HERO & BUDDY & DEPENDENCE ◆SrxCX.Oges
何でもたっぷり入れられそうな大きな缶を肩に担いだ大柄な男、
伊達明が初めて見つけた参加者は、白と赤で彩られた金属製の戦闘用と思われるスーツの男だった。
とある木造の家の内部を調べ終えて出てきたと思われるその男に話しかけ、幸いにもお互いに危険人物でないとすぐに確認できたためにいざこざは起きずに済んだ。
殺し合いに反抗するという意志も合致したため、陣営の違いは大した問題にならなかった。
ただ、男がマスクから笑顔を覗かせながら発した言葉が引っかかることになったが。
「安心してください。シュテルンビルトを守るヒーローは決してこんな殺し合いに乗ったりしません」
「……シュテル…ヒーロー? それ何?」
「え?」
伊達が出した疑問に対し、金属スーツの男
バーナビー・ブルックスJr.の返答もまた疑問だった。
◆
大都市シュテルンビルトでは、常人を超える特別な能力を持つ人間、通称NEXTの中の数人が「ヒーロー」の肩書きを背負い、持てる力を駆使して犯罪者の身柄の確保や事故に巻き込まれた民間人の救助に尽力している。
ヒーロー達の活躍は「HERO TV」というテレビ番組で毎日のように生中継され、市民にとっては胸躍る娯楽として、企業にとってはスポンサーの立場から自社を宣伝する絶好の場として注目の的になっている。
以上が、伊達の疑問に対してバーナビーが解説した内容である。
「やっぱ聞いた事ないけどなあ、そんな話」
二人は家の中に入り、ある一室で椅子に座り互いに向かい合っている。廃屋同然の荒れ果てた家で、壊れていない椅子を見つけるのにも苦労した。
そこで解説を一通り聞き、伊達は顔をしかめた。誰もが知っている事実を話したつもりのバーナビーもまた同様である。
「考えられるのは、伊達さんの住む地域では『HERO TV』を放送していない、加えて情報も入らないほどにシュテルンビルトから遠い、といった所でしょうか?
「それじゃあちょっと腑に落ちないけどねぇ」
バーナビーに尤もらしい仮説を提示されるも、伊達の顔は変わらない。
というのも、伊達明の本業は世界を股にかける医師である。
そして行く先々で出会った人々から得た情報のおかげで、多少は世界各地の事情を知っているつもりだと自負している。
その自分が「シュテルンビルトを守るヒーロー」の話を全く聞いたことが無いとなれば、やはり奇妙としか思えない。
バーナビーの話を聞く限りでは、ヒーローは怪人グリードやそれに対抗する戦士オーズやバースに並ぶ強さかもしれない。
そんな彼らの活躍が、世間に公開されないならともかく公共の電波に流されているというのだから。
いくら世界広しといえど、このような特異な話となれば誰か一人くらい噂にする筈だ。
「もしかしたら、この場には僕達について知らない人が伊達さんの他にもいるかもしれません。この件については少し調べる必要がありそうですね」
「んー、ま、それしかないわな」
二人きりで出せる結論でも無い以上、保留とするしかなかった。
◆
「ところでさ、あの時ドクターに啖呵を切った、確かワイルドタイガーだっけ? あれもやっぱバーナビーの仲間なの?」
「ええ。あの人は……僕のパートナー」
「だと思った! いやーなんか似てると思ったからさ。話しかけたのだって、もしかしたら仲間じゃないのかなーって思ったわけで」
「ああ、そうですか……」
言葉を遮りバーナビーの相棒の話で少し盛り上がろうとする伊達をよそに、当のバーナビーは何故だかノリが悪い。
状況が緊迫しているとはいえ、その態度に伊達の胸には少しの違和感が残った。
それはともかく、話はバーナビーの知る他の参加者へと移り、名簿を片手にその人物の名前と性質が述べられる。
鏑木・T・虎鉄、
カリーナ・ライル、
ネイサン・シーモアは殺し合いの打破を試みるだろうヒーロー仲間として。
(ちなみにバーナビーや虎鉄のようにヒーローの姿で遭遇する可能性が高いということで、ヒーローとしての通称「ワイルドタイガー」、「ブルーローズ」、「ファイヤーエンブレム」と合わせて紹介することにした。)
ユーリ・ペトロフは裁判官として正義は弁えているだろうが、彼自身は戦闘手段を持たないために保護対象として。
「それと、こいつには十分警戒してください」
ジェイク・マルチネス。彼もまたヒーロー達と同じくNEXTである。
しかしNEXT至上主義ともいえる選民思想を持ち主であり、また犯罪組織ウロボロスの一員として数多くの命を奪いった凶悪犯罪者でもある。
ここでも嬉々として殺し合いに乗るのは間違いないだろう。
(しかし、この男は既に死んだ筈。なのに何故……?)
