誤解と道化と身中の虫◆z9JH9su20Q
「……こいつはどういうことだ」
透き通るような銀髪に、子供のような矮躯。眼帯に隠された左眼の反対に填め込まれた赤い瞳に焦燥感を滲ませた少女の名は、
ラウラ・ボーデヴィッヒ。
「なんでオーズの奴が、
カオスを手懐けている……ッ!?」
彼女本来の物と比べて粗野なその口調は、彼女の肉体を乗っ取ったグリード――
ウヴァの意志に由来するそれだ。
ラウラの支給品である魔界の凝視虫(イビルフライデー)によって届けられる映像は、ウヴァの支配する声帯を震わせ、その唇から上擦った声を漏らさせていた。
イカロスの攻撃から逃れた後。新たな行動を開始したウヴァが目撃したのは、最終兵器のそれに比べればささやかなものの、確かに夜を照らした数秒の煌きだった。
ラウラの記憶を検索して、偵察に有用な支給品の存在とその扱い方を知ったウヴァは直ちにそちらに向けて魔界の凝視虫(イビルフライデー)を飛ばし、件の光景に出会したのだ。
最凶のエンジェロイドであるはずのカオスが、現代のオーズ・
火野映司と手を繋ぎ、大人しくしているという――彼女の危険性を知るウヴァからすれば、俄かには信じがたい状況に。
背丈は随分と伸びていたが、特徴的な翼がその正体を雄弁に示している。参加者随一の危険人物であったはずのカオスが、どういうわけだかすっかりしおらしい。
だが、外見がその秘める暴力性から程遠いのは最初からの話。弱体化しているなどと、楽観視することはできないだろう。
「ワイルドタイガーまでいるのか……」
彼と火野映司が揃って存在するなら、最早疑う余地はない。どういうわけだか知らないが、間違いなく殺し合いに反抗する者達の中にカオスが加わってしまった。
これは、すこぶる厄介だ。
(少なくとも……あっちに行くのは止した方が良いな)
シュヴァルツェア・レーゲンは強力な機体だが、切札であるAICの性質上、一騎打ちでこそ真価を発揮するISだ。
しかしカオスにはそれを加味しても正面から敵う見込みはなく、紫のオーズにもまた、勝つのは難しいだろう。それらの難敵を同時に相手にするとなれば、勝利は絶望的――しかも、オーズはコアメダルを破壊することができる唯一の存在。生きている限り負けはないと豪語したウヴァだが、天敵であるオーズ相手の敗北は死に直結してしまうのだ。
更に言えば、今のオーズはコアの気配をある程度感知できる。逆にグリードも気配を潜めることはできるが、何の拍子にラウラを操っているウヴァの存在を悟られないとも限らない。間違っても、不用意な接触は避けるべき一団だと言えるだろう。
そんな結論を下したウヴァは、気づかれる前に踵を返し、違う方向を目指して歩き出すことにした。
「……イカロス辺りとでも、ぶつかってくれれば良いんだがな」
カオスが相手なら、イカロスも出し惜しみはできまい。戦えばどちらが勝つとしても、生き残った方も余力がなくなるのは間違いない。
ヤバイ奴の相手はヤバイ奴に任せるに限る。しかもそれが敵同士の潰し合いなら、漁夫の利も得られてこの上ない。
仮にカオスもイカロスも敵だとすれば絶望的だが、もしも自分が
カザリなら、カオスに対抗するためにイカロスを動員する。楽観は禁物だが、まだ悲観するほどでもないだろう。
何しろ今の自分は――こうしてラウラという器を手に入れ、更に今回も接触前に彼らの存在に気づくことができたように、まだツキがあるはずなのだから。
「さて……次の“仲間”を探さなくちゃなぁ?」
リーダーというコアを守るための壁として、また力を蓄えるための糧として。“仲間”という名のセルメダルを求め、ウヴァはラウラの足を動かし始めた。
……その男の姿を認めたのは、それから十分ほど後のことだった。
「……生きていたか」
それは、ウヴァもよく知る人物だった。この殺し合いの中でも大きな変質は遂げていないことも、先程確認できていた。
どうやってあの最終兵器の猛威を逃れたのかは皆目見当もつかないが、さてどうしたものか。
そんな風に迷っていたところ、向こうから声を掛けて来た。
「――私だ」
誰何と共に突き付けられたショットガンに対し、両手を挙げつつウヴァは、ラウラ本来のそれを意識した応答をする。
「銃を下ろせ、
後藤慎太郎」
夜闇の向こうから現れたのは、ショットガンで武装したライダースーツの男――後の仮面ライダーバース、後藤慎太郎だった。
「君か……すまない」
ラウラの顔を確認し次第、素直な謝罪と共に銃口を下げた後藤は更に数歩、ウヴァの方へと近づいて来た。
