城を抜け出しては友人達と冒険者の真似事として奔放していた若き日のニング・オープ王子。
とある日、親しくなった宿屋の看板娘が人攫い集団に誘拐され、追跡劇の末に郊外に建つ廃教会に辿り着いた。
そして廃教会地下の隠し通路を見つけ、進んだ先で巨大な魔法陣が描かれた広大な地下空間を発見する。
描かれた魔法陣の中央には攫われたであろう人々が拘束されており、その傍らに佇み人攫い達を指揮している一人の男を確認して一行は驚愕。
それは宮廷魔導士兵団に属し、近年実力を認められ叙勲まで受けた魔術師 ホプキンスだったのだ。
彼の目的は、錬金魔術における秘術『賢者の石』の錬成。
莫大なエネルギーを秘めた結晶であるそれは、材料として生きた人間を必要とする禁忌の業。
強欲な野心家であるホプキンスはその力を持ってこのスタートゥ王国を乗っ取ろうと企てていたのである。
己の欲望の為に人々を犠牲にしようとする悪の魔導士に怒りを燃やすニング一行。
秘密を知られたからには生かしておかないと襲い掛かるホプキンス達と激しい戦いを繰り広げ、奮闘の末どうにかニング達は勝利を収めたのだった。
だがその瞬間、どこからか放たれた不可視の魔法がニング達を吹き飛ばす。
何が起こったか分からず地面に転がるニング達の前に、暗がりの奥から湧き出るかの如く漆黒のローブを纏う異様な雰囲気の女が現れた。
彼女こそホプキンスに賢者の石の錬成術式を教え、一連の事件を裏から操っていた本当の黒幕“魔女アゾート”であったのだ。
動けないニング達を冷たく見下ろしながら、勝利を確信したアゾートは自らの計画を悠々と語り始めた。
誘拐して集めた人間達を材料とし、賢者の石を錬成する。
しかしそれは前段階でしかなく、本当の計画は更に大規模な錬成儀式。
王都周辺には同様の錬成陣が既に幾つも設置されており、いま自分達の居る地下空間で賢者の石が錬成されると、その賢者の石を触媒にして次の儀式が起動。
そして起動したそれぞれの陣が繋がっていき、王都全体を囲う巨大な『円』を構築。
最終的にその円そのものを錬成陣とし、そこに生きる者全てを材料とした巨大な賢者の石を生成するという計画であったのだ。
そうして『冒険者の聖地』たるスタートゥ王国を破滅させると同時に、賢者の石が持つ絶大な力を取り込む事で新たなる『魔王』へと覚醒する…。
これこそがアゾートが数十年もの歳月を掛けて準備してきた計画であった。
なお、材料とされる人間はホプキンスや人攫い集団達も含まれていた。
はじめから人間の悪党もアゾートの計画の為の道具でしかなかったのだ。
野望がもうすぐ成就する事を恍惚としながら話し終えるアゾートに、そんな事は絶対にさせないと立ち上がろうとするニング達。
しかし、それを一笑に付しながらアゾートの放った魔力波が再び彼らを吹き飛ばし壁に叩きつける。
冒険者ごっこをしていた若者と魔王に成ろうとする高位魔族、力の差はあまりにも圧倒的だった。
だがそれでもニングは諦めず、ボロボロの体を引きずりながらも再度立ち上がる。
自分は本物の冒険者ではなく、勿論 勇者ですらない。
それでも、冒険者の国であるスタートゥの王子として、王国の危機にこのまま倒れる訳にはいかなかった。
何度打ち倒されようとも、ニングの目に諦めの色は現れない。
だが遂に限界を迎えて倒れ伏し、それを嘲笑いながら王都の最期を見届けるが良いとアゾートは儀式を開始する。
……だがその時、強烈な輝きを放ち始めた魔法陣の中で飛び出すように動いた影が一つ。
それは人攫いに誘拐され、魔法陣の中に捕らわれていた者の一人。
ニングが街で親しくなり、この場所へと駆け付ける原因となった 宿屋の少女であった。
冒険者でもなく、戦う力は何も持たない。
それでも王国を、自分達を救う為に立ち向かうニングの姿に、彼女は自分の腕が傷つく事も厭わず強引に拘束から抜け出した。
そして地面に転がっていたホプキンスの杖を拾い上げ、魔法陣を形作っていた装飾の一つに向けて振り下ろす。
本来ならなんの効果も示さないであろう、ただの無力な少女の一撃。
だがその杖には、ホプキンスが攻撃魔法を放つ為の魔力が蓄えられていた。
そして振り下ろしたその場所は、偶然にも術式を発動する為の要となる一点であったのだ。
バキンッという硬い音と共に杖と装飾は砕け散り、陣に流れていた魔力が僅かに乱れる。
大掛かりな儀式になればなる程、絶妙なバランスと精密なコントロールが必須。
都市一つを覆う程の儀式が発動するその間際に発生した僅かな魔力の乱れは、数十年も構築した魔女の術式を崩壊させるには十分だった。
術式に使っていた魔力の均衡が崩れ、反発した膨大な魔力がアゾートに向けて逆流する。
結果アゾートは自らの魔力に全身を焼かれる事となり、地下空洞に凄まじい魔女の絶叫が響き渡った。
全身から煙が立ち上る程のダメージに加え、長年の野望があまりにもあっけなく水泡に帰した事への絶望と憤怒。
怨嗟の声を響かせながら妖艶な美女の姿は不気味に歪み、おぞましい異形の本性を曝け出す。
怒り狂ったアゾートは各地に潜伏させていた自らの手下へ 念話を飛ばす。
儀式の失敗によってもはや破れかぶれとなり、自らが作り出した寄生魔で支配していたレッサードラゴンを一斉に解放。
己の兵力でもって直接王国を攻め滅ぼそうと、そして自らの野望を台無しにしたニングと少女を八つ裂きにしようと襲い掛かったのである。
だが、アゾートは体の内側を魔力の奔流で焼き尽くされた事で大幅に弱体化していた。
魔女を打ち滅ぼす最大のチャンスを逃すまいと、ニング達は最後の力を振り絞り、武器を手に立ち上がる。
互いに満身創痍の戦い。
しかしニングは決して足を止める事なく、仲間達も彼に続く。
王国の未来を担う王子として、そして勇者に憧れるこの国の一人の若者として、ニング渾身の一撃がアゾートの眉間に深々と突き刺さったのはその直後であった。
同時にアゾート配下の軍勢も、 王国軍と各ギルドの冒険者達の奮闘によって撃退。
精霊信仰司祭の結界に足止めされていたレッサードラゴン達も魔女の死によって正気を取り戻し、各々の縄張りへと飛び去って行ったようだ。
こうしてスタートゥ王国滅亡の危機は、冒険者でもない二人の若者の勇気によって阻止されたのである。
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