「-CROSS OVER 2-痛みの行方-」
作者:本スレ 1-710様
269:-CROSS OVER 2-痛みの行方- 投稿日: 2012/02/26(日) 17:52:06
本スレ1-710です。
本スレ1-091様のお子様とうちの子のスピンオフな二次SSの第2話を仕上げましたので、
お知らせします。(第1話は、
創作してもらうスレ 1-265へ)
以下、属性表記です。
・
本スレ1-091様(本スレ1-866)の設定と、
うちの子の設定(設定スレ1-036)を足した
現代風ファンタジーな世界観での二次SSです
・エロなし、グロ、残酷描写、痛覚に触れる描写少々
・ストーリーは長めで、続きあり、今後も多分、かなりのご都合主義的展開を含む
・主な登場キャラクターは、繊様、柳様、アル、ウィル、エイシアといったところ
・今回は、繊様、エイシア、ウィルあたりがメインキャラクター
・設定準拠ではない表記を若干含みます
・キャラ&設定が1-091様の公式設定から外れている可能性あり
こんな感じですがよろしかったらどうぞ
269:-CROSS OVER 2-痛みの行方- 投稿日: 2012/02/26(日) 17:52:06
一方で、先程、この部屋の最も奥まった所に位置する場所へと駆けていった、エイシアと
ウィルは、部屋の壁際に近いその場所で、拘束されたままの黒髪の麗人と形容するに合い
相応しい姿の青年の許へと辿り着いていた。
「ごめんね、少し痛むよ」
エイシアは今も鎖で吊るされている為に、彼自身の普段の目線からすると、更にかなり高
い場所で、今も瞳を閉じたまま気を失っている、美しい青年の面差しを見上げるようにし
て、小さく囁くように、声をかけた。
目の前の艶めく漆黒の髪の青年は、これまでに受けてきた、あまりに酷い行為故に、今も
意識を失ったままだ。
なおかつ、身に纏うものなど、何一つ無いままで、紅い血に塗れた痛々しい姿を晒してい
る状況にある。
こうして声をかけたところで、こちら側の言葉など、恐らくは聞こえていない。
その状態を踏まえつつ、エイシアは、目の前の漆黒の髪の麗人からの反応が無い事を承知
で、次の行動へと移った。
エイシアは、ダガーナイフを持ったままの左手を、自分自身のすぐ傍に位置している細い
橋のような通路へと、軽く添えた。
その通路は、彼自身が、自分の背丈と比較した場合においては、丁度、肩口の高さ位の位
置に設置されていた。
また、それは、吊り下げられている青年の側からすれば、丁度、彼の膝のすぐ後ろ側の辺
りの高さが、その橋を通り抜ける人々の足元に位置する高さとなるように設計されている
ようだった。
通路についた左手を軸にしながら、エイシアは、この壁際のもう一段高い中空へと、自ら
の身体を引き上げる為に、床を強く蹴って跳躍をかける。
その跳躍をもって、彼は、自分自身の思惑のとおり、相対する漆黒の髪の青年と目線を合
わせる事が可能な程度の高さの中空へと、自らの身体を躍らせていた。
エイシアは再び床へと着地するまでの一連の動作の中で、タイミングを計りながら、目の
前の青年の腹部に刺し貫かれていた大きな楔に自らの右手を添える。
そうして、彼は、その鋼鉄の楔をそのまま掴み取ると、引き続いて、自らの腕に躊躇うこ
となく力を入れて、一気にそれを抜き去った。
「うっ、ああぁあぁぁ!!」
漆黒の髪の青年は、その痛みに伴って、本能的に生じる声を堪えることが出来ずに、一際
高い、悲鳴にも似た声をあげていた。
急激にもたらされた酷く激しい痛みと、楔が抜き去られた事によって、再び流れ始めた
自らの血液の感触を受けて、一気に覚醒を促されたからだろう。
同時に、エイシアが抜き去った、鋼鉄の楔が大きな金属音をたてながら、床へと落ちた。
エイシアは、目の前の相手の苦痛に満ちた表情を確かに目にしていたし、その悲鳴も耳に
