はい、みなさんこんにちはこんばんは、そして御機嫌よう、吉村宮子です。
さて、前回のお話で三条谷錬次郎クンと合流してから、工房内を探索して役に立ちそうなものを探したり
錬次郎くんと情報交換をしたりと割と順調な私達でしたが、ここにきて急激にある問題が発生しました。
主に私に。


「はぁ……はぁ……////」

頬が熱くなる、胸が締め付けられるように切なくドキドキが止まらない、頭がポ~ッとして何も手につかない。
この心がキュンキュンする感覚、これは間違いなく――
……今「単なる更年期障害だろ」って言った子、後でご不浄の裏に来なさい。究極魔法を拝ませてやんよ。

「あの、大丈夫ですか」
「ひゃい!?だ、大丈夫ですよぉ!」

どきーん!
錬次郎くんに話しかけられ、思わず変な声を出してしまいました。
心配そうに私を覗き込む錬次郎くん。その顔を見てるともう気持ちが溢れてどうしようもなくなるのです。
この気持ち……まさしく恋!KOI-GOKOROですよ!そんな題名の歌をビーゼットってバンドが最近歌ってましたね。
ってそんなことはどうでも宜しい!

魅了解除の呪文を自分にかけて……はい、これで大丈夫です。心拍血圧も元に戻りました。
それにしても、嗚呼……ユルティム・ソルシエール(究極の魔女)ともあろうものが何たる醜態!
ありとあらゆる恋愛の酸いも甘いも噛み分けたこの私が、初恋を知ったばかりの乙女のような心持ちにされるなんて!
くやしい……でも……

「やっぱり……僕の体質のせいですよね……。
 ごめんなさい。お爺ちゃんの薬が切れてきたせいで……」
「お爺さんの薬? どういうことですか?」
「僕、いつもはお爺ちゃんに作ってもらった体質を抑える薬を飲んでいるんです。
 だけどそれは半日しか効かなくて、最後に飲んだのは多分12時間以上前だから……」

なん・・・だと・・・?
てっきり蔵の中で経年劣化して惚れ薬の効果が落ちているんだと思ってたら、まさか改善薬で効果を抑えてこの威力だったとは
この吉村宮子の目をもってしても見抜けなかった!
いや~、これは劣化どころかバッチリ効いてますよ。
人妻だろうが乙女だろうが老婆だろうが幼稚園児だろうが、すれ違っただけで首を180°回転させて振り返るレベルの魅了ですよ。

「飲むと性別が逆転する薬だの、注すと周囲の動きがゆっくり見える目薬だの
 色々な薬を作ってきたけど……この惚れ薬は間違いなく私の最高傑作の一つね……」
「えっ、吉村さん? それって――」
「あっ」

いけない、つい漏らしちゃった。
でも隠しておくのも気分が悪いので、この際すっぱりと全部教えちゃいましょう。

「御免なさいね。貴方が飲んだ惚れ薬。実は私が作ったものなの」
「ええええっ!?」
「昔まだ若かった貴方のお爺さんにあげたものがまだ残っていたんですね。
 それにしても作り手で耐性のあるはずの私まで魅了するなんて……。
 よほど貴方の体と薬がマッチングしたんですね。偶にあるんですよ、摂取する側の体質によって薬の効果が増すことが」
「はぁ……」

錬次郎くんはポカンとしています。
そりゃそうでしょうね。こんな状況で薬の作り手である私と出会うなんてなんと奇遇な。

「大丈夫ですよ。作ったって事は治し方もわかるって事ですから。
 たとえ効果が増していようと必ず解呪してあげます。
 ……もっとも、それにはまず此処から脱出しないといけないようだけど……」
「はい……」

工房内をくまなく探しても薬の材料になりそうなものは無し。
まずはこの島から脱出する方法を探すことのほうが先決みたいですね。

「ここは探索したし、他の場所に移動しましょうか。
 ねぇ、錬次郎く――」

私はセリフを最後まで言うことができませんでした。
錬次郎くんが突然抱きついてきたからです。

どっきーん!!

