「シルバー・トランスフォーム!」

氷山リクの叫びに腰元のベルトの音声認識が反応し、その体内に埋め込まれたシルバーコアが起動する。

[Authentication Ready... ]

機械音と共に変身プログラムが作動。
暗闇に淡い銀の輝きが浮かび、その光がリクの全身を流れるように包みこむ。
エネルギー装置であるシルバーダイナモが活性化し、身体能力が引き上げられる。
光は四肢の先端から集約してゆき、構成物質が塗り替えられてゆく。

[Transform Completion]

これらの変換作業は瞬きの間にも満たない一瞬の出来事である。
晴れた光の中から現れたのは、メタリックな強化服に包まれ首元に白いマフラーをはためかせた白銀の騎士。
それは数多のヒーローの中で唯1人、政府から実力行使を認められた『政府特別公認英雄』。
悪を討つ白銀の刃。その名も。

[Go! ―――――Silver Slayer]

銀の仮面を被る白銀の騎士に対するは、黒い覆面を纏った漆黒の怪人。
無差別に幾多の人間を殺害してきた都市伝説、覆面男
変身の間に距離を詰めた怪人が、錆びつき血のこびり付いた大鋏を振り上げる。
叩きつけるような豪快さで振り下ろされる大鋏を、シルバースレイヤーは瞬時に腰元のシルバーブレードを抜き受け止める。

「ぐっ」

受け止めたものの、凄まじい衝撃がシルバースレイヤーの両手を襲う。
何と言う怪力。
シルバースレイヤーの体が圧力に沈む。
特殊金属により生成されたシルバーブレードでなければ、刀身は欠け最悪折れていたことだろう。

そのまま鍔迫りのような形となり、覆面男は巨体を生かし上からリクを押し込んでゆく。
覆面男の剛力は、改造人間であるシルバースレイヤーを圧倒的に上回っていた。
このままいけば、その怪力を前に押し切られてしまうだろう。

だが、所詮そんなものはただの力押しに過ぎない。
ただの力押しで勝てるほどシルバースレイヤーは甘くはない。

シルバースレイヤーは手首を返し、押し潰さんとする圧力を受け流す。
あの遠山春奈にこそ及ばないものの、剣道家としての技量も一流である。
この程度の受け捌きなど造作もない。

前方へとかけた圧力を受け流され、バランスを崩した覆面男がたたらを踏んだ。
ベルトのボタンを押しながら、その背に向けて白銀の戦士が跳ぶ。
シルバーダイナモからエネルギーが右足に流れこむ。

[Right Leg Charge Completion]

月光を背にしたシルバースレイヤーの右足に銀の稲妻が迸る。

[Go! Silver Break]

急転直下の軌跡を描き、必殺のシルバーブレイクが炸裂する。
爆発するような衝撃が直撃し、覆面男の巨体が大きく吹き飛んだ。

だが、その豪快な光景とは裏腹に、着地したリクは仮面の下で違和感を感じる。
今の一撃は妙な感触だった。

(軽い…………?)

あの巨体で加えてあれほどの怪力ともなれば、かなりの重量があって然るべきだが、想像以上にその手応えは軽かった。
自ら飛び衝撃を殺すなどという、そんな器用な真似ができるとも思えないが。
大きく吹き飛んだように見えるが、宙を舞う綿毛を殴った所で効果がないように、おそらくダメージもそれほどではないはずだ。
そのリクの推測を裏付けるかのように、覆面男は何事もなかったかのようにムクリと立ち上がる。
のっそりとした怠慢な動きだが、ダメージによるものではないだろう。

何が飛び出すかわからない怪人を相手にするにあたって、この手の違和感を無視してはならないというが鉄則だ。
恐らく覆面男に打撃は通じないとみていい。
ならば斬撃で仕留めるまで。
そう考えを纏め、シスバースレイヤーはシルバーブレードを構えベルトを操作する。

[Silver Blade Charge Completion]

銀の刃が青白い輝きを帯びた。
シルバースレイヤーが夜の闇に銀の軌跡を描きながら、疾風のように加速する。

[Go! Silver Thrasher]

