正義日記 ◆qp1M9UH9gw



 放送の時間を寝過す程、ユーリ・ペトロフという男はずぼらな人間ではない。
 休息を取る際に、ちゃんと備え付けの目覚まし時計が、放送直前の時間に機能する様に設定しておいてある。
 それ故に、彼は放送を聞き逃す事無く、きちんと情報を手に入れられた。

 とりあえず、まだ死んではいない火野と合流すべきだろう。
 まだユーリは彼の"正義"を見極められていないし、気絶していた彼を運んでいった鹿目まどかにも会える。
 彼女が掲げた"正義"にも幾分か興味があったので、彼女とも再会しておきたい所だ。

 さて、放送によれば、ブルーローズとファイアーエンブレムが死んだらしい。
 この殺し合いに呼ばれた四人のヒーローの内、二人が命を落としたという事になる。
 まだ開始から六時間しか経っていないというのに、早くも犠牲となるヒーローが出るとは。
 果たして、あの二人は己の正義を全うできたのだろうか。
 自身に課した"正義"に殉じ、ヒーローとして散ったのだろうか。
 多少気になりはしたが、下手に詮索するつもりはなかった。
 彼らが何を残して逝った所で、ルナティックの考えに変化が生じる訳ではない。
 例え何人"ヒーロー"が死のうが、彼のやる事は一つだけしかないのだ。
 このゲームで悪逆の限りを尽くす者を、一人残らず断罪する。
 如何なる事情があった所で、罪を犯した者には裁きを与えねばならない。
 それこそが、ユーリ・ペトロフ――ルナティックの掲げる、"正義"。


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 ファイアーエンブレムの遺体は、案外簡単に見つかった。
 昼間の戦闘があった場所から少し離れた所に、腹に穴を空けた彼の亡骸が横たわっていたのである。
 遠くには行っていないだろうとは思っていたが、まさかこんな場所で斃れているとは思わなかった。
 こんな場所に死体があったという事は、ユーリが離脱してそう経たない内に彼は殺害されたという事だ。
 ほんの数時間前まで会話を交わしていた相手の死体を前にして、改めてこのゲームが如何に醜悪なものなのかを思い知らされる。
 真木清人とその配下であるグリードは、やはり滅ぼすべき邪悪でしかない。
 鹿目まどかは違うと言っていたが、ガメルもまた死すべき敵と同類であるのだ。
 例え今は罪を犯していなくとも、グリードである以上は何らかの罪を犯す可能性は十分に考えられる。
 張り付いた"悪"のレッテルは、そう容易く剥がせはしないのだ。

 ユーリは近くに気配を感じないのを確認すると、ファイアーエンブレムのマスクを剥ぎ取る。
 マスクの内側にあったのは、未練の張り付いたネイサン・シーモアの顔であった。
 達成感とは無縁なその表情を見れば、彼がどういう最期を遂げたかなど容易に判断できる。
 誰にやられたかは知らないが、とにかく"ヒーロー"として納得のいかない死に方をしたのだろう。
 "ヒーローにとって納得のいかない最期"と言えば、仲間に裏切られるか、仲間を助けられなかったかのどちらかだ。
 ネイサン以外の死体は周囲に見当たらなかった事から、彼の最期は恐らく前者の方だろう。

「――これが現実だ」

 半ば偽善めいた"正義"を果たそうとした結果、護ろうとした者に奪われる。
 彼らの甘さが招いた結果であり、そして彼らの"正義"の限界でもあった。
 ただ護るだけの"正義"だけでは、理想論で塗り固められた"正義"だけでは、全てを解決できはしない。
 ひたすらに"ヒーロー"として戦い続けた先にあるものは、裏切りという名の絶望だけだ。
 どれだけ綺麗に取り繕った所で、現実など所詮こんなものなのである。

 二人のヒーローが死んだという現実に直面してもなお、ワイルドタイガー達は"ヒーロー"であり続けるのだろう。
 これ以上死人を出させはしないと決心し、今も何処かで戦いを続けているに違いない。
 その志は称えられるべきであり、彼の意思はきっと誰かの心の支えになっているのだろう。
 だが、そんな"正義"では駄目なのだ――殺人を容認しない"正義"は、この場においては危険すぎる。
 如何に己の信条を見せつけた所で、邪悪は常に相手の寝首を掻こうとその目をぎらつかせているのが現実なのだ。
 本当に殺戮を止めたいのなら、己の手を血に染めなければならないのである。

