Mの侵略/増幅する悪意 ◆ew5bR2RQj.
真木清人によって読み上げられる定期放送。。
死者の名前、禁止エリア、各陣営のコアメダル所持数。
抑揚のない声で告げられる情報を、少女は薄暗い路地裏で聞いていた。
綺麗に切り揃えられた黒髪が、夜風に吹かれて舞い上がる。
淡い月明かりに晒され、顕になる少女の顔。
そこには、可愛らしさと美しさが絶妙に同居している。
ティーンエイジの真っ最中であるにも関わらず、大人も顔負けの色香を放っていた。
彼女のような美少女を放っておく者はいないだろう。
路地裏という場所を考えれば、暴漢に襲われるかもしれない。
だが、彼女は暴漢如きに組み敷かれる人間ではない。
いや、そもそも彼女は人間ですらなかった。
八百年前に生み出されたメダルの怪物――――
メズール。
人間に擬態しているのは、人間社会に溶け込むためであった。
――――それでは皆さん、良き終末を。
放送が終わると同時に、メズールの手の動きも止まる。
彼女が手にしているのは支給された鉛筆。
もう一つの手には、参加者の名を記した名簿と会場の地図が握られていた。
グリード達には、特権として参加者の詳細名簿が配布されている。
しかし当然の話ではあるが、殺し合いが始まってからの情報までは記載されていない。
故に放送に耳を傾け、情報を得る必要があった。
死亡者には横線を引き、禁止エリアは斜線で塗り潰す。
この程度の情報は記憶できるが、念の為に書き残しておいたのだ。
(十八人……思ったよりも死んでるわね)
四文の一以上の参加者が脱落している。
メズールの想像以上に殺し合いの進行は早い。
その事実は、少なからず彼女に衝撃を与えていた。
彼女の現在地はCー6であり、顔を上げると大きなビルを一望することができる。
ネイサン・シーモアを殺害した後、彼女の前には二つの選択肢があった。
単独行動を続けるか、キャッスルドランに戻るか。
結果として彼女が取った行動は中間。
キャッスルドランに接近しつつ、その付近に身を潜めた。
メダルの破壊が可能なオーズは、グリードにとって脅威以外の何者でもない。
疲弊している今は絶好の機会だっただろう。
だが、オーズの周囲には多くの人間がいる。
桜井智樹だけならともかく、
鹿目まどかや
巴マミは厄介だ。
それに加えて、熱攻撃が可能な
照井竜がいる可能性もある。
故に逸る気持ちを抑え、キャッスルドランの付近で踏み留まることにした。
(うちの陣営は二人だけ、人数で見るのなら一番有利なんだけど……)
青陣営で死亡したのは
剣崎一真と
カリーナ・ライルの二人。
一方が仮面ライダーで、もう一方がヒーロー。
非常に正義感が強い人種なため、セシリアのように簡単に籠絡することはできなかっただろう。
戦場で一番厄介なのは無能な味方という言葉もあるため、脱落していた方が都合が良かったかもしれない。
六人が脱落している黄陣営や、一時的にリーダーを失った赤や白の陣営よりは健闘している。
(……これはまずいわね)
だが、良い事ばかりではない。
例えば
志筑仁美と
見月そはらの両名が死亡したこと。
ある意味で予想通りだが、これで照井竜や鹿目まどかの中で自分は死亡したことになる。
何食わぬ顔で出戻り、寝首を掻くという戦法が出来なくなった。
そして最も憂慮するべき点は、既にグリードが二人も脱落していること。
ガメルはともかく、狡猾なもう一人の
アンクの脱落は見逃せない。
