仮面ライダーウィザードの第1話


かつて魔法は科学と並ぶ学問であった。
しかし文明の進歩とともに、
魔法はいつしか忘れ去られた。
時は流れ、現代。
科学では解明できない恐怖を魔法で振り払う
1人の男がいた。
人は彼を魔法使い、ウィザードと呼ぶ──!



主人公・操真(そうま)晴人(はると)。なぜか都会の車道に高くそびえる街灯の上に座り、ドーナツを頬張っている。

晴人「美味っ……」

そこへ、彼の使い魔の一つ・レッドガルーダが飛来し、鳴き声を上げる。

晴人「見つけたのか? ガルーダ。しょうがない。これは、おあずけだな」

ドーナツの袋をそばに置くと、手にはめた指輪をベルトにかざす。

『コネクト・プリーズ』

ベルトの応答音声とともに、空中に魔法陣が浮かび上がり、その中から彼のバイク、マシンウィンガーが出現する。

晴人「案内よろしく!」


街はずれの倉庫を、警官隊が包囲している。警視庁の網野刑事、大門凛子刑事も駆けつける。

網野「状況は?」
警官「まだ作業員が何人か、取り残されてるようです」
網野「行けるか、大門?」
凜子「大丈夫です。人を守るのが私たち警察の仕事ですから」
網野「よし、突入だ!」

凜子や警官隊が突入。倉庫の中では、異形の怪物・グールたちが、作業員たちを蹂躙している。

作業員「うわあぁっ!」「わあっ!」
凜子「何!? こいつら……」

凜子や警官たちが発砲するが、グールにはまったく堪えない。

凜子「……そんな!?」

グールが警官たちも襲い始める。さらに2本の角を持つ怪人、ミノタウロスも現れる。
網野はいつの間にか消えている。凜子がミノタウロス目がけて発砲するものの、まったく通用しない。

ミノタウロス「何をしてもムダだ」

ミノタウロスが凛子の首を締め上げ、絶体絶命。
その時、倉庫の壁をぶち破り、晴人のマシンウィンガーが突入して来る。

『コネクト・プリーズ』

宙に浮かび上がった魔法陣から専用銃ウィザーソードガンを取り出すと、グールたち目がけて銃撃。
凛子を掠めた銃弾が、ミノタウロスの角を砕く。

ミノタウロス「銀の銃弾! 貴様、『魔法使い』!?」
凜子「魔法使い……?」
ミノタウロス「おのれぇ!」

ミノタウロスが火炎弾を投げつけ、晴人が爆炎に包まれる。
燃え上がる炎の中から現れる、宝石のような仮面と魔法衣を纏った魔法戦士、ウィザード──!

ミノタウロス「ウィザードか!?」
ウィザード「さぁ、ショータイムだ!」
ミノタウロス「いけっ!」

ミノタウロスの指示で、グールたちがウィザードに襲いかかる。
ウィザードはグールを次々に撃ち抜き、さらにソードガンを剣に変形させ、斬り払ってゆく。
戦いは倉庫の外へ移る。ウィザードはミノタウロスを追うものの、グールたちがそれを阻む。

ウィザード「邪魔すんなっての。ハッ!」

『♪カモナ・シューティング・シェイクハンズ!』『シューティングストライク・ヒーヒーヒ──!』

ソードガンから放たれた強烈な炎の銃撃で、グールたちは一掃される。


第1話 指輪の魔法使い


凛子が倉庫の外に出ると、ウィザードは携帯電話を手にしている。

ウィザード「あぁ、コヨミか? グールは片づけたんだが、ファントムに逃げられた。どこへ行ったかわかるか?」

アンティークショップ・面影堂。看板娘のコヨミが電話を受け、店の奥では店長の和島が作業をしている。

コヨミ「ガルちゃんだけじゃムリよ、晴人。もっと使い魔を出してくれなきゃ」
ウィザード「あのねぇ、魔法使うのも、結構疲れるんだから」
コヨミ「わかってるわよ。でも仕方ないじゃない」
ウィザード「まったく…… コヨミの奴、簡単に言ってくれちゃって」

『♪ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー!』『ユニコーン・プリーズ』『クラーケン・プリーズ』