平静だった脈拍が一気に上昇します。頭の中が桃色のお花畑になり、まるで空を飛んでいるよう。

「れれれれれれれ錬次郎くん!!?
 いいい一体何ををををを!!!!?」
「ごめんなさい宮子さん。
 でも僕……怖くって……もしかしたらここで死んじゃうんじゃないかって……」

そう言うと、錬次郎くんは涙で潤んだ瞳で私を見上げました。

ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!
これは大変なことやと思うよ。恋心と母性本能が同時に刺激され、これはマジでヤバイ。
魅了解除の呪文なんてどこかにすっ飛んでしまっただがや、もう思考の地の文すらグダグダでメロメロになっていますわ。

「だだだ大丈夫ですよ錬次郎きゅん!!!
 ワールドオーダーなんて私がチチンのプイで一ひねりにしてやりますから!」
「宮子さん……」

錬次郎くんは更に強く、私を抱く腕に力を込めました。
私は思わず彼の背に手を伸ばし、私たちはひっしと抱き合いました。
嗚呼、駄目。駄目よ宮子。
錬次郎くんは、この子はまだ子供なのよ!未成年者なのよ!
そんなことこれ以上の領域に足を踏み入れるなんて外道よ!犯罪よ!アズカバン刑務所送りよ!
清く正しい魔女としてそれだけは駄目よ。それだけは―――


「――後ろ、向いていてもらえますか。恥ずかしいから」
「ええ」

駄目でした。
服を脱ごうとする彼に背を向けた私の胸を、ときめきと罪悪感が同時に駆け巡ります。
でも!しかし!考えてもみてください!
恐怖に怯えているいたいけな若者を抱きしめ、受け入れ、その不安と恐怖を癒してあげるのも年長者としての務めではなくって!?

嗚呼、それにしても夜の魔法も究極と呼ばれた私がまるでLike A Virginなんて!
殿方と閨を共にするなんて何十年ぶりかしら……。
こんな事ならもっとイマいヤングな下着をはいておけばよかった……


 ガシャーン

桃色で頭が一杯だった私は、突然のガラスが割れる音で驚いて振り返りました。
そこには錬次郎くんの姿はなく、彼のすぐそばにあった窓が割れてそこから風が吹き込んでいます。

「錬次郎くん?」

窓の外を見ると、背を向けて走っていく錬次郎くんの後姿が見えます。
あらあら、きっと土壇場になって怖くなったんですね。わかります。若い頃にはよくありますよそういうこと。
若さって躊躇わないことですけど、こういう初心なのも実に可愛いですね。窓を破るのはちょっと過激だけど――

「ん?」

おやおや、さっきまで錬次郎くんがいた場所に何かが落ちていますね。
これは……?

「なんでポテトマッシャーが?」

私のデイバッグに入っていたポテトマッシャーですね。
持ち上げてよく見てみますけど、やっぱりポテトマッシャーじゃなさそうでポテトマッシャーじゃなくない少し変なポテトマッシャーですね。
どうしてこれが床に?
あれ、そういえば私のバッグはどk






次の瞬間
爆発したM24型柄付手榴弾によって、吉村宮子の身体は工房の一角ごと粉々に吹き飛ばされた。


【E-8 工房内/黎明】

【吉村宮子 死亡】


◆◆


「ハァ――!ハァ――!」

背後から聞こえた爆音に振り向くことなく、錬次郎は走り続ける。
爆発した工房から少しでも遠くに逃げようとするその姿はまるで、たった今自分が犯した罪から必死で逃れようとしているようにも見えた。

「ハァ――ハァ――ハハ、ははははははは!!」

しかし息を切らせて走る彼の口から漏れてきたのは、罪の悔恨からは程遠い哄笑だった。

「ははははは!やった!あのクソババアをぶっ殺してやった!!あはははははははは!!」

滴る汗の下、普段は特徴のない彼の顔が、今は狂喜と憎悪に歪んでいた。


つい先程まで、三条谷錬次郎には吉村宮子を殺す気はなかった。
そう、つい先程まで……惚れ薬を作ったのが彼女だと――彼の人生を狂わせた原因が彼女だったと知るまでは。

◆◆


あの夏の日、蔵の中で飲んだ惚れ薬によって平和だった彼の人生は一変した。

ただ存在しているだけで老若関係なく女性を魅了してしまう――
そんな異常体質となった錬次郎は、祖父の調合した体質改善薬を日常的に飲まなければ、外を出歩くことすらままならない体になってしまった。