グリードであっても、全く油断できないということだ。
詳細名簿等の特権を奪われた可能性もある。
それが正義感の強い連中に廻っていたら、少々面倒なことになるだろう。
(ちょっとのんびりし過ぎたかしら)
彼女は土台を整えてから攻め込む戦術を好む。
良く言えば慎重、悪く言えば臆病。
卵をじっくりと孵化させるようなヤミーの生成法からも、それが伺えるだろう。
殺し合いが始まってからも、極力目立たないように動いてきた。
その結果、焦燥感を煽られる形となる。
特に緑陣営の進展振りは脅威としか言いようがない。
コアメダルの数が全てではないが、単純計算で二倍近い差があるのは問題だ。
その数字から鑑みるに、無所属の参加者を何人か引き込んでいる可能性がある。
放送で読み上げられた緑陣営の死者は四人だったが、場合によっては帳消しになっているかもしれない。
ウヴァは非常に短慮な性格だ。
片っ端から強い参加者を従属させていったのだろうが、今はそれが功を奏していると言ってもいい。
積極的に行動したため、盤石な陣営を築けているのだ。
殆ど動かずに静観していたメズールとは対照的と言える。
今になって、照井を引き込まなかったことを惜しく思い始めた。
(でも、一番の問題は別にあるのよね)
ウヴァの初期位置は遠く離れているため、今は無視しても問題はない。
現状で最も厄介なのは、初期位置が近かった
カザリ。
メズール以上に臆病であり、権謀術数を張り巡らせるグリード。
彼の性格からして、間違いなく他陣営の乗っ取りを企んでいるだろう。
だからこそ、彼女は南ではなく北を目指した。
メズールがカザリの初期位置を知っているように、カザリもメズールの初期位置を知っている。
他のグリードに比べて力で劣り、初期位置の近い彼女は格好の獲物だった。
(私もそろそろ動く必要があるかしら……)
グリードであるというアドバンテージはもはや当てにならない。
何時までも隠れていては、ウヴァやカザリに遅れを取ってしまう。
だが、闇雲に動いては意味が無い。
情報を有効活用し、知略を巡らせる必要がある。
そうして考え込んでいると、彼女は一つの事実に辿り着いた。
(今の白陣営のリーダー……多分鹿目まどかよね)
ガメルの破壊を看取ったまどか。
確証はないが、彼女が現在の白陣営のリーダーである可能性が高い。
彼女からコアメダルを強奪すれば、白陣営を乗っ取ることができる。
おそらくウヴァやカザリは知らない、メズールだけが知っている事実。
使い方次第では、強力な武器になるだろう。
(はぁ、やっぱりオーズの坊やが邪魔ね……)
まどかだけならメズール一人でも対処できるが、彼女の周りには多くの参加者がいる。
メズールが一人で強襲を掛けても、あっという間に返り討ちに合ってしまうだろう。
しかし、だからといって諦めるには惜しい。
特にオーズは疲弊しているため、上手く行けば一気に潰すことが可能。
彼のコアメダルを奪い取れば、更に優位に立つことができる。
ならば、次の一手は自ずと決まってくるだろう。
仲間を集めるのだ。
一時的にでも協力できる仲間を集め、鹿目まどかとオーズを叩き潰すのだ。
そしてこれは早ければ早いほどいい。
時間が経つにつれオーズの体調は回復していくし、彼女達がキャッスルドランを離れる可能性も上がる。
(誰か居ないかしら……)
周囲を見回す。
見回して、落胆する。
そう、都合よく利用できる参加者がいれば苦労しない。
(まぁ、居ないわよね……ん?)
