暗躍 ◆SXmcM2fBg6
PREV:意志
○ ○ ○
荒れ狂う暴風。轟き叫ぶ雷光。限界を超えたダメージ。
それら全てを凌駕した、呼吸する力すら右脚に集結させての一撃。
絶体絶命な状況でも諦めぬ意志を以って、彼は必死の運命を覆したのだ。
背中に小野寺を背負い、可能な限りの速度で走る。
大の男を背負うことの苦痛など、気にもならない。
「この馬鹿者が……!」
己が背負った青年に向けて叱咤の声を放つ。
意識のない彼に聞こえる筈がないが、口にせずにはいられなかった。
ベルトと右足。赤く染まった身体を更に覆った黄金の装飾が、彼に如何なる力を齎したのかはわからない。
だが限界を超えた力の代償がどれほどのものかは、容易に想像がついた。
小野寺のダメージは限界を超えている。一刻も早く治療をする必要があるだろう。
目指す場所は【C-1】にある病院。そこならば、何か治療する手立てがある筈だ。
それまでは、黄金の鞘の不確かな力に頼るしかない。
「くそ……っ」
あまりの不甲斐なさに、自分自身を殺したくなった。
ウェザーが本気を出した時、結局千冬は守られてしまった。
ウェザーに敵わない事は理解していた。だからその事で思う事はない。
千冬が許せないのは、別の所。
守られるだけで、何も出来なかった自分が許せなかった。
実を言えば、千冬には小野寺を助けられる可能性はあった。
西洋剣、黄金の鞘に続く、最後の支給品。
“地の石”と呼ばれる、謎の魔石だ。
地の石はクウガをライジングアルティメットフォームに進化させ、その意思を奪う力を持つらしい。
自らをクウガであると名乗ったユウスケにこれを使えば、ウェザーを倒せたかもしれなかった。
だが、そのクウガの意思を奪うという効果が、千冬に地の石を使う事を躊躇わせた。
その結果、ユウスケが瀕死の重傷になった事が、千冬の自身への怒りに拍車をかけている。
ウェザーは敗走し、ヤツの零したメダルは全て回収した。
その中にはコアメダルも含まれていたが、何の慰めにもなっていない。
――――ISさえあれば。
と。意味がないとわかっていながら、ない物強請りをしてしまう。
ISさえあれば、小野寺を助け、ウェザーを倒す事も出来たのにと。
こんなにもISを切望した事はなかった。
こんなにも自分が無力だと思った事はなかった。
こんなにも「ブリュンヒルデ」の称号を虚しく感じた事はなかった。
ISがなければ、自分は何も出来ないのかと――――
「この……大馬鹿者が………ッ」
堪え切れずに口にした言葉。
その罵倒が誰に向けたモノなのか、千冬自身にも解らなかった。
【一日目-日中】
【C-3/エリア南東・川】
【織斑千冬@インフィニット・ストラトス】
【所属】赤
【状態】健康、疲労(小)
【首輪】120枚:0枚
【コア】クワガタ
【装備】シックスの剣@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式、地の石@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。真木に制裁する。
0.この馬鹿者が……ッ
1.小野寺を早急に病院へ運ぶ。
2.危険人物と遭遇したら迷わず逃げる。
3.生徒と合流する。
4.ウェザー(
井坂深紅郎)、
門矢士を警戒。
5.ISが欲しい。
6.地の石をどうするか………。
7.小野寺は一夏に似ている気がする。
【備考】
※参戦時期不明
【
小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】ダメージ(極大:回復中)、気絶
【首輪】15枚(消費中):0枚
【装備】アヴァロン@Fate/zero
【道具】なし
【思考・状況】
基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
0.――――――――
1.千冬さんを守れてよかった。
2.仮面ライダークウガとして戦う。
3.ウェザー(井坂深紅郎)、士を警戒。
4.士とは戦いたくない。
5.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
しかし、ユウスケは覚醒した事に気が付いていません。
○ ○ ○
そうやって走り去る千冬の姿を、一人の少年が眺めていた。
少年の名は
アンク。正しく識別するのであれば、“もう一人のアンク”だ。
