はみだし者狂騒曲 ◆qp1M9UH9gw
【0】
夢を見ていた。
大切な人を喪う夢を見てしまった。
どこまで行っても彼には届かず、己の身体は海深くへと落ちていく。
そんな夢を――最悪の可能性の暗示を、目の当たりにされた。
こんなに不愉快な気分なのは初めてだ。
あんなものを目にする羽目になったのもそうだが、何よりも夢の分際で脳裏に焼き付いているのが腹立たしい。
まるでそれが事実であると認識させられているかのようで、気に食わないのだ。
そう――あの人がそう簡単に死ぬ訳がない。
少々危険を顧みない面があるものの、それでも今まで危機を脱してきたのである。
だから、今回もきっと大丈夫――今も仲間達の無事を案じながら、どこかで戦っている筈だ。
そう、今も生きているに決まっている。
彼が死んだら、残された者の意思が無意味になってしまう。
もしそうなってしまったら、今まで秘めてきた思いも、これから先の未来も、何もかもが――――。
【1】
主催者の真木清人に怖気づくことなく、彼の目の前で宣戦布告。
そんな事をすれば嫌でも目立つ訳で、当然ながら大多数の者に名前と外見を覚えられる。
暁美ほむらもその「大多数の者」の一人であり、その怖い物知らず――ワイルドタイガーの姿を目に焼き付けていた。
ほむらは
岡部倫太郎と共に見滝原へと向かう道中で、そのワイルドタイガーに出会った。
どうやらほむら達に出会う前に何者かに襲われたようで、彼のスーツはあちこちが破損してしまっている。
ついさっき威勢のいい姿を晒しておきながら、随分と情けないものだと、ほむらは心中でため息をつく。
彼との対話は、Gトレーラーの外で行われた。
情報交換はほむらだけで進め、岡部は未だ眠る少女の見張りを担当してもらった。
これは、まだ絶対的な信頼を寄せている訳でもないワイルドタイガーと、何をするか分からない少女を警戒しての判断だが、
岡部が話に割り込んできて余計な時間を使うのが嫌だったからという理由も兼ねている。
まず最初にワイルドタイガー――鏑木・T・虎徹の口から出てきたのは、翼を生やした少女の話である。
なんでも、虎徹は最初にその少女に襲撃されており、スーツが傷だらけなのもそれが原因なのだという。
何が理由で彼女を追うのかとほむらが聞いてみれば、なんと虎徹はその少女を説得するつもりなのだという。
「分かるんだよ、あの娘は本当はそんな事望んでないって。だから俺が止めてやるんだ」
「……理解しかねるわ。殺されるかもしれないのよ?」
「そんなの百も承知だ。それでも俺は行く、行かなきゃならねえんだ」
流石は正義のヒーローを名乗るだけのことはある。
こう言った以上、どれだけ止めようとしても彼は進むだろう。
いかにも
美樹さやかが取りそうな行動だと、ほむらは僅かに機嫌を悪くする。
あの直情的すぎる魔法少女は、今頃何をしているのだろうか。
まともな人間と出会えていればいいのだが、それ以外の場合はきっと碌な目に遭っていないだろう。
実力もまだ半端だし、精神的にも脆い面がある彼女が、一人でこの修羅の世界を生きていける訳がないのだ。
もし"まともなまま"出会えたのなら保護しようと思ってはいるが、できれば関わりたくないのが本音である。
そしてそれは、目の前にいるさやかの面影を感じるヒーローにも言える事だ。
真木に食いかかった頃から思っていたが、こういうタイプの人間とは反りが合う気がしない。
「随分とお節介焼きなのね、ヒーローって」
「お節介じゃなきゃヒーローなんてやってられねえのさ」
大真面目に、虎徹はそう言ってみせた。
成程、確かにこの様子なら真木に食いかかってもおかしくはないか。
こんな調子で、情報交換は進んでいった。
これから先、情報は戦いにおいて大きなアドバンテージと成りうる。
例え気に入らない相手であっても、彼が持つ情報は入手しておく必要があった。
「……そうだ、『
牧瀬紅莉栖』って奴を知らねえか?」
虎徹の仲間の話を聞いていた時に、突然そう問われた。