肩を落とした瞬間、遠方からメズールの聴覚が声を捉える。
怒気を孕んだ男の声。
しばらく聞き続けていると、声の主が近づいてきているのが分かった。
そして、声が一人なのに対して足音は二つ。
つまり男は誰かと同行している。
(接触してみようかしら)
絶対ではないが、集団で行動しているなら出会い頭に襲われる可能性は低い。
利用価値があるかは分からないが、先程積極的に動くと決めた。
照井竜の時のように、少女の外見を利用して取り入る方法もある。
接触しない理由は、無い。
その考えのもと、メズールは路地から一歩踏み出した。
○ ○ ○
放送を聞いても、冴子の心境に大きな変化は無かった。
彼女の知り合いで死亡したのは
左翔太郎のみ。
宿敵の死に多少の溜飲は下がったが、それよりも井坂の生存による安寧の方が大きかった。
「こんなに死んでるだと……クソッ!」
だが、後藤は違ったようだ。
見知らぬ人間の死に、本気で憤怒を覚えている。
愚かな男だ、と冴子は思う。
ドーパントのような超人に声を聞かれたらどうするつもりなのか。
武器の扱いに自信はあるようだが、所詮は人間の範疇だ。
人類を越えたドーパントの前には無意味である。
冴子にはナスカメモリがあるため、いざという時も問題ない。
(まぁ、その時は貴方も殺すけどね)
弱者の皮を被っている現状は利用価値があるが、それを脱ぎ捨てるなら話は変わってくる。
足手まといを生かしておく必要はないし、後藤も牙を向けてくるだろう。
いや、そもそも現状の利用価値すら微妙だ。
こちらの言い分に聞く耳を持たず、一方的に自らの意見を押し付ける。
それだけでも苛立つのに、後藤はさらに怒りを煽るような行動を取っていた。
(知らない連中が死んで本気でキレるとか、馬鹿じゃないの)
もし井坂が死んだとしたら、冴子は本気で悲しむだろう。
だが、それ以外の参加者が死んでも悲しまない。
利用価値があるかないかの二択であり、後者の人間など路傍の石と大差ない。
井坂以外に興味が無い冴子と、全ての参加者を守ろうとする後藤。
利用価値の有無以前に、根本的な部分で彼らは相性が悪いのだ。
(ホントにイラつく男……さっさと別れられないかしら)
後藤に気付かれないように顔を顰める冴子。
そんな時だった。
「あの、すいません」
目の前に一人の少女が姿を現したのは。
「君は?」
突然現れた少女に、後藤は訝しげな表情を見せる。
冴子の時のようにショットガンを突き付けないのは、相手が子供だからだろうか。
しかし、ガイアメモリは子供でも使用可能な代物。
万が一の時に備え、冴子はスーツのポケットに収納したナスカメモリに手を掛ける。
綺麗な黒髪を揺らしながら自己紹介する少女。
随分と礼儀正しい、と冴子は思う。
この様子ならば、悪意を持った参加者の可能性は低いか。
しかしそうだとするならば、これ以上足手まといが増えるのは避けたいところである。
情報だけ引き抜くのが理想的だが、そう上手くはいかないだろう。
後藤はそういう男だ。
後藤と会った時と同様、外面を取り繕って挨拶をする。
相手の利用価値が不明な以上、様子見をするに越したことはない。
社交辞令の笑顔を貼り付け、少女と視線を合わせる。
(……ッ!?)
合わせて、言いようのない感覚が全身を突き抜けた。
冴子が微笑むと、少女も微笑みかけてくる。
行動自体は自然そのものだが、少女の笑い方に問題があった。
年齢と不釣合いな妖しい微笑。
十代の小娘が作れるはずもない大人の女の笑い方。
老獪さすら感じさせるその笑みは、冴子にだけ向けられている。
「私、ずっと怖くて……それで逃げ回ってたんです」
「そうか、でももう安心してくれ、俺が君を保護する」
少女と後藤が会話をしているが、内容が頭の中に入ってこない。
笑みの意図を理解しようと、持てる知能を総動員させる。
(実は殺し合いに乗っている?)
