『面白そうだから引き受けたが、一応アンタには話を通しておこうかと思ってよ』

サイパスの私室に来客が訪れたのは、とっくに日付が変わり夜の住民も寝静まろうかと言うほどの深かい時刻の事だった。
もっとも来客と言ってもアポイントメントがないどころか、ノックすらせず扉を開くような礼儀知らずではあるのだが。
勿論、鍵は閉めていたはずなのだが、この男にとってそんなものは在って無いようなものらしい。

ニヤつきながら扉を開いたのは、組織の最強戦力と評される男だった。
男は挨拶もそこそこに我が物顔で部屋の中央を突っ切ると、壁際にあるアンティーク調の食器棚を開いて、そこからグラスを勝手に二つ取り出した。
それをテーブルに並べて腰を下ろすと、男は持参したウォッカの栓を抜き宝石のようなカットデザインのグラスに注ぎ一方をサイパスの方へとすいと差し出す。
今更この男の勝手など咎める気にもならないのか、部屋の主は呆れたように頭を振りながらもその対面に腰かけた。

『それで、なんの用だヴァイザー?』

差し出されたウオッカに口を付けるでもなく、サイパスは来訪の理由を問いただした。
用もなく互いの私室を訪れるなど、この組織内ではそうある事ではない。
その中でも近寄りがたい立ち位置にあるサイパスの部屋を訪れる者など殆どいなかった。
そのサイパスの部屋をわざわざ人目を避けるような時間に訪れたからには、相応の要件があるはずである。

『イヴァンのガキが俺に依頼してきたぜ、アヴァンの旦那を殺せってな』

何か愉しげな報告でもするように、ヴァイザーは酒を片手にそう言った。
それを聞いたサイパスは表情を変えず、いつも通りの険しい表情のままグラスを傾ける。

『組織内での殺し合いはご法度のはずだが?』
『正当な理由がなければ、だろ? 後はバレなければか』

イヴァンはこっち狙いみたいだけどな、と付け足して下卑た嗤いを浮かべた。
サイパスはそのふざけた態度に取り合わず先を促す。

『それで、その理由とはなんだ?』

ヴァイザーが透明な液体をゆるりと口に運びグラスを空にする。
強めのアルコールに火を噴くように焼やかれた喉から、一瞬で酒気を帯びた息を吐いた。

『かぁーっ。アンタに合わせてキツめのウォッカにしたがキクなぁこりゃ』

話を進めようとしないヴァイザーにサイパスが眼を細めギロリと睨みを効かせる。
放たれる殺気に本気の色が混じりつつあるなと、敏感に感じたヴァイザーは肩をすくめて取り出した何かを空のグラスの横に放った。
それは資料の束だった。

『これは…………?』
『イヴァンは今回の事は秘密裏にやるつもりらしいが、こいつはイザ発覚して問い詰められたときのための保険らしい。
 ま、でっち上げもあるだろうが、ここまでご丁寧に証拠を集められちゃこっちも納得せざる負えねえさ。
 ったく。慎重と言うか、臆病と言うか。殺しは下手なくせにこういうことは徹底してやがる』

何がそんなに楽しいのか、獰猛な野生動物のような攻撃的な笑みを浮かべた。
資料を手に取り、目を通すサイパスの表情が徐々に普段以上に険しいものになってゆく。

『そこに書かれてる通り旦那は組織の情報を流してたらしい、ここ最近仕事がし辛くなってたのはそのせいだ。
 ま、今のところ死者は出ていねぇが、この辺が差し止め所だろう。
 しかも、野郎の脱出の手引きをしてのも旦那らしい』

野郎とは先日組織から離脱を果たしたルカの事だろう。
確かに単独では不可能なほど鮮やかな離脱劇だった。
何より、組織内で生まれ育ったルカが外部に頼る当てを持っているとも思えない。
協力者がいると言うのは考えてみれば当然だろう。

『これは重大な、組織に対する裏切り行為だぜ』

忠誠心なんてさらさらないであろう男が裏切り者を非難した。
それはきっと、本心ではなく言っているだけなのだろうけれど。

ざっと目を目を通しただけで動かしようのないような裏切りの証拠がいくつも出てきた。
成程。対外的な役割を果たしていたアヴァンならば情報を流すくらいは容易かろう。

『ま、そう言う意味じゃ、当のイヴァンの野郎も怪しくなってくるがな』

言って。ケケケと下卑た嗤いを零した。
彼にとってはアヴァンの裏切りもイヴァンが裏切っている可能性もどうでもいい事なのだろう。

『で、どうするよ。アンタがやめろってんなら止めておくが?』

ヴァイザーの問いにサイパスはつまらなさ気に深く息を吐くと、資料を読む手を止めヴァイザーに向かって投げ返した。

『それを何故俺に問う。正当な理由があるのならやればいい。
 粛清を秘密裏に行おうと言うのは気に喰わないが、裏切り者を処断するのは間違いではない』

そう言うとサイパスはこれまで手を付けていなかったウオッカを呷り、机に乾いた音を響かせた。
ヴァイザーは愉しげ唇をゆがめると、空になったサイパスのグラスに新たにウォッカを注いだ。

