地獄少女 宵伽の第1話

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地獄少女 宵伽の第1話 - (2018/09/08 (土) 05:00:53) の1つ前との変更点

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#center(){|BGCOLOR(black):COLOR(red):CENTER:&br()&ruby(こわく){蠱惑}に溺れし 哀れな&ruby(えにし){縁}&br()夢か&ruby(うつつ){現}か 光か闇か&br()&ruby(あま){天}の&ruby(こと){言}の葉 浮かんで消えて&br()時の&ruby(まにま){随}にゆらゆらと&br()沙汰を語るは&ruby(よいのとぎ){宵伽}&br()晴らせぬ怨み 晴らします──&br()&br()|} とある高校の授業中。 多くの生徒たちが、机の下に隠したスマートフォンを操作している。 LINEの同級生同士のグループで、生徒への陰口が飛び交っている。 「毎日イモ」 「なんかクセー」 「ガス丸クセー」 「イモ食ってぷー」 「イモプー」 「毎日イモ」 「朝からぷー」 生徒たちは、小声で笑い合っている。 陰口の標的、真山静香は、会話には参加しないものの、膝の上のスマホの画面を見て、唇を歪めている。 隣の席の生徒が、床に落ちていた消しゴムを拾う。 生徒「真山さん、消しゴム落ちたよ」 真山「あ…… すみません」 「消しゴム落として気づかない」 「ガス丸トロい」 「しかもクサい」 「トイレ流しちゃおう」 「流すんだったら地獄だろ」 「イイネ!」 「地獄少女に頼もう」 「誰かよろしく」 夜。 真山は自室で、スマホで地獄通信にアクセスし、生徒の1人の名前を書きこむ。 地獄少女・閻魔あいが現れる。 あい「呼んだ?」 真山「地獄少女……?」 #center(){|BGCOLOR(black):COLOR(red):CENTER:&br()&big(){&big(){&bold(){見えない聞こえない}}}&br()&br()|} 真山「本当にいたんだ……!」 あい「迷ってる」 真山「えっ?」 あい「地獄へ流したいのは、本当にその子なの?」 真山「たぶん…… うぅん、間違いない。秋野さん、こっち見て笑ってたもん!」 あい「そう」 真山「あと、他の人もお願い!」 あい「他の人?」 真山「コメントしてるみんな! 井本くんも遠藤さんも緒方くんも……」 きくり「アンポンタン!」 きくりも現れる。 きくり「地獄流しは1人1回だ! 欲張るな、アンポンタン!」 真山「駄目なの!? 何とかならないの!?」 あい「行くよ、きくり」 きくり「うん」 あいときくりが、姿を消す。 真山「待って、待ってよぉ! 私を助けてよぉ!!」 きくりの声「頭冷して出直せ、ボケナス」 母がドアをノックする。 母「静香、どうしたの? こんな時間に大声出して」 真山「……何でもない」 母「『助けて』って、何かあったの?」 真山「何でもないってば! 放っといて!!」 翌日、学校での授業中。 「ガス丸靴下黄色」 「ダサ」 「ダサ」 「プーで色がついた」 「イモ食ってプー」 「プ~」 真山がスマホに気を取られ、消しゴムを落とす。 真山「あ、すみません…… へへ、またやっちゃった」 昨日拾ってくれた隣の生徒は、一瞥もしない。 「また消しゴム落とした」 「ガス丸ウザ」 「ウザ」 「触るとニオイ移る」 「病原菌」 「キモい」 「太ってる」 「イモ」 あいの使い魔、輪入道、一目連、骨女の3人が、その様子を監視している。 骨女「いつ頃からなんだい?」 一目連「1か月くらい前かな」 骨女「文字はキツいよねぇ、何度でも読み返せるから」 輪入道「『ガス丸』ってのは?」 一目連「あの子、小太りだろ? 『風船みたいにガスが溜まってるから、丸いんだろう』って」 骨女「それでガス丸かい? 可哀想に……」 輪入道「で、何をしたんだい?」 一目連「コメントの中に、理由らしいものは見当たらなかったよ」 骨女「きっかけなんて、大抵は些細なことだからねぇ」 「ガス丸んち、喫茶店だって」 「ママだけ」 「パパは?」 