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「-CROSS OVER 1-感情の行先-」


作者:本スレ 1-710様

265:-CROSS OVER 1-感情の行先- 投稿日: 2012/02/19(日) 13:08:58

本スレ1-710です。
本スレ1-091様のお子様とうちの子のスピンオフな二次SSの第1話を仕上げましたので、
お知らせします。以下、属性表記です。
 ・本スレ1-091様(本スレ1-866)の設定と、うちの子の設定(設定スレ1-036)を足した
  現代風ファンタジーな世界観での二次SSです
 ・エロなし、グロ、残酷描写少々
 ・ストーリーは長めで、続きあり、今後、多分、かなりのご都合主義的展開を含む
 ・主な登場キャラクターは、繊様、柳様、アル、ウィル、エイシアといったところ
 ・今回は、柳様とアルがメインキャラクターになってます
 ・設定準拠ではない表記を若干含みます
 ・キャラ&設定が1-091様の公式設定から外れている可能性あり
こんな感じですがよろしかったらどうぞ

265:-CROSS OVER 1-感情の行先- 投稿日: 2012/02/19(日) 13:08:58

その部屋は、血の薫りに満ちていた。
予想していた事ではあるが、既に流されている大量の血液にあわせて、この真紅の液体だ
けが持つ、錆びた鉄のような、それでいて、生々しくもある、独特の甘い薫りが辺りに漂
う。

そうして、たった今、この光景を目の当りにした、金髪碧眼の青年は、自らの視線をその
甘い薫りが漂う、部屋の最奥へと、改めて向ける。
彼の瞳には、多くの人々に語り継がれてきた聖人のような姿のまま、最奥の壁際に吊り下
げられている漆黒の髪の美しい青年の姿が映った。

漆黒の髪の青年は、身に纏っているものなど、何一つ無かった。
生来の姿のまま、左右の壁から引き込まれている鎖で両腕を支えられるようにして、牢獄
というには、広く大きな、この部屋の壁際に拘束されていた。
余りにも惨い光景を改めて意識した瞬間、金髪碧眼の青年は、全身の血液が沸騰していく
ように感じる程、激しい怒りを覚えた。

こんな光景には、本来であれば、思わず目を背けたくなる程の残酷さのみしか見出せない。
また、拘束されている漆黒の髪の青年は、痛覚さえも、常人の数倍の感度で持ち合せてい
ると聞いている。
その青年に対して、こんな振舞いを平然と行った、この男を許す事など、出来ない。
それに、何よりも、この場所に辿り着くまでに時間をくっていた自分を許す事も出来ない。

「……どうして、もっと早い時期から行動を起こさなかったんだ……」

心の内側に抱えていた、激しい感情のままに、金髪碧眼の青年は小さな声でそう呟いた。
それから、自らの前に立ちはだかるたった一人の男を、一声も発する事なく、ただ、鋭い
輝きを放つ碧い双眸で睨みつける。

彼の視線の先に立つ、その男は、純白の軍服に身を包み、2本の剣を携え、当人にとって
は、普段と何一つ変わる事のない様子で、この場に立っていた。
その姿を一見した限りでは、これ程までに残忍な行為とは、無縁にも思える程だ。

しかし、短く整えられた、さらりと流れるような黒髪と、流麗かつ整ったその顔立ちに浮
かぶ表情からは、この男がこうした残忍な行為を表情ひとつ変える事無く、行える性質で
あるのだという事が見て取れた。

そうして、その男の方を見据えれば、必然的に、この部屋の奥に位置する壁際で、拘束さ
れたままの青年の姿が目に入る。

拘束されている漆黒の髪の青年の両手の掌には孔が穿たれていた。
彼は、そこに鎖を通されたまま、左右の壁へと繋がれるようにして、吊るされている。
更には、掌に通されている鎖が外れても、彼の身体が床へと崩れ落ちることの無いように、
手首にも枷が嵌められ、そこにも鎖が取り付けられていた。
青年は、合計4本もの鎖によって、その身を支えられ、中空へと吊り下げられていたのだ。