『そりゃ問うさ。古い付き合いなんだろ、そいつを殺ろうってんだから話は通しとくのが人としての筋ってもんだろう?』

散々自分勝手に人の命を喰らい尽くしてきた殺人鬼がどの口で人の筋など説くのか。
そもそもまともな人間は人など殺さない。
致命的に人としてずれている。

『別に昔馴染みというのなら俺に限った話でもあるまい、筋と言うのならボスに通すのが筋だろう』

その言葉にヴァイザーは珍しく困ったように、あー、と呻いて視線を泳がせた。
元よりヴァイザーは真面目に報告義務を果たすような奴でもない。
面白そうだからという理由だけで秘匿する事もあるだろう。

それを許されるのは圧倒的な実績というサイパスを上回る程の発言力があるからだ。
だが、本気で秘匿するつもりならば、こうしてサイパスにわざわざ言いに来る必要はないし、公にしたいのならばサイパスではなく上に通すべきだ。

イヴァンがこの件を秘密裏に進めたい意図は分かる。
アヴァンの後釜狙いの犯行だろう、自らそれを進めたとなればいらぬ角が立つ。
そのために親殺しを行ったともなればなおさらだ。
だがヴァイザーには理由がない。

『ボスは――――ありゃダメだろ。あの人に言っても意味がない』
『どういう意味だ』
『俺の話なんか聞きゃしないって事さ、いや俺だけじゃあない。
 あの人にまともに話を通せるのはもうアンタとサミュエルの旦那とアヴァンの旦那の三人だけだ』

その言葉は否定できない。
病床に伏した今のボスの精神は非常にデリケートだ。
扱いには細心の注意を必要とされ、長い付き合いで機微を理解した者でなければ、機嫌を損ねて殺されかねない。

『ならば、俺から話を通せという事か?』
『そうじゃないさ。ま、アンタがイヴァンの悪だくみをチクるのは自由だがね。
 けど止めといた方がいい。事が大きくなってややこしい事になるだけだ。
 どうせ答えも決まり切ってる、聞くだけ無駄ってもんだ。ボスに興奮されても困るだろ』

先日ルカの件があったばかりだ。
その時の激昂した反応を考えれば、あのボスが誰であろうと裏切り者など許すはずがない。
今のボスの容態を考えれば、確かに無駄に刺激することは避けたいところである。

『お前にボスの体調を気遣う心があるとは思わなかったよ』
『おいおい、今もこうしてアンタを気遣ってるじゃないか。
 それに俺は面倒になるから止めとけといってるだけで、あの人の体調なんて気にしちゃいねぇよ』

それはボス自体がどうでもいいと言うよりも、ボスは心配いらないと言った風な言い方だった。

『俺からしてみれば他の連中がボスが死ぬだの騒いでんのか不思議でしょうがないね。あの人がそう簡単に死ぬものか。
 ありゃ正真正銘の怪物だ。俺の見立てじゃ骨と皮だけになっても後20年は生きるだろうよ』

余命1年という闇医者の宣告を、命を扱う殺し屋は否定する。
それは暗に、後継者争いに精を出すイヴァンや後継者探しに躍起になるサイパス達の動きを、徒労だと嘲る言葉でもあった。
だからこそ彼はイヴァンの依頼を受けたのだろう。

『だからさ、俺はアンタに聞いてるんだ。
 ボスでもなく、サミュエルの旦那でもない。アンタだから話したんだ』

ヴァイザーが話を引き戻す。
相手を逃がさない執拗な蛇のように、答えを出さず逃れることなど、この男は許さない。

『…………何故、俺に拘る?』
『忘れたのか? 俺はアンタが誘ったからここにいるんだぜ、アンタじゃなければここには来なかった。
 解かるか? その敬愛しているアンタだから聞くんだ。なあ、どうなんだサイパスさんよ。殺していいのか? 悪いのか? それとも――――』

言葉とは裏腹にこの男からは敬意なんて微塵も感じられない。
愉しむように試すように、誘うように手を広げて最強の死神は問う。

『――――自分の手で殺したいか?』

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「はっ。死んだのかあのガキ」

吐き捨てるようにして、イヴァン・デ・ベルナルディはそう笑った。

今しがた放送によりアザレアの死が伝えられた。
ヴァイザーの死に比べれば意外な結果でもなんでもない。
平時から後先というものを考えず、生き残ると言う当たり前の思考が抜け落ちた鉄砲玉のような娘だった。
殺せば終わりの仕事と違って、生き残りゲームで死ぬのは当然の結果と言える。
所詮、愛らしい容姿と殺しの才能から組織内でちやほやされていたが、生き残れる器じゃなかったのだ、このイヴァン・デ・ベルナルディと違って。

