神の啓示の様に、失われた命の名が天から告げられる。
この6時間の間にまたしても大量の犠牲者が出た。
その事実は多くの者の心に深い絶望という爪痕を残すだろう。
だが、その犠牲の重みに心を痛めながらも、挫けることなく絶えず未来を見据える者たちがいた。
対主催を掲げ堂々と立つのは、月の化身たる白銀のヒーローと善良なる悪の首領の二人である。
「氷山くん。今の放送、どう思う?」
放送を聞き終えた白兎は、相棒へと問いを投げた。
この相棒は思考力はいささか頼りないが発想力はそれなりに頼りになる。
自分一人で考えるよりは、考えを纏めるための取っ掛かりにはなるだろう。
なにせこの放送は
主催者から情報を得られる数少ない機会なのだ。
例え得られた情報が僅かとはいえ、少しでも考察は進めておきたい。
話を振られたリクは真面目な顔で少しだけ考え込んで率直な考えを述べた。
「外枠全部禁止エリアってのもそうだし、2時間の制限時間もそうだが、ずいぶんと狭めてきたって印象だ。
とは言え、これまでの流れを鑑みるなら、奴の言う通りその制限に引っかかる可能性は薄いとは思うがな」
それはこれ以降も死者は出るだろうと言うシビアな予測に基づく発言だった。
その悲劇を止めるのが役割のヒーローではあるのだが、理想論ばかりではヒーローは務まらないのも事実である。
殺し合いをするために集められた人材なのだから当たり前と言えば当たり前だが、余程の危険人物がいるのだろう。
現状の異常と言っていい死亡率を考えるに、2時間死者が出ない状況というのは考えづらい。
「そうね。けれどそれもこの辺がギリギリのラインだと思うわ。
順当にいけば次の放送で制限時間は1時間に、行動範囲ももう1回り狭まる可能性は高い。
そうなると、さすがにこの
ルールも無視できなくなってくるでしょうね」
「まあそうだろうな。というかそれが狙いだろ?」
人が減れば必然的に死亡ペースは落ちるし1時間なら偶然間が開く事も十分にあり得る。
そうなると、嫌でも制限時間を意識せざる負えず、強迫観念に駆られて凶行に走るものも出てくるかもしれない。
殺し合いを促進する主催者側の狙いはそんなところだろう。
わざわざ問うまでもない事だと言った風にリクは言うが、白兎は何やら渋い顔をして考え込む様子を見せていた。
どうやら彼女の考えは少し違うらしい。
「それにしたって……展開が性急すぎると思わない?」
「そうか? まあ確かにこちらとしてはキツくなったとは思うが、むこうからすれば元からそう言う予定だったんじゃないのか?」
そのリクの言葉を否定するように白兎が首を振る。
「多分それはないわ。支給された食料は三日分はあった。つまり主催者側は最大三日程度を想定していたという事。
全員飢え死になんて間抜けなオチを望んでいない限り多少の余裕は持たせているのでしょうけど、ここまで性急に事を運ぶ予定だったと言う事はないはずよ」
「そりゃまあそうかもだけど。単純に脱落者のペースが予想以上に速いから進行をそれに合わせただけじゃないのか?」
第一、第二と放送で発表された死者の数はハッキリ言って異常なペースである。
それに合わせて全体の進行を速めたというリクの言葉は理屈としては一見何の矛盾もないように思える。
「逆よ。こういうやり方は膠着している場を無理やり動かすために用いるカンフル剤のようなモノなの。
順調に事が進んでいるのならば無理に手を加える必要がないわ。逆効果になりかねない」
どのようなモノであれ手を加えると言うのは相応のリスクを伴う。
流れが来ていると思って倍プッシュして破産なんて珍しくもない。
今のように順調に進んでいる段階で行うものではないし、行うのなら膠着してからでも遅くはないはずだ。
「けれど、主催者は殺し合いの進行を速めた。
それは間違いない事実。だったらその理由には一考の余地があると思わない?」
主催者が進行を急ぐ理由は何か。
そんな白兎の問いかけにリクが頭を捻る。
「理由ね……例えば、国選ヒーローの手が回りそうで焦って進めたとかか?