だが、それならば微笑む理由が無い。
わざわざ悪意をひけらかす意味はないのだ。
ならば、同じく隠れて殺し合いに乗っている自分へのアプローチか。
初対面の少女が自分の本心を知っているわけがない。
考えれば考えるほど、思考の糸は難解に絡まっていく。
「あの、すいません」
「……」
「えっと……園咲さんですよね?」
「な、なにかしら?」
思考に耽っていたため、少女への反応が遅れる。
「私、ずっとトイレを我慢してたんですけど……一緒に付いて来てもらえませんか?」
気恥ずかしそうに問い掛けてくる少女。
しかし、その顔は芝居がかったものにしか見えない。
「トイレ? それなら俺が付いて行くよ」
「え?」
「……殿方が付いて行くのはさすがにまずいんじゃないかしら」
呆れ半分に指摘すると、後藤はバツが悪そうに口を噤む。
「あそこのビルで済ませてきますので、後藤さんはこの辺で見張っててもらっていいですか?」
「あ、ああ、分かった」
少女に頼まれ、慌てた様子で承諾する後藤。
それを確認すると、少女は冴子の方を振り向く。
「じゃあお願いします、園咲さん」
彼女達が向かったのはヘリオスエナジーのビル。
中央のジャスティスタワーには負けるが、非常に大きな建築物であることに変わりはない。
建物全体が紫の塗装を施されており、天井では会社の象徴である不死鳥の彫像が翼を広げている。
少女と冴子はビルの二階にある女子トイレに足を踏み入れていた。
「なんだか、変わったビルね」
周囲を見回し、額に皺を寄せる冴子。
外装にも随分と驚かされたが、内部も相当に奇抜なセンスである。
冴子が経営するディガル・コーポレーションは機能性を重視した設計だが、この社屋はまるで真逆。
とにかく外見を重視し、趣味を突き詰めたような建物だ。
「……」
だが、そんなことはどうでもいい。
一番重要なのは、目の前にいる少女の本心だ。
急いでいたにも関わらず、個室に入ろうとしない少女。
腕を組みながら、背を向けている。
先程投げ掛けた言葉も、彼女の出方を伺うための牽制に過ぎない。
「もう、いいわよ」
「え?」
少女の言葉の意図が分からず、冴子は首を傾げる。
「もう猫被らなくていいって言ってるのよ」
「ごめんなさい、何が言いたいのかよく分からないわ」
「うふふ、警戒心が強いのね、ならこう言えばいいかしら」
くるりと身体を反転させる少女。
そこに浮かべられているのは、全てを見透かしたような笑み。
「ディガル・コーポレーションの社長であり、ミュージアム幹部の――――園咲冴子さん」
少女の言葉を聞き、全身の毛が逆立つ。
ディガル・コーポレーションの社長はともかく、ミュージアム幹部の肩書きを初対面の人間が知っているわけがない。
なんで、どうして、そんな単語が次々と脳内を駆け巡っていく。
「貴方、何者!?」
瞬時に距離を取り、ナスカメモリを取り出す冴子。
服の裾を捲り、生体コネクタにメモリの端子を差し込む。
すると、彼女の姿は青空色の騎士に変化した。
だが、すぐに夕焼けが差し込むように青空色は深紅色へと染まっていく。
これこそが今の彼女の力――――Rナスカ・ドーパントだ。
「あらあら、そんなに警戒しなくてもいいじゃない、私に戦うつもりはないわ」
「そんな言葉だけで信用すると思う?」
「それもそうね、いいわ、貴女には見せてあげる」
告げると同時に、少女の身体が大量のメダルに包まれていく。
その様相はまるでメダルの集合体。
見る見るうちに大きくなり、やがて見覚えのある姿へと変化した。
「貴女は、真木清人と一緒に居たグリード」
最初の薄暗い空間で真木清人の傍らにいた怪人。
タコの吸盤を連想させる脚に、シャチを想起させる頭部。
「ええ、メズールよ、よろしく」
少女の声とは違う、妖艶な女性の声。
メズールと名乗った怪人は、軽い調子で挨拶をした。
「メズール、それが本当の貴女の名前ね」
「ええ、牧瀬紅莉栖は適当な名前を騙っただけよ」
最初のアプローチの時点で疑わしかったが、やはり少女は偽名を名乗っていた。
少女の外見に油断しなかったのは好判断だっただろう。