どちらにせよ組織の連中は全てここで切り捨てるつもりだった。
無駄な手間を省いてくれたのだから、あの生意気なだけのクソガキが初めて役に立ったと言えるだろう。
イヴァンにとって死んだ殺し屋だけがいい殺し屋だ。
だが、何事にも例外はある。

「そうか、そう言えばお前もいたんだったな」

近寄ってきた影のような人物を認めて、イヴァンは幸運を噛み締めるように嬉しげに口元を吊り上げた。
殺し屋という下賤で破棄するべき奴等の中にもイヴァンの為に大いに働いてくれる利用価値のある者はいる。
ここでその唯一にして最強のカードを引き当てるとは、やはり、運命はイヴァンを愛している。

「よう、サイパス。お前と無事合流出来て何よりだ」

サイパス・キルラ
肉体の全盛期はとうに超えているにも拘らず、未だヴァイザーという稀代の殺人鬼以外には譲らぬ、組織内でも随一の実力者だ。
そして忠実なる組織の駒。組織のためなら命すら投げ出す事を躊躇わない男である。
この場においても決して逆らうことなくイヴァンに付き従うことだろう。

そのサイパスをもってしてもこの舞台は一筋縄ではいかなかったのか、だいぶダメージを負っている様だが。
それでも五体満足で合流は果たせたのは上々だろう。

「サイパス。貴様には俺の護衛を命じる。それと余ってる銃かトカレフの弾丸があるならこっちに寄越せ」

この二人の関係性において、互いの無事を喜び合うなどと言う無駄な作業は発生しない。
指示を出す者と出される者。
この二人にあるのはそれだけである。

「護衛を務めろというのなら従おう。だが、まともな銃は一つしかないのでな、護衛を任される以上これは私が持つべきだろう」
「ちっ。仕方あるまい。なら護身用でいい、何か武器はないのか?」
「熱で銃身の歪んだミリポリならあるが、一応整備はしてみたが使えるかも怪しいぞ?」
「それで構わん、無いよりはましだ」

そう言ってサイパスの手からひったくる様にS&WM10を受け取ると、パーツを解体して自分の手で検証と整備を始めた
サイパスが確認したとはいえ、自分の手で確認するまで信用しないイヴァンらしい行動である。

「ちっ。確かにほんの僅かだが銃身に歪みがあるな、撃てない事もないだろうが、これじゃ狙いをつけるのは無理だな」

舌を打ちながら、解き慣れたパズルでも作る様に解体した拳銃を組み立ててゆく。
元より銃の射程と言うのはそれほど長くはない。
実戦で動く的相手に使えるのはせいぜい5~10m程度。
卓越したプロならばその限りではないのだろうが、少なくともイヴァンが扱うには致命的だ。
だが、今のイヴァンには銃以上のサイパスと言う武器がある、手持ちの武器などは最低限で十分だろう。

「まあいい、脅しや牽制くらいには使える。
 それで、ここまでで俺以外の組織の連中とは出会えたか?」

何か錠剤をのみ込みながらイヴァンが問いかけた。
護衛を任されたサイパスは周囲に目を配り警戒をしながら、その質問に応じる。

「いや、ここで出会えたのはお前が初めてだ。
 どうするのだ? お前を護るのはいいとして、ピーターたちとの合流を目指すのか? それとも俺たちだけで脱出を、」

サイパスが言葉を最後まで発することなく途切れさせ、あり得ない光景を見て目を見開く。

予想外の銃声が響き、サイパス・キルラは凶弾に撃ち抜かれた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

『やぁ、サイパス。珍しいね君が僕を訪ねるなんて』

突然の来訪に怒るでも驚くでもなく。
暴力事などとは一生縁のないような優男は穏やかに微笑み、旧友を迎え入れた。
迎え入れられたサイパスは何も言わず睨みつけるようにアヴァンを見つめる。
その様子を見て、アヴァンはふっと穏やかに笑って全てを察した。

『そうか。君が僕の死神か、サイパス』
『違うな。それはヴァイザーの仕事だ』

最凶の死神の名を聞き逃げても無駄だと悟ったのか、アヴァンは驚くほど落ち着いた様子でソファーへと腰を下ろした。
それとも、逃げるつもりなど最初から無かったのだろうか。

