窓もない部屋の中、無数のパソコンの稼動音に混じって、高速でキーボードを叩く音が響く。
キーを弾いているのは白衣を着たまだ幼い少女だった。キャスター付きの椅子に乗って幾つものPCの間を動き回り
幾つもの作業を平行して迅速に済ませていく、その様子は外見年齢からは想像もつかないものだった。

「……駄目だ。首輪のデータだけ完全に抜き取られているのだ。
 データを回収したという宇宙人の言葉はハッタリではなかったようだな」

やがて手を止めると、見た目は少女・中身は五十代男性の科学者ミルはそのツインデールの髪を横に揺らした。

スライム状の怪生物から剣正一ミリア・ランファルトを助けた後、彼らは情報交換と基地内の探索を終え
今はあの宇宙人と名乗ったスライムが、本当に首輪の情報を回収したのかを確かめている所だった。

近くで作業を見守っていた葵がミルに声をかける。
「自分の身体でデータを吸い出すなんて……んなこと出来るのかよ?」
「うむ、宇宙は広いからな。身体を変形させて情報を吸い取ることの出来る生物がいたとしてもおかしくない」
「マジか」

あの、と二人のやり取りに割って入ったのはミリアだった。
彼女には目の前に並んだ無数の光る箱の正体も、ミルが行なっていた作業の意味もわからなかったが
何か良くない事態であるということはわかった。
「それでは……この首輪を外すことはできないんですか?」
「うむ……」
そんな、とミリアは悲しい顔で俯いた。
彼女が落ち込むのも無理はない。主催者の用意したジョーカーによって、この殺し合いを止める希望を目の前で奪われたのだから。

「ミル博士、この研究所内の設備で一から首輪を解析することはできませんかね?」
一瞬落ちた重い静寂を破ったのは剣正一だった。
この研究所には様々な設備がある。それを利用すれば首輪のデータを取り直し、解除することができるのではないか。

「やれんことはない」
正一の問いに、ミルは腕組みをして答える。
しかしそのあどけない顔は渋面を作っていた。
「……ただし、解析のためのサンプルとなる首輪がいるのだ」

再び、場に重く暗い沈黙が落ちた。
サンプルの首輪を手に入れる――取りも直さず、それはこの場に招かれた参加者の死を意味する。

 ガタン

大きな音を立てて、突然葵が立ち上がった。
急な動きに、葵の肩に乗っかったままのチャメゴンが驚いて飛び上がる。

「葵、急にどうしたのだ?」
「決まってるだろ、あの宇宙人をとっ捕まえに行くんだよ!
 あいつを捕まえて盗まれたデータを奪い返せば、この首輪を外してバトルロワイアルをぶっ壊すことができるんだろ!?」

青い瞳に怒りの炎を燃やしながら葵が叫ぶ。
その気勢に怯えて、チャメゴンが近くにいたミリアの胸へと飛び移った。

しかしそんな葵の決意に対して、ミルは呆れたような視線で応じる。

「まったく葵は単純なのだ。あの宇宙人が何処に逃げたのかわからないのにどうやって探すのだ」
「うっ」
「それに見つけたところで、アイツをどうやって捕獲するのだ。無策で突っ込んでも返り討ちなのだ」
「あー……」
「葵ももっと頭を使わなきゃ駄目なのだ。いや、葵の場合はきっと頭の養分までおっぱいに行ってるせいで――」
「あんだと!? コンニャロー!」
「ギャー!暴力はやめるのだー!」
「まぁまぁ」

ミルの頭をぐりぐりする葵を宥めつつ、ミリアは黙ったままの正一に目を向けた。
目の前の喧騒にも関せず、正一は顎に手を当てた姿勢のまま動かない。
「ツルギさん? どうかしたんですか?」
「ああ――ちょっと考え事をしていたんだ」
ミリアの呼びかけでポーズを解くと、正一は一拍置いて口を開いた。

「おかしいとは思わないか。
 何故ワールドオーダーは首輪のデータを研究所に残して、それをジョーカーに回収させる、なんて回りくどい真似をしたんだろう。
 首輪のデータを俺達に見せたくないならば、最初からそんなデータは処分しておけばいい。
 確かにプロフェッサー藤堂やその部下のアンドロイドならデータを放置していってもおかしくないが、あのワールドオーダーが
 首輪のデータの事にまで頭が回らず放置した――とは、俺にはどうも思えない。
 そもそも奴は何故この研究所を会場内に設置したんだろう。首輪の解析に使えそうな施設をわざわざ建てて残しておくなんて
 まるで首輪を解除してゲームを破綻させてくれと言わんばかりじゃないか」

