その異変は西方より出現した。
「何だ…………?」
思わず声を漏らした
氷山リクと傍らの
雪野白兎の視線が一点へと向けられる。
それは光だった。
周囲を一望できる電波塔の展望台から、太陽と見まごうほどの眩さを放つ黄金の閃光が唐突に出現したのだ。
「なあ社長。太陽って西から昇るんだっけ?」
「まさか、天才バ〇ボンじゃあるまいし」
真逆から上がる光に軽口を叩きつつも、リクと白兎が目くばせをして頷きあう。
太陽でないのなら、地上にあれ程の輝きをもたらせる存在など限られている。
そして、その輝きを齎せる存在に二人とも心当たりがあった。
「となると、あそこにヤツがいる、と言う事だな。どうする社長?」
「スルーするわけにもいかないんだから、どうするもこうするもないでしょ」
問うまでもなく、次にとるべき行動など決まっていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「あらら……当たりとハズレが両方来ちゃいましたね」
辿り着いた光源で、身を休めるように木に背を預けた妙齢の女性が彼らを出迎えた。
肩と胸に傷を負ったのか応急手当てを済ませた跡があり、治療跡には血が滲みんでおり、血を流した影響か顔色は僅かに青い。
だが、それほどの手傷を負っている状態でありながら、この女を象徴するような不敵な笑顔は崩さない。
待ち構えていた女へと氷山リクが一歩踏み出す。
「お前はゴールデン・ジョイだな」
「そう言う彼方はシルバー・スレイヤー」
輝くような笑みの女と研ぎ澄まされた刃のような男。
『黄金の歓喜』と『白銀の断刃』が名を呼び合い、互いの視線が刃のように交錯する。
それは同じ研究室で同じ研究者に生み出された同型の改造人間。
その始まり(プロトタイプ)と終わり(ラストナンバー)が真正面から対峙した。
しかし、その睨み合いは一瞬。
恵理子はリクから視線を切ると、後方の白兎へと目線を変えた。
「白兎さんもどうも。息災で何よりです」
「ええ。お蔭さまでね、そっちも無事で何より」
「あれ、無事に見えますこれ?」
恵理子は背を預けていた木から離れると、ボロボロの様子を見せつけるように両手を広げた。
白兎はその様子を一瞥すると、興味なさげに目を閉じる。
「生きてれば無事でしょ?」
「いやー。相変わらずきついですねー」
言葉自体は刺々しいが、白兎の態度は妙に親しげだった。
というよりこの女、親しくなるほど言葉に棘を含むきらいがある。
恵理子も恵理子でリクへ向けた敵意のような態度とは打って変わって、白兎に対する態度は幾分か柔らかい。
そんな二人の態度に困惑の視線を送るリク。その様子に気づいた白兎はああと頷く。
「そうね、貴方の弱点も聞かせてもらったわけだし、こっちも情報を明かさないとフェアじゃないわね。
会った時に少し話したと思うけれど、私にも秘密の情報元があるって言ったでしょ? その秘密の情報元の一つが彼女よ」
「どもども秘密の情報元でーす。っていいんですか言っちゃって?」
ちわーと敬礼するように手を上げお気楽な調子で名乗りを上げる恵理子。
だが明かされた内容はその態度に見合う程軽い事実ではない。
「情報元って……お前、悪党商会の幹部だよな」
「そうですよー」
「……んな立場のやつが敵対組織に自分の組織の情報売り渡していいのかよ」
「別に裏切ってるって訳じゃないですからねぇ、これも全ては悪党商会のため、情報部部長としての情報収集の一環という奴ですよ。
私も情報収集のために新聞記者なんてものもやってますけどそれだけじゃあ集められないモノもありますしね。
と言うか、どの組織の諜報部でもこれくらいはしてるんじゃないですかねぇ」
全く悪びれる様子の無い恵理子の様子にリクが呆れ返った。
そもそも悪の組織の規律や裏切りなどヒーローであるリクが心配する必要はないのだが。