確か、牧瀬紅莉栖は同行者の岡部倫太郎の知り合いだった筈だ。
本来なら接点の無い筈の彼女の名を、どうして虎徹が知っているのだろうか。
「どうしてあなたが牧瀬紅莉栖を知ってるのかしら」
「ああ、それは――――」
虎徹の言葉は、Gトレーラーから聞こえた破壊音で遮られた。
ほむらが咄嗟にその方向に目を遣ると、車に安置させていた金髪の少女が、
青い装甲の男と戦っていた時と同様の武装をして、空へと旅立とうとしているではないか。
ほむらはすぐさまGトレーラーに乗り込み、案の定そこで呆然としていた岡部を発見する。
「これはどういう事なの、岡部倫太郎……あの女から支給品は全て奪ったんじゃなかったの!?」
「確かに支給品は全て俺が持ってたぞ!その筈なんだが……」
不意を突いて岡部から支給品を奪い取るやいなや、少女はあの武装を"召還"したというのだ。
つまりは、あの女は支給品の力に頼らずとも戦えたという訳である。
「……支給品も全部奪われたようね」
ほむらは、思わず舌を打つ。
岡部のデイパックには、ファイズギアも入っていたのだ。
あの強力なアイテムを奪われると、後々痛手になりかねない。
他の支給品もろとも、奪還する必要があるだろう。
「あなたはワイルドタイガーと待っていて。アイツは私が捕まえるわ」
そう言うと、ほむらはGトレーラーに配備されたバイク――ガードチェイサーに跨る。
これと彼女自身の能力さえあれば、あの機動兵器にも追いつけるだろう。
ほむらは瞬く間に魔法少女としての姿に変身すると、
大きく開け放たれた――女がこじ開けたのだろう――ハッチを飛び出し、逃亡者の追跡を開始するのであった。
【2】
新型兵器として造られたISの性能は、世界にも認められている。
機動性と破壊力も従来の兵器を遥かに凌ぎ、たった一機投入されただけで戦場の絵図を塗り替える事が可能だろう。
セシリアが駆使するブルー・ティアーズも、その例に漏れない。
武装の面では勿論の事、移動性能でも他のISと同様に、他の兵器とは一線を画している。
空気を裂いて空を翔る様はさながら流星の如し――車からの逃走なんて、赤子の手を捻るのよりも容易い。
相手がIS、あるいはそれに匹敵する移動能力を有する物でも所持していない限りは、
ブルー・ティアーズを繰る彼女には着いて来れないのだ。
そういう訳で、セシリアはブルー・ティアーズが出せるであろう最大の速度で滑空していた。
どうしてセルメダルを一枚も持っていない筈の彼女がISを動かせるかというと、
それは彼女に支給されていた「バッタ」のコアメダルの恩恵によるものだ。
もしもの時の為に隠しておいたものなのだが、海東との戦闘の時はこれを使う前に撃墜されてしまったのだ。
まさか、こんな早くに、こんな形で使う事になろうとは。
しばらく使えなくなるのは惜しいが、これが無ければ彼らから逃げられなかったのだから仕方ない。
(……あら?)
そう考えてから、ふと疑問が浮き出てくる。
どうして自分は、ISまで使って逃げているのだろうか。
まだ節々が痛む体に鞭打ってまで、逃げる必要が果たしてあったのだろうか。
そもそも、自分は今まで何の為に行動していたのだろう。
何か大切な、しかし自分勝手な事を考えていたような気がするのだが。
(ああ、そうでしたわ。私は確か……)
そうだ、思い出した――確か、親友に何かしなくてはならなかったのだ。
自分の願いを叶える為に、何者かから『親友に"何か"をしろ』と吹き込まれたのではなかったか。
だからこそ、立ち止まっている場合ではないと言わんばかりに車から飛び出したのだ。
では、果たして自分は誰に命令され、そして気絶する前に何をしようとしていたのだったろうか。
(分かりませんわ……どうして思い出せないの……)
どうやら、撃墜された影響で記憶が朧気になってしまっているようだ。
こればっかりは、どう頭を捻っても思い出せない。
もう一度撃墜されれば、全ての記憶を鮮明に映し出せるようになるのだろうか?