すれ違い様に横薙ぎに振るわれた一陣の銀光。
暗闇に一文字の残光が描かれる。

「――――地獄で詫びろ」

覆面男の丸太の様に野太い首が、パックリとがま口のように切り裂かれた。
首を完全には撥ねきれなかったが、首を中ごろから真っ二つにされて、生きていられる生物などいない。
ヒーローは怪人に対して当然のごとく圧勝した、かに思われた。

「なっ…………!?」

だが、それは間違いだった。
残心のためシルバースレイヤーが振り返った眼前に、巨大な腕が迫っていた。
驚きを得ながらも。反射的な動きでシルバースレイヤーはその腕を躱す。
だが、その腕は人間の関節構造では不可能な動きで稲妻のように折れ曲がり、シルバースレイヤーの動きを追い、その首をがっちりと捉えた。

「ぐッ!」

首を締め上げられ、体を持ち上げられながら、シルバースレイヤーは見た。
覆面男の正体を。

そこには、奇妙な光景が広がっていた。
端的に見たままを述べるなら、切り裂いた首元から黒い手が生えていた。
更に言うなら、切り裂かれた隙間から覗く先に肉体など無かった。
その中には黒い靄の様な渦が、蠢く様に満たされていた。

(そうか……こいつは、こいつの正体は…………ッ!!)

それはリクと同じ改造人間か、それとも魑魅魍魎の類か。
覆面男に肉体などなかった。
衣服の中にみっしりと詰まっていたのは黒い霧の様な不気味な何かだった。
それは黒煙というより粘ついたヘドロやタールの様に濁り、水に溶けた油のような不気味な斑模様が流動しながら揺蕩っている。
まるで怨念や憎悪を煮詰めたような、見る者に不気味な嫌悪感を抱かせる、先の見えぬほど濃い闇。

その正体が実体のない存在であると判明しようとも、その剛力は変わることはない。
シルバースレイヤーの首を締め上げる腕はその力を強め、強化服がミシミシと軋みを上げた。
強化服は弾丸などの瞬間的な衝撃には強いが、緩やかな圧力には意外なほどに脆い。
このままいけば強化服を破壊され、生身の喉ごと握りつぶされるのも時間の問題だろう。

「こ…………の!」

宙ぶらりんに拘束された体制のまま、シルバーブレードを振るって首を絞める手を切り裂くが、返るのは空を切る感触のみ。
煙を切ることなど叶わず、拘束はまったくと言っていいほど緩まない。

隕石から採取された特殊金属『コスモ・メタル』により精製されたシルバーブレードに斬れないモノはない。
だが、斬っても意味のない相手ともなると、さすがに相性が悪い。

これは煙を完全に吹き飛ばせるボンバー・ガールか。
それとも悪霊の類だというのならシュバルツティガーの領域である。

多種多様を極める怪人に対して対応できるあらゆる人材を網羅する。
ジャパン・ガーディアン・オブ・イレブンが11人もいるのにはそういう側面もある。

「……それでも、引けないってのがヒーローの辛いところだな、っと!」

シルバースレイヤーは圧力に抗いながら、右手を伸ばしてベルトを操作する。

[Left Hand Charge]
[Left Hand Charge]
[Left Hand Charge Over]

閃光と共にシルバースレイヤーの左腕が弾けた。
左腕へ溜めたエネルギーを意図的に暴発させたのだ。
爆風により、シルバースレイヤーを縛り付けていた闇の腕は一時的に霧散する。
その拘束が解けた一瞬を逃さず、素早く身を引き退避するシルバースレイヤー。
それに僅かに遅れて空中に霧散した闇の破片が再度集約してゆき、腕を模った。

予測通り爆発は有効である。
だが、ほとんど自爆技のため、これを繰り返すのは暴発した個所の負荷が高い。
何よりエネルギーの消費が激しいため多用はできない。
はやり正攻法で行くしかなさそうだ。