していた。
それでも、元から予定していた、自分自身の行動の手順を変えるつもりは、全くなかった。
彼は、その行動を一瞬たりとも止めること無く、今度は、左手に構えていたダガーナイフ
に全ての力を乗せるようにして、狙いを定めた目標に向かって、勢いよく振るう。
エイシアが勢い良く振るうダガーナイフの刃によって、相対する青年の足元の鎖がまず、
断ち切られた。そうして、彼の足元に穿たれた孔から鎖が外れ、抜け落ちていく。
「ぅ、あぁっ!」
同時に、目の前の柔らかな黒髪の麗人の唇からは、悲痛な悲鳴にも似た声があがる。
人間の数倍の痛覚を持つ目の前の青年にとっては、既に負わされた傷と、鎖が切断さ
れる際に受ける振動によって生じる新たな痛みが、相当な負荷となっているのだろう。
「ごめん、あと、少しだけ我慢して」
相手の苦痛に歪む表情を目にしたエイシアは、相手に対して短くそう告げると、上方へと
再び大きく跳躍をかけながら、今度は、相手の手元を繋いでいる鎖を切断していく。
彼が全ての鎖を切断するまでの間、ダガーナイフを振り下ろすその度に、硬質な金属音が
鳴り響いた。
その音がする度に、目の前の黒髪の青年は、傷口から鎖が外れていく感触と同時に引き起
こされる、何とも言い難い痛みを堪える為に、小さく喘ぎなから、細い吐息を零す。
つい先程まで、気を失っていた相手に対し、殆ど前触れも無いままに、一気に手酷い痛み
を負わせたのだ。
挙句、今現在も、彼を繋いでいた鎖に僅かな力が加わっただけで、酷い痛みが身体全体に
伝わっていく状況に置いているというのは、目の前の黒髪の美麗な容姿を持つこの青年に、
更に追い討ちをかけるような行為に等しい。
エイシアも、その状況については、痛い程に理解していたが、それでも、一番、手っ取り
早く、彼を救い出すには、こうするしかないのだと、自らに再び強く言い聞かせた。
また、こうした行為に関しては、一番、耐性があると思われる自分が引き受けるべきなの
だろうと思った。
だからこそ、目の前の漆黒の髪の青年に対して、酷い痛みを与える事になる、この一連の
動作を出来る限り早く終えようと、ただ、その一点だけに再び意識を集中させる。
先程から、彼と行動を共にしていた、長い墨色の髪を持つ、トパーズブルーの瞳の青年、
ウィルは、そんなエイシアの行動を、すぐ傍の位置で見守っていた。
彼は、エイシアが自らに課した行動にあえて口を挟む事をしなかった。
こんな風に幾分手荒な方法によって、目の前の漆黒の髪の青年を救い出すにあたっては、
エイシア自身が、万一の時のフォローにあたる役割を引き受けている、こちら側に対して
も、絶対の信頼を置いているからだ。
常日頃の行動から、エイシアがそうした思慮の基に、こうした行動を成しているのだとい
うことをウィルは充分理解していた。
だから、今のエイシアの行動に対してかける言葉など、何も無かった。
ウィルは、その冷静な表情を崩すことなく、エイシアの繰り出していたダガーナイフが、
相対する漆黒の青年の手首を留めていた最後の鎖を捕える瞬間を見計らっていた。
そうして、それにあわせるように、自らが着ていた軍服のジャケットを脱ぎ去った。
直後に、ウィルは、それまで吊り下げられていた鎖の支えを失い、崩れるように落下して
きた黒髪の麗人を自らの上着で包み込むようにして、両腕でしっかりと受け止め、抱き抱
えた。
「……あぁっ!!」
ウィルの腕の中に抱き留められた、黒髪の美しい容姿を称えた青年は、自らの身体が受け
た僅かな振動が与えた痛みにも耐えかね、再び、小さく喘ぐように、吐息を零す。
「貴方が繊、だね。かなり手荒な真似をして済まなかった」
ウィルは、自らの腕の中に抱き留めていた漆黒の髪の青年を労わるようにして、彼の名前
を呼んだ。
それから、そのまま続けて、今この場においては、決して相応しいものではない、穏やか