いや、冗談じゃない――あんな思いはできれば二度と御免だ。
些細な切っ掛けで記憶は蘇ると言うし、この際消えた記憶については保留でいいだろう。
とりあえず、これからはどうしようか。
事情も教えずに逃亡した以上、もう岡部達の元へは戻れない。
いや、例え戻れたとしても、セシリアにはとんぼ返りする気など無いだろう。
記憶が曖昧になっているとはいえ、何かしらの危機感を抱いて逃走したのだ。
己の勘を信じて、彼女らには警戒するべきであろう。
「……とりあえず、ここまで来れば大丈夫ですわね」
そう言って、セシリアはISを少しばかり減速させる。
それなりの距離を疾走したのだから、流石に相手も探すのを諦めているだろう。
彼女が安堵しようとした、その時――ISのハイパーセンサーが、こちらを追跡する者の姿を捉えた。
猛スピードでこちらへと迫るそれは、セシリアの真後ろ――つまり彼女が来た道から現れたのである。
追跡者の存在に、彼女は唖然とする他なかった。
突如としてISに接近する者が出現したのもそうだが、
何よりも驚愕させられたのは、追跡者の正体がセシリアの知っている者だった事である。
ここに来れる訳がないと、ずっと思っていた人物が、バイクに乗っている。
あの風に靡く黒髪は。あの紫と白を基調とした服装は。
「そんな――――」
そう言い掛けた瞬間――彼女の目の前に、一発のグレネード弾が出現した。
あまりにも唐突に現れたそれに、セシリアの表情が更なる驚愕の色に染まる。
一体何時、何処で、誰がこれを発射してきたのか。
混乱する頭がその答えを導き出す前に、グレネードは彼女に着弾。
下級アンノウンなら一撃で屠れる程の威力を受ければ、ISとて無事では済まされない。
爆風に煽られ、そのままセシリアは地面に叩き付けられる。
メダル五十枚分の恩恵は、グレネードの直撃の際に発動した絶対防御によりいよいよ底を尽きた。
墜落の衝撃を受けたセシリアは意識を手放し、エネルギーを失ったブルーティアーズもそのまま消失したのであった。
O O O
空中で発生した爆発は、「サラマンダー」の弾が逃走者と接触したが故に起こったものだ。
その証拠に、打ち落とされて気を失った逃走者は、無様にも地面にひれ伏している。
セシリアには知る由もないが、暁美ほむらは時間を停止できるのだ。
その能力を有効活用すれば、乗り物に頼らずとも移動するトラックにさえ追いつける。
僅かな――1,2秒程度の――時間停止を連続で行使しながらバイクを走らせれば、確実に距離は縮まっていく。
これにより、ほむらは最小限のメダルでセシリアの所にまで到達し、「サラマンダー」を彼女に叩きこむ事に成功したのである。
「残念だけど、逃がすつもりはないわ」
ほむらはそう言いながら、既に意識の消えている少女を一瞥する。
グレネード弾が直撃していながら、彼女の肉体は五体満足のままだった。
あの機動兵器が彼女の身を護ったと考えるのが妥当だが、それにしては何処にも兵器の欠片らしきものは見当たらない。
まるで魔法少女ね、と呟きながら「サラマンダー」を盾に収納すると、今度はそこから「スコーピオン」を取り出す。
「あなたはここで始末する」
「スコーピオン」の銃口を、セシリアの頭部に向ける。
聞きたい事は多いが、この様子では口を割らずに抵抗しようとするのは目に見えている。
それに感性は多分一般人同然の岡部がいる以上、拷問という過激な手段も取り辛い。
ならばいっそ、この危険分子は早めに始末し、他者から機動兵器について聞いた方が手っ取り早い。
岡部には「逃げられた」とでも言っておけばいいだろう――そう考えながら、ほむらが引き金を引こうと指に力を込める。
しかし、突如として視界の中に現れた影を発見した事によって、その行為は中断せざるおえなかった。
「――っと、何とか間に合ったみてえだな……」
その乱入者の名は『ワイルドタイガー』――ほむらが置いてきた筈の男である。
【3】
ワイルドタイガーこと鏑木・T・虎徹は超能力者である。