「確か……」
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ――まさか、無事だったとはな」
「ああ。あいつに……バーナビーに助けられたんだ」
絶体絶命の状況を如何にしてくぐり抜けたのかという経緯――それと現在、自身がバースドライバーの保持者となったという事実を、後藤は簡単に説明してくれた。
「それで、俺は火野達を探しに来たわけだが……」
「成程。それならあっちだろう」
後藤の事情を聞き終えた結果、ウヴァはラウラに北西を指差させた。
「何? どうしてそんなことがわかる。確か、君があそこに着いた時点ではバーナビーしかいなかったんじゃ……」
「ん……あ、ああ。だが実はあそこに向かっている道中、すれ違った参加者達がいてな。遠目に見ただけだったからあの時は……色々あって失念していたが、今の話を聞いてもしや、と思い出したわけだ」
嘘八百の説明を連ねながら、失敗したか、と内心でウヴァは舌打ちする。
これ以上オーズのチームの勢力を拡大させるわけにはいかないと思って別方向に誘導しようとしたわけだが、そういえば一度キャッスルドラン付近で遭遇した際、ラウラはバカ正直に答えていたのだったか。
時間軸の都合上、自分達に対する知識は大してないらしいが、それでもこの齟齬からラウラという人物そのものが疑われてしまう可能性がある。
利用価値があるかと思ったが、場合によってはここで殺すしかないか。
そんなウヴァの心配を他所に、後藤は「成程」と、意外にあっさりと納得した様子を見せた。
「確かに時間帯から考えると、その可能性は高い。バーナビー達も合流場所は定められていなかったというし、おそらく君が見たのが火野達だったんだろう」
一人頷いた後藤は、先程ウヴァが示した見当違いの方向を見て頷いた。
「ちょうど神社の方角か」
C-5……クウガの世界の神社が、後藤がバーナビーと定めた落ち合う場所なのだという。後藤からすれば、後の合流に支障を来さず調査ができるのは好都合なのだろう。
呟いた後、後藤はウヴァ――ラウラに向き直って、もう一度頷きを見せた。
「情報ありがとう。俺はあっちの方に向かうつもりだが……君はどうする?」
感謝を述べた後、後藤は疑問を投げ掛けて来た。
「もし良かったら、一緒に行動しないか?」
「……願ってもない申し出だな」
後藤の提案に、ウヴァはラウラに笑顔を浮かばせた。
「私もこの殺し合いを止めるために仲間を集めていた身だ。だが知っての通り……な」
続けて微かに沈痛とした表情を演出したところ、小さく後藤が息を呑む音が聞こえて来た。
容易く得られた手応えに笑いの衝動を覚えながら、それを内面に押さえ込みつつウヴァは言葉を続ける。
「こちらこそ、よろしく頼む。後藤慎太郎」
「……ああ、よろしく。任せてくれ」
どこか決意を秘めた目で、力強く返答した後藤に対し、「ちょろい」と内心でウヴァは鼻を鳴らした。
多方傷心のラウラを慮って、手助けしたいなどと考えているのだろう。これなら誰かしらの襲撃を受けても、後藤は自発的に壁として機能してくれるはずだ。
ウヴァが下した時点と比べても遥かに劣る状態となるが、それでも仮面ライダーの力が護身の一つになるというのは実に愉快だ。
“仲間”にはいくら強かろうと制御に難のある者よりも、彼のような甘ちゃんかつ一定以上の戦力になる者の方が都合が良い、という側面もある。
どの道、それが魔人やエンジェロイド達、例外中の例外に対抗できるような鬼札でもなければ、むしろ間引く際に困らない程度の戦力に収まってくれるのは有り難いとすら言える。
また、元の世界で一貫して自分達グリードと敵対していた後藤慎太郎なら、カザリの息がかかった間者である可能性が低いというのもウヴァにとっては好ましい条件だった。
そもそも彼の本来の陣営は青。万が一にも関与を疑うべき
メズールの死は、その紫色の首輪が証明している。
「ところで後藤。今、おまえはどの陣営にも所属していないようだが……」
当然ながら、自身の首輪の色は手間を加えなければ確認できない。無所属に変化していたことに、後藤はラウラの口からウヴァに指摘されてようやく気づいたようだ。
「もしよかったら、私の陣営に入らないか?」
ウヴァは、ラウラの口からそんな提案を吐かせていた。
「君の……陣営に?」
「そうだ。私は可能な限り大勢を救い、この殺し合いから生還するための本当の勝利を目指して、緑陣営の現リーダー代行の座に就いている」
