王【のぶなが】 ◆qp1M9UH9gw
【1】
ノブナガが別の参加者と出会うのに、そう時間はかからなかった。
目に付いた場所に偶然居たのもそうだが、何よりもその人物は目立っていたからだ。
青色のスーツに、三角形の髪飾りを付けた珍妙な髪形をした青年である。
少なくとも、会社務めをしている人間の風体ではないのは明らかであった。
彼の姿も目を引くものがあったが、彼の肩に乗った生物もこれまた奇妙である。
それの体毛は雪のように白く、微動だにしない瞳は、ルビーがそのまま埋め込まれた様な赤だ。
耳から生えた腕らしきパーツが、この生命体の異様さを物語っている。
スーツ姿の青年に乗っている事が何だか不釣合いなのもあって、その光景は何とも奇妙であった。
青年を発見してすぐに、ノブナガは接触を試みた。
今の彼は「自我を構成する為のセルメダルの不足」という、一刻を争う状況に置かされている。
このまま何もしなければ、たちまち彼は無機物の山に逆戻りだろう。
そうならない為にも、可能な限り早急にセルメダルを補充する必要があるのだ。
先程交戦した男や自分自身の様に、青年が強力な怪人に変化する可能性もゼロではなかったが、
それを気にしていられる程、悠長に構えている場合ではない。
(ハッ……まさか俺が人に頼る事になるとはな……)
人に物乞いをするなど、以前の自分では有り得なかっただろう。
こうまでしなければ生きられない自分の体を呪いたかったが、
今更そんな事を嘆いても仕方ないはノブナガとて承知していた。
さて、率直に結論を言うと、青年は殺し合いには乗っていなかった。
どうやら運命の女神とやらは、こちらに味方したようだ。
【2】
路上で長話をしていると、他の参加者に発見される恐れがある。
友好的な人物ならまだ良いが、形振り構わず襲いかかるような奴に見つかったら目も当てられない。
と言う事情から、青年との情報交換は室内で行う事となった。
ノブナガ達が選んだのは「芦川」という表札が取り付けられた家である。
不潔極まりない空間の中で、改めて情報交換が始まった。
ノブナガも、出来る限り多くの情報を提供するつもりではあるが、
自身がホムンクルス――つまりは化け物である事はあえて伏せておいた。
それが原因で面倒な事が起こる可能性も、ゼロとは言い切れないからである。
「
脳噛ネウロ」と名乗ったその青年は、見た目に似合わず実に礼儀正しい男である。
本人曰く、「
桂木弥子探偵事務所」なる場所で高校生探偵「桂木弥子」の助手をしているらしい。
彼はその少女を有名人だと言っていたが、ノブナガの記憶の中に「桂木弥子」という少女の名は何処にも無い。
仮に彼女が何かしらの形で新聞の一面を飾っているのだとしたら、彼の頭脳にその名が刻まれている筈だ。
しかしどんなに記憶を調べても、少女の名も、そして彼女が解決してきた事件に関連した事柄も出てこなかった。
「理解し難いな。お前の話した事件は全く聞き覚えが無い」
「妙ですね……日本人なら常識として知っていてもおかしくないのですが……。
それに、それを言うなら『鴻上ファウンデーション』という企業なんて僕は知りませんよ?」
「……何だと?東京に住んでいるのなら知っていてもおかしくは無い筈だが」
常識と謳われている事件を知らぬ程、ノブナガは世間知らずではない。
かと言って、ネウロが嘘をついている様にも思えない。
では、この会話の食い違いは何によって生まれるのだろうか。
「……ノブナガさんは『パラレルワールド』というものをご存知でしょうか?」
不意に、ネウロがそう尋ねてきた。
彼が言うには、真木清人は平行世界を行き渡りできる能力を何かしらの形で入手しており、
その能力を応用して様々な世界から参加者を集めているらしい。
確かにその理論ならば、ノブナガが「桂木弥子」という名に全く見覚えがないのにも納得がいく。
しかし、そのようなファンタジーの領域にある考えを、果たして認めてしまっていいものなのだろうか。
決定的な証拠もないままこの発想を受け入れるのに、ノブナガは強い抵抗感があった。
「……何かと思えば馬鹿馬鹿しい。『桂木弥子探偵事務所』は"その手"の事件専門なのか?」
「失礼な、先生は現実的な事件専門ですよ。それに、この説は僕だけで考えた訳ではありません」