「そう言えば……
 じゃあワールドオーダーさんはどうしてこの研究所を建てたんですか?」
「ああ……」
正一は再び顎に手を当てると、三人の少女たちを見回して言った。

「恐らくだが……俺達に首輪を解除させることが奴の目的なんだ」

えっ、とミリアが目を丸くした。
葵も意味がわからないといった顔で頭に「?」マークを浮かべている。
ミルだけは、この答えがわかっていたように黙したままだった。

「でも、ワールドオーダーさんは私たちに殺し合いをさせたいんですよね?
 この首輪も、その為に私たちに着けたものなのに――」
「最初に集められた場所で奴が言っていたことを思い出してくれ。
 奴は最後に『人間の可能性を見せてくれ』と言っていた。
 つまり奴の目的は単純に殺し合いを見ることじゃない。
 元より、ただ殺し合いが見たいだけなら奴の能力で俺たち参加者が殺し合うよう人格を弄ればいいんだからな……。
 恐らく奴の目的は、このバトルロワイアルの中で俺たち参加者が何を選択し、いかに振舞うか――それを見ることなんだ。
 言われた通りに人を殺すのか、それとも命令に抗ってゲームを破壊しようとするのか、或いは殺し合いの優勝を目指すのか
 他人を助けるのか、自分だけ生き残るのか、脱出を試みるのか、主催者であるワールドオーダー自身に牙を向けるのか
 ……そしてその数多の選択の中で、最後に残るものが何なのか――
 それを確かめるために、ワールドオーダーはこのバトルロワイアルを仕組んだ……まだ何の裏付けもない推測だが、俺はそう思う」

「そんな……そんな事のために沢山の人の命を弄ぶなんて……」
そう呟くとミリアは絶句する。
「いかれてる」
ミリアの背後で、葵が吐き捨てた。

「じゃあ、この施設やデータを残しておいたのも……」
「俺達に首輪の解除という選択肢を与えるためだと思う」
そう言いつつ、正一はパソコンの虚ろな画面へと目を向ける。

「こう考えると、ワールドオーダーが宇宙人をジョーカーとして選んだことにも納得がいく。
 奴は恐らく、俺たち参加者を試す為の障害としてあの宇宙人を差し向けたんだ。
 人外の脅威に接した時、人が何を選び何を為すかを観察するためにな。
 多分、ミリアちゃんの言っていた『魔族』という存在がこの場に送り込まれた理由も同じだろう」

魔族と聞いた時、ミリアの肩が微かに震えた。
正一は再び彼女へと向き直る。

「だからミリアちゃん、この場にいる『魔族』について、そして君のいた世界について、もっと詳しく教えてくれ」





それからしばらくの間、正一、ミル、葵の三人はミリアの話に聞き入っていた。
彼等三人もかなり数奇な人生を送って、色々と奇妙な物事を見聞きしてきたが、ミリアの語る話は今までのものとは別格だった。
何しろ、彼女とは今までいた世界すら違うのである。

「魔王ディウスは恐ろしい男です。
 強大な力と魔力を持ち、魔術、剣術ともに魔族の中でも屈指の使い手であると聞いています。
 それに、魔王は人間の命を何とも思っていません。塵を払うよりも容易く、魔王は大勢の人々の生命を奪います。
 私と兄が暮らしていた村も、あの男が指揮する軍に襲われて、みんな殺されてしまいました。私と兄さんだけが運良く助かったんです」

魔族の、特にディウスという魔王の話になると彼女は声を詰まらせた。
故郷を滅ぼされ、家族を殺されたのだ。無理もないだろう。

「それに魔王の部下の暗黒騎士ガルバイン……
 彼らは単純な戦闘力でなら魔軍でも一、二を争う力の持ち主です。
 暗黒騎士は魔族の中でも人の話の通じる方ですが……魔王に絶対的な忠誠を誓っていることに変わりはありません。
 それと――名簿に載っていたリヴェイラという名前には聞き覚えがあります」

