第三次魔族侵攻時代に
魔族と戦っていた冒険者。
口数少なく物静かな銀髪の若い女だったらしい。
『人外』と称される程に天性の剣術の才を持ち、剣技だけで数多の
魔族と渡り合いその全てを
細身の剣一本で切り伏せたとされる。
彼女こそロクシア史上初の、
魔王と同等以上に戦えるだけの力を持った選ばれた人間たる『
勇者』であった。
しかし、彼女の在り方は凡そ人々が考える様な『勇者像』とはかけ離れたようなものだったと言う。
その精神性は極めて特徴的であり、『必要な事ならやれる』と言う人間であった。
例えるなら、『夕飯』に必要だから『卵を買いに行く』のと『世界の平和』に必要だから『魔族を殺す』のが同じ感覚で行えたらしい。
そこに魔族への憎しみも怒りも無く、人類を救おうと言う愛も誇りも使命感も一切無い。
なんの感情も感じさせずただただ戦い続けるそれは、負の感情が起源とされる魔族には恐怖を覚える程の『異質さ』であったという。
結果、魔族は彼女から逃げた。
戦うどころか関わるのも嫌がったのである。
さらに彼女の在り方は人間からも理解不能の存在として不気味がられ、その為に仲間という者は一人も居なかった。
彼女は一人で世界を巡り、魔族に支配された街を助けにいった。
ところが魔族は彼女が来ると戦わずに逃げる。彼女が去ったら戻ってくる。
魔族はその数を減らす事なく、全てはいたちごっこ。
彼女の戦いは実を結ぶ事なく、人類の領域はジリジリと後退していく。
人類を救えるだけの力を持ちながら、人類に何の救いを与える事もない彼女を『勇者』と認識する者は皆無だった。
そんな中で唯一彼女の強さを認め、魔王に相対するに相応しき勇者と認識していたのは、宿敵である三代目魔王
“不遜の”ジルただ一人であったと言う。
最期はジルの本拠地たる魔王城へ向かう最中に病に倒れ、名もなき村で亡くなったとされる。
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最終更新:2024年06月02日 22:33