第八次世界大戦を越えて世界は完全なる暗黒期を迎えていた。
全世界を巻き込む大戦は八度に渡って繰り広げられた。
病魔のような戦火は止まず、世界は確実にすり減る様に疲弊してゆく。
繰り返された侵略戦争は幾度も世界地図を書き換え、八度目の大戦が終結した頃には、かつて100を超えていた国家は6つの超大国に別れるのみとなった。
北中米全域を支配するアメリカ連邦共和国。
広大な北ユーラシア大陸を支配する新ソビエト連邦。
西EU圏及び中東、アフリカ大陸の一部を支配するドイツ第三帝国。
東EU圏及び南米、アフリカ大陸の殆どを支配するブリタニア諸国連合。
大きくアジア圏を支配する大中華連邦。
そしてオセアニア及び、東南アジアを支配する大日本帝国。
八次大戦を終えこれらの大国は静かに睨み合う冷戦へと移行していった。
世界は今、戦争と戦争の谷間。つかの間の台風の目の中のような平穏を謳歌している。
だが人々は知っている。
平和とは次の戦争の準備期間に過ぎず、まるで悪魔に指揮されるように永遠に終わらない輪舞曲を踊り続けるのだという事を。
だが、戦争が生み出すのは悲劇だけではない。
戦争が多くの革命的な技術革新と発展を齎してきたのもまた歴史的な事実である。
幾数もの戦火を超え、人類は次の夜明けを迎えた。
兵器を初めとしたあらゆる技術は発展して行き、人々の生活は変わる。
そのための資源、物資を求めるためにまた新たな戦火を開こうとも、人々は変わり続けることを辞めなかった。
そして戦争の在り方も、また変わった。
戦争が発展させた技術は科学技術のみならない。
始まりはドイツ第三帝国だった。
彼らは秘密裏に国際条約に反する非人道的な研究を行い、魔術や呪術と言ったオカルトの領域に踏み込んでいったのだ。
そして遂には深淵へとたどり着く。
魔術を体系化することに成功し、その魔術的要素が実戦に投入されたのは第四次大戦からの事であった。
その効力は現行兵器に匹敵するほどの確実な成果を上げた。
中でも魔術により生み出された“魔人”と言う超兵器は戦争の常識を変えた。
空爆やNBC兵器と言ったモノとは根本から違う個による最強。
その戦力は正しく一騎当千。個人で戦況を変える正しく決戦兵器である。
この成果に各国は挙って魔術の研究を始めた。
そして多くの血塗られた成果により、各国がそれぞれの魔人を保有する事となった。
そして魔人に対抗すべく科学技術も飛躍的に進歩して行くこととなる。
サイボーグや機械兵器と言った核などよりもより強力で効率的な超兵器が生み出される。
その結果、科学と魔術が入り混じり、戦争はより醜悪さを増してゆく。
魔人保有数は空母保有数と同じく各国の軍事力を図る重要なパロメータとなっていた。
魔術の金字塔であるドイツ第三帝国は科学の粋を結集したサイボーグ軍団に加え32名の最高峰の魔人を有しており。
新ソビエト連邦はラスプーチンという稀代の魔人を筆頭に19名の魔人を抱えている。
ブリタニアは円卓の騎士の名を関する12名の精鋭魔人を誇っており、搭乗式の巨大兵器を有していた。
大中華連邦の278名の魔人は粗雑乱造と揶揄されるが、正規軍と合わせその数は脅威である。
アメリカは魔人を持たず反魔術を掲げ、圧倒的物量と化学兵器によって敵国を制圧して行った。
そして、大日本帝国。魔人保有数――――1名。
その小さな島国は物資も少なく、大国と渡り合うだけの国力もない。
それが六大国にあげられる程の戦果を残せたのは、魔人皇――――
船坂弘の存在があったからに他ならないだろう。
指揮官としての指揮能力。
政治家としての政治力。
個人における戦闘力。
何より異常なまでの戦闘継続能力は魔人の中でも随一であり、彼の者は兎角死にづらい。
全てにおいて隙がなく、局地的、個人における敗北はあれど彼の率いる大日本帝国は幾多もの大戦を超え未だ敗北を知らない。
だが、それほどの勝利を重ねても魔人皇には手に入れられるものが一つだけあった。
魔人皇――船坂弘、未だ平穏という物を知らぬ。
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「ありがとうございました、船坂さん」
そう言って
一二三九十九は深く頭を下げる。
彼女の後方には土の掘り返されたような跡があった。