とはいえ倒すと決めたはいいが、現在の近接戦闘フォームのままでは覆面男に有効打を与えられないだろう。
今のところ具体的な打開策はない。なにか攻略法を考える必要がある。

しかし、バチンという音がシルバースレイヤーの思考に割り込むように鳴った。
覆面男が大鋏の繋ぎを外し二つに分けた音だ。
考えがまとまるのを敵が待ってくれるはずもなく、覆面男が動く。

二刀流となった大鋏に加え三本目の腕。
流石にこれを掻い潜るのは並大抵の事ではない。
だが、それをやってのけてこそ、最優と呼ばれるヒーローである。

覆面男の剛腕により豪快に振り降ろされる二刀。
これをシルバースレイヤーは一方を刀身で弾き、一方は身を屈めその下を掻い潜った。
そして残るは、縦横無尽の軌道をたどる三本目の腕。

「遅い――――!」

その腕が追いつくよりも早くシルバースレイヤーは駆け抜ける
そして、すれ違いざまに覆面男の右足を切り裂いた。
足を崩せばさすがにバランスを保っていられないだろう、という試みだが、覆面男は片足のまま不動。効果は余りなさそうである。

どころか、覆面男の切り裂いた足から新たな黒靄が噴出し腕の形をした何かヌルリと伸びた。
加えて、首から生える腕が八岐大蛇の如く八股に分かれた。

「……………マジ?」

より怪人染みた外観となった覆面男がシルバースレイヤーに襲いかかる。
覆面男の戦法は相も変わらず、ただ振り上げた腕を振り下ろす、その一点のみである。
だがそれも、限度を過ぎれば十分に脅威となる。
これほどの手数、さらに覆面男の剛力を思えば一撃貰うのすら不味い。

総じて十三の腕による猛攻をシルバースレイヤーは躱し続けるが。流石に反撃へと転じる余裕はない。
というより、攻撃すればするだけ相手の噴射口を増やすことになる。
加えて、大したダメージになっていないのだから泣きたくなってくる話だ。

(いや、待てよ…………?)

そこで、リクにある気づきがあった。

覆面男の性質は気体に近い。
切り裂いた裂け目から腕が現れたように、形にとらわれないその自由度は脅威である。

ならば何故、衣服などという拘束具にその身を押し込めているのか。
まさか公序良俗を気にしてなどという理由ではあるまい。
そこには何か理由があるはずだ。

(突破口になるか?)

その思い付き。
全部その衣服を剥ぎ取ってみればどうなるのか。
もしかしたら相手の自由度を上げるだけで現状以上に不利になるかもしれないという一種の賭けだが、それ以外にプランもない。

「いっちょ試してみますか」

そう気合を入れ直し、シルバースレイヤーはシルバーブレードを構え直した。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

繰り広げられるシルバースレイヤーと覆面男の激戦。
その光景を、僅かに離れた場所から見つめる者がいた。
気絶したアザレアを小脇に抱えた雪野白兎である。

状況は見れば彼女にもだいたいわかる。
安全確認に行って、安全ではなかったという事だろう。

(邪魔しないほうがいいかしら)

苦戦しているようだが、手助けに入ろうという発想は白兎にはない。
何故なら、白兎はシルバースレイヤーの力を知っている。
強いだけなら彼以上の者はいくらかいるが、それとはまた違う、言うならば状況打開能力がずば抜けてる。
相手がどれだけ強くとも、まっとうな一騎討ちで、彼が負けることはないだろう。

それよりも、今は小脇に抱える少女の対処をしないといけない。
彼女を拘束するような道具を探して辺りを軽く探索しようとしていたのだが。
探索するにしても意識を失った少女をその辺に放置しておくわけにもいかず、直接小脇に抱えたという状況である。

だが、リクの合図が来るまでの軽い探索のつもりだったが、リクが戦闘に巻き込まれていることが分かった以上、やめておいた方がいいだろう。
リクの勝利を信じて戦闘が終わるまでは巻き込まれない様に退避するのがベストだ。
となると直接相手の体に触れているだけに、相手が意識を取り戻したり動き出そうとすれば分かるのだが、少女が意識を取り戻した場合を思うと早めに少女を降ろしてしまった方がいい。