彼はウェザーの能力によって発生した、不自然な雨雲を目指していた。
大桜付近に居るだろう“欠けた自分”を見つけ出して取り戻す事は大事だ。
だが近くに配置された参加者からして、その場に留まっている可能性は低いとも思っていた。
故に不自然に発生した雲に興味を持ち、そのくらいの寄り道は構わないだろうと判断したのだ。
その道中で見つけたのがユウスケを背負って走る千冬だった。
「クウガに、ブリュンヒルデか………」
距離が大きく離れていた事もあり、彼女はアンクの存在に気付く事なく走り去った。
もう見えなくなった千冬達の姿を思いながら、どうするかを考える。
目印とした雲は既に消えている。あれは参加者達の開始位置からして、ウェザーの能力によるものだろう。
ウェザーの持ち主である井坂深紅郎は白陣営。対して走り去った二人は同じ赤陣営。
とすれば、彼女達と合流し、赤陣営が優勝するように利用するのが正しい選択だろう。
仮面ライダークウガである小野寺ユウスケは、確実に殺し合いを止めようとするだろうが、問題はない。
こちらには「DUMMY」のガイアメモリがある。
このメモリを使えば、
イカロスの時の様に相手を騙し、情に訴える事は難しくないだろう。
幸いにして、彼女達が向かった先はもう一人の自分の開始位置近くだ。運が良ければ、難なく“欠けたボク”を見つけられるかもしれない。
そう結論し、走り去った千冬達を歩いて追いかける。走らないのは単に、優先順位が精々二番目だからだ。
第一の目的はあくまで“欠けたボク”と一つになる事。追いかける事に必死になって、もう一人の自分を見落とす事は避けたかった。
「待っててね、ボク……。
きっともうすぐ、会えるから……」
そう呟きながら、赤い小鳥は歩き続ける。
いつか空に跳び立つ時を、待ち望みながら。
【一日目-日中】
【C-4/エリア南西・川】
【アンク(ロスト)@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー
【状態】健康
【首輪】90枚:0枚
【コア】タカ:1、クジャク:2、コンドル:2
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、「DUMMY」のガイアメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1~5(確認済み)
【思考・状況】
基本:赤陣営の勝利。“欠けたボク”を取り戻す。
1.千冬達を追い掛けて合流し、赤陣営優勝に利用する(急ぎはしない)。
2.“欠けたボク”に会いに行く。後で大桜に行ってみる。
3.“欠けたボク”と一つになりたい。
4.赤陣営が有利になるような展開に運んでいくのも忘れない。
【備考】
※アンク吸収直前からの参戦。
○ ○ ○
「あ~あ、もう見えなくなっちゃった」
青い空の一角を見上げながら、雨竜龍之介が呟いた。
先ほどまで龍之介が見上げていた位置には、不自然な暗雲が垂れ込めていた。
彼もまたもう一人のアンクと同様に、雲を目印にそこを目指していたのだが、その雲が消えたため目標を見失ったのだ。
「どーすっかねぇ……。旦那を探すにしても、どこを探せばいいのかわかんねーし、やっぱあの子供と合流した方が良かったかな?
でもアイツ、このゲームに乗ってるっぽいし、止めといた方がいいような気がしたんだよなぁ」
そう言いながら、手元のサバイバルナイフを玩具のように回して遊ぶ。
先ほど怪人に変身した少年の陣営は赤。対して自分の陣営は白。
少年がゲームに乗っているのであれば、自分と少年は殺し合う事になる。
そのこと自体に異論はないが、率先して殺し合いに乗る様な人物が弱いとも思えない。
武器はサバイバルナイフ一本しかなく、USBメモリはどんな怪人に変身するか判らない。
そんな不確かな状況で殺し合うのは非常に心もとない。
「残った支給品は、コアメダルと変な笛だけだしなぁ」
コブラのコアメダルとセットになっているらしい笛。
コアメダルはセルメダルの代わりになるらしいが、USBメモリの効果が解らない今、どちらも役に立たない。
であれば、やはりあの少年とは合流しない事が得策だろう。
そんな事を考えながら歩いていると、辺りが急に霧に包まれた。
こんな真っ昼間に急に立ち込めた霧に、理由が解らずに困惑する。
「あれ? なんで急に霧なんか………ん? あれは―――!」
