「もしもーし。あ、ワールド? ちょっとちょっと聞いてないよぉ」
コンクリートで打ち付けられた幾つものビルと飲食店が立ち並ぶビジネス街の一角。
もしこの場に日常があったとしたならば、ビジネスマンが忙しく取引先に連絡を取っているだろう風景である。
そんな中に、およそ日常に溶け込まぬであろう強面の大男が、道沿いから死角になるような建物の影で気配を潜めていた。
強面の男、森茂は携帯電話を片手にそう不満げな声を漏らす。
電話先にいるのは
主催者である
ワールドオーダーだろう、森は彼の依頼により
オデットの足止めと言う任を負っていた。
「強すぎだって、試しに1時間ほど粘ってみたけどさ。無理無理、年寄りにはキツイわこりゃ」
軽くそう言ってのけるが、試しで粘れる時間でも、ましてや相手でもないだろう。
事実、その言葉の軽さとは裏腹に彼らの通り道には夥しいまでの破壊の跡が残されていた。
疎らな背丈をしたビル群は等しく平らに均され、どこにでもあるようなビジネス街の風景は既に見通しの良い更地と化しており。
その度に森が隠れ蓑となる建物が残っている場所に戦場を移してはオデットが破壊するという、はた迷惑な整地作業を繰り返していた。
現在は追っ手を撒いたのか、いくらか建造部が残っている地区の一角に隠れて小休止しているようである。
もっとも、追手の方はまるで諦めていないようで、しらみつぶしに探しているのか少し離れたビルがまた一つ崩れる音が響き、粉塵の混じった突風が辺りに吹き付けた。
「でさぁ。悪刀や悪砲はともかく、せめて悪威くらい返してくれないかな? じゃないとマジで死んじゃうってこれ」
そんな断絶的な破壊が背後にまで迫る状況にもかかわらず、森は平然とした態度で通話を続ける。
森が求めるのは『三種の神器』の返却。
悪党商会の技術の粋を結集して生み出した三つの最強装備であり、その三本の矢が揃えば森茂は事実上無敵である。
「そう言うなよワールド。いいじゃんか、必要経費でしょーその辺?」
渋い返答を返されながらも、食えない態度で食らいつく。
しかしながら声の先で受け答える相手もまた同じく食えない狸である。
交渉は一筋縄ではいかないだろう。
「その前に経過報告? 報告って言われてもねぇ、戦ってみた感想? うーんそうだなぁ」
逆に促される形となり、森茂が頭を掻いた。
とはいえ依頼主からの催促とあらば応えぬわけにもいかないので、しぶしぶながらも森はこれに応じる。
「ま、殺気を読むってのは本当だね。回避性能はホントずば抜けてるよ。
あの手この手で仕掛けてみたけど、もうぜーんぜん当たんないでやんの」
この一時間ほどオデット相手に戦い続けたが、結局、森茂をもってしても一撃すら当てることが出来なかった。
戦闘に使用されたS&WM29の予備弾丸は打ち尽くされ、残るはシリンダーに込められた弾丸のみである。
森はお手上げとばかりに片手を振った、電話先の相手にはそんな動作は見えていないだろうが。
「もし当てるとしたら? そうだなぁ……点や線じゃまず無理だね、あれを捕えるならせめて面でないと」
電話先の声に問われ、思考する。
点の攻撃である銃撃や突き、線の攻撃である斬撃や打撃ではオデットを捕えるのは難しい。
オデットに攻撃を当てるならば、最低でも三次元的な面の攻撃でなければ厳しいだろう。
そして、それを実現するにはそれ相応の装備が必要となる。
「ああ、あとさぁ。あの魔法ってのも次から次へとぶっ放してきて面倒だね。底を突く様子もないし。
ねえワールド。一つ聞きたいんだけど、あれって無尽蔵なわけ?」
魔法とは本来、魔力という対価を払い神の奇跡を再現する簡易的な儀式だ。
故に、必然的に魔力が底をつけば魔法を放つことはできなくなる。
だが神の属性を得たオデットは違う。
神の奇跡の再現に魔力など必要ない。
魔法は神の行動に伴う現象である。
「へぇ。なるほど、そりゃ厄介だねぇ」
底なしとなると、持久戦に持ち込めば何とかなるなとどいう甘い考えは通じそうにない。
もちろん体力ならばそのうち尽きるだろうが、瞬間移動を駆使する相手に体力勝負を挑むのも無謀だろう。
かくいう森茂も息切れ一つ起こしていないのだが、この次元の戦いで持久戦ともなると三日三晩で終わる話ではないので現実的ではない。