ミリアの声が一段と重くなった。

「お師匠様――身寄りを失くした私たち兄妹を助けてくれて、私に魔術を教えてくれた人なんですけど、その人から聞いたことがあります。
 遥か太古に魔界で発生し、あらゆる世界で破壊と殺戮を尽くした邪神がいたそうです。
 邪神は最後には他の神々によって封印されたそうなのですが、今の時代になって魔王がその封印を解き、邪神を復活させた、と。
 その邪神の名前が――」
「リヴェイラ、か」

ミリアが頷くと、三度場に沈黙が訪れた。
強大な力を持つ魔王、そしてその魔王すら凌ぐ力を持つ邪神。
そんな連中を相手に、人間が勝つことが――生き残ることができるのだろうか。

ええいもう!
と大きな声で静寂を破り、葵が再び立ち上がる。

「やっぱりあの宇宙人を捕まえに行こうぜ!
 そんな危ない連中がウロウロしてるなら、尚更さっさと首輪を外してこの島から脱出しよう!
 それに、ミルの家族やミリアちゃんのお兄さんや、白兎や佐野さんやリクさんたちを探さないといけないだろ!」

葵の瞳には、怒りと同時に切実さが滲んでいた。
知り合いを探したい、それは正一も同じだった。しかもミルの話では、この場には少なくない数の普通の学生たちが集められているらしい。
彼等も一刻も早く見つけ出して保護しなければならない。
しかし、逸る心を押し止めて正一は葵を制した。

「動くのは明るくなってからの方がいいだろう……。
 魔物や先程の宇宙人に、暗闇に紛れて襲われたらまずい」
正一の制止に、葵は小さく唸ると再び椅子に腰掛けた。
次いで正一はミルに話しかける。
「ミル博士、首輪の解除に役立つ器具の中で持ち運びできる物があったら纏めておいてもらえますか。
 次の放送でこの建物が禁止エリアとやらに選ばれるかもしれないし、念の為にいつでも移動できるようにしておいてください」
「わかったのだ」

時計を見ると、夜が明けるまでまだかなりの時間がある。
「明るくなるまでここで待つとして……哨戒はしたほうがいいな。
 確か屋上に出る階段があったが――」
「なら自分がやりますよ。吸血鬼だから夜目がきくし」
「わかった。俺は一階の入り口を見張ろう」
「ならば正一と、それにミリアも、これで連絡を取り合うのだ」
そう言ってミルが二人に渡したのは、桔梗の花にドクロマークのバッチだった。

「これはミルたちの絆の証なのだ。みんなで力を合わせて、バトルロワイアルをぶっ壊してやるのだ!」
ミルの手からバッチを受け取り、正一とミリアも決意を込めて深く頷いた。


○ ○ ○


どれ程の時間が経っただろうか。
一階入り口を監視しつつ、正一はこの会場に用意された『脅威』について考えていた。

首輪のデータを盗んだ宇宙人――変形自在の身体だけでも厄介なのに、奴は超能力まで使える。
ミリアの魔術がなければ、そしてミルと葵の登場とチャメゴンの活躍がなければ、自分は間違いなくあいつに殺されていただろう。

魔王ディウスを頭とする魔族と、邪神リヴェイラ――時空を渡り、国すら滅ぼす怪物たち。
そんな強大な敵に勝つ手段などあるのだろうか?

そして――正一の眉間に皺がよる。


正一にとって実の従兄に当たる、幼い頃は兄弟同然に育った男。
そして――今は打破すべき相手、秘密結社ブレイカーズの大首領にして最強怪人ドラゴモストロの正体。

負けず嫌いな龍次郎のことだ。ワールドオーダーの言いなりになって殺し合いに乗っている――なんて事はないだろう。
やりようによっては協力できるかもしれない。
しかし、龍次郎がこの場においても弱い者を傷つけるようならば、その時は――



『あの、剣さん。聞こえますか』
正一の思考を破ったのは、バッチから聞こえてきた葵の声だった。
何事かあったのかと正一は身構える。
「ああ、葵ちゃん。どうしたんだ? 何か異変でも――」
『いやいやいやっ!何かあったとか別にそういうことじゃねーんすけど……』