「ほお……では誰がお前に告げ口したのだ?そいつの顔を見てみたいものだな」
「顔なら何時でも見せてあげるよ。減るものじゃないし」
二人の会話に割り込んできたのは、少年の様な幼い声だった。
ノブナガが声の方向に目を向けると、そこにはあの白い獣が、やはり動きを見せない赤い瞳でこちらを見つめていた。
まさかこいつが人の言葉を理解し、人の言葉で返答をしたと言うのか。
「……ネウロ、さっきから気になっていたが、こいつは何者なのだ?」
「『キュゥべえ』という名前の生物らしいです。僕のデイパックの中に入っていたので、支給品の一つと考ええるべきでしょう」
まさか人の言語に対し完璧な対応をする動物が、本当にこの世に実在していたとは。
冗談のような話ではあるが、実物が目の前に居る以上、認めるしかあるまい。
「人の言葉を話す動物とは……随分と奇怪な支給品だな。それで、平行世界の話はこいつから聞いたのか?」
「ええ、彼の言っていた『
暁美ほむら』という少女についてなのですが……」
そう言うとネウロは、キュゥべえから聞いた「暁美ほむら」の情報を話し始めた。
彼女はキュゥべえと契約を交わした「魔法少女」の一人でありながら、キュゥべえの邪魔をする謎めいた存在である。
彼女の目的は「
鹿目まどか」の救済――どんな犠牲を払ってでも、彼女を救うつもりだったらしい。
その救済に関してだが、ここで平行世界が絡んでくる。
なんと彼女は、目的の達成に失敗したら、自身の能力によって”別の平行世界”に跳躍していたと言うのだ。
挫折の度に世界を行き来し、一人の少女の救済に尽力した彼女の苦労は、想像に難くない。
「これが真実だとするのなら、平行世界の存在を証明できるのではないのでしょうか?」
「確かにそうかもしれんな……本人の口から聞きださぬ限り、完全に信用はできんが」
彼女の話が事実であったのなら、それはすなわち平行世界の存在も事実であるという事を意味している。
どうやら「暁美ほむら」はこの場に連れて来られている様なので、実際に出会えれば話の真偽が伺えるだろう。
それまでは、平行世界に関する考察は保留としておこう。
「しかし魔法少女か……随分と御伽めいた言葉が出てきたものだ」
平行世界の話で出てきた「魔法少女」というワード。
今では日曜朝の女児向けアニメ――あれも厳密には違うのだが――でしか見ないとばかり思っていたが、
まさかこんな殺伐とした場でその言葉をお目にかかる事になろうとは。
「興味があるのかい?残念だけど君に魔法少女の素質は――」
「誰がなりたいと言った、馬鹿が」
【3】
「鴻上のビルに向かう」
情報交換を終えたノブナガは、きっぱりとそう宣言した。
その目に一切の迷いは無く、其処に行けば必ず何かが分かるという確信めいたものがあった。
「真木清人は鴻上ファウンデーションの研究員だ。
奴がいる以上、この殺し合いに鴻上が絡んでいるのは間違いない。
ならば、奴らの本拠地を調べるのは当然だろう」
鴻上ファウンデーションは、言ってしまえばノブナガの親のような存在である。
この企業が存在しなければ、ノブナガが現世で二度目の生を謳歌する事はなかったし、
この殺し合いでノブナガの名が名簿に載る事もなかっただろう。
生き返らせてもらった恩義なら感じているが、それで恩返しをするかと聞かれれば、そんな事をするつもりは毛頭ない。
第六天魔王に逆らった罪は重い――真木もろとも叩き潰してやろうではないか。
「異論は無いな、ネウロよ」
「おや、僕も同行する事になっているのですか?」
「当然だとも。この世の全ては俺の所有物だからな。
出会った者も例外ではない――全て俺の配下に加える」
宝であろうが命であろうが、この世のものを所有する権利は一つ残らず己にある。
それを勝手に使い捨てようとする真木が気に喰わないからこそ、ノブナガは反旗を翻したのだ。
「お前の望むものは全て俺が奪い返してやる。
だから今だけは……桂木弥子ではなく、この俺の助手となるが良い」
そう言って、ノブナガはネウロに向けて手を差し伸べた。
手を向けられたネウロは、何も言わぬまま彼の手を取った。
握手を交わしたという事は、ネウロがノブナガの要求を飲んでくれたという事である。
