『おおくにびきのたまてぢからだすみのかみ』
むかしむかし、はるか神代、
この国はとてもとても小さな島でした。
島の中心には一本だけ、天を衝かんばかりのそれはそれは
大きな美しい桜がそびえ立っていました。
晴れていて気持ちの良いある日、海の彼方からとても巨大で見るからに力持ちな神様がのっそりのっそりとやってきました。
神様は小さな島を見つけると『なんと狭くて小さな島だ。だが咲き誇る桜のなんと素晴らしく美しきかな』と呟いて、美しい桜のもとにゆっくりと腰をかけた。
そうしてしばらく休んでいると、後ろから『もし、あなた様は旅の方でしょうか』と声がかかる。
びっくりしながら振り向くと、そこには大層に美しい姫がいました。
姫は『わたくしは、この桜の化身。実桜姫神(みざくらひめのかみ)と申します。あなた様にお願いがあるのです』と頭を下げました。
神様はこの美しい姫に目を惹かれつつも事情を聞く。
すると姫はこの島はあまりにも狭く、自分しかいないのでとても寂しい思いをしてるのだという。
姫の悲しげな表情を見た神様は『ならばここを萬の桜が咲き誇る島にしてみせよう』と答え、海の彼方をじっと見つめました。
すると、西のほうにちょうど良い土地があるではありませんか。
神様はその土地を引き寄せることにしたのです。
国断剣(くにだちのつるぎ)を一振りして見せるとたちまち土地は切り離され、剣を突き立てて国引綱(くにびきのつな)をかけると、神様は『おーう、おーう』と掛け声をしながら引き寄せた。
そして引き寄せた土地が未来永劫桜のもとに留まり、この美しい桜を眺め続けられるようにと山とみまごうほどの大きな岩を置いて国引綱をくくりつけました。
この岩が後の
櫻観山になったと言われています。
こうして、
神様は実桜姫神のためにこの島をとても広い国にされたのです。
島にはやがて散ることのない万年桜が数え切れないほど咲き誇るようになり、やがて『万桜咲き乱れる丈夫の国』と呼ばれるようになりましたとさ。
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最終更新:2022年06月11日 02:54