「…………っ!」

そう考え。動き出そうとした所で、白兎は手の甲に鋭い痛みを感じた。

白兎の失点は二つ。
相手に触れているのはアザレアも同じであること。
そしてアザレアが不意打ちと騙し討ちに特化した暗殺者であったということ。
この二点である。

相手の意表を突くのはアザレアの得意技だ。
一瞬落ちていたのは本当だが、その後程なくして意識は取り戻していた。
その後は気絶したふりをしながら機を伺っていた。
そして、白兎が一旦探索を諦めアザレアを手放そうとした、そこしかないというその瞬間に動いた。

アザレア最大の武器はその自然体である。
殺意もなければ、文字通り相手の手の内で堂々と寝たふりを決め込めこんでいても緊張すらしない。
そのため筋肉の強張りといった動きの前兆が限りなく少ない。
実際、白兎も痛みを感じた瞬間、手の内のアザレアの犯行を疑うどころか第一に第三者による外からの襲撃を疑ったくらいだ。
それほどに、彼女には不自然さはなかった。

白兎につけられたのは、鋭く研いだ爪による引っ掻き傷である。
ダメージと呼べるほどのものではないが、痛みによる一瞬のスキを得るには十分だ。
アザレアは緩んだ拘束をネコ科動物のようにしなやかにすり抜け、着地すると同時に白兎の腰元から没収されたナイフをくすねる。
その一連の動きは速いというより迷いがない。

それに僅かに遅れ白兎はアザレアを止めるべく手を伸ばすが、その手をすり抜けるようにアザレアは白兎の方ではなく激戦の渦中へ向かって駆け出して行った。
ナイフを片手に駆ける少女の背を止められず、白兎は叫ぶ。

「ごめん! そっち行った!」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「さて、もう時期夜も明ける、そろそろ決着といこう覆面男」

シルバースレイヤーは眼前の覆面男へとそう言い放つ。
ヒーローと怪人の戦いは、佳境を迎えようとしていた。

これまでの戦闘でかなりの無茶を通したのか、シルバースレイヤーも無傷ではない
白銀の強化服は所々汚れと傷が目立ち、中のリクにも少なからずダメージがある。

だが、それ以上にボロボロなのは覆面男の方である。
その衣服はズタズタに切り裂かれ、もはや残っている面積の方が少ない。
そして破れた隙間と言う隙間からは数えるのもバカらしい程の手とも足ともつかない触手の様な細い黒蔦がうねりを上げていた。
元あった二本の腕など既に見る影もなく、もはや人型ですらない。

「だいぶ薄くなってきたな」

リクは目を細め、うねる触手を見つめてそう言った。。
先の見えない濃霧はいつしか、薄らながらも先の透ける濃度となっていた。
分散しすぎたというのもあるだろうが、恐らく煙を密封する衣服がなければ体を維持できないのだろう。
覆面とは覆面男にとって身を縛る拘束具であり、身を守る鎧でもあったのだ。
時間はかかるだろうが、このままいけば時期に覆面男は霧散するだろう。

闘う内に、煙の密度とその怪力は比例する事もわかった。
手数を増やせば煙の密度も落ち、力も落ちる。
これではどれだけ手数が増えても大した脅威ではない。
部位ごとに密度の違いを生み牽制と本命を混じらせるなどの戦術があれば話は別だが、覆面男にはその知恵もない。
本能のまま増やし振うだけだ。

ここまで特性が見えてしまえば、もはやシルバースレイヤーに敗北はない。
宣言通り、決着をつけるべくシルバースレイヤーが動く。

「ごめん! そっち行った!」

だが、動き出そうとした背に声がかかった。
シルバースレイヤーは瞬時にその声に反応して、後方の対処へと動きを変える。
その判断も、反応速度も圧倒的に早い。
後方から迫る襲撃者に対して振り返りざまに刃を振った。

(女の子…………!?)

