サエコの いかりの ボルテージが あがっていく! ◆SrxCX.Oges
実際の所、後藤と出会った時点では悪意を隠さずにナスカの力を使って彼を叩き潰し、支給品もセルメダルも丸ごと奪うという選択肢もあった。
それを選ばなかった理由を挙げるとしたら、ビジネスの世界で長年生き続ける内に自然と身に付いてしまった冴子の習性だ。敵対と協力のどちらがふさわしいかわからない内はまず敵意を見せずに柔らかな態度で接触して、それから相手の深い部分を探る。そんなやり方を後藤に対しても同じように取っただけの話である。
その選択は功を奏し、後藤は何の疑いもなく冴子を善人だと判断し、行動を共にすることになった。そして冴子は自分の思い通りになる手駒が得られたと思っていた。
思って、いた。
◆
冴子が次の目的地として園咲邸を選んだのは、単によく知っている場所だからだ。得体の知れないこの空間まで屋敷を持ってくる、またはそっくり再現する手段を知るため、井坂が同じように目的地として目指す可能性があるかもしれないと期待したため、なども挙げられるかもしれない。
ともかく、このまま真っ直ぐ南下するのがとりあえず立てた方針だ。それを後藤に提案するために口を開こうとしたところ、
「まずはこのジャスティスタワーという場所を目指してみましょう。ここなら何か見つけられるかもしれない」
「え? 当てがあるのですか?」
「いや、単に近くにあって、目ぼしいものからとにかく手を付けようというだけですが……何より、他の友好的な参加者と早く合流したい。だから他の誰かも目指しそうな場所へ行きましょう」
「だったら、私は園咲邸、私の実家に行きたいのですが……」
「いいや、まずは速やかに俺以外に貴方を保護できる人間を見つけるべきです。だからそんな遠い場所を目当てにするより、近いこっちの方が目的地として妥当でしょう」
「……まあ、そうですね」
後藤の意見に従い、ジャスティスタワーを目指すことになった。園咲邸に譲れない拘りがある訳でもなかったから、多少の不満はあろうと後藤に同意したところで大した問題は無い。
それに、「非力な女性」でしかない冴子ならば後藤のこの言い分には従うのが筋だろう。
ジャスティスタワーへの道中、小休止も兼ねてお互いの支給品を確認してみた。
冴子が提示したのは、一つ目に袋入りのクッキー、二つ目にIBN5100というパソコン、最後に簡易型のL.C.O.Gである。
それらを見た後藤は、突然思いついたかのように一本のガイアメモリを取り出した。
彼に支給されたそのメモリを、どうやら「ボタンを押せば音声が流れる以外には特筆すべき点の無いUSBメモリ」としか認識できなかったようで、単にパソコンを使えば保存されたデータを確認できると思って取り出したらしい。型の古いパソコンだからUSBメモリには対応していないと指摘すると、タワーに着いてからパソコンを探し、そこで今度こそ確認しようという結論に落ち着いた。
さて、後藤の残りの支給品は二つ。どちらも武器になり得る物だった。ショットガンは生身で使う分には都合が良く、もう一つの武器の方もなかなか興味深い印象を受ける。
せっかくなので、護身用という名目でどちらかだけでも譲ってもらえないかと提案してみると、
「何を言っているんだ! ただの民間人である貴方が武器を手に取るなんて危険すぎる! さっきも言ったように、戦うべきなのは俺です。貴方は後ろに下がっていればそれでいいんです」
「……すいません。出過ぎた真似を」
「いえ、こちらこそ声を荒げてしまった。でも、わかってくれればそれで」
などと突っ撥ねられたので、引き下がるしかなかった。どうにか理屈をこねて食い下がろうかとも思ったが、どうやら聞く耳を持ちそうに無い。仕方が無いので、比較的戦力として期待できる、ということになっている後藤に全ての武器を託すことにした。
尤も、この理屈に従うならば武器を持つべきはむしろ冴子の方だ。駆け出しの新兵の後藤などより実戦経験が豊富なのだから当然だ。
しかし、そんなことを口に出せるわけがない。なぜなら今の冴子は「非力な女性」なのだから。
◆
その部屋は、ごくありふれた部屋だった。
緑の観葉植物の植えられた鉢と、その近くにスライド式のドア。部屋の中央には机と椅子。机の上にはパソコンのモニタとキーボード、それに使い古されたマグカップが一つ。ある壁に寄せられた棚には何冊かの本、別の壁には壁掛け時計。どこにでもあるようなごく普通の部屋だった。ただ、そこで時を過ごすべき部屋の主がいないだけで。
壁掛け時計の短針の傾きが100度を超えて120度に近づきつつある頃になり、部屋のドアが左右に開く。その直後に足を踏み入れたのは、一人の妙齢の女性。入るや否やきょろきょろと部屋の中を見回し、何ともなしに歩き回り、椅子に腰を下ろす。同時に口から出した溜息は女性の疲労を感じさせる響きだった。一度口を開いたら、誰も傍にいないとわかっているからか、ぶつぶつと愚痴のようなものを零し続ける。
それがこの部屋に到達した
園咲冴子の動向だった。
そして、そんな園咲冴子の姿を、園咲冴子が眺めていた。
「そういうことね」
