正義失格者 ◆qp1M9UH9gw
【1】
車窓から見えるのは、黒一色だけ。
星一つ無い闇の中を、列車は独り突き進む。
本来、この空間は
桜井智樹の抱える欲望を具現化した場所であった。
しかし、桜井智樹が死した今、この世界が何かを映し出す事は無い。
欲望が消え失せた世界に残るのは、何一つ存在しない"無"だけである。
車窓の先を凝視した所で、何かが進展する訳でもない。
しかし、バーナビーはじっと窓の外を見つめ続けていた。
結論から言うと、
後藤慎太郎は
伊達明の外見さえ把握していなかった。
伊達に関する事をどれだけ話してみても、彼は首を傾げるばかりである。
どれだけ熱心に説明を重ね、どれだけ丁寧に解説を行っても。
後藤から返ってくるのは、「そんな男は知らない」という一言だけだった。
伊達が狂っていた、という訳ではないだろう。
後藤の話をしていた時の彼の瞳が、狂人のそれだとは思えない。
そしてまた、後藤も脳に異常を負っているという事も考え難かった。
伊達の名前に疑問符を浮かべる彼の瞳は、嘘をつく者のそれではない。
だからこそ、途方に暮れる他なかった。
これ以上何を話したところで、後藤に変化が起こる筈も無い。
「伊達さんがとても大切に思っていた後藤さん」は、この場にはいないのだから。
窓の向こうに見える無の世界と同じ様に。
伊達と後藤の関係など、最初からありはしなかった。
「バーナビー、少しいいか」
バーナビーが捉えたのは、向かい側に座る後藤の声だった。
窓に映る漆黒から、彼へと視線を移す。
虚ろな眼を通して見えた後藤の姿は、酷く輝いて見えた。
「……何ですか」
「もう一度聞きたいんだが、本当に俺はその伊達明という男と知り合いだったのか?」
「伊達さんからは、そう聞いてますが」
力ない返事を貰った後藤は、口元に手を当てて熟考し始めた。
大方、どうにかして伊達の記憶を掘り起こそうとしているのだろう。
存在しないものを探した所で、無意味だというのに。
車窓を眺めていた内に、バーナビーはある事に気付いていた。
それは、後藤が伊達とは異なる時間軸から連れて来られているという事だ。
皮肉な話ではあるが、この列車で後藤と会話を交わした事でようやく確信がついた。
どういった手段を用いたかは知らないが、真木は時間軸に干渉しているのだ。
突拍子も無い発想だが、これなら伊達との会話で生じた季節感のズレについても説明がつく。
「他者の記憶を操作する」という、既に死んだ能力者が関与しているという発想を除けば。
現状を納得のいく形で呑み込むには、そう考えるしかなかった。
(でも、それを言った所でどうなるっていうんだ)
どれだけ理屈をこねくり回した所で、後藤は伊達の事を全く知らない事に変わりは無い。
だとすれば、もうこの話はその時点で終わっている。
今バーナビーの目の前にいる男は、後藤であって後藤ではないのだ。
無力感に打ちひしがれた今の彼では、その結論に辿り着くのがやっとだった。
「その伊達という男は、俺を何と言っていた?」
熟考を止めた後藤が、そう問いかけていた。
それに対し、バーナビーは少しばかり記憶を辿った後、
「立派に成長した、愛弟子だと」
「……そうか。一度、会ってみたかったな」
それを最後に会話は途絶え、沈黙が列車を支配する。
二人は押し黙ったまま、車両の進行に身を任せるばかりであった。
列車の窓からは、相も変わらず何一つ見えなかった。
死んだ世界が、鮮やかな色を宿す筈も無い。
【2】
二人が元の世界に送り返されたのは、その数分後であった。
列車を包む闇が急に晴れた瞬間、気付けば会場に戻っていた。
シナプスのカードは既にバーナビーの手元にはなく、それはつまり、あの無の世界には二度と移動できないという事を示していた。
「虎徹さん達の所には、貴方が行ってくれませんか」
元の世界に戻って早々、バーナビーはそう後藤に提案してきた。
曰く、火野さんを知っている貴方の方が、彼の傍にいるべきだ。貴方の様な人なら、きっと虎徹さんの力になれると。
