むかーしむかーし、じゃなくて現代。
あるところに
尾関裕司という非モテ少年がいました。
少年は一部の同級生(主に
初山実花子とか初山とか実花子とか)から童貞と呼ばれて悔しい思いをしていました。
そこで少年は考えたのです。
そうだ、女の子になれば童貞って言われないんじゃね?と。
「なんだこの美少女!?」
鏡に写っている黒髪セミロングの美少女を見て、俺、尾関裕司は驚いていた。
それと同時に鏡の中の少女も可愛らしい声で驚愕する。
次に俺は頬を軽くビンタしてみた。
ワールドオーダーの言ったことが未だに信じられなくて、これが悪夢ならすぐに覚めたいからだ。
すると少女も俺と全く同じ動作で頬を叩く。パチンと小気味の良い音が鳴った。
「あいたたた……」
またしても聞こえたのは、少女の可愛らしい声だ。
男の俺が声を発しても、何故かその声が掻き消されて彼女の声がする。
こんなことが連続すると、自分がこの美少女になったみたいな感覚に陥りそうだ。
(あ、そうだ)
思い出した。
(性転換薬。これの影響なのか?)
近くに放置されていた薬袋を拾い上げる。
殺し合いに混乱していた俺は、一時的な気の迷いで開始早々にこれを飲んだ。
それから急に体が苦しくなって、結構な時間寝ていたけど、この薬の効果は本物だったのか?
よく見れば、筋肉で苦しかったはずの制服がぶかぶかだ。不思議と少し重くも感じる。
嫌な予感がした俺は、意を決して股間に手を当てた。
「うわぁ! 俺の未使用バナナがぁ!」
男なら誰もがあるべき聖槍がない。
それだけのことが俺にとって恐怖であり、同時に存在の否定でもあった。
一度でもいいからコンニャク以外のものを貫きたかったなぁ。ごめんなぁ、俺のグングニール。
「何がどんなむさ苦しい男でも一粒で美少女に♪だ! バーカ!」
死刑執行!
俺はストレス発散で性転換薬の説明書を八つ裂きにしてやった。
自分で飲んだのに理不尽だって言われそうだけど、説明書には槍が消えるなんて書いてなかったもんね! バーカ!
「ワールドオーダー! よくも俺のバナナ奪い去ってくれたな! ぶっ倒してやる!」
男の象徴を奪われた俺の怒りは、留まることを知らない。
必ず、かの邪智暴虐のワールドオーダーを倒さなければならぬと決意した。
あいつは色々と変な能力を持ってるらしいけど、それよりも俺の息子を盗んだことの方が重罪だ。死刑だ!
ワールドオーダー殺すべし。慈悲はない。
「何か困ったことでもありましたか? レディ」
トントン、と背後から肩を叩かれて、振り向くとそこには気持ち悪いイケメンが笑顔で立っていた。
「非モテの敵は見つけ次第殺せぇ!」
出会い頭に一発殴ってやった。殺すぞ、むかつくんじゃ!
八つ当たりですけど、何か?
美人のお姉さんと気の良さそうな男が来たのはそれから少し後だ。
♂♀♂♀♂♀♂♀
それから俺は、後で来た二人に嘘だらけの事情を話したり、情報交換を始めたりで大忙しだった。
可愛い女の子が怖い男の人に襲われたって言えば、誰でもそっちを信じる。俺でも信じる。
しかもこのピーターとかいう男は、究極の変態らしい。
結果的に、俺の話だけが全面的に信用されることになった。
ちなみに俺以外の三人は悪党と殺し屋らしい。
野球少年の俺には彼らが本当にそういう人間なのかは判断出来ないけど、ピーター以外、性格は悪そうじゃないからどうでもいいや。
同級生や姉の友達が癖のある人ばかりだから、こういう相手には慣れてるつもりだ。
「まだ反省してなかったのか……」
話を聞いた鵜院さんが呆れるように呟く。
俺もレズな姉がいるから、この人の苦労はわからないでもない。
鵜院さんはバットでボコられないだけまだマシだと思うけどな!
「君はすごいね。……何か特殊な技術でも?」
問いかけてきたのは
バラッドさんだ。
ピーターはナンパテクがすごいから、訓練を受けている女性以外には全くフラれたことがないらしい。
「わ、私は本当に何も……」
俺はわざとらしく震えながら答えた。
元男の俺にとってピーターはうざい存在だから殴っただけで、野球以外の技術なんてないから嘘はついていない。
「バラッドさん、一般人をからかうのは良くないですよ」
鵜院さんは本当にいい人だなぁ。
惚れそうになるぜ!