「弱点? そうだねぇ。まぁ弱点って程じゃないけど、特性は見えてきたかな」
その言葉に、電話の先からへぇと感嘆の息が聞こえた。
その反応に大した内容じゃないからそう期待しないでよ、と前置きして森は語り始める。
「確かに防御はもの凄いけど、その反面攻撃の方は正直そうでもないね。
まず命中精度が並みだ。まあちゃんと狙って打ってはできてるし一流レベルではあるんだろうけど、その程度だね」
オデットは確かに
ヴァイザーの殺気を読むという特性を引き継ぎ相手の動きを先読みしている。
それは確かにスゴイが、それだけだ。
殺気を読むという特性は、こちらが防御に徹している限り攻撃には生かされず、意味をなさない。
恐らくこれまでヴァイザーは、敵の攻撃を躱してカウンターで弾丸を脳天にブチ込むという戦法でその特性を生かして来たのだろう。
森から言わせれば、それは才能に胡坐をかいた戦い方である。
通常であれば、常人を相手にする殺し屋稼業であればそれで十分なのだろうが、この領域の戦いではその程度ではダメだ。
「あとは攻撃力も思ったよりも大したことがないね。もちろん人一人くらいなら簡単に殺れちゃうんだろうけど」
ズズンと、すぐ近くではまた一つビルの切り崩される音がした。
鉄筋コンクリートで打ち付けられたビルを崩壊させる、その攻撃力はどう見積もっても低いとは言えないだろう。
だが、小さなビルひとつ破壊するのに数発を必要としているようでは、マイクロブラックホールで都市を一撃で消滅させた邪神とは比べるべくもない。
神の属性を得たとはいえ、発現できる魔法はオデットの能力に準ずる。
世界を破壊するあの邪神の様な規格外の現象を引き起こすことは出来ない。
森からしてみればその領域を想像していただけに少し拍子抜けだ。
「とまあ、いろいろ荒い点はあるが、けど実際強いよ。俺に任せたってのは正解だったね。
この手の相手にゃ
氷山リクはともかく、短気なリュウ辺りだとコロっとやられちゃいそうだ」
そもそもあの二人が主催者からの依頼を引き受けるかどうかは別にして、正面からの真っ向勝負ではあの二人でも厳しい相手だろう。
実力的に論外な奴らは除外するにしても性格面を含めてオデットとやり合えそうなのは森の知る限りでは恵理子くらいのモノである。
「それで、そろそろ報告もこの辺にして、こっちの話に戻りたいんだけど」
森が報告を打ち切り、話を引き戻す。
外では断続的な破壊音が近づいてきている。
平然とした森の態度からはそうは感じられないが、余り余裕はなさそうだ。
「えー。もう他の参加者に支給しちゃった? 誰に? それは言えない?
じゃあ、ヒント。ヒントでいいからちょうだいよ、いいじゃない、ちゃんと働いてるでしょ?」
しつこく食い下がる森に、電話先の相手は仕方ないと溜息を付くと、不承不承ながらに答えを返した。
「……へぇ。いくつかは近くにあるって。ま、それだけ聞ければいいか。
おっと、そろそろ辺りの建物もなくなってきた頃合いだ。見つかりそうだから切るよ、じゃあね」
そう言って相手の返事も待たず通話を切る。
そして携帯電話を荷物の中に放り込むと、森は建物の影から勢いよく飛び出した。
同時に、それまで森が隠れていた建造物が音を立てて崩壊する。
遮蔽物が消え、視界が開ける
森の目の間に広がるのは瓦礫の海。
一際大きく積み重なった瓦礫の山の頂点には、その成果を誇るようにこの光景を生み出した存在が佇んでいた。
「よぅ。隠れんぼはお終いかぁ?」
美女と呼んでいい程に整った顔が邪悪を固めたような笑顔を象った。
それに対し、森は軽い調子で受け答える。
「ああそうだね。お蔭様で少しだけ情報を得られたよ」
それは三種の神器の情報だけではない。
実際に話す口実を得て、いろいろと知れたことがある。
まず本当に通話が届くのかと言う疑念。
そして通話先にいるのが“どちらの”ワールドオーダーなのかという点だ。
こちらの状況をどの程度把握しているのかという確認することにより監視状況がどの程度のものなのかも推し量れた。
これに関しては向こうも森の意図を把握した上で説明を求めた可能性も高いので、相手が相手だけに一概には言えないが。
「それじゃあお礼に少し、遊びますか」