伊達には話していないが、ジェイクはバーナビーとの戦いに敗れた後に逃走を試み、その際の事故により確かに死亡した。
それにも関わらず名簿上には彼の名前がある。死者の蘇生が起こったとでもいうのか? この辺りもまた検討する必要があるだろう。
◆
「ところで伊達さんは先程、あの真木という男をドクターと呼んでいましたが、彼を知っているのですか?」
「……まあな。終末がどうたらこうたらって言って、この世界が全部滅ぼそうとか考えてる哀しい人だよ。このふざけた催しもそのための手段なんだろうな」
伊達は呆れたかのように肩を揺らした。
「俺も止めようと思ったさ。けど、もう最後まで突き進むことを決めちまった」
悔しさと共に思い起こされる二人の少女の理不尽な死がその証拠だ。
強い眼差しをバーナビーに向け、伊達は自らの意思を告げる。
「俺はドクターを止める。今度は力づくでな。そのための力もここにある」
そう言って一本のベルトを掲げる。
真木が残した戦闘スーツ、バース・プロトタイプを身に纏うためのベルトを。
「バースの力はNEXTにだって負けないだろうさ。言うの遅れたけど、俺は誰かに保護されるだけの男じゃないぜ。そのために身体に抱えた問題もバッチリ解決してきたしな」
「NEXT能力以外の戦う手段、ですか……」
「ん、どした?」
「いえ、少し驚いているだけです。まあ、貴方が自分の意志で戦うというのなら大丈夫でしょう」
ロボットに任せるでもあるまいに、他に誰がどう戦うのだろうか。よくわからない心配をする奴だな、と思った。心中に留めておくが。
「それと、戦えるのは俺だけじゃないぜ」
今度は伊達の知る人物の名前が挙げられる番だ。
まず一人目に、
火野映司。
「火野はこんな殺し合いに乗せられる馬鹿じゃないし、その点は心配いらないだろ。自分の身を度外視しすぎるところがあるって点では心配なんだけどさ」
二人目に、
後藤慎太郎。
「後藤ちゃんは俺の愛弟子。昔は未熟な所もあったけど、今はまー立派に成長しちゃってもう! 俺も師匠やった甲斐があるってもんよ」
「はあ……」
やっぱりノリが悪い。盛り上がり損である。
「……あ、味方になる奴はこれで終わり。あと知ってるのはグリードの連中だ」
「グリード? 伊達さんはそれが何者か知っているのですか?」
「よーく知ってるとも」
次に挙げられるのは、この殺し合いの鍵となる存在――グリードについて。
この場にいるのは全部で六体。各陣営のリーダーとして
アンク、
ウヴァ、
カザリ、ガメル、
メズールの五人。
なぜか既に存在が消えた筈の者が何人かいるが、原理は不明だが蘇ったと考える外に無いだろう。
また、六人目にアンクがもう一人。おそらく右腕だけの方だ。
「結局、あいつもグリードらしくあることを選んだって後藤ちゃんから聞いたよ」
仲間とは言えないまでも少しは時間を共有した者との離別には、やはり寂しいものがある気がした。
閑話休題。グリードには共通点があり、一つ目はコアメダルを核として人外の存在を保つ怪人であること。この場ではそれぞれのコアメダルの色がそのまま五つの陣営を表している。
二つ目は、優れた戦闘能力を有すること。
そして三つ目は、自らの欲望にどこまでも忠実であり、それを満たすためには他者を傷つけるのに一切の抵抗を持たないこと。
「そんな恐ろしい敵がいるとは……」
「揃いも揃って危ない奴らだよ。奴らが何かしでかす前に倒すに限るってとこだな」
敵に立ち向かうのはバースもヒーローも同じ。二人は強く頷き合った。
◆
大方の情報交換を終えたのち、二人は家から出た。埃の漂う部屋にいただけに、澄んだ空気が心地良い。
そこで今後の方針をどうするか伊達に聞かれ、バーナビーは答える。
「では、ここからはひとまず別行動を取りましょう。より多くの人から情報を得る必要がありますからね」
「ん、ああ」
バーナビーの理屈は納得できるものだ。確かに情報収集は大事だ。だが、何となく全面的には賛成できず、僅かに曖昧な返事になる。
しかしバーナビーの方は肯定と受け取ったらしく、そのまま話を纏めようとする。
「僕は東側を行くことに行きます。伊達さんは西側をお願いできますか?」
「俺の方がちょっと狭いか? まあ大した差でもないか。わかった、任せろ」
「それでは伊達さん。僕とはしばらく別れますが、貴方もどうか頑張ってください」
そう言い残し、バーナビーは伊達に背を向けて歩き出した。