世間では「NEXT」と呼ばれるその特異な力を用いて、彼はヒーローとして戦ってきたのだ。
そんな彼のNEXT能力の名は「ハンドレッドパワー」。
自身の身体能力を、一定時間だけ百倍にまで跳ね上げるという能力である。
これを用いれば、あの兵器に乗った少女にもどうにか追いつける
一時間に一度のみ、しかも減衰によって維持時間も減りつつあるものの、能力の性能自体はまだ落ちぶれてはいないのだ。
「どうしてあなたがここにいるのかしら、ワイルドタイガー」
ほむらは銃口をセシリアに向けたまま、虎徹を見据える。
対する虎徹は、銃の引き金が引かれていない事に少しばかり安堵しながらも、
今まさに殺人を犯そうとしている少女に向けて問いを投げかける。
「そりゃ逃げ出した子を放っておける訳ないだろ……それより聞かせてくれ。その娘をどうするつもりなんだ」
「見て分からないかしら?これ以上面倒を起こされる前に死んでもらうのよ」
案の定、予想した通りの台詞が出てきた。
やはりこの少女は、無抵抗な人間の頭を吹き飛ばそうとしている。
その事実を突きつけられたヒーローが、何も言わずにそれを承諾できる訳がない。
「何だよそれ……殺す必要がどこにあるんだ!?」
「妙な事を言うのね。反撃される前に排除しておくのは当然でしょ?」
「なっ……ふざけんじゃねえ!ここで殺したら、真木の野郎の思う壺だろうが!」
シュテンビルドのヒーローは殺人を犯さない。
例えそれがどんなに極悪人であったとしても、決して殺めはせずに警察に逮捕させている。
それはヒーローの活動がTV中継されているからというのもあるが、
やはりヒーロー達の倫理観が殺人という行為を許していないというのが大きいだろう。
それを聞いたほむらの顔には、呆れが見て取れた。
今言った事が余程理解に苦しむものだったらしい。
彼女がどんな人生を送ったかは虎徹には知る由もないが、
きっと何かしらの形で「殺さなければならない」状況に身を置いていたのだろう。
だからと言って、虎徹は己の考えを曲げるつもりなど毛頭ない。
「こいつを逃したら、後々面倒な事になるのは間違いないわ。例え真木の思惑通りであっても、
これからを考えて危険人物は早めに潰しておくべきよ」
「そんな理由で殺すってのかよ!?そんなの納得できる訳がねえ!」
「……随分おめでたい思考をしているのね。見ず知らずの女にそこまで情けをかける理由が分からないわ」
「情けとか、そういう問題じゃねえよ!悪人だろう何だろうが、人が人を殺すのは間違ってる!」
誰が何者かである以前に、虎徹はヒーローなのであり、はこの殺伐とした世界でも変わりはしない。
泣きそうな人間がいたら涙を拭いてやり、凶行に走ろうとする者がいれば命がけで止める。
それが虎徹が認識するヒーロー像であり、己が信じる"正義"なのだ。
「誰かが人を殺すのも、殺されるのも許さねえ!一人の"ヒーロー"として、俺はお前を認める訳にはいかねえんだ!」
ほむらは何も答えようとしない。
ただ、苛立ちを露にしながら虎徹を睨み付けるだけだ。
彼女から発せられるのは、純粋な拒絶の感情のみ。
苦々しさを覚えながらも、虎徹は再び口を開いた。
「それに、お前みたいな子供がどうしてそこまでする必要があるんだよ……!」
この場に立ち会ってから、ずっと疑問に思っていた
体型と服装からして、ほむらが中学生である事は容易に想像がつく。
年齢の方も、きっと娘の楓と大差ない筈だ。
それなのに、彼女はさも当然の如く銃器を操り、躊躇無く人を殺す事ができる。
前にも述べた通り、虎徹はほむらを何一つとして知らない。
だが、彼女の身に何か幸福でない出来事があった事ぐらいは理解できる。
ヒーローとして、それを見過ごす訳にはいかないのだ。
虎徹がそう言った途端に、ほむらの表情が曇りだす。
そしてそれは、徐々に怒気を滲ませるようになる。
虎徹の一言は、彼女の逆鱗に触れてしまったのだ。
「……ッ!あなたに何が――――」