『昔からの誼みだ一応言い分くらいは聞いておこうか?』

向かいに腰かけたサイパスは、躊躇うように僅かな間をおいて言葉を吐いた。

『………………何故裏切った』
『裏切ってなどいないさ。僕は君たちを裏切ってなどいない』
『惚けるな、証拠はそろっている。ルカの脱走を手引きしたのも貴様だろう』

突きつけられた明確な罪状を否定するでもなく、アヴァンは首を縦に振った。

『ああ、そうだ。ルカは新たな希望を見出した、僕はその手助けをしただけだ』
『手助け? ふざけるな、それが裏切りじゃなくてなんだと言うんだ!?』

バンと机を叩いて、サイパスが珍しく声を荒げた。
一般人なら気絶しかねないような迫力の恫喝にもアヴァンは動じるでもなくあくまで冷静に応じる。

『俺が護りたいのは『組織』じゃない。俺が護りたいのは『お前たち』だ』
『……どういう意味だ?』

サイパスが眉をひそめる。
サイパスにとってその二つに違いはない。
アヴァンにとっては違うというのだろうか。

『あの日から、カイザルはうまくやった……いや、彼はうまくやりすぎた。
 組織は大きくなりすぎた、それこそ僕らの手に余るほどに』

サイパスも薄々は感じていた事なのだろう。
アヴァンの言葉を否定できなかった。

この組織は社会不適合者の集まりだ。
それぞれが勝手な行動で問題行動を起こすものは少なくない。
その中でも派閥が生まれ、組織内での亀裂も走りつつある。
ヴァイザーと言う組織の手に余る怪物も生み出した。
表面的には力をつけて潤沢になったように見えるだろうが、その実、このまま進めば立ち行かなくなるのは目に見えていた。

『だからどうしたと言うのだ。そんなものは幾らでも立て直せる。
 その程度の事で、お前は組織に見切りをつけようと言うのか』

そんな事で組織は終わらない。
立ち行かなくなると言うのなら、立ち行けるようにすればいい。
これまでだってそうしてきた、これからだってそうだ。

『違う。組織は立て直すべきじゃないんだサイパス』

だが、同じ道を歩んできたはずの戦友は別の結論を出していた。

『組織は、アンナのホームに集まっていたあの頃とはもう違ってしまった。
 皆を護るはずの組織が、新たな歪みを生み出している』

アヴァンは後悔と哀愁が入り混じった呟きを漏らす。
彼らを救うはずだったホームは彼らを歪める災厄と化していた。

例えばアザレア。
あの少女は間違いなく組織という歪みが生み出した怪物だ。。
組織ではなく一般家庭に拾われていたならば、ごく普通の少女として当たり前の幸せを掴めていたのかもしれない。

アヴァンの息子であるイヴァンだってそうだ。
殺し屋などでなければ、その才覚を正しく生かせる場所もあっただろう。

それは彼らだけの話ではない。
他の皆も、何か別の可能性はあったのかもしれない。
サイパスだって。

『…………だから壊そうと言うのか、他でもないお前の手で』

外部から無残に破壊される前に、ビル破壊の様に適切な手段で解体してゆく。
そうすることで組織ではなく、組織の面々を護るために。

『壊してどうなる。たとえお前の目論見通りに組織が解体されたとしても、寄る辺を失えば、俺たちは生きていけない』
『なぜそう思う』

サイパスが苛立ちを堪えるように強く奥歯を噛んだ。

『なぜ? 決まってるだろ、俺たちは所詮、溝の底でしか生きられない塵屑だ!
 ドブ川の底に生まれ落ちた以上、そこで生きていくしかない!
 そこで生きていくのならばこの組織以上の環境などない! 組織と言う庇護を失えば食い物にされるか野垂れ死ぬだけだ!』

清らかな水では息の仕方も分からない、汚れた川でしか泳げない魚もいる。
だから、そんな奴等の目にせめて泳ぎやすい世界を用意してやるのが組織の役目だ。
そのためにサイパスはこれまで尽力してきたのだから。

『それが無理だとなぜ決めつける。なぜ泥の底から這い上がろうとしない!?
 俺たちの生き方が血塗られた道だけだとなぜ決めつける!?』

ここに居てはいつまでも地の底から這い出れない。
はた迷惑で排他的な享楽に浸るだけで、血塗られた生き方を増長するだけだ。

ルカの様に、日のあたる世界を歩める者もいるかもしれない。
そのために組織はもう足かせにしかならない。

『それをお前が言うのか……! 今もこうして暗闇の底を彷徨ってるお前が!』
『そうだ。僕たちはその暗闇の中で出会えたじゃないか。彼女に』
『…………ッ!?』

あの出会い。
あのホームで過ごした日々は、先も見えない暗闇の世界であり得ない奇跡だった。
そんな奇跡が、彼らにも訪れると言うのだろうか。
そんな訳が、ない。

『黙れ! 下らない理想を語るなよアヴァン! 俺達はここでしか生きられない!
 この組織だけが、俺たちが自由に生きていくための唯一の寄る辺なのだ!!』

どれほど足掻こうとも蛾は蝶にはなれない。
蝶になれずとも蛾は蛾なりの幸せがあるはずだ。

不幸の形が数多にある様に、幸せの形も一つではない。
世界から見捨てられた、誰からも選ばれなかった、天上に昇れぬ外れた連中の地底の幸福を追求する。
それがこの組織の在り方だ。

