男の話をしよう。

調停者にして裁定者。
全ては世界を回す歯車である。
時計を壊すような歯車はいらない。
それらを見つけ世界を回すのが男の役目。

強者と弱者。
世界には二種類の人間がいると、男は生まれながらに理解していた。

両者の隔たりは深く、乗り越える事も分り合う事も困難だ。
強者には強者の生き方がある様に、弱者にも弱者の生き方がある。
強者が弱者を蹂躙するように、弱者にも強者を淘汰する群体としての術がある。
触れ合わぬ事こそが幸福である。

両社に必要なのは理解し歩み寄り手を取り合う事ではない。
必要なのは住み分けなのだと、男は最初から悟っていた。

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男の父は武器商人だった。
他人の命を売って私腹を肥やす死の商人。
正義も信念も理想もない平等主義者にして拝金主義者。
国軍だろうとテロリストだろうとマフィアだろうと、それこその辺の主婦にだって。
金さえ払えば誰にだって望まれるままに分け隔てなく武器をばら撒く正真正銘の悪党である。
間接的に殺した人間の数は恐らく小国の人口よりも多いだろう。

男が物心ついた頃には既に母の存在はなかった。
離縁したのか死別したのか詳しい事情は知らないし、父が説明することもなかった。
気にならなかったと言えば嘘になるが、男からそれを尋ねるのは憚られた。
それは多くの幼子がそうであるように、男にとって父とは口答えなど許されない絶対的な存在であったからだ。
父か語らぬ事であれば、知る必要のない事なのだろうとそう理解していた。

男と父の間に親子らしいやり取りなど皆無だった。そもそも会話する事自体が稀である。
ただ朝と夜の食事だけは一緒に取るのが習わしだった。
別段取り決めがあったという訳ではないし、状況によっては遵守される訳でもかったが。
それでもそれだけが唯一の親子らしいやり取りだった。

と言っても食事をするだけで特に何を話すでもなく、ただナイフとフォークの音だけが響く少なくとも男にとっては気の休まらない時間だったけれど。
そんな時間を忙しい父がわざわざ何故不合理に割くのが、それが男にとっては不思議だった。

それでも親としての最低限の義務は果たしていたのか、衣食住、そして教育は最大限に提供されていた。
武器商人の息子ともなればさまざまな危険が付きまとうため、男は学校という物に一度も通ったことがなかったが。
その都度、雇われた専属の教師によって英才教育と言っていい高水準の教育を施され、父の後継を担うに相応しい優秀な子供に成長していった。
だが父は男に自らの跡を継がそうなどと言う考えは元よりなかった。
息子だから、などと言う曖昧な理由で後釜を任すつもりはなく、欲しいのならば自らの実力で奪い取れという考えだった。
尤も、男にも跡を継ごうなどという意思はなかったのだが。

男は武器が嫌いだった。武器商人と言う職業を嫌悪していた。
争いの火種を生み出し、死を撒き散らす。
武器商人が存在しなければ幸福を迎えられた人々だって沢山いるだろう。

そんな存在は世界にとって不要なのではないか? 男は己の存在意義に疑問を持った。
それは思春期特有の疾患のよなものだったが、多くの恨みを買う父の生き方を間近で見ていた男の悩みは真に迫っていた。

そんな心中を誰に吐露する事もないまま、男は父に引き連れられ世界中を渡り歩いた。
父は交渉を決めるのは顔であると、最低限の護衛をつけて自ら現場に赴くことを信条としていた。
争いの種火は世界中の何処にでも転がっており、男は15に満たない人生の間に世界中の殆どの土地に足を踏み入れるこことなった。

南米、アフリカ、亜細亜、北中米、欧州、オセアニア、中東。多くの土地、多くの国を巡った。
だが一か所、極東の小さな島国だけは、ただの一度も訪れる事はなかった。

奇しくもそれは男の祖国であった。
祖国と言っても、男は移動中の船で生まれ、両親の国籍がそうだったと言うだけで本当に一度たりとも足を踏み入れたことがない場所なのだが。
戦場を巡り武器をばら撒く男の祖国が、武器を必要としない国だと言うのは皮肉と言えば皮肉だった。

武器商人が赴く先は殆どが戦火が燻る紛争地である。
ハイエナの様にその匂いを嗅ぎつけては火種が大きくなるようまき散らすのが彼らのお仕事だ。
男が巡るのは人間の極限がぶつかり合い命が火花のように散る世界。
男はそこで様々な人間を見た。

