仲【あらわれたきけんなおとこ】 ◆LuuKRM2PEg



 月影ノブヒコの遺体から月の石を奪ってから、加頭順は会場に配置されていたライドベンダーを動かしてずっと思案を巡らせていた。
 アポロガイストというドーパントとはまた違う謎の怪人を泳がせておくことは、多少のリスクはあるがそこまで問題ではない。愛する園咲冴子の敵を排除すると言ってもユートピア・ドーパントの力だけでは流石に限界があるからだ。
 そしてもう一つ、この会場ではメダルという戦いの鍵を握る物質がある。ルールによるとドーパントを始めとした力の発揮は制限されていて、発動にはメダルが必要らしい。「欲望」を満たす度に生まれるようだが、どれくらいの基準で生産されるのかがどうにもわからなかった。
 そんな状況で無駄に能力を使っては敗北に繋がるだけ。故に、現状は利用できる手駒を見つけることが最優先だった。
 無論、有益にならないような存在であれば即刻排除して全ての支給品とメダルを奪うだけだが。
 冴子の無事を祈りながら、加頭は目前を真っ直ぐに見据える。
 同盟相手を探すとはいえ行く当てはない。風都に戻って冴子を待つのもいいかもしれないし、他の参加者を探す為に積極的に移動するもよし。
 そんな考えの下、加頭はライドベンダーのハンドルを握って移動していると、少し前方に警視庁が見えた。
 G-5エリアにまで着いてしまったということは、どうやらいつの間にか逆戻りをしてしまったらしい。そんな取りとめのないことを考えながらも、加頭は進む。
 ここで嘆いたところでどうにもならないのだから、今は警視庁を見てみるのも悪くないかもしれなかった。





 笹塚衛士はたった一人で歩みを進めていた。
 カザリというグリードと桐生萌郁という少女によって『もう一人の笹塚衛士』を殺されてから、誰とも会わないまま既に数時間が経過している。
 馴染み深い警視庁を調べているがやはり誰もいない。情報収集をできないのは残念だが、怪物強盗Xや葛西善二郎のような危険人物と出会わずに済んだと前向きに考えるしかなかった。
 無論、このまま単独行動を続けるのもそれはそれで不便だが。

(まさか彼女までこんなくだらない殺し合いを強いるとは……奴は何を考えているんだ)

 この陣営戦とやらには、様々な事件を解決した名探偵として世間に知られているあの桂木弥子まで巻き込まれている。
 確かに彼女は素晴らしい勇気と優しさを持っているが、それでも脳噛ネウロや犯罪者達とは違うただの少女だ。そんな彼女の未来を奪おうとする主催者達に憤りを抱いてしまう。
 だが次の瞬間、それを非難する資格などないと笹塚は思った。

(俺は……警察官でありながら人を殺そうと考えた。そうなっては、これまで逮捕してきた犯罪者達と何も変わらないな……)

 黄陣営の優勝。
 脱出が不可能ならばその手段を選ぼうと決めたが、これが意味することは本当の犯罪者に堕ちることだ。当然、ネウロや弥子達はそれを望まないだろう。
 それにもしも弥子が黄陣営に含まれていなければ、この手で殺すことになってしまう。ルールによると他陣営の参加者を取り込むこともできるらしいが、リーダーであるグリードはそれを許すような弱者ではない。
 あのカザリだって一見するとただの軽い若者にしか見えなかったが、その身から放たれる雰囲気は新しい血族と同じだった。だとすると、この地にいるグリード達はネウロがいなければ太刀打ちできない力を持っている可能性は充分にある。
 そうなると、あの5本指の一人であるヴァイジャヤの使っていたカプセルですらも、この場では武器になるかどうかわからない。
 カザリはグリードには通用しないとわかった上で、わざわざこれを渡した可能性だって充分にある。つまり、道化を演じろと言いたいのだろう。
 復讐鬼という名の役を与えられた末に、何も成せないまま無様な最期を迎えるような愚者……それこそが、シックスやカザリの欲望。
 そう考えると、ますます反吐が出る話だった。

(考えても仕方がないか……弱気になってもどうにもならない。奴らをこの手で仕留められるのなら、道化にでもなってやるとも)

 亡き家族の復讐の為に戦うのだと、既に誓った。
 それを果たせるのならこの手がどれだけ汚れようと、また道をどれだけ踏み外そうとも決して止まらないと決めた。
 ならば、躊躇った所で何の意味などなかった。それはとっくにわかっているはずなのに、この心は痛んでしまう。
 未練があるのか? 警察官として治安維持という使命を背負い、社会に生きる人々の笑顔を守り続けてきたあの日々に。復讐を果たすと誓ったのに、そんな甘い考えではいつか足元を掬われてしまう。
 本当の意味で鬼となる為に人を殺さなければならない時が来るのだろうか。笹塚の中でそんな考えが芽生えた瞬間、遠くから足音が響いてくる。
 それを察した彼はすぐに意識を覚醒させて、反射的に通路の曲がり角へ振り向いた。

(チッ、俺としたことが呑気に考えすぎた……もしもこんな所でグリード達のような危険人物が来たらどうする!?)