「逃げた?」 「マジで?」 「遺伝だからママも臭い」 「店も臭い」 「珈琲も臭い」 真山が我慢しきれず、「みんな死ね!」とスマホに打ち込むが── 教師「こら!」 真山が我に返り、入力を思い留まる。 教師「湯川!」 教師が別の生徒、湯川麻子のもとへ詰め寄る。 湯川は隠すことなくスマホを手にし、堂々とヘッドホンを付けている。 教師「授業中だぞ! 携帯やめろ!」 一目連「危機一髪。もし、あんなコメントしてたら」 輪入道「周りの思うツボだったな」 骨女「あの湯川って子のおかげだね」 昼休み。 生徒たちは教室で、弁当や雑談を楽しむ。 真山は1人、コンビニ袋を手に、無人の屋上の隅に座り込む。 傍らでは相変らず、スマホの画面で、生徒たちの陰口が飛び交っている。 湯川「コンビニなんだ」 隣に湯川が座り、弁当箱のサンドイッチを見せる。 湯川「食べる?」 真山「……」 湯川「私が作ったの」 湯川は弁当箱を、真山のそばに置く。 湯川「ここ、眺めいいじゃん」 真山「……」 湯川「あれ? 子供がいる」 校庭で生徒たちの中、きくりが三輪車を&ruby(やまわろ){山童}に押させている。 きくり「ブルンブル~ン! ちゃんと押せ、わろわろ。遅いぞ!」 山童「ここは駄目ですよ、姫。みんな見てるじゃないですか」 きくり「減るもんじゃなし、見たいんなら見せてやれ~!」 山童「何言ってるんですかぁ!?」 輪入道「こらっ! 入って来るなと言っただろ!」 きくり「あっ、ハゲが来たぁ!」 湯川「プッ! あの用務員さん、ちょっと良くね? あ、いいよ、食べて」 真山「……」 湯川「不味くないと思う」 真山「うちのお母さん、お節介で鬱陶しくて、それでお昼はコンビニにしてるの」 真山がサンドイッチを口にする。 真山「美味しい」 湯川「そっか、良かった」 真山「美味しい……」 真山が涙をこぼす。 湯川が真山のスマホを取り、画面を消す。 湯川「見なきゃいいじゃん。なんで見るの?」 真山「気になるから……」 湯川「関ろうとするから、傷つくんだよ」 湯川がヘッドホンで耳を塞いでみせる。 湯川「こうすれば、誰とも関らなくて済むじゃん」 真山「でも……」 湯川「1人じゃ寂しい?」 真山「……」 湯川「だったら、私が友達やってあげる」 真山「えっ?」 湯川「真山なら、いいよ」 真山「……どうして? 誰とも関りたくないのに。どうして、私に」 湯川「わかんない」 真山「……」 湯川「似てるから、かな」 あいが彼方で、その様子を見つめている。 「地獄少女なんて、いらない」 どこがで少女の声がする。 あいが振り向くが、声の主は見えない。 真山の母が自宅で営む喫茶店。 母「いらっしゃい。──あら」 真山と湯川。 真山「ただいま」 母「お帰り」 真山「友達の、湯川さん」 母「こんにちは」 湯川はわずかに頭を下げただけで、目を合せず、スマホをいじっている。 真山「奥の席、行こう」 湯川は真山と談笑もせず、テーブルの上のパフェにも手を付けず、相変らずスマホを操作している。 真山「ねぇ、それ何やってるの? ゲーム?」 湯川「──ん? 何か言った?」 真山「あ…… うぅん、何でもない」 真山がカウンターの母に。 真山「コーヒー入れて」 母「ちょっと、何なの、あの子? 初めて友達連れて来たと思ったら」 真山「そんな言い方しないで」 真山がテーブルに戻る。 湯川「何だって?」 真山「えっ?」 湯川「気に入らないって? 私のこと」 真山「ち、違うよ。『飲み物はコーヒーでいいか?』って。いいよね、コーヒーで」 湯川「嘘つかなくていいよ。わかるから」 別のテーブルには、客に扮した骨女と一目連がいる。 骨女「微妙だね」 一目連「だな」 翌日の学校。 真山がトイレから出ると── 湯川「ちょっと来て」 湯川は、真山を屋上へ連れてゆく。 真山「グループ?」 湯川「そう、真山用に作ったんだ。リンク送ったから、見てみ」 真山のスマホに、「関わりたくない系」と題したグループへの案内が届いている。 湯川「気にするなって言っても、どうせ気にするだろうなって思ってさ。