連【つながる】 ◆qp1M9UH9gw
【Wの決意】
何の前触れも無く吹いた風が、肌を撫でた。
風の都と共に育ち、そして愛してきた男――「
左翔太郎」にとっては、風はさながら恋人の様に馴染み深いものである。
しかしそんな彼でも、この風には不快感を露にせざるおえなかった。
殺し合いという異常な環境下で流れる風を気持ちが良いと言える程、彼は悪意に浸かった人間ではない。
見滝原中学校の屋上のフェンスに手を掛け、前方を見据える。
ここではない何処かで、真木は踏ん反り返って殺し合いを観察しているのだ。
他人の嘆きになど目もくれず、人の死を楽しんでいるに違いない。
「ふざけやがって……終末なんて起こさせねえぞ」
真木が最後に言い捨てた「良き終末」という言葉。
それは、翔太郎にとっては決して納得のいかない台詞であった。
探偵を職としている以上、彼は様々な形で人の終末――すなわち「死」と関わってきた。
だがそれら全てを調べ上げても、「良かったもの」など一つとしてあるものか。
誰かを喪った事で凶行に走る者もいれば、その悲しみから未だに囚われている者もいる。
「終末」を肯定してはいけない――心がまだ悪意で染まり切っていないのなら、なおさらだ。
故に、翔太郎はこの殺し合いを否定する。
風都の仮面ライダーとして、何としてでも殺し合いを終わらせなければならない。
無論、「優勝」としてではなく「首謀者の逮捕」という形で、だ。
名簿から、この場には照井も連れて来られている事が分かった。
彼や真木に反抗の意思を見せた「ワイルドタイガー」と協力すれば、さらに早く主催を打倒できるだろう。
打倒が早ければ早いほど、この場で苦しむ人は少なくなるはずだから。
「……駄目だ翔太郎、"地球の本棚"に制限が掛けられてる……首輪の構造は検索できないみたいだ」
そう言ったのは、翔太郎の相棒――
フィリップである。
彼は「地球の本棚」にアクセスする事で、地球上のあらゆる記憶を検索、そして閲覧できるのだ。
しかしどういう事だろうか、今の彼には閲覧に制限が掛かっているのである。
「予想した通りだ……多分真木の差し金だろうね」
「"地球の本棚"にアクセスできるって事か……ますます分からなくなってきたな」
"真木清人は一体何者なのか"。
これが二人の間で渦巻く疑問であった。
グリードなるドーパントを率い、数十人もの人間を拉致でき、"地球の本棚"にアクセスが可能。
さらには、死亡した筈の人間までもが参加している事から、
「NEVER」を超えた死者蘇生の技術を有していると考えられる。
下手をすると、真木は今まで見てきた組織よりも強大な力を有しているのかもしれない。
そんな者を相手にして、自分達は勝利を勝ち取れるのか?
「つくづく途方もない……あの男は一体何者なんだ?」
「さあな……どっちにしろ、俺達が倒さなくちゃならねえ奴って事は確かだ」
翔太郎がそう言うと、フィリップは真剣そのものだった顔つきを急に緩ませて微笑んだ。
「……なんかおかしかったか?俺」
「いや、そんなんじゃないよ。実にキミらしいって思っただけさ」
フィリップの知る左翔太郎は、恐れを知らずに悪に立ち向かう男である。
立ち塞がるがどんな巨悪であろうと、彼は仮面ライダーとして戦ってきた。
冷静さがやや欠けたハードボイルドと呼ぶのにはまだ早い男、それが左翔太郎。
事実、今の翔太郎も何の罪も無い二つの命が喪われた事に憤っている。
だが、そんな彼だからこそ、フィリップはこれまで"W"として戦えた。
「地獄まで相乗りする覚悟はもうできてる、キミが望むのなら、ボクも戦うよ」
「……ありがとよ、相棒」
改めて、二人は握手を交わした。
これまでWとして戦ってきた彼らの絆は、強固なものとなっている。
たかが敵側の力如きで、そう簡単に崩壊するものではないのだ。
「……翔太郎!あれは!?」
とその時、フィリップが声をあげ、空に向かって指を差す。
彼の目が、空を飛ぶ一つの影を捉えたのだ。
「どうしたんだ……ってなんだありゃ!?」
振り向いた翔太郎も、驚愕の声をあげる。
驚くのも無理はない――何故なら、影は人の形をしていたのだから。
【Qの涙】
大空を滑空するイカロスの頭の中で、その台詞だけが反復され続ける。
どうしてマスターはあんな残酷な事を言ったのか、ただそれを考え続けていた。
彼女と「
桜井智樹」は、この殺し合いが始まって十数分もしない内に合流できた。
彼の首輪のランプの色は「赤」――つまりイカロスと同色である。
「桜井智樹」はイカロスとの再会をとても喜んでいた。
お前に会えて良かったと言わんばかりの表情で、彼女を出迎えてくれたのだ。
その時、彼女はどれだけ満たされただろうか。
彼から大切にされているという事実に、どれだけ胸が熱くなっただろうか。
だが、そんな胸の高鳴りも、彼の発したたった一つ台詞で急速に冷えていく事となる。
『殺し合いに乗ってくれないか?』
そんな馬鹿な、と思った。
あのマスターが、誰かが傷つけ合うのを肯定するなんて思わなかったから。
あの何時ものおちゃらけた表情で、嘘だと言ってほしかった。
だが、何度問い返しても答えは同じ――『殺し合いに乗れ』としか、言ってくれなかった。
『……マスター……そんなの……』
