あの魔女を爆殺した後、僕はしばらく当てもなく歩いていた。
 だが、僕には一晩中歩き回るだけの体力はなく、その事を自覚していたので探索を早めに切り上げ適当な物陰で休息を取っていた。
 そうして幸か不幸かそのまま誰にも会うことはなく、僕はこの6時間を生き延び、第一回目の放送の時間を迎える。

 どこから流れているのかわからないな不気味な声。
 その声が告げる禁止エリアなどの情報をメモしてゆく。
 そして事は死者の発表の段階に至り、僕のメモを取る手が止まった。

 白雲彩華

 その名前を聞いた瞬間、喉の奥から笑いが止めどなく溢れてきた。
「あは…………あははははははははははははははははははははははははははは! 死んだ! あのお嬢様が死んだのか!」
 腹を抱えて狂ったように爆笑する。
 人生を狂わせた元凶である魔女も。
 現在進行形で人生を狂わせているお嬢様も。
 みんな死んだ。

「ざまーみろ! ははは、ふははははっはははははは!!!」

 これで人生がリセットされた訳じゃないが、気分は晴れやかだった。
 自分を縛りつけていた目に見えない何かが、一つ一つ解けて行くようである。
 その解放感に笑いが止まらない。
 ここにきて人生は好転している、後は前に進むだけだ。

「あははははははははははははははははは、ははっ、は、はぁ…………」
 だが、徐々に声のトーンは沈み、歓喜の笑いが乾いた笑いへと変わってゆく。
 彩華の死は喜ばしいことだが、他のクラスメイトの名も呼ばれてしまった事に思うところがないわけじゃない。

 彩華に縛り付けられたこちらの境遇など気にせず、天真爛漫に接してくれた数少ない人物であるルピナスが死んでしまったことは少しだけ残念に思うし、何より――――麻生時音が死んでしまった。
 彩華に知れてしまったら彼女にどのような咎が及ぶか分かったものではないから、決して表には出さなかったけれど、僕は密かに彼女に憧れていた。
 いつも凜として、体質改善薬で抑え込んでいるとはいえ、この体質になびかない意志の強い女性だった。
 それは彼女に別の想い人がいた事を示していたのかもしれないけれど、それでもよかった。
 ただそういう存在がいるという事が僅かながらの救いだった。

 けれど、勝者となると決めた以上、いつか殺さなければならない相手である。
 いつも本当に欲しいものは手に入らない。いらない物ばかりがついてくる。
 悲しさという感情は確かにあるが、今は己の手で殺す必要が無くなったという事を喜ぼう。

 死んだクラスメイトの名を元に、生き残ったクラスメイトを確認する。
 馴木沙奈新田拳正一二三九十九、夏目若菜、尾関夏実水芭ユキ
 生き残りは6人。
 あとは先輩が一人いるみたいが、探偵として名を知っている程度で、直接的な関わりはないので思うところはない。
 女だから利用できるかな、というくらいだ。

 沙奈はまだしぶとく生き残っているようだ。
 惚れ薬を作った吉村宮子は死に。
 惚れ薬の効果に狂った白雲彩華も死に。
 後は惚れ薬を飲む原因となったこいつも死んでいれば、この体質に纏わる因縁の人物は殆ど一掃できたのだが、まあそれはいい。
 こいつは利用できるだけ利用して、ボロ雑巾のように捨ててやる。
 それまでは死んでもらっては困る。

「……あとは、新田くんも生きているのか」
 やはり、というか彼も生き残っている。
 自分だけじゃなく、あのクラスの全員に共通する認識だろうが、彼が死ぬ様は正直想像しづらい。
 本物の魔女と出会った後でもその認識は変わらない。

 そう思うのはきっと、自分が新田拳正に対して憧れの様な感情を抱いているからだろう。
 もちろん麻生時音にむけた恋慕の感情とは別の、ああ成れたらいいなという男としての憧れである。

 それは腕っぷしではなく、風評に流されず己を突き通す、その在り方に憧れた。
 それは彼が何も考えていないバカなだけだと言う人もいるけれど、そうは思わない。
 少なくともあのお嬢様に対しても一歩も引かず真正面から噛みついて行った人間は、自分の知る限り拳正だけである。
 自分が彼のような強さを持っていれば、こんな体質でも周りにいいように流される生き方じゃなく、もう少しマシな生き方ができたのかもしれない。

 優勝を目指すのならば、どちらかが死なない限りはいずれ出会う。
 そうなれば僕は彼を、憧れを乗り越えねばならない。
 そうでなければ未来がない。

 もちろん真正面から勝てる相手ではないことは分っている。
 男性である彼には僕の魅了体質も通じない。
 彼を倒すためには武器が、使える女が必要だ。

 彼の恋人である一二三九十九を利用するのもいいだろう。
 改善薬で押さえていた時ならともかく、今の自分なら恋人がいようともお構いなしなはずだ。
 一二三九十九には恨みもないが、必要とあらばその心を弄び利用することも厭わない。
 弱い自分が勝つためにはどんな汚い手も使う覚悟が必要だ。

 ハッキリ言って今のままでは拳正に勝つどころか、誰かに襲われただけで抵抗する間もなく殺されてしまうだろう。
 手榴弾は奇襲をかけるには適しているが、撃退には向かない武器だし。斧は重すぎて扱えない。
 襲撃者が女ならばこの体質でやり過ごせるかもしれないが、男だったらひとたまりもない。

 まずは盾が必要だ。
 そのために人の集まりそうなところを目指す。

 現在地はD-10。
 周囲にあるのは廃村や廃校、地下実験場なんてよくわからない物もある。
 その中で人の集まりそうな場所と言えば、研究所くらいのものか。

 研究所と言うくらいだ。
 それなりの設備は整っているはずだ。
 そこでこの首輪を何とかしようとしている輩が集まっている可能性もあるだろう。
 その中にはきっと女もいるだろう。
 利用できればいいのだが。

【D-10 草原/朝】
三条谷錬次郎
状態:健康
装備:M24型柄付手榴弾×4
道具:基本支給品一式、不明支給品1~3、魔斧グランバラス、デジタルカメラ
[思考・状況]
基本思考:優勝してワールドオーダーに体質を治させる。
0:研究所に向かって利用できる人間を見つける。
1:自分のハーレム体質を利用できるだけ利用する。
2:正面からの戦いは避け、殺し合いに乗っていることは隠す。

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魔女特製惚れ薬を飲んだ俺の青春がハーレム化して大変なことになっている件について。 三条谷錬次郎 魔法使いの祈り

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最終更新:2016年03月02日 17:35