『理想を語っているのは、お前の方じゃないのかサイパス……?』
『…………なに?』

サイパスの表情が歪む。
さまざなな感情が入り混じった泣き笑いのような顔だった。

『その理想は誰の理想だ? 君の理想か? それとも――――アンナの理想をなぞっているだけなのか?』
『……貴様』

周囲が歪む程の黒い殺気がサイパスから膨れ上がる。
抵抗する力などなく、ともすれば1秒後に縊り殺されるような状況で、それでもアヴァンは一切怯む様子もなくサイパスから目を逸らさなかった。
アヴァンは誰よりも弱く、戦う力などなかったけれど、誰が相手だろうとも己の意思を変えたことなど一度もなかった。
あのホームにいた連中は、誰も彼もが変わり者で、生き方を変えることのできない不器用な連中ばかりだった。

『お前もカイザルも同じだ。カイザルは組織そのものにアンナを重ねて、お前はその理想を受け継ぐことでアンナを生かそうとしている』
『…………黙れ』

懐から抜かれた拳銃が突きつけられた。
最後通告である。
それでも、アヴァンは止めなかった。


『――――もう夢から醒める頃合いだ。『アンナの亡霊(そしき)』に囚われるのは終わりにしよう。サイパス』


決別を告げるように銃声が小さな部屋に鳴り響いた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

弾丸は右腰を直撃した。

サイパスを撃ったのはイヴァンだった。
歪んだ銃であろうと、射手の腕が悪かろうと1メートルにも満たない距離で止まった的を狙うのならば、弾さえ出れば問題はない

だが、それだけではサイパスを仕留めるに至らず。
撃ち抜かれた腰元から血の線を宙に引きながらサイパスは後方に飛び退た。
着地した瞬間を狙った追撃の弾丸が放たれるが、痛みを感じさせぬ機敏な動きでサイパスが翻る。

ピンボールのような動きで瞬時に間合いを詰めたサイパスは、両足ごとへし折る勢いの足払いでイヴァンの体を宙に浮かせると、顔面を鷲掴みにして地面に叩きつける。
後頭部が固い地面にぶつかり、脳が揺さぶられイヴァンの意識が一瞬飛んだ。
そのまま仰向けに倒れこんだイヴァンの肩関節を靴の踵で踏みつけると、ゴリィという骨が外れる鈍い音が鳴った。
痛みにイヴァンの意識は覚醒し、その口から悲鳴のような呻きが漏れる。

「やるじゃあないか、イヴァン。お前にこんな才能があるとは思わなかったよ」

打ち抜かれた脇腹を押さえて、今の一撃は見事の不意打ちだったと評価する。
イヴァン・デ・ベルナルディという男をよく知るからこそ油断した。
まずは保身を考え、まだ利用価値のあるサイパスをここで切るようなことをするはずがない。
最後にサイパスを切るとは思っていたが、動くなら勝利の見えた最終局面だと思い込んでいた。

その思い込みが反応を遅らせた、サイパスの油断を見事についてきた。
だが、褒め称えるような言葉とは裏腹に、その顔に浮かぶのは見るものを凍りつかせるような残忍な笑みである。

「ち、違うんだ!」
「何が違う? 褒めてるんだぜ俺は?」

言いながら肩を踏みつけた足をグリグリと動かし、そのまま眉間に突き付けるように銃口を向ける。
いかにイヴァンと言えど、ただ銃口を向けられた程度で怯えるような生き方はしていない。
だが今銃口よりも恐ろしいのは、静かな殺意を湛えているこの男の存在そのものである。

「昔からの誼みだ一応理由を聞いておこうか?
 ここで撃って来るなんて、らしくないじゃないかイヴァン」

何故撃ったのか?
イヴァンはその理由を自問する。

だが思い浮かぶ理由など大したものではない。
自分では決して勝てない相手だと思ったから殺せるときに殺さなくてはと思ったから撃った。
実際サイパスの不意を突けたのだから千載一遇の勝機ではあったのは確かだろう。