また、両足の甲にも、掌と同じように、孔が穿たれ、鎖を通されていた。
掌と同じように鎖が通されたその足元は、足首に嵌められた足枷によって、ひとつに纏め
られており、その更に先には、重量のある鉛の錘がつり下げられている。
青年は、自身の意思で動く事など、全く出来ないように、幾重もの鎖と枷によって拘束さ
れていた。

掌と足元に穿たれた傷口から流れた血液によって、自らの身体を脚元に至るまで紅い色で
斑に染めていた青年は、所々覗く元来の肌の白さも相まって、彼が人ならざる者であると
いうことをより明らかにしているようにも見えた。

それを更に強く決定付けていたのは、彼の彫像のような均整のとれた身体の腹部に深々と
突き立てられている楔だ。
その腹部に突き刺されていたのは、楔というには、あまりに大きい、鋼鉄の槍といった方
が、相応しい程の物だった。

漆黒の髪の青年は、鋼鉄の槍に身体を深く抉るように腹部から背中側へと突き刺された姿
のまま、腹部から大量の血を流し、自らが流す血に染まった姿を、この光景を目の前にし
ている全ての人々へと晒していた。

そんな風に常人であれば、既に事切れているような状況下にあっても、彼は、まだ、生き
ていた。
それは、彼が、人ならざる者――弥終と呼ばれる世界に住まう魔性の者であるからだ。
しかし、その大きすぎる痛み故に、今、彼は、この場から見る限りにおいては、気を失っ
ているように見えた。

青年が吊るされている壁の前の位置にあたる場所で、唯一人、その整った面ざしに、冷酷
な表情を浮かべつつ、佇むようにして立っていた男は、金髪碧眼の青年からの憤りに満ち
た碧眼から送られていた鋭い視線を一度、受け止めた。
それから、その場から動くこと無く、僅かに微笑むと、目の前の青年に対して、濃い緑色
に縁取られた、深い闇色の色合いが印象的な瞳で、蔑むような一瞥を返した。

相手の一瞥を受けた金髪碧眼の青年は、相対する男の目の前で、驚く程に純粋に、怒りの
感情に身を染めていた。
青年は、この部屋に吊るし上げ、拘束している漆黒の艶めく髪の青年魔族――繊と並ぶ程
に、人目を引く秀麗な容姿をしていた。
その様は、この世の終末に、戦神が遣わすとされている、御使いのようにさえ見えると、
褒めてやりたい程だ。

だが、それは、この白き槍と称される退魔組織の幹部であるこの男――柳にとっては、ど
うでも良い事だった。
今、自分の目の前で相対している、この金髪碧眼の青年と、その後ろに控えている2人の
青年等は、「純粋な人間では無い」と、自らの部下に、あらかじめ聞いていたからだ。

彼らを派遣してきた組織の事を考慮すると、この場で屠殺する事など出来はしないが、ど
うやら、こちら側がそれなりの代償を払うに値する程度には、楽しませてくれそうだ。
柳は、そんなことを考えながら、目の前の金髪碧眼の青年に対して、改めて挑発するよう
な一瞥をくれてから、剣を構えた。

相対する男からのそんな視線を受けた金髪碧眼の青年は、それに応じるように、湧き上が
る激しい感情を抑える事なく、流れるような動作で柳に向かって攻撃を仕掛ける。

彼は、瞬時に自らの身体を淡い光に包み、その姿を大きな体躯を持つ白銀の狼へと変貌さ
せた。
そうして、自らの前に立ちはだかる純白の軍服に身を包んだ流麗かつ整った顔立ちの黒髪
の男に向かって跳びかかっていく。

常人であれば避けることなど、決して出来ないような速度を乗せて、相手の喉元へと自ら
の牙を食い込ませるように狙いを定めたその一撃を彼は相手へと喰らわせる。
直後に、彼の牙と、柳が右手に構えていた美しい刀身を誇る剣がぶつかり合う激しい音が
響き渡った。