その冷たい土の下には、先ほど倒れた少年の躯が眠っている。
命の灯火を燃やし尽くした少年への弔い。
女の細腕一つでろくに道具もないこの状況で人一人弔うとなればかなりの重労働だろう。
それでも九十九はやっただろうが、これに手を貸したのが船坂だった。
船坂からすれば縁もゆかりもない相手だが、戦場に於いて敵味方の違いなどなく死なば皆躯である。
まして気概を見せた男子とあらば敬意は払う。弔うのは当然の事といえた。
この手の行為に慣れているという事もあるが、船坂の手際は迅速だった。
土葬か火葬か、九十九にそれだけ確認を取ると一撃のもとに大地に人一人分の穴を開け、その中央に輝幸の身を横たえた。
魔人皇の力をもってすれば人一人を弔う事など容易いことである。
「気にするな、面を挙げよ」
船坂の呼びかけに九十九が下げていた頭を上げた。
顔を上げたその様子に船坂は少しだけ感心したように目を細める。
泣きはらして腫れぼったい目の奥底には今でも消える事ない意思の光が灯っていた。
目の前の死を安易に容認するでも頭から否定するでもない。
現実を受け入れながら理不尽を許さない、その態度は死者を送る者としては悪くないだろう。
「一二三九十九だな」
名乗ってもいない名を言い当てられ九十九が首を傾げた。
「あれ? 名乗りましたっけ私?」
「いや、いろいろと故あってな。
新田拳正から聞いた」
正確には、それに加え朝霧舞歌の記憶と照らし合わせての事だが、些か事情がややこしいのでそこは割愛しておく。
朝霧舞歌の親友と言える者たちに比べれば希薄だが船坂の中に引き継がれた記憶の中に一二三九十九の存在はうっすらながらに記憶されている。
修羅場に割り込んでまでわざわざ声をかける相手に九十九を選んだのはそのためだ。
「え……? 拳正?」
予想外のタイミングで旧知の名を聞き九十九が目を瞬かせる。
「そこの市街地に新田拳正と
水芭ユキ、それに
馴木沙奈がいる。お前の学友であろう?」
「え、本当ですか!?」
探し人の行方と言う降って湧いて出たような朗報に九十九は飛びついた。
それを片手を差し出し静かに制する。
「だが、その前に助の対価という訳ではないが、いくつか確認したことがあるのだが、よいな?」
有無を言わせぬ口調で船坂が問う。
助けたのは成り行きだが、船坂も何の下心もなかったという訳ではない。
元より用件があったから船坂は九十九に接触したのである。
「それは、構いませんけど……」
船坂に対し九十九が心なし不安げな態度で応じた。
それは何を聞かれるのかと言う不安ではなく、自分に答えられるのかという類の不安のようであるのだが。
九十九なりに船坂に恩義に感じそれを返そうとしているようである。
そのような態度を取られるのは国民の信を集める立場の船坂からすれば珍しいものではないが。
別段恩に着せようというつもりで行ったことでもなし、些か面倒なモノではある。
だがそれで相手が協力的になり事が恙なく運ぶのならば呑み込むべき重みだろう。
「九十九。お前は日本人か?」
「はい」
ここまでの経緯から、この返答は予測通りなのか船坂は無言のまま頷いた。
九十九に対してわざわざこのような事を問う必要があるのは、船坂が引き継いでいるのは朝霧舞歌の『エピソード記憶』に限り、加えてその中でも強く残ったモノだけだからだ。
知識や常識のような『意味記憶』に関してはこうして供述を取っていくしかない。
船坂が知りたいのはその常識部分。祖国という当たり前の認識だ。
拳正や九十九言うこの日本と言うのモノが船坂の知る日本と同一のものなのかを確認せねばならない。
「東條英機、山本五十六、三島由紀夫、これらの名前に聞き覚えはあるか?」
船坂は続けて、政治、軍事、文芸。各部門の要人の名を上げた。
日本国民ならば誰もが知っているはずの名である。
「えーーーっと。聞き覚えがあるようなないようなあるようなぁ…………っ」
だが、問うた相手が悪かった。
そこは勉学の苦手な一二三九十九である。
特に日本史は赤と黒を取ったりとらなかったりする成績である。
日本刀の全盛期である鎌倉時代の武将であったのならばあるいは答えられたのかもしれないが。
とは言え、どこかで聞き覚えくらいはあるのか、こめかみに指をやり「う~ん」と呻りを上げる九十九。
