知略と猫科と必勝法 ◆MiRaiTlHUI



 ボードゲームにおいて、その勝敗を分かつ絶対的な条件となり得るモノ、というのは、決して“ただ強いだけの駒”などではない。どんなに強い駒を保有していようとも、それを動かすプレイヤーが無能ならば宝の持ち腐れでしかないのだ。
 そう、真の強者(ゲームプレイヤー)は、如何に不利な状況であろうとも的確に状況を読み込み、最小限の駒を活かして最後には必ず勝利を掴み取るものである。
 それを他の誰よりも理解しているが故、詳細名簿と地図とを幾度か交互に見比べ、その両方の大体の情報を頭に叩き込んだカザリは、次に打つべき一手を決めクスリとほくそ笑んだ。

(ま、単純な話だよね)

 カザリが目を付けたのは、地図上で言う「剣の世界」をスタート地点とする参加者の一人――青陣営のリーダー、メズールである。
 メズールも馬鹿ではないのだから、恐らくは近くに居る青陣営の参加者に接触し、自らの駒とする事から始めるのだろうが……生憎な事に彼女の近くに居る青陣営――セシリア・オルコット美樹さやかは、詳細名簿を見る限りではこんな殺し合いに乗るような人間だとは思えない。
 であるなら、使える駒も少なく、四面楚歌に近い状態でゲームを始める事となったのは自分だけではなく、メズールも同じだと言える。

(なら、メズールに条件を揃えられる前に潰しに掛かるべきかな)

 条件はほぼ同じ。ならば、メズールが駒を揃える前に潰しておきたいと、カザリは思う。
 これは決して短絡的な思考で至った結論ではない。このゲームに於いて最も重要なのは、如何に他の陣営のリーダーを潰すか――極論を言えば、参加者の間での潰し合いなどはどうでもいい些事である――、だとカザリは考えているのだった。

(だってそうでしょ?)

 カザリが目を付けたのは、このゲームの特殊なルールの一つ……「陣営の頭であるグリードを潰せば、その陣営に所属していた参加者は全員無所属となる」という点だった。
 これは狡猾なカザリにとって、見逃すのはあまりに惜しいルールだった。
 例えば、今カザリに最も近い位置に居るメズールを潰せば、青陣営は全員無所属となる。無所属が増えるという事は、それだけでも黄色陣営に引き込める人員が増えるという事だが、上手くメズールのメダルを全て奪い取れば、青陣営の全参加者を自分の陣営に引き込むことだって出来る。

 そう、何も正面から戦う必要はないのだ。黄陣営のリーダーたる自分はただ、逃げも隠れもしながらいつも通り“賢く”立ち回り隙を見てリーダーを潰してゆけば、それだけで優勝する事が出来るのである。
 カザリと比べてずっと単純なウヴァあたりはどうせ、ただ強い者を味方に引き入れ徒党を組む、というところまでは思い付いたとしても、ゲームの法則など考えもせず、そこ思考を止めて慢心しているのだろうなと予想すると、思わず嘲笑が漏れる。
 とにかく強力な戦力で身を固め、現在の自陣営以外は潰す……というのは正攻法ではあるし、見境なく手駒を増やそうとするカザリの策とは違い、獅子身中の虫を引き入れてしまう可能性も少ないのだろうが、それはカザリのやり方とは違う。
 カザリには、様々な策を弄するであろう参加者達を味方に引き入れたとしても、それらを御するだけの智恵と戦略がある。それは、現在の黄陣営が持つ最大の強みでもあった。

「まあ、精々頑張ってね、ウヴァ?」

 あの気に入らない虫頭もいずれ潰してやるが、と胸中で思いながらも、心にもない応援の言葉を空に投げたカザリは、確実で綿密な計画の下に成り立つ勝利を信じて歩きだすのだった。 


 デイバッグから取り出した小冊子――ルールブック――に載せられている地図を確認し、現在位置が「IS学園」であろう事を確認した海東大樹は、感心した様子で「へえ」と呟いた。
 大樹の眼前に拡がるのは、広大な敷地内に設けられた近未来的なデザインの建造物――学園という程なのだから、恐らくは校舎なのだろうが――の数々。それは学び舎としてのイメージからはあまりにもかけ離れた光景なのだが、ここがIS(インフィニット・ストラトス)なる機動兵器が存在する未知の世界なのだとすれば得心もゆく。
 恐らくは今大樹が居る“円”の内部は、「ISの世界」というのだろう。主催者が一体どのような方法で空に浮かぶこの広大な土地を用意し、その中に幾つもの世界から盗んで来た土地を設置したのか、などという事は気にならないではないが、さほど興味はなかった。
 最終的に自分が生き残る事さえ出来ればそれだけでいいのだから、そこに至るまでの過程など何だっていい。優勝する事さえ出来れば、この世界に数多あるお宝も、真木の持つ未知の技術も、何もかもこの自分が盗んでやればいい話ではないか。

「待っていたまえ、必ず僕が全て手に入れてみせる」

 大きな野望を胸に抱いた大樹は、誰にともなく指で作った鉄砲を向け、ほくそ笑んだ。
 目に見える景色は美しい。海は陽光を受けて煌めき、豊かな新緑の木々は緩やかな風を受けてさざめいている。先進世界にしては随分と明媚な風景に気分を良くしながら、まずは野望への第一歩、この素晴らしい世界に隠されたお宝「インフィニット・ストラトス」を手に入れようと、大樹はデイバッグを肩に担ぎ直した。
 ――その時だった。