ガルーダ同様の使い魔、ブルーユニコーンとイエロークラーケンが出現。

ウィザード「近くにいるはずだ。よろしく!」

使い魔たちが偵察に向かう。ウィザードが変身を解除し、晴人の姿に戻る。

凛子「あなた、本当に魔法使いなの?」
晴人「まぁね」
凛子「私は、警視庁鳥井坂(とりいざか)署の大門凛子です。あなた、さっきの化け物のこと、知ってるみたいだけど?」
晴人「『ファントム』のこと?」
凛子「ファントム?」
晴人「世の中には魔力の高い人間、『ゲート』って呼ばれる人間がいる。そのゲートの命を奪って生まれる魔力の塊、それが奴らファントムさ」


ミノタウロスは、どこかの廃屋に退散している。
階段の手すりにもたれかけている幹部級のファントム、フェニックスにミノタウロスが恭しく頭を下げる。

ミノタウロス「フェニックス様」
フェニックス「フン……」

フェニックス、ミノタウロスの前に飛び降りてくる。

フェニックス「派手にグールまで出しといて、失敗するとはどういうことだ? ええ?」

フェニックスが人間態・ユウゴの姿となる。

ミノタウロス「魔法使いが現れ、私の邪魔を……」

別の幹部級のファントム、メデューサも現れる。

メデューサ「ウィザード……か?」
ミノタウロス「メデューサ様!」
メデューサ「我々ファントムのなすべきことは、ゲートを絶望の淵に追い込み、新たなファントムを生み出すこと」

メデューサも人間態、ミサの姿となる。

ミサ「ワイズマンが再び、サバトを開くためにね」
ミノタウロス「わかっております」
ユウゴ「なら、魔法使いなんざ放っといて、とっととゲートを追い込んでこい!」


凛子「じゃあ、ファントムがゲートを襲うってことは、さっきの作業員の中にゲートがいた……?」
晴人「だろうな」
凛子「ちょっと待って! それよりあなた、なんで魔法が使えるんだっけ?」
晴人「俺も体の中にファントムを1匹飼ってるから」

立ち去ろうとする春人に、凛子は無言で手錠をかける。

晴人「なんで!?」


面影堂。

コヨミ「はぁ……」
輪島「なんだ、どうしたんだ? コヨミ」
コヨミ「晴人が警察に捕まった」

輪島、驚いて口から飲んでいたお茶を吹き出す。

輪島「何!? け……」


凛子により、晴人は留置所に入れられてしまった。

晴人「ねぇ、凛子ちゃん。いきなり留置場はないんじゃない?」
凛子「あなたからは危険な匂いがプンプンするのよ」
晴人「えっ、そう? そう言われると、男として悪い気はしないなぁ」

呆れ顔の凛子。

凛子「では、操真晴人さん。改めて、ファントムのことを伺います」
晴人「ねぇ、凛子ちゃ~ん」
凛子「慣れ慣れしく呼ばない!」
晴人「やっぱりファントムと関わるつもり?」
凛子「当たり前でしょ? 人々を守るのが、警察の務めよ」
晴人「奴らと戦えるのは魔法使いだけだよ」
凛子「だからって、諦めろって言うの!? 警察なのに、人々を脅かす脅威に何もしないで、絶望してろって言うの!? ……そりゃ、魔法使いはいいわよね。魔法で何でもできるから。絶望することもないんでしょ?」

晴人の表情が変わる。


回想。日食の下の海岸で行なわれた謎の儀式。大勢の人々が砕けてゆく。
苦痛に顔をゆがめる晴人。体がひび割れ、龍の翼がその背から広がる。

(晴人『俺は…… 俺は──!!』)

晴人が太陽に手を伸ばす──


留置場。

晴人「……魔法があるから絶望しないんじゃない」
凛子「えっ?」
晴人「絶望しなかったから、魔法を手に入れることができたんだ」
凛子「……何よ、またわけのわかんないこと言って。まぁ、いいわ。魔法なんかなくても、私はこの事件を解決してみせる」
晴人「ふ~ん……」
凛子「そんな簡単に絶望してたまるもんですか!」
晴人「まぁ、いいけど。でも、本当に絶望しちまうことがあったら…… 俺があんたの希望になってやるよ」
凛子「えっ? な、何よ、それ!」