しばらくそうして、何かを思い出したのか「あっ」と声を上げポンと手を叩いた。
「そうだ! 三島由紀夫って人の書いた本はお爺ちゃんの本棚にあった気がします!」
本。つまり作家という事は間違いないだろうと船坂は頷く。
船坂と九十九は共通の三島由紀夫という人物を知っている。
「……しかし由紀夫か」
そう言って船坂は表情を隠してくっと笑う。
船坂弘と三島由紀夫は剣道を通じての友であった。
名を知られるのが文官でも武官でもなく文豪であると言うのはなかなかに愉快な話である。
度重なる戦争に疲弊し弱腰になった軍に、日本男子の精神を説いて自害したが、その精神には感服したものだ。
共通の著名人の名が知れているという事は、九十九の言う日本と船坂の知る大日本帝国は同一であると見ていいだろう。
だが、同じではあるが同じではない。
何処かが何かずれている。
その違和感を追求すべきだろうか。
「その服。見ない服だがどこの物だ?」
船坂はとりあえず目に入った服装について指摘した。
明らかに和服ではなく、かといって西洋の服とも違う、船坂にとってあまり見慣れない意匠だ。
どちらかと言うとブリタニア連中の正装に似ている。
「えっと学校の制服ですけど…………? 神無学園の。なんか変ですかね?」
問われて、九十九は自分の服装に何かおかしな所でもあるのかと、端を掴んだスカートを前後にピラピラと揺らしながら自分の格好を確認した。
この半日色々あったお蔭で確かに汚れてはいるけれどこの状況だ、九十九からしてみればそこはお目こぼしいただきたい所である。
「……その学校服は一般的なモノなのか?」
「まあ女子はまだセーラー服も多いですけど、それなりに」
つまり、学生服として一般化しているという事だろう。
だが、そんな事実は船坂は知らない。
過去にどこぞの女学園が一時期そんなものを取り入れたという話を聞いたことがある気もするが、すぐさま廃れたはずである。
「…………やはりどうにもズレているな。過去、はないか。となると未来か……それとも」
船坂は武力一辺倒な脳まで筋肉でできているような男ではない。
軍略や政。さらには魔術にも通じており、その頭脳もまた天上の領域に達していた。
平行世界、多元宇宙、相互浸透次元、代替現実。そう言った知識も多分に持っている。
「続けておかしなことを聞くようで悪いが、今は何年だ?」
「2014年ですね」
「ふむ」
これは船坂の認識とズレはない。
となると四次元(時間)ではなく五次元(多世界)にズレているのか。
そう考え込む船坂だったが、何気なく九十九から放たれた次の言葉に目を見開いた。
「えっと平成だと+12だから…………26年ですね!」
「なに?」
平成を求めるには西暦の下二ケタに12を足すという自身の持てる豆知識を総動員した九十九であるが。
船坂が喰いついたのは当然ながらその豆知識ではなく、『平成』という聞き覚えない言葉である。
「平成とはなんだ?」
「え、何って……なんでしょう? なんて言ったらいいのかですけど、あれです、昭和とか明治とかのあれです」
「今の年号は昭和ではないのか?」
船坂の認識では西暦2014年の年号は昭和89年である。
平成などと言う年号は知らない。
「えっと昭和は、平成の前のやつじゃないですかね」
「前の…………だと?」
まさか、と眩暈でも起こしたように船坂が驚愕を露わにする。
それはこの殺し合いが始まって一番の驚きだったのかもしれない。
「よもや、あの昭和天皇が崩御なされたと言うのか…………?」
昭和が終わったという事は天皇陛下の統治の終わりを同義だ。
船坂は日本帝国の軍部及び政府を掌握しているが、天皇陛下は国家の象徴として健在しておられる。
それは、形式上の支配者は天皇であるが、日本帝国の実質上の支配者は船坂という、かつての徳川幕府と朝廷に近い関係性だ。
その立場故、船坂は拝謁の誉れに預かることも少なくない。
その天皇をよく知る船坂だからこそ、その崩御は信じがたい事実である。
船坂の知る天皇は正真正銘の神そのもの。魔人とは別領域の神仏の類である。
寿命もなく通常の概念で死亡する事などあり得ない。
あり得ざるが起きたという事は、船坂からしてみれば別の世界であるという決定的な証拠である。