何やら言いよどんでいる様子の葵に、正一は逆に気になっていたことを尋ねてみた。
「そういえば、君は日光は大丈夫なのか?」
葵が生まれついての吸血鬼だとは聞いている。吸血鬼といえば日光を嫌うものだと思っていたが――
『いや、全然平気ッスよ!
 自分、むしろ長く陽に当たらないと具合悪くなる方っすから!』
「……そういうものなのか」
――どうやら吸血鬼間でも個人差があるらしい。
正一が自分の吸血鬼に関する知識を修正している間に、意を決したように葵が話しかけてきた。

『それで……その、実は剣さんに質問があってですね……』
「質問? 何だね」
『あの、このバトルロワイアルに関係することとかじゃないんですけど
 剣さんってジャパン・ガーディアン・オブ・イレブンのメンバーなんですよね?』
「ああ、そうだが――」
『じゃあリクさん……シルバースレイヤーさんとも親しかったりするんですか?』

シルバースレイヤー、氷山リク。彼は仲間であり、年の離れた友人であり、ある意味息子のようなものだ。
戦闘中は正一のことを「ナハト・リッター」として、そして戦いの時以外は「剣のおやっさん」として慕ってくれる青年のことを思い返す。

彼がどうかしたのだろうか?
そういえば葵の所属するラビットインフルとは親しくしているようだったが……

『その、リクさんについてなんですけど――』

まさかとは思うが、この機にヒーロー、シルバースレイヤーに関する情報を収集するつもりなのだろうか。
非戦的とはいえ、ラビットインフルも一応悪の組織を標榜している。

迂闊なことは答えまい――と思っていた正一の杞憂は、次の質問で一気に破壊された。

『リクさんってその、今お付き合いをされている方とか、いらっしゃるんですか?』
「……は?」

思わず聞き返してしまった。
この質問がどんな意図で訊かれたのか、名探偵でなくともすぐに分かる。
安心した、それと同時に、皮肉でなく正一は微笑んでいた。
まったく、若いというのはいいことだ。勇気も、そして恋も――

『いやっ、こんな時に聞くのも不謹慎かもしれないっすけど!
 でもこんな機会じゃないと聞けないし!あの――』
「いや、いや、いいんだよ。
 そうだな、俺の知る限りではいないと思うが――」
「ほほう、葵が操を立てている相手はあのシルバースレイヤーなのか」

背後から突然聞こえた声に驚いて正一が振り返ると、いつの間にか現れたミルがニヤニヤと笑っていた。
驚いたのはバッチの向こうの葵も一緒だろう。狼狽した声が聞こえてくる。
『ミ、ミル!? お前荷物纏める仕事はどうしたんだよ!?』
「今きゅーけー中なのだ。そしたらたまたま葵が正一に何やら面白そうな相談をしている所に通りかかったのだ」

わーわー言う葵の声を尻目に、ミルは分別あり気な顔をして何度も深く肯く。
「うちのルピナスもシルバースレイヤーのファンなのだ。
 でも悪の組織の一員とヒーローの恋なんて、禁断の愛なのだな」
『ミルてめー!おちょくんな!』
「まあ、アオイさんが心を寄せるなんて、きっと素敵な方なんですね」
『げぇ!ミリアちゃんまで!』

いつの間に現れたのか、ミリアも話しに加わってきた。
「何か楽しい事が起きてるって、チャメゴンちゃんが教えてくれたんです」
そう言うミリアの肩では、チャメゴンがキシシと笑っていた。

『お、お前らなー!』

バッチ越しに葵が怒り、ミルが混ぜっ返し、ミリアが天然ボケしたコメントで更に話をかき乱す。
殺し合いの場において恋バナで盛り上がるなど、不似合いで或いは不謹慎なのかもしれないが
その光景を見ていると、いつの間にか正一も連られて笑顔になっていた。


そうだ。――正一は心の奥であらためて誓う。

俺はヒーローとして、一人の人間として、この笑顔を、この平和を守る。
たとえ何者であろうと、どれ程強大な力を持った者が相手であろうと、平和を破り、この笑顔を奪おうというのなら
俺は命を捨ててでも戦う。人々を守る。それが俺の、ナハト・リッターの変わる事のない使命だ。



「ん? 葵、急に黙ってどうしたのだ? ヘソを曲げたのか?」
正一の胸のバッチに向かってミルが話しかけた。
今まで騒がしくやり取りしていた葵の声が急に途絶えたのだ。