「ねえ、そこのキミ、ちょっと待ってよ」

 背後から突然聞こえた声に振り返るのと、ディエンドライバーを構えるのは同時だった。
 大樹の鋭い眼光とディエンドライバーの銃口が狙い定めたのは、その童顔さゆえ、大樹よりもやや年下と思われる、鮮やかな金髪――銀髪のようにも見える――の少年。
 黄色のチェック柄のジャケットに、頭から深く被ったキャップも黄色、髪の毛が金髪である事も相俟って、全体的に“黄色”の印象を抱かせるその男は、おりしも後方のIS学園の校舎内から出て来たばかりなのだろうと推測する。
 男は大樹に銃口を向けられているにも関わらず、まるで覚えた様子もなく、薄ら笑みさえ浮かべていた。この男には、銃を向けられた人間がまず抱くのであろう「恐怖心」というものがまるで見えない。
 この状況を打開する何らかの策があるのか、そもそも現状に現実感を持っていない愚者なのか。男の事はまだ何も分からないが、少なくとも此処は殺し合いの場だ。警戒を怠るわけにはいかない。

「何者だ、名を名乗りたまえ」
「おっ、と……銃を向けられてるんじゃ、下手な真似は出来ないね? ボクの名前はカザリ。キミに危害を加える気はないよ」
「……どうかな」

 まるで緊張感など感じさせぬ態度で大樹の誰何に答えた男の名はカザリ。
 一切の迷いが見受けられぬ、何処か軽い語調。下手な真似は出来ないと言うが、本当にそう思っているのかは甚だ疑問だった。
 寧ろカザリの態度からは「銃くらいで自分をどうこう出来る訳がないだろう」と、そんな余裕すら感じられて、それが却って大樹の警戒心を強めさせる。
 何にせよ、この男は信用ならない。信用ならない相手と「正面から向かい合っての一触即発状態」というのは、非情に面倒だ。いっその事、相手に何かをされる前に動いた方が楽ではないか。
 そもそも殺し合いの場で不用意に接近してきたのはカザリの方だ。もしここで撃たれたとしても文句は言えまい。この男がお宝を持っているのならそれも奪い取って、とっととこの場から離れた方が事はスムーズに進む――

「――ねえ、」

 カザリが口を開いたのは、そう考えた大樹がディエンドライバーの引鉄に掛けた指に力を込めた、丁度その時だった。

「良かったらボクと手を組まない? 損はさせないよ」
「……見くびって貰っては困るなぁ。僕らはお互い敵同士だ、そんな言葉に騙される程、僕は甘くはない」
「それが、陣営なんてあんまり関係ないんだよねぇ……参加者全体の犠牲を最小限に抑えて、無駄な争いを避けてゲームに生き残る方法があるとしたら、キミだってその方がいいでしょ?」

 それは確かにそうだが、そんな方法があるなら誰も苦労はしないのではないか。
 一拍の間を置いて、油断なく銃を突き付けたまま、大樹は言った。

「まあ、僕だって無駄に戦いをしたい訳ではないからね」
「なら、ボクの話を聞いてみる価値はあると思うけど?」
「……いいだろう、簡潔に話してみたまえ」

 ディエンドライバーをしっかりと構え直し、此方はいつでもお前の命を奪う事が出来るのだと、立場は此方が上なのだということを言外に伝えながら説明を要求する。
 突き付けた銃は決してハッタリなどではない。所詮相手は名前と顔程度しか知らぬ男、こいつがお宝を得る上での障害になり得るなら、痛い目を見て貰うのも致し方のない事だ。
 対するカザリも大樹の意図を察したのだろう。やれやれとばかりに挙げたままの両の掌を天へ向け、やや小首を傾げたカザリは、「せっかちだね」などと呟きながらも説明を開始した。


 カザリの説明は至って単純だが、要点を的確に押さえたものだった。
 何も参加者一人一人と戦う事はない、倒すのはグリードだけでいいのだ。自分は黄色の陣営の頭で、他のグリード全員にも負けない戦闘能力と頭脳を持っているのだと、最初にカザリはそう伝える。
 掻い摘んで説明すると、いずれ他の四人のグリードを倒し、全て――とは行かないまでも、可能な限り――の参加者を黄色の陣営に引き込んでから優勝する予定のカザリに、今のうちから協力しないか、という話だ。

 特に、海東が属する白陣営のリーダーであるガメルは、悲しくなる程に単純で幼稚な男であるということも加えて説明する。
 実際、単独のガメルに理知的な行動など望めよう筈もないのだ。あの単純な男ならばきっと、誰にでも簡単に騙され、必ず陣営全体に大きな損失を齎し、たがて敗退する事だろう。
 そうなれば白陣営は消滅だ。ならば、予めどのグリードよりも頭の切れるカザリの配下である黄色陣営に味方しておくのも決して悪い話ではあるまい。

 聞けば海東大樹――先程覚えた詳細名簿の情報によれば、確かこの男もオーズと同じ仮面ライダーだった筈――は、ただ純粋に“お宝”が欲しいだけだという。
 カザリはコレクションに興味などないし、お宝と思しき支給品を手に入れたなら海東に譲ってやっても構わないと考えていた。それだけであの強力な“仮面ライダー”を味方に引き込めるなら、安い取引だ。
 単純な物欲の為だけに戦う男には、この申し出を断る理由もない。それ故、この男は確実に我が手に落ちると、カザリはそう確信していた。