だが、船坂の認識と愛国心は深く広い。
仮に平行世界の別次元の話であろうとも、日本は日本だ。
たかだか次元の違いなど魔人皇の前では問題にもならない。
それよりも由々しき問題は。
「……よもや、この俺に手を掛けさせようとはな」
船坂は呟き、ここに居ない誰かに向かって静かな怒りを滾らせた。
子は未来を担う宝である。それを他でもない国の守護者たる魔人皇を謀りその手にかけさせようなど悪趣味にも程が在る。
いや、既に朝霧舞歌という自国民を手に書けてしまった。
知らぬこととはいえ許されざる行為をしてしまった己への怒りと、この状況を生み出した存在への憎悪が目に見える形で船坂からあふれる。
「ふ、船坂さん? 私、何か失礼な事でもいっちゃいましたかね?」
怒気を放つ船坂に自分が失言したのではないかと焦る九十九。
その不安げな声に船坂が激昂した頭を沈め冷静さを取り戻した。
相手無きこの場で激昂しても詮無き事。
怒りとは無暗に周囲にぶつけるモノではない、静かに燃やしただ一人を焼き尽くす炎であるべきだ。
まして別世界とは言え自国民に不安を与えるなど統治者失格である。
「いや、すまぬ。お前に非はない、俺が勝手に取り乱しただけだ、許せ」
怒気を沈め船坂は謝罪した。
自らに向けられたものではないとはいえ、あれだけの闘気に中てられて「そうなんですか」とあっさり納得する辺り器が大きいのか何も考えてないのか。
船坂にも図れぬよくわからない娘である。
一先ず敵は定まり、この場に別の日本国民がいることは分かった。
となると必然、気になるのはその別の日本というのがどう言う世界なのかという事である。
「できればでよいのだが、昭和以降の近代でいいので日本の歴史を教えてほしい」
これは現状把握のためというより純粋な好奇心だ。
日本を愛する船坂だからこそ、別世界の日本の在り様もどうしても気にかかる。
「え、えっと歴史ですか!? …………そ、そーですねぇ………」
この問い。九十九からすれば難問である。
歴史を語れと言われても何から話していいモノやら。
「えー、お爺ちゃんが生まれたのが戦後間もない頃でして」
ついには話に窮して身内話を始める始末である。
だがその話に船坂の眉がピクリと反応を示した。
「九十九、ご尊祖父の年齢は幾つだ?」
「来年、古稀を迎えますね」
古稀。つまり70年前という事は第二次の終戦前後である。
船坂がクーデターを起こし他のもその頃だ。
それを戦後と言い表すという事は二次以降の戦争が起きていないという事だろうか。
「つまり第二次大戦の直後ということでよいのだな?」
「はい、敗戦直後で色々大変だったってお爺ちゃんよく言ってました」
『敗戦』その単語に船坂が目を見開く。
「待て。枢軸国は――――日本は戦争に負けたのか?」
「ええ、そうですよ……?」
「…………なんと」
無念そうんいい呟きを漏らすと、別世界の祖国を悼むように目を瞑った。
敗戦国の末路は悲惨である。
属国として資源は搾取され、人権は略奪され、国家として立ち行かなくなるのが常だ。
統治者たる魔人皇はそのような形の略奪を良しとせず、大日本帝国の植民地は比較的穏やかであったが。
連邦諸国の植民地の在り様を思えば、船坂が愛する日本国民がどれほどの苦労を強いられたか、想像するだけで心が痛む。
第二次大戦は船坂の初陣であった。
その世界の己は何をしていたのかと、自身の不甲斐なさに歯を噛み締める。
一人で戦況を覆せずして何が魔人皇か。
「すまぬな。この俺が不甲斐ないばかりに」
「え!? なんで船坂さんが謝るんですか?」
船坂は子等のより良い未来を切り開くために戦ってきた。
それを成せなかったのだから頭を下げるのは当然の事である。
事情の分からぬ九十九からすれば戸惑うしかない話なのだが。
「如何に関われぬ次元のこととはいえ国防に携わる者として敗戦の責は俺にある。いらぬ苦労を味あわせたようだ」
「まぁお爺ちゃんは苦労したとは聞きますけど、今はすごく平和じゃないですか」
『平和』。一瞬その言葉の意味が分からなかった。
敗戦を喫したというのに平和だと言うのか。
魔人皇の知らぬ物をこの娘は知っていると言うのか。
「九十九。お前は今の日本はどう思う」
「うーん。そうですねぇ。色々言う人はいますけど、私は好きですよ、今の日本」