頭に包帯を巻いた網野が顔を出す。

網野「大門。ちょっと」
凛子「変なことばっかり言ってないで、おとなしくしてるのよ!」

網野に連れられて立ち去る凛子。

晴人「さて…… どうするかな」


網野とともに、凛子は署長室に呼ばれる。

凛子「捜査を諦める? 事件をなかったことにするんですか!?」
署長「そうだ。この事件は警察では手に負えん」
凛子「確かに、相手は想像を絶する化け物です。けれど……!」
署長「とにかく、もうこの件には関わるな」
凛子「どうしてです!? あんな奴らを野放しにしていいんですか!? 人を守るのが、警察の仕事じゃないんですか!?」
署長「これは、上からの絶対命令だ!」
凛子「えっ!?」


晴人を追って警察へやって来たコヨミ。玄関から凛子が憤然として出て来る。

コヨミ「あれは、晴人を捕まえた……?」
網野「待て! 大門」

網野が凛子を追い、コヨミの前を通りすぎる。
コヨミが何かに気づく。


留置場。
晴人の腹が鳴る。

晴人「あ…… そういや、メシの途中だった」

『コネクト・プリーズ』

空間を超えて、冒頭の街灯の上に置き去りにしていたドーナツを取り寄せ、食べようとする。
床を掘り、ユニコーンが現れる。

晴人「あっ、ユニコーン! いいところに。お前も食べる?」


公園の網野と凛子。

網野「気持ちはわかる。だが…… あの化け物どもが俺たちの手に負えないことも、わかるだろう? 諦めろ」
凛子「どうして先輩まで…… 私は、人を守りたくて警察に入ったんです。その仕事を全うしないで、何が警察なんですか!?」
網野「なんで、そこまで刑事としての自分にこだわる?」
凛子「……私が刑事になったのは、父の影響なんです」

凛子のペンダントの中に、父の写真。

凛子「父は、田舎の駐在だったんです。町を一生懸命守る父は、みんなに慕われていました」

回想。田舎の駐在所にいる父のもとに、幼い凛子が駆けて来る。

(凛子『お父さん!』)
(父『おぅ、凛子!』)

凛子「私も父みたいに、人々を守りたい。そう思って、刑事になったのに……」
網野「なるほど。それがお前の心の支えか」

網野がペンダントをちぎり取る。

凛子「うっ! 何するんですか!?」

網野、ペンダントを取り返そうとする凛子を裏拳で張り倒す。
転がる凛子。

凛子「ハッ……!」

ほくそ笑む網野の顔に、ミノタウロスの顔が重なる。


春人のもとに現れたユニコーンは、コヨミの手紙を咥えていた。「頭にケガをした刑事 ファントム」。
ウィザードはミノタウロスの角を砕いた。そして網野は頭に包帯を巻いていた。

晴人「ってことは…… 凛子ちゃんがゲートだったのか! またおあずけだ……!」

『スモール・プリーズ』

晴人は魔法で手のひらほどの小ささとなり、ユニコーンに乗って、牢の隙間から脱出する。


凛子の目の前で、網野はミノタウロスへと姿を変える。

凛子「網野先輩が…… ファントム!? どうして……!?」
ミノタウロス「網野は絶望して死んだ。俺というファントムを生み出してな」

晴人が回想していた謎の儀式の中に網野もおり、網野の体を突き破って、ミノタウロスも出現していた。

凛子「そんな……」
ミノタウロス「俺たちファントムの前では、お前は無力だ」

ミノタウロスが無残にペンダントを踏み砕く。
凛子の心の中で、駐在所の父の光景に、次第に亀裂が走る。

凛子「あ!? あ…… あ…… あ……!?」
ミノタウロス「お前も絶望して、新たなファントムを生み出せ!」

銃撃が炸裂。晴人とコヨミが現れる。

ミノタウロス「指輪の魔法使い!?」
晴人「狙いは凛子ちゃんだったとはな。彼女を頼む」

コヨミは凛子のもとへ。

ミノタウロス「お前に関わってるヒマはない」
晴人「俺も同じさ」

『ドライバーオン・プリーズ』

晴人「だからとっとと、片づける」

『♪シャバドゥビタッチ・ヘンシ~ン』

晴人「変身!」

『フレイム・プリーズ』『ヒー・ヒー・ヒーヒーヒー!』

魔法陣に包まれ、晴人はウィザードに変身。

ウィザード「さぁ、ショータイムだ!」

『コネクト・プリーズ』

戦いが始まる。ウィザードはミノタウロスの振り回す戦斧を足技でいなし、ウィザーソードガンの銃撃と剣撃で戦う。
武器を砕かれたミノタウロス、猛牛のような突進攻撃で反撃。

