フォールドの旅行記(オートデザイス王国)

 他種族を容認しないロゼルスは、人族のエゴが顕在化した印象を強く受けた。アッシュラに比べれば大層マシではあるが、尊厳性の観点で見ると殆ど変わらないのではなかろうか。
 同じく人族の多い国として名が上がるグリル帝国に降り立った際には、ロゼルスとの比較を重点的にするとしよう。

 港からオートデザイス行きの船が出ていると聞き、船主と交渉して乗船させてもらえる運びとなった。
 ペタツール双璧を徒歩で越えるには無理がある為、どこかで迂回しなければならないからだ。
 オートデザイスを経由してボゴディ・サンの港へと向かい、コレッカン族との交流を念頭に、明日この国を出港する。



 オートデザイスの港へと着いた。入国審査後は通例的に酒場での聞き込みをしておこう。安宿探しは後である。

 寒冷な上、島国特有の独自文化と外海に近い場所という地理的事情から、ここの様子を詳しく記すには長く滞在しなければ難しいと痛感した。通常とは違ったアプローチをしてみるとする。
 酒場あるいはギルドで、この地に精通した腕っぷしの冒険者を雇う事も検討すべきだろう。



 豪雪地帯。それはどこにでも在る訳ではなく、かといって物珍しい程でもない。
しかし一度吹雪いてしまうと視界は瞬く間に悪化し、出歩く事はもはや自殺行為である。
 もし凍てつく白い景色に紛れたら、捜索者には棺を担いで来てもらわねばならないだろう。
 隨分と前であるが、とある雪山の麓近くで骨となった先人を見た事がある。ああはなりたくないものだ。

 さて。風雪の絶えない山岳地域においては、伐採や雪崩れがない限り、とりわけ頑丈かつ長寿な植物が生育する。
 それらは氷樹という名前で呼ばれており、結晶が重なりあったと表現すべき葉が生い茂っている。
 その樹皮は薪となったものを見るに、ぶ厚く硬い上にザラザラとした触り心地。ずっしりとした重さから身の詰まった木材として良質な家具などが作れるだろう。
 私としては、一般的な木々とあまり変わらない印象だが、樹液は甘いのか気になるところだ。

 またこの地域は『ハバリルパンサー』と呼ばれる猛獣が居る事で有名な場所であり、先の氷樹はこの地域にしか自生していないと聞いた。
 ここでは、寒空の下でたくましく生きるエルフ達が暮らしている。しばらくは彼らから情報を得る事にしようと思う。
 次の題材はここ『ハバリル地方』での暮らし方について、深堀りしていく予定だ。記す事は可能な限り記したいが、紙は有限な為、ここで一旦切り上げるとする。


:『フォールドの旅行記』より。


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最終更新:2023年12月31日 00:06