「どうかな、決して悪い話じゃない。キミにはメリットしかないと思うけど」
「そうだなぁ、確かに僕が手を貸せば、黄色陣営を優勝させる事も難しくはないだろう。
 ……うん、これはいい話を聞かせて貰った! なら、僕も黄色陣営を優勝させる為に一肌脱ごうじゃないか!」
「賢明な判断だね、助かるよ」
「なに、気にする事はない。貴重な情報のお礼さ」
「じゃあ――」

 その銃を降ろして、と。そう告げようとしたカザリの耳朶を叩いたのは、海東の持つシアン色の銃が発する銃声。人の感覚を遥かに越えたカザリの目だからこそ捉える事が出来たのは、自分へ向かって真っ直ぐに飛んでくる、海東が放った数発の銃弾。
 全ては一瞬の出来事だった。銃声が聞こえるや否やカザリの身体は人ならざるものへと変じ、腕に装着された鋭利な鍵爪で以て、放たれた銃弾を叩き落した。
 小さく煙立つ自らの鍵爪をまるで他人事であるかのように冷めた目で見ながら、猫科の王たるグリードへと変身を遂げたカザリは、冷やかな声で問うた。

「一体どういうつもりかな?」
「言っただろう、僕は“お宝”は全て手に入れなきゃ気が済まない性質(タチ)だって」

 まるで海東の言葉の意味が理解出来なかったカザリは、呆れ半分に猫に似た仮面をやや傾げた。
 意気揚々と語っていた海東だったが、そんなカザリの様子を見るなり、途端に落胆した様子で言った。

「おや。“理解出来ない”というのは悲しいね?
 君はもっと賢い奴だと思ってたんだけど、どうやら見当違いだったようだ」

 やや挑発的にそう嘯いた海東は、右手に持った銃を指先でくるくると回し、構え直す。
 左手に構えるカードは、シアンの仮面ライダーが描かれた一枚のカードだった。

 ――KAMEN RIDE――

 くすりと不敵に微笑んだ海東は、カードを装填した銃を天に向け発射する。

 ――DIEND!!――

 刹那、電子音と共に海東の身を包んだのは、まさしくカードに描かれたシアンの色の仮面ライダー。
 まるで全身に巨大なカードが突き刺さったような、酷く不格好な仮面ライダー――詳細名簿曰く、その名は“ディエンド”というらしい――へと変身した海東は、シアンの銃をカザリへと向け、嬉しそうに言った。

「僕は運が良い。ISを手に入れに来てみれば、まさかこんな所でコアメダル(お宝)の塊と出会えるとは!
 安心したまえ、リーダーの座と君の野望もこの僕がしっかり継いであげよう。これで黄色陣営は安泰さ!」
「……ああ。なるほど、そういうこと」

 海東大樹。この男は、猫科の王たるこのカザリをただの“お宝の塊”と称し、あまつさえその陣営もコアメダルも、何もかもを奪い取って元の世界に帰ろうというのだ。
 先程言った“貴重な情報のお礼”がこれなのだとしたら、こいつは全く、人を馬鹿にしているとしか思えない。人間の癖に随分と面白くて、同時に度し難い程に不愉快な男である。
 何にせよ、振りかかる火の粉は払わねばならない。そっちがその気なら、ここで“最後の勝者となるグリード”の力を見せ付けてやるのも悪くはない。
 クスリと笑ったカザリの笑みに、確かな苛立ちと怒気とが込められていた事は、誰の目にも明白な事実であった。


 先手を打ったのは、ディエンドだった。
 カザリが動きを見せる前に、牽制とばかりに銃弾を放ったのだ。
 そんな子供騙しも同然の射撃でカザリが倒される事などあろう筈がない、というのは恐らくこの場の誰にでも分かる事だ。カザリが黄色の風を巻き起こし、放たれた銃弾全てを掻き消すが、そこまではディエンドにとっても予定通りだっただろう。カザリの技を見ても特に焦る事もなく、銃撃を続ける。
 一体どんな策があるのかは知らないが、黄色陣営を乗っ取るとまで嘯いた男に全く興味が湧かない訳ではない。まさかこんな凡庸な射撃だけが能ではないだろうと、次の一手に期待しながらカザリは駆け出す。
 飛んで来た銃弾は腕に装着されたクローの甲で受け止め、余裕があれば叩き落とし徐々に距離を詰める。が、ディエンドの銃撃がカザリの脚を遅らせているのもまた事実。
 ディエンドもまた適度に距離を取る為銃撃と同時に数歩後退りながら、腰のホルダーから新たなカードを取り出した。

 ――ATTACK RIDE・BLAST――

 ブラストのカードを読み込み、電子音声を鳴らす銃をカザリよりもやや上方向へ向け、引鉄を引く。
 銃の外見から推測されるであろうスペックを無視して、苛烈な銃弾の嵐が放たれた。それはカザリの頭上で拡散し、文字通り銃弾の雨となって、カザリの身を穿たんと広範囲に降り注ぐ。
 今からでは回避は不可能だ。チッ、と小さく舌打ちしたカザリは、頭上へと向けて黄色の突風を巻き起こし、銃弾の嵐を防ぐ――が。その行動が既に奴の策のうちであった事に、カザリは程無くして気付く。