「葵ちゃん、何かあったのか?」
尋常でない様子を察知し、正一が呼びかける。
すると、先程とはうってかわった震え声が返ってきた。

『やべぇよ……やべぇよ……朝飯食ったから……』
それはうわ言のようで、しかも後半は掠れて空耳でしか聞き取れなかった。
しかしそれを聞いた瞬間、正一たちは屋上に向かって走り始めていた。




「葵ちゃん!」
「アオイさん!」
「葵!大丈夫なのか!?」

正一、次いでミリアとミルが慌てて屋上に飛び出す。

葵は屋上に棒立ちになったまま、呆然と一方向を見据えていた。

「あ、あれ……」

葵が見つめる方向へと目をやった三人が見たものは、地の向こうから姿を現す

銀色のクッソ汚い巨人の姿だった。


「「「えっ、何あれは……(ドン引き)」」」


○ ○ ○


「なんだあのでっかいモノ……」
「はえ~すっごい大きい……」

見つからないようにしゃがみ込んだ四人は、こっそりと巨人の観察を続ける。

クソデカの上にメタリックなので、巨人の姿は夜明け前の薄明かりの中で離れた場所にあってもよく見えた。
体長は5mほどだろうか、頭部には赤い光が一つ目のように輝いている。どう見ても人間ではない。当たり前だよなぁ?
先の宇宙人にも匹敵する異様な相手の登場に、四人の間にも困惑が走る。

「見かけは一つ目鬼(キクロプス)に似てますけど、動きはまるでゴーレムみたいです」
「恐らくロボットじゃろう……だがあんなロボットが開発されてるなんて聞いたことがないのだ」
「どうする……こっち向かってきてるぞ、アイツ」

こうしている間にも、正一たちの存在を知ってか知らずか、謎の怪ロボットは一直線に研究所へと進み続けていた。
その歩みは重鈍だが、このままではもうすぐこの研究所に辿り着くだろう。
あいつの目的は何なのか。物か? 金か? 交渉の余地はあるのか? それとも――

「奴も人間の可能性を見る為にワールドオーダーが用意した『脅威』なのか……?」

いずれにせよ時間がない。巨人は進撃を続けている。



「――俺が、様子を探ってくる。皆はここで待っていてくれ」

屋上から退却した部屋の中で、正一は己の決断を告げた。

「そんな、ツルギさん一人で行くなんて危険過ぎます!私も一緒に――」
「行くんならあたしが行きますよ!吸血鬼だから体力には自信あるし、少しなら重力も操れるし――」
案ずるミリアと葵の声を正一は途中で遮る。
「だからこそ君達には、この研究所に残ってミル博士を守ってもらいたいんだ。
 宇宙人やロボットの他にも、この研究所を狙ってくる奴がいるかもしれないからね。それに――」

そこまで言うと、正一はニヤリと笑った。

「今の俺には、とっておきの秘密兵器があるさ」





デイパックから取り出されたのは、車体に星のマークが入った流線フォルムのバイクだった。
バイクの名は『ブレイブスター』。本来はシルバースレイヤー・氷山リクの専用マシンであり
このバトルロワイアルにおいてはミリア・ランファルトに支給されていたものだ。
持っていてもミリアは使えないということで、正一が譲り受けたのだった。

『おはようございますナハト・リッター。
 私のマスター、シルバースレイヤーは何処ですか』
幾つかの手順を踏んで起動させると、エンジン音と共に女性の電子音声が流れた。
ブレイブスターのAIである。

「おはようブレイブスター。
 我々は現在テロリストに拉致され、孤島に閉じ込められている。
 シルバースレイヤーもこの島の何処かにいるはずだ。
 俺達の最終目的はこの島から脱出してテロリストを打破することだが
 差し当たっての目的はこの建物に向かって来ている怪ロボットに接触して、危険な存在であればこの建物から引き離すことだ。
 ブレイブスター、協力を頼む」
『了解しました。
 JGOEのヒーローには協力するようマスターから指令を受けています』

エンジンが唸りを上げるブレイブスターに跨ると、正一は心配そうに見つめる少女たちに微笑む。
「危険が迫ったら、研究所を放棄してすぐに逃げてくれ。連絡はバッチで取り合おう」
「正一、くれぐれも無理はするなよ」
「ツルギさん、お気をつけて」
「ミルとミリアちゃんはあたしが絶対に守ります」