まあ、そうだったら呑気に放送なんてしてないで荷物纏めて逃げ出してるだろうけど」
「確かに助けが来る可能性は低いとは言ったモノの、それもない話じゃないわ。
けど、これだけ大がかりな事をしているわけだから、そう言う介入は当然ある程度は想定して対策は打っているはずなのよ」
裏表問わずこれだけの要人を拉致していれば穏便になど済むはずがない。
事件は確実に発覚するし、関係者は犯人探しに躍起になるだろう。
その程度の予測を、あの男が立てられないとは思えない。
「まあ、そうじゃなければただのバカだからな」
「そうね。そんなバカに拉致られたとは思いたくないからその線で考えるとして。
対策を打っている以上、そう簡単に主催側の事情は揺らぐものではないはずよ」
そう簡単に外的要因で揺らぐことは考えづらい。
そうなると内的要因による変化である考えるのが妥当なのだが。
一枚岩でない組織の場合い内輪揉めで内部分裂なんてよくある話だ。
だが奴は単独犯である可能性が高い上に、自身を作る洗脳めいた能力がある。
内部崩壊で自滅などという可能性は低いだろう。
外部でも内部でもない。
そうなると何があるのか。
白兎は難しい表情のまま、考え込むように腕を組んだ。
それが彼女が自分の世界に没頭するための仕草だと知っているリクはそれを邪魔せぬよう口を閉じる。
「…………そうね、変化でないとしたら、もしかしたら……最初からそうだったのかも」
そのまま暫く考え込んでいた白兎の口から出たのはそんな言葉だった。
それを聞いたリクは肩を竦める。
「だからそう言ってるだろ。最初からそう言う予定だったんじゃないかって」
「そうじゃないわ。そうじゃなくて」
白兎は組んでいた腕を解きピンと指を立てる。
まるで教師か何かのようだなとリクは場違いな感想を抱いた。
「状況が変わって焦ってたんじゃなくて、もしかして彼は最初から焦っていたんじゃないかしら?」
「はい?」
リクは素っ頓狂な声を上げると、その言葉を理解しかねるのか渋い表情で首を傾げた。
「根拠を聞こう」
「状況証拠しかないけれど、これまで裏の裏で暗躍していた奴がいきなりこれだけ大掛かりな事をしたのも、何かに追いつめられていたから、と考えれば説明つかないかしら?」
なるほど確かに、ゲーム進行の速さだけを見るのではなく、この事件全体を見ればそう言う結論も見えるだろう。
「けど社長。焦ってる奴にこんなことしてる余裕があるのか?」
「焦っているからこんな事をしているのかもよ?」
意味ありげな白兎の言葉にリクがさらなる疑問符を浮かべる。
「どういう意味だ?」
「さあ、どういう意味なんでしょうね?」
「おいおい」
呆れ声を出すリクに、白兎は少しだけ申し訳なさそうに眉をひそめて苦笑する。
「ごめんなさい。そこに関しては本当にわからないのよ。
そしてそれが問題。未だにこの殺し合いの目的が見えない」
何かを始めた以上、必ず何か目的が存在するはずだ。
これだけ大掛かりな事であればなおさら理由もなしには始めない。
この殺し合いの裏に何か大きな野望が渦を巻いているはずである。
だが、その目的が未だに霞に隠れて見えずにいた。
「悪趣味な娯楽としてどこぞの好き者たちの見世物にしてるっていうのはないと思うわ。
もしそうだったら終了を急ぐ必要はないでしょうし、むしろ長引かせるでしょうね」
「だったら何かの魔術的な儀式だとか?」
リク自身は詳しくないが、仲間内にいるそう言う儀式を得意としているメンバーから聞いたことがある。
壺に閉じ込めた虫同士を殺し合わせ最後に生き残った虫に呪力を集める蠱毒という儀式があると言う。
「確かに蠱毒めいてはいるけれど、どうかしらね。
多分私が思うに、この殺し合いは手段なのよ。何か目的のための手段。
仮にこれが蠱毒だったとして、それで生まれた物を何に使うつもりなのかしら?」
主催者の目的なんなのか。
この殺し合いを使って何をしようとしている?
何かヒントがないかとリクはこの殺し合いの始まり、最初の場所での主催者の言葉を思い返す。
「……確か『革命』、だったか?」
「そうね。そして『神様』について語っていた時の態度も気になるわ」
他にもいくつか気になる所はあるが。
あの場面でピックアップすべきキーワードはこの二つだろう。
『神様』『革命』そして『殺し合い』。
「単純につなげれば『神様』への『革命』って所か?」
「ただ繋げただけなのは安直すぎる気はするけれど……まあそうなるわね」
「これと『殺し合い』がどう繋がるってんだ?」
「それが、繋がらないのよね。そこを繋げるピースが足りない。
まあ強引に今ある情報を繋げただけだしね。そもそも神への革命っていうのが曖昧過ぎて具体的に何を示しているのかが分からないわ」
「ま、結局そこだよな。ピース集めをするしかないってことだな」
そう結論付ける。
そもそもこの謎を解くピースがこの会場にあるのかすらわからない。
徒労に終わる可能性の方が高いだろう。
それでもどこかにピース存在する可能性が僅かでもある以上、手は尽くさねばならない。
「正直、参加者が半数を切った段階でまだ情報的に後手に回ってるこの状況は痛いけれど……対主催を掲げているのは私達だけじゃないはずよ。
私達の知らない情報を持っている人たちがいるはずだし、私達しか持たない情報もあるはず。