「僕も自衛の手段がありませんからね。しばらく同行させてもらいましょう」
「……感謝する」
王らしからぬ口調で、ノブナガが言った。
ネウロの顔を見てみると、彼は少しばかり苦笑いを浮かべている。
それが何だかおかしくて、ノブナガも少し笑ってしまった。
その時の彼の笑顔は、ホムンクルスとして生まれて、まだ間もない頃のそれとよく似ていた。
「……そう言えば、『桂木弥子』もこの場に呼ばれていたのだったな……優先して探す必要があるか」
「いえいえ!先生はクマムシ並みの生命力で数々の修羅場を潜り抜けたお方ですから、そう簡単に死にはしませんよ!」
「そ、そうか……」
【4】
ネウロが出発する前に用を足したいと言い出したので、ノブナガは家の前で待つ事となった。
何とも間の悪い話だとは思うが、生理現象である以上仕方がない。
(しかし……この戦力差は桶狭間を思い出すな)
戦力は未知数だが、間違いなく強大であろう事は確かな主催側に対し、
首輪によって命を握られ、誰が敵になるかも分からぬ状況に置かれている参加者側。
圧倒的なハンデを付けた状態で戦うのは、久方ぶりである。
(フン、兵が少ないのなら策で乗り越えるまでだ。あの頃と同じ様にな)
戦で真に重要となるのは、数ではなく戦術だ。
いくら最強と謳われる騎馬隊であろうが、数万人もの大軍勢であろうが、
策を練る者が居なければ、それらはただの案山子も同然である。
逆に言ってしまえば、優れた戦術さえあれば、たった数千人の兵でも数万人の兵を相手取れるのだ。
それはこの殺し合いとて同じ事――策を弄すれば、主催の打倒は不可能ではない筈。
(これが織田信長の最後の戦だ……鴻上の首、必ず取ってみせる)
何としてでも主催者を倒して、一人でも多くの民を救う。
それこそが、ノブナガの最期を看取った友――
火野映司にできる、唯一にして最後の恩返しであった。
心優しい彼ならば、間違いなく人殺しを容認しないだろう。
彼に欲望があるとするのなら、それは恐らく「人を救いたい」というものだ。
ならば、その手助けをしてやるのが彼の友としてしてやれる事ではないのだろうか?
何時の間にやら、メダルの消費は収まっていた。
自身の欲望――王でありたいという欲望――が満たされているからだろう。
ネウロにセルメダルを要求しようと思っていたが、どうやらその必要は無いようだ。
空に目を向けた。
澄み切った水色は、ノブナガの心を潤してくれる。
こんなに美しいものが、こんなに近くにあった事に、どうしてあの頃は気付かなかったのだろうか。
その感情と同時に沸き起こったのは、この美しい情景を汚そうとしている主催者に対する怒りである。
誰であろうと、この空の色を否定する者を許しはしない。
純粋に、欲望を抜きにして初めて「美しい」と思えたこの空だけは、絶対に守りきってみせる。
【5】
「用を足したい」というのは真っ赤な嘘であり、本来の目的はネウロとキュゥべえだけで話せる場所を作る事である。
ネウロの表情からは、先程まであった好青年の印象は消えている。
あの曇りない笑顔は偽りのもので、これこそが脳噛ネウロの本性なのだ。
かつて、魔界の全ての「謎」を喰らった魔人――それが彼の真の姿である。
一方のキュゥべえは、相変わらず無表情のままである。
「……貴様、ノブナガには全てを話さなかったな。何故だ?」
情報交換の最中、ノブナガは「魔法少女」について話を聞きたいと言ってきた。
キュゥべえもそれに応じてはいたが、実際には表面的な部分しか話してはいないのだ。
つまり、ノブナガには全てを話してはいないのである――ソウルジェムの正体を始めとした、魔法少女の残酷な運命を。
「彼が聞かなかっただけさ。君と違って深く追求しなかったからね」
ゆらゆらと尻尾を揺らしながら、キュゥべえ――否、インキュベーターは答えた。
"魔人"ネウロが、床に鎮座したインキュベーターを見据える。
「その様子だと、魔法少女にも真実を教えていないようだな」
「彼女達の質問に対する答え"だけ"を話しているだけさ。嘘は一つも言ってないよ?」
「詐欺師と何ら変わらんな」
「無駄が無いと言って欲しいね」
"魔人"としての脳噛ネウロは、キュゥべえが「魔女の孵化機(インキュベーター)」である事を知っている。