自らが放った攻撃とほぼ同時に、相対する男の右手から、繰り出さていた剣による一撃を
彼は自らの牙で受け止めていた。
それと同時に、彼は、柳が振りきった剣の動きにあわせて受身を取ると、僅かに後方へと
身を退く。
柳が左手の方に構える細い針のような刀身の剣から繰り出していた次の攻撃を避け切ると、
彼は白い獣の姿のまま、この部屋の床へと音も無く、着地した。

床へと着地した後で、自分の目の前で先程と同じように、こちら側に避けずむような視線
を送りながら軽く微笑んでいる深い闇色の瞳の男に対して、彼は再び鋭い視線を向けると、
低い唸り声を上げた。

「魔獣ですか……、欧州連合もこうした人ならざる者を本当に私の許に送ってくるとはね。
 もう少し、互いの立場への敬意を払った上での行為を成して欲しいものですね……」

柳は僅かに緑色を帯びた漆黒の瞳の視線の先を、自らの目の前で唸り声を上げて身構える
純白の獣へと再び向けた。
そうして、目の純白の獣に対して、侮蔑と憐憫の表情兼ね備えた一瞥を送りながら、再び、
僅かに微笑んでいた。

「……アル! ……あの馬鹿! 最初から、思いっきり、全力で仕掛けやがった!」

自らがアルと呼んだ金髪碧眼の秀麗な容姿を持つ青年が、こちらが止める間も無い程に、
素早い動作で攻撃に打って出た様を目にした瞬間、その場に居合わせた白銀の髪とアイス
ブルーの瞳の怜悧な顔つきをした青年は、そう声をあげた。

それと同時に、白銀の髪の青年は、この部屋の扉が開かれるまでの間、自分達に付き添っ
て来ていた護衛官二人のうちの一人を、軽い一撃をもって、その場で気絶させる。
また、もう一方の護衛官の方も、同じように、共にこの部屋を訪れていた、墨色の長い髪
とトパーズブルーの瞳を持つ、一際、背の高い、精悍な顔立ちの青年――ウィルが瞬時に
気を失わせていた。

「エイシア、あいつに構っている暇なんてないだろう」
「ちっ、解ってるよ! ウィル、こっちは予定どおりに動く! 行くよ!」

傍にいたウィルから、エイシアという自らの名を呼ばれた白銀の髪の青年は、相手の声に
従うように、気絶させた護衛官が腰の辺りに装備していたダガーナイフを素早い動作で引
き抜いた。
同時に、ウィルは、この部屋の重厚な鋼鉄の扉を開閉させる為の機動部を自らの手元から
生成した力を乗せた、光の粒子を凝縮したような外見を持つブレードの一撃をもって叩き
壊す。

ウィルとエイシアは、既に狼へと姿を変えたアルと、純白の軍服を身に纏い、2本の剣を
両手に携えた柳が、互いに激しく攻撃を交わし組み合う、その横を素早い動作で、すり抜
けていった。
それから、この部屋の更に奥へと向かって駆け抜けていく。
あわせて、ウィルは、この部屋に幾つか設置されていた監視カメラに向けてブレードを放
ち、それを破壊していった。

柳は、一瞬だけ、横を通り過ぎていく二人の方へと、自らの視線を向けたが、彼らの方を
追う事をあえてしなかった。
今は、自分の目の前で、低い唸り声をあげて身構えている、この純白の獣の方を先に始末
すべきだと考えたからだ。
彼らの立ち振舞いから推察したところ、今、目の前で対峙している、この純白の獣こそが、
一番、能力に長けている個体なのだろう。