だが、敵を一刀両断にするはずの刃がピタリと止まる。
それは氷山リクの甘さ。
凶器を持ち迫る少女、アザレアを斬れない。

無理に攻撃を止めたため、リクの体制が崩れた。
そこにアザレアの刺突が容赦なく襲い掛かる。

「きゃ!」

だが、悲鳴を上げたのはアザレアの方だった。
アザレアの腕力では強化服を通せず、突きの反動で逆に衝撃を受け弾かれるようにその場に尻もちをついた。

だが、アザレアの襲撃を凌いでもリクの心中に安堵はない。
何故なら問題はそちらではない。
ゾクリとリクは後方で闇が蠢く気配を感じる。

僅かに残った衣服を完全に捨てて覆面男が動いた。
完全に衣服を捨てた今、その動きに、規模に、範囲に制限はない。
暗闇は爆発的に広がり、空を地を全てを覆ってゆく。

(やべェ…………ッ!)

それは黒い津波だった。
視界一面が黒に染まる。
とても躱しきれない。
それどころか、この規模だと白兎まで巻き込まれる。

一か八か全身にチャージを行い、暴発させ爆風で対抗するしかない。
実質上の自爆技を使う覚悟をリクは決め、ベルトに手を伸ばした。

[Full Charge―――――]

シルバースレイヤーの全身が光り輝く。
しかし覆面男は、意外にもこれをスルー。
津波のような黒渦はリクでも、ましてや白兎でもなく、アザレアを包むように渦となった。
渦は一瞬で黒い繭となり、アザレアを内包したまま上空へと舞い上がっていく。
上空に対して追っていく手段のない二人は、その光景を見送るしかない。
明るみ始めた空の彼方に黒い繭が消えていくのを確認したところで、二人はトボトボと合流を果たす。

「ゴメン、私のミスだ。油断したわ」
「いや、いいさ。合図を出すと言ったのにそっちを気にかけられなかった俺も悪い」

そう言いながらベルトを操作しリクは変身を解除した。

「それで、何だったの今の?」
「覆面男だよ。社長も噂くらいは知ってるだろ?」
「覆面? あれのどこに覆面があったっていうのよ?」
「あったんだよ、俺が剥ぎ取ったけど。中身がアレだ」
「ブレイカーズあたりの怪人だったのかしら? あんなのがいるなんて話は聞いたことがないけど。
 それにしてもずいぶんと苦戦してたようだけど、そんなに強かったの?」
「強かったというより相性が悪かったな。
 お蔭で思いのほか長期戦になってしまったから、少しエネルギーを消費しすぎた」

それでも退けてしまうのは流石と言った所か。
リクの言葉に白兎は思い切って前々から思っていた疑問をぶつける。

「ところで前から疑問だったんだけど。あなたのエネルギーって、どうやったら回復できるの?
 というかこの状況で回復はできるの?」
「そんなの商売敵に教える訳ないだろ、っと言いたい所だが、そんな場合でもないか。
 こっから先はオフレコで頼むぜ」

考えとくわ。と白兎は軽い返事だが、その辺はリクも信用している。
無暗に言いふらすようなことはしないだろう。

「エネルギーの回復には専用のエネルギーユニットが必要だ。
 あの時も予備は何個か持ってたから、ひょっとしたら誰かに支給されてるかもしれない。
 一応聞いとくけど社長はそれっぽいの持ってないよな?」
「ないわね」
「だよな。
 本部に戻れば設備があるから、そこでも回復は可能だが、それはさすがにここでは期待できないな」
「自然回復はしないの?」
「一応、日光と月光でも回復もする。けど回復量は微々たるものだな。
 それに日光の回復量は月光の5分の1ってところだから、もうすぐ夜が明けちまう、今からじゃちょっと厳しいな。
 そのうえ光を取り込むためコアを晒す必要があるからリスクも高い」
「コアの位置は?」
「ここ」