ウィザード「おいおい! まったく、困った暴れん坊ちゃんだ」

『ランド・プリーズ』『ドッ・ド・ド・ドドドン! ドン・ド・ド・ドン!』

ウィザードは、炎の属性を持つフレイムスタイルから、大地の属性を持つランドスタイルに変身する。

ミノタウロス「きさま、属性(エレメント)変化できるのか!?」
ウィザード「まぁね」

『ディフェンド・プリーズ』

魔法の力で地面から壁が出現。突進したミノタウロスが壁に突き刺さり、動けなくなる。
さらにウィザードのキックで壁が砕け、ミノタウロスが大きく宙に舞う。

ウィザード「こんなのもあるぜ?」

『♪シャバドゥビタッチ・ヘンシ~ン』『ハリケーン・プリーズ』『フー・フー! フーフー・フーフー!』

風の属性を持つハリケーンスタイルとなり、風に乗って宙を舞い、空中のミノタウロスを何度も切りつける。

ウィザード「ハッ! ハッ ハッ!」

『フレイム・プリーズ』『ヒー・ヒー・ヒーヒーヒー!』

フレイムスタイルに戻るウィザード。

ウィザード「フィナーレだ」

『♪ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー!』『チョーイイネ!』『キックストライク・サイコー!』

ウィザード「ハァァ──ッ……! ハァッ! ダアァァ──ッ!!」

魔力の炎を自ら身にまとい、火の玉と化したウィザードのキックが炸裂──!!
ミノタウロスが大爆発し、最期を遂げる。


しかし凛子の体には、全身に次々に亀裂が走っている。

コヨミ「晴人! このままだとファントムが生まれちゃうわ!」
ウィザード「俺の目の前で、二度とそんなことはさせない! ……凛子ちゃん」
凛子「魔法……使い……? もう…… ダメみたい……」
ウィザード「絶望なんてするな。俺に任せろ」

(晴人『俺があんたの希望になってやるよ』)

凛子「変な…… 魔法使いね……」
ウィザード「約束する。俺が最後の希望だ」

ウィザードが凛子に指輪をはめる。

『エンゲージ・プリーズ』

魔法陣が浮かび上がり、ウィザードは凛子の体の中へと飛び込む。


魔法陣と指輪を通じ、ウィザードは凛子の精神の中へと降り立つ。
そこは凛子の思い描いていた、かつての田舎の駐在所の風景。

ウィザード「ここが彼女の精神世界、『アンダーワールド』か」

駐在所の父に駆け寄る幼い凛子。その景色がひび割れ、砕け、巨大ファントム・ジャバウォックが飛び出す。

ウィザード「うわっ! とんでもない魔力の塊だな」


ジャバウォックが飛びまわり、周囲の光景が次々に破壊されてゆく。
それに応じ、凛子の体も急速に亀裂が広がってゆく。

コヨミ「晴人……」


ウィザード「約束したからな。やるしかない」

『♪ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー!』『ドラゴライズ・プリーズ』

魔法陣から晴人自身のファントム、巨大なドラゴン型のウィザードラゴンが出現する。
ウィザードラゴンが周囲を飛び回り、ウィザードを突き飛ばし、さらにアンダーワールドを破壊し始める。

ウィザード「うわっ! ドラゴン、俺に従え!」

『コネクト・プリーズ』

ウィザードがマシンウィンガーで疾走。さらにドラゴンに合体、ウィンガーウィザードラゴンとなる。
マシンウィンガーを通じてウィザードがドラゴンを操り、宙を舞い、ジャバウォックと空中戦を繰り広げる。

『♪カモナ・スラッシュ・シェイクハンズ!』『フレイム』『スラッシュストライク・ヒーヒーヒ──!』

突進するドラゴンの上で、ウィザードがソードガンを構える。
ジャバウォックとすれ違いざまに、ウィザードの剣撃が炸裂──!!

両断されたジャバウォックが大爆発し、最期を遂げる。


凛子のリングから飛び出したウィザードが、変身を解く。凛子の体は亀裂が消え、もう元に戻っている。

コヨミ「終わったの?」
晴人「あぁ。これで彼女はゲートじゃなくなった。もう襲われる心配はない」


凛子が気づくと、そこは公園のベンチ。自分の指には「エンゲージ」の指輪がはめられている。

凜子「希望…… か」


勝利をおさめた晴人が、マシンウィンガーの後ろにコヨミを乗せ、帰途を走り去ってゆく。


(続く)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2019年01月22日 21:57