だからこそ、今、ここで、この純白の獣を仕留めてさえしまえば、その後に、残りの2匹
も、四肢を砕く事無く、原型を留める程度に仕留める事を念頭に入れつつ、ゆっくりと、
血祭りに上げてやれば良いだけの話だ。
それに、残りの2匹は、どうやら、この部屋の最奥に吊るし上げた漆黒の髪の魔人――繊
を救い出す為に、手を尽くすつもりらしい。

その事については、獣と人間の遺伝子を人為的に組み合わせることなどから、生成された
という、この魔獣と称される人工生命体共を、一同に相手にする事無く、ゆっくりと仕留
める機会につなげることが出来るのだから、かえって好都合というものだ。

相対する純白の獣――アルから繰り出される攻撃を交わしつつ、柳は、そんな風に、この
状況を考察していた。
そうして、それらの状況を考慮しながら、鋭い牙をもって、再び目の前に跳びかかって、
きた純白の獣の前足の辺りを狙う。
彼は右手に構えていた美しい波型の刀身を持つフランベルクで、先程よりも更に速度を増
した一撃を放った。

柳が手にしていたフランベルグは、相手を切り刻む際に、一際手酷い傷を負わせることが
出来るようにと、その幾度か波打つ波形の刀身にあわせて、磨き抜かれた刃を備える両刃
の長剣だ。
その剣によって放たれた一撃は、間違い無く、純白の獣の足止めを目途とするものだった。

そして、その一撃は、確実に白い獣の前足を捉える。
振り抜かれた剣の刃を避け切る事が出来なかった、相手の左前足の辺りからは、一気に赤
い鮮血が迸った。

だが、その傷を負ったアルは、声をあげる事など、なかった。
彼は傷を負ったまま、一度、床へと着地した直後に、前足の傷をものともせずに、目の前
の男へと再び襲いかかる。
純白の獣が繰り出した攻撃を、相対する黒髪の男は、右手に構えていた剣で振り払うよう
にして、即座にかわし切る。

声をあげている暇など、無い。
今、自分は、この目の前に立ちはだかる闇色の瞳の男と、対峙し続けながら、時間を稼ぐ
だけだ。ただ、それだけの事に尽きる。
アルは、殺してやりたいとさえ思っていた、目の前の男に対する激しい感情を抑えながら、
再度、牙をむいた。

最初に冷静さを欠いた振舞いをした所為で、能力の制御が出来ていない。
その所為であっという間に手傷を負う結果となった。
今の自分には、能力を制御する為に、左腕に装備している腕輪から常時、補われているべ
き機能が無い。

自分自身が本来持つ能力が、腕輪の機能をあっけなく壊し、力の箍が外れている。
このまま、箍が外れた自分本来の能力を乗せれば、目の前のこの男の命など、瞬時に奪う
事が出来る。
だが、その行為をそのまま成せば、この仕事の制約条件の一つに抵触する事になる。

自分の方へと、緑闇色にも見える瞳で、侮蔑を含んだ視線を向けている、この男に対する
激しい憤りや、嫌悪感は、今も身に有り余る程に感じている。
それでも、能力の加減も出来ず、相手を殺す事も出来ないなら、それを使役する事無く、
より速度を乗せた立ち振舞いが可能な、この姿で出来る限り、相手に応じ続けるしかない。

もっとも、たった今、受けた一撃によって傷を負った所為で、この白狼の姿での速度の利
が失われるのも時間の問題だろう。
こんな類の相手には、気を失わせるなどといった、そつのない行動をもって終わらせる事
も難しい。
今回ばかりは、自分の心の赴くままに、手を下せた方が、まだ楽だったのかもしれない。

そんな事を考えながら、アルは、目の前の男が振るう剣撃をかわしていく。
そして、今度は、柳が左手に携えている細い針のような刀身を持つ剣――レイピアで放っ
た、鋭い攻撃を際どいところで避けた。

【 続く 】

※wiki収録後に、一部修正を加えました。
※続きは、創作してもらうスレ 1-269
※設定スレ1-036のSSは、創作してもらうスレ 1-172194



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最終更新:2012年09月04日 16:22