まだ錬次郎が幼く、彼が惚れ薬を飲んで間もない頃、うっかり薬を服用するのを忘れて外出したことがある。
その外出先で、錬次郎は見知らぬ女に誘拐された。
元々そうした性癖を持っていた犯人の女は、錬次郎の体質に中てられて完全に気が狂っていた。
彼は女の部屋に監禁され性的な虐待を受けた。
幸いすぐに救助され犯人の女も捕まったものの、この事件で受けたショックは錬次郎を女性不信にするに充分すぎるものだった。

その一件以来、彼が体質改善薬を飲み忘れることは二度となかった。
自分の体質が命の危機すら招きかねないことを身をもって学習したためだ。

しかし、彼の問題は体質改善薬を飲み続けても解決しなかった。
薬を飲んで魅了効果を抑えていても、彼のハーレム体質に魅かれる女性が一定数存在したためである。(今のクラスメイトでは白雲彩華がそれにあたる)
錬次郎がハーレム体質だとすれば、魅了に罹りやすい彼女らはちょろイン体質とでも呼ぶべきであろうか
ちゃんと薬を服用していても、必ず何人もの女が自分に寄ってくる。その状況を羨ましいと思う者もいるかもしれないが
女性に対して深いトラウマを持つ錬次郎にとっては悪夢以外の何物でもなかった。


体質のせいで、小学生の時から彼の周りでは争いが絶えなかった。
錬次郎に魅了された少女たちは彼の愛を独占せんと彼自身の意思を無視した争奪戦を繰り広げ
それは間を待たずして邪魔な恋敵を排除するための陰湿な潰し合いに発展した。

また男子たちは男子たちで錬次郎を目の仇にした。
何人もの女を侍らせて楽しんでいるような奴は全男子共通の敵だ――というわけである。
その中には惚れていた娘を錬次郎に魅了され、彼を怨んでいる者も少なからず存在した。

こうして表では女子の醜い争いを見せつけられ、裏では男子に殴られ蹴られのサンドバッグにされる、というのが彼の小学生の頃の日常生活だった。
そんな彼の様子を見る教師の反応は大体二つに分けられる。
「いつも争い事の中心にいる困った児童」と厄介者扱いするか、もしくは彼に対し変態的な欲望を燃やすか、どちらかである。
こうして普通の子どもにとっては楽しいはずの学生生活は、錬次郎にとってとてもつらいものとなっていった。
このような環境下で、普通の少年だった錬次郎が人間不信に陥り、独りでいることを望む性向になっていったのは当然であるかもしれない。


中学に上がる頃には、彼は人との交わり……特に女性との接触を可能な限り避けるようになっていた。
その頃には錬次郎の気を引くために狂言自殺する女や待ち伏せやストーキングする女なども現れ、彼の人生が社会的にも危険な状況になっていたためである。
町を離れて遠くの男子校に通うことも考えたが、体質改善薬の安定した供給などの事を考えて断念した。

中学に上がってからも何人もの女に纏わりつかれたが、それらから全力で逃げ
生活において極力女性との関わりを避け続けたおかげで、彼の学生生活はようやく何とか平穏なものとなった。
同性の友人もでき、彼らとカラオケに行けるようにまでなった。
あるいはこの頃が彼にとって最も幸福な青春時代だったのかもしれない。

ある日の友人たちと行ったカラオケの帰りに、錬次郎は同性の友人から告白された。
『お前のことが好きだ』と、真剣に告げる友人を、女性不信ではあっても同性愛者ではない錬次郎は拒絶するしか出来なかった。
それと同時に、彼は自分の生活がなぜこのところ平和だったのか、その理由を知ることができた。
女性を避け続けていたせいで、彼は周囲にホモセクシャルだと思われていたのである。
自分がどう思われているか知ってから自分の周りに集まっていた友人たちを見ると、もう普通の『友人』として付き合うことはできなかった。
こうして彼は、ようやくできた友達も失ってしまった。

両親の強い希望で進学し、高校生になる頃には、彼はもう全てを諦めていた。
どうせ自分はまともな恋愛どころかまともな人付き合いすら出来ないのだと。
なるべく目立たず、孤独に学生生活をやり過ごすことだけが彼の望みになっていた。