繰り返される戦争に疲弊した国民たちは皆一様に明日の死を覚悟した目をしていた。
それはそれで尊い光であると船坂は認めている。
だが、今目の前で光る一二三九十九の瞳に宿るのは覚悟とは違う光だった。
戦火による発展では決して生み出せない、希望による光がそこにあった。
「そうか」
それを見て、常に険しい表情をしていた船坂がふっと柔らかく笑った、ような気がした。
それは民に報いるべく常勝を謳ってきた船坂には想像する事すらできなかった価値観である。
敗北する事で手に入れられる物もあるという事なのかもしれない。
その瞳に船坂はそんな可能性(ゆめ)を見た。
「いや。いい話を聞けた。長々とすまなかったな、感謝する」
「いえいえ」
感謝を述べて話を締めくくる。
振り返ってみれば何とも奇妙なやり取りだったが、九十九も正直あまりよく分かっていないようである。
ここまでのやり取りで船坂に対して、世間知らずな人なんだなぁくらいの感想しか抱いていない九十九の方にも相当問題がある気もするが。
九十九にあったのは、恩人の疑問に対して答えようとする真摯さだけだ。
感謝を告げられ、役に立てたのならよかったと、ほっと胸を撫で下ろすのみである。
「九十九。悪いがここで別れだ。これから先にお前を連れてはいけぬ」
そう言った、船坂の体がふわりと宙に浮いた。
それを見て九十九は、うぉと品のない驚きの声を上げた。
「すまぬが馴木沙奈を頼む。どういう訳か混乱してようでな。出来れば手厚く保護してやってほしい
本来は俺が保護してやるべきなのだが、俺には成すべきことが出来た」
「それは構いませんけど、船坂さんの成すべきことってなんなんですか…………?」
九十九が空中の船坂へと問いかける。
問われた船坂は空の中心でキッと世界全体を睨むように見渡した。
この市街地に『奴』はいなかった。
『奴』は何処にいるのか、探る様に澱む空気を見る。
そして直感する。『奴』の居場所を。
これは魔術でも呪術でもない、単なる戦士の勘である。
だが、船坂はこの勘を外したことはない。
そうやってこれまで常勝を続けてきたのだから。
元より船坂は
ワールドオーダーの掲げる殺し合いなどに興味はなかった。
これまでも常在戦場の心構えで必見必殺を実行したまでである。
故に、ワールドオーダー自体にも興味はなかったのだが、明確な悪意を持ってこの魔人皇を策謀に巻き込もうと言うのならば話は別だ。
相応の礼はしなくてはならない。
「――――――ワールドオーダーを討ちに行く」
【D-4 空中/午後】
【船坂弘】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0~1、輸血パック(2/3)
[思考]
基本行動方針:ワールドオーダーを討つ
青空に飛び立つ流星を見送って一二三九十九は決意を固めるように拳を握りしめた。
「よし、まずは若菜と合流しなくちゃ」
船坂に沙奈を託されたが、言われるまでもなく九十九はそのつもりであるし、拳正たちの情報を得られたのは朗報だが、まずは若菜との合流を優先すべきだろう。
最初に定めらた合流地点である温泉旅館は破壊されていた、目指すべきは探偵事務所だ。
そして、若菜に輝幸の事も話さなければならない。
二人を護るために若菜が危険な役割を買って出てくれたと言うのに、輝幸は死んしまった。
九十九が戦いを止めることができていれば、それ以前に怪我なんかをしなければ。
例えそれで責め苦に遭おうとも甘んじて受ける覚悟である。
「よし…………!」
自らを奮い立たせる様に頬を叩く。
三条谷錬次郎以外のクラスメイトが近くにいると知れたのは朗報だ。
止まっている暇など無い。
「じゃあ行ってくるね。輝幸くん」
そう祈る様に少年の眠る墓標に向けてそう言うと、諦めを知らぬ女は再び動き始めた。
【D-4 草原/午後】
【一二三九十九】
【状態】:左の二の腕に銃痕
【装備】:日本刀(無銘)
【道具】:基本支給品一式×3、
クリスの日記、サバイバルナイフ、ランダムアイテム1~5(確認済み)
[思考・状況]
基本思考:クラスメイトとの合流
1:若菜との合流地点(探偵事務所)に向かう
2:若菜と合流後、拳正、ユキ、沙奈を探す
最終更新:2016年12月26日 12:14