間も無く二回目の定時放送。最低でもそれまでなら無所属の後藤に今、ウヴァ=ラウラがセルメダルを与えれば彼を自陣営に引き込むことができる。
困惑した様子の後藤に対し、ウヴァはラウラの計画していた、正攻法で最も多くの生還者を出すための手法を口伝する。後藤を相手にこんな交渉ができるのも、ラウラ・ボーデヴィッヒという器様々だ。
しかし、悲しいかな――その話を終える前に、後藤の首輪のランプが、青く灯った。
同時に鐘の音が響き始め――日付の変更と同時、第二回目の放送が開始された。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
ラウラの語る生還への策は、成程後藤にとっても盲点であった。
殺し合いに恭順することなどあってはならない。そう考えていた身からすれば、まさか
ルールに則って正面から真木に反抗する術があるとは思いもしなかったのだ。
後藤は殺し合いに屈する膝は持ち合わせていない。しかし、だからと言って無策で逆らい続けても限界があるのは明白だ。仮に殺人者の全てを鎮圧できたとしても、ゲームが一日以上完全に停滞すれば全員の首が飛ぶことになるのだから。
それについての対策は追々探していこうと思っていたところだが、アテがあるわけでもない現状、ラウラの提案は酷く魅力的に思えた。
(だが……)
後藤はまだ首を縦に振れない、気がかりとなる点を見つけていた。
懸念したのはずばり、ラウラ達代理リーダーの扱い。
果たして一度正式なリーダーとなった参加者は、その後メダルを放棄するだけでその役職を辞することができるのか、という――そんな疑問だった。
もしもそれが叶わず、かつ代理リーダーが何の罪もない善良な人物であるとすれば。あってはならない犠牲を、結局は誰かに強いることになってしまう。
そんなものは、後藤の目指す平和な世界とは結びつかない。
そして、仮にそれが叶うとしても――
もしかすれば少なくとも一人、どうしてもメダルを手放せない人物がいる可能性がある。
それはグリードの一人、
アンク……に寄生され延命している、泉信吾刑事だ。
今の仮面ライダーオーズ、火野映司の周辺を調査する中で、後藤も彼の存在を把握していた。
先の放送でアンクの名は呼ばれたが、名簿には奴の名が二つあった。これが真木達主催陣営の不手際でないのなら、泉刑事の肉体を握っている方のアンクが――即ち泉刑事が、生きている可能性もある。
その場合、泉刑事の命を守るためには、アンク抜きでも彼が生きていられる手段を見つけ出すか、アンクを残したままこの殺し合いから脱出する必要がある。
後藤の知識ではアテがないとはいえ前者はともかく、後者の場合は皆の命をアンクの意志一つに委ねることになる。極力避けたい事態だ。
しかもそれも、ラウラ達がリーダー代行を自由に降りられるという、都合の良い仮定の上での話。
安易にこの策だけに頼ることはできない、と――ここ数時間で取り戻された後藤の中の冷静な部分が、警鐘を鳴らしていた。
とはいえ――その懸念も、いくつかは事前に確かめることができる。もしかすれば杞憂で済む可能性もあるかもしれないのなら、まずは一つ一つ不安を潰して行ってみるべきだと後藤は結論した。
「ラウラちゃん、少し確認したいことがあるんだが」
そう切り出した直後――鐘の音が、後藤の耳を打つ。
放送が、始まったのだ。
(くそ、間が悪い……)
後藤が確認したかったのは、リーダー代行が自由にその席を降りられるか否か、ということ。
しかしそれがもしも是であった場合、次の放送までまたも陣営が一時消滅することとなってしまう。放送直後、というのは生き残ったグリードの干渉を考えれば好ましくない状況だ。
幸先の悪さに、後藤は心中で悪態を吐く。
『午前0時0分0秒……素晴らしい。新しい一日の誕生だ――ハッピィバースデイッ!!』
だがそんな苛立ちなど、鐘の音に続いた声を聞いた瞬間、全て吹き飛んでしまっていた。
「えっ……?」
『欲望――それこそが生きるもの全ての原動力。そしてこの世を作る力だ』
祝福に続く謳い文句は、それこそ耳が痛くなるほど何度も聞いてきた言葉そのものだった。
「会、長――?」
その可能性は、一度は予期していた。
そのはずなのに、現実の後藤は覚悟を一瞬で打ち砕かれ、目眩すら覚えていた。
その間も長々と続けられる演説に、確信を一層強めることになる。
この放送役は、間違いない。