な口調をもって、腕の中の青年に声をかける。
「気が進まないとは思うけど、この後もあと少しの間、こちらに任せてくれないか」
「……っ、う! あんた等、一体……!」
相手の逞しくも思える腕に抱かれたままの状態にあった繊は、その漆黒の瞳をやっとの思
いで開けながら、か細い声をあげた。
本来であれば、恐らく黒曜石のような輝きを称えているのだろうが、彼の瞳には、未だに
本来の輝きは戻っていない。
また、彼の腹部からは、先程と比べれば、落ち着いてきてはいるが、未だに真紅の血液が
流れ続けている。
加えて、予め体内の随所で発火していくような性質を備えた薬品を投与されていた所為な
のか、普段なら、もうとっくに、再生が始まっていく筈の傷口が癒えていく様子は、一向
に無かった。
そんな状況に在るのに、自らの腕の中で僅かに身を捩った繊の様子を見かねたウィルは、
彼を抱きしめたまま、相手の美しい面差しにもう一度、視線を合わせると、再び落ち着い
た声で、語りかけた。
「落ち着いて聞いてほしい。
僕等が貴方を奪う事を目的に今、この場で動いている事は確かだ。
けれど、少なくとも、貴方が、この状況から抜け出す為の手伝いは出来ると思う。
だから、今暫くの間、こいつの誘導に従ってくれないか」
ウィルは、その言葉とともに、自分の隣に控えていた白銀の髪とアイスブルーの髪を持つ、
彼自身と比べると若干、背が低めの青年の方へと視線を向ける。
その視線に促されるようにして、白銀の髪の青年の方を見た瞬間、繊は、目に留めた相手
の方を真っ直ぐに見つめたまま、そこで視線を止めた。
繊がその視線を止めたままの状態で見ていた白銀の髪の青年は、今、この場で見る限りに
おいては、丁度、繊と同じ位の背丈であるように見える。
また、青年は、同じ年頃の一般的な人々からすれば、その身にしなやかな筋肉を備えた理
想的な体型をしていた。
加えて、彼は白銀の髪に怜悧な印象を合わせ持つアイスブルーの瞳といった、比較的整っ
た、どちらかといえば印象的な容姿ではあった。
しかし、繊の事を未だに抱き留めている、もう一人の上背のある青年と比べれば、特筆す
べき程に背が高い訳でもないし、こちら側の男のように、一般的な人々と比べて目立つ程
に髪が長い訳でもない。
ただ、繊が白銀の髪の青年に目を留めざるを得なかったのは、その青年が、どうやら、
先程、かなり手荒い方法ながらも、自分に嵌められていた鎖を全て断ち切った人物のよう
だったからだ。
「お前……」
先程より強い痛みの中にあった所為で、未だに虚ろな記憶を基に、繊はウィルの腕の中で、
思わずそう、呟いた。
「君に、お前呼ばわりされる筋合いは無いなぁ……
ウィル、こっちはもういいから、早く戻れ、あいつの方が保たないだろ」
繊の言葉を受けて、エイシアは軽口を叩くようにして、相手へと切り返しつつ、自らの背
中の向こう側に親指を差し向けるようにしながら、その方向を指し示す。
「エイシア、余計な口を挿むな。
繊、済まないが俺はあいつの所に戻るよ。貴方をこの場に下ろすけど良いかな」
エイシアの言葉を制しながら、ウィルは相手が指し示していた方向へと、視線を向けた。
その視線の先には、つい先程、相対する男からの執拗な剣撃に耐えかねて、狼の姿からの
変化を解いていたアルが映っていた。
彼は、こちら側から今、見る限りでは、左手の甲に近い辺りに、思ったよりも深い切り傷
を負っている。
それでも、アルは、今までに援護を求めることなど、一切してきていない。
ウィルが彼の姿を目にしている今、この瞬間も、アルは、純白の軍服を身に纏う男から放
たれる2本の剣による攻撃を凌ぎつつ、互角に渡り合う為に、必要最低限の攻撃を挟みな
がら、その相手と対峙し続けている。
アルは狼からの変化を解き、軍服に身を包んだ人型の身なりに戻ってはいたが、当初から、