 ――KAMEN RIDE――

「野良猫の相手を真剣にしてやることほど馬鹿馬鹿しい話はない」

 仮面の下でクスリと笑いそう告げたディエンドは、今度は“カメンライド”と電子音を鳴らす銃を、ブラストへの対処で手一杯なカザリへと向けた。

 ――TIGER!!――

「いってらっしゃい」という言葉と共にディエンドライバーから放たれたのは、銃弾でもビームでもなく、三色の虚像だった。何が起こるのかと身構えるカザリの目前で、放たれた虚像は飛び交いオーバーラップし、人の形を成す。
 一瞬ののち、カザリへと降り注ぐ弾丸の嵐が収まる頃には、黒のスーツに銀色の鎧を身に纏った、“白虎”を連想させる第二の仮面ライダーがカザリの目前に召喚されていた。

「へえ、そういう能力なんだ」

 どうやら“ライダーの召喚”こそが、ディエンドの能力であるらしい。オーズにもバースにもない、実に魅力的な能力だ。信用ならない相手ではあるが、海東大樹という男――ディエンドという力――をここで潰してしまうのはやはり惜しいとカザリは思う。
 だが、この状況から奴を味方に引き入れるのは決して簡単な話ではない。召喚されたライダーとディエンドを二人纏めて叩き潰すのが最も手っ取り早い手段だろうが、流石に二対一は不利ではないか。最悪あのディエンドライバーだけでも奪い取る事は出来ないだろうか。
 そんな姦計を巡らすカザリをよそに、召喚されたライダー――タイガ――は、獲物目掛けて今にも飛び掛からんと構える虎よろしく、腰を低く落とし、両腕の装着された巨大なクローをゆっくりと振り上げた。

「遠慮をすることはない。猫は猫同士、存分にじゃれ合ってくれたまえ!」

 野良猫の相手をするのは馬鹿馬鹿しい、というのは、なるほどそういう事かと理解する。
 人――ねこ――を、というよりもカザリを完全に馬鹿にしているとしか思えないディエンドの言葉を皮切りに、タイガが地を蹴り駆け出した。
 一言も言葉を発する事無く、ただディエンドの敵を討つ為だけに戦いを始めるタイガ……やはり、と言うべきだろうか。見た所、このタイガからは意思らしきものが感じられない。言うなれば、ただの傀儡である。
 基本的に傀儡というものは、個人としての思考・判断能力を持たないものだ。であるなら、タイガを相手取るのは、意思を持ったオーズとバースの二人がかりを相手にするよりはずっと容易であると推測する。

(……なら、問題はないね)

 少なくとも負けはない。そんな確信を胸に、やおらカザリは長く伸ばした両腕のクローを掲げ構えを取った。
 タイガからは気迫というものを感じないが、それでも勢いはある。まさしく猛獣――虎――の如き勢いでカザリの目前まで急迫したタイガは、カザリのそれと比べてずっと巨大なクローを乱暴に振り下ろす。一歩身を引いてタイガの攻撃を回避したカザリは、ぶおん!と音を立てて空を裂くタイガの一撃を見るや、その威力の程を実感した。
 単調な攻撃ゆえ回避する事自体は歴戦のカザリにとってはそれ程の苦でもない。が、見掛け通りと云うべきか、こいつの攻撃の威力は決して弱くはない。出来るならこの一撃を受けるのは避けるべきだなと、一瞬の間に思考するカザリを、苛烈な攻撃のラッシュが襲う。
 猪突猛進という言葉をその身で体現するかのように、右から左から、上段から下段からと、遮二無二クローを振り回すタイガ。
 それに対し、カザリは攻撃の度に一歩ずつ身を引きながら、僅かな身体の傾斜とフットワークでタイガの攻撃を回避し続ける。

「ははっ、どんな武器を持っていてもこれじゃあねぇ?」

 嘲笑うように嘯くカザリ。
 余裕の態度でタイガの攻撃をいなし、回避をし続けるが、それは決して無策の対応ではない。軽い言葉とは裏腹に、カザリは今、回避と同時に間合いを計っているのだ。タイガの攻撃のタイミングから、それに伴って生じる隙、確実にこいつを仕留め得るだけの距離感を、一撃を回避する度に脳内で積み重ねてゆく。
 幾度目かの回避ののち、ほぼ完全にタイガの攻撃を“見切った”カザリは、上段から振り下ろされたデストクローを、今度もやや身を引く事で回避し、振り下ろされた一撃に自分のクローを被せ、叩き払った。
 見立て通り、自分自身の武装の重さにやや前傾姿勢へと体勢を崩したタイガの胸元に、今度は自分の両のクローを交差させて、×字型に斬撃を叩き込む。
 一撃の威力ではタイガに劣るであろうカザリのクローであるが、素早さならばこちらが格段に上だ。大きく仰け反ったタイガの身を、一秒にも満たぬ間に一撃、二撃を切り裂いて、トドメとばかりに強風を纏ったクローの袈裟斬りで、タイガの身を後方へと吹き飛ばす。
 ふふんと鼻を鳴らしたカザリは、倒れ込んだタイガへとクローを向け、何処からでも掛かって来いとばかりに構えを取った。巨大なクローを地面に突き立て、ふらりと立ち上がったタイガは、まるで挑発に乗るように再びカザリへ向かって駆け出す。
 何度やっても同じ事だ。もうこれ以上タイガの攻撃を受ける事はないだろうと、そんな絶対なる自信で以て、迫り来るタイガに構えを取って応じるカザリであった――が。