怒りに任せてほむらが言葉を発そうとした、その瞬間。
彼女は自身に起きた突然の変化に気付き、驚愕する。
「動け、ない……!?」
ほむらがどれだけ身体に力を込めても、身体はピクリとも動きはしない。
どうやらその現象に陥っているのは彼女一人だけのようで、虎徹は今までと変わらず動けるようだ。
つまりこれは、ほむらだけが何かしらの攻撃を受けているという事である。
「お、オイ!どうしたってんだ!?」
「ッ……!ワイルドタイガー!早くその娘を――」
ほむらが言い終える前に、上空から放たれた銃弾の雨が、虎徹と二人の少女を遮った。
虎徹が上空に視線を見やると、そこには兵器が二台、宙に浮かんでいるではないか。
その外観は、真木に殺された箒という少女が纏っていた兵器の面影を感じさせる。
「ラウラ!今だよ!」
黄色い兵器を装着した少女が、隣にいたもう一台の兵器に呼びかける。
「ラウラ」と呼ばれた少女が操る兵器が、瞬く間にほむらの近くにいたセシリアを攫っていく。
ほむらは依然として微動だにもできず、セシリアが奪われる様子をただ眺める事しかできない。
虎徹も既にNEXT能力の効力が切れてしまってので、滑空する兵器達には手出しできなかった。
いくら強い正義感を秘めていたところで、NEXTが使えない状態では彼も一般人同然なのである。
セシリアと共に、少女達がさながら疾風の如く去っていく。
ようやく動けるようになった頃には、ほむらは追跡する意思を無くしていた。
ただ、以前以上に憎悪の篭った目で虎徹を睨み付けるだけである。
【4】
「……なあコマンドー。本当にタイガーと別れて良かったのか?」
移動中のGトレーラーに揺らされながら、助手席に座る岡部がほむらにむけてそう言った。
今この車に乗っているのは、彼と運転しているほむらだけである。
岡部が言うとおり、二人はワイルドタイガーとは別行動を取ったのだ。
別行動の提案をしたのは、ほむらの方である。
セシリアに逃げられた後で改めて情報交換を終えた直後に、彼女がこの方針を持ちかけたのだ。
「そうよ。何か問題でもあるの?」
「その、なんだ。こういう時は集団で行動した方がいいと思うのだが……」
「無理な相談ね。あいつと行動する気にはなれないわ」
きっぱりと、ほむらはそう言い切ってみせた。
一体、ワイルドタイガーの何が彼女の癪に障ったのだろうか。
きっとセシリアを追っていた際に一悶着起こしたに違いないのだが、当事者でない以上、具体的な状況を把握する事はできない。
そして何より、ほむらのそれ以上の詮索を許さなかった。
「それに、あいつと私達は元から進路が違うのよ。お互いの邪魔はしたくないでしょ?」
「確かにそうだが……ううむ……」
歯切れの悪い返事を無視して、ほむらはまた運転に集中し始めた。
岡部から見たって、彼女は普段より明らかに機嫌を悪くしている。
何かがきっかけで爆発するか分からないから、しばらくは沈黙を保っていた方がいいのだろう。
虎徹が言っていた事を思い出す。
なんと、岡部の"大切な人"が彼の仲間の悪評を撒いていたというのだ。
岡部には、彼女――紅莉栖がそんな事をするような人間だとは、とても思えない。
しかし、何よりも気がかりだったのが、彼女が襲われたという事実だ。
危険人物の情報を晒すというのは、誰かに害を与えられたのと同義である。
果たして、紅莉栖は無事なのだろうか。
彼女だけではない――他のラボメンの安否も心配になってくる。
この殺伐とした世界の中で、彼らは生き残っていけるのだろうか。
車は揺れる。見滝原に向けて、一直線に走り続ける。
助手席に座る男に「鳳凰院凶真」の影は無く、そこには、仲間の身を案じる「岡部倫太郎」の姿だけがあった。
【5】
虎徹の言い分が理解できない訳ではなかった。
死人が出ないまま物事を解決できれば、それはそれは幸福なのだろう。
しかし、時として冷酷な判断ができなければ、誰一人として救えないという事を、ほむらは嫌というほど理解している。