言いたいことがあったら、これからはここに吐き出せば? 溜めるから辛くなるんだし」 真山「良かった……」 湯川「ん?」 真山「嫌われたのかと思っちゃった」 湯川「なんで? 友達じゃん」 真山「友達…… そっか」 湯川も自分のスマホを手にして、画面を見る。 湯川「つっかさぁ、ハンドルネーム『ポンタ』って」 真山「あっ、昔飼ってた犬の名前」 湯川「ダッサ!」 真山「フフ…… あ、湯川さんのハンドルネームは──」 画面を確かめると、グループのメンバーは「ポンタ」「イヴ」「ナイト」の3人。 真山「あれ? もう1人いる」 湯川「私は『イヴ』。『ナイト』っていうのは、B組の横田」 真山「横田さん? 知らないけど」 湯川「私と同じ、関りたくない系。真山のことは話してあるから、大丈夫だよ」 真山「湯川さんの友達なんだ。じゃあ、後で挨拶した方がいいね」 湯川「LINEでね。直接は無し」 真山「えっ、でも……」 湯川「だから、関りたくない系」 真山「あ…… そっか、わかった」 イヴ「関わりたくない系のグループ作ったよ。よろしく♪」 ポンタ「ナイトさん。ポンタです。よろしく」 以来、真山は自宅でも登下校中も、「関わりたくない系」への書き込みに夢中になる。 下校時の駅のホーム、真山がスマホを手にしている姿を、あいたち一同は反対のホームから眺めている。 山童「何だか、楽しそうですね」 骨女「何書いてるんだろ?」 一目連「見てこようか?」 輪入道「いや、もういいだろう。潮時だ」 きくり「ちぇ~っ! 今回は空振りかぁ!」 イヴ「緒方は?」 ポンタ「死ねばいい」 イヴ「秋野は?」 ポンタ「死ねばいい」 イヴ「井本は?」 ポンタ「死ねばいい」 ナイト「どんな死に方?」 真山「えっ? そうだなぁ……」 線路に電車が入って来て、あいたちと真山との間を遮る。 電車の窓ガラス越しに、謎の少女・ミチルの姿が見える。 ミチル「閻魔あい── あれでいいの?」 あい「……」 ミチル「あなたなら、知ったことじゃないか」 きくり「誰だ、お前!?」 電車が発車し、ミチルの姿は見えなくなる。 骨女「消えた……?」 きくり「あい、今の誰だ!? 知ってるのか!?」 あいは、無言で歩き出す。 きくり「おい! 待て、こらぁ! どこに行くんだぁ!? 無視すんな、あい~!」 きくりが山童の脚を蹴飛ばす。 山童「痛っ! なんで僕なんですかぁ!?」 真山の自宅の喫茶店でも、カウンターで、スマホに夢中になっている。 母「良かったぁ……」 真山「ん?」 母「いい顔してる」 真山「そう?」 母「お母さん、安心した。ね、それ、相手はこの間の?」 真山「──ん、何か言った?」 母「うぅん、別に。邪魔してごめんね」 ナイト「流石ポンタw」 イヴ「神谷に仕返しするならどんな?」 真山「神谷さんかぁ……」 ナイト「ポンタエグイから」 ナイト「期待」 真山「フフ、期待された。神谷さん、そうだなぁ……」 翌朝、真山が登校する。 教室で、生徒たちが一斉に、白い視線を向ける。 真山の席にはパソコンが置かれ、その画面には── ナイト「秋野は?」 イヴ「いいね!」 ナイト「ポンタよろしくー!」 イヴ「どうします、ポンタさん?」 ナイト「そうそう、ポンタ様ぁ~」 ポンタ「ん~…」 イヴ「ゴクリ」 ナイト「ゴクリ、ゴクリ」 ポンタ「死ねばいい」 しかも、ポンタのアイコンには、真山の顔写真が表示されている。 真山「これ……!?」 生徒たちの方を振り向くと、皆の白い視線が突き刺さる。 真山「湯川さんがするはずない…… ナイト? 横田さん!?」 真山は横田がいるという、B組の教室へと駆け込む。 真山「あの、横田さんって、どの人?」 男生徒「えっ? あぁ。横田ぁ、お客さん」 談笑している女生徒の1人が振り返る。 女生徒「あぁ? 誰?」 真山「あ、あの…… 私、ポンタだけど!」 女生徒「はぁ? プッ! アハハハハ! ポンタぁ!? アハハハハ!」 女生徒たちが談笑相手と共に、涙が出るほど笑い転げる。 LINEでは、真山への陰口が加速している。 「ガス丸サイアク」 「許せねー」 「もう教室入れるな」 「退学させよう」 「でも何されるかわかんない」 「殺されるかも」 「こわい」 「こわい」 真山がとっさに、画面をスクロールし、生徒たちの陰口を過去へとさかのぼる。 