「それで、こんなところに呼び出してどうするつもりかしら?」
鉛色の剣――――ナスカブレードをメズールに突き付ける。
ドーパントの中でも上位に君臨するRナスカ・ドーパント。
彼女が振るうは、あらゆる物体を切断する名刀。
だが、それを突き付けられてもメズールに動揺は見られない。
「単刀直入に言うわ」
含み笑いすら浮かべながら、メズールは言葉を紡ぐ。
「私と組まない?」
怪人が口にした言葉に、冴子は目を見開いた。
「どういう風の吹き回し?」
「貴女なら気付いてると思うけど、このゲームで最も狙われるのは誰だと思う?」
このバトルロワイアルは各陣営同士の殺し合い。
最終的な勝利条件は、存在する陣営が一つになること。
そして陣営を消滅させる方法は、その陣営のリーダーの殺害。
「各陣営のリーダー、つまりは貴女ね」
「正解」
「で、まさか私に貴女を守れって言うつもり?」
「それもそうだけど……どっちかというともう一つの方が大事かしら」
冴子の首元に視線を移すメズール。
そこに巻かれている首輪には、黄色のランプが点灯している。
「貴女には各陣営のリーダーの抹殺に協力して欲しいの」
メズールの申し出を要約するなら、青陣営の優勝に手を貸せということだ。
それを聞き、冴子は逡巡を始める。
各陣営のリーダー、つまりはグリードの抹殺。
ドーパントの力を有する冴子なら、決して不可能ではないだろう。
「私は黄陣営よ、青陣営の貴女とは協力できないのではなくて?」
これは出任せだ。
陣営間の垣根を越えられることなど、冴子はとっくに気が付いている。
あえてこの台詞を吐いたのは、目の前のグリードがどの程度の知能を有しているか測るためだ。
彼女は既にメズールの認識を”警戒すべき敵”から”利用できるかもしれないパートナー”に切り替えつつある。
「随分とおかしなことを言うのね」
「……?」
「貴女の目的を当ててあげましょうか?」
またしても妖艶に笑みを浮かべるうメズール。
彼女の頭部に口はないが、あったらさぞかし愉しげに歪んでいるのだろう。
心臓が跳ね上がる。
動揺のあまり、思わず剣を降ろしてしまう。
「図星のようね」
してやったりとでも言いたいのか、彼女の声は弾んでいる。
「井坂深紅郎は白陣営で、貴女は黄陣営
私にとっても貴女にとっても、この二つの陣営は邪魔なんじゃないかしら?」
メズールの理論は筋が通っている。
井坂と一緒に帰還するためには、冴子と井坂が同じ陣営に所属していなければならない。
少なくともどちらかの陣営のリーダーを抹殺する必要がある。
そして、メズールの目的も青陣営の優勝。
つまりは他の陣営の抹殺であり、二人の利害は一致している。
「……白と黄のリーダーが何処にいるのか知ってるのかしら?」
「もちろん知ってるわ。白のリーダーはキャッスルドラン、黄のリーダーもこの近くにいると思うわ」
「井坂先生は?」
「さぁ、そこまでは分からないわね。もしかしたら近くにいるかもしれないけど」
質問の答えを聞くと、冴子は満足気に笑みを浮かべる。
「いいわ、乗ってあげる」
そして、メズールの提案を承諾した。
同時にナスカメモリを抜き取り、ドーパントから人間に戻る。
併せるようにメズールも変身を解除し、少女の姿になった。
「ふふふ、同盟成立ね」
「ええ、よろしく、それで白と黄のどちらを先に落とすの?」
「白よ、居場所は分かってるし、リーダーの鹿目まどかは楽に落とせるわ」
メズールの返答を聞き、僅かに眉を顰める冴子。
彼女としては、先に黄陣営のリーダーを抹殺しておきたかったのだ。
リーダーが消失した場合、その陣営の参加者は次の放送まで無所属になる。
その間に井坂が他の陣営に奪われてしまった場合、それまでの苦労が水泡に帰してしまう。
「それに周りの連中も弱ってるしね……あぁ、そういえば」
「どうかしたの?」
「ふふっ……鹿目まどかの周りにね、居るのよ――――照井竜が」
照井竜。
その名前を聞いた瞬間、冴子の身体の内側に黒い炎が灯る。
井坂深紅郎に家族を殺され、復讐に燃えていた男。
