鈴羽の敵はそこにいる ◆QpsnHG41Mg
阿万音鈴羽はと
セイバーの二人には、進むべきアテがまるでない。
織斑一夏を追い掛けようにも、奴が何処へ逃げたかがわからないのだ。
当然諦めるつもりはないが、しかしいい加減何らかの目的に沿って行動する必要があるのは明白。
鈴羽もセイバーも馬鹿ではないのだ、それくらいの分別はつく。
そんな中で、二人が新たに目的地として選んだのは、冬木市だった。
“でも、どうしていきなり冬木なんだろう……?”
トライドベンダーの常識離れした加速の風を感じながら、鈴羽は考える。
最初に冬木を目指そうと提案したのは、現在のバイクの操縦者であるセイバーだ。
織斑が逃走した方向が北方らしいことを考えれば、目的地が空見町よりも北に位置する冬木になるのも頷ける。
その過程で織斑に出会えれば問題ないし、仲間に出会えればもっといい。
だが、しかしそれだけでは説明のつかない疑問も残る。
空見町よりも北と言えば、冬木だけでなく見滝原も該当する。
しかしセイバーは、見滝原をすっ飛ばして冬木に行きたいと主張したのだ。
セイバーに縁のある冬木を優先的に調べたいと言うのはわからないでもない。
だが、セイバーにしては少しばかり焦り過ぎではなかろうか?
――その謎の真相は、
衛宮切嗣が発動した令呪による召喚命令によるもの。
セイバーすらも気付かぬうちに切嗣が居た空見中学校に、そして冬木に呼び寄せられているのだ。
この令呪はセイバーの無意識に干渉するものだが、令呪の命令が果たされるまで効果は続く。
よって、冬木へと移動した切嗣を追い掛けるように、セイバーもまた移動しているのである。
鈴羽にとっては釈然としない疑問を残したまま、二人を乗せたバイクの現在位置はD-2。
人気のない森を突っ切るよりも、市街地を進んでいく方が合理的だという判断だ。
二人は空見町を出たあと、見滝原を迂回して冬木を目指す腹積もりなのだった。
“あれ、あの人……?”
鈴羽が第三の参加者の存在を見咎めたのは、もうすぐ空見町を抜けるあたりだった。
お世辞にも都会とはいえない街並みの中に、ぽつんと一人、中年の男が立っている。
鈴羽がそれに気付くということは、操縦者のセイバーはもっと早くに気付いている筈だ。
あえて「停まって欲しい」と言うまでもなく、バイクは男の目前で停車した。
嘶くトライドベンダーを黙らせて、セイバーが真っ先に男に声を掛ける。
「私の名はセイバー、こっちは阿万音鈴羽です。殺し合いには乗っていません。
貴方も私達と同じように殺し合いに乗っていないのであれば、お名前を窺いたい」
無駄のない、簡潔な自己紹介だった。
男は深く被った帽子を指先でくいと上げて二人に小さく「こりゃどうも」と会釈した。
不敵にギラつくその眼が、どういうワケか鈴羽は気に入らない。
嫌な眼をした奴だな、と、失礼ながらも感じてしまった。
「俺の名前は葛西善二郎……殺し合いには乗っちゃいねぇよ」
「そうですか……、貴方はいったい此処で何をしていたのですか?」
「何って言われてもねぇ……何処へ行っても人がいねぇんだ、独りで彷徨うしかねぇだろ」
葛西のナリを上から下まで眇め見て、セイバーは「ふむ」と唸った。
鈴羽の眼にも、この中年がセイバーや織斑のように戦える身とは思えない。
何処からどうみても、その辺をブラつくだらしない中年オヤジという印象だ。
そんな中年オヤジが持つには余りに不釣り合いな大剣に、セイバーは視線を向けた。
「……その大剣は一体何処で手に入れたのか、訊いても構いませんか」
「俺の支給品さ……ったく、こんなモン支給されても困るんだがねェ」
ドリルのように捩れ尖った奇妙な大剣も、この中年の手に掛かればただの杖。
重たいお荷物のソレを地面に突き刺し、寄りかかりながら葛西は悪態を吐いた。
「見た所、私も未だ見ぬ何者かの宝具のようだが……流石にそのような使い方は――」
「――ンなこた俺は知らねェよ。何ならアンタ、このお荷物を貰ってくれるかい?」
「……いいのですか?」
「そりゃあタダでとは言わねぇよ。"等価交換"は世の中の原則だろ?」
セイバーと鈴羽が顔を見合わせる。
要するに、この宝具が欲しければ、同等の品物を差し出せというのだ。
がめつい男だ、などとは思うまい。それは世の中当たり前のことだというのはわかる。
セイバーからのアイコンタクトで互いの意図を通わせたあと、鈴羽は首を横に振った。
「申し訳ないが、今の私達には人に譲れるモノは何も……」
「そんじゃ交渉は決裂だ、一応杖としても重宝してるんでね」
残念そうにやや顔を伏せるセイバーだが、それは仕方のないことだ。
武器と呼べるものをほとんど所持していない自分達に、宝具はレートが高過ぎる。
これが自分のものであったなら、セイバーはもっと強気に出ていたのかもしれない。
「……あっ、そうだ! 一応訊くけど、ガイアメモリならあるよ?
