He that falls today may rise tomorrow.(七転び八起き) ◆SrxCX.Oges
「
フィリップ。空を飛ぶ人間って言えば、お前は何が思い浮かぶ?」
「僕達が今まで戦ってきたドーパントに飛行能力を持つ奴がいた。バードにナスカ、タブーとかね。
それ以外で言うなら……箒と言う子が使っていたあの戦闘服かな」
階下へと向かう階段を駆けながら、翔太郎とフィリップは問答する。
その話題は翔太郎が述べた通り、中学校の屋上にいた二人がつい数分前に目撃した「空を飛ぶ人間」である。
「そうなるだろうな。でも、俺達が見た奴をその括りの中に入れていいかって言えば……」
「確定はできない、だね」
手摺りから身を乗り出し、一気に次の階段へと移る。
「空を飛ぶ人間」は二人から決して近いとは言えない場所を通過していったため、その姿を正確に把握した訳ではない。だが、幾つかの特徴は確認できた。
あの人間の背中には翼が生えていた。その点を除けば、人間そのままの姿だった。全身を異形へと変えたドーパントとは明らかに異なる。形容するならば、まさに天使。翔太郎にとってもフィリップにとっても全く未知の存在であった。
「まさか神話の世界にでも迷い込んじまった、なんて訳ねえよな?」
「今はそんなロマンに溢れた状況ではないだろう?」
「……悪い。とにかく、解らないことが多すぎる。まずはあいつの正体を掴むとするか」
突然放り込まれた殺し合いという環境については不明な点が多すぎる。セルメダルやコアメダルといった謎のアイテム。人間の姿を維持したまま発揮される未知の力。そして一切の情報取得を遮断された真木清人という男。
これらのどこから手をつけるべきか決めかねていた翔太郎とフィリップは、当面の目標として突然現れた天使らしき人間の追跡を決めた。この空間内に溢れる謎の解明を手近な所から行い、同時に移動しながら頼もしい仲間である
照井竜の捜索も行おうと考えたため。
教師のいない廊下を走り抜け、二人は玄関から屋外に出た。
「飛んで行ったのはあっちの方向だったよな。それじゃ、ライドベンダーってのを探して……」
「翔太郎。その必要はなさそうだ」
「ああ? バイクに乗ってった方がいいだろ」
「僕の支給品が青のメダル一枚だけなんて妙な話だと思っていたんだ。だが、どうやらああいう理由だったらしい」
そう言って、フィリップは校門の方を指差した。
◆
マスクの頭部に触れていた指が隙間に食い込んだ。そのまま指を動かすことで、マスクに生じた罅の大きさを感じ取る。メカマン斉藤の折り紙つきの強度を誇るパワードスーツにこんなダメージを負わせたのだから、赤毛の少女のパワーには溜息が出る。
周囲に目を向けると、あの少女の放った光弾によって倒壊した建物が目に映る。書店も雑貨店も玩具店も、今では只の瓦礫の山だ。先程まで乗っていたライドベンダーも車体を貫かれ、使い物にならない鉄屑と化していた。二度目の溜息が出る。
「何者だよ、あの女の子は……」
目の前から飛び去ってしまった翼付きの少女を思い起こし、虎徹の口から苛立ちの含まれた呟きが零れた。
腕力もスピードも桁外れで、翼から放たれる光弾の威力もかなりのものだった。どのようなNEXT能力なのか解らないが、敵に回せば
ジェイク・マルチネスに並ぶ厄介な相手だろう。
「……本当に乗っちまうのかよ」
”マスターに言われたから。”そんな理由で攻撃を仕掛けてきたあの少女は、悲しそうに涙を流していた。その顔を見れば、少女も本心では人殺しを嫌悪していることが虎徹にも理解できた。
虎徹の怒りの矛先は、まず名も知らぬ「マスター」へと向けられる。そいつが何を考えて人の命を奪おうとしているのか虎徹には知る由もないが、慕ってくれる少女さえも利用して誰かを傷つけようとする事実を許すわけにはいかない。
ヒーローとして、誰かが傷つく前に悪と戦わねばと気が逸る。「マスター」を倒さねば。必要ならば、あの少女も同様だ。
燃える使命感を胸に、虎徹は少女の逃げた方へと足を踏み出した。新しいバイクを見つけるか、それが無理なら追跡のためにNEXT能力を発動する必要もあるかもしれない。