武器商人を神のように崇める人を見た。
武器商人は悪魔だと罵る人を見た。
仲間を護るため先陣を切る兵士を見た。
保身のために部下を売る将校を見た。
子を護るため命を落とした母を見た。
自らの命を省みない少年兵を見た。
神業のような技術で人を殺す英雄を見た。
無辜の人々に排他される英雄を見た。
追い詰められ私欲に走る聖人を見た。
朽ち果てる悪人の最後の良心を見た。

人間の美しさを見た。
人間の醜さを見た。
人間の善意を見た。
人間の悪意を見た。
人間の欲望を見た。
人間の強さを見た。
人間の弱さを見た。

そうして男は悟った。
世界に善悪などないという事を。
あるのはただ立場と力だけである。

鋳型に入れたような悪人はおらず。それと同じく罪を犯さない聖人もいない。
世界平和を謳う人間もいたけれど、争いを無くすことなどできない。
悪意を排除し争いを無くそうと言う発想自体が人類への冒涜だ。
悪徳は人間の本質ではないが、人間の一部ではあるのだ。
人が善行を成すように、誰だって悪行を為す可能性を持っている。

善悪どちらが欠けても成り立たない、清濁併せ持ってこその人間なのだ。
食物連鎖の様に、全ては一つとして成り立っている。

ならば戦争は人の営みの一つに過ぎない。
事実人類の歴史を紐解けば戦争により生み出された技術は枚挙に暇がない。
私欲の為に戦火を広げる父を肯定する訳ではないけれど、男は自分たちが世界に必要な一部であるとようやく認める事が出来たのだった。
それが男の幼年期の終わりである。

それからも武器商人の旅は続き、男がじき成人を迎えようという頃だった。
一つの転機が訪れる。

それは東欧の某国で反政府組織との取引を行った時の話である。
取引は自体は順調に進み、後は商品を引き渡すだけという段階となっていた。
だがこの商売の場合、このタイミングで条件などの話が拗れて撃ち合いになるなんて話はよくある事だった。
そのため双方警戒を怠らず、武装した護衛を背後にずらりと立ち並らばせていた。
互いにそんな状況にも慣れたもので、問題なく金と商品を交換が完了したしようとしていた所で、それは現れた。

武器商人としてここまで生き残ってきた嗅覚が、いち早く危機を察知した父は男を連れその場から逃げ出した。
次の瞬間、男は父に腕を引かれながら、紙屑のように命が吹き飛ぶさまを見た。

――――怪物。
この取引に介入するためだったとか、何か恨みを買ったとか、そう言う正当な理由などなかった。
それは“そういうモノ”だった。

あっという間に取引相手は壊滅し、護衛の私兵も全滅した。
男は戦場で多くの死を見たが、この光景に比べればまだ人間らしい死に方をしていただろう。

父の仕事柄、世界の裏側に、そう言う存在がいる事は知っていた。
だが、目の当たりにして理解した。世界には存在してはならない者が存在していると。

男と父は命辛々ながら逃げ延びる事に成功した。
犠牲になった者たちの功績もあるだろうが、あの怪物に追う意図がなかったと言うのも大きいだろう。
自然災害のような暴威に壊滅的な打撃を受けたが、潰れたのは取引の一つに過ぎない。結果的には大した痛手ではない。
財産は残っていたし、精鋭揃いの私兵を再編するには時間がかかるだろうが、PMC(民間警備会社)を雇えば一時的には補える。
いずれも致命的ではない。ならば怪物の居る土地など一刻も早く離れるべきだろう。

だが、何故か父はしばらくこの地に留まると言い出した。
少し離れた片田舎にある小さな一軒家を買い取り、そこでの暮しが始まった。
それまでは渡り鳥のような生活ばかりをしてきたから、一つの土地に腰を下ろすなどと言う自体が男にとって生まれて初めての事である。

当然の如く男に生活能力はなかった。
家で生活すると言うのはサービスの行き届いたホテル暮らしともサバイバルのような野宿とも違う。
食事や掃除と言った金銭である程度何とかなる要素は何とかなったが、どうしても細かい問題は生じる。
器用で要領のよい男だったが、勝手が分らないのではどうしようもない。

古今東西、そんな時に助けてくれるのが近隣住民という存在である。
生きるか死ぬかの世界で打算に塗れた大人たちばかり見てきた男は、その損得のない助け合いという物に最初は戸惑ったが。
新鮮な驚きと共に受け入れ、徐々に男もそんな生活に慣れ始めた。

そして周囲と交流を持つうちに、世話になってる一家の娘と恋に落ちた。
裏社会とは関わりのない素朴な女だった。
北欧に積もる雪の様な透き通った白い肌。サファイアのような蒼い瞳を見つめると吸い込まれそうになる。
生まれつき体が弱いという女は、触れれば折れてしまいそうな儚さがあった。