世界を救うため、と――かつて警視庁のエリートであったキャリアを捨てた後藤が、真の正義と信じて身を捧げた組織、鴻上ファウンデーションの長……鴻上光生が、殺し合いを強制された者達を見下す高みから、自分達を嘲弄していたのだ。
「何故だ……どういうことだっ!?」
放送が響き渡る中、思わず後藤は叫びを上げていた。
本来鴻上ファウンデーションの所有物であるライドベンダーが、会場内に無数に配置されている――その事実は財団の関与を疑うには、十分過ぎる要素であった。
だが、バーナビーから鴻上自身が真木に囚われ、財団の設備を利用されている状況にあり――そんな中、この狂気の催しを止めるよう鴻上が望んでいるという情報を伝えられ、後藤は安心していたのだ。
自分の信じた正義は、やはり汚れたものではなかったと。
なのに。
「どうして貴方が、こんな殺し合いに与しているっ!?」
「慎太郎……っ!」
ラウラの、どこか上擦った声での呼びかけ。あまりに無用心だと言いたいのだろうか。
それでも後藤は、叫ばずにはいられなかった。
「俺は……貴方を信じていたのに……っ!」
喉から迸った声は、糾弾よりも慟哭に近い音色をしていた。
世界を救うという、後藤の望みを受け入れてくれた男。
歴史の闇に葬られたオーメダルの研究に着手し、いずれ来るグリードの復活という脅威に備えていた財団の長。
己の能力を評価し、ライドベンダー隊の隊長という役職を与えてくれた彼を信じていたからこそ、数々の屈辱に耐えて来たというのに……全て、騙されていたに過ぎないというのか?
こんな悪辣な欲望に自分はただ利用され、踊らされていた?
「慎太郎……たす……」
動揺に思考を攪拌され、痛みすら覚えていた後藤だったが……か細く弱々しい声が聞こえた気がして、そこでふと正気に返った。
「……ラウラちゃん?」
放送は既に脱落者の読み上げに入っていた。極めて重要な内容であるため、本来ならそちらに全ての注意を払って然るべきなのだが、それでも声を掛けずにはいられなかった。
「……いや、何でもない」
しかしラウラは、意外なほどあっさりとその首を横に振った。
「助け……なんて、言っていなかったか?」
「……おまえが取り乱していたから、助けが必要か、と聞いたんだ。騒いでいないで、放送に集中するぞ」
そう突き放すように言われては、後藤も一先ずは頷くしかない。
何より、その問答の最中。呼ばれてはならなかったはずの名前が、鴻上の口から吐かれていたのだから。
(……紅莉栖ちゃん)
自分はあの少女を、守ることができなかった。
もしかしたら、
園咲冴子や
巴マミもまた、危機に晒されているのかもしれない。
なんという無様。
まさに鴻上の邪悪な欲望に利用され、踊らされている道化と呼ぶに相応しいだろう。
叫び出したかった。己の無力を呪い、現実の理不尽を憎み、ただ感情のままに駆け出したかった。
――しかし後藤は、今は引き返すことを選ばなかった。
己の無能を示されたからといって、自棄になって動いては、また元の木阿弥だ。マミに諭される前の、愚かな自分に戻るだけ。
いくら悔いても、過去はもう変えられない。今更どんなに義憤に燃えても、紅莉栖は助けられないし、彼女を襲った脅威が冴子達に迫っているとしても間に合わない。
だが彼女のもとには既に、マミが、そしてバーナビーが向かっている。信頼できる仲間と認めた、彼らが。
それなら、後藤がすべきことは……彼らの代わりに、彼らの分も。今の自分に、できること。
「……大丈夫かい、ラウラちゃん」
オーズ、などと……悪趣味な戯れとしか思えない名乗りを経て鴻上の放送が終わった後、後藤は少女に問いかけていた。
「……私が、か?」
「ああ。不躾かもしれないが……辛そうな顔をしていたと、思ったから」
少なくとも、後藤には彼女が何かを堪えているように見え――それに対する心当たりも、あったからだ。
暫しの後、「隠せないものだな」とラウラは、自嘲のような嘆息を漏らした。
「今の放送で……級友が全員、呼ばれた」
ぽつりと呟くラウラに、後藤は力なく相槌を打つことしかできなかった。
そのことは、後藤も薄々予想できていたからだ。
これもまた、バーナビーから得た情報……彼と伊達が守れなかった少女、
凰鈴音の存在。ラウラはその同級生の一人だった。
鈴音から聞かされた彼女の知人の中、最初の放送を超えた時点で生き残っていたのは三人。その内、ラウラや鈴音と同級生である少女がもう一人いた。
その少女――
セシリア・オルコットの名が、おそらくは後藤が動揺していた間に、読み上げられたのだろう。