そんな時、虎徹の耳に激しく空気を震わす音が届き、発信源に目を向ける。
「な、あれは……」
虎徹の両目が見開かれる。
視線の先にいたのは、バイクに乗った二人の人間だった。勿論それだけなら何も変な話ではない。
虎徹が驚いたのは、二人の乗っているバイクがサイドカー付きであったこと。ハットを被った男が乗る赤と白のボディのバイクと、カジュアルな服装の少年が乗る緑と白のボディのサイドカーがあまりに見慣れたものであったからだった。
「俺とバニーのバイクじゃねえか……!」
嘆息の声を漏らす虎徹の前で、二人組はバイクを停車させる。いきなり仕掛けてこないところを見ると、どうやら敵意は無いらしい。
ハットの男が颯爽とバイクから降り、こちらに歩み寄ってどこか気取ったように右手を差し出し、気障な台詞を繰り出した。
「まさかこんなに早くあんたにお目にかかれるとはな。会えて光栄だぜ、ワイルドタイガー……って、いきなりボロボロかよ!?」
「悪かったな……」
残念ながら、不貞腐れた返事を返すしかない。
◆
バイクに体を寄せる翔太郎とフィリップと、その場に立つ虎徹の三人が向かい合っていた。
真木への反抗心を確認し合った後、三人は情報交換を始めていた。友好的な人物及び危険人物、互いの戦闘手段に関する簡単な解説など話は広がり、現在までに遭遇した参加者の話題に移る。
「……つまり、僕達が見た空を飛ぶ人間は恐らく君を襲った少女と同一人物で、彼女は殺し合いに乗っているということだね? ワイルドタイガー」
「ああ。
おまけにかなり強くてな、俺が抵抗しなかったからとは言え、見ての通りかなりダメージを負わされたぜ」
「抵抗しなかった? そんなヤバい相手なら戦えばよかったじゃねえか」
「……泣いてたんだよ、あの子」
自然と声のトーンが落ち、マスクから覗かせる表情も険しくなった。そのまま、虎徹は少女について語り始める。
彼女は「マスター」の命令で殺し合いに乗り、虎徹の説得を振り切って逃走し、今もまた何処かで誰かに刃を向けているのかもしれない。
「もしあの子がまだ誰かを襲うなら、俺が絶対に止める。全力でな」
「確かに、その必要がありそうだね」
真剣さを感じさせる虎徹の宣言に、フィリップも同調する。活躍の舞台こそ異なれどもヒーローとしての志が同じだからこそ、こうして意識を共有できるのだろう。
フィリップに続いて翔太郎もまた、そうだな、と肯定を示す。けれど、その表情はどこか腑に落ちないようなものだった。他の二人が怪訝に思っていると、翔太郎は一つの質問を口にした。
「ワイルドタイガー。女の子は『命令だから仕方ない』と答えた、って話だったよな」
「ああ。すごく悲しそうにな」
「……ちょっと聞いてみたいんだが……あんたは説得したって言ったけど、どうやった?」
「は? そりゃあ、俺は殺し合いに乗ってないって言って、それから嫌な命令なら聞くことないって言って」
虎徹は指を折りながら次々と言葉を挙げていき、
『最後に一つだけ答えろ!お前はそいつが言った通りに人を殺す気か?だったら俺はお前を許さねぇ!お前もマスターって奴もだ!!』
そんな台詞と共に指の最後の一本を折り、虎徹は解説を終えた。
「こんな感じのこと言ったんだけど、女の子は聞いてくれなかったんだよ。急にどうしたんだ?」
しばらく間を置いて、そうか、と小さく呟き、翔太郎はハットを前に深く傾けた。
その表情を、虎徹から見ることが出来ない。
フィリップはというと、どことなく気まずい表情を浮かべながら翔太郎を見つめていた。
「……俺、なんか変なこと言ったか?」
「いや、ちょっと気になってな。
……なあタイガー。俺もあんたの言ってることは尤もだと思うぜ。マスターって奴は酷い奴だってのも、そいつの言うことを聞いて女の子が人を殺したら許せねえってのも。本当はどうしたいのか、ちゃんと自分で決めさせるってのも大事なことだろうな」
そこで一旦言葉が区切られ、でもさ、と続く。右手の人差し指が少し前に突き出された。
「背負った荷物が重過ぎて悲鳴を上げてる女の子に自分一人だけの力で解決しろってのも、酷な話じゃないか?