しかしそんな彼の望みは儚くも打ち砕かれた。
白雲彩華に惚れられたためである。

高校に入ってすぐの頃、錬次郎はさっそく何人かの女子に惚れられ
その様子が気に障った不良グループに『ホモのくせにスケコマシのカマ野郎』と罵られて集団リンチされた。
ここまではいつも通りの流れであり、彼も慣れていた。
しかしその数日後、学校に行くと彼をリンチした不良たちが消えていた。
全ては彼に魅了された女子の中にいた白雲彩華の仕業だった。

名門一族の生まれであり、錬次郎たちの通う学園に対して大きな影響力を有する肉親を持つ彩華は
自分が持てる権力をフル動員して錬次郎に仇なす者達の排除を謀ったのである。
こうして彼の学生生活は平和になった――ワケがない。
彩華に追い出された生徒やその父兄、また学園に残っている生徒達から錬次郎は彩華の仲間と見做されて非難を受けた。
曰く「自分の恨みを女を頼って晴らしてもらったクソ野郎」、曰く「権力者の犬」、曰く「女を誑かして利用する女性の敵」
彩華による制裁が恐ろしいので表立って言うものはいなかったが、また近寄るものもなく、彼は学園内で孤立していった。
孤独自体は彼の望むものだったが、誤解による的外れな非難は実際の暴力以上に彼の心を傷つけた。

進級して新しいクラスになる頃には(当然のごとく白雲彩華と同じクラスだった)錬次郎の存在は完全にアンタッチャブルなものとして認知されていた。
同じクラスで彼に普通に話しかけてくれるのは、ゴシップの類に頓着しない新田拳正一二三九十九ルピナスくらいのものだった。
(九十九はすでに拳正と付き合っているらしいので、錬次郎に接触してきても彩華は気にしなかった。
 逆にルピナスが屈託なく話しかけてくると、彩華が凄まじい憎しみの篭った表情で睨みつけている事を彼は知っている)
後は白雲彩華、彩華の妨害を物ともせず錬次郎に纏わりついてくる幼なじみの馴木沙奈、そして彼のハーレム体質にやられたその他の女どもだけが
彼をとりまく人間関係の全てだった。

あるいは彼を無視し、傍観者に徹している他の生徒にとっては
彩華や沙奈、その他の女に囲まれ、引っ張り回されて目を白黒させる錬次郎は中々面白い見世物であったかもしれない。
しかし『ハーレム主人公』などと揶揄される錬次郎本人にとっては堪ったものではなかった。
あの夏の日に蔵の中で飲んだ薬によって、彼は普通の人間が味わう恋愛の喜びも、青春の楽しさも、全て奪い去られてしまったのだった。


そう、恋愛の喜び――皮肉にもそれは惚れ薬を飲んだ錬次郎から最も遠いものだった。
例えば(絶対にしないが)錬次郎が秘かに憧れているクラスメイトの麻生時音に告白して
時音が「YES」と答えたとしよう。
しかし錬次郎はこの答えを信じることが出来ない。
自分に寄せられる好意がその人の心からのものなのか、それとも惚れ薬の効果に過ぎないのか
彼はもう見分けることが出来なくなっていた。

これこそ本当に恐ろしい――見ず知らずの家庭持ちの女に突然無理心中をもちかけられたり
惚れてきた女の元彼が金属バットを振り回しながら追いかけてきたりする事よりなお恐ろしいことだった。

自分の周りにいる人間は全て、惚れ薬の効果に操られているだけのマリオネットなのではないか?
ルピナスや九十九や拳正が自分に接してくれるのも、彼らが幾許かの影響を自分の体質から受けているためではないか?
祖父や両親が自分を愛してくれるのも、見知らぬ人から受ける善意も、全て惚れ薬の効果がもたらしたものなのではないか?
皆が相手にしているのは惚れ薬の効果であり、『三条谷錬次郎』という人間自身は誰からも認められていないし必要とされていないのではないか?
いや、とっくの昔に『三条谷錬次郎』なんて人間は消え失せて、自分は単なる惚れ薬の入れ物に過ぎないのではないか?