イヴ「真山静香ってウザくね?」 真山「最初に書いたのは、イヴ!?」 教室に戻るが、湯川はいない。 誰かの投げた黒板消しが、真山の頭に命中する。 真山「誰!?」 「ほら! こわ!」 「こわい」 「こわい」 「こわい」 真山「誰よぉ!?」 「こっち見るな」 「見るな」 「見るな」 湯川が現れる。何があったのかわからないような表情。 「消えろ」 「消えろ」 「消えろ」 真山が湯川を突き飛ばし、走り去る。 その夜。 真山は地獄通信にアクセスし、湯川の名前を入力する。 あいたちが現れる。 あい「呼んだ?」 真山「今度は、ちゃんと1人だけ。騙されてた…… 許せない」 あい「輪入道」 輪入道「あいよ、お嬢」 輪入道が、藁人形に姿を変える あい「受け取りなさい。あなたが本当に怨みを晴らしたいと思うなら、その赤い糸を解けばいい。糸を解けば、私と正式に契約を交わしたことになる。怨みの相手は、速やかに地獄へ流されるわ」 真山「地獄……」 あい「ただし、怨みを晴らしたら、あなた自身にも代償を支払ってもらう。人を呪わば穴二つ。契約を交わしたら、あなたの魂も地獄に堕ちる」 真山「私も、地獄に……?」 あい「死んだ後の話だけど。極楽浄土へは行けず、あなたの魂は痛みと苦しみを味わいながら、永遠に彷徨うことになるわ。──あとは、あなたが決めることよ」 真山は夜の公園に、湯川を呼び出す。 湯川「そうだよ。クラスを煽ったのは、私だよ」 真山「どうして……?」 湯川「あんたが、ウザかったから」 過去の回想。 湯川がスマホを操作しながら、廊下を行く。 スマホに気をとられ、真山にぶつかり、真山のスマホが床に転がる。 真山「あ……」 湯川「……」 真山「す、すみません」 湯川「ムカついた。ぶつかったのは、こっちなのに。落ちたスマホだって、私のじゃないのに。しかも同級生に向かって…… だから」 イヴ「そういえばさ」 イヴ「真山静香ってウザくね?」 イヴ「同級生にすみませんとか言う?」 「あー言う言う」 「すぐ謝る」 「大したことなくても謝る」 「ごめんじゃなくてすみませんて言う」 「むかつく」 「ウザ」 イヴ「あいつの新しい呼び名」 イヴ「真山静香=ガス丸」 「ガス丸? なんで?」 「ガス溜まってるから」 「だから体が丸い」 「ガス丸だ」 「ガス丸ウザい」 「ガス丸クサい」 「イモ食ってプーするから」 湯川「でも、こんなことになるなんて思わなかった…… すぐ終わると思ってた。だから、悪かったと思って、それで、真山用にグループ作ったんだよ」 真山「悪かった……? よく言うね。別のところにアップして、私のこと笑ってたくせに」 湯川「あれは違う! 私じゃないよ」 真山「じゃあ、誰がやったの? 横田さん?」 湯川「そういうことに、なるかな……」 真山「私、会ったよ。横田さん」 湯川「──?」 真山「それでわかった。イヴもナイトも、あなたが1人でやってたのね」 湯川「はぁ!? 何それ?」 真山「嘘つき……! 信じてたのにぃぃ!!」 真山が藁人形を湯川に突きつけ、赤い糸を解く。 輪入道「怨み、聞き届けたり──」 湯川が気づくと、どこかの空間で、自分の顔がスマホと化している。 真山「な、何これ!?」 呼び出し音が鳴り、スマホとなった湯川の顔を、輪入道が耳に当てる。 湯川「え~っ!?」 輪入道「もしもし? もしもーし?」 湯川「やめてぇぇ!!」 輪入道「スマホはベッタリくっつくから、汗が噴き出して暑苦しいなぁ」 湯川「苦しぃぃ!!」 骨女がパソコンに向かい、一目連と山童が画面を覗きこむ。 骨女「このスマホ、なんか重くなったから、データを整理しとこうかねぇ」 画面の「麻子の臓器」のフォルダを開くと、中には様々な内蔵のアイコンがある。 山童「胃袋は壊れてるから、捨てましょう」 胃のアイコンをごみ箱に入れると、湯川の腹に激痛が走る。 湯川「うぅぅっ~っ!」 骨女「重たいから、肝臓も腎臓もいらないか」 山童「腸もデータが重すぎますね」 湯川「や、やめてぇぇ!!」 骨女「じゃ、最後に心臓を」 湯川「うぅぅっ~っ!」 