マスターって奴と、たぶんその子の友達との間で迷って、葛藤して、泣きたくなって。
それなのにあんたにまで『敵対するなら許さない』ってキツく言われたら、その子は余計に苦しくなったかもなって感じてさ」
フィリップの顔が俯き、虎徹の顔が強張るのが目の端に映った。それに気付いた翔太郎だが、最後に一つだけ付け足した。
俺は君の敵になるかもしれないって意思を示すだけで終わらないで、こう言ってやっても良かったんじゃないか?
もしマスターの言うことを聞くのが嫌なら、俺が君の力になってやる、ってさ。
誰かが一緒に背負ってくれるって解れば、その子も安心出来たんじゃないかって思うんだ。
翔太郎の言葉が終わり、短い沈黙が訪れる。翔太郎とフィリップは無言の状態である一方で、固まった虎徹の表情はまさに絶句の状態であった。
やがて、虎徹の口から出た深い溜息が沈黙を破った。
「ワイルドタイガー、だが」
「いや、いい。翔太郎、俺はお前の言うことも尤もだと思うぜ」
フィリップのフォロー目的らしき言葉を片手で制し、虎徹は翔太郎への返答をする。
そして、また沈黙が始まった。
失敗続きだな、俺は。虎徹の口からぽつりと出た自虐的な呟きを除けば、誰も喋らなかった。
短くない時間を経て、何も言わぬまま虎徹がフィリップの前を横切りどこかへと歩いていこうとする。
「ワイルドタイガー、何処へ行くんだ?」
「あの子を探して、今度はちゃんと説得しに行くんだよ。何かしでかすといけないからな」
じゃあな、という簡単な別れの挨拶を残して虎徹は二人の前から去ろうとした。彼の言葉はほんの少し暗く、足取りはほんの少し重くなっている。そんな風に感じられた。
「タイガー! もう一個だけ言わせて貰ってもいいか?」
だが、翔太郎に呼びかけられて足を止める。虎徹が振り向いた先で、翔太郎とフィリップが真摯な眼差しを向けていた。
「……俺は、真木って奴にまゆりって子が殺されてからここに来るまで、結局何も出来ちゃいなかった。やったことといえば、真木への怒りを心の中で燃やすくらいだな」
「僕も似たようなものだったよ。殺し合いが始まってから仲間との合流のためにどうするべきか、それを考えるので精一杯だった」
数時間前の出来事を語る二人の顔は、悔しげに歪んでいた。突然かつ凄まじく異常な事態なのだから、冷静かつ完璧な対応をしろという方が酷な話だろう。
恐らく頭ではわかっているのだろうが、やはり状況に翻弄され、言われるがままになっていたという事実が二人に圧し掛かっていることは、虎徹にも理解できた。
「そんな時だったよ。あんたが堂々と宣戦布告したのは。あれには驚いたぜ……皆がダンマリしてる中で、あんたは行動に移ったんだからな」
「言葉だけでもあの状況で反抗するのは危険ですらあるのに、君は恐れずに立ち向かったんだ。あの行いを、僕は賞賛したい」
虎徹からすれば思いもよらない話だった。
二人の少女を救えなかったのは自分も同じであり、宣戦布告は真木へのせめてもの抵抗でしかなかったのだが、目の前の二人は褒めてくれたのだから。
「あんたの姿は、俺達と同じように真木を倒そうって思ってる人や、たぶん死ぬのが怖くて震えている人にとっての希望になった。俺はそう信じてるぜ。
……勝手な言い草だろうが、もし俺の言ったことで凹んでるんだとしても、あんまり引き摺らないでくれ。心配しなくても、あんたが立派な男だってことは俺達が保障するからよ」
翔太郎とフィリップから笑顔が向けられる。
励ますようなその笑顔は、見ていて心地よいものだった。
「……ありがとよ。なんか気分が軽くなった気がするぜ」
釣られるように、虎徹の顔も自然と微笑んでいた。胸の中を覆っていた暗雲が少しずつ晴れていく、そんな錯覚さえ覚えていた。
だから、出来る限り強く明るい声で礼を述べた。
「そうだ。ワイルドタイガー、僕達もそっちに行くべきか?」
サイドカーに乗り込もうとしながら、フィリップが尋ねてきた。少女を追って同行するべきなのかということらしい。
彼らが側にいたらきっと頼もしいだろうと考えるが、虎徹は首を横に振った。
「色んな場所にヒーローがいる方が、救われる人は多くなるだろ? だから、お前達は俺とは別の方に行ってくれ。バイクは急いで見つけるから気にすんな」
一度の戦いで複数のヒーローが戦えば、確かに勝率は上がるだろう。しかしこの広い空間には、誰が何処にいるのか見当もつかない。だから今の内は一箇所に固まるより散らばった方がいいと考えた。正義の手は広く遠くまで届かせたい。