この疑念は、錬次郎の自己存在を破壊する恐怖だった。
この考えが頭に去来する度に、彼は髪を掻き毟って大声て泣き叫びたい衝動に駆られた。
惚れ薬を呪い、それを飲んだ自分の運命を呪い、自殺を考えたことも一度や二度ではない。


――だから惚れ薬を作ったという女が現れ、悪びれもせずヘラヘラしているのを見て
彼はそいつを生かしておくことができなかった。

◆◆


あの魔女を殺したことで錬次郎のハーレム体質を治す術は失われた。
しかしまだ方法はある。

その方法こそ、最初に集められた大広間で殺し合いの説明を聞いている際に一瞬彼の脳裏を過ぎり
慌てて否定した悪魔の囁きだった。

あのワールドオーダーという男……周囲の物理法則を捻じ曲げ、他人の能力を書き換えることのできる
あいつなら錬次郎の体質を変化させることが可能なはずだ。
『自己肯定・進化する世界(チェンジ・ザ・ワールド)』とかいう力を使えば、彼を苦しめ続けたハーレム体質を無くすことなど簡単だろう。

だから……三条谷錬次郎はこのバトルロワイアルで優勝する。
優勝してワールドオーダーに自分のハーレム体質を治させる。
無論それが安楽な道でないことは承知している。倒すべき相手は七十名以上、その中には『普通じゃない連中』も混ざっている。
あの吉村宮子だって、彼女の言葉を信じればとても正攻法で彼が勝てる相手ではなかったはずだ。
そんな中でほとんど普通の人間である錬次郎が生き抜くのは至難の業だろう。


しかし彼には特別の武器がある。
この忌々しい『ハーレム体質』が。

この魅了という能力は使いようによっては中々役に立つ。
効くのは女性限定だが、相手の警戒を解いたり、油断を誘ったりできる。
あの吉村宮子だって彼の魅了に罹っていなければ
後ろを向いている間に彼がデイバッグを盗んだり、爆弾を仕掛けたりしたことに気がついたはずだ。
ましてや彼が窓を破って逃げ出しても不審に思わず、その結果むざむざ爆死したりすることもなかっただろう。

魅了をもっと上手く使えば、徒党を組んだ集団に入り込んだり
力のある者の庇護を受けることも可能だろう。

更に上手くすれば、自分から進んで彼の盾となり
殺人の共犯者となるような奉仕者を作ることが出来るかもしれない。


例えばあいつ――馴木沙奈。
錬次郎は名簿に載っていた幼なじみの名前を思い浮かべる。
彼が惚れ薬を飲む原因を作ったもう一人の元凶。今となっては早く殺してやりたいが、その前にこいつは利用できる。
沙奈は錬次郎と離れているときは、極めて真っ当な考え方をする真っ当な娘だ。
だが、錬次郎が近くで、この体質を最大限に発揮すれば――
あいつの理性や真っ当な考え方など、破壊するのは容易いことだ。
彼女ならきっと錬次郎の目的達成のために役立ってくれるだろう。


無論、この体質を過信するのは危険だ。
魅了は男には効かないし、慎重に行動しなければならない。
しかし搦め手としてこの体質を使えば、勝ち残ることができるかもしれない。いや、絶対に勝ち残ってみせる。

死を願うほど彼を追い詰めたハーレム体質が、今は勝ち残るための切り札というのも皮肉な話だ。
だが彼はもう自分の体質を利用することに躊躇いはなかった。

ワールドオーダーはこの殺し合いを革命だと言った。
だが錬次郎にとってそれは違う。
これは復讐だ。
運命の悪戯で青春を奪われた男の、人生を奪い返すための復讐だ。

工房から充分離れたことを悟ると錬次郎は走るのを止め
呼吸を落ち着けると、再びゆっくりした歩調で夜明け前の薄闇の中を歩き始めた。

【E-8 草原/黎明】

【三条谷錬次郎】
状態:健康
装備:M24型柄付手榴弾×4
道具:基本支給品一式、不明支給品1~3、魔斧グランバラス、デジタルカメラ
[思考・状況]
基本思考:優勝してワールドオーダーに体質を治させる。
1:自分のハーレム体質を利用できるだけ利用する。
2:正面からの戦いは避け、殺し合いに乗っていることは隠す。

039.アザレア、友達できたってよ 投下順で読む 041.罪と罰
時系列順で読む 043.ひとりが辛いからふたりの手をつないだ
工房の魔女 吉村宮子 GAME OVER
三条谷錬次郎 憧れ

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最終更新:2015年07月12日 02:35