キャッスルドランの一件で殺し合いに抗う仲間を亡くし、旧来の友人も全員喪った。
今のラウラの胸を覆う暗雲は、如何程の物か。
「少し……どこかで、休もうか?」
それを慮って、後藤はそんな提案をしていた。
急がなければならない状況にあるということは、わかっている。
それでも今のラウラを、有無も言わさず連れ回す気には、なれなかったのだ。
後藤の脳裏を過ぎったのは、打ち拉がれたバーナビーの表情。
そう長くはない交流の中、バーナビーはあくまで事実を伝える淡々とした口調で、後藤に必要最小限の情報を提供してくれたに過ぎない。
殺し合いに反逆し、人々を守るという願いを持った同志であるという以外は、たったそれだけの関係だ。
――それでもあの時の語らいは、彼が秘めた悲哀と挫折感を、後藤が感じ取るには十分だった。
バーナビーには今、マミや冴子を託してある。
なら彼が救えず、今も心に暗い影を残してしまった鈴音の、友達――本当なら、バーナビーが、そして未来の師匠であるという伊達が、誰より守りたかっただろうラウラの保護は、今の自分が代わりに果たすべき責務であると、後藤は密かに思っていた。
(すまない、マミちゃん……けど俺には、どっちも見捨てることはできないんだ)
そのために彼女との約束を後回しにしてしまいかねない罪悪感を、後藤は投げ捨てることなく胸中で抱き止める。
火野映司やワイルドタイガーが、激戦の果て疲弊しきっているとは聞き及んでいる。迅速な合流が必要なのは彼らも同じだ。
しかし、彼らの下には今、カオスというエンジェロイドが存在する。
カオスこそがマミやラウラの友達を殺害した張本人であり、仇そのものである。
しかし、マミが離脱した後のこと。ワイルドタイガー達の奮闘によるものか、バーナビー達が再会した時にはカオスは最早他者に襲いかかることなく、ひたすらに懺悔を繰り返すようになっていたのだという。
彼女の身柄は現在、ワイルドタイガーに委ねられている。果たしてそれから、カオスがどのように転んでいるのかはわからないが……
罪を犯した者でも、やり直せる可能性はある。伊達やバーナビー達ヒーローが信じたその想いが、踏み躙られてはいないことを、後藤もまた、信じたいと思っていた。
だが、もしもカオスが改心したとしても。彼女の被害者が失ったものが、それで戻って来るわけではない。
目の前で大切な友人達を奪われたマミはもちろん、ラウラもまた、カオスを憎まずにはいられない理由がある。
本当なら、映司達との合流を目指す自分はラウラと別行動を取るべきなのかもしれない。
だが今、ラウラの傍に寄り添えるのは後藤慎太郎しかいなかった。孤独になってしまった彼女を見捨てることは、自分にはできなかったのだ。
そして、いざという時にカオスとの因縁が下手に拗れてしまうよりは……精神の安定を取り戻したラウラに、一時だけでも乗り越えて貰えた方がありがたい、とも後藤は思っていた。
そのためのラウラの支え、また、カオスに対して暴発しかねない時の抑止となれるように。後藤はラウラの傍に居ようと、決心していた。
疲弊した上に暴走の危機があるとはいえ、オーズの力はよく知っている。そしてそれを凌ぐというカオスもいるのなら、彼らに限って言えばそう戦力的な窮地に陥らない……はずだ。
もちろんこれらは、カオスが既に改心しているという前提の話だが――そればかりはもう、映司と虎徹を信じるしかなく、考えても詮の無いことだ。
後藤にできることとは結局、仲間の成功を信じた上で、今の自分にできる最善を尽くすことだけなのだから。
「……大丈夫だ。行こう、慎太郎」
果たしてラウラは、そんな後藤の提案を退けた。
「……青陣営になっているな」
無理はしていないかと心配する後藤に対し、振り返って顔よりやや下――首輪を目にしたラウラは、微かに名残惜しさを滲ませて呟くだけだった。
――いや、それで終わりではなかった。連想ゲームのように思い出したのだろう、ラウラは綺麗な眉を寄せ、疑問の色を見せていた。
「そういえば、確かめたかったこととは何だ?」
問われて、後藤は一瞬の逡巡の後、詳しい内容とその結論に至った事情を説明した。
「成程な。だが、それを試すのは……」
「もちろん、次の放送手前で良い。
ただ、その結果次第では俺は君達の案だけに頼るわけにはいかなくなる。そのことは、最初に断らさせてくれ」
その返答に微かに表情を歪めるラウラに、後藤は続けて訴える。
「もちろん――方法論が違うだけで、君の気持ちを無視するわけじゃない。一人でも多くの生還者を出すために、俺も一緒に戦うから……安心してくれ」