あい「闇に惑いし哀れな影よ。人を傷つけ貶めて、罪に溺れし業の魂── イッペン、死ンデミル?」 身に纏った着物の蝶の模様が、無数の蝶と化し、湯川の視界を埋め尽くす── 三途の川。 あいの漕ぐ木舟の上で、湯川が泣き崩れる。 湯川「お願い、帰してぇ……」 ミチル「間違ってるよ」 川岸、賽の河原をミチルが歩いている。 ミチル「間違ってる」 あい「正しいとか間違ってるとか、そういうのは関係ない。これは仕事なの」 ミチルが霧の中へと消える。あいの木舟が、地獄へ通じる大鳥居へと向かってゆく。 あい「この怨み、地獄に流します──」 あくる日の学校。 真山は湯川のように、ヘッドホンで耳を塞ぎ、周囲に目もくれずにスマホを手にしている。 廊下で他の生徒にぶつかるが、スマホを見たまま、一瞥もせずに通り過ぎる。 新しいメッセージが届く。 ナイト「変わったね。何かあったの?」 B組の授業中。 教師「じゃあ、次を── 横田」 女生徒「はぁ~い!」 真山のハンドルネームを笑った女生徒が、元気に手を上げる。 教師「いや、お前じゃない方。おい、横田!」 机の下でスマホを操作していた男生徒が立ち上がる。 「あ…… はい!」 #center(){|BGCOLOR(black):COLOR(red):CENTER:&br()あなたの怨み、晴らします──&br()&br()|}
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こんな時間に大声出して」 真山「……何でもない」 母「『助けて』って、何かあったの?」 真山「何でもないってば! 放っといて!!」 翌日、学校での授業中。 「ガス丸靴下黄色」 「ダサ」 「ダサ」 「プーで色がついた」 「イモ食ってプー」 「プ~」 真山がスマホに気を取られ、消しゴムを落とす。 真山「あ、すみません…… へへ、またやっちゃった」 昨日拾ってくれた隣の生徒は、一瞥もしない。 「また消しゴム落とした」 「ガス丸ウザ」 「ウザ」 「触るとニオイ移る」 「病原菌」 「キモい」 「太ってる」 「イモ」 あいの使い魔、輪入道、一目連、骨女の3人が、その様子を監視している。 骨女「いつ頃からなんだい?」 一目連「1か月くらい前かな」 骨女「文字はキツいよねぇ、何度でも読み返せるから」 輪入道「『ガス丸』ってのは?」 一目連「あの子、小太りだろ? 『風船みたいにガスが溜まってるから、丸いんだろう』って」 骨女「それでガス丸かい? 可哀想に……」 輪入道「で、何をしたんだい?」 一目連「コメントの中に、理由らしいものは見当たらなかったよ」 骨女「きっかけなんて、大抵は些細なことだからねぇ」 「ガス丸んち、喫茶店だって」 「ママだけ」 「パパは?」 「逃げた?」 「マジで?」 「遺伝だからママも臭い」 「店も臭い」 「珈琲も臭い」 真山が我慢しきれず、「みんな死ね!」とスマホに打ち込むが── 教師「こら!」 真山が我に返り、入力を思い留まる。 教師「湯川!」 教師が別の生徒、湯川麻子のもとへ詰め寄る。 湯川は隠すことなくスマホを手にし、堂々とヘッドホンを付けている。 教師「授業中だぞ! 携帯やめろ!」 一目連「危機一髪。もし、あんなコメントしてたら」 輪入道「周りの思うツボだったな」 骨女「あの湯川って子のおかげだね」 昼休み。 生徒たちは教室で、弁当や雑談を楽しむ。 真山は1人、コンビニ袋を手に、無人の屋上の隅に座り込む。 傍らでは相変らず、スマホの画面で、生徒たちの陰口が飛び交っている。 湯川「コンビニなんだ」 隣に湯川が座り、弁当箱のサンドイッチを見せる。 湯川「食べる?」 真山「……」 湯川「私が作ったの」 湯川は弁当箱を、真山のそばに置く。 湯川「ここ、眺めいいじゃん」 真山「……」 湯川「あれ? 子供がいる」 校庭で生徒たちの中、きくりが三輪車を&ruby(やまわろ){山童}に押させている。 きくり「ブルンブル~ン! ちゃんと押せ、わろわろ。遅いぞ!」 山童「ここは駄目ですよ、姫。みんな見てるじゃないですか」 きくり「減るもんじゃなし、見たいんなら見せてやれ~!」 山童「何言ってるんですかぁ!?」 