フォールドの旅行記(ヴィラ王国)

 夜明けを迎えた。朝だ。
 昨日は夕陽が沈む前に山越えを終わらせた。結果として、これを実行したのはとても良かった。
 この調子なら今日中にはヴィラの王都へとたどり着くだろう。着いたらまずは酒場で空腹を満たしたい。
 安宿探しはその後だ。


 王都にあった『ヨナザ』という酒場で久しく料理らしい料理を口にした…が――なんというか、ギルギルは微妙だ。
 煮込み時間が足りてないのか、獣臭さが完全には抜けていない。
 食べれないわけではないが、…手が止まる。
 しかし、ブリガニー王国の料理と比較したらマシなはずだ。もう少し煮込むように伝えてみよう。

 酒場の店主や冒険者らと雑談を交わし、この国や隣接する地域について聞くことができた。
 興味深い話として、お祭り騒ぎに勤しむ隣国では、時たまに海洋民族が上陸するらしい。
 アヴァリス海の海流に委ねる海の民たち…。また会いたいものだ。


 ヴィラ王国に滞在して十五日目。
数多くの人々と交流したが、未だにこの国の特徴を深く知り得たとは言いがたい。
 私自身、適切な距離感と信頼関係を考えて過ごしているつもりだ。これが大事だと知っているからこそ、気が滅入るほど緻密に書くことができている。
 鍵を握るのはとにかく焦らないことだ。もし見失ったら、私は何のために書いているのか?
 無意味なことをするために旅人をしているわけではない。


 ヴィラ王国に滞在して十八日目。
 今朝、私の元をある農家が訪ねてきた。二日前に農作業の手伝いをしたお礼として、砕いたヴィラナッツとカブトヤシの実を大量に頂いた。
 しばらくはフライドドライフルーツか…。


 明日、ヴィラ王国を出立する。
 ここでは数多くの人々と交友関係を築くことができた。予想よりも長く滞在してしまったが、詳細な内容を書き記すことができたので良い。

 一時はフライドドライフルーツばかり食していたこともあり、気分が優れない日々が続いたりもした。
 だが、この宿を利用しにやってきた冒険者の中に、メルグ国出身者が居たのは幸運だった。
 もしあの時、持て余していた食材を譲っていなければ…今頃は土の中だろう。
 なお、フライドドライフルーツはおろか、その原材料すら見たくない状態は、今も続いている。

 最後に記すこととして、この国では冒険者を志す者たちがそれなりに存在している。
 恐らくは、勇者の冒険譚とそれに憧れた冒険者に出逢うことで、自然と志すのだろう。

 勇者『アル・ワーコレー』が旅立った場所、スタートゥ王国
 あそこは冒険者にとって輝かしい聖地だと聞いている。

――英雄譚の国は遠い。


:『フォールドの旅行記』より。


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最終更新:2022年09月19日 17:21