 足音が近づいてくるにつれて、笹塚もまたゆっくりと近くのドアに歩を進める。ドアノブに触れようとしたが、その直後に白い服を纏った男が姿を現した。
 男の表情は人形のように固まっていて、死人のように生気が感じられない。しかしその瞳にはおぞましい殺気が宿っていると笹塚は瞬時に気づく。
 この男はこれまで何度も見てきた犯罪者達と同じ目をしている。もしかしたら、殺し合いの前から人の命を奪ってきた可能性も充分にあった。
 首輪の色は青。つまり、敵対陣営に属する者だ。

(どうする……奴が何か変な力を持っているのなら、俺は格好のターゲットだ! 銃が効くとは限らないし、何よりも撃つ前に俺を殺せるかもしれない。逃げようとしても、同じことだ!)
「黄陣営の方ですか……よろしければ、少し話をしませんか?」

 全身に突き刺さる異様な雰囲気を前に笹塚が戦慄する中、白服の男は唐突に口を開く。

「……話とは何だ?」
「私は今、ある目的の為に協力者を求めています……その人材は問いません。ただ、情報と戦力が欲しいのです」
「協力者……だと?」

 男の声もまた、目的を遂行する機械のように感情が感じられない。
 恐らく奴は、反抗や逃走の意思を少しでも見せたら問答無用に殺すつもりだ。その証拠に、瞳から放たれる殺意はより濃さを増していく。
 正直な話、この男に命を握られているという状況は不利以外の何者でもない。同盟と言いながら、その実態は使い捨ての駒になるだけだ。

(俺が少しでも失態を晒したら、奴は即効で俺を切り捨てるはずだ……例え俺が死んだとしても、奴には何のデメリットもない。むしろ、支給品とメダルとやらが手に入るから、メリットだらけのはずだ……!)

 フェアな取引ではないのは火を見るより明らかだ。
 しかし、この場を切り抜ける方法は他に思いつかない。強行突破など許す相手ではないだろうし、だからといって逃げられるわけがなかった。
 そんな中、男の腕が動くのを笹塚は見る。

「返事はありませんね、では……」
「待ってくれ!」

 それに危機感を抱いた笹塚は、その先に続く言葉を遮るように叫んだ。

「何か?」
「わかった、あんたと話をしよう。すまない……状況が状況だから、少し警戒をしてしまった。無礼なのはわかるが、許して欲しい」
「そうですか」

 静かに頷く男の腕は動かなくなった。
 どうやら、一先ず首の皮は繋がったようだ。とはいえ、油断はできないことに変わりはない。
 男から滲み出てくる殺気は、未だに鋭いままなのだから。

「申し送れました、私の名は加頭順と申します……以後、お見知りおきを」
「……笹塚衛士だ」
「笹塚さんですね、宜しくお願いたします」

 緊迫感の溢れる自己紹介を終えた後、加頭順という男はゆっくりと歩を進めてくる。
 それに思わず目を見開いた瞬間、今度は急に握手を求めるかのように腕を求めてきた。

「……どうか、したのか?」
「いえ、協力者となって頂いた笹塚さんに対する、私からの友好の証です」
「そうか……」

 笹塚は身体を強張らせながらも、差し出された手を握り締める。
 それは氷のように冷たくて、まるで死体のように体温が感じられなかった。やはり、加頭はただの人間ではない。
 こんな人智を超えた化け物とどうやって行動すればいいのか。ネウロ以上に何を考えているか読めない上に、危険極まりない雰囲気をまるで隠そうともしない。
 邪魔な危険人物の排除に役立つなどと甘すぎる考えだ。あの魔人のようにでたらめな力を持っていては、火の粉が降りかかる危険だってある。

(とにかく、今はこの男をどうにかすることが最優先だな。俺の情報は小出しにして、その間に少しでも切り抜ける手段を考えなければならない……やれやれ、とんでもない奴と出くわす破目になるなんて、ついてないな)

 加頭を前に生きる為には情報を渡すタイミングを見極めなければならない。
 ネウロのような魔人にXや葛西の情報を持っていたのは不幸中の幸いだった。それに、殺し合いの鍵を握る存在であるカザリと接触したのは僥倖かもしれない。
 奴らに関する情報を取引のカードにして、それと引き換えに加頭には戦力となってもらうこともできる。尤も、考えなしに渡したりしたら協定の決裂に繋がる恐れがあるので、慎重に話さなければならないが。
 目の前に現れた加頭順という危険な男は、交渉次第で切り札にも鬼札にもなる存在。故に、慎重になることを強いられてしまう。