輪入道「こらっ! 入って来るなと言っただろ!」 きくり「あっ、ハゲが来たぁ!」 湯川「プッ! あの用務員さん、ちょっと良くね? あ、いいよ、食べて」 真山「……」 湯川「不味くないと思う」 真山「うちのお母さん、お節介で鬱陶しくて、それでお昼はコンビニにしてるの」 真山がサンドイッチを口にする。 真山「美味しい」 湯川「そっか、良かった」 真山「美味しい……」 真山が涙をこぼす。 湯川が真山のスマホを取り、画面を消す。 湯川「見なきゃいいじゃん。なんで見るの?」 真山「気になるから……」 湯川「関ろうとするから、傷つくんだよ」 湯川がヘッドホンで耳を塞いでみせる。 湯川「こうすれば、誰とも関らなくて済むじゃん」 真山「でも……」 湯川「1人じゃ寂しい?」 真山「……」 湯川「だったら、私が友達やってあげる」 真山「えっ?」 湯川「真山なら、いいよ」 真山「……どうして? 誰とも関りたくないのに。どうして、私に」 湯川「わかんない」 真山「……」 湯川「似てるから、かな」 あいが彼方で、その様子を見つめている。 「地獄少女なんて、いらない」 どこがで少女の声がする。 あいが振り向くが、声の主は見えない。 真山の母が自宅で営む喫茶店。 母「いらっしゃい。──あら」 真山と湯川。 真山「ただいま」 母「お帰り」 真山「友達の、湯川さん」 母「こんにちは」 湯川はわずかに頭を下げただけで、目を合せず、スマホをいじっている。 真山「奥の席、行こう」 湯川は真山と談笑もせず、テーブルの上のパフェにも手を付けず、相変らずスマホを操作している。 真山「ねぇ、それ何やってるの? ゲーム?」 湯川「──ん? 何か言った?」 真山「あ…… うぅん、何でもない」 真山がカウンターの母に。 真山「コーヒー入れて」 母「ちょっと、何なの、あの子? 初めて友達連れて来たと思ったら」 真山「そんな言い方しないで」 真山がテーブルに戻る。 湯川「何だって?」 真山「えっ?」 湯川「気に入らないって? 私のこと」 真山「ち、違うよ。『飲み物はコーヒーでいいか?』って。いいよね、コーヒーで」 湯川「嘘つかなくていいよ。わかるから」 別のテーブルには、客に扮した骨女と一目連がいる。 骨女「微妙だね」 一目連「だな」 翌日の学校。 真山がトイレから出ると── 湯川「ちょっと来て」 湯川は、真山を屋上へ連れてゆく。 真山「グループ?」 湯川「そう、真山用に作ったんだ。[[リンク]]送ったから、見てみ」 真山のスマホに、「関わりたくない系」と題したグループへの案内が届いている。 湯川「気にするなって言っても、どうせ気にするだろうなって思ってさ。言いたいことがあったら、これからはここに吐き出せば? 溜めるから辛くなるんだし」 真山「良かった……」 湯川「ん?」 真山「嫌われたのかと思っちゃった」 湯川「なんで? 友達じゃん」 真山「友達…… そっか」 湯川も自分のスマホを手にして、画面を見る。 湯川「つっかさぁ、ハンドルネーム『ポンタ』って」 真山「あっ、昔飼ってた犬の名前」 湯川「ダッサ!」 真山「フフ…… あ、湯川さんのハンドルネームは──」 画面を確かめると、グループのメンバーは「ポンタ」「イヴ」「ナイト」の3人。 真山「あれ? もう1人いる」 湯川「私は『イヴ』。『ナイト』っていうのは、B組の横田」 真山「横田さん? 知らないけど」 湯川「私と同じ、関りたくない系。真山のことは話してあるから、大丈夫だよ」 真山「湯川さんの友達なんだ。じゃあ、後で挨拶した方がいいね」 湯川「LINEでね。直接は無し」 真山「えっ、でも……」 湯川「だから、関りたくない系」 真山「あ…… そっか、わかった」 イヴ「関わりたくない系のグループ作ったよ。よろしく♪」 ポンタ「ナイトさん。ポンタです。よろしく」 以来、真山は自宅でも登下校中も、「関わりたくない系」への書き込みに夢中になる。 下校時の駅のホーム、真山がスマホを手にしている姿を、あいたち一同は反対のホームから眺めている。 山童「何だか、楽しそうですね」 骨女「何書いてるんだろ?」 一目連「見てこようか?」 輪入道「いや、もういいだろう。