自分と同じように武器と呼べるものなど、何ひとつ装備していない。
加えて、自分達が、魔獣としての特異能力として、兼ね備えている力のひとつでもあり、
敵対者を軽く瞬刹する程の力を備えた、光の粒子を凝縮したような外見を持つ、ブレード
を手元に生成している様子さえも無かった。
先程、その男と対峙し始めた初期の段階で、相手の息の根を一撃で止めるかような攻撃を
放っていた頃と比べると、今、アルが繰り出している攻撃の質は明らかに落ちている。
その攻撃も、彼が意図的に相手に手加減をしているように見える程に、見劣りするものだ。
今、彼が相手に与えているのは、自らが繰り出す足技での蹴りによる打撃が殆どだ。
その打撃も全て、相手に直接強く当たり込むまでには至らない程度の位置に、計ったよう
に打ち込んでいるようにも見える。
それは、先程、彼が最初に仕掛けていたものとは、全く異なる意味で、際どい性質のもの
ばかりだ。
相対する相手が、あれほどの手錬であるだから、その事に気付いていない筈は無い。
一方で、アルは、例え無意識からの行為だとしても、それが相対する男の自尊心を著しく
害しているのだという事に、全く気付いていないのだろう。
そんなアルの様子を改めて目にしたウィルは、自らの視線を一旦、腕の中に抱き留めてい
た漆黒の髪の青年の方へと戻した。
先程、自分がこの青年へと投げかけていた問いに対して、その意に反するような返答が無
かった事をもって、ウィルは相手からの肯定と受け止めた。
そうして、相手からの返答を確認した彼は、繊を抱えたまま、その場で片膝をつく。
ウィルは、そのまま自らの腕の中の黒髪の美しい人ならざる魔人――繊の紅い血に塗れた
しなやかな線を描く身体を自身の軍服の上着で包んだまま、できる限り、そっと床へと横
たえた。
「くっ、うぁ!!」
先程からの傷が全くといって良い程に塞がっていなかった繊の身体は、その僅かな振動に
対しても、彼自身が耐えかねる程の痛みをもたらした。
繊は、その痛みを全身で受け止めるようにして、堪えていたが、それでも、その痛みが与
える鋭い感覚の全てを堪え切れずに、小さな悲鳴をあげた。
「繊、本当に済まない。エイシア、後を頼むよ」
「言われなくても、そうする。それに、あと5分位は持たせろ」
「厳しい事を言うね」
「それと、あの馬鹿を頼む。あいつ、完全にリミッターが外れてるんだろう」
「判ってるよ」
互いにそんな風に言葉を交わしあった後で、ウィルは、エイシアから背を向けた。
そうなのだ。此処から見る限りでは、恐らくアルは、自分の能力を制御出来ていない。
今、彼が本気で自らの能力を行使していれば、彼と対峙する、あの闇い色の瞳を持つ男は、
もう、とっくに瞬殺されている。
だから、アルは、自分の能力を殆どと言って良い程、使っていない。
あんな風に、最初から一気に能力を傾けていれば、普段から彼が能力を制限する為に、左
腕につけている腕輪――リミッターが持つ制御機能を軽く超えて、それが使い物にならな
くなっていても、当然というものだ。
まあ、この場合、そんな状況にあっても、当初の予定どおり、今回のこの仕事に課せられ
ている制限行動の規定を尊守し、未だに相手を殺傷するに至っていない、アルの事を誉め
るべきなのかもしれないが。
何にせよ、相対する黒髪と緑闇色の瞳の男、柳の自尊心をあれだけ、素で煽っている状況
を作り出しているというのが、特に頂けない。
あの手の男の自尊心を煽れば煽る程に、彼の執着心をも呼び起こす破目になるのだから。
とにかく、これ以上の面倒は、避けたい、かな。
ウィルは、そんな風に思考を巡らせながら、それと同時に、此処からは、そう離れていな
い場所で、黒髪の二刀流の男との競り合いを続けているアルの方へと、向かっていった。
【 続く 】
最終更新:2012年09月04日 16:23