(どうやらここは化け物の巣みたいだな……尤も、化け物には化け物をぶつけるだけだが)

 心中でそう呟きながら、笹塚衛士は決意を新たにした。




(笹塚さん、どうやら貴方は無能ではないようですね。それだけは褒めて差し上げますよ)

 警視庁で出会った笹塚衛士という男に、加頭順は賞賛の言葉を投げかける。無論、そこに手心など一片たりとも存在せず、形だけのものだが。
 本当ならすぐに殺してメダルを補充することもできたが、せめて笹塚の持つ情報は得なければならない。
 だが笹塚は命惜しさに情報を差し出すような人間には見えなかった。例え力づくで引き出そうとしても、奴は口を滑らないだろう。
 もしかしたら笹塚の知人に、仮面ライダーに匹敵あるいは上回る力を持つ存在がいるかもしれない。もしかしたら、それはユートピアの力すらも凌駕する可能性だってある。だから、今はまだ生かすつもりだ。
 また、例えそうでないにせよ情報は多く持っていて損はない。園咲冴子を生かせる可能性を増やせるかもしれないのだから、積極的に参加者と接触するに越したことはなかった。
 無論、手駒となりそうにない愚か者は殺害するが。

「それでは笹塚さん、まずは今後の行動方針を考えながら情報交換をしましょう」
「そうだな……加頭、あんたが俺の力になるなら俺もあんたの力になろう。そういうことで頼むぞ」
「当然ですよ」

 目の前の椅子に座る笹塚衛士という男は、冴子を生還させる為に必要な手駒の一つ。奴を上手く使おうとするならば、例え不本意でも力にならなければならない。
 だが、笹塚が手駒としてまともに働かない、あるいはどうしても情報を渡さないのであれば希望とメダルを吸い尽くすだけ。人間如きが一人死んだとしても、代わりは幾らでもいるので困ることはない。

(どうか、冴子さんの力となってくれることを祈りますよ……それだけが、笹塚さんの価値なのですから)

 協力相手がどんな目的を持っていて、何を考えているのかなど興味はなかった。
 ただ、愛する園咲冴子の為に働いてくれればそれだけで構わない。そして、彼女の為に立派に死んでくれれば尚更良かった。
 笹塚衛士を見つめる加頭順の瞳はとてつもなく冷たい光を放っていた。


【一日目 午後】
【G-5/警視庁】
※入り口にライドベンダー@仮面ライダーOOOが放置されています。


【笹塚衛士@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】健康、加頭順への強い警戒。
【首輪】100枚(増加中):0枚
【装備】44オートマグと予備弾丸
【道具】基本支給品、イマジンメダル、ヴァイジャヤの猛毒入りカプセル(右腕)@魔人探偵脳噛ネウロ
【思考・状況】
基本:シックスへの復讐の完遂の為、どんな手段を使ってでも生還する。
 1.今は加頭と慎重に情報交換を行いながら、今後の事を話し合う。
 2.目的の達成の邪魔になりそうな者は排除しておく。
 3.首輪の解除が不可能と判断した場合は、自陣営の優勝を目指す。
 4.元の世界との関係者とはできれば会いたくない(特に弥子)。
 5.最終的にはシックスを自分の手で殺す。
 6.もしも弥子が違う陣営に所属していたら……
【備考】
※シックスの手がかりをネウロから聞き、消息を絶った後からの参戦。
※桐生萌郁に殺害されたのは、「シナプスのカード(旧式)@そらのおとしもの」で製造されたダミーです。
※殺し合いの裏でシックスが動いていると判断しています。
※シックスへの復讐に繋がる行動を取った場合、メダルが増加します。



【加頭順@仮面ライダーW】
【所属】青
【状態】健康
【首輪】79枚:0枚
【装備】ユートピアメモリ+ガイアドライバー@仮面ライダーW
【道具】基本支給品、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、月の石@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品1~3
【思考・状況】
基本:園崎冴子への愛を証明するため、彼女を優勝させる。
0.今は笹塚衛士と情報交換をしながら、今後の事を話し合う。
1.参加者達から“希望”を奪い、力を溜める。
2.T2ナスカメモリは冴子に渡すが、それまでは自分が使う。
3.笹塚衛士から情報を得て、手駒として使う。もしも不要となったら即刻始末する。
【備考】
※参戦時期は園咲冴子への告白後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※アポロガイストからディケイド関連の情報を聞きました。


070:サエコの いかりの ボルテージが あがっていく! 投下順 072:はみだし者狂騒曲
064:押し寄せた闇、振り払って進むよ 時系列順 048:Oの喪失/失われた日々
036:Re:GAME START 笹塚衛士 081:Kの戦い/閉ざされる理想郷
066:チープ・トレード 加頭順


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最終更新:2013年12月27日 15:27