「ちょっと待って下さいよ。その少女が言ってることは全部嘘だって言ってるじゃないで……」
「「嘘をついてるのはどっちだ!」」
うんうん、これぞ俺の理想だ。非モテの苦しみを味わえ、ピーター!
俺が双葉からガン無視されてた苦しみ、お前にはわかるまい!
「それで、今後の方針はどうする?」
「とりあえず商店街でユージーちゃんが着る服でも探しませんか?」
ユージーちゃんとは、女の子を演じるために名乗った俺の偽名だ。
名簿に名前がないから怪しまれたが、名前が似ている尾関裕司と間違われて拉致された、という我ながら完璧な言い訳をしたら信用された。
男子制服を着ているのは尾関裕司のつもりが間違えて転送されたから、その時に服も間違えられたっていう設定。
「この制服は重いから、そろそろ着替えたい……かな?」
俺は鵜院さんの意見に賛成する。
ユージーちゃんを演じていると、女の子も悪くないなぁと思えてきた。
可愛い服で着飾って、もっと可愛くなるのも、いいかもしれない。
「私も賛成です。幼くてもレディはレディ。いつまでも男性の服を着せるのは、酷だと思いませんか?」
さっすがピーター!
いいことを言ってるのに縄で腕を縛られてるせいで残念なイケメンにしか見えないぜっ!
「そうだね。それにウィンセントの仲間、イヴァン、女性の死体。人が密集しそうな商店街なら、ユージーの服以外にも1つくらいは見つかるかもしれない」
バラッドさんが皆の意見をまとめるように方針を決めた。
俺的には殺し屋の幹部らしいイヴァンと女性の死体は見つけたくないけどな!
「戦力がバラッドさんしかいない今の状況で、茜ヶ久保とは会いたくないですけどね」
「さらっと私を戦力外通告してませんか!? これでも殺し屋ですよ!」
「ピーターとウィンセントで遠距離支援、私が接近戦で追い詰める。この戦法ならどう?」
「ユージーちゃんが危険じゃないですか」
「わ、私も武器があれば少しは戦える……かも?」
俺がその言葉を言うことを待っていたのか。
バラッドさんがシュバッとデイパックから何かを取り出すと、俺に渡してきた。
「それ、ただの金属バットじゃないですか?」
すかさずピーターがツッコミを入れる。
「ユージーは野球少年の尾関裕司と間違えられた子だよ。野球が強くても、不思議ではない」
「そーですね。これなら私も戦えそうですっ!」
普段よりも少し重く感じるけど、使い慣れた得物があれば俺も戦えるかもしれない。
試しに素振りをするとひゅん、と良い音がした。
ここに来てまだ数時間しか経ってないのに、バットの感触が随分と懐かしく思える。
「これで戦力は整ったね。商店街に行こうか」
「……茜ヶ久保と会ったら戦うんですか?」
「それは彼の態度次第だね。実際に会ってみないとわからないこともある。ウィンセント、君も覚悟を決めた方がいいと思うよ」
そう言うと、バラッドさんは商店街に向かって歩き始めた。
それにつられて俺たちも移動するけど、鵜院さんの顔がちょっと暗い。
「だ、大丈夫ですよ、鵜院さん! 私たちが付いています!」
俺は彼を元気付けてあげようと、だらりとぶら下がっている手を力強く握った。
普段なら意識しないのに、鵜院さんの手が少し大きく感じる。
女の子から見た男の手はこんなにも大きくて、頼もしいものだったのか。
「ありがとう」
鵜院さんは顔を赤らめて礼を言うと、デイパックから変な物体を取り出した。
どこかで見たことがあるような、人と鹿が融合した怪物だ。
「もしかして、せ○とくん?」
「えと、感謝の気持ちだ。ユキが欲しがるくらいだから、女の子はこういうのが好きだと思って」
うわぁ。ユキさん、すごいセンスしてるんだな。
姉ちゃん、
ルピナスさん、ユキさん、舞歌さんの中では一番の常識人だと思ってたけど、感性だけはズレてるのか?