 ――FINAL ATTACK RIDE・Di Di Di DIEND――

 三度目ともなるとそろそろ聴き慣れつつある電子音声が、タイガの後方、ずっと向こう側で響いた。
 タイガの攻撃が来ると予測していたそのタイミングに襲来したのは、既に見切った巨大なクローによる攻撃などではなく、味方であるタイガをも飲み込み己が力へと変えて放たれた、竜巻の如きエネルギーの奔流だった。
 バースのブレストキャノンと同等か、それ以上の威力を誇ると思われるディエンド必殺のディメンションシュート。それは、一瞬の後にはタイガの攻撃が来るものであると予測し慢心していたカザリにとって、完全なる想定外であった。

「チィ……ッ!」

 柄にもなく舌打ちをしたカザリは、咄嗟に自らのエネルギーを纏わせた強風を巻き起こして前面へと展開するが、明らかに手遅れだった。
 僅かに威力を殺す事は出来たろうが、完全に防ぎ切る事などは出来ず、ディエンドが放ったシアンの輝きは風の盾すらも突き破って、カザリの胸部を直撃した。
 気を抜けば意識を刈り取られそうな程の熱量を持ったそれは、カザリの身体を――メダルを飛び散らせながら――遥か後方へと押し出して、数十メートル離れた校舎のコンクリートの壁にぶち当たり、壁そのものを僅かに砕いたところでようやく収まった。
 予想だにしない必殺技の直撃を受けたのだ。如何にグリードといえども、疲労が溜まらぬ訳がない。辛うじて未だ変身状態は保っているが――といっても、本来の姿は怪人態なのだが――、そこに数秒前までの余裕などはもうない。何とか自力で起き上がったカザリの身体は程無くしてがくりとくずおれ、片膝を地に付ける無様を晒す事となった。


 主戦闘は召喚した仮面ライダーに任せ、自分は隙を見て必殺技を放ち、確実に漁夫の利を得る。それが仮面ライダーディエンドの基本戦術であった。
 勝利を確信したディエンドは、眼前でふらりと立ち上がったカザリへと銃口を向けながら歩を進める。

「どうだい、黄色陣営の次期リーダーの実力は?」
「誰が……っ!」
「自分の敗北すら認められないとは、見苦しいね? これ以上元リーダーの君が無様な姿を晒す前に、この僕が引導を渡してあげよう。感謝したまえ、野良猫くん」

 首輪に繋がれた野良猫、というのも随分と滑稽な話だが。そう思い、ディエンドの仮面の舌でふっと自嘲気味に笑った大樹は、カザリにトドメを刺すべくディエンドライバーを突き付けにじり寄る。
 口ではああ言ったが、カザリとてまだ体力を残していることは分かっている。今すぐにもう一度ファイナルアタックライドを使ったとしても、連続で二度目ともなると流石に回避されるのが関の山だろう。が、かといって、もう一度隙を作るためにカメンライドを使うのも、メダルの無駄遣いが過ぎる。
 ここは極力手札を温存して勝利し、カザリのセルメダルとコアメダルを纏めて奪い補充するのが得策かと思われた。

 そう判断してから一拍の間を置いて、ディエンドは再び銃撃を開始した。
 ブラストほどの連射力はないものの、ディエンドライバーは単体でもそれなりの連射が可能だ。前進しながらとめどなく銃撃を続けるディエンドに対し、カザリは竜巻を巻き起こす事で対処をして見せる。
 銃弾の殆どはカザリに命中する前に、超常のエネルギーを纏った風によって掻き消され、なんとかカザリの元まで届いた弾丸も、風の影響で随分と失速した末にカザリの鍵爪によって叩き落された。
 が、構う事は無い。ディエンドライバーの銃弾は無限だ。弾切れなど気にする事もなく、ディエンドは前進と射撃を止めようとはしない。
 そうして前進を続けるうちに、カザリの姿が消えた――ように見えたが、それが“消えた”のではなく、単に高速移動でディエンドの射線上から離脱しただけだという事は、同じ能力を持つディエンドを使う大樹だからこそ、考えるまでもなく理解出来た。

「往生際が悪いね」

 ディエンドの後方へと回り込み、クローを振り上げ迫るカザリに対し、ディエンドもまたカザリと同質の高速移動で応じる。
 クロックアップやファイズアクセルなどと比べれば質は落ちるものの、これがカードの力無しに発動可能な能力である事を考えれば、十分過ぎる程に優秀な能力である。
 カザリの動きに合わせて見せたディエンドは、振り下ろされたクローを左腕の装甲で受け止め、右腕に持った銃をカザリの腹部へと突き付ける――が、カザリもさるもの。ディエンドよりも素早く、カザリはもう一方の腕でディエンドライバーを叩き払い、銃口を地面へと向けさせる。ディエンドが放った銃弾は、カザリを討つ事なく真下のアスファルトを穿ち、派手な火花を舞い上げた。
 火花を煙が晴れるのを待つ暇などなく、殺到するのはカザリからの攻撃の嵐だ。先程自分が召喚したタイガとは比べ物にもならない速度で繰り出される連続攻撃に、最初の幾度かは防げたものの、やがてカザリの攻撃を追い切れなくなったディエンドの装甲が傷付けられてゆく。