そう言って森が取り出したのは一本のベルトだった。
これまでの拳銃一つで立ち向かってきた相手が初めて見せる装備にオデットが目を見張る。
森は踊るように回転し、その遠心力を使って腰元にベルトを装着した。
[Authentication Ready... ]
漆黒が瞬く。
森の体に闇光が凝縮していき、物質として形を成す。
[Transform Completion]
現れ象られたのは漆黒の騎士。
偽ヒーロー量産計画のために生み出された漆黒のシルバースレイヤー。通称『チープシルバースレイヤー』
チープと名付けたモノの、開発者としてはスペックは真に迫るところまで届いたと自負している。
にも拘らず、偽ヒーロー量産計画が失敗した理由はいくつかあるが、その一つに担い手の練度不足が上げられるだろう。
シルバースレイヤーの戦い方はシルバーコアから生み出されたシルバーエネルギーを必要に応じてその都度攻防に割り振る必要があるため、高い判断力と戦闘センスが要求される。
それを数で補うのが量産型のコンセプトなのだが、やはり一般戦闘員では扱いきれなかったのか、大半は十把一絡げの雑魚となってしまった。
だが、現在の使用者は悪党商会の社長である森茂である。
氷山リクに合わせて作られたシルバースレイヤーの特性が合う合わないはあるだろうが、それを補って余りある程の戦士としての実力があった。
そして何より、設計者として『チープシルバースレイヤー』の特性を知り尽くしていると言うアドバンテージがある。
森は仮面の下で不敵な笑みを浮かべながら、手慣れた手つきで腰元のベルトを操作する。
その動きに応え、ベルトが機械音を返す。
[Full Charge Eternal]
漆黒の戦士の全身に周囲の光を飲み込むような黒い輝きが満ちた。
必要な瞬間に必要な個所にエネルギーを充填するのではなく、常に全身にエネルギーを行き渡らせその状態を維持する。
本家シルバースレイヤーで同じことをすれば、シルバーエネルギーの高負荷に特殊合金ですら耐え切れず暴発してしまうだろう。
だが、チープシルバースレイヤーは劣化版であるが故に、高エネルギー問題をクリアできる。
チープシルバースレイヤー・フルカウル。
これが設計者のみが知る本家にもできない裏ワザである。
「それじゃあ隠れんぼの次は鬼ごっこと行こうか」
バシュっと、もはや踏込の音とは思えぬ異音と共にチープシルバースレイヤーの体が掻き消える。
地面を蹴る足だけではなく、それを支える体幹全てが強化されたフルカウル状態の移動速度は音速に至るだろう。
だが、人間は音速では動けない。
単純にそれだけの速度を出すだけの筋力がないというだけの問題ではなく、音速を超えた際に生み出されるソニックブームに体が耐えられないからである。
そして、その問題もこのフルカウルはクリアできる。
全身を覆う漆黒のエネルギーは攻防一体であり、生み出されたソニックブームの無効化が可能だ。
故にその速度は真実、音を超える。
音速を超えた大質量の突撃は、触れるだけであらゆるものを破壊するだろう。
だが、殺気感知による先読みと瞬間移動に回避がある限り、どれだけ早かろうとオデットを捉えることはできない。
オデットは突撃が届くよりも速く、どころか森が動き出そうとした瞬間に既に先んじて動いていた。
オデットが左に軽くスッテプを踏むと、その体が大きく転移される。
初撃は避けた。
だが次の瞬間、押しつぶす程の殺気がオデットの全身を貫く。
森の追撃だろう、それすらも感じ取ったオデットは本能に刻まれたレベルの反射速度で次の回避行動をとった。
オデットの体が転送され、その場から掻き消える。
そうして次の位置へと転移完了した瞬間。
「つっかまえ――――」
オデットがその喉元を掴まれた。
首に突き抜けるようなものすごい衝撃が奔る。
「――――た、っと」
そして衝撃に送れて声が届く。
物凄い圧力で喉を締め上げられながら、オデットの体が吊り上げられた。
「実の所、さ。君を捉えるのなんて結構簡単なんだよね」
ハッタリでも驕りでもなく、漆黒の騎士は平然とそう言ってのけた。
おそらく、この言葉を吐けるのは世界で森茂ただ一人だろう。
「何が起きたって顔してるね。ま、物凄く簡単に言うと君の動きを先読みしたのさ。