これさえあれば、人を越えた超人に変身した戦える……らしいけど」
「悪ぃな、俺はそういう胡乱なモンは使わねぇ主義なんだ」
「だよねー……まぁ、同感だよ」
「でもまァ、あるに越したこたねぇからな。拳銃となら交換してやってもいいぜ」
そういって葛西がデイバッグから取り出したのは、一丁の自動拳銃。
それは2004年に製造された、ブラジル製のタウルスPT/24と呼ばれる拳銃だった。
未来の世界では銃器の扱いにも慣れていた鈴羽は、眼を輝かせてそれを受け取る。
暫しそれを物色して、
「コレなら、あたしが持ってる弾丸でも使える!」
鈴羽の持つ9mmパラベラム弾と9mm口径のタウルスは同一の規格として使用出来る。
無駄に400×8箱も弾丸を所持していた鈴羽だが、これさえあれば弾丸を有効活用出来るのだ。
それもガイアメモリなどという胡乱なモノよりもこっちの方が明らかに使い勝手がいい。
「欲しいけど、でも……ガイアメモリと普通の拳銃じゃ、ちょっと損な気もするなあ……」
「……何なら俺の最後の支給品、このスタングレネードも付けてやるよ。三つでどうだ?」
そう言ってデイバッグから取り出したのは、一般的な軍用スタングレネード。
炸裂させれば閃光と爆音で一時的に相手を失明させ、聴覚まで奪えるスグレモノだ。
未来の世界では見慣れた軍用兵器を並べられて、鈴羽は何処か懐かしい気分だった。
……正直言って、ガイアメモリなんかよりもこっちの方がよっぽど魅力的だ。
「で、でも……三個も付けて貰っていいの!?」
「元々五つ支給されてたんでね、よっぽどのコトがない限りこんなモン使わねぇだろ?