 これは拙いと判断したディエンドは、一旦距離を取るべく後方へと跳び退った。
 腐ってもリーダーということか、どうやらカザリの体力は大樹の予測を上回っていたらしい。やはりあの厄介な風に遮られ、一撃必殺である筈のディメンションシュートを綺麗に直撃させる事が出来なかったのが痛いか。
 少々勿体ないが、確実に勝利する為だ。あとで確実にこの使用分をカザリから取り戻してやると心に誓い、ディエンドは腰のホルスターから一枚のカードを取り出し、ディエンドライバーへと装填した。

 ――ATTACK RIDE・BLAST――

 二度目のアタックライド、ブラスト。
 一度同じ手札を見たカザリは、当然先程得た情報に沿って対処すべく構えを取るが――それ自体が既にディエンドの思う壺である事に、カザリは気付ける筈も無かった。
 カザリの真上を狙って放たれた銃弾に対し、逸早くブラストの“散弾”のエリアから離脱するべく高速移動を発動するカザリ。先程は初見の散弾を回避する術も無く、頭上に突風を巻き起こす事しか出来ずに一手を遅らせたのだから、今回の行動は一見正解かとも思える。

「――が、勝つのは僕だ」

 今度こそ勝敗を決すべく、ディエンドに向かって真っ直ぐに加速するカザリに対し、正面からの銃撃を開始するディエンド。が、確実に獲物の息の根を止めんと走り出した猛獣がその程度で止まる訳もない。ディエンドが放った銃弾は全てカザリのクローによって叩き落される。
 勢いそのまま加速を続け、あと一歩でカザリの爪がディエンドに届く、という局面で――カザリを襲ったのは、背部から迫るブラストの“ホーミング弾”だった。


 ブラストは、たった一枚のカードでありながら、複数の効果を持つカードである。
 時に雨あられと敵に降り注ぐ散弾になることもあれば、時に敵を何処までも追尾するホーミング弾になる事だってある。
 先読みしにくいブラストのカードは、トリッキーな戦術を好む大樹が最も信頼する戦術の一つであった。
 今回のカザリの敗因は、ディエンドの戦術を読んだと思い込み、それさえ回避すれば確実に仕留められるのだと慢心した事である。……とは言うものの、普通は一つのカードに二つ以上の効果があるなどとは思わないだろうし、この勝敗が直接「カザリは馬鹿だった」ということに繋がりはしないが。

 それでも勝ちは勝ちだ。
 今度こそトドメを刺すべく、ディエンドは仰向けに倒れたまま動かなくなったカザリへと歩み寄る。
 確かに厄介な敵ではあったが、最期は随分と呆気なかったものだ。この程度で一陣営のリーダーとは片腹が痛くなる。最も、今この瞬間からカザリは黄色陣営のリーダーではなくなるのだが。
 倒れて動かなくなった猫型の仮面を見下ろし、ディエンドライバーを突き付け、

「今まで御苦労さま、野良猫くん」

 ディエンドライバーの引鉄に掛けた指を引く。
 ばぁん、と甲高い銃声が響くが――その刹那、大樹がその身で以て感じたのは、カザリを葬ったという手応えなどではなく。銃を握った自分の腕が、鉄のように硬い何かに跳ね上げられる感覚だった。
 明後日の方向へと放たれた銃弾が、数十メートル離れたIS学園校舎の窓ガラスを粉々に叩き割る破砕音が耳朶を打つと同時。大樹の瞠目が捉えたのは、意識を失っていたとばかり思っていたカザリが真上へ向かってクローを突き出しているその姿と――銃を握る自分の腕から、自分の全身から、ディエンドの装甲が消失してゆくその瞬間だった。

「なっ……」

 確実なる勝利に終わる筈が、一体どうして。
 事態が理解出来ず、ほんの一瞬思考がフリーズした大樹を、下方から突き出されたカザリの蹴り足が襲う。

「――っ!?」

 咄嗟にガードの姿勢を取るが、そんなものは気休めだ。人間の姿の大樹が、怪人態のカザリの蹴りを防ぎ切れる訳も無く、大樹の身体は容易に浮き上がり、地べたを転がる。
 幸いにして、カザリも大した攻撃の意図は無かったのだろう。大樹が負ったダメージも少なく、倒れた勢いを活かして数メートルほど自力で転がった大樹は、起き上がり様にディエンドライバーの銃口をカザリへと向ける。

「メダルが切れちゃったみたいだね、ディエンド」
「……なるほどね」

 最早銃口を恐れることすらせず告げるカザリの言葉に、突然の変身解除の理由を悟る大樹。
 元々カザリとの戦闘を開始した時点で、既にメダルは五十枚程度しか残ってはいなかった。そこへ来てディエンドへの変身にタイガの召喚、さらに二度使用したブラストにファイナルアタックライド、果ては高速移動まで使ってみせたのだ。メダルが尽きてしまうのも無理はない。
 この殺し合いに参加している限り、如何なる能力にもメダルは必要で、メダルの有無が勝敗を、ひいては生死すらも分かつファクターになり得るのだという事を身を、こんな形で思い知る羽目になるとは思ってもみなかった。
 ルールによって勝利を阻まれた大樹は、――それが負け惜しみでしかない事は理解しているが――こんな殺し合いの場でさえなければ負ける筈はなかったのに、と渋面をいっぱいに広げて、膝をぱんぱんと払いながら立ち上がったカザリを睨む。
 大樹の視線に気付いたカザリはさぞ愉快そうにくつくつと笑い、自分の頭を人差し指でつつきながら言った。