少女たちに肯くと
ナハト・リッター、剣正一は暁の平原に向かってブレイブスターを疾走させた。


○ ○ ○



走り始めてすぐ、正一を乗せたブレイブスターは怪ロボットを視認できる位置にまで達した。
どうやら向こうもこちらに気付いたらしい。頭のセンサーが不気味に赤く光っている。

「ブレイブスター、お前の通信機能であのロボットとコンタクトをとれないか?」
『了解。当方ニ交戦ノ意志無シ。対話ヲ求ム。と送ります』

距離をおいて一旦止まり、正一は通話を試みてみる。
一応念のためだ。ひょっとしたらナリに似合わず、平和を愛するロボットの鑑かもしれない。

『対象から返信が来ました。返答はただ一言。
 EMURATED. E M U R A T E D. E M U R A T E D. と』
「EMURATED? スペルミスじゃないのか?」
『いいえ、確かにEMURATEDと言っています。
 恐らく、我々の知らない未知の言語なのではないでしょうか』
「未知の言語だって……?」
ブレイブスターの電子頭脳には地球上のあらゆる言語がインプットされているはずだ。
(じゃあ奴もミリアちゃんと同じ、俺達とは別の世界から連れて来られたってことか……)

ブレイブスターのエンジンが唸る。それと同時に、怪ロボットのセンサーが一際大きく光った。

「来るぞ!走れブレイブスター!」

ブレイブスターが駆ける。
それと同時に、ロボットの頭部センサーから放たれた強烈なレーザー光が
ブレイブスターの動きを追うように大地を横薙ぎにした。

熱と破壊音、振り返った正一が見たものは、ごっそりと抉られた地面だった。

「なんて威力だ!」

ブレイカーズの研究所には並みの建物以上の災害対策が施されているはずだ。
しかしこのロボットに搭載されている兵器の前では一たまりもないだろう。

やはり、奴を研究所に向かわせるわけにはいかない。
それは首輪を解析する設備が失われることを意味するのだ。

バイクを駆りつつ、正一は胸のバッチを押す。

「こちらナハト・リッター。怪ロボットと交戦に入った!
 これから奴を研究所から引き離して適当な場所まで誘導する!」

『正一!無茶するなよ!』
『ツルギさん!』
『剣さん!』
「大丈夫だ。奴の動きは鈍い。
 ある程度引き離したら、上手く撒いてそちらに戻るよ」

連絡を切り上げ、バックミラー越しに背後を走るロボットを見る。
その巨体故か、ロボットの移動速度は遅い。これなら速度を落として蛇行運転してもブレイブスターが捕まる事はないだろう。

それよりも、正一が気になっていたのはロボットの首に自分達と同じように嵌められている首輪の存在だった。

(あの首輪……何とか回収できないか……?)

首輪を手に入れ、サンプルとして研究所で調べることができれば
宇宙人を捕まえずとも首輪を解除し、殺し合いを破綻させる切欠を掴むことができる。
もっとも、その為にはロボットを破壊しなければならない。どうやってあの巨人を倒せばいいのか――

(ん?)

ミラー越しに、ロボットの右手から火花と共に何かが発射されるのが見えた。
こちらに向かって飛んでくる。あれは――

「ミサイルかッ!」

正一はハンドルを切り、ブレイブスターの速度を一気に上げる。しかしその動きに合わせてミサイルも進路を変えた。

(しかも追尾弾だと!?)

駆けるブレイブスターの背後に、ミサイルが迫る。

「うおおおおおおおおおおおおおおッッッッッ!!!!!」



正一を乗せたブレイブスターが、宙へ大きく翔んだ。

そのバックで、大爆発が起きる。



(何とか――かわせたか――)

決死の大ジャンプでミサイルを凌いだブレイブスターは、再び大地を走り始めていた。
爆風の煽りをもろに食らいながらも転倒することなく着地できたのは、正一の卓越した運転技術の賜物だろう。

(まったく……首輪を回収するどころじゃないな。
 油断大敵だ。まずは自分が消し飛ばされないように気をつけにゃあ――)

苦笑する正一の頬を冷や汗が伝う。

バックミラーを覗くと、ロボットは相変らず一定のペースで追跡を続けている。

厄介な相手だ。だが負けるわけにはいかない。

(つまり、いつも通りってわけだ――!)