ただ、冷静に考えれば余りにも短絡的な思考であることは否めない。
長期的に考えれば、まだ利用価値のあるサイパスをここで切るのは明らかに損である。
堪え性のないガキじゃあるまいし、損得勘定を見誤るなどイヴァン・デ・ベルナルディらしくないというのならば確かにその通りだ。

それを理解していながら、撃たずにはいられなかった。
それは何故か、

「そうだ…………そうだ! マーダー病だ!」
「マーダー病?」

普段の自分ではあり得ない行動をとった自身の状況と、アサシンから得た情報を照らし合わせて。
あの時、アサシンに傷つけられて体内に潜伏した病原菌がようやく発症したのだと、ようやく思い至った。

サイパスに問い詰められるここに至るまで、自身に違和感すら感じる事すらできない。
その事実に薄ら寒いものを感じるが、彼は気付けた。

「そ、そうだ。病気なんだ、病気のせいだ、俺の意思じゃない!」
「おいおい。口の立つお前にしちゃあ、ずいぶんと杜撰な言い訳じゃないか」

イヴァンとサイパスの付きあいは昨日今日の話ではない。それこそ生まれた時から知っている間柄だ。
持病などないことは当然の様に把握しているし、人を殺したくなるなんてそんな奇病はこの業界でも聞いた事すらない。

「アサシンの野郎だ! アイツにやられたんだ!
 あいつの持ってるナイフに斬られちまうと、マーダー病ってイカレタ殺人鬼になっちまう病気をうつされちまうんだよ!」
「アサシンの……ナイフ」

それに関してはサイパスにも心当たりがある。
確かにサイパスの出会ったアサシンはナイフを持って怪しい動きをしていた。

「だが、何故奴がそんな病気を広める必要がある? ナイフがあるなら手っ取り早く殺せばいいだろう」

あのアサシンがイヴァン程度の相手を仕留めきれないとも思えない。
それとも一人で70名以上を殺害するのは無理と判断して、単純に手駒が欲しかったのか。
それにしたって殺しの駒ならイヴァンよりももっといい駒がいるだろう。

「……アイツはワールドオーダーから依頼を受けたと言っていた」
「成程」

何人か仕込みがいるとは思っていたがアサシンがそれか。
アサシンは性格には難があるが、暗殺者としては間違いなく最高峰だ。
それを雇うというのは確かに悪い選択ではない。

「話は分かった。仮にその病気が事実だとして、だ」

銃口を額に押し付けながら、驚くほど穏やかな声でサイパスが問いかける。

「なぁイヴァン。俺は本気でお前がボスになっても構わないと思っていたよ。
 だからお前に付き従ってきた、どうしてだと思う?」

何故この場面でそんな事を問うのか。
その問いの意図をくみ取れず、イヴァンは素直に答える事にした。

「お、俺が一番組織を巧く運営できるから?」
「そうだ。お前は個人としては愚かだが、小賢しさとその臆病さは集団を率いる者としては悪くない。
 少なくとも、立ち行かなくなりつつある今の組織をどのような形であれ持ち直す事はできるだろう」

人には適性があり、集団をまとめ組織を運営してゆくにはそれに応じた才覚が必要だ。
アサシンや今のボスのような殺しも運営もこなせるような万能の天才などそうそういるモノではない。
殺し屋ばかりを集めた組織の中にその適性を持つ者は少なく、イヴァンにはそれがある。
それ故に、イヴァンは組織の中で唯一無二の存在と言えた。

「だがなイヴァン。憐れなイヴァンよ。お前何か勘違いしてないか?
 誰彼かまわず殺しまわるようなイカれた殺人鬼になっちまったお前に、俺が大事な組織を任せると思うのか?
 俺がお前に付き従っていたのは、お前が組織にとって有用だったからだ。
 組織を率いると言う役目を失ったお前に、俺が素直に付き従うと思うのか?」

イヴァンは自分が散々見下してきた組織の殺し屋たちと同じステージに落ちたのだ。
つまりこの状況は、イヴァンがこれまで殺し屋たちを切り捨てたように、イヴァンが切り捨てられようとしている。

「違う、治る! 治るんだこの病気は!」
「ほぅ。どうやって?」

問い返されて言葉に詰まる。

「…………い、意志を強く持つとか、聖者に治療してもらうとか」

妖刀の説明に書いてあった条件を思い返して口にするが。
自身の口から語る程、何ともバカバカしい事のように思えてしまった。

殺し屋が信じるのは己だけ。
殺し屋は意思なんて曖昧ものに頼らないし。
殺し屋が聖者に祈るだなんて笑い話にしかならない。

それは聞いているサイパスも同じ感想だったのか、バカにするように鼻で笑う。

「ハッ。意志? 聖者? おいおい、笑わせるなよイヴァン。お前の冗談で笑ったのは初めてだぜ。なぁイヴァン――――笑えよ」
「ひッ!?」

溶けた鉛のような息ができない程の重圧。
暗黒の化身のような男がくつくつと喉を鳴らす。

「そら、俺を納得させる言い分を持って来いよ。得意だろとういうの?
 そうじゃなければ俺に敵対したお前を生かす理由が無くなるぜ?」

殺される。
生き残るに足る理由を用意できなければ、この男に楯突いた以上、イヴァンは確実に殺される。

「…………だ、だいたい、俺を殺してどうする!? まともな後継者がいなければボスが死んだら本当に終わるぞ!?
 俺じゃなければいったい誰が組織を導いて行けると言うんだ!?」