神の力っていう新しい玩具を手に入れて使って見たくなるっ気持ちは分からないでもないが、少しはしゃぎ過ぎたね」
オデットはその力を森茂に対して見せ過ぎた。
一時間も戦ってれば仕草の癖や動きの前兆くらいはだいたい把握できる。
例えば、空間転移はオデットの移動するという動作を昇華したものだ。
だから、こうして宙に吊り上げ地面を蹴らさせなければ空間転移で逃げられることもない。
そして森が行った行動は非常にシンプルだ。
突撃して、相手の動きを読んでそこに向かって何度か切り替えしただけ。
ただそれを、尋常ではない精度と速度で行っただけの話。
視線を読み、心理を把握し、転移位置を正確に予測した。
後は初手で相手に余裕を無くさせ、二手目で誘導し、三手目で仕留める。
その全ての行動を音速を超える速さで行えば、反応する暇など与えることはない。
「経験値が足りないよ。格上との戦闘経験が。
ただ来る殺意を読むだけの君なんかじゃ、怖くない」
反射と言えば聞こえはいいが、森から言わせればただの考えなしである。
初手を躱されるのなら二の矢を。
二の矢を躱されるのならその先を。
そこまで先を考えての戦闘だろう。
それは格下との戦いでは身に付かない、戦闘の技術だ。
「なぁ…………ヴェ……」
「ん?」
締め上げられたオデットの喉元から嗚咽のような息が漏れる。
「なぁ……めェ……る、な…………ッ!」
文字通り血を吐くような気迫でオデットが吠えた。
同時にオデットが振り子のように、吊り上げられた首を支点に体を振るう。
通常、首を締め上げられた状態でそのような行いをすれば、より首に負荷がかかるだけの愚行にしかならない。
だが、オデットの挙動は魔法となる。
振り上げた足より不可視の風の刃が生まれ、刃は首を締め上げる森の腕を両断せんと迫った。
「おっと」
断ち切られぬよう、森が咄嗟に手を放し距離を取った。
攻防一帯のフルカウル状態ならばその程度の攻撃を受けても良かったのだが、生憎と輝きの光度が落ちている。
フルカウルは全身に常時エネルギーを維持しているため、必然的にそのエネルギーの必要量も尋常ではない。
万全の状態でも持って1分。遠山たちとの戦闘の消耗分も考えれば、じきに完全にガス欠だ。
体内のシルバーコアからエネルギーを生み出すシルバースレイヤーと違い、チープシルバースレイヤーはベルト内の内蔵エネルギーのみの使い捨てである。
交換式にするという設計プランもあったが、その場合エネルギー転送部の直結処理が難しくなるため出力が落ちてしまうため却下した。
つまり、このベルトは終わり。
もう先ほどと同じ芸当はどうあがいてもできない。
ならばどうするか。
森はベルトに内蔵されているエンジンコアをフル回転させたまま、強制的にベルトを取り外した。
そうして起動を続ける変身ベルトを宙に放り投げると、取り出したS&WM29でむき出しにしておいたコアを正確に打ち抜く。
エンジンを回転させたまま、衝撃を受けたコアが崩壊する。
変身ベルトは最期に残ったエネルギーを一気に放出する様に大きな爆発を起こした。
黒い閃光に空が染まる。
だが、単純な攻撃に対して、オデットはとにかく強い。
この爆破に対してオデットは瞬時に転移し、効果範囲から逃れた。
だが、逃れていたのはオデットだけではなかった。
爆炎が消えた先、そこからは森茂の姿も影も形もなく消えていた。
「ま、こんな所か」
戦場から少し離れた場所で森茂が一息ついた。
恐らく、あれだけ挑発すれば、しばらくオデットは躍起になって森を探すだろう。
オデットが森に執着して追ってくるのならば、これ以上オデットに参加者を喰わせないというワールドオーダーとの契約も果たせる。
「……ちょっと無茶しすぎたかな」
音速移動の負担は装甲が無効化したとしても、その内部はぐちゃぐちゃだ。
骨や内臓が所々イカれてる。
まあ、無痛症であるため特に痛くもないのだが、痛みと言う危険視号がないためその辺は必要以上に気にかけておかないといけない。
オデットは強敵だった。
これ以上余計な要素が加わればどうなるかとうワールドオーダーの懸念は正しいだろう。
森も殺せるなら殺そうと思っていたのだが、実の所、あのまま喉笛を握りつぶそうとしたのだか単純に失敗した。