誰も殺さないという美徳は、この場においては甘さ以外の何者でもないのだ。
それが、数えるのも馬鹿馬鹿しくなってくる位に繰り返してきた世界が、ほむらに教えた"現実"の一つだった。
自分の信念は決して曲げないという、融通の利かなさもほむらを苛立たせた。
信念が捻じ曲がる可能性がある分、もしかしたら美樹さやかの方がマシなのかもしれない。
何にせよ、あの男の信念など、ほむらにとっては戯言以外の何者でもなかった。
しかし、何よりもほむらが癪に障ったのは、虎徹が押し付けてきた"情"である。
何も知らない癖に、どうして知ったような口を聞かれなければならない。
この男はきっと、目の前の少女を単に冷酷なだけだとしか認識していないのだろう。
そんな訳がない――救いたかった少女の為に、今まで同じ世界を何回も、何回も、何回も繰り返してきたのだ。
今まで味わってきた苦しみが、手を伸ばしても届かない絶望が、あんな甘ったるい正義を振り翳す男に理解されてたまるものか。
だからこそ、虎徹を――"正義の味方の"ワイルドタイガーを受け入れたくなかった。
勝手なお節介などは、ほむらにとっては苛立ちを促進するだけにしかならない。
虎徹の方だって、見知らぬ女の憎悪を引き受けていても何のメリットもないだろう。
だからこそ、ほむらは虎徹を引き離す選択をしたのだ。
気分を落ち着かせようと、深呼吸をする。
こんな事で感情を昂ぶらせていても、何の意味もない。
今は雑念を払って、運転に集中するべきだ。
交通事故で死ぬだんて、間抜けな最期は御免である。
さあ、Gトレーラーも大分長い時間走行してきた。
目的地――見滝原は、すぐそこだ。
【一日目-夕方】
【C-3(南部)/市街地】
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】無
【状態】疲労(中)、苛立ち、Gトレーラーを運転中
【首輪】30枚:0枚
【装備】ソウルジェム(ほむら)@魔法少女まどか☆マギカ、G3-Xの武装一式@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、ダイバージェンスメーター【*.83 6 7%】@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:殺し合いを破綻させ、
鹿目まどかを救う。
1.このまま見滝原へ。
2.なるべく早くセルメダルを補充したい。
3.青い装甲の男(
海東大樹)と金髪の女(セシリア)を警戒する。次に見つけたら躊躇なく殺す。
4.岡部倫太郎と行動するのは構わないのだが……。
5.虎徹の掲げる「正義」への苛立ち。
【備考】
※参戦時期は後続の書き手さんにお任せします。
※未来の結果を変える為には世界線を越えなければならないのだと判断しました。
※所持している武装は、GM-01スコーピオン、GG-02サラマンダー、GS-03デストロイヤー、GA-04アンタレス、GX-05ケルベロス、
GK-06ユニコーン、GXランチャー、GX-05の弾倉×2です。 武装一式はほむらの左腕の盾の中に収納されています。
※ダイバージェンスメーターの数値が、いつ、どのような条件で、どのように変化するかは、後続の書き手さんにお任せします。
【岡部倫太郎@Steins;Gate】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】85枚:0枚
【装備】岡部倫太郎の携帯電話@Steins;Gate
【道具】なし
【思考・状況】
基本:殺し合いを破綻させ、今度こそまゆりを救う。
1.ラボメンNo.009となった暁美ほむらと共に行動する。
2.ケータロスを取り返す。その後もう一度モモタロスと連絡を取り、今度こそフェイリスの事を訊く。
3.青い装甲の男(海東大樹)と金髪の女(セシリア)を警戒する。
5.俺は岡部倫太郎ではない! 鳳凰院凶真だ!