得意気に背凭れへ身体を傾けながら、“頭の中の映像”を見終えた冴子はほくそ笑んだ。前に掲げた右手の中には一本の空色のガイアメモリ。ボタンを押すと鳴り響く音声が、宿した力の証明だ。
――MEMORY――
これが後藤に支給され、今は冴子の手中に納まっている三本目のガイアメモリ。“『記憶』の記憶“を内包したメモリーメモリである。
ジャスティスタワーに到着した二人は、後藤の提案により別行動をとることになった。後藤はタワー内部で他の参加者を捜索、冴子は安全のために目立たない部屋で待機である。
そこで後藤が帰ってくるまでの時間潰しも兼ねて、メモリーメモリの観察を行うことにした。勿論、ただのUSBメモリという扱いで後藤から受け取った。
「これがガイアメモリだとわからなかったのも、無理も無いと言えばそういうことかしら」
冴子に支給されたスパイダーメモリには簡易型のL.C.O.Gが付属していた。それに関して、既に生体コネクタをその身体に刻んだ冴子にさえ支給されたという点から、誰でも使えるように本来の使用者以外に渡される全てのガイアメモリに付属しているのだろうと冴子はとりあえず結論付けた。
しかしメモリーメモリの方にはL.C.O.Gが付属しなかったらしい。自分の立てた仮説が間違っているのだろうかと怪訝に思いながらメモリーメモリを弄ってみたが、すぐにそうではないと気付く。
メモリーメモリの効果は「過去の出来事をイメージ映像の形で脳内に取り込む」こと。その発動条件はメモリを手に持ってボタンを押し続けること。つまり、メモリーメモリにはそもそも生体コネクタが必要ない。だからわざわざL.C.O.Gを付属させなかったのだろう。
もしメモリとセットで支給されていたなら後藤にも何かしら思い至る部分があったかもしれないが、すでに過ぎた話だ。
「馬鹿ね、あの男」
後藤が手に取った後でもメモリーメモリの効果に気付けなかったのは、メモリのボタンをただ押してからその効果が発動する前に指を離して、それきり無意味な代物として興味を無くしたからだろう。もう少し注意深く観察すれば効果に気付けたのかもしれないが、中身を知る手段の無いUSBメモリなど分かりやすく武力を主張する二つの武器の傍では随分と色褪せて見えたというところか。
ゆえにガイアメモリの本当の価値を知ることなく、こうして冴子に渡してしまったのだ。なんとも迂闊だが、ガイアメモリに携わった経験の無い人間だから仕方の無い結果だろう。
「……ほんっと、使えない奴」
そのせいで、あの太った少年の殺害現場でメモリーメモリを使うという発想に至らなかったとしても。いつか冴子や井坂に害を及ぼすかもしれない赤陣営の男を討つチャンスを、こうして掴み損ねてしまったのだとしても。全て仕方が無い話だ。
支給品開示の段階でナスカメモリもスパイダーメモリも見せなかったのは、ガイアメモリの存在自体を把握されたくなかったからだ。
しかし、あの時ガイアメモリを後藤の前で明らかにしたらもう少し違った結果が得られたのだろうか、などと想像してみようとして、すぐに止める。
人智を超える力を得られるからこそ、ガイアメモリは無闇に他人に明け渡していい代物ではない。現時点で後藤にはスパイダーさえ託してよいか確信していないのだから、このままで正解だ。
何より、ガイアメモリの持つ強大な力について得意気に語れる「非力な女性」なんて不自然じゃないか。
◆
探索を終えて部屋に戻ってきた後藤には、部屋のパソコンに保存されていた特に重要でも無いデータを見せた。ガイアメモリに閲覧できるデータなど無いのだからやむを得ぬ処置だが、冴子をまるで疑ってない後藤は「そうですか……くそっ」などと顔を顰めながら納得し、加えて最早興味を失くしたらしいメモリーメモリをそのまま冴子の所有物とした。それは良い。
「どうやら此処には誰もいなかったようです。仕方が無い、協力者を探すのは他の場所にしましょう」
「そうですね……次はどのように移動しましょうか?」
「またそれらしい施設を探すべきだと思います。さっきも言ったように、まずは貴方を預けられる人物との合流が大事だ」
「ですね」
「さあ、行きましょう。俺についてきてください」
積極的に冴子を守るために働き、しかも冴子の秘めた悪意に全く気付かず、冴子の思い通りに動く。これらの点を見れば、
後藤慎太郎という人間は冴子にとって実に都合の良い人間だと言える。
でも。
「……あの、やっぱり私とはここで別れませんか? 後藤さんだって追いたい人がいるのに、私に構って自由に動けないんじゃやっぱりご迷惑かと……」
「そんなことを言うんじゃない! 俺のように力のある人間は、貴方のように力の無い人間を守ることが最低限の使命だ。だから、貴方の安全が確保できるまで、俺は貴方と行動する義務がある。わかりますか?」
「……すいません。確かに後藤さんの言う通りですね」
「いえ、わかってくれたならそれで。今は俺が貴方を守る、それでいいんです」
「…………うざったい」
「え?」
「あ、何でもありません。行きましょうか、後藤さん」
この男は、時に冴子の意図に反する行動をするのだ。