リクは親指でトンと己の胸元、心臓を指さす。

「まあ最悪、私が哨戒(スカウト)しながらなら何とかなるか、エネルギー残量はどのくらい?」
「半分ちょいくらいだな」
「となると……自然回復分を考えても戦えて2、3回、下手すりゃ1回って所かしら」

口元に手をやり、白兎は少し考え込んで結論を述べる。

「不味くない? そりゃ私もあなたも生身でもそこそこやれないことはないけど」

変身出来ない状況でボスクラスに合ったら確実にアウトだ。

「そうなると、いざと言う時の事を考えたら、まずは氷山くんの回復手段を探すのを優先した方がいいかしら」
「当初の予定通りナハト・リッター達と合流して戦力を増やす方向でもいいと思うがな」
「なら並行していくしかないわね。どうせあなた以外に使い道のない道具なんでしょ?
 持ってる人がいたら物々交換でもして平和的に譲ってもらいましょう」
「持ってるやつが話し合いの通じる相手とは限らないだろ、その時はどうするんだ?」

決まってるでしょ、と白兎は当然のごとく言い放つ。

「その時は仕方ないわ。平和的じゃなく譲ってもらうとしましょう」

【H-6 電波塔前/早朝】
【氷山リク】
状態:全身ダメージ(小)左腕ダメージ(中)エネルギー残量55%
装備:なし
道具:基本支給品一式、ランダムアイテム1~3(確認済み)
[思考・状況]
基本思考:人々を守り、バトルロワイアルを止め、ワールドオーダーを倒す。
1:エネルギーの回復手段を探す
2:剣正一火輪珠美、佐野蓮、空谷葵と合流したい。
3:ブレイカーズ、悪党商会を警戒。
※ブレイカーズ、悪党商会に関する知識を得ています。
※心臓部のシルバーコアを晒せば、月光なら1時間で5%、日光なら1時間で1%エネルギーが回復します

雪野白兎
状態:健康
装備:なし
道具:基本支給品一式、ランダムアイテム1~5(確認済み)
[思考・状況]
基本思考:バトルロワイアルを破壊する。
1:氷山リクの回復手段を探す
2:佐野蓮、空谷葵、剣正一、火輪珠美と合流したい。
3:ブレイカーズ、悪党商会を警戒。
※ブレイカーズ、悪党商会に関する知識を得ています。





「すごい! すごいわ覆面さん!」

遥か上空で風を切りながら、アザレアは歓喜の声を上げた。
空中遊泳にはしゃぐ姿だけを見れば、ただの年相応の少女である。

卵形の繭だった覆面男の形状は変わり、今は平らな下敷きのような形となりアザレアを乗せている。
それはお時話の魔法の絨毯のようでもあった。
メルヘンとは程遠いヘドロのような余りにもおどろおどろしい色合いではあるのだが。

「覆面の下はそんな顔をしてらしたのね」

そっと足元の黒渦を撫でる。
さっきの仮面の人と言い外にはいろんな人がいるのね。とアザレアはそんなことを思った。

覆面男は何も言わない。
と言うよりそもそも喋れるのかも怪しい。
何故アザレアを連れて逃げたのか、その理由は分からない。

空が黄金に染まる。
仕事の時は基本的に夜が明ける前に撤退するため、アザレアにとってこれが生まれて初めて見る日の出の瞬間である。
その眩しさにアザレアは思わず目を細めた。

「ああ――――綺麗ね、本当に綺麗」

【G-6 上空/早朝】
【アザレア】
[状態]:健康
[装備]:サバイバルナイフ
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:自由を楽しむ
1:空中遊泳を楽しむ
2:覆面男に自分の作品を見せる

【覆面男】
[状態]:濃度60%
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:???
1:???
※アザレアをどう思っているのかは不明です。というか何を考えてるのか不明です。
※外気に触れると徐々に霧散します、濃度が0になると死亡します


051.Hyde and Seek 投下順で読む 053.MI・XY
時系列順で読む
アザレア、友達できたってよ 氷山リク 目指せMVP
雪野白兎
アザレア 空の会遇
覆面男

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2015年07月12日 02:46