【備考】
※参戦時期は原作終了後です。
※携帯電話による通話が可能な範囲は、半径2エリア前後です。
【6】
鏑木・T・虎徹は、
バーナビー・ブルックスJr.を理解し、その上で信頼していた。
だからこそ、自分の相棒が殺し合いなどに乗っていないと確信できたのである。
例えそこに何の根拠がなくても、目の前に突きつけられた情報を否定し、半ば妄信的にバーナビーの正義を信じ続けられたのだ。
だが、彼は知ってしまった――どれだけ信じても、決して揺らぐことのない"証拠"を。
『牧瀬紅莉栖は、決して殺し合いに乗るような少女ではない』
『道具を利用して他人を騙すなんて行為を容易くできるほど、彼女は落ちぶれてはいない』
それが現実だった。
彼女の知人である岡部倫太郎の口から告げられたのだから、間違いないのだろう。
「…………ッ!」
ナイフの様に鋭利で冷たい事実が、虎徹の喉元に突きつけられていた。
牧瀬紅莉栖を信用しないという事は、岡部を――ひいては牧瀬自身を裏切るという意味で。
牧瀬紅莉栖を信用するという事は、これまでのバーナビーへの信頼を否定するという意味で。
どちらを選ぶにせよ、虎徹の心は決して晴れはしない。
それどころか、彼の心に大きな傷を刻み込む事にすらなるだろう。
「なんで……なんでだよ……ッ!」
しかし、虎徹が最も怒りを覚えたのは、『牧瀬が善人である事』に嘆きを覚えた自分自身である。
弱き者を護るヒーローにとっては、あってはならない筈の感情だ。
だが、彼は抱いてしまった――バーナビーという存在を否定したくないが故に、牧瀬紅莉栖という少女を否定した。
自身への嫌悪感が、体内に充満していくのが分かる。
(……違げえ!今は落ち込む時間じゃねえだろ!)
思い出されるのは、己を見失いかけてた時に手を差し伸べてくれた、仮面ライダーの二人。
彼らはきっと、今も自分を信じて戦っているに違いない。
そんな彼らの期待に応えないで、一体どうするというのだ。
カンドロイドの件は一旦後回しだ。
バーナビー本人か『牧瀬紅莉栖』に会って確かめればいいだけの話である。
今は、あの翼生やした少女を追うのを優先するべきだ。
ほむらは、道中ではその少女に見かけてはいないと言っていた。
彼女達が南東から来た以上、その情報は正しいのだろう。
今の虎徹には、あの少女に到る為の手がかりは存在しない。
故に、当てもなく会場をバイクで走り回る事しか彼にはできなかった。
そうしてバイクを走らせて――発見してしまった。
虎徹の前に広がっていたのは、焦土。
全ての生命が死滅したであろう死の世界が、彼の前に姿を表していた。
地図の表記が正しいのなら、ここは緑の溢れる「公園」だった筈である。
それなのに、彼の目の前に存在しているのは、およそ公園とはかけ離れた荒廃した空間だ。
まさか、と考えた頃には、虎徹はライドベンターを加速させていた。
「……ッ!そんなに……そんなに戦いたいのかよ……!?」
虎徹の判断が正しいのなら、きっとこの先にあるのは血みどろの殺し合いだ。
もしもまだ戦いが繰り広げられているのなら、全力を以てそれを止めなくては。
公園を焦土に変貌させた者への怒りを募らせながら、虎徹はハンドルを回す。
それが誰の手によって起こされたのかを、露とも知らぬまま。
【一日目-夕方】
【E-3/公園】
【鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(中)、精神疲労(中)、疲労(小)、NEXT能力一定時間使用不可
【首輪】80枚:0枚
【コア】なし
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(胸部陥没、頭部亀裂、各部破損)
【道具】基本支給品、タカカンドロイド@仮面ライダーOOO、フロッグポッド@仮面ライダーW、不明支給品1~3
【思考・状況】
基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
1.焦土と化した公園に向かう。
2.少女(
イカロス)を捕まえて答えを聞きだす。殺し合いに乗るなら容赦しないが、迷っているなら手を差し伸べる。
3.他のヒーローを探す。
4.ジェイクとマスター?と金髪の女(セシリア)を警戒する。
5.フロッグポッドの事は後で考える。
【備考】
※本編第17話終了後からの参戦です。
※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。
※「仮面ライダーW」の参加者に関する情報を得ました。
※フロッグポットには、以下のメッセージが録音されています。
・『牧瀬紅莉栖です。聞いてください。
……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています!今の彼はもうヒーローじゃない!』
最終更新:2014年05月17日 18:39