そして、彼の復讐心は井坂の胸を貫いた。
彼女から最愛の男性を奪った仇であると同時に、ある意味では冴子の凋落の発端でもある。
「……いいわね、あの男も殺すわ」
「その意気よ、頑張りなさい」
そう言うと同時に身体を反転させるメズール。
「そろそろ戻らないとあの坊やに怪しまれるわ」
「……あの男はもういらない気もするけど」
最初は利用できると思ったが、今の後藤には鬱陶しさしか感じない。
協力者を手に入れた以上、彼は既に用済みなのだ。
「確かに邪魔になるかもしれないけど、既に卵は植え付けてあるわ」
「卵?」
「後のお楽しみよ、それじゃあ戻りましょう」
「……分かったわ、”紅莉栖ちゃん”」
二人の女は邪悪な笑みを浮かべ、トイレから足を踏み出した。
(私にもツキが回ってきたかしら)
メズールと肩を並べながら、冴子は思案を始める。
井坂の死後、彼女の人生は転落の一途だった。
園咲家からは追われ、気味の悪い男に保護され、変な場所に誘拐される。
そこで出会った男は融通の効かない役立たず。
だがここに来て、強力なパートナーと出会うことができた。
グリードと協力関係にあれば、相当有利な展開運びが可能になるだろう。
(……まぁ、いずれこのグリードも殺すけどね)
白と黄のリーダーを殺害した後、メズールはこの二つの陣営を牛耳ろうとするだろう。
つまりは冴子と井坂も自動的に青陣営に属することになる。
それでは駄目なのだ。
陣営戦で勝ち抜くことが、そのまま生還に繋がるわけではない。
生還者の最終決定権は陣営のリーダーにあるのだ。
リーダーと協力関係にあったとしても、最後には切り捨てられる可能性がある。
完璧な状況を作るには、自らがリーダーになる必要があった。
(とりあえずは協力してあげるけど)
冴子にとって重要なのは、白と黄のリーダーが死亡することだ。
そこに至るまで、メズールは繋ぎ止めておく必要がある。
(貴女達は持っているんでしょ? 参加者の情報を)
先程のやり取りで冴子は一つの事実に気付いた。
それはメズールが『参加者の詳細な情報』と『参加者の初期位置』を知っていること。
前者については、冴子の色々な情報を知っていたことから想像は容易い。
井坂の陣営を知っていたことも理由の一つだ。
後者に関しては、先程のやり取りの中にヒントがある。
白のリーダーの現在地は明言したのに対し、黄のリーダーに関しては曖昧な物言いだった。
このことから推測するに、おそらく黄のリーダーとは一度も対面していない。
にも関わらず現在地を推理できたのは、最初の転送地点を知っていたからだろう。
(紙か何かで持ってたら嬉しいけど、高望みし過ぎかしらね)
実際のところは正解なのだが、冴子はそれに気付かない。
とりあえずはメズールと協力し、少しずつ情報を引き出すつもりである。
(せいぜい私のために頑張ってね、グリードちゃん)
隣で歩く少女を見て、冴子は歪に笑った。
(この女は何時まで使えるかしら)
冴子が思案に明け暮れる一方で、メズールも密かに考え事をしていた。
その題目は何時まで冴子と協力するか。
超人的な力を持ち、頭も回り、他者を殺害することへの忌避感が無い。
戦力として見るなら、非常に優秀だろう。
だが、心から信頼できる仲間には成り得ない。
彼女は孤高の女だ。
他人と協力することはあっても信用することはない。
今は協力関係を築けているが、その内側では何を考えているのか計り知れなかった。
(今、考えても仕方ないか)
彼女の目的は井坂と帰還することだ。
少なくとも白と黄の陣営を崩壊させるまでは、良好な関係で居ることができるだろう。
今は裏切りの可能性を念頭に置き、出し抜かれないようにしていればいい。
(それにしても面白くなってきたわね……)
家族を殺された復讐心から井坂深紅郎を狙う照井竜。
井坂を殺された復讐心から照井竜を狙う園咲冴子。
お膳立てしたわけではないが、彼らは面白い状況に置かれている。
その根底にあるのは家族愛や恋愛といった”愛情”だ。
(さぁ、もっと見せて、私に愛の形を!)