だったら使い慣れないコイツより、一応ガイアメモリでも持ってた方が頼もしいんでね」
なるほど確かに、スタングレネードなど一般人にはピンと来ない武器だろう。
そんなものよりも、手っ取り早く強化変身出来るメモリの方が確かに頼もしい。
お互いの利害が一致しているのならば、交渉は成立だ。
「うん、そういうことなら構わないよ。ハイ、これ」
「火火ッ、交渉は成立だな、ありがとよ」
「ううん、こちらこそありがとう!」
互いの合意のもとで、支給品が交換される。
これで葛西はメモリを、鈴羽は頼もしい銃器を手に入れたことになる。
なんだ、最初は嫌な人かと思ったけど、話してみれば気のいいおっちゃんではないか。
最初の険悪なイメージも払拭して、鈴羽は素直な気持ちで葛西に礼を言った。
――この男が自分の実の父親を殺した張本人だとも知らずに。
○○○
結局、葛西はその後も二人と行動を共にすることはなかった。
これから悪人を追いつつ、仲間と合流するから一緒に行かないかと誘われはしたが、
しかし悪人を追い掛けるなどという危険に、葛西は自ら飛び込んで行きたくはないのだった。
だから、そこは正直に「ひっそり生き延びていきたいから」と伝え、彼女らだけを行かせたのだ。
“臆病者の中年オヤジと思われちまったかねぇ”
葛西はあの二人を前にして、ただひたすら無力な一般人のフリを続けた。
それは、彼女らがある程度の戦闘能力を持った人間だと、一目で見抜いていたからだ。
ああいう人間と事を構えてもロクなことにはならないものだし、無駄な争いは避けたい。
戦う必要がなかったからこそ、今回はあえて偽名も名乗らず無難に自己紹介を済ませたのだ。
……尤も、奴らがあのブタのような役立たずのガキだったなら迷わず焼き殺していたのだろうが。
“まっ、いいか。それよりもだ”
さっきの鈴羽とのトレードで得たガイアメモリに目を向ける。
葛西は、正直言ってこういう手合いのアイテムには毛ほども興味を懐いていない。
人間の領分を越えないことをポリシーにしている葛西にとって、コレは邪道でしかないのだ。
ゆえに、躊躇いもなくそれを足元に放り捨てた葛西は、その上から乖離剣エアを突き立てた。
ガイアメモリのど真ん中を剣先が砕いて、そのまま地面に減り込む。
最早ガラクタの破片となったそれを、脚で蹴って右脇の田んぼに落とした。
“これもいらねぇやな”
次に、簡易型のL.C.O.G.も田んぼの中程に投げ込んだ。
ぽちゃん、という音に続いて、すぐに泥に沈んで傍目には見えなくなった。
これであのガイアメモリが使われる事はもうない。お手軽強化アイテムの最期だ。
“拳銃なんか怖かねぇんだが、ああいうモンが敵に渡っちまうと厄介だからなぁ”
そう……それが、ガイアメモリを処分した本当の理由。
そもそも鈴羽は殺し合いに乗っていないので、下手を打たない限り敵には回らない。
が、彼女が持っているメモリが葛西の乖離剣のように他の誰かに渡ると、それは困る。
もしも血の気の多い殺し屋なんかの手に渡ったら、面倒臭いことになるのは明白なのだから。
そういう事態になる前に、早い段階で邪魔なアイテムは消しておく。
これも着実に生き残るための真っ当な手段の一つなのである。
「……火火ッ」
小さなことだが、目的をまた一つ達成した葛西は静かに笑う。
葛西の嘘を疑いもしなかったあの娘が、数時間前に殺したブタの娘だなどと知らずに。
奴ら親子二代揃って葛西を信じて、その思惑通りに動いているのだなどと、誰が想像出来るものか。
娘と仇のすれ違い――コレを皮肉と言わずして何と言えよう。
果たして、葛西と鈴羽が次に会う時は訪れるのだろうか――?
【一日目-夕方】
【D-2/空見町】
【
葛西善二郎@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】無所属
【状態】健康
【首輪】所持メダル195(増加中):貯蓄メダル0
【コア】ゴリラ×1
【装備】乖離剣エア、炎の燃料(残量85%)
【道具】基本支給品一式×3、愛用の煙草「じOKER」×十カートン+マッチ五箱@魔人探偵脳噛ネウロ、スタングレネード×6@現実、《剥離剤(リムーバー)》@インフィニット・ストラトス、ランダム支給品1~4(仁美+
キャスター)
【思考・状況】
基本:人間として生き延びる。そのために自陣営の勝利も視野に入れて逃げもするし殺しもする。
1.
カオスが動き出す前にとっとと逃げる。
2.殺せる連中は殺せるうちに殺しておくか。
3.鴻上ファウンデーション、ライドベンダー、ね。
【備考】
※参戦時期は不明です。
※ライダースーツの男(
後藤慎太郎)の名前を知りません。
※シックスの関与もあると考えています。
※「生き延びること」が欲望であるため、生存に繋がる行動(強力な武器を手に入れる、敵対者を減らす等)をとる度にメダルが増加していきます。
※首輪のランプの色が変わったことに気付いていません。
※タウルスはキャスターの支給品でした。
○○○
市街地を駆けるトライドベンダーが、雄叫びと共に速度を上げる。
鈴羽に負荷が掛からない程度に気を遣ってはいるが、それでもその加速は凄まじい。
この分なら、放送の時間を迎える前後には冬木市内にも突入出来るだろう。
まるで何かに急かされるようにバイクを走らせながら、セイバーは考える。
“何故だ……何故こうも胸騒ぎがする……?”