冴子を守るという目的に積極的なのは結構だが、そのためには時に冴子の言い分すら跳ね除けてしまう。強い正義感ゆえに思考パターンが完全に固まってちっとも融通が利かない。そしてあくまで善意で冴子の先に、冴子の上に立とうとするのである。もしかしたら単独行動の方が気楽なんじゃないかと一瞬でも考えさせられるほどの厚かましさだ。それでも冴子の期待以上の効用を残せるのならば妥協できるのだが、今の時点で特に手応えが無いのだから喜べない。
しかし後藤にこれほどに出張った真似をさせている原因は、結局のところ冴子が「非力な女性」を演じているからだ。一応は少しくらい戦力になる後藤との自然な関係性を考えれば、この状態になるのが必然的だ。後藤に非があるわけではない。
実際の戦力としては他の超人的能力を持つ者達よりも劣り、一人で行動させたところで大した成果も期待できそうになく、それでいて彼自身にその自覚があるのか疑わしい、どこを取っても自分より格下と言わざるを得ない男に従う身になったとしても、結局それは冴子が選んだ道だ。
(まあ、しょうがないわね)
数十分前にタワー内を上昇するエレベーターの中で、冴子の頭が考えていたのは「後藤をどのように利用するのがベストか」であった。
しかし、今タワー内を下降していくエレベーターの中では、冴子の頭にあるのはそれだけではない。「果たして後藤にどれほどの利用価値があるものなのか」とか、「わざわざ後藤のために最善の行動を手取り足取り教えてやる義理があるのか」とか、「そもそも後藤との協力は他の選択肢と比べて最善のものだったと断言できるのか」とか、気付いたらあたかも現状に不満があるかのような発想にばかり向かいそうになるのだ。
(これで良かった……のかしら?)
それでも冴子は、その考えに傾かないように気を張り続けている。後藤は致命的な失態など犯していないのに、わざわざ方針を変えるだけの理由が無いから。いや、今の冴子の中の個人的な感情も挙げられるのだが、それはまだ構うほどの段階ではない。
全てが期待通りに進まないなど、何事にも付きまとう話だと自分はよく知っているじゃないか。だから、多少は我慢することだって必要だ。そう反芻する。
(……ああ……何と言うか、こいつといると)
ゆえに冴子は策謀も実力も、見せつけてやりたい本当の表情も隠して、笑顔を張り付けたまま後藤に同行し続けることにした。当然ながら、後藤は微塵も気付いていない。
(…………苛々するのよね……)
胸に渦巻く黒ずんた感情も、今はまだ明かさない。
【一日目-夕方】
【C-7 ジャスティスタワー内】
【後藤慎太郎@仮面ライダーOOO】
【所属】青
【状態】健康、強い苛立ち
【首輪】所持メダル100:貯蓄メダル0
【装備】ショットガン(予備含めた残弾:100発)@仮面ライダーOOO、ライドベンダー隊制服ライダースーツ@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、
橋田至の基本支給品(食料以外)、不明支給品×1(確認済み・武器系)
【思考・状況】
基本:ライドベンダー隊としての責務を果たさないと……。
1.今は園咲冴子を守り、少しでも安全な場所に行く。協力者が見つかったら冴子を預ける。
2.殺し合いに乗った馬鹿者達と野球帽の男(
葛西善二郎)を見つけたら、この手で裁く。
【備考】
※参戦時期は原作最初期からです。
※メダジャリバーを知っています。
※ライドベンダー隊の制服であるライダースーツを着用しています。
※何処に向かうかは次の書き手さんにお任せします。
【園咲冴子@仮面ライダーW】
【所属】黄
【状態】健康、苛立ち
【首輪】100枚:0枚
【装備】ナスカメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、スパイダーメモリ+簡易型L.C.O.G@仮面ライダーW、メモリーメモリ@仮面ライダーW、IBN5100@Steins;Gate、夏海の特製クッキー@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:リーダーとして自陣営を優勝させる。
1.黄陣営のリーダーを見つけ出して殺害し、自分がリーダーに成り代わる。
2.井坂と合流する。異なる陣営の場合は後で黄陣営に所属させる。
3.協力相手と武器が欲しい。
4.後藤慎太郎の前では弱者の皮を被り、上手く利用するべきなのだろうか。
【備考】
※本編第40話終了後からの参戦です。
※ ナスカメモリはレベル3まで発動可能になっています。
※何処に向かうかは次の書き手さんにお任せします。
※後藤との合流で増加したセルメダルは、メモリーメモリの使用で全て消費しました。
【メモリーメモリ@仮面ライダーW】
後藤慎太郎に支給。
一般のガイアメモリ。
使用することで、過去に起こった特定の出来事をイメージ映像として観測できる。
本ロワで観測できる範囲は、対象となる場所または物についてロワ開始以後に起こった出来事に限定される。どのくらい前の時間を見るかは使用者の意思で調整可能。
最終更新:2013年08月10日 12:42