同年代の人間と交流を持つこと自体初めての事だったから、舞いあがっていたと言うのもある。
変化していく父の様子に、初恋に入れ込む男は気付く事が出来なかった。

あの日――怪物の襲撃を受けて――以来、父は買った家にも殆ど戻らず日長どこかに出かけていた。
ふらりと戻ってきては、慌ただしく出ていく。そんな生活を繰り返していた。
これまでだって父が仕事をしている間、ホテルなりの拠点で数名の護衛と待機しているのが常だった。父の不在自体は珍しいことではない。
だが、今の父は武器商人の仕事をしていると言う風でもなかった。かといって目的なくふらついているという風でもない。
何をしているのかまったくの不明瞭だった。
いつの間にか、共に食事をとることもなくなっていた。

唐突に父が国へ帰ると言いだしたのは、東欧の片田舎で1年を過ごそうかという頃合いだった
国と言うは父の祖国、そして訪れた事のない男の祖国だ。
女との別れは惜しかったが、それ以上に心惹かれるモノがあった。
何時か迎えに行くと約束して連絡先だけを渡して女とはそれで別れた。

一度も踏み入れた事のない祖国への帰国というのは不思議な気分だった。
その国は紛争地の様な苛烈さはないものの、かと言って東欧の片田舎の様な穏やかさもなく、何とも雑多な国だった。
少なくともこれまで訪れてこなかったことが示すように、武器商人の需要はないように思えた。

帰国して、父がまず行ったのは孤児院の設立や、潰れかけた廃病院の立て直しといった慈善事業だった。
あれ以来、武器商人の仕事はしていなかったから、宗旨替えしてこのまま慈善事業の道楽にでも走るのかと思った。

だがそれは違った。
東欧での1年は次の事業に取り掛かるための準備期間でしかなく。
極東の島国に移住したのは望郷の念などではなく、その土地が色々と都合がよかったからに過ぎない。

父が行おうとしてたのは、異能力者の商品化だった。
あの時、親子は同じモノを見たけれど、感じた思いは違ったのだ。
異能、異形、自らが扱う兵器などでは届かない、世界を歪めるその力に父は魅入られたのだ。

正真正銘の人身売買だが、武器商人が今更その程度の倫理観を気にするはずもない。
問題があるとするならば倫理ではなく、現実的な仕入れの問題だろう。
製造ラインを構築すればいい兵器とは違って、能力者は偶発的に生まれる存在である。
太古からごく稀に生まれては、聖人として崇められたり、あるいは魔女として断罪されてきた存在だ。

それらを回収して売るにしても、偶発的な存在である以上、供給は安定はしないだろう。
希少だったからこそ商品価値があるのだが、商品とするにはそれでは落第だ。
安定した供給を行うためには安定した確保が必要である。

そのために父が取った選択は能力者を製造するという方法だった。
製造技術を独占できれば、販売市場も独占できる。

何故能力者には能力が宿るのか。
能力者のどこに能力が宿るのか。
通常の人間とはどこが違うのか。
どうすれば人は能力者為りうるのか。

それらを解明するため、世界中に手を広げ集められるだけの能力者をかき集めた。
孤児院を装い子供たちを押し込め、病院を裏で研究に利用した。

問診や診察。カウンセリング。脳波の計測。血液検査。DNA解析。
当時最先端ともいえる技術を駆使して徹底的に調べ上げた。
それのみならず、非人道的な行為も当然のように行われていた。

頭皮と頭蓋を蜜柑の皮みたいに綺麗に向いて、生きたまま脳に電極を刺して能力使用時の反応を計測したり。
脳以外の部位に宿る可能性を調査するため、四肢などの部位がどこまで削がれても能力が発動できるか試してみたり。
脳を各部位毎にケーキみたいに切り分け、細胞ひとつ無駄にないよう丁寧に調べ上げた。

だが、開始から半年ほど経過した所で、研究は行き詰りを見せた。
成功すれば量産できるとはいえ、先行投資するにしても数が足りなかった。

元となる素材がなければ研究は進まない。
材料を手に入れるためなら、いよいよ手段を問わなくなり、拉致まがいの行為にも手を出した。
違法行為は武器商人時代に築いた政府や警察組織とのコネクションで強引にもみ消したが。
いよいよ成功を治めなければ後ろに引けない段階に突入していた。

そんなある日、男の下に一通のエアメールが届いた。
送り主は東欧に残した女だった。
手紙には、女は男の子を身籠っており一人で産むつもりだったが両親から堕胎を迫られているという内容が書かれていた。