電波っぽい発言の数々は悪党商会や能力絡みのことだとしても、この趣味だけは理解出来そうにない。
「ウィンセントに、せ○とくん? ワールドオーダーも粋なことをするね」
「「なるほど」」
俺と鵜院さんの頭がピコーンとなる。これはワールドオーダーのギャグだったのか。
支給された鵜院さんも気付いてないって、バラッドさんが言わなかったらワールドオーダー渾身のギャグも台無しだったな。
「なんですか、それ?」
「せ○とくん。日本の名物、ゆるキャラよ」
俺たちの行動を不思議そうな目で眺めてやがるピーターに、バラッドさんがせ○とくんの説明をしていた。
少しだけ行動してわかったけど、この人は日本刀に限らず日本のこと全般に詳しいようだ。
そんな人が奈良のマスコットキャラクター、せ○とくんを知らないはずもなく、こうして会話が成り立っている。ワールドオーダーはバラッドさんに感謝しろ。
「それって小馬鹿にされてるだけじゃ……ぶっ!?」
お前はちょっと黙ってろ!
俺は空気を読めないピーターの足を思い切り踏んでやった。
「あ、ありがとうございます! 私もせ○とくん大好きで、ずーっと欲しかったんですよ! 絶対になくさないように、大切にします!」
鵜院さんからせ○とくんのぬいぐるみを受け取った俺は、笑顔でくるりと一回転。喜びを全力で表現する。
この化物が可愛いとは思わないけど、男が女の子にプレゼントを渡したんだ。美少女ならどんなものでも喜んで受け取るべきだと、俺は思っている。
ホワイトデーで小馬鹿にしやがった実花子やガン無視の双葉、爆発物とか言ってチョコをぶん投げた恵莉も俺を見習え!
「そ、そうか! それなら良かった、大切にしてくれ」
鵜院さんの顔が、ぱあっと明るくなる。
俺も鵜院さんが元気を取り戻せたみたいで嬉しいですよっ!
「……興味がないとはいえ、私も女性だよ。ウィンセント、君はデリカシーがないね」
「「え?」」
バラッドさんの呟きに、俺と鵜院さんは首を傾げる。
その声色は、どこか怒っているようにも聞こえた。
「商店街に急ごうか。遅いと置いていくよ」
女と付き合った経験ゼロの俺には、バラッドさんの気持ちがよくわからない。
かっこいい美人だと思ってたけど、意外と可愛い物好きだったりするのか?
彼女に言い返す言葉もなく、俺たちは早足で歩くバラッドさんに追い付くために走った。
目指すは、商店街だ!
【I-8 市街地/黎明】
【尾関裕司】
[状態]:健康、女体化
[装備]:金属バット
[道具]:基本支給品一式、手鏡、せ○とくんのぬいぐるみ、ランダムアイテム0~1
[思考・行動]
基本方針:俺はユージーちゃん!
1:しばらくはバラッド、ピーター、
鵜院千斗と行動する。
2:商店街に向かう。
3:可愛い服で着飾って、もっと可愛くなりたい。
【鵜院千斗】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0~2
[思考・行動]
基本方針:助けられる人は助ける
1:しばらくはバラッド、ピーター、ユージーと行動する。
2:商店街に向かう。
3:できれば悪党商会の皆(特に半田と水芭)と合流したい。
【バラッド】
[状態]:健康
[装備]:朧切
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0~1(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:イヴァンは殺す
1:しばらくは鵜院千斗、ピータート、ユージーと行動する。
2:商店街に向かう。
3:試し切りしてみたい
※鵜院千斗をウィンセントと呼びます。言いづらいからそうなるのか、本当に名前を勘違いしてるのかは後続の書き手にお任せします。
【
ピーター・セヴェール】
[状態]:顔に殴られた痕、手首拘束
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、MK16、ランダムアイテム0~2(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:女性を食べたい(食欲的な意味で)
1:しばらくは鵜院千斗、ピーター、ユージーと行動する。
2:商店街に向かう。
3:早く女性が食べたいです。
【性転換薬】
尾関裕司に支給。
飲むと性別が転換する薬。
使用することで女性の場合、筋肉がついたり、身長が伸びたり、モノがついたりし、男性の場合、胸が膨らんだり、肉付きがよくなったり、モノがなくなったりする。
性格に影響はない。
最終更新:2015年07月12日 02:31