しかし霧はすぐに晴れた。
そしてそこに現れた人影に、龍之介は思わず興奮した。
「く………、油断しました。まさかウェザーの力を利用するとは。
弱くとも仮面ライダーと言う事ですね。危うくメモリブレイクされるところでした」
現れたのは白い怪人だった。
その怪人は変身を解いてスーツ姿の男性に戻り、USBメモリを持っている。
つまりはさっきの少年と同じであり、それに何より、首輪のランプは白。つまりはお仲間と言う事だ。
ならば男性がゲームに乗ってるにしろ乗ってないにしろ、少年の時の様に迷う必要はない。
そう考え、龍之介は喜び勇んで男性に話しかけた。
「すいませーん。ちょっといいっすか?」
「おや? 何の御用でしょう」
「俺の名前は雨竜龍之介っす。
ちょっと聞きたい事があるんだけど、問題ないっすか?」
「ええ、大丈夫です。何でも聞いてください。
ああそれと、私は井坂深紅郎と申します」
そう言って井坂深紅郎は、雨竜龍之介と名乗った青年と向き合った。
ユウスケ達と遭遇した時の様に襲わないのは、ウェザーに掛けられた制限は大体把握したことと、メダルの残数が半分を切っていたからだ。
もちろん龍之介を殺しメダルを補充するという考えもあった。
だが深紅郎はそれよりも、彼から情報の収集をする事に決めたのだ。
そしてその選択が正しかった事を、深紅郎はすぐに知ることとなる。
「このUSBメモリなんすけど、使い方と書こうかとかわかります?」
「おや……まさか、このガイアメモリは……!」
「おお! 何か知ってるんすか!?」
龍之介が見せたそれを見て、深紅郎は思わず、この殺し合いを強要した真木清人に感謝した。
先の戦いで失ったコアメダルなど、コレの代価と考えればお釣りすら来る。
「INVISIBLE」――それが龍之介に支給されたガイアメモリだった。
使用者を透明人間にする力を持つこのメモリは、かつて深紅郎が収集し損ね、破壊された筈のメモリだ。
どういう手段かは分からないが、真木清人は失われたガイアメモリを作り出すことが出来るらしい。
加えてガイアメモリの状態も、最後に診た時と同じ状態ようだ。
……目の前には丁度良い被検体がいる。
彼を生贄にガイアメモリを完成させれば、かつて得られなかった力を得る事が出来るかもしれない。
龍之介がメモリを完成させ得る程の適合者かはこの場では解らないが、もし違っても殺せばメモリは排出されるし、メダルも補給できる。
ならば試して損はないだろう。
そこまで考え、深紅郎は龍之介を取りこむことを決めた。
後は彼を良い様に懐柔するだけだ。
「これはガイアメモリと言って、使用者をドーパントに進化させる力を持っています」
「ドーパント?」
「はい。人間の限界を超えた、神にも等しい存在です。
そしてこのメモリは「INVISIBLE」と言って、透明になれる力を持っています」
「へぇ! 透明人間が! それって超COOLじゃね!?」
「ただこのメモリは不安定で、細かい調整が必要となるんです。最悪、死に至る事もあるでしょう」
「それってなんか……ヤバくね?」
「いえいえ、恐れる事はありません。なぜなら私はドーパント専門の医者ですから。
私の健診さえ受けてくれれば、何の問題もありません」
「へぇ? そうなんだ。なら大丈夫なのかな?」
「もちろんですとも。実際にそのメモリを使ってみては如何ですか?」
「そう……だな。百聞は一見に如かずっていうし。分かった、使ってみるよ」
そう言って龍之介は簡易型L.C.O.Gを使い、ガイアメモリを体内に挿入する。
だが龍之介の姿に変容はない。依然と普通の身体のままだった。
「―――あれ? 全然変身しないけど、どうなってんの?」
「いえ、それで何の問題もありません。
「INVISIBLE」は特殊なメモリでして、通常のドーパントの様に姿を変える事が出来ない代わりに、透明人間になれるのです。
言わば、透明人間の状態がドーパントとしての姿、という訳ですね。
体内のメモリを意識して、透明になる様に念じてください。そうすれば透明になれる筈です」
「なるほどね。………おお、すげぇ! マジで透明になってる!」
龍之介は深紅郎の説明に納得し、言われた通りに念じてみる。
するとどうだろう。とたんに龍之介の身体は透明になり、向こうが透けて見える様になっている。
どこかの映画や漫画の様に、服だけ残って見えていると言った不手際もない。完璧な透明人間だった。