「それに、あの子の問題は出来れば俺が何とかしたいんだ。ちゃんとケジメつけないとな」
遂行できなかったヒーローの務めを今度こそ果たしたい。失敗を学んだ今なら、きっと上手くできるはず。だからあの二人をいちいち尻拭いに付き合わせるよりも、彼らなりの立派な働きに期待したいと思ったのだ。
そんな考えを理解してくれたのか、二人が虎徹を追うことはしなかった。
起動させたバイクを駆って別方向へと進もうとして、最後にもう一度虎徹の方を見た。
「じゃあな、ワイルドタイガー。あんたの活躍を期待してるぜ!」
「空を飛ぶ少女のことは君に任せたよ!」
嬉しくなるようなエールを手向けに、ダブルチェイサーは走り去っていった。
◆
「翔太郎」
「何だ?」
「どうしてワイルドタイガーにあんな質問をしたんだい? 顔も知らない少女について何か気にかかることでもあったのか?」
長い距離を走り虎徹の姿がいよいよ見えなくなった頃、ダブルチェイサーを運転する翔太郎にフィリップは問いを投げかけた。
虎徹が行った説得に関する質問を指すのだとすぐに察しがついたようだ。
「……あの話を聞いて、似てるって思ったんだよ。タイガーの言う女の子が、風都の人達にな」
そう語る翔太郎の顔はどこか切なげで、どこか心苦しい声色であった。
「俺は街を泣かせる奴らを絶対に許せない。だからドーパントには容赦なく戦ってきた。お前と一緒にな。
けどよ、ガイアメモリに手を出した人達だって、全員が最初から悪い奴だったってわけじゃないだろ?ガイアメモリなんかと出会わなければもっと真っ当な、明るい道を歩めた人達だっていた筈なんだ」
彼の語るように、今まで二人は数多くのガイアメモリ犯罪者と戦ってきた。しかし犯罪者だって最初から根っからの悪人だったわけではないのだろう。
風都に似合う素敵なハットを翔太郎に残し、風も吹かない牢の中で償いの日々を送る津村真理奈。自らの過ちに気付き、正しさを知る翔太郎達に街の未来を託すと共に命尽きた園咲霧彦。もしもガイアメモリなど与えられなければ罪を犯すことなく生きられたかもしれない街の数多の住人達。
彼らの辿った末路が脳裏を過ぎった。
「ガイアメモリを使って罪を犯した人は、確かに加害者だ。でも、ふざけた私欲を抱いた連中に心の弱さを付け込まれて、街を泣かせる道具にされてしまった人達もまた、ガイアメモリの被害者だったんじゃないか?
そんな人達を『お前は罪を犯すから俺の敵だ』なんて言って倒すしか道がないって、哀しいだろ。……って、今まで倒すしかなかった俺が言うのも変な話だけどな」
ドーパントとの戦いは単純な勧善懲悪ではない。敵として現れるのは愛する街を汚す怪人でありながら、同時に愛する街で生きてきた人間でもあるのだから。
ゆえに断罪者となることに喜びだけは抱けない。成程、街のヒーローも楽ではないと、相棒の言葉で再認識する。
「それで、君はあんな事を聞いたわけか。被害者から加害者に堕ちようとしている少女を、もしかしたら止められる方法があるんじゃないかって」
「まあ、気が付いたら何故か俺の方がタイガーに教えることになってたけどな」
ここまで聞いて、フィリップの口から笑みが零れた。
「可笑しいか?」
「いや、相変わらず君らしいなってまた思ってね」
「ハーフボイルドだ、ってか?」
翔太郎の目指す流儀からすれば悪口になる筈の評価を自身に下しながら、しかし翔太郎の顔にはさほど不満などないように見えた。
正義漢であると共にお人好しな性格が翔太郎の魅力だと、常々思う。
そこでもう一つ質問をぶつけてみる。
「そう思うなら、タイガーではなく僕達が少女を追っても良かったんじゃないのか? ワイルドタイガーを一人で行かせたことで、結局僕達は空を飛ぶ人間の正体を掴めなかった」
ワイルドタイガーの望みを叶えたことで、翔太郎とフィリップの当初の目的は叶わなくなった。彼と情報交換をしたのだから振り出しに戻ったとまでは言わないが、ゴールから遠ざかったとは言える。
その点を指摘されても、翔太郎は迷うことなく答えを示す。
「いいんだよ。タイガーがケジメをつけるって望んでるのに邪魔したくはないからな。空を飛ぶ女の子の件はタイガーとまた会った時に残しておいて、俺達は俺達の仕事をしようぜ。
それに、お前だって俺と一緒にこうしてるだろ。お前もタイガーの意志を尊重したいって思ったんだろ?」