組織にいるのは運営どころか足し算すらできないような学のない殺人狂の集まりだ。
マーダー病というマイナスを差し引いても、イヴァンの価値はまだあるはずである。

「そうだな今のお前には任せるくらいなら、ピーターにでも任せるさ」
「ピー、ター…………?」

ピーター・セヴェール。何故ここであんな奴の名がサイパスの口から出るのかイヴァンには理解できなかった。
奴は取るに足らない、一殺し屋に過ぎないはずである。

だが、サイパスの評価は違う。
女専門の食人鬼という特殊性癖に目が行きがちだが。
サイパスがピーターを評価しているのは、そのクレバーさと危機に関するバランス感覚だ。

「まあ、本人にやる気がないのが問題だがな。だから俺はお前の野心を買ってやってたんだが」

イヴァンはマーダー病を患っており、ピーターは己の欲求以外にやる気を見せない。
双方にマイナスはあるが、ピーターのケツを叩く方が幾分かましだとサイパス判断したのだろう。
つまり、これで本当にイヴァンの唯一性は失われた。

凡百の殺し屋でかなくなったイヴァンなど、いつ背を撃つかもわからない危険物でしかない。
そんな相手を生かしておく価値はないだろう。

イヴァンは頭の中で生き残りの算段を立てる。
もう、この死の運命に抗うには、サイパスと戦うしかない。

事前に飲んでおいた現象解消薬の効果により脱臼は既に完治している。
相手が既に破壊し動かないと踏んでいる右手を使えば、上手く出し抜くことができるかもしれない。
勝てなくてもいい。ただ一太刀、魔剣天翔で傷つけることさえ出来れば。

「…………っ! ぁぁぁあ…………!!」
「誰が動いていいと言った?」

隠し持ったナイフを取るべく細心の注意を払って動かしたはずの右手の甲が撃ち抜かれた。
油断など、この男に微塵程もあるはずがない。

「く……くす、薬…………ッ」

反射的にイヴァンは現象解消薬を飲もうとするがそれは無意味な事だ。
この薬は飲んだ時点の状態を再現するものだ、後から薬を飲んだところでもうこの傷は治らない。

「ぅああ……っ! くぅ……っ!」
「おいおいイヴァン。お前は人の話を聞けないのか?」

だが、それ以前に、薬を取り出そうとした左手も打ち抜かれ薬を取り出す事すらできなかった。
イヴァンが呼吸を荒くし、風通しがよくなった赤く染まる両手を震わせる。

燃え上がるような両腕の痛みの中でイヴァンは思い出す。
組織に入った者は真っ先に教育係であるこの男に対する恐怖を植え込まれる。
組織で生まれ育ったイヴァンにとってもそれは同じ、いや他の者以上にそれを叩きこまれていたはずなのに。
父を殺して、その後釜に収まり幹部となって、全てを従えた気になって、忘れていた。

忘れてはならない、絶対的な恐怖を。

「ぁあああぁぁああぁあああああああああ!!!」

イヴァンの絶叫。
それを断ち切る様に銃声が鳴り響いた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

『お前の始末はヴァイザーの仕事だ。あとは勝手に死ね』

サイパスとアヴァンの話し合いは、壁に穴を一つ増やしただけで、結局何一つ分かり合うことなく決裂した。

今更そんな結論になるのは解かり切っていた事なのに。
決して譲り合う事なく、分かり合う事もない。そんな連中の集まりだったのだ。
意見が割れた以上こうなるしかない。
それを仲裁できたのは、後にも先にもただ一人だけだった。

『なぁサイパス』

もはや語ることはないと立ち去ろうとしたサイパスの背を止める声があった。
これ以上何があるのかと怪訝そうな顔をしながらも、最期の言葉でも残すのかと思いサイパスが振り返る。
だがしかし、問われたのは別れの言葉に相応しくない、予想外の内容だった。

『ホームにいた、ジョン・スミスという男を覚えているか?』

ジョン・スミス。アメリカで最もありふれた姓名を組み合わせた名だ。
確かに、言われてみればそんな名を名乗った男が一時期アンナを中心とした集まりであるホームにいた気がする。