初めてキュゥべえから魔法少女の話を聞いた際に、彼は「魔法少女の真実」すらも引き出していたのだ。
これは、ネウロの卓越した頭脳があるからこそ可能な芸当と言えるだろう。
「成程。その手法で幾多の魔法少女を魔女にしてきた訳だな」
「さっきから君は失礼だね……ボク達は直接魔法少女を絶望に追いやる事はしないよ」
彼女達が勝手に絶望して魔女になるだけさ、と嘯くと、インキュベーターは呆れ気味にため息をついた。
いや、「ため息をついたような」仕草をしただけである。
感情の存在しないこの生命体達に、「呆れ」と言う概念があるものか。
「ボクは嘘をつく気も無いし、騙す気もない。当然、君との約束も守るつもりさ」
ネウロはインキュベーターと、"互いの正体は秘匿する"という約束事を交わしている。
これは自身が魔人であるという事実を隠蔽する為のものだ。
情報の漏洩を防ぐ為なら、手っ取り早くインキュベーターを殺してしまえば良いだけの話ではあるのだが、
彼がそれをしようとしないのは、インキュベーターという人間の進化の礎となった存在に興味があったからである。
「どうやら今は契約もできないみたいだからね。しばらくはキミを観察でもしているよ」
「奇遇だな。我輩も貴様を観察してみたいと思っていたのだ」
「その意見だけは合致するようだね――さてと、ノブナガが待ってる。そろそろ行った方がいいんじゃないかな?」
インキュベーターはそう言うと、踵を返してネウロの元から離れていく。
ネウロもそれに続いて、歩みを進めていった。
インキュベーターの脳内で想起されるのは、最初にネウロと出会った時の記憶。
あの会話があったからこそ、ネウロという個体に興味を抱いたのだ。
脳噛ネウロ。君はどんな願い――いや、どんな欲望で自分の器を満たすんだい?
我輩の欲望は食欲だけだ。欲望に従って――真木清人の純正の謎を食らい尽くす。
【一日目-日中】
【F-4/芦河ショウイチ家】
【ノブナガ@仮面ライダーOOO】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】45枚(増加量が消費量を相殺している):0枚
【コア】サソリ、カニ、エビ、カメ
【装備】バースドライバー@仮面ライダーOOO、バースバスター@仮面ライダーOOO、メダジャリバー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品、ランダム支給品0~1
【思考・状況】
基本:この世の全ては俺の物。故に、それを傷つける輩には天誅を下す。
1.ネウロと共に鴻上ファウンデーションに向かう。
2.火野映司と合流する。友として恩を返したい。
3.コアメダルを集め、グリードに対抗できる力を得る。
4.平行世界については半信半疑。「暁美ほむら」に出会い真偽を問いたい。
【備考】
※参戦時期は、映司に看取られながら消滅した後です。
※王として頂点に立つ=集団のリーダーになる事でメダルが増加します。
また、集団の規模が大きくなる程、その増加量は大きくなっていきます。
※肉体・自我の維持にメダルを消費します。
またその消費量は、内包する甲殻類系のコアメダルが少ないほど増加します。
※甲殻類系のコアメダルによるコンボチェンジは出来ません。
※爬虫類系コアメダルではグリードは復活しません。
※この殺し合いに鴻上ファウンデーションが関わっていると推測しています。
※脳噛ネウロ、キュゥべえと情報交換をしました。
ただし、「魔法少女の真実」は聞かされていません。
【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、インキュベーター(キュゥべえ)@魔法少女まどか☆マギカ、不明支給品0~2
【思考・状況】
基本:真木の「謎」を味わい尽くす。
1.ノブナガと共に鴻上ファウンデーションに向かう。
2.表向きはいつも通り一般人を装う。
3.知り合いと合流する。そう簡単に死ぬとは思えないので、優先はしない。
※少なくともシックス編からの参戦。
※ノブナガ、キュゥべえと情報交換をしました。魔法少女の真実を知っています。
最終更新:2013年10月02日 00:21