翔太郎にそう言われ、フィリップは何も言わずに前に向き直る。
そういえば、照井竜がトライアルメモリを片手に井坂との決戦に臨んだ時も今と似たようなことを語っていた。
自分の意志でゴールへ進む者には余計な干渉をせずに優しく見守り、その者がゴールに辿り着けると信じてやれる。そんな寛容さが感じられた。
実の所、翔太郎がどう返してくるかなど大体察しはついていた。それでも、フィリップは聞いてみたくなったのだ。
相棒が望んで選んだ道は自分もまた望んだ道だ。ならば相棒と一緒に祈ろう。
願わくば、ワイルドタイガーの努力が実を結び、少女が敵になってしまわない――どす黒い野望に燃えた宿敵達、ミュージアムの面々や
井坂深紅郎や
大道克己のようにならないように。
そしてワイルドタイガーに言われた通り、自分達は自分達の仕事をしよう。
「翔太郎、もし安全な場所、たとえば何かの施設を見つけたら一度停まってくれないか?ワイルドタイガーから興味深い情報を貰ったからね、それを含めて“地球の本棚”で調べてみたいことがあるんだ」
「おう。頼りにしてるぜ、天才さん」
知識に富んだ頭脳と、優しさと正義を秘めた心と、二人分の絆の力を武器に。
【1日目-午後】
【C-3 路上】
【
左翔太郎@仮面ライダーW】
【所属】黄
【状態】健康、ダブルチェイサーを運転中
【首輪】100枚:0枚
【コア】なし
【装備】ダブルドライバー+ジョーカーメモリ・メタルメモリ・トリガーメモリ@仮面ライダーW、ダブルチェイサー@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式、不明支給品1~3
【思考・状況】
基本:「仮面ライダー」として誰かのために戦う。
1:照井と合流する。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※「TIGER&BUNNY」の参加者に関する情報を得ました。
【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】緑
【状態】健康、ダブルチェイサー(サイドカー部分)に同乗中
【首輪】95枚:0枚
【コア】ウナギ:1
【装備】サイクロンメモリ・ヒートメモリ・ルナメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。この事件の首謀者を捕まえる。
1:照井竜と合流する。
2:安全な場所でもう一度“地球の本棚”を使いたい。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※“地球の本棚”には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません。
※「TIGER&BUNNY」の参加者に関する情報を得ました。
◆
幸いにも、新しいライドベンダーはすぐに見つかった。
それに跨って全身で風を切る虎徹の頭の中にあるのは、これまでの何とも情けない自分の姿だった。
「まーた年下に説教されるなんてな……まあ、仕方ない話か」
翔太郎に指摘された通り、あの少女には辛く当たってしまったと思う。苦しいのが一目瞭然だったのだから、もう少し歩み寄る態度でも良かったかもしれない。
今となっては自戒が出来ると共に、どうしてこうなったのかの理由についても何となく見当がつく。
一つ思い浮かべるのは、殺し合いにおいて虎徹が初めて会った人間のこと。いや、この表現は正確ではない。初めて見た人間の亡骸のこと、と言うべきか。
(悪い……もっと早く着いてたら、君を死なせずに済んだのにな)
この空間に飛ばされてから数十分後、辿り着いたのはC-1エリアに設けられた病院だった。初期配置から近くにあり、また目立つ施設だから誰か来るだろうと考えての判断だった。
奇妙なほどに静まり返った病院内部を探し回り、ドアが開け放たれた一室を見つけ、中に入った時に目に映ったのは、
部屋中に盛大に血液を飛び散らせ、肉も骨もぐちゃぐちゃに砕かれ、もはやヒトの形を成していないヒトの死体。一目でわかるほどに、仕掛人の残虐な性質が存分に発揮された現場であった。
それを見た瞬間に虎徹は膝から床に崩れ落ち、何とも間抜けな声が漏れ、残酷な事実に気付かされた。
