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「2.Lazarus sign(徴候)」


作者:本スレ 1-200

415 :1-200:2013/12/29(日) 00:14:27

今年最後の置き土産としてろだに投下
 ※楽しい年末年始に相応しくない暗い話
 ※長文、厨文体、2本1セット、みかんでも食べながら気長にどうぞ
 ※うち1本は残酷な描写あり
それでは皆様、良いお年を!

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このテキストでは、本文をお読みいただく前の予備知識、注意をまとめております。

■設定
SF風ファンタジー。人間に紛れて魔族や人工生命体が暮らしている現代(近未来?)が舞台。
設定スレ 2-037 の世界観(複数の作者様によるクロス設定)をベースにした、
暁の翼サイド(設定スレ 2-014)の話。
シンが日本へ行き、その他のメンバーはまだ本国にいるあたりの時期です。

■概要
以下の二部構成です

1.The rumble of distant thunder(遠雷):創作物スレ 2-415-01 
 おっさん達(暁の翼幹部クラス)がひたすら会議をしています。
 主要キャラは一人も出てきません…。
 エロも萌えも無いわりに長くて申し訳ないですが、これを読んでからでないと
 ②でアレスが置かれている状況が若干イミフになるかも。
 会話の中で、クロス設定で係わる組織の方々が少しだけ登場します。
 暁の翼は悪役サイドという設定上、他勢力に対して上から目線、
 批判的に描写していますが、ご容赦いただければ幸いです。

2.Lazarus sign(徴候):創作物スレ 2-415-02
 アレスがストーカーwと化すまでの心情です。
 少しですが、本スレ1-710様のキャラ、ヘンリーさんをお借りしています。
 また、1-710様の作品の台詞を引用させていただきました。
 一部残酷な描写がありますのでご注意願います。

■注意
 ※登場する他作者様のキャラクター、組織、引用させていただいた台詞については、
  独自解釈が入っています。
 ※各作者様の設定やイメージと相違している可能性あり。
 ※長文、ひたすら暗い、厨モードフルスロットル。
 ※②は残虐描写注意。
 ※①②共にエロは無し。

■前置き
※「コードネーム」の説明です。
 覚えなくても、各作者様であれば話の流れでどれが誰だか分かる…と思います。
 飛ばしていただいて大丈夫です。

~以下説明~
暁の翼では、バイオロイド(人工生命体)の個体識別表記として、型番の短縮形や
コードネームを使用します。人格を持つ人間ではなく、あくまでも兵器としての扱いだからです。
エライ人達の会議とか、作戦中もこれで呼びます。
でもめんどくさいので日常会話では固有名詞で呼ぶスタッフも多いと思われます。

<暁の翼所属バイオロイドの表記>
 HDS:ヘンリー、ARS:アレス、RSR:ルーシェル、CSC:コル・スコルピィ(シン)

<欧州連合の人工生命体のコードネーム>
 魔獣型 (E:europe、T:therianthrope)
 ET01~04 ウィリアム、アルフレッド、エイシア、シルヴィア
 妖魔型 (E:europe、PS:psychic)
 EPS01:シオン、EPS01β:β2、EPS02:メサイア、EPS03:エル、EPS04:アルシエル 

発音は「イーティーワン」とか「イーピーエスツー」。
ルーナさん、ソルさんについてはまだ存在がちゃんと確認されていないかも。
今回は出てきませんが、金の烏の子達についてもコードネームはあります。
フィクス社とは敵対関係に無いので、今の所はまだ無いはず。
(ただしグレンさんやシエンさんの能力がバレたら要注意)

ちなみに頭文字Uは魔族です。未知の生物という扱いでunknown。
U01は繊さんで、他はまだ把握していないです。当然弥先(弥終)の事も知らないし
白き槍の活動内容もきちんとは知りません。ただ今後は接触を試みる確率が高いです。
レダ様リコ様のような魔族ハーフも、バイオロイドだと認識されている模様。

以上、長い長い前置きでした…。


2.Lazarus sign(徴候)

創作物スレ 2-415-01 からの続き
※一部残虐描写有り

清潔で無機質な白い壁と天井、薄いグレーのリノリウムの床、効率的に配置された医療機器。
十人中十人が病室と答えるであろうその部屋は、もちろんそれそのままの病室だった。
ただし、優しく微笑む白衣の天使も、頼もしい医師もいない。
一つだけ置かれたベッドには、立派な体躯をした黒髪の青年が横たわっている。
安らかな眠りとは無縁な表情を浮かべたその青年の体は、ものものしい拘束具で縛られていた。
だが人権の心配など一切無い。この青年には人権など無いからだ。
なぜなら彼は、人の手により生み出された人工生命体。限りなく人に近い人形、
バイオロイドなのだから。