悪党商会の幹部が情報元だと言うのなら、そりゃあ悪党商会の真の目的も把握しているはずである。
「社長はいいのかよ、悪党商会なんかと手を結ぶって」
「別に悪党商会と手を結んだわけじゃないわよ。あくまで必要な時にだけ情報を提供し合うギブ&テイクの関係よ」
「ですです。ビジネスライクな関係ですよー」
「……まさかJGOEやJHA(日本ヒーロー協会)にもスパイがいるんじゃないだろうな」
「さぁ、それはどうでしょうねぇ」
恵理子は肯定も否定もせず、ただニコニコ顔でそうはぐらかした。
もはやリクは乾いた笑いしか出てこなかった。
「それで、誰にやられたのその傷? 貴方をそこまで追い詰めるなんて、まさかこの辺に
剣神龍次郎がいるとかじゃないでしょうね?」
「まっさかー。目の前に大首領なんて現れたらフラッシュバンして速攻で逃げますって」
「それもそうか、あなたあの男苦手だもんね」
「いや……あの人得意な人なんているんですかね?」
本気で苦手意識を持ってるのか、彼女にしては珍しくトーンを落とし苦い笑みを浮かべた。
しかし気を取り直すように、そう言えばと呟き、思い出したようにリクへと向き直る。
「私らに手術を施したあのマッドサイエンティスト曰く、月と太陽が合わさって戦えば、理論上で言えばあの大首領を上回るらしいですよ。私は絶対嫌ですけど」
「けっ。理論であのオッサンが倒せたら苦労しないぜ。
それで倒せるんなら東京大空洞でJGOE全員で囲んだ時にとっくに倒してるっての。なんでパワーアップして復活してんだよ」
「いやー。その辺は私が聞きたいくらいですねぇ」
あの人理屈が通じませんからと、しみじみ呟く恵理子。
それに関してはリクも白兎も心の中で深く同意する。
「ところで、確認しておくのだけれど、私との契約はこの状況でも生きてるのかしら?」
「もちろん生きですよー。あの契約は悪党商会とラビットインフルとの契約というより、雪野白兎と
近藤・ジョーイ・恵理子の個人での契約ですからねー。
ですけど、ここにきてまだ情報収集が出来ていないので、あまりそちらのお役にたてそうな情報はなさそうですよ?」
「貴方なら参加者の情報くらい大体把握してるでしょ? それでいいわ。現時点の会場の調査結果をあげるからそれ頂戴」
「ですか。じゃあ少々お待ちくださいねー」
そう言うと恵理子はメモ帳を取り出し、サラサラとペンを奔らせ始めた。
※1 サポート用意
※2 ヒーローの様なチームです
※3 ヴィランの様な組織です
※4 同じ組織に所属する殺し屋です
※5 クロウ=朝霧舞歌、同一人物
※6 元殺し屋で※4の組織に所属していました
※7 ユルティム・ソルシエール(究極の魔女)。創造の魔女と噂される存在です
※8 中退済み
※9 マスコミ関係者
※10 世界的科学者、自ら開発した薬で幼女となったみたいです
※11 表の世界では最強とされている剣術家です
※12 JGOEのシュバルツ・ディガーのご子息です、異能者の可能性あり
「そちら様の方がご存知の所もあるでしょうけど。
とりあえず参加者を区分分けするとこんな感じですね」
渡されたメモを暫く見つめた後、リクが率直な感想を漏らした。
「……意外と不明が多いな」
「流石に私も全人類を把握しいるわけじゃあないですからねー」
割と失礼なリクの物言いもどこ吹く風、変わらぬ態度で恵理子は応じる。
団員である水芭ユキの周囲にいる人間の身辺調査くらいはしているが、さすがに何の異常もないただの一般人を調べるほど悪党商会も暇ではない。
「ってことは分らないのはアンテナに引っかけるまでもないただの一般人ってことか?」
「それとも我々でも名を追えない深淵の者か、ですね」
「そうじゃない事を願うばかりね」
