしかして私のこと?」
「そうニャン。イカロスさんはアルファーだからアルニャンで、ニンフさんはベータだからベーニャンなのニャン」
「普通に呼びなさいよ! もしくは、もっとマシな呼び方にしてよ!」
「………アルニャン」
私はちょっとかわいい呼び方だと思うけど、ニンフは不満らしい。フェイリスに対して抗議する。
けどフェイリスは奇妙な論理で対抗して、のらりくらりとニンフを躱している。
そして一体なにがどうなったのか、いつの間にかニンフと一緒に私も「メイクイーン+ニャン2」のメイドにされていた。
………フェイリスの喋り方を真似したら、マスターは喜んでくれるだろうか。
「…………ニャン」
そうこうしている内に、ニンフが疲れたような顔をして戻ってきた。
フェイリスは猫のように顔を洗って、勝利の笑みを浮かべている。
「まあ……いいわ。相手にするだけ疲れそうだし。
……あ、そうだ。アルファーにはこれを渡しておくわ。
その赤い槍はこっちの黄色い槍と対になってるらしいけど、私には長くて使い辛いし、アルファーはメダルの残りが少ないでしょ」
ニンフから赤い槍と赤色のコアメダルを受け取る。
一緒に渡されたメモによると、この赤い槍は“破魔の紅薔薇(ゲイ・シャルグ)”といって、あらゆる魔力の循環を遮断するらしい。
「フェイリスはその、デンオウ……だっけ?」
「そうニャン。未来への扉を開く“鍵”、イマジン達を宿す時のアイテムなのニャ!
モモニャン達のことも、後で紹介するのニャン。きっとアルニャン達も友達になれるニャン」
「……イマジンだかヒマジンだか知んないけど、とにかくそれがあれば何とかなるでしょうしね。
それじゃあ早く行きましょ、アルファー、フェイリス」
「了解なのニャン。アルニャン達をいじめる奴は、このデンオウの力でフェイリスがやっつけてやるのニャ!」
そう言ってフェイリスは意気揚々と歩きだす。
途中、彼女は何かを思いついたようにいきなり喋り出した。
「悪の組織に騙され、嫌々ながらも仲間と戦う守護天使アルニャン。
壊れていく仲間との絆に、アルニャンは悲しみ、一人孤独に涙を流す。
そこに現れた虹の妖精ベーニャン。彼女は真実を見つける為にアルニャンを運命へと導く!
そこに待つのは仲間との友情か、それとも悲劇の裏切りか! エンジェロイド達の絆が今試されるッ!!」
「……は? いきなり何言いだしてんのよ、アンタ?」
「ん~~ッ! 予測し切れない未来がフェイリスを待ってる気がするのニャ!
今すぐに運命石の重なる地に向けて出発するのニャー!!」
「って、ちょっと待ちなさいよ!」
フェイリスが痺れを切らしたように走りだし、それをニンフが追いかける。
その後ろ姿を眺めながら、私も彼女達についていく。
―――ニンフは言った。
もしあのマスターが本物だったら、マスターとの鎖を切ると。
それは、出来れば考えたくない事だ。私はマスターの傍にいたい。
けれど、そはらさん達も傷つけたくないという気持ちも確かにあるのだ。
だからもしあのマスターが本物だったら、私はきっと、壊れてしまいそうになる。
だから私は、あのマスターが偽物であって欲しいと、
信じたいモノが嘘になりませんようにと、切に願った―――
【一日目-午後】
【D-4/中央部】
【イカロス@そらのおとしもの】
【所属】赤
【状態】健康、不安
【首輪】40枚:0枚
【コア】クジャク
【装備】ゲイ・シャルグ@Fate/zero
【道具】なし
【思考・状況】
基本:マスターに会って、本当のことを確かめたい(それまでマスターの命令は保留)。
1.ニンフ達と行動する。一先ず空美中学校に向かう。
2.マスター達と合流(桜井智樹優先)。
3.マスターを信じていたい。みんなを殺したくない。
4.……フェイリスの喋り方を真似したら、マスターは喜んでくれるかな………かニャン?
【備考】
※22話終了後から参加。
※“鎖”は、イカロスから最大五メートルまでしか伸ばせません。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
【ニンフ@そらのおとしもの】
【所属】無
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)
【首輪】60枚:0枚
【装備】ゲイ・ボウ@Fate/zero
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本:知り合いと共にこのゲームから脱出する。
1.イカロス達と行動する。一先ず空美中学校に向かう。
2.知り合いと合流(桜井智樹優先)。
3.トモキの偽物(?)の正体を暴く。
4.トモキの偽物(?)、裸の男(ジェイク)、カオスを警戒。
【備考】
※参加時期は31話終了直後です。
※広域レーダーなどは、首輪か会場によるジャミングで精度が大きく落ちています。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
【
フェイリス・ニャンニャン@Steins;Gate】
【所属】無所属
【状態】疲労(中)、嫌な物を見せ付けられた不快感
【首輪】100枚:0枚
【コア】ライオン
【装備】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本:脱出してマユシィを助ける。
0.天使や妖精と友達になったニャ!
1.アルニャン(イカロス)達と一緒に行動する。
2.凶真達と合流して、早く脱出するニャ!
3.変態(主にジェイク)には二度と会いたくないニャ……。
4.桜井智樹は変態らしいニャ。
5.イマジン達は、未来への扉を開く“鍵”ニャ!
6.世界の破壊者ディケイドとは一度話をしてみたいニャ。
【備考】
※電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスが憑依しています。
※イマジンがフェイリスの身体を使えるのは、電王に変身している間のみです。
最終更新:2012年10月21日 14:58