ハンドルを握り締め、鋼の巨人を背に
夜の騎士は暁の天の下を駆け抜けていく。

己の使命を果たすために。


【C-9 草原/早朝】

【剣正一】
[状態]:健康
[装備]:ブレイブスター、悪党商会メンバーバッチ(4番)
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0~1
[思考・行動]
基本方針:ナハト・リッターとして行動する
1:サイクロップスSP-N1を研究所から引き離す。
2:ミリア、ミル、葵と後で合流する。
3:殺し合いに巻き込まれた人々を保護する。
4:氷山リク、火輪珠美と合流したい。
5:可能ならばサイクロップスSP-N1の首輪を手に入れたい。
※宇宙人がジョーカーにいると知りました。
※研究所がブレイカーズの研究所だと知りました。
藤堂兇次郎がワールドオーダーと協力していると予想しています
※ファンタジー世界と魔族についての知識を得ました。

【サイクロップスSP-N1】
[状態]: 健康
[装備]:バスターミサイル(残り3発)
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0~1
[思考・行動]
基本方針:反乱分子を抹殺する
1:剣正一を抹殺する。
※通常兵器を外されない代わりに支給品が少なく設定されました。
りんご飴半田主水のデータを収集しました。
※剣正一のデータを収集中です。

【C-10 研究所/早朝】

【ミリア・ランファルト】
[状態]:健康、肩にチャメゴンを乗せている
[装備]:オデットの杖、悪党商会メンバーバッチ(3番)
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0~2、チャメゴン
[思考・行動]
基本方針:この殺し合いの無意味さを説く
1:兄さんや他の人たちを探す。
2:首輪を外す協力がしたい。
3:ツルギさん……。
※宇宙人がジョーカーにいると知りました

【ミル】
[状態]:健康
[装備]:悪党商会メンバーバッチ(1番)
[道具]:基本支給品一式、フォーゲル・ゲヴェーア、悪党商会メンバーバッチ(2/6)ランダムアイテム0~2
[思考・行動]
基本方針:ミルファミリーで主催者の野望を打ち砕く!
1:亦紅とルピナスを探す!葵やミリア、正一の仲間たちも探すぞ!
2:首輪を解除したいぞ。でも解除のためのデータをとるにはサンプルの首輪が要るのだ……
3:ミルファミリーの仲間をいっぱい集めるのだ
4:正一、無事に戻ってくるのだぞ
※ラビットインフルの情報を知りました
※藤堂兇次郎がワールドオーダーと協力していると予想しています
※宇宙人がジョーカーにいると知りました
※ファンタジー世界と魔族についての知識を得ました。

空谷葵
[状態]:健康
[装備]:悪党商会メンバーバッチ(2番)
[道具]:基本支給品一式、トマトジュース(5/5)、ランダムアイテム0~1
[思考・行動]
基本方針:ミルファミリーで主催者の野望を打ち砕く!
1:ミルとミリアちゃんはあたしが守る!
2:亦紅、ルピナス、リクさん、白兎、佐野さん、ミリアちゃんのお兄さんを探す
3:宇宙人(セスペェリア)を捕まえて首輪の情報を吐かせる!
4:ミルファミリーの仲間を集める
5:剣さん、気をつけて
※ルピナス、亦紅、藤堂兇次郎、カウレスの情報を知りました
※ミルを頭の良い幼女だと認識しています。元男は冗談だと思っています。ただし藤堂兇次郎についての情報は全面的に信用しています
※宇宙人がジョーカーにいると知りました
※ファンタジー世界と魔族についての知識を得ました。



【ブレイブスター】
シルバースレイヤーこと氷山リクの専用マシン。
車体に星が描かれたフルカウルの流線型バイクで、ブレイカーズ基地から脱走した際に半ば強奪する形で入手した。
超小型原子力エンジンを搭載しており、最高速度時速800㎞で走る。
これも藤堂博士の発明品で、シェリルと同型のAIが内蔵されている。


055.スポーツ支配計画 投下順で読む 057.vsジョーカー
054.我はこの一刀に賭ける剣術家 時系列順で読む
エイリアン ミリア・ランファルト ミルファミリー壊滅!魔王襲来
空谷葵
ミル
剣正一 混沌ロボ!野獣と化したダルビッシュ
Terminators サイクロップスSP-N1

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最終更新:2015年07月12日 02:51