その気持ちは、もう――放送を聞いた瞬間の揺らぎなど混在する余地のない、本心からの望みとなっていた。
結局のところ――腐敗した警察機構と同じ。鴻上ファウンデーションもまた、世界を救う正義の組織ではなかった――たった、それだけのことだ。
衝撃は大きかったが、今はもう、未練はない。
新たな仮面ライダーバースとして、後藤慎太郎という世界救済を願う一人の人間として。自分の信じる正義のために、戦い抜く。それは、何ら変わることはない。
その決意を固めた後藤は、今度は自分からラウラを促した後、充満する夜の闇を掻き分け始めた。
ラウラ・ボーデヴィッヒを守り通すことが、世界を救うという己の夢を再生する、最初の一歩になるものと信じて。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
(……ふぅ、やれやれ。危ないところだったな)
後藤の背を追うラウラの表情を張り詰めさせたまま、ウヴァは内心溜息を吐いていた。
正しく、胸を撫で下ろす心中と言って良い。いきなり今後の全てが、危うくご破産になりかけるところだったのだから。
(まさか、いきなり乗っ取り返されかけるとはな)
先程――放送の最中、叫ぶ後藤に対して声を掛けていたのは、ウヴァではなく。
この肉体の本来の所有者、ラウラ・ボーデヴィッヒの意志だった。
あの時、ほんのわずか――というにはやや大きな衝撃による、ウヴァの精神が揺らいだ隙を衝いて、ラウラが表に出てきたのだ。
もっとも、ウヴァも抵抗していたために自由は少なく、そして放送の中でセシリア・オルコットの名が呼ばれたのを契機にウヴァが支配権を握り直し押し込むことに成功したが、もし後藤がラウラの助けに応えられる状態にあったなら、ウヴァは一転窮地に陥ってしまったかもしれないところだった。
後藤が勝手な勘違いで動揺してくれていたのは、実に幸運だったと言えるだろう。
(あれはおまえが知っている人間なんかじゃないぜ? 後藤慎太郎)
そう――あの放送の主は、後藤慎太郎と知人であるはずがない。
何故なら彼は、八百年も昔の人物なのだから。
(それにしても……まさか、貴様が関わっているとはな……“オーズ”!)
勘違いしている後藤の分も、などというわけではないが。真なる天敵の顔を思い浮かべたウヴァは、その胸中を苦々しい感情で満たしていた。
あの放送の主こそは、八百年前に君臨した初代オーズ……ウヴァ達グリードさえ遥かに凌駕する、膨大な欲望の塊とも言うべき暴君だった。
『王』に与えられたかつての屈辱を想起し、ウヴァはラウラの白い歯を軋ませる。
八百年の前のウヴァは――否、グリードは全て、『王』の所有物に等しい存在だった。
欲望を司る超生命、人間など及びもつかない力を持つ怪人であるはずのグリードだが、生まれた時代ではあの『王』の力と欲望に全く抗うことができず、自由に弄ばれていたのだ。
『王』の欲望のままにヤミーを使ったセルメダル集めを強制され、時に『王』の欲望で自身の一部であるコアメダルを奪い取られ。最後は全身をバラバラにされ、八百年の永きに渡って封印される憂き目にあったのだ。
(もう二度と、貴様に俺を奪われてたまるか)
『王』がいるのなら、優勝した後の安全なぞ保証されるはずがない。かつて『王』に味方しながら裏切られたアンクのように、ウヴァもまた力尽くで奴の欲望のままにされるだろう。
それに対抗するためには――おそらく。現代のオーズなど比ではない、あの『王』の神にも近しい力を思えば、優勝時に得られるメダルだけでは――暴走しないために取り込める上限がある以上は、きっと届かない。それほどまでに絶望的な敵なのだ。
(……奴に対抗する力を得るためにも、必ず貰うぞ。この体)
その差を埋めるとすれば、やはり。『王』にも迫る“真のオーズ”に至った火野映司さえたった三枚のコアメダルで圧倒した真木のように、人間の肉体ごとグリード化するしかない。
故に、この肉体は絶対に手放せない。もうラウラに付け入る隙を与えはしない。これからはもっと、クールに動く。みっともなく取り乱したりなどしてはならないと、ウヴァは自戒を重ねた。
……とはいえ最大のインパクトを誇った『王』の登場を除いても、情報量の多い放送だった以上、感情を落ち着かせるというのは難しい。
禁止エリアやカウント・ザ・メダルズに加えて、キルスコアのランキングが解禁されたこともそうだが、何より肝心なのはやはり死亡者の発表だった。軽く三つは、自身の今後に影響する情報を把握することができた。