『あのな……お前は"何"だ? お前のマスターは"誰"だ?』
命令に従うという事は、マスターの幼馴染も、仲間のエンジェロイドも殺すのと同義だ。
あの時
ニンフを助けたマスターは、そんな簡単に他人の命を踏みにじる人ではない。
なのに、どうして、そんな事。
『――"命令"だイカロス。殺し合いに乗れ』
それでも、どんな残酷な要求であっても。
その言葉の裏にどんな意図が隠されていたとしても。
エンジェロイドはマスターの命令に従わなければならない。
元より、彼女達はその為に生まれてきたのだから。
だからこそイカロスは、「桜井智樹」の願いを聞き入れた。
そはら達が、自分が殺し合いに乗ったと聞かされたら、彼女達はどんな反応をするのだろうか。
考えるまでもない――きっと軽蔑される。
例えマスターの命令でも、殺しは人間にとっては決して許されない所業なのだから。
それでも、例えそれが罪であっても、彼女は従わなければならない。
マスターの真意が見えなくても、彼女は言われるがままに戦わなければならないのだから。
そはら達には、ただ心中で詫びる事しかできなかった。
願わくば、彼女達とは出会わないで殺し合いを終わらせたい。
大気を切り裂き、空の女王は標的を探し始める。
そうだ、これこそが戦略型エンジェロイドとしての本来の役目なのだ。
敵を殲滅するためだけに、シナプスの民によって造られた戦闘兵器。
自分は兵器なのだから、日常を望んでも、マスターに思いを寄せても、もうどうしようもないのだ。
そう信じ込もう、そうしなければ――涙が溢れ出てきそうだから。
【彷徨うD】
「桜井智樹」は、イカロスが飛び立った事を確認すると、ニタリと口元を歪ませた。
本来の「桜井智樹」ならば、このような邪悪な表情は決して見せないだろう。
次の瞬間、「桜井智樹」の姿が瞬く間に崩れていき、やがて全身白色の怪人に変化する。
そしてさらに怪人は、まだあどけなさの残る少年へと姿を変えた。
彼の名は「
アンク」――800年前の封印で二つに分離したアンクの片割れ。
アンクの右手には一本のUSBメモリが握られており、
それの側面部には、一本の鎌とそれと全く同じ形の影が鎌の後ろに隠れる形で書かれている。
この「偽装」の記憶を封じ込めたガイアメモリによって、アンクは「桜井智樹」になりきる事に成功していたのだ。
マスターを優先させるイカロスにとって、ダミー・ドーパントによる変装は効果覿面だった。
既に彼女は、自分を「本物」ではないと見抜いている可能性もあるが、
彼女はマスターに尽くす為に造られた「エンジェロイド」――模造品とは言え、ご主人様には逆らえない。
凄まじい戦闘力を誇る「空の女王」を赤陣営の尖兵にできたのは、大きなアドバンテージとなるだろう。
イカロスから支給品も手に入れ、装備も充実している。
セルメダルが不安要素ではあるが、それは他陣営の参加者から奪い取ればいい話だ。決して大した問題ではない。
銃の形をした小型の機械をデイパックから取り出す。
Living Connector Setting OperationGun――通称「L.C.O.G」。
これを用いる事によって、アンクはドーパントとして活動できるのだ。
しかし、これはこの殺し合い用に造られた非常にお粗末な代物のようで、一回使っただけでもう機動しなくなってしまった。
手に持ったL.C.O.Gを地面に落とし、足で踏み砕く。
利用価値がない以上、こんな物は持っていても邪魔にしかならない。
「ボク……」
もう一人の自分は、今何をしているのだろう。
早く彼と会いたい――彼のメダルを手に入れて、完全なアンクになりたい。
詳細名簿によれば、彼は大桜付近がスタート地点らしい。
自分が着いた時に彼がそこに居るとは思えないが、それでも彼がそこからそう遠くない位置にいる事は確かだ。
行ってみる価値は、十分にある。
「待っててね……ボク……」
片割れと一つになる時を夢見ながら、親鳥を探す小鳥は空を仰ぐ。
彼が完全な姿であの空を飛ぶ日が来るのかは、まだ誰にも分からない。
【Kが見ていた】
「桜井智樹」の正体を目撃していた者は、確かにそこにいた。
その男の名は「
雨生龍之介」――冬木市を震撼させている連続殺人の犯人である。
誰かいないか思いながら、辺りをふら付いている最中に、偶然怪人に変化する「桜井智樹」の姿を発見したのだ。
「すっげー……一体どうなってんの……」
怪人が人間に戻る際に、右腕からUSBメモリが排出されていた。
それが彼を異形に変貌させたのは、龍之介にだって容易に理解できる。
あんな非常識な変化を起こせる物なんて、少なくとも彼は聞いた事が無い。
「旦那」が使っていた「宝具」と同系統のものなのだろうか。
「……ん?」
そう言えば、自分の支給品にもあれと似たようなUSBメモリが入ってなかったか。
デイパックを弄ってみると、確かにそれはあった――あの少年が所有していたものと同じデザインのメモリが。
だが、側面部に書かれたイラストが彼の物とは別のものになっている。
あの怪人とはまた違う姿に変化するのだろうか。
「うん……イイ!凄くイイ!すっごくCOOL!」
何になるかは実際に使ってみるまで分からないが、それはそれで面白い――もとい、COOLである。
「旦那」に会ったらこれを見せてあげよう。