「お前にはほとほと失望した」

ベッドに拘束された哀れな人工生命体に、ガラス玉のような目をした男が語りかけている。
40代後半と思われるその男の顔には、表情らしいものが全く無い。
苦悶の表情を浮かべるベッドの上の生き物より、よほど人工物らしい雰囲気だった。

「アレス、お前は4体の中でも最悪の失敗作だ。ルーシェル以上の粗悪品だ。
 私はお前に命を与え、自我を与え、力を与えた。
 だがお前がしてきた事といえば、私の顔に泥を塗る事だけだ」

頑丈なベルトで頭まで固定された青年―アレスは、閉じていた目をかすかに開き
視線だけで反抗の意を示そうとした。しかしその眼にいつものような力強さは無い。
男の顔に、ほんのわずかに嘲りの色が浮かぶ。

「苦しいか?私が恨めしいか?だがそれは他でもない、お前自身のせいなのだ。
 お前はその気になれば大抵のものを手に入れられたはずだ。
 鳥篭の中で、という前提はあるがな。
 何を入れるかを決定するのは私達だ。だがお前がもう少し素直であったなら、
 私達はお前が望む大抵のものは与えてやる事が出来たのだ。 
 お前は自ら、自身が羽ばたける範囲を狭めた。篭を小さくしたのはお前自身だ。
 正直、これほどまでに愚かだとは思わなかったぞ」

ゆっくりと、しかし一息にそこまで話すと、男は再び沈黙した。 
目の前に横たわる、自身が造りだした偽物の命を、何の感情も篭らない目で見つめている。

「お前はあれには勝てない」

唐突に男は言う。

「お前はあれを手に入れる事も、殺す事も出来ない。
 指をくわえて見ているだけだ。
 だがあれはいずれ、自身の力で自由を獲得するだろう」

男が何を言っているのか、アレスには解らない。

「お前はこの先朽ちて行くだけだ。
 なけなしの知能は失われ、自我は消え、文字通りの木偶人形となるだろう。
 そのちっぽけな脳みそが溶けてなくなるまで、せいぜいあがくがいい」

床のリノリウムと革靴が擦れる音が響き、電子ロックが解除される音と共に、男の気配は遠ざかって行く。

アレスは再び目を閉じた。
水底に映る波の影のような網目が、瞼の裏に浮かんでは消えて行く。どこからか心臓の音が聴こえる。
あの薬を飲まされた後には必ず聴こえるような気がするが、はっきりしない。

 『お前はこの先朽ちて行くだけだ』

朽ちて行く。知能は失われ、自我は消える。
以前見た事がある。実験による手術で知能が低下してしまった、名も無い量産型バイオロイド。
意味不明な喃語を発しながら、涎と小便を垂れ流していた。
自分もああなるのだろうか。
周囲は嘲笑するだろう。自分を造りだしたあの男や、治療と称して拷問する連中が。
そしてあのクソ猫野郎も。
だが自我が無いというならば、恥も屈辱も感じないのだろう。
それだけではない、怒りも、苦痛も、何も感じないですむに違いない。
永久に目覚める事のない睡眠のようなものかもしれない。
それはとても楽な事のような気がした。
それならば、と思う。それならば、この先と言わず今すぐにでも朽ちてしまうのも悪くない。
自我の消滅。それはアレスの心に麻薬のように浸透する。

眠ろう。今まで行った事のないくらい、二度と戻れないくらいに意識の奥深くまで潜ろう。
任務も、復讐も、自由も、全てがどうでもいい事のように思えた。

とてもいい気分だった。体が軽くなった気がした。
周囲は暖かく、様々な色彩の光に満ち、何かきれいな旋律が聴こえた。
さっきからずっと聴こえる心臓の鼓動のような音が心地よくそれに重なり、
幸福感とはこういうものだろうかと思った。
水に洗われる土塊のように、とがっていた心の角がまるくなり、ざらついた表面が滑らかになって行く。
今まで常に感じていた怒りや苛立ちはもう無い。自分は何に対してあんなに反抗していたのだろう。
なぜ周囲のあんな小さな事象にいちいち腹を立てていたのだろう。
おそらく生まれて初めて感じる圧倒的な平穏と安堵感に、アレスの自我は薄らいで行く。

不意に、何かに呼ばれた気がした。
意識の峪の遥か上、降りて行くアレスの背後から、確かに誰かが呼ぶ声がした。
鼓動が早くなる。自分はこの気配を知っている。奇妙に懐かしく、そして苦々しくも甘い記憶。
求め続けたただひとつのもの。おいて行ってはいけないもの。
忘れてはならない。もう一度、それをこの手にするまでは――。