とはいえ、わざわざ招集しているという事は可能性としては後者の方が大きいだろう。
気に留めておく必要があると、リクと白兎は心の中で認識する。
「このリヴェルヴァーナっていうのは? 私は聞いたことがないけど」
「そう言う国というか地区に住む人たちって感じですね。あくまで出身がそこというだけなので、細かい所属や出身は異なります。
注釈にも書いてますが括弧で囲ってる前者がヒーロー、後者がヴィランのようなものだと考えてください」
そう恵理子は簡単に説明するが、リヴェルヴァーナとは完全なる異世界である。
先ほどの恵理子にも詳細がわからない人間がどういう存在かという話であと一つ考えられる可能性があった。
それはリヴェルヴァーナのような関わり合う事すらできない異世界の存在であるという可能性である。
平衡世界の存在を認識できる恵理子だからこそ、その可能性を考慮できるのだが、さすがに自らの秘密に繋がる情報までは渡すつもりはない。
「しかし嫌に学生と殺し屋が多いな、まあ殺し屋の方は殺し合いなんだから当たり前と言えば当たり前だが」
「そう言っても怪人連中よりはマシでしょ? あなたならまず負けないだろうし」
「いやー、あんまり殺し屋を嘗めない方がいいですよ。正直私も侮っていた所はありましたけどごく最近宗旨替えしました」
傷を抑えながら実感のこもった声で恵理子はうんうんと一人頷いた。
「ところで、ここに書いてないけど
ワールドオーダーに関しては何か情報を持ってないのか?」
「うーん。持ってると言えば持ってますが……これがまた何の変哲もないただのテロリストという情報なんですよねぇ。
異能を持ってるなんて事すら知りませんでしたし、こりゃ偽情報掴まされちゃいましたかね?」
伝える恵理子は明るい調子であるのだが、受ける白兎の表情は深刻な色を帯びていた。
「それって悪党商会の情報網が騙されたって事でしょ? そうなると情報戦においても並みじゃないって事になるわね」
「一応悪党商会の名誉の為にフォローしておきますけど、完全に影も形も追えていなかったって訳じゃあないですよ。
あの男も完全に痕跡を消せていた訳じゃないんです。FBIだって彼がテロリストっていう情報くらいは把握してましたしね」
「じゃあその把握してる限りの情報だとどんな相手なの?」
「うーん。そうですねぇ。まあ明らかに偽名ですしそれまでも別名で行動していた可能性も高いですが。初めてワールドオーダーの名前が出たのは八年前のとあるテロ事件の資料です。
そこからポツポツと各地に出現してますが、目立ったポジションに付く事もなかったですし、活躍しているとは言い難い印象でしたね。
今になって思うと意図的に目立たないよう別の旗本を立てて自身は徹底して暗躍に努めてきたという事なんでしょうけど」
その話を聞いても当然白兎の表情は晴れることはなく、形のいい眉を寄せてますます難しい顔になってゆく。
「そうなると、解らないのが。なぜ今になって表に出てきたのか、という事ね」
「別に奴からしたら今でも表に出てるつもりはないのかもよ。巻き込まれた俺たちには顔を出したけど秘密裏に全部片を付けて表沙汰にするつもりはないとか」
「そうだとしても、これまでの徹底っぷりからして私たちの前に出る時にも代役でも立てそうなモノだけどね」
「じゃあ俺らが見たあれが代理だったとか?」
「それは…………なくはないわね」
リクは思慮深いとは言い難い直感型の人間ではあるのだが、まれにこういう切り口だけは鋭い事を言うので侮れない。
「恵理子、貴方の持ってる情報と照らし合わせてあれは本人だったと断定できる?」
「できませんね。と言うより、どの資料でも顔だけは徹底して隠してましたし、彼個人を特定する情報は私のデータベースにありません」
そもそもあの説明の舞台にいた男がこの事件の首謀者であると誰も疑わなかったのはパフォーマンスめいた能力の強力さ故だ。