彼ならば、きっとこれを有効活用した上手い「楽しみ方」を思いつくだろう。
その時が楽しみで、龍之介は思わず身を震わせた。
「~~♪」
鼻歌を歌いながら、スキップで舗装された道を歩く。
これから味わうであろう様々な「死」に期待を馳せながら、殺人鬼は街を闊歩する。
【一日目-日中】
【B-2/見滝原中学校・屋上】
【左翔太郎@仮面ライダーW】
【所属】黄陣営
【状態】健康
【首輪】所持メダル「100」:貯蓄メダル「0」
【コア】なし
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、ダブルドライバー@仮面ライダーW
「JOKER」「METAL」「TRIGGER」のガイアメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1~3
【思考・状況】
基本:「仮面ライダー」として誰かのために戦う。
1:あれは……!?
2:照井と合流する。
※少なくとも井坂死亡後からの参戦
【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】緑陣営
【状態】健康
【首輪】所持メダル「95」:貯蓄メダル「0」
【コア】なし
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、「CYCLONE」「HEAT」「LUNA」のガイアメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1~3、
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。この事件の首謀者を捕まえる
1:空を飛ぶ……人間!?
2:
照井竜と合流する。
※「地球の本棚」には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません。
※少なくとも井坂死亡後からの参戦
【B-3/上空】
【イカロス@そらのおとしもの】
【所属】赤陣営
【状態】健康、悲しみ、飛行中
【首輪】所持メダル「99」:貯蓄メダル「0」
【コア】なし
【装備】なし
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:マスターのために「赤陣営」を優勝させる
1:マスターの命令に従い、赤陣営以外の参加者を殲滅する。
2:マスターがこんな命令するワケがない。でも……。
3:知り合いには会いたくない。
※何処に向かっているかは不明
※参戦時期は少なくとも
カオス遭遇前
【B-3/路上】
【アンク(ロスト)@仮面ライダーOOO】
【所属】緑陣営
【状態】健康
【首輪】所持メダル「90」:貯蓄メダル「0」
【コア】タカ:1、クジャク:2、コンドル:2
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、「DUMMY」のガイアメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1~5(確認済み)
【思考・状況】
基本:赤陣営の勝利。"欠けたボク"を取り戻す。
1:"欠けたボク"に会いに行く。大桜に行ってみる。
2:"欠けたボク"と一つになりたい。
3:赤陣営が有利になるような展開に運んでいくのも忘れない。
※アンク吸収直前からの参戦
【B-3/路上】
【雨生龍之介@Fate/zero】
【所属】白陣営
【状態】健康
【首輪】所持メダル「100」:貯蓄メダル「0」
【コア】なし
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、ガイアメモリ(種類不明)@仮面ライダーW、不明支給品0~2(確認済み)
【思考・状況】
基本:このCOOLな状況を楽しむ。
1:しばらくはこのメモリで遊ぶ。
2:「旦那」と合流したい。
【「DUMMY」のガイアメモリ@仮面ライダーW】
アンクに支給。
L.C.O.Gで製作した生体コネクタに挿入する事で「ダミー・ドーパント」に変身できる。
「ダミー・ドーパント」は対象の記憶を読み取り、その人が強く思い描く人物に擬態する事が可能。
その際には、擬態した人物の過去の記憶を読み取れたり、対象の持つ武器や持ち物、能力等も再現できる。
自分がイメージしたものや無機物にも一応擬態できるが、その時は上記のような完璧な擬態ではなく、外見だけの変化である。
【簡易型L.C.O.G@仮面ライダーW+オリジナル】
ガイアメモリとセットで支給されている。
正式名称「Living Connector Setting OperationGun=生体コネクタ設置手術器」を小型化したもの。
ガイアメモリを装填して、体表面の何処かに銃口を押し付けてトリガーを引く事で、
その位置に装填したガイアメモリに対応した生体コネクタを設置する事が可能。
ドーパントに変身するには、そのコネクタを介してメモリを挿入する必要がある。
簡易型なので、「W」劇中に登場した物よりも小型で、一度使用すると故障してしまう。
最終更新:2013年11月01日 15:29