ゆるやかにアレスを包んでいた潮流が激しく渦を巻き、四散する。
消えかけていた自我が、ふたたびその輪郭を取り戻す。

「― ― ― ―!!」

力一杯それを呼んだ。
だが次の瞬間、風景は一変する。

暖かく心地良い潮流が、冷たい風に変わる。風には燃料と硝煙と肉が焦げる臭いが混じっている。
周囲を取り囲んでいた柔らかな光が消え、アレスはいつの間にか夜の荒野に居た。

先進国、主に欧州連合の資金援助で資源を採掘している途上国の施設。
海外から派遣された技術者やその家族が暮らす居住施設を、暁の翼は襲撃した。
政府は軍を動かし制圧を図ったが、施設にいた400人以上のうち半数が死亡した。
死亡したうちの半数は、大型の刃物によって体を縦に横に両断されていたという。
異様なのは、その切り口が炭化していた事だ。
そして残りの半数は黒焦げの焼死体だった。火炎放射器によると見られるが、
生存者の目撃証言ではテロリストはそのようなものは所持していなかった。

吹き抜ける風が、高く低くうなりをあげている。
だがそれは、よく聴けば風の音などではなかった。
彼が今まで殺してきたおびただしい数の人間、その一人ひとりが死の直前に発した最後の叫びだった。
生きたまま身体を焼かれた男があげる、獣じみた断末魔の叫び。
胸に剣を穿たれ、傷口を焼かれてなお死ねず、のたうち転げまわる女の苦悶。
赤い肉塊となった親の死体にすがりつき、死を待つだけの子供の絶叫。
そこにはもう、あの懐かしい気配は欠片も無かった。

これは夢か?君が見せているのか?
僕に懺悔しろというのか?

アレスは自分のこれまでの行いに対して、嫌悪感も後悔の念も抱いた事はない。
昔は楽しいとすら思った。無力なくせに口だけは達者な人間どもが、
蔑んだはずの自分達に泣きながら命乞いをする、その様が。
出来るだけ長く苦しめて、そいつの家族や恋人にその様子を見せ付けた。
逆らう者は、ある時は鮫の生餌にし、ある時は煮えたぎる溶鉱炉の中に吊るした。
幼児を抱えた親は手足の腱を切って、子供と共に野犬や狼が多い地域に置き去りにした。

そうやって殺しを楽しんでいた。だがやがてそれにも飽きた。
今はもう何も感じない。単に作業として、さっさと効率良く済ませるだけだ。
目もろくに見えない老人から生まれたばかりの赤ん坊まで、全て等しく。
殺して殺して殺しまくって、そうやって生きてきた。
他の生き方など知らない。何が悪い?
――何が悪い!!!

気が付いた時、ベッドの傍らに金髪の青年がいた。
黄金の双瞳が、寝汗に濡れるアレスを見下ろしている。
目が合うと、わずかに口角を上げて不遜な笑みを浮かべた。
咄嗟に状況を理解できない。彼の名前を思い出すのに数秒かかった。

「メサイアが、東欧州連合の研究施設から逃亡したそうだよ」

挨拶も、前置きも無い。
ただそれだけを言うと、ヘンリーは踵を返して部屋を出て行った。

いつの間にか、拘束具は解かれていた。ふらつく頭を押さえ、ベッドから下りる。
カーテンを開けると、既に太陽は西に傾きかけていた。

メサイアが逃亡した。
ただ、あの時、一度限りの邂逅を果たした、人工生命体の少年――いや、
もう、今は、自分と同じ、18歳位の青年になっている筈だ。

あの時の事は記憶から消えない。
沢山の女を抱いても、治療と称して頭をいじられても、あの時の事を忘れる事は無かった。
多分あれが、自分の中の何かを永久にフリーズさせてしまったのだ。
あの記憶の再現だけを求めて、自分は今まで生きてきたような気がする。

さっき、それを放棄しようとした。だが結局こうして覚醒し、思考している。
消えかけた自己を繋ぎとめたもの、自分を呼び戻した声。
あれは多分誰でもない。自我を捨ててはならないという自分の意思が、何者かの幻影を通して
自分自身に呼びかけたのだ。

大丈夫だ、僕は壊れない。あいつらの思い通りになどならない。
必ず生き延びて、そして自分が望むものを手に入れる。
この意思と目的がある限り、僕の自我はこの世界に踏みとどまれるだろう。

「メサイア、必ず君を僕のものにするから」

【end】

※このSSの1-710様サイドのエピソードは 創作物スレ 2-251


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最終更新:2013年12月29日 14:43