「メダルが残り少ないなら、もっと頭使って戦わなきゃ」
「君を倒して失ったメダルも補充するつもりだった」
「だとしたら見極めが甘かったね。そんなに甘くはないよ、色んな意味で」
「悔しいが、どうやらそのようだ」

 最後の局面で「もっと早くトドメを刺していれば」とも思ったが、恐らくは大樹が読み切れていなかっただけで、カザリはまだ体力を残していたのだろう。だからこその“死んだフリ”だ。陳腐な作戦ではあるが、あれでディエンドを引き寄せて、油断した隙に逆転する術がカザリにはまだ残されていた可能性だってあるのだ。
 猫科の王にして、黄色陣営のリーダーカザリ。全くもって食えない男である。

「まあ、もう戦う理由もなくなったみたいだけどね」
「なに……?」

 カザリは、訝しげな視線を向ける大樹の首輪をそっと指差した。

「もう白陣営、なくなっちゃったみたいだし」
「……っ!? ランプの色が……!」

 言われて、気付く。
 後方の校舎の窓ガラスに映る自分のランプの輝きは、先程までの無色――白――などではなく、無所属を意味する紫色に変わっていた。
 それが何を意味するのかが分からない大樹ではない。予め白陣営のリーダーがどのような男であるかを聞かされていた事もあって、ランプの変色に気付くと同時に、大樹は一つの結論に至った。

「白のリーダーが、倒された……」
「そういう事。メダルだけでなく所属陣営も失ったんじゃ、もう優勝は無理だね……って言っても、キミは優勝して帰ることさえ出来るなら何処の所属でも関係ないんだろうけど」

 ふふ、と微笑んだカザリは、自分の首輪から二十枚程のメダルを取り出し、大樹の足元へばら撒いた。
 音を立てて地面を転がってゆくセルメダルは、今の大樹が求めてやまないもの。だけれども、それにすぐに飛びつく事など出来るわけもなく、視線だけでそれを追う大樹に、カザリは涼しげな声で問うた。

「さあ、どうする?」
「………………」

 自分自身もそこそこに意地が悪いとは思っていたが、この男はそれ以上だ。
 どうすると質問されたところで、メダルと戦闘能力のみならず陣営まで失ってしまった自分が、いつでも自分を殺す事の出来る“怪人”を相手にに選べる選択肢など一つしかない。もっとも、一つしかない選択肢など選択肢とは呼べないが。
 今の大樹に選べるのは、足元にばら撒かれたメダルを無様に拾い、一度はメダルを奪ってやるとまで大見得を切った相手の陣営に入ること――即ち、カザリに屈服し、その軍門に下る道しかないのである。
 ばら撒かれたメダルを拾い、隙を突いてディエンドに変身しもう一度抗うという選択肢もないことはないが……歴戦の大樹には分かる。カザリはまだ、一切の警戒を解いてはいない。ここでもしもカザリの申し出を蹴る様な真似をすれば、大樹がカードを装填するまでの間に、カザリはその瞬発力と加速力で以て、一瞬のうちに大樹の命を奪うつもりでいるのだろう。
 何よりも自由を愛し束縛を嫌う自分が、生きるためとは言え、誰かに支配されねばならないというのは、かなりの精神的苦痛が伴うことだった。
 プライドが邪魔をして、答えを中々言い出せない大樹を見かねたのか、カザリは「いいよ、いいよ」と呟き、おかしそうにクスクスと笑い出した。

「ごめんごめん、少し意地悪が過ぎたね? いいよディエンド、キミをボクの陣営に入れてあげる。そのメダルも分けてあげるから安心しな」
「……言っておくが、例え君の陣営に入ったとしても、僕は誰にも屈服するつもりはないよ」
「そんなこと言ってる場合じゃないと思うけど」

 そう、カザリの言う通り、今はそんな事を言っている場合ではない。
 生き残る為……そして何よりもお宝の為、これは仕方のない事なのだ。
 この屈辱も、最終的に全てのお宝を手に入れ帰還する為の手段だと考えれば、幾らかの気休めにはなる。今はカザリに従うが、いつか必ず反逆し、黄色のメダルも全て奪ってやると大樹は胸中で強く誓った。

「分かった……君の申し出を受け入れよう」

 そして、受け入れるならば、割り切った方がいい。
 カザリも此方を利用するつもりだろうが、それならば此方もとことんにまでカザリを利用してやろうではないか。
 此方が下手な真似をしなければ、恐らく純粋に優勝を目指したいだけであろうこの男は、大樹にとっても味方だ。二人掛かりで他の陣営のグリードを潰してゆけるなら、確かに優勝はずっと楽になる。
 何も心までカザリに屈服する訳ではない。最終的に黄色のメダルを奪うことさえ出来ればそれでいいのだから、それまでは。