まず、長期的に見ればそれほどでもないが――差し迫った出来事として重要なのは、後藤の口から名前を聞いたばかりだった
牧瀬紅莉栖の死。
同行していた園咲冴子が呼ばれていない、という状況的に考えれば彼女に殺されたか、別の襲撃者から上位ドーパントである冴子だけは生き延びたか。
どちらにせよ、密かに後の交戦を予想していた冴子の脅威はぐっと低くなった。元々冴子の本性を知っているウヴァの方が合流後の立ち回りでは優位に立てただろうし、いざ交戦、となった時も、最低でもシュヴァルツェア・レーゲンとバース、場合によってはそこにバーナビーとマミまで味方として迎え撃てる状況にあった以上、大して恐れてはいなかったが。現状を顧みると、暫くはそもそも遭遇すらしないか、したとしても冴子も万全ではないと想定できる。
これはウヴァにとっては、今後に向けた嬉しいニュースの一つだったと言えよう。
一方で恐ろしいニュースは、先程の放送の中で
脳噛ネウロの名が呼ばれなかったことか。
(あの化物め……まさかあそこから蘇るとはな……ッ!)
まるでクマムシ並の生命力。恐るべき魔人の復活に、復讐の拷問を恐れてウヴァは『王』に対するそれにも迫る焦燥と恐怖を心に生む。
だが、ここでもまた運はウヴァに味方した。まず、ネウロとの再会前にその情報を知れたこと。そしてもう一つは、今のウヴァはラウラ・ボーデヴィッヒである、ということだった。
何しろウヴァの名は放送で呼ばれているのだ。まさかこの少女の正体が仇敵であるなどと、ネウロにも見通せまい――心中で己に言い聞かせて、ウヴァは自身を落ち着かせた。
(――だが、士の奴も残っていたか)
そして何よりの朗報を、ウヴァは認識する。
世界の破壊者という、最高クラスの戦力の生存を。
あの甘ちゃんのことだ。何だかんだ言って、ラウラに危険が及ぶことがないようにと今後も動くことは、簡単に想像できる。
(前の放送時点じゃ、全然仮面ライダーが死んでなかったからな。大したことはないと思っていたら、まさか本気さえ出せればイカロスをぶっ倒せるほどだったとは。
あいつがいるなら、俺が天下を取るまでも十分ネウロやイカロス、カオス達にも対抗できるはずだ)
特に、フェイリスを殺したイカロスのことを士は絶対に許さないだろう。最も危険なあの天使を、確実に潰そうとするはずだ。
オーズと共にいるカオスについても、ディケイドが排除してくれる可能性は高い……何より、グリードであるカザリ達も、だ。
自発的に動いてくれるだろうディケイドを他の強敵と削り合わせる間、ウヴァは自身と緑陣営完全復活の手筈を整える。これからの大まかなプランはそれで決まりだ。
それを成し遂げるため。敵の目を欺くためにも、仲間を増やし陣営の戦力を保つためにも。状況を好転させてくれ続けているこの体、やはり完全に我が物としてしまいたい。
そのためにはラウラの精神を、もっと弱めてしまう必要がある――とそこでウヴァは、先行するライダースーツの男の背中へと、ラウラの隻眼を向ける。
後藤の求める、一度コアメダルの全てをラウラの体内から取り出すという行為は――当然ながら、ウヴァの意には沿わないことだ。素直に協力してやる気など毛頭ない。
その時が来れば適当に誤魔化すつもりではあるが、もしもそこから足がつきかねない場合には……
(適当に言いくるめるつもりだが……もしかしたらそれが、お別れの時になるかもな)
その血でラウラの手を汚し、拭えない罪の意識を植え付ける贄として、役に立って貰うとしよう。
……元より放送を聞いた時点で、更なる情報を得るために、ウヴァも新たなキルスコアを欲してはいたのだ。
ATMは首輪で認証されるものであり、また放送でウヴァの名が呼ばれたということはあくまで、今の自分はラウラ・ボーデヴィッヒとして存在していることになるのだ。ランキング閲覧権――重要な情報を得るためには、また新たに一人、他の参加者をこの手にかけなければならないものと予想していた。
ランキングでキルスコアを他者――特に士に確認されてしまう可能性があるのは痛いが、ある程度ならラウラに甘い士には正当防衛や、後藤のような場合も事故で誤魔化せる。よほど致命的なボロを出さない限り、その脅威が自分に向く可能性は低いはずだ。躊躇するほどの要因にはなり得ない。
(まだ利用価値があるうちは使わせて貰う……だが俺の大事なラウラの身を守るためなら、仕方ないよな?)