誰もその素性を知らない以上、奴がワールドオーダーだとは断定できない。
「けど、あれだけの力をもってまったくの別人という事もないだろう。替え玉にしてもあのコピー能力で作った奴だとか?」
「それはないわ」
「どうしてそう断言できる?」
「だってコピーを作る能力はコピーできないんだもの。その前提がある以上あの男がオリジナルで間違いないわ」
言われてみれば当然の話だ。
コピーを作る肝となる能力は、あの時コピーできなかった。
ならば、そのコピー能力を持っているのはオリジナルに他ならない。
「じゃあやっぱりアイツが黒幕?」
「その可能性が素直に一番高いでしょうね」
そうなると、何故今になって表立った動きをしたのかという振出しに論点が戻る。
リクと白兎は頭を捻るが、そこに恵理子が水を差す。
「お二人とも考察を深めるのも結構なんですが、そろそろそちらからの情報もいただきたい所なのですが」
恵理子の言葉も尤もだ。
結論が出るとも分らない考えを巡らせていてもキリがない。
「それもそうね。じゃあ次はこちらの番。この会場を調査した結果をお話しするわ、と言っても確定したものじゃなくて推測が混じるんだけど」
そう白兎は前置きして電波塔での調査の結果、この会場が異界である可能性が高いという調査結果を語った。
その話を聞き終えた恵理子は何とも言えない表情でうーんと唸った。
「結界か異界ですか。まあこれだけの事をするんですから、あの男がその手の能力も持ってたとしてもおかしくはないでしょうねぇ」
「協力者がいるって可能性もあるし、まだ推測の話だけどな」
「作り物の世界であるのなら、存在する綻びを見つけ出してその矛盾点を突くというのが攻略のセオリーですけど。
白兎さんの事ですからその程度は既に確認済みですよね?」
「ええ。少なくとも直感でわかるような違和感はなかったわ、深い調査が出来たわけじゃないからハッキリとは言えないけれど」
白兎としても深く検証したい所ではあるのだが、首輪で命を握られている以上禁止エリアや会場の外の調査には高いリスクを伴ってしまう。
そのため満足な調査が出来たとは言えない状況である。
「だとしたら、こういう違和感は妖怪連中に聞いた方がいいかもですね。
吸血鬼はちょっと例外ですけど、土地神や怪と言った自然から発生した連中は世界の違和感に敏いですから。
能力を行使できなかったり、不調をきたしてるモノもいるかもしれないです」
その恵理子からの提案はなかなか悪くない内容だった。
妖怪というのが協力的とも限らないが、話を聞くだけなら危険な場所まで調査に行くよりかは幾分リスクは低いだろう。
「妖怪ってこの分類でいうと妖カテゴリの奴らか?」
「そうなんですけどこの中だと殆どが吸血鬼なんですよねー。自然から生まれた純粋な妖怪となると上杉愛くらいのものですかね」
「上杉愛?」
「ほら、お宅のシュバルツ・ディガーの従者ですよ」
「ああ。確か烏天狗だとかいう」
と頷くもののリクも直接的な面識があるわけではない。
田外家に代々使える存在がいるとシュバルツ・ディガーからそういう話を聞いた事がある程度だ。
とはいえイザと言うときスムーズに話が付けられる分この情報を得られたのは大きいだろう。
「ところで、この情報ってあの電波塔を使って得たんですよね?」
「ああ社長がちょいと工作してな」
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「いえ、それってつまり機能は生きてたという事ですよね? だとしたら、何のためにあるんでしょうねぇ、あの電波塔?」
「そうね。機能が生きていた以上は何らかの役割は果たしていると考えるべきでしょうね」
少なくとも電波は島の外に届いていない事は確認済みである。