――私は、例えどんな人でも、どんな罪を犯したとしても、やり直すことが出来るって信じたい。
――人間とかグリードとか関係なしに、ちゃんと分かり合えば、みんなで手を取り合えるんだって信じたい。

 そんな事を考えていると、不意に鹿目まどかの言葉が蘇ってきた。
 どんな邪悪でも分かり合えれば、手を取り合って共に戦えるのだと、彼女はそうユーリに説いた。
 言うまでもなく、相手の思想を度外視した綺麗事である。
 綺麗事は何処まで行っても綺麗事以外の何物でもなく、叶う見込みの無い理想論に過ぎない。
 ジェイク・マルチネスを始めとする救いようの無い罪人達にすら手を差し伸べる"正義"など、
 場合によっては排除されるべき害悪にさえなってしまうだろう。
 それでも彼女は、全ての人間が傷ついて欲しくないと願い、あらゆる存在に手を差し伸べるのである。
 "ヒーロー"とは異なる"正義"――しかし、"ヒーロー"と同様に甘すぎる"正義"。
 これもまた、ユーリの求める"正義"とは決して相成れないものであった。

 まどかの決意に興味はあるし、見極める価値があると判断できる。
 しかし、"正義"を見極める事と"正義"を肯定する事は、全く以て別の話である。
 彼女の意思が如何に強固であれど、ユーリの意思もまた強靭だ。
 "悪"はどこまで行っても"悪"以外の何物でもないし、死を以て裁かねばならぬ敵でしかない。
 これまでもずっとその意思に従ってきたし、これから先もそうするつもりだ。
 例え誰の介入があろうと、自分の"正義"は決して揺るぎはしない。

 思い返されるのは、かつて"ヒーロー"だった父親の記憶。
 最初は真っ当な"ヒーロー"だった彼は、何時しか暴力で家庭を破壊する悪人となっていた。
 多くの人間から賞賛を浴びてきた存在は、「伝説」の名を冠していた"ヒーロー"は、家の中では呑んだくれの暴君以外の何物でもなかったのである。
 どれだけ強く抱いていた所で、人間の"正義"など容易く歪んでしまうのだ。
 果たして、火野映司は、鹿目まどかは、そして"ヒーロー"達は、己の"正義"を最後まで貫けるのだろうか?

 どれだけ"正義"について思いを巡らせても、変わらない事が一つ。
 ルナティックという存在は、これからも罪人を狩り続けていくという事だ。
 あの日、父親を焼き殺したその手が正しかった事を証明する為に、ルナティックは罪を裁いていく。
 無意識の内に口から出てくるのは、まだ"ヒーロー"であった頃の父親から伝えられた、"正義"の信条。


「『悪い奴を、見逃すな』」



【一日目 夜】
【C-7/市街地】

【ユーリ・ペトロフ@TIGER&BUNNY】
【所属】緑
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)
【首輪】60枚:0枚
【コア】チーター:1
【装備】ルナティックの装備一式@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:タナトスの声により、罪深き者に正義の裁きを下す。
(訳:人を殺めた者は殺す。最終的には真木も殺す)
 1.火野映司と合流したい。
 2.火野映司の正義を見極める。チーターコアはその時まで保留。
 3.鹿目まどかの正義を見極める。もしまどかが庇った者が罪を犯したら、まどか諸共必ず裁く。
 4.人前で堂々とNEXT能力は使わない。
 5.グリード達とジェイク・マルチネスと仮面ライダーディケイドは必ず裁く。
【備考】
※仮面ライダーオーズが暴走したのは、主催者達が何らかの仕掛けを紫のメダルに施したからと考えています。
※参戦時期は少なくともジェイク死亡後からです。


094:プレイ・ウィズ・ファイア 投下順 096:アンブレイカブル・シャドームーン
094:プレイ・ウィズ・ファイア 時系列順 096:アンブレイカブル・シャドームーン
059:迷いと決意と抱いた祈り(前編) ユーリ・ペトロフ 097:怠惰 ――Sloth―― (前編)


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最終更新:2013年08月01日 01:32