ラウラの美貌に冷たく邪悪な笑みを浮かべながら、ウヴァは心中でそう嘯き――前を歩く青年の命の使い道を、密かに値踏みし続けていた。
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身中の虫に気づかないまま、本来よりも早い誕生を迎えた新たな仮面ライダーは、閉ざされた世界を歩み続ける。
既に賽は投げられた。彼に待ち受ける結末は、如何なるものか。
傍らの守るべき少女の、真なる声を聞くことができるのか。
それとも何も見えぬまま、道化として踊り果てた末に、強欲な怪物に貪られるのか。
表が出るのか、裏が出るのか。
宙を舞うメダルが出す面は、この時はまだ、定まってはいなかった。
【二日目 深夜】
【D-5 北東】
【後藤慎太郎@仮面ライダーOOO】
【所属】青陣営
【状態】健康、若干の気持ちの焦り、鴻上に裏切られたというショック
【首輪】100枚:0枚
【コア】サイ(感情)
【装備】ショットガン(予備含めた残弾:100発)@仮面ライダーOOO、ライドベンダー隊制服ライダースーツ@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式×6、
橋田至の基本支給品(食料以外)、不明支給品×1(確認済み・武器系)、バースドライバー@仮面ライダーOOO
【思考・状況】
基本:後藤慎太郎として、できることをやる
1.マミのためにも火野達を探し、合流する。
2. ラウラと共にまずは神社の方へと向かう。
3.殺し合いに乗った者と野球帽の男(
葛西善二郎)を見つけたら、この手で裁く。
4.今は自分にできることを……。
5.
伊達明とは一体……?
6. ラウラを守る。いざという時は自分が止める。
【備考】
※参戦時期は原作最初期(12話以前)からです。
※メズールのことを牧瀬紅莉栖だと思っています。
※オーズドライバーは火野でなくても変身できる代わりに暴走リスクが上がっているのではと考えています。
※放送に現れたオーズ=『王』を鴻上光生であると勘違いしています。
【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】&【ウヴァ@仮面ライダーOOO】
【所属】緑・リーダー代行
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、ウヴァが精神略奪中、『王』に対する警戒と恐怖(ウヴァ)、ネウロ生存に対する恐怖と焦燥(ウヴァ)
【首輪】285枚:0枚
【コア】クワガタ(感情)、バッタ(10枚目)、カマキリ×2、バッタ×2、サソリ、エビ、カニ、ショッカー、ライオン、クジャク、カメ、スーパーバッタ(放送まで使用不可)
【装備】シュヴァルツェア・レーゲン@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、魔界の凝視虫(イビルフライデー)×19匹@魔人探偵脳噛ネウロ、、ランダム支給品0~2(確認済)
【思考・状況】
基本:緑陣営の優勝のため動く
1.『王』に対抗するためにも、ラウラの肉体ごとグリードとして復活したい。
2.そのために手っ取り早くはXに会いたいが、下手に刺激するとラウラに乗っ取り返されるかもしれない?
3.黄陣営に対抗するために仲間を集める。後藤もそのために利用するが、場合によっては殺す。
4.イカロス筆頭にヤバい相手と出会ったら、後藤を楯にして逃げに徹する。
5. 火野映司と合流させないため、後藤を連れてクスクシエから離れる。
6. ディケイドが他の強敵を削ってくれることを期待。
【備考】
※緑のコアメダル7枚と融合しています。
※時間経過と共にグリード化が進行していきますが、まだ完全なグリードには至っていません。そのため未来のコアメダルの力は引き出すことができず、またその秘めた力に気づいてもいません。
※シュヴァルツェア・レーゲンにVTシステムが取り付けられている可能性があります。
※クワガタの感情コア(ウヴァ)によってラウラの精神が乗っ取られました。但しラウラの精神状態次第では、十分乗っ取り返せる可能性があります。
※現時点では殺害数ランキングを閲覧できないと考えています(ウヴァ)。
最終更新:2015年02月19日 12:22