話は纏まった筈なのに、伊達には何故か別れが惜しい気がした。そのせいか、ふとバーナビーの背中に声をかけていた。
「俺は負けないからな。お前も折れるなよ」
伊達の呼びかけを聞き、バーナビーは振り向いて一言返す。
「心配いりませんよ。虎鉄さんが戦うなら、僕も戦います」
「あ、やっぱストップ!」
そのまま去ろうとしたバーナビーだったが、伊達に引き止められた。突然の行動に疑問を頭に浮かべながら振り向く。
「どうしました、伊達さん?」
「いやーさっきは俺も強いみたいに言ったけどさ、あんまり強い敵に束になってかかられたら多分ヤバいと思うんだよね。
実際どんな奴が出てくるかわかんないしさ。だから、もうしばらく一緒にいようぜ?」
先程の態度に比べると何とも情けない理由を口にしながら、バーナビーのもとに走り寄ってくる。
「まあ、それも一理ありますが……本当に急に意見を変えますね」
「いいじゃんいいじゃん。さあ協力協力」
やや呆れたような口ぶりのバーナビーに笑顔で返事をし、伊達は横に並ぶ。
バーナビーも特に反対しようとは思わないようで、邪険に扱うことはしなかった。
「別にいいですけど……」
最後に一言だけ小さなぼやきを残して、伊達とバーナビーは歩みを進めていった。
◆
(なんか、ほっといたらいけない気がするんだよな……)
殺し合いを打破すると言っているバーナビーだが、伊達は彼にどこか不安を抱いていた。
話していて感じたのは、バーナビーは割合落ち着いた性格だということ。
しかし、自分にとって最も近い人物の話にさえ乗り気になろうとしないのは、冷たすぎやしないだろうか。
(さっきの言葉、一体どういう意味なんだろうな)
彼は戦う理由に、虎鉄と同じ行動を取ることを挙げた。
ヒーローに対する勝手なイメージで語るのも失礼だが、そこはまず真木への怒りなどが先に来るものではないだろうか。
いや、それが自身の確固たる意志に基づいた選択ならば何も言うことはない。
例えば虎鉄と目指す道が常に同じといっても良いほど気が合うなら、例えば虎鉄の意志を支えることを決意しているなら、それは認めたい。
しかし、万が一そうでないとしたら。立派ではない別の何かだとしたら――
その可能性を考えて、伊達はバーナビーを独りにしなかった。
(バーナビー。お前がどんな人間か、ちょっと見せてもらうからな)
横を歩くバーナビーのマスクで覆われた顔、その目は今何を映し出しているのか。その確認という義務感が、今の伊達を動かす理由の一つだった。
◆
バーナビー・ブルックスJr.がヒーローであり続けた理由は、一つは殺された両親の敵討ちであり、もう一つは孤独に苦しむ自分に道を示してくれた恩人への恩返しだった。
(けれど、それももう終わってしまった)
アルバート・マーベリックは自分を救ってくれた恩人だと思っていたのに、現実には彼こそが両親を殺し、バーナビーの人生を狂わせた張本人だった。
その真実に気付けなかったせいで、バーナビーはマーベリックの野望に奉仕する形でヒーローとして戦い続けてしまい、もう一人の恩人サマンサの死を防げなかった。我ながら惨めだと思う。
マーベリックは虎鉄やヒーロー達との協力で逮捕することが出来た。その時点で敵討ちは達成してしまった。同時に恩返しの相手はついに誰もいなくなってしまった。
ただ、虚無感が残っただけだった。
虎鉄が能力減退を理由にヒーローを引退すると宣言したのを切欠に、バーナビーもまた引退を決めた。マーベリックに欺かれた道化の生き様を続ける気は、もう起きなかったから。
そして、空っぽになった自分に見つけられるかさえ解らない希望を求めて、シュテルンビルトの街を彷徨い続け――バーナビーはこの地に呼び出された。もう脱ぎ捨てた筈のヒーロースーツを着せられて。
二人の少女の命が奪われたあの場所で、勿論バーナビーも真木という男に怒りを感じていた。
しかし、それがヒーローとして真木を打倒するという決意には繋がらなかった。
ヒーローとしての自分など憎むべき相手に利用されただけの間抜けでしかない。その頃と同じ様に戦おうと考えてみたところで、正義感より先に自らへの失望が来てしまう。
ヒーローの道を往くことには、もう自信が持てなかった。
こんな自分に出来ることなど、一体何があるのだろうか。それすら解らずに声も無く苦悶する中で、聞き慣れた声が耳を叩いた。
――……これ以上の殺人は一切許さねぇ! 誰も殺さないし誰も殺させない! その上でお前をふんじばって、法律で裁く! それが、俺のする戦いだ!