いつかそんな人たちと合流できたときに情報を突き合わせて、答え合わせをすればいい」
リクも同感だと頷きを返す。
多くの死者を出した悪意の渦巻く地獄のような状況において、正義の心を失わない人間は必ずいるはずだ。
それを信じ、彼らと協力すれば確実にこの状況も打破できると
氷山リクは信じている。
「という訳で氷山くん。調べたい所が出来たの、悪いんだけど目的地を変えてもいいかしら?」
当初の目的通り情報収集も兼ねシルバースレイヤーの回復手段を探すべく人の集まりそうな市街地に向かっていたのだが。
白兎に何か別の気づきがあったのだろう。
それがなんなのかは分からないが、その点は信用している。
その方針に対してリクが異論を挟む余地はない。
「いいぜ。それでどこに向かうんだ?」
「最後の場所よ」
リクの問いにそう答え、白兎は地図を取り出した。
そして指を這わせて外枠から渦を描く様に地図をなぞる。
その渦は徐々に狭まり、最後にある一点で停止した。
それはこのまま順当に外枠が埋められ活動エリアが狭まって行けば、必然的に最後に残るであろう場所。
「中央に向かいましょう。最後に残るからには何か意味があるのかもしれない」
外枠を埋めて行けば中央が残るのただの必然である。
何もない可能性も高いだろう。
だが、何かある可能性もある。
狭めるタイミングは別として、この狭め方自体は予定にあったはずなのだから。
何にせよ何もないのなら何もないという結果が得られる。
今できることは一つ一つの可能性を潰してゆくことだけだ。
【G-6 山中/日中】
【氷山リク】
状態:全身ダメージ(小)左腕ダメージ(中)エネルギー残量61%
装備:なし
道具:基本支給品一式、ランダムアイテム1~3(確認済み)
[思考・状況]
基本思考:人々を守り、バトルロワイアルを止め、
ワールドオーダーを倒す。
0:中央に向かう
1:エネルギーの回復手段を探す
2:
火輪珠美、
空谷葵と合流したい。
3:ブレイカーズ、悪党商会を警戒。
※大よその参加者の知識を得ました
※心臓部のシルバーコアを晒せば、月光なら1時間で5%、日光なら1時間で1%エネルギーが回復します
【
雪野白兎】
状態:健康
装備:なし
道具:基本支給品一式、工作道具(プロ用)、ランダムアイテム1~4(確認済み)
[思考・状況]
基本思考:バトルロワイアルを破壊する。
0:中央に向かい調査する
1:氷山リクの回復手段を探す
2:空谷葵、火輪珠美と合流したい。
3:ブレイカーズ、悪党商会を警戒。
※大よその参加者の知識を得ました
――――同時刻。
島の中央に位置する折り重なった山脈にて、甲高い嘶きの様な轟音を挙げながら道なき道を突き進む異形があった。
波のようにうねる大地を強引に突き進みながら、昼の光を吸い込むような漆黒が残像を引きながら走り抜けてゆく。
斜角の激しい山道を昇りながら、同時に木々の隙間を縫う機動性を見せる、その動きは正しく人知を超えていた。
峻険な山容を物ともせず疾走するのは四足獣の様な低いフォルムの生物である。
しかしそれは獣ではない。
どの世界を探そうとも、自然界にこのような生物は存在しないのだから。
超攻撃的な流線型フォルムと地面に張り付き回転するホイールからして、強いて言うなら大型の二輪車が近いだろう。
だが、その表面はドクドクと脈打ち、純粋な無機物ではない事を示していた。
科学の粋を集められ開発された人工知能を搭載した超二輪。
数多の妖魔の頂点に燦然と君臨する吸血鬼という種族。
科学と超常。その頂点が組み合わさったハイブリッド。
それがこのブレイブスタードラキュリアである。
あり得ない駆動。
あり得ない馬力。
あり得ない加速。
あり得ない操縦性。
その全てを実現する文字通りの『化け物』マシンである。
直走る漆黒の鉄騎は市街地に続く整備された道路ではなく、険しい山越えを行うルート選択して突き進んでいた。
その行動原理に明確な意思などない。
ただ本能に従い突き進む食欲と愛欲の権化である。
苦もなく登頂を続けるモンスターマシンは、このまま突き進めば程なく山の頂上へとたどり着くだろう。
勿論、彼女は氷山リクらがそこに向かっていることを知っているわけではない。
ブレイブスターの持つ探知機能や吸血鬼の持つ嗅覚が彼らを捉えたわけでもない。
そもそも彼らが直前に行動方針を変更しなければ、その目的地が重なる事もなかっただろう。
彼女には意思がない、それ故にその行動には合理性もない。
これはその合理性の無さが引き出した結果である。
これは偶然か、それとも運命か。
氷山リク、雪野白兎、そして空谷葵。
同じ大学に通う三人の命運が世界の中心にて交わろうとしていた。
【F-7 山中/日中】
【空谷葵】
[状態]:食欲旺盛、人喰らいの呪
[装備]:ブレイブスター、悪党商会メンバーバッチ(2番)
[道具]:
サイクロップスSP-N1の首輪
[思考・行動]
基本方針:血を吸いたい
1:氷山リクがほしい
2:おいしいの(若い女の子)もたくさんほしい
※いろいろ知りましたがすべて忘れました
※人喰いの呪をかけられました。これからは永続的に人を喰いたい(血を吸いたい)という欲求に駈られる事になります。
※ブレイブスターの超音波ソナー、嗅覚、吸血鬼の第六感を頼りに氷山リクを優先的に捜しています。探知の精度は不明です。
最終更新:2016年03月02日 00:34