機能が外に届いていないのならば、その機能は内に向けて働いているという事だろう。
つまりはこの会場に対して役割を果たしている可能性があるという事だ。
「何かってなんなんだ?」
「そりゃあ電波塔なんですから、電波を流してるんでしょーねぇ」
「だからそれが何の電波なのかって話だろ」
「普通に考えればテレビや電話の電波なんじゃないですかね?」
「とは言え、状況は普通じゃない訳だし。この状況だと、そうね……施設と言うより参加者に何か信号を送ってるとかじゃないかしら?」
参加者に対して影響を及ぼす何か。
本当にそんなものがあるとするならば、それを何とかすればひょっとしたら状況を打開する足掛かりになるかもしれない。
「じゃあ、とりあえず壊しときます? あの電波塔」
そう不敵な笑みを浮かべつつ、恵理子は力を限定解放して腕の中に僅かに光を溜めた。
どういう意図があるかは分らなくとも壊してしまえばその目論見ごと破壊できるはずである。
「やめておきましょう。その結果何かの信号が途切れて首輪がボンなんて事になったら困るわ」
「ですね」
その程度の危険性には恵理子も思い至っていたのだろう。
元から本気ではなかったのか、白兎の静止にあっさりと恵理子は引き下がった。
「じゃあ取引はこのくらいにしておきましょうか。
これからはこの先の話をしましょう」
ブンと腕を振って溜めこんでいた光を打ち消すと、恵理子はそう切り出した。
「お二人はこれからどうされるおつもりなんですか?」
「とりあえずは彼の回復手段を探すつもりよ、戦う手段がなければ動きづらいし」
「おやおや充電式は大変ですねー」
「それはお互い様だろ。暴走の危険がある無限炉式も大変だろう」
シルバー・スレイヤーがシルバーダイナモをエネルギー源としているように、ゴールデン・ジョイはそのエネルギーを無限太陽炉と呼ばれるコアユニットによって賄っている。
それは文字通り無限のエネルギーを生み出すことのできる装置ではあるのだが、使いすぎれば暴走する可能性を孕んでいる危険な代物だ。
「ま、その辺はやりたいことを詰めこまれた試作品(プロトタイプ)の悲しい所ですね。
そのへんはさておき一応確認しておきますけど、当然お二人とも反殺し合いを掲げ脱出を目指してらっしゃるんですよね?」
この問いにリクはああと頷き、白兎は答えるまでもないと肩を竦める。
「そう言うお前はどうなんだ?」
「無論、私もそのつもりですよ。悪党商会の定義からいえばワールドオーダーは排除対象ですので、従う義理はありません」
恵理子はニコニコと張り付いたような笑みのまま、対主催を公言する。
「つまり私らと協力しようってこと?」
「協力と言うより保護ですかね? 悪党商会の方針にのっとればお二人は保護対象になりますので」
「こんなとこまで来て、まだやってんのかそれ」
「そりゃあもう。いつでもどこでもやり続けますよー。それが悪党商会の理念ですので」
呆れたように言うリクに対して恵理子は不敵な笑みで答える。
悪党商会は表向きにはよくある悪の秘密結社の一つとされているが、悪党商会の真の目的は『悪党と正義のヒーローの居場所を与える』事である。
そのために人知れず世界のバランスを破壊しかねないバランスブレーカーを排し、今の世界を回すのに必要な悪や正義を保護対象と設定してきた。
目指すのは平穏ではなく、全ては行き過ぎた力の暴走を抑え変わらぬ世界を維持するため。
その理想の理解者にして体現者。
それがこの近藤・ジョーイ・恵理子である。
「まあこの体たらくでこう言うのも烏滸がましいんですが、望むのでしたら全力で保護して差し上げますけど、どうされます?」
「断る」
「お断りするわ」
恵理子の勧誘にほぼ同時に即答が返ってきた。
「あらら、振られちゃいましたね。ちなみに理由をお聞かせ願っても?」