どうして急にそんな要求をしてきたのかと疑問に思ったが、バーナビーが殺し合いに乗る様な悪人には見えない。
それに、二人の元へはつい先程出会った
巴マミも向かっているのだ。
もし何らかのトラブルが発生したとしても、最悪の事態にはならない筈である。
そういう事情もあってか、後藤は渋々ながらも、彼の提案を受け入れる事にした。
そうして今、バーナビーはヘリオスエナジー社に向かい、後藤は火野達の元に足を進めている。
列車に揺られていた時間はそう長くはないので、彼等もそう遠くには行ってない筈だ。
暴走していたらしい火野に対する焦燥感を抱えながらも、彼は真っ直ぐ走り続ける。
(伊達明、か)
そんな中、後藤の心中で紡がれたのは、自分の未来の師匠らしい男の名前だった。
バーナビーによれは、その男と自分との間には固い絆があったのだという。
正直に言うと、記憶にない男との関係を語られ、終始困惑するしかなかった。
普通であれば、狂人の戯言だと一蹴する様な戯言である。
しかし、後藤は一概にそれを否定する事が出来なかった。
その理由は、後藤が拾ったバースドライバーにある。
どういう偶然か、伊達もまた同型のベルトを所有していたというのだ。
師匠と名乗る男と同じ武器を拾ったという事実に、後藤は妙な縁を感じざるを得なかった。
立ち止まり、バースドライバーを取り出してみる。
所々傷ができているが、後藤が持つバースドライバーは今も正常に起動できる。
それはつまり、彼もまたオーズの様に変身して戦えるという事を意味していた。
かつて伊達が変身していたバースに、今度は後藤が変身する。
そしてその初代バースは、二代目バースの師匠を自称している。
偶然にしては、やや出来過ぎているようにさえ思えた。
後藤の耳に何者かの声が飛び込んできたのは、そんな時だった。
「頑張れよ」という男の低い声は、どういう訳かベルトから聴こえてきた気がした。
ベルトが意思を持って激励を送る筈がない。これは所詮幻聴に過ぎない。
それでも、所詮幻聴に過ぎないと考えていても。
「……当たり前だ」
返答せずには、いられなかった。
【3】
とにかく、今は独りになりたかった。
誰もいない場所で、誰にも触れられないままでいたかった。
思い返す。この殺し合いの場で、自分が何をしてきたのか。
伊達の背中に嫉妬し、同行者の少女を救えず、挙句伊達を目の前で喪ってしまった。
バーナビー・ブルックスJr.が今まで為してきた事が、果たしてプラスに働いた事があったか。
答えは否。皆を護るヒーローの看板を背負いながら、彼はあまりに多くの物を取り零してしまった。
消えた命は戻らない。欠けた思いは直らない。
逝ってしまった物の中に、取り返しのつく物など一つもありはしなかった。
ヒーローの肩書きを持つのなら、猶更その意味は重くなる。
悔やんでも悔やんでも、己の犯した怠慢という罪は消える事は無い。
どれだけ謝罪を重ねても、鈴音と伊達が、同僚のヒーローが、罪も無い命は帰って来ないのだ。
自分が憧れる相棒に同行者を重ね、身勝手な理由で怒りを覚える。
それがどれだけ愚かな行為で、ヒーローにあるまじき行為なのか。
嫉妬の対象であった伊達が跡形も無く消滅した事で、ようやく気付く事が出来た。
思えば、伊達明の生き様は正しくヒーローのそれであった。
最期まで他者の救済の為に動き、そして散っていった男。
もし彼がいなければ、バーナビーは鴻上ファウンデーションで死を迎えていただろう。
にも関わらず、バーナビーは伊達の温情にただ苛立つだけだった。
その席にいるのはお前ではないと、内心で怒りを募らせるばかり。
そうして、そんな下らない感情を昂ぶらせたまま――バーナビーの目の前で、伊達は爆散した。
もしも自分が、伊達に対しもっと素直でいたのなら。
もしも自分が、伊達の優しさに素直になれたのなら。
こんな最悪の形でない、別の結末があり得たのではないのだろうか?
鈴音や伊達と共に戦っていたという、最良の展開も望めたのではないか?