これならば背後どころか目の前に居たって気付かれない。
殺しの最初の手間である動きを封じる事も、容易に行う事が出来るだろう。
そうやってガイアメモリの力を喜ぶ龍之介を見て、深紅郎もまた満足げに頷く。
今度こそ失敗する訳にはいかない。
前回の様に使用者に任せるのではなく、自らの手の届くところで管理する必要があるだろう。
龍之介はまだ気付いていないが、「INVISIBLE」のメモリは体外に排出される事はない。
仮に龍之介が過剰適合者ならば、彼は自身の生命力を糧としてガイアメモリを成長させるだろう。
その果てにあるのは、ガイアメモリの力による死だ。
―――そして龍之介は、井坂の望んだとおりの過剰適合者だった。
ガイアメモリは使用者の性格や技能がメモリの性質・モチーフに近いほど適応しやすい性質を持つ。
「INVISIBLE」のメモリが内包する地球の記憶は“不可視”。
つまりは“見えない事”だ。
対して龍之介は行き当たりばったりの快楽殺人者でありながら、天性の証拠隠滅と捜査撹乱を行うことができた。
時として行なった殺人そのものが世間には認知されていないケースすらある。
つまりは“見つからない事”に長けているのだ。
“見えない事”と“見つからない事”。
この二つの類似点が、龍之介に文字通り過剰な適合率を持たせたのだ。
それが彼に死を齎すモノでありながら――――
深紅郎は先ほどの説明において一切の嘘は言っていない。
メモリを使用し続ければ死に至るし、不調があっても深紅郎が診断すれば問題はない。
そう。深紅郎は一言も助かるとは言っていない。龍之介は何の問題もなく死に至るだろう。
そしてその時にこそ、「INVISIBLE」メモリは深紅郎の望んだとおりに完成するのだ。
その時を思い、思わず舌舐めずりをする。
まだ始まったばかりだというのに、もう待ちきれないほど興奮していた。
「INVISIBLE」のメモリを挿入する時が、果てしなく待ち遠しかった。
「それじゃ早く行こうぜ! 旦那に見せてやるんだ!」
「その旦那と言うのは、貴方の知人ですか?」
「ああ。青髭って言うんだけど、これが超COOLな人でさ――――」
深紅郎は龍之介の話を聞きながしながら、必要な情報だけを纏めていく。
彼の言う青髭なる人物には興味ないが、魔術というモノには好奇心がそそられる。
まったく、真木清人には感謝してもしきれないかもしれない。
こんな数多の“力”の実験場に連れて来てくれたのだから。
だが―――それにしても、
“ああ、腹が空いたなぁ……”
【一日目-日中】
【C-4/エリア北西・路上】
【井坂深紅郎@仮面ライダーW】
【所属】白
【状態】ダメージ(中)、空腹
【首輪】55枚(増加中):0枚
【装備】「WEATHER」のメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品(食料なし)、不明支給品0~2
【思考・状況】
基本:「INVISIBLE」のメモリを食らう。そのために龍之介を保護する。
0.それにしても、腹が空いたなぁ……。
1.「INVISIBLE」のメモリを完成させる。
2.食料を探す。
3.コアメダルや魔術といった、未知の力に興味。
【備考】
※詳しい参戦時期は、後の書き手さんに任せます。
※「WEATHER」のメモリに掛けられた制限を大体把握しました。
※何処に向かうかは次の書き手さんにお任せします。
【
雨生龍之介@Fate/zero】
【所属】白
【状態】健康
【首輪】99枚:0枚
【コア】コブラ
【装備】サバイバルナイフ@Fate/zero、「INVISIBLE」のメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、ブラーンギー@仮面ライダーOOO
【思考・状況】
基本:このCOOLな状況を楽しむ。
1.しばらくは「INVISIBLE」のメモリで遊ぶ。
2.井坂深紅郎と行動する。
3.早く「旦那」と合流したい。
【備考】
※「INVISIBLE」メモリのメダル消費は透明化中のみです。
※「INVISIBLE」メモリは体内でロックされています。死亡、または仮死状態にならない限り排出されません。
※雨竜龍之介は「INVISIBLE」メモリの過剰適合者です。そのためメモリが体内にある限り、生命力が大きく消費され続けます。
最終更新:2015年03月30日 11:35