「ふふ……OK、契約は成立だね」

 大樹の思惑を知ってか知らずか――カザリのことだ、概ね気付いてはいそうではあるが――気分良さそうに笑ったカザリの身体は、一瞬だけ大量のセルメダルに覆われたかと思えば、出会った時の黄色い少年の姿に戻っていた。
 大樹は、悪戯っぽく笑うカザリが投げたセルメダルの一枚を受け入れたのだった。


 お宝のため、IS学園の校舎内を探索する海東大樹の背後を歩きながら、カザリは今後の事を考えていた。
 カザリにとって海東大樹(仮面ライダーディエンド)とは、グリードにすら対抗出来る戦力を持っていながら、力だけでなく頭も切れる優秀な手駒であり、同時に何をしでかすか分からない危険性を孕んだ食えない男でもある。
 事実上自陣営に爆弾を引き入れてしまったようなものだが、この男はウヴァほど単純馬鹿ではない。恐らく当分の間は感情に任せて行動する事もなく、寧ろこのカザリすらも利用しようと立ち回るのだろう。
 が、それが分かっているからこそ、カザリはこの状況を“楽しい”と思えるのだった。

(キミが何を考えているのかは知らないけど、ボクもそう甘くないよ。知恵比べといこうか、ディエンド?)

 前を歩く大樹の背中に向けて、薄ら笑みと共に戦線を布告するカザリ。
 確かに海東は食えない男であるが、それを制してこそカザリの支配欲は刺激されるというもの。
 カザリは、海東大樹という存在を殺し合いを盛り上げる一種のアクセントであると考えているのだった。

(駒は十分手に入れた。次は――)

 今は秋葉原へ向かっている、カザリの言いなりとなった桐生萌郁
 上手く自分の配下へと引き入れる事に成功した笹塚衛士に海東大樹。
 ……が、手に入れるだけで使いこなせないのではまるで意味がない。もう何処かで行動を開始しているのであろう笹塚はともかく、少なくとも今現在自分の監督下にある萌郁と海東だけは使いこなして見せねば。
 ゲーム開始以来、他のどのグリードよりも自分が最も賢く立ち回っているという自負を抱きながら、ではその駒をどう利用するべきかを今度は考え、

(やっぱり、メズールだよね)

 メズールを潰しにかかるべきだと思考する。
 恐らく戦力としてはカザリとディエンドの二人でも十分だろうが、勝利をより確実なものとするためには、使える駒のフル活用は必須だ。

 幸いなことに、秋葉原に向かわせた萌郁は一応はメズールと同じ青陣営である。
 グリードに配られた詳細名簿を見る限り、萌郁がFBなる人物に依存している事は分かるのだが、そのFBの正体がカザリであることは誰にも知られていない。
 であるなら、これを利用しない手はない。未知の世界の学校を物色し嬉しそうにはしゃぐ大樹の背中を見守りながら、カザリは萌郁へと次の指令を送るべく、支給された携帯電話を取り出した。



【一日目-午後】
【G-7/IS学園】

【カザリ@仮面ライダーOOO】
【所属】黄
【状態】ダメージ(小)、疲労(中)
【首輪】90枚:0枚
【コア】ライオン×1、トラ×2、チーター×2
【装備】ヴァイジャヤの猛毒入りカプセル(左腕)@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品、詳細名簿@オリジナル、天王寺裕吾の携帯電話@Steins;Gate、ランダム支給品0~1
【思考・状況】
基本:黄陣営の勝利、その過程で出来るだけゲームを面白くする
1.メズールが居ると思しき場所へ向かい、青陣営を奪う。
2.「FB」として萌郁に指令を与え、上手く利用する。
3.笹塚に期待感。きっとゲームを面白くしてくれる。
4.海東に興味を抱きながらも警戒は怠らなず、上手く利用する。
5.ゲームを盛り上げながらも、真木を出し抜く方法を考える。
6.『閃光の指圧師(シャイニング・フィンガー)』(笑)
【備考】
※海東大樹を黄陣営に引き込んだ事でメダルが増加しましたが、戦闘での能力使用と海東大樹へ渡した分とで実質打ち消されています。
※対メズール戦ではディエンドと萌郁を最大限に利用するつもりです。一応青陣営である萌郁は意外なところで切り札にもなり得ると考えています。
※カザリがこれから萌郁にどのような指令を送るかは不明です。

【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
【所属】黄
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)
【首輪】20枚:0枚
【コア】クワガタ×1(一定時間使用不能)
【装備】ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品一式、支給品一覧表、不明支給品0~1
【思考・状況】
基本:この会場にある全てのお宝を手に入れて、殺し合いに勝利する。
1.今はカザリに協力し、この状況を最大限に利用して黄色陣営を優勝へ導く。
2.チャンスさえ巡ってくれば、カザリのメダルも全て奪い取る。
3.IS学園で「お宝」の情報を手に入れる。
4.他陣営の参加者を減らしつつ、お宝も入手する。
5.“王の財宝”は、何としてでも手に入れる。
6.いずれ真木のお宝も奪う。
【備考】
※「555の世界」編終了後からの参戦。
※ディエンドライバーに付属されたカードは今の所不明。



043:王【のぶなが】 投下順 045:愛と復讐と海の記憶
040:深紅郎動く! 龍之介改造計画! 時系列順 046:成長!!
039:断片交錯のダイバージェンス 海東大樹 061:目前のデザイア
036:Re:GAME START カザリ



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最終更新:2012年10月02日 22:52