(虎鉄さん、こんな時でも貴方は貴方らしいです。いや、こんな時だからこそ、ですか)
響き渡った熱い叫びは、かつての相棒ワイルドタイガーのものだった。
もう見る日は来ないだろうと思っていたあのヒーローの勇姿。
それを見た時にバーナビーの頭を過ぎったのは、荒んだ復讐者でもなく、滑稽な道化でもなく、バディヒーロー・タイガー&バーナビーの片割れとしての自分の姿だった。
この時、バーナビーは再びヒーローになることを決めた。二人一組のチームの片側を担うという意味で。
結局の所ヒーローの仕事には未だ価値があると思えていないのだが、ワイルドタイガーの相棒としてのヒーローなら少しはマシだと思える気がした。
(わかっている。僕はただ、生き甲斐を虎鉄さんに求めているだけだって)
衰える一方のNEXT能力にも構わずにヒーローの矜持を見せ付けた虎鉄と、そんな彼にただ寄りかかるだけの自分とでは釣り合わないことくらい解っている。
だから虎鉄の話を伊達から振られても盛り上がるのが虎鉄に失礼だと感じられ、素っ気無い対応を決め込むように心がけた。
それでも、たとえ虎鉄や伊達のような強い意志に基づいた選択でなくても、ようやく見つけたたった一つだけの選択肢を捨てたくなかった。
(今の僕はあなたのパートナーだと胸を張って言える立場には無いのかもしれません。それでも、貴方はまた僕を『バニー』と呼びますか?)
今も何処かで人々を救おうと奮闘しているだろう男に思いを馳せる。
たとえ無様でも、虎鉄と共に戦うヒーローでありたい。それが今のバーナビーの願い、言い換えれば欲望であった。
もしも、バーナビーが真木の手によって連れ去られなかったとしたら、彼はいつか両親の眠る墓を訪れ、二人から託された願いを思い出しただろう。
その願いとは、マーベリックのそれとは異なる真に大切に想っていた人からの願い。バーナビーがヒーローとしての日々に意味を見出せるほどの願いであった。
そしてバーナビーは今度こそ胸を張って再びヒーローを名乗り、虎鉄と共にタイガー&バーナビーを復活させることになる。
これは選ばれたかもしれない一つの可能性を述べた話である。実際は選ばれなかったのだから、こんな話をしたところで何の意味も無いのだが。
◆
何も守れず、失うばかりだったと悔やむバーナビーは、パートナーの存在を胸に抱くことでようやく立ち上がった。
強く、けれど脆くもあるその決意がバーナビーに何をもたらすのか。
伊達はバーナビーの真意を見抜く時が来るのか。見抜いたとしたら果たして何を思うのか。
今はまだ、誰にもわからない。
【1日目-正午】
【F-4/芦河ショウイチ家の前】
【伊達明@仮面ライダーOOO】
【所属】緑
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】バースドライバー(プロトタイプ)+バースバスター@仮面ライダーOOO、ミルク缶@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品、ランダム支給品1~2
【思考・状況】
基本:殺し合いを止めて、真木も止める。
1.バーナビーと行動して、彼の戦う理由を見極める。
2.有益な情報を集める。
【備考】
※本編第46話終了後からの参戦です。
※「TIGER&BUNNY」からの参加者の情報を知りました。
【バーナビー・ブルックスJr.@TIGER&BUNNY】
【所属】白
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品、ランダム支給品1~3
【思考・状況】
基本:虎鉄のパートナーとして、殺し合いを止める。
1.伊達と行動する。
2.有益な情報を集める。
【備考】
※本編最終話 ヒーロー引退後からの参戦です。
※「仮面ライダーOOO」からの参加者の情報を知りました。
【共通備考】
※何処に向かうかは次の書き手さんにお任せします。
最終更新:2012年10月04日 16:51