冬木市に向かわねばならない。向かわねば、マズイことになる。
なんの確証もないそんな不安が、どういうワケがセイバーを駆りたてるのだ。
果たして、冬木に行けば織斑はいるのだろうか。他の仲間はいるのだろうか。
何の保証もないのに、しかしアクセルを握るセイバーに迷いはない。
“ここからなら……まずは教会が丁度いいか”
調査をする為の目的地として定めるなら、冬木の中なら言峰教会がベストだ。
この場所からなら最も近いし、一旦教会を調べてから衛宮邸へ向かうのも悪くない。
その過程で織斑か、同じくらいの外道に出くわせば自慢の聖剣で切り伏せるまで。
仲間に出会ったなら、保護を望むなら保護し、共に冬木を調査するまで。
頭の中で今後のプランを組み立てるセイバー。
しかし、それはすぐに中断される。
――urrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrッ!!!
“この声は……ッ!!”
進行方向から聞こえる狂戦士の声に気付けないセイバーではない。
この先に待ち受けているのは、間違いない。あのサーヴァントの一騎だ。
すなわち、進行方向上にあるのは、避けようもない戦い――聖杯戦争。
このまま迷わず向かうべきか、それとも一旦鈴羽を降ろすべきか。
アイリスフィールの時と同じように、守りながらでも戦えないことはないが。
二択の選択肢を迫られながらも、セイバーは進む。
【一日目-夕方】
【C-4 市街地】
【セイバー@Fate/zero】
【所属】無所属
【状態】健康、胸騒ぎ、織斑一夏への義憤
【首輪】75枚:0枚
【コア】ライオン×1、タコ×1
【装備】約束された勝利の剣@Fate/zero
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破し、騎士として力無き者を保護する。
0.鈴羽を降ろした方がいいか、それともこのまま進むか。
1.まずは冬木へ向かい教会から順当に調査していく。
2.その過程で悪人と出会えば斬り伏せ、味方と出会えば保護する。
3.衛宮切嗣、キャスター、
バーサーカーを警戒。
4.
ラウラ・ボーデヴィッヒと再び戦う事があれば、全力で相手をする。
5.織斑一夏は外道。次に会った時は容赦なく斬る。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。
※空見中学校を目指したのは衛宮切嗣が発動した令呪の影響によるものです。
※ただし彼女自身にその自覚はなく、あくまでも無意識下の行動に過ぎません。
※令呪の効果は今も継続しているので、真っ直ぐに冬木の教会を目指します。
※マスターである衛宮切嗣の危機をおぼろげながらも直感で感じ取っています。
※この先にバーサーカーがいると確信しています。
【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】緑
【状態】健康、そはらを喪った哀しみ、織斑一夏への怒り
【首輪】195枚:0枚
【コア】サイ
【装備】タウルスPT24/7M(15/15)@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
0.
見月そはらの分まで生きる。
1.知り合いと合流(
岡部倫太郎と
橋田至優先)。
2.
桜井智樹、イカロス、ニンフ、
アストレアと合流したい。見月そはらの最期を彼らに伝える。
3.織斑一夏を警戒。油断ならない強敵。一刻も早く見つける。
4.セイバーを警戒。敵対して欲しくない。
5.サーヴァントおよび衛宮切嗣に注意する。
6.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。
【タウルスPT24/7M@魔法少女まどか☆マギカ】
ブラジルのタウルス社が2004年に発表した自動拳銃で、
暁美ほむらが使用。
口径は9mm×19。総弾数は15+1。低価格で高品質な銃のイメージで親しまれている。
PT24/7という名前の由来は「24時間、週7日、常に市民の安全を守るタウルス」の意。
最終更新:2013年04月18日 02:09