潮時だ」 きくり「ちぇ~っ! 今回は空振りかぁ!」 イヴ「緒方は?」 ポンタ「死ねばいい」 イヴ「秋野は?」 ポンタ「死ねばいい」 イヴ「井本は?」 ポンタ「死ねばいい」 ナイト「どんな死に方?」 真山「えっ? そうだなぁ……」 線路に電車が入って来て、あいたちと真山との間を遮る。 電車の窓ガラス越しに、謎の少女・ミチルの姿が見える。 ミチル「閻魔あい── あれでいいの?」 あい「……」 ミチル「あなたなら、知ったことじゃないか」 きくり「誰だ、お前!?」 電車が発車し、ミチルの姿は見えなくなる。 骨女「消えた……?」 きくり「あい、今の誰だ!? 知ってるのか!?」 あいは、無言で歩き出す。 きくり「おい! 待て、こらぁ! どこに行くんだぁ!? 無視すんな、あい~!」 きくりが山童の脚を蹴飛ばす。 山童「痛っ! なんで僕なんですかぁ!?」 真山の自宅の喫茶店でも、カウンターで、スマホに夢中になっている。 母「良かったぁ……」 真山「ん?」 母「いい顔してる」 真山「そう?」 母「お母さん、安心した。ね、それ、相手はこの間の?」 真山「──ん、何か言った?」 母「うぅん、別に。邪魔してごめんね」 ナイト「流石ポンタw」 イヴ「神谷に仕返しするならどんな?」 真山「神谷さんかぁ……」 ナイト「ポンタエグイから」 ナイト「期待」 真山「フフ、期待された。神谷さん、そうだなぁ……」 翌朝、真山が登校する。 教室で、生徒たちが一斉に、白い視線を向ける。 真山の席にはパソコンが置かれ、その画面には── ナイト「秋野は?」 イヴ「いいね!」 ナイト「ポンタよろしくー!」 イヴ「どうします、ポンタさん?」 ナイト「そうそう、ポンタ様ぁ~」 ポンタ「ん~…」 イヴ「ゴクリ」 ナイト「ゴクリ、ゴクリ」 ポンタ「死ねばいい」 しかも、ポンタのアイコンには、真山の顔写真が表示されている。 真山「これ……!?」 生徒たちの方を振り向くと、皆の白い視線が突き刺さる。 真山「湯川さんがするはずない…… ナイト? 横田さん!?」 真山は横田がいるという、B組の教室へと駆け込む。 真山「あの、横田さんって、どの人?」 男生徒「えっ? あぁ。横田ぁ、お客さん」 談笑している女生徒の1人が振り返る。 女生徒「あぁ? 誰?」 真山「あ、あの…… 私、ポンタだけど!」 女生徒「はぁ? プッ! アハハハハ! ポンタぁ!? アハハハハ!」 女生徒たちが談笑相手と共に、涙が出るほど笑い転げる。 LINEでは、真山への陰口が加速している。 「ガス丸サイアク」 「許せねー」 「もう教室入れるな」 「退学させよう」 「でも何されるかわかんない」 「殺されるかも」 「こわい」 「こわい」 真山がとっさに、画面をスクロールし、生徒たちの陰口を過去へとさかのぼる。 イヴ「真山静香ってウザくね?」 真山「最初に書いたのは、イヴ!?」 教室に戻るが、湯川はいない。 誰かの投げた黒板消しが、真山の頭に命中する。 真山「誰!?」 「ほら! こわ!」 「こわい」 「こわい」 「こわい」 真山「誰よぉ!?」 「こっち見るな」 「見るな」 「見るな」 湯川が現れる。何があったのかわからないような表情。 「消えろ」 「消えろ」 「消えろ」 真山が湯川を突き飛ばし、走り去る。 その夜。 真山は地獄通信にアクセスし、湯川の名前を入力する。 あいたちが現れる。 あい「呼んだ?」 真山「今度は、ちゃんと1人だけ。騙されてた…… 許せない」 あい「輪入道」 輪入道「あいよ、お嬢」 輪入道が、藁人形に姿を変える あい「受け取りなさい。あなたが本当に怨みを晴らしたいと思うなら、その赤い糸を解けばいい。糸を解けば、私と正式に契約を交わしたことになる。怨みの相手は、速やかに地獄へ流されるわ」 真山「地獄……」 あい「ただし、怨みを晴らしたら、あなた自身にも代償を支払ってもらう。人を呪わば穴二つ。契約を交わしたら、あなたの魂も地獄に堕ちる」 真山「私も、地獄に……?」 あい「死んだ後の話だけど。極楽浄土へは行けず、あなたの魂は痛みと苦しみを味わいながら、永遠に彷徨うことになるわ。──あとは、あなたが決めることよ」 真山は夜の公園に、湯川を呼び出す。 