目先の感情に振り回され、無力感に打ちひしがれた弱者。
こんな人間が、ワイルドタイガーの隣にいていいのか。
何も護れなかった男に、本物のヒーローの相棒になる資格などあるのか。
だが、バーナビーには分かってしまう。
鏑木・T・虎徹という男は、そんな事を気にする様な男ではない事に。
きっとワイルドタイガーは、あのお人好しのヒーローは。
絶望するバーナビーさえも、快く受け入れてくれるのだろう。
「んな事気にするな」と、いつも通りの笑みを見せてくれるに違いない。
「そんなの……許されていい訳が無い」
だからこそ、バーナビーは戻らない。戻れない。
ヒーローになれなかった愚者は、虎徹の隣に並び立つべきではないのだ。
何より、我が物顔で彼の相棒として戦うのは、バーナビー自身が許せない。
後藤には神社で落ちあうと話したが、恐らくバーナビーが彼と顔を合わせる事はない。
同じくヘリオスエナジー社に向かっているという巴マミなる少女に事の顛末を伝えた後、彼は独り去るつもりなのだから。
今の自分では、虎徹の相棒には相応しくない。きっと自分の存在が、虎徹の正義を挫いてしまう。
虎徹を思うが故に、バーナビーは自身の欲望を否定する。
伊達の話を聞く限りでは、後藤慎太郎は正義感に溢れた男なのだという。
バーナビーが出会った後藤は伊達すら知らない時期から連れて来られた様だが、根本的な性格に変化はない筈だ。
少なくとも、今こうして挫けている弱者よりかは、彼にはヒーローの素質がある。
彼ならきっと、ワイルドタイガーの脚を引っ張らずに戦える筈だ。
「虎徹さん、僕は――――」
貴方のパートナーとして、殺し合いを止めたかった。
今となっては叶えようがない願いを口ずさんだ後、逃げる様にその場を後にする。
そこにいたのは、復讐鬼でも道化でも、ましてやヒーローでもなく。
己の無力に押し潰された、独りぼっちのの弱者。
【一日目 真夜中】
【D-5 北東】
【後藤慎太郎@仮面ライダーOOO】
【所属】無(元・青陣営)
【状態】健康、若干の気持ちの焦り、バーナビーの言動に対する戸惑い
【首輪】100枚:0枚
【コア】サイ(感情)
【装備】ショットガン(予備含めた残弾:100発)@仮面ライダーOOO、ライドベンダー隊制服ライダースーツ@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式×6、
橋田至の基本支給品(食料以外)、不明支給品×1(確認済み・武器系)、バースドライバー@仮面ライダーOOO
【思考・状況】
基本:ライドベンダー隊として、できることをやる
1.火野達を探し、合流する。
2.殺し合いに乗った者と野球帽の男(
葛西善二郎)を見つけたら、この手で裁く。
3.マミちゃんのために、
火野映司とワイルドタイガーを助けたいが……。
4.今は自分にできることを……。
5.伊達明とは一体……?
【備考】
※参戦時期は原作最初期(12話以前)からです。
※
メズールのことを
牧瀬紅莉栖だと思っています。
※巴マミからキャッスルドランで起こった出来事を一通り聞きました。
※オーズドライバーは火野でなくても変身できる代わりに暴走リスクが上がっているのではと考えています。
※バースドライバーが作動するようです。
【一日目 真夜中】
【C-6 南西】
【バーナビー・ブルックスJr.@TIGER&BUNNY】
【所属】無(元・白陣営)
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、無力感、ディケイドへの憎しみ、ラウラへの罪悪感
【首輪】10枚:0枚
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ(前面装甲脱落、後背部装甲中破)@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品、篠ノ之束のウサミミカチューシャ@インフィニット・ストラトス、
プロトバースドライバー@仮面ライダーオーズ(破損中)、バースバスター@仮面ライダーオーズ
【思考・状況】
基本:虎徹さんのパートナーとして、殺し合いを止めたかった。
1.
園咲冴子と牧瀬紅莉栖の保護。巴マミとの合流。
2.今はまだ、虎徹さんに会いたくない。
3.伊達さんは、本当によく虎徹さんに似ているけど少しだけ違った。
4.ディケイド、
イカロス、Rナスカ(冴子)を警戒。特にディケイドは許さない。
【備考】
※本編最終話 ヒーロー引退後からの参戦です。
※仮面ライダーOOOの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
※時間軸のズレについて、その可能性を感じ取っています。
※シナプスカード(智樹の社窓)は消滅しました。
最終更新:2015年07月29日 23:18