そもそも音速で首を掴んだ時点で、普通なら胴と首など派手にお別れしているはずである。
奴は見かけ以上に頑丈だ。
殺しきるには悪砲クラスの武器が必要だろう。
契約は時間稼ぎだが、準備をしておくに越したことはない。
ワールドオーダーからの情報によれば、三種の神器のいくつかがこの市街地の近くにあるという話である。
いくつかという事は最低どもふたつ、もしかしたら三つともこの市街地にあるかもしれないという事だ。
「さて、宝さがしとしゃれ込みますか」
前述のとおり悪砲があれば奴を殺しきれるだろうし。
悪刀があれば奴を捉えきることも不可能ではない。
悪威があればまず殺されることはないだろう。
オデットに追われながらになるだろうが、三種の神器を探すとしよう。
【I-7 市街地跡/昼】
【森茂】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)
[装備]:S&WM29(5/6)
[道具]:基本支給品一式、携帯電話
[思考・行動]
基本方針:参加者を全滅させて優勝を狙う。
0:オデットから逃げつつ近くにあるという『三種の神器』を探す
1:交渉できるマーダーとは交渉する。交渉できないマーダーなら戦うが、できるだけ生かして済ませたい。
2:殺し合いに乗っていない相手はできるだけ殺す。相手が大人数か、強力な戦力を抱えているなら無害な相手を装う
3:悪党商会の駒は利用する
4:ユキは殺す
※無痛無汗症です。痛みも感じず、汗もかきません
取り残されたオデットはその場から動けずにいた。
それはダメージによるものではない。
彼女の内部ではドロドロとした意識がぶつかり合い、その在り方が揺らぎ始めた。
オデットはこれまで幾多の人間を、そして人外を喰らってきた。
そしてその脳を喰らう事で意識すらも取り込み、その結果、多重人格めいた現象を引き起こす結果となっている。
今現在までに脳まで喰らったのは実はそれほど多くはない。
死を反復し、よくわからない絶望と怨嗟を垂れ流すBGMと化している
詩仁恵莉は別として。
オデットの中に存在する意識は、元の人格であるオデットを含めれば3人。
だが、通常はこのようなことは起こりえない。
命を喰らうという事は存在そのものを取り込むという事である。
まれにその意識が流れ込むという事もあるだろうが、主人格という強力な楔がある以上それを乗っ取るなどという事ができるはずもない。
それを引き起こしたのは、主人格であるオデットが死の奔流に耐え切れず衰弱したというのと。
ヴァイザーが最強であり、この人格が一番この体をうまく使えるという事実に基づいた生存本能によるものである。
だが、森茂との一件で、その事実が揺らいだ。
ヴァイザーのやり方では、この先勝てない事が判明した。
この一時の揺らぎ。
これはオデットが人格の主導権を取り戻すチャンスではあるのだが。
彼女は魔族であるにもかかわらず心が優しく、そして弱すぎた。
彼女には恵莉が垂れ流す死の奔流に耐え切るだけの強さがなかったのだ。
いかにヴァイザーの自意識が揺らごうとも。
主導権を握るには恵莉が垂れ流す怨嗟の海を平然と泳ぎ切る精神力が必要である。
そして、オデットが存在としてより高みを目指すのならば足りてない要素を埋めなくてはならない。
そう、己よりも強い相手に無謀にも挑み続け、敗北を積み重ねてきたような、そんな最後のピースが必要だった。
オデットの中で奥底に追いやられていた3人目の人格が僅かに蠢いた。
全ての条件を満たす最後のピースは既にその中に存在しているのかもしれない。
【I-7 市街地跡/昼】
【オデット】
状態:首にダメージ。神格化。人喰いの呪い発動
装備:なし
道具:
リヴェイラの首輪
[思考・状況]
基本思考:気ままに嬲る壊す喰う殺す
0:表に出る人格を決定する
1:森を追って殺す
2:
バラッドと機会があれば殺し合う
※ヴァイザーの名前を知りません。
※ヴァイザー、詩仁恵莉、
茜ヶ久保一、
スケアクロウ、
尾関夏実、リヴェイラを捕食しました。
※H-7~I-7にかけて建造物が破壊された廃墟になってます
最終更新:2016年10月04日 01:27