にべもなく断られた事に対してショックを受けた風でもなく、笑顔のまま恵理子は続ける。
「お前らの世界を今のまま維持するという目的自体は否定しない。それも一つの理想の形だろう。
だがな、お前らは目的のためなら平然と人を殺す。俺にはソレが許せない」
「尊い犠牲ってやつですよ。戦いの中で犠牲が出るのは当然の事でしょう
我々のやっていることはむしろ効率よく事が運ぶようコントロールして、その犠牲を最小限に食い止める行為なんですけどねぇ」
「確かにその通りだ。戦いは犠牲はどうしようなく生み出してしまう。
だがお前らに、いや、誰にもその犠牲を選ぶ権利などはない。そんな奴と行動を共にすることなどあり得ない」
「その結果、犠牲となるモノが増えたとしても?」
「そうならないよう努力するのがヒーローの務めだ」
真正面から相手を見つめ受け入れることはできないと白銀のヒーローは黄金の悪党に断言した。
「なるほど、やはり私と貴方は相容れない関係の様だ」
最初からお互い分りきった事だった。
空に月と太陽が同時に存在できない様に、この二人はどうしようもなく共存できない関係にある。
恵理子としても悪党商会の活動という名目がなければリクと行動を共にしたいとは思わない。
「では白兎さんはどうです? 戦力的にはともかく、私の方がそこの人よりは建設的なお話が出来ると思いますけど」
「恵理子。前にも言わなかったかしら? 私、貴方の事は嫌いじゃないけど悪党商会のその方針は大嫌いなの。
何より保護してやってるっていう上から目線が気に喰わないわ」
「なるほど、ミュートスさんと似たようなかんじですねー。まあその辺の意見は今後の活動の参考にさせていただきましょうか」
そう言って恵理子が軽い足取りで後退し、二人から僅かに離れた。
話している間に幾分か回復したのか、顔色は若干復調したようである。
「振られ女はここで去る事にします。と言ってもお互い目的が同じである以上、道はいずれ交わるでしょうけど」
道のりは違えど、脱出を目指し、対主催を目指す以上必ずその時は来るだろう。
月と太陽が交わる時。
それは太陽の名残が残り月が現れ始める一瞬の黄昏。
「それではその時になったらまたお会いしましょう」
【H-5草原(森の近辺)/午前】
【氷山リク】
状態:全身ダメージ(小)左腕ダメージ(中)エネルギー残量58%
装備:なし
道具:基本支給品一式、ランダムアイテム1~3(確認済み)
[思考・状況]
基本思考:人々を守り、バトルロワイアルを止め、ワールドオーダーを倒す。
1:エネルギーの回復手段を探す
2:火輪珠美、空谷葵と合流したい。
3:ブレイカーズ、悪党商会を警戒。
※大よその参加者の知識を得ました
※心臓部のシルバーコアを晒せば、月光なら1時間で5%、日光なら1時間で1%エネルギーが回復します
【雪野白兎】
状態:健康
装備:なし
道具:基本支給品一式、工作道具(プロ用)、ランダムアイテム1~4(確認済み)
[思考・状況]
基本思考:バトルロワイアルを破壊する。
1:氷山リクの回復手段を探す
2:空谷葵、火輪珠美と合流したい。
3:ブレイカーズ、悪党商会を警戒。
※大よその参加者の知識を得ました
【近藤・ジョーイ・恵理子】
[状態]:疲労(大)、胴体にダメージ(小)、左肩に傷(大)、左胸に傷(大)、右腕に銃創
[装備]:なし
[道具]:イングラムの予備弾薬、ランダムアイテム0~3(確認済)、基本支給品一式
[思考]
基本行動方針:悪党商会の理念に従って行動する
1:正義でも悪でもない参加者を一人殺害し、首輪の爆破を回避する。確実に死亡している死体を発見した場合は保留
2:首輪を外す手段を確保する
3:南の街へ移動してくる参加者を待つ
最終更新:2016年10月04日 01:22