一人の人間が誰かの悪意の犠牲になった事実。何も行動らしい行動をしない間に、真木清人に突きつけた「誰も死なせない、誰にも殺させない」の宣言があまりにあっさりと崩れてしまった現実に。
虎徹は震える声で亡骸に向けて謝罪した。救ってやれなかった自分の弱さを、心の奥底から。そして結局誰も見つけられないままに外に出て、既に発見したライトベンダーで病院を後にした。罪悪感と、顔も知らぬ犯人への怒りを胸に。
(本当に俺は弱いもんだな。情けねえぜ)
原因はもう一つあったと思う。突然始まったNEXT能力の減退だ。
能力を発動する毎に持続時間が減っていき、その度にいつか能力を失いヒーローとして戦えなくなる自分の姿が想像できた。
そのためにこれから先も悪と戦える頼もしいヒーロー達に平和を託し、ヒーローから只の父親に戻って愛娘の楓の側にいようと決めたのが少し前の話だ。
そんな時になって、真木清人は殺し合いに自分を呼び出し、目の前で罪も無き少女たちの命を奪った。その様を見て、虎徹の正義が再び燻るのがわかった。
わざわざスーツを着せて呼び出したのなら、お望み通りヒーローとして戦ってやる。消えゆく前の最後の炎を燃やし、この殺し合いの打破をワイルドタイガー最後の大仕事として達成しようという決意が虎徹の中に生まれていたのだ。
しかし、非情にも死が目の前に突きつけられ、胸中に無力感が生じた。おそらくこの時に、自分でも強く意識しない内にNEXT能力を失うことへの覚悟が薄れ、焦りが再び生じたのだろう。
こうして思い返すと、精神的に追い詰められていたのは虎徹も同じだったのだ。
真木の目論見通りに殺人ゲームは着々と進行しているのに、自分はそれを止められない惨めな弱者でしかない。そんな現実に対する怒りや悲しみが焦りを帯びて、それをあの少女に厳しくぶつけてしまった。
引き返す決心の出来ない彼女の態度に業を煮やし、殺人者を倒さねばと急いで成果を求め、憤怒が情けを押しのけた結果があのザマだ。
大人気ない、の自己評価を下すのが適当だろう。女の子に優しくしてやらなかったと聞けば、楓だって酷く怒るに違いない。
(ありがとな、二人で一人のヒーローさんよ)
空回りの行いを続けようとする自分に気付かせてくれた二人に、心中でもう一度感謝を示した。
二人の乗っていたダブルチェイサーは自分と相棒が愛用するバイクであったのだが、その事を告げずに貸したままにした。今はまだ「二人で一人のヒーロー」である彼らの戦力を削ぎたくなかったからだ。
ダブルチェイサーを返してもらうのは、相棒のバニーと合流し、彼らに負けないほどに立派なヒーローとなった後にしよう。
「そのためにも、今度こそ俺も頑張らないとな」
涙を流すあの少女のためにも、こんな自分を応援してくれた若い二人組のためにも。家で父の帰りを心待ちにしている娘のためにも、そして今も何処かで救いを求める人々のためにも、今はまだヒーローとして戦いたい。
だから今は、少女がまだ罪を犯していないことを祈りながら、もう一度彼女と向き合う時のこと、その場面にふさわしいヒーローとしての自分の姿を考える。
そうだ、あの台詞を口に出して自らを鼓舞してみよう。最高にカッコいいヒーローの象徴たる、あの決め台詞を。
「さあ――ワイルドに吠えるぜ!」
【1日目-午後】
【D-3 路上】
【
鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、ライドベンダーを運転中
【首輪】80枚:0枚
【コア】なし
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(胸部陥没、頭部亀裂、各部破損)、ライドベンダー@仮面ライダーOOO
【道具】不明支給品1~3
【思考・状況】
基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
1.少女(
イカロス)を捕まえて答えを聞きだす。殺し合いに乗るなら容赦しないが、迷っているなら手を差し伸べる。
2.他のヒーローを探す。
3.ジェイクとマスター?を警戒する。
【備考】
※本編第17話終了後からの参戦です。
※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。
※「仮面ライダーW」の参加者に関する情報を得ました。
最終更新:2013年03月01日 22:27