この先に待ち構えている復讐劇を想像し、歓喜に打ち震えるメズール。
内心で笑みを浮かべ、心の躍動に身を任せる。
しばらくそうしていると、彼女はある事実に気が付いた。
(似ている……)
そう、似ているのだ。
ガメルを砕いたオーズを殺しに行くメズール。
意図したわけではないが、彼女の置かれている状況は照井や冴子と酷似している。
――――メズール、これ、あげる
一見すると協力関係にあったグリード達。
だが、その内情はメダルの奪い合いや裏切りが日常茶飯事。
同じ種族でありながら、メズールは他のグリードを信用したことがない。
しかし、ガメルだけは例外だ。
子供のように純粋で、いつも無邪気に駄菓子を食べていた。
グリード達が互いを警戒し合う中、メズールとガメルだけは常に一緒だった。
彼の消滅を知った時、彼女を満たしたのは確かな喪失感。
二人の間には、信頼関係があったと言ってもいい。
ガメルを砕いたオーズを、メズールはこれから殺しに行く。
これは、オーズへの復讐心からなのか。
(馬鹿馬鹿しい……)
思い浮かべた発想を切って捨てる。
オーズを殺すのは、ガメルの仇を討つためなどではない。
グリードにとっての危険分子を排除し、さらに一緒にいる白陣営のリーダーである鹿目まどかを殺害するためだ。
そこに無駄な感情が介入する余地は無い。
「そうに……決まってるわ」
心中で呟いたはずの言葉が口に出ていることに、メズールは気付かなかった。
○ ○ ○
「クソッ……やっぱり……」
目の前に聳え立つ奇抜なビルを見上げる後藤。
その表情は焦燥に染まり、半ば愚痴のような言葉が口から漏れ出ている。
彼がここまで苛立っている理由。
それは紅莉栖と名乗った少女から告げられた言葉にある。
(オーズが他の参加者を襲ってただと……!?)
仮面ライダーオーズ――――
火野映司が、他の参加者に襲い掛かっていたという。
(どういうつもりだ、火野)
オーズドライバー。
ライドベンダー隊の武装では歯が立たなかったグリードへの唯一の対抗手段。
謂わば人類の希望。
世界の命運を握っていると言っても過言ではないだろう。
オーズの力があれば、間違いなく世界を救うことができる。
だが、その変身者である火野映司は、自らの手の届く範囲しか救おうとしない。
自らの無力に嘆いている後藤にとって、映司は羨望の対象であると同時に憎い存在でもあった。
(それが本当だったら、俺はお前を倒す)
もし後藤が連れて来られたのが少し後だったら、映司に対する感情も多少は和らいでいただろう。
しばらく後の話であるが、彼にも仮面ライダーバースとしてグリードと戦う時が来る。
後藤には間違いなく伸びしろがあった。
しかし、今の彼は大きな理想と無力感に打ち拉がれるだけの男。
同行者がグリードとドーパントであることにも気付かない。
植え付けられた卵は、胎動を続けている。
「遅くなってごめんなさい」
空を仰いでいると、彼の耳に聞き覚えのある声が届く。
そこに居たのは園咲冴子と”牧瀬紅莉栖”の二人。
「いえ、大丈夫です」
焦燥を抑えるように努め、無表情で接する。
後藤は朴念仁な男だが、そのくらいの心得はあった。
「それでトイレで冴子さんと話したんですけど、やっぱり私達でオーズを止めに行った方がいいと思うんです」
少女が後藤の目を見据えながら話し掛けてくる。
その瞳には力強さがあり、同僚の里中に近いものがあった。
「いや、駄目だ! 確かにオーズは止めなければならないが、でも君達を危険に曝すような真似はできない!」
だが、女性を危険な場所に連れて行くことはできない。
オーズに劣るとはいえ、自分は銃火器類を操ることができる強者だ。
女性や子供を守る義務がある。