『……細かい事まで覚えているわけではないが。
 ふざけた偽名だったからな、そんな奴がいたという事だけは薄らと憶えているが、それがどうした?』

覚えていると言ってもハッキリ言って印象は薄い。
何しろ古い話だ。存在と名前は思い出せても靄がかかったように顔は思い出せない

脛に傷を持った連中の集まりで偽名を名乗る輩は珍しくもなかったし、中には本当に名前がない奴すらいた。
偽名を名乗った程度では大した印象には残りようがない。

そういえば奴はどうしたのだったか。
気付けばいなくなったような、どうにも曖昧だ。
それも仕方ない事だ、これだけは覚えている事だが、アンナが死んだのは奴が現れたその直後だったはずである。
たしかカボネのアジト襲撃のメンバーにはいなかったはずだ。

いや、奴がどうなろうとも、旧友との最期の別れ際に話すようなことのようには思えないが。

『あの日、僕たちの情報をカボネの連中に売ったのはそいつだ』

『――――――』

サイパスは言葉を失った。

赤く染まる白い雪。
華のように摘まれた少女の死体。
あの雪の日が脳裏をよぎり目眩がする。
よろめいて壁に手を付いた。

それはつまり。
あの事件を引き起こしたその元凶が、あの男だったという事か。

一瞬。何者かの歪んだ口元がフラッシュバックしたような気がした。

『僕が突きとめられたのはそこまでだ。
 それ以上は霞がかかったように捉えられなかった』

彼に無理だったと言うのなら、組織内の誰にも無理だろう。

『別にこの情報をどうこうしてくれという訳じゃあないんだ、ただ知っておいて欲しかったと言うだけだ』

そう言ってアヴァンはいつものように力なく笑った。

『それじゃあサイパス。カイザルとサミュエルによろしく言っておいてくれ。
 僕はバルトロとアンナにお先に会いに行くよ』

重い扉が閉じる音だけが響く。
それがアヴァンとサイパスが最後に交わした言葉だった。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

引きずるような思い足取りで、腰元を押さえた初老の男が灯台の足元を一人歩いていた。
男の押さえている腰元からは圧迫により止血がなされているが今だ血が溢れている。
その顔には紅い飛沫化粧が塗られていた。
自身の物ではない、おそらくは返り血か何かだろう。

男――サイパス・キルラは足を止めると、一先ず狙撃などの襲撃のリスクの低い灯台の影に隠れ身を休めた。

イヴァンとの合流と言う第一目標は破綻した。
早急に次の目標を定め行動しなくてはならない。

サイパスが動くのはあくまで組織のためである。
生き残りを目指すのも自身の命恋しさと言うよりも、自身と言う存在が組織のために必要だから生かすと言った意味合いが強い。
彼の全ての行動はその観点で定められる。

後継者候補は必要だ。
まずはピーターとの合流を目指すべきか。

だがしかし慎重なサイパスの性格だ。
組織の存続のかかった案件だ、イヴァンのみならず仮にこの場でピーターが死んでもいいように二重三重の保険はかけてある。

次善策を進めるにはサイパスが生き残った方が進めやすい。
となると生き残りを優先した方がいいのか。

その前にイヴァンに撃たれた傷も治療せねばならない。
圧迫していれば出血多量に至ることはないだろうが、戦闘に支障をきたす。

今後の方針を幾つか頭の中で取捨選択して行き、その結論が出る前にサイパスが深い息を吐いた。

その表情には憂いのような重さが見え、年齢以上の深い哀愁を感じさせる。
それは肉体的な疲労だけではないだろう。
生き急ぐように駆け抜けてきた、その疲れが今になって現れたのかもしれない。

「…………少し、疲れたな」

呟きを残し、重い肉体を引きずる様にしてサイパス・キルラは動き出した。
まだ止まるわけにはいかない。
彼にはまだ、やらなくてはならない事があるのだから。

【イヴァン・デ・ベルナルディ 死亡】

【D-3 灯台付近/日中】
【サイパス・キルラ】
[状態]:疲労(中)、火傷(中)、右肩に傷(止血済み)、左脇腹に穴(止血済み)、右腰に銃痕
[装備]:M92FS(11/15)
[道具]:基本支給品一式、9mmパラベラム弾×45、サバイバルナイフ・魔剣天翔
[思考・行動]
基本方針:組織のメンバーを除く参加者を殺す
1:ピーターとの合流を目指す?
2:亦紅、遠山春奈との決着をつける
3:新田拳正を殺す
4:決して油断はしない。全力を以て敵を仕留める。

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生と死と イヴァン・デ・ベルナルディ GAME OVER

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最終更新:2016年05月16日 11:34