湯川「そうだよ。クラスを煽ったのは、私だよ」 真山「どうして……?」 湯川「あんたが、ウザかったから」 過去の回想。 湯川がスマホを操作しながら、廊下を行く。 スマホに気をとられ、真山にぶつかり、真山のスマホが床に転がる。 真山「あ……」 湯川「……」 真山「す、すみません」 湯川「ムカついた。ぶつかったのは、こっちなのに。落ちたスマホだって、私のじゃないのに。しかも同級生に向かって…… だから」 イヴ「そういえばさ」 イヴ「真山静香ってウザくね?」 イヴ「同級生にすみませんとか言う?」 「あー言う言う」 「すぐ謝る」 「大したことなくても謝る」 「ごめんじゃなくてすみませんて言う」 「むかつく」 「ウザ」 イヴ「あいつの新しい呼び名」 イヴ「真山静香=ガス丸」 「ガス丸? なんで?」 「ガス溜まってるから」 「だから体が丸い」 「ガス丸だ」 「ガス丸ウザい」 「ガス丸クサい」 「イモ食ってプーするから」 湯川「でも、こんなことになるなんて思わなかった…… すぐ終わると思ってた。だから、悪かったと思って、それで、真山用にグループ作ったんだよ」 真山「悪かった……? よく言うね。別のところにアップして、私のこと笑ってたくせに」 湯川「あれは違う! 私じゃないよ」 真山「じゃあ、誰がやったの? 横田さん?」 湯川「そういうことに、なるかな……」 真山「私、会ったよ。横田さん」 湯川「──?」 真山「それでわかった。イヴもナイトも、あなたが1人でやってたのね」 湯川「はぁ!? 何それ?」 真山「嘘つき……! 信じてたのにぃぃ!!」 真山が藁人形を湯川に突きつけ、赤い糸を解く。 輪入道「怨み、聞き届けたり──」 湯川が気づくと、どこかの空間で、自分の顔がスマホと化している。 真山「な、何これ!?」 呼び出し音が鳴り、スマホとなった湯川の顔を、輪入道が耳に当てる。 湯川「え~っ!?」 輪入道「もしもし? もしもーし?」 湯川「やめてぇぇ!!」 輪入道「スマホはベッタリくっつくから、汗が噴き出して暑苦しいなぁ」 湯川「苦しぃぃ!!」 骨女がパソコンに向かい、一目連と山童が画面を覗きこむ。 骨女「このスマホ、なんか重くなったから、データを整理しとこうかねぇ」 画面の「麻子の臓器」のフォルダを開くと、中には様々な内蔵のアイコンがある。 山童「胃袋は壊れてるから、捨てましょう」 胃のアイコンをごみ箱に入れると、湯川の腹に激痛が走る。 湯川「うぅぅっ~っ!」 骨女「重たいから、肝臓も腎臓もいらないか」 山童「腸もデータが重すぎますね」 湯川「や、やめてぇぇ!!」 骨女「じゃ、最後に心臓を」 湯川「うぅぅっ~っ!」 あい「闇に惑いし哀れな影よ。人を傷つけ貶めて、罪に溺れし業の魂── イッペン、死ンデミル?」 身に纏った着物の蝶の模様が、無数の蝶と化し、湯川の視界を埋め尽くす── 三途の川。 あいの漕ぐ木舟の上で、湯川が泣き崩れる。 湯川「お願い、帰してぇ……」 ミチル「間違ってるよ」 川岸、賽の河原をミチルが歩いている。 ミチル「間違ってる」 あい「正しいとか間違ってるとか、そういうのは関係ない。これは仕事なの」 ミチルが霧の中へと消える。あいの木舟が、地獄へ通じる大鳥居へと向かってゆく。 あい「この怨み、地獄に流します──」 あくる日の学校。 真山は湯川のように、ヘッドホンで耳を塞ぎ、周囲に目もくれずにスマホを手にしている。 廊下で他の生徒にぶつかるが、スマホを見たまま、一瞥もせずに通り過ぎる。 新しいメッセージが届く。 ナイト「変わったね。何かあったの?」 B組の授業中。 教師「じゃあ、次を── 横田」 女生徒「はぁ~い!」 真山のハンドルネームを笑った女生徒が、元気に手を上げる。 教師「いや、お前じゃない方。おい、横田!」 机の下でスマホを操作していた男生徒が立ち上がる。 「あ…… はい!」 #center(){|BGCOLOR(black):COLOR(red):CENTER:&br()あなたの怨み、晴らします──&br()&br()|}

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