そんな考えのもと、後藤は少女に捲し立てた。
「……はぁ」
少女が面食らう中、冴子が溜息を吐いたことに後藤は気付かなかった。
【一日目-夜】
【C-6 ヘリオスエナジー社の前】
【後藤慎太郎@仮面ライダーOOO】
【所属】青
【状態】健康、強い苛立ち
【首輪】所持メダル100:貯蓄メダル0
【装備】ショットガン(予備含めた残弾:100発)@仮面ライダーOOO、ライドベンダー隊制服ライダースーツ@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、
橋田至の基本支給品(食料以外)、不明支給品×1(確認済み・武器系)
【思考・状況】
基本:ライドベンダー隊としての責務を果たさないと……。
1.女性を危険な場所に連れて行くなんてとんでもない!
2.今は園咲冴子と牧瀬紅莉栖を守り、少しでも安全な場所に行く。協力者が見つかったら冴子を預ける。
3.殺し合いに乗った馬鹿者達と野球帽の男(
葛西善二郎)を見つけたら、この手で裁く。
4.火野映司が本当に参加者を襲ったのなら倒す。
【備考】
※参戦時期は原作最初期(12話以前)からです。
※メダジャリバーを知っています。
※ライドベンダー隊の制服であるライダースーツを着用しています。
※メズールのことを牧瀬紅莉栖だと思っています。
【園咲冴子@仮面ライダーW】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】ナスカメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、スパイダーメモリ+簡易型L.C.O.G@仮面ライダーW、メモリーメモリ@仮面ライダーW、IBN5100@Steins;Gate、夏海の特製クッキー@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:リーダーとして自陣営を優勝させる。
1.キャッスルドランに行きたいんだけど……
2.黄陣営のリーダーを見つけ出して殺害し、自分がリーダーに成り代わる。
3.井坂と合流し、自分の陣営に所属させる。
4.メズールとはしばらく協力するが、最終的には殺害する。
5.後藤慎太郎の前では弱者の皮を被り、上手く利用するべきなのだろうか。
【備考】
※本編第40話終了後からの参戦です。
※ナスカメモリはレベル3まで発動可能になっています。
【メズール@仮面ライダーOOO】
【所属】青・リーダー
【状態】健康
【首輪】195枚:0枚
【コア】シャチ:2、ウナギ:2、タコ:2
【装備】グロック拳銃(14/15)@Fate/Zero、紅椿@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、T2オーシャンメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品1~3
【思考・状況】
基本:青陣営の勝利。全ての「愛」を手に入れたい。
1.キャッスルドランに行きたいんだけど……
2.鹿目まどかを殺害し、白陣営を乗っ取る。
3.可能であれば、コアが砕かれる前にオーズを殺しておく。
4. セルと自分のコア(水棲系)をすべて集め、完全態となる。
5.完全態となったら、T2オーシャンメモリを取り込んでみる。
【備考】
※参戦時期は本編終盤からとなります。
※自身に掛けられた制限を大体把握しました。
※冴子のことは信用してません。
※メズールと冴子はキャッスルドランに行きたいと言ってますが、後藤さんは反対しています。
ですので、次の行き先は不明です。
最終更新:2013年10月11日 00:58