それを受けた男はこちらに来てはどうかという旨を書いた手紙と旅費となる金を送り、女を迎えた。
男と女は再会を果たし、数か月後、父の病院で二人の子供は無事この世に生を受けることが出来た。
ケージの中の我が子をその手に抱え、男はそこで気付いた。
子供は能力者だった。

その後、男の危惧した通りの事態が起き、目の前で子を奪われた女は精神を病んで程なくして死亡した。
それを契機に男も姿を消した。
その後は地下組織に身を窶したとも、傭兵として紛争地に向かったとも言われているが不明確である。

そんな多くの犠牲の下に、能力者研究は成功を収めた。
だが、いよいよ実用化に向かおうかと舵を切る丁度その時期に予想外の事が起きた。
世界的に能力者の爆発的増加が始まったのだ。

世界は革命され、人類は原因不明の進化を遂げる。
能力者の希少性は薄れ商品価値はなくなった。
これにより、能力者販売計画はあえなく廃止となった。

姿を消した男が次に明確に舞台に登場するのは、悪党商会の社長が“不慮の事故”で死亡した直後の話になる。
突然指導者を失い混乱する組織を、息子の立場を利用した上で圧倒的実力で纏め上げた。

男は能力者研究の副産物であるデータを利用し、悪党商会に更なる発展を齎した。
全権を握った男は、使える全権限を利用して世界を表と裏に切り分けた。
どちらを重視している訳でも軽視している訳でもない。
強すぎる力は世界を歪ませる。故に住み分けが必要だ。
双方は双方に応じた世界で生きるべきである。
それが世界の為である。

そう信じて、世界を正しく回すために。

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『まあそれで死んだと思っていた子供が実は生きていて、その子供が産んだ娘が水芭ユキって訳なんだけど』

電話先の声は何の情緒も風情も伏線もなく、そんな事情を暴露した。

『つまり今の奥さんとの間にできたお孫さんとは違う、君にとっての本当の初孫になる訳だね。
 君がその事実を知ったのは何時なのかな? 孤児院に引き取る前? それとも引き取った後なのかな?
 なんにせよそんな相手にお父さん呼びさせるのは何というか……はは、倒錯的だねぇ』

オデットの足止めという役割を果たし、水芭ユキの居場所という報酬を受け取るべく発注元へと連絡をしたのだが。
電話の先では友人と雑談でもするようなノリで笑う男の声が響いていた。

「長々と一方的に捲し立てて、結局、言いたかったのはそれかい?」
『ああ。そうだよ。依頼をした時にも聞いたけど、もう一度聞くよ。本当に殺すつもりなのかい?
 いやね。君の父親みたいに日和ったりされて困るんだよ。口では殺すと言っていたものの本当は護るつもりだったとか、そう言うオチは止めておくれよ?』

電話先の嗤い顔が見えるような声だった。
遥か高みより男の真意を見透かしたように超越者が言う。
それに対して、男は大きくため息を漏らした。

「ねぇワールド。一つ言ってもいいかな」
『いいよ。なんだい?』


「――――――あんまり嘗めるじゃねぇぞ」


電話先の相手の心臓を凍りつかせることが出来るような、重く冷たい声だった。

「ワールド。君は色んな事情を知ってさぞ物知りなのだろうけど、君に分かるのは何が起きたかまでのようだね。
 どう思ったかまでは君には理解できない。勝手に人の気持ちを察して分かった気になってるだけさ」
『へぇ? それはどういう?』
「俺はね、親父を否定したわけじゃないよ。むしろその在り方には感銘を受けた口でね。
 だから俺も俺なりに手段を選ばなかっただけさ、俺の目的の為にね」

男の父親は目的のためなら手段を選ばない正真正銘の悪党だった。
男はそのやり方に倣っただけだ。だからこそ今の男がある。
男と父は互いの目的の上に互いがいただけの話だろう。

『父親を恨んではいないと?』
「ああ、むしろ被害者だろ。ああいうのを生まないためにするのが俺の役目でね。
 強すぎる力ってのは良くも悪くも世界を歪める、適度に刈り取り適度に整備だ」

人は己が領分を越えた世界では生きられない。
ならば触れ合わず、己が領分を越えぬ世界で生きるのが幸せだろう。

「それに擁護するわけじゃないが、別に親父もあの子を使わなかったのは日和った訳じゃないだろうさ。
 赤ん坊じゃ使い物にならないから、ある程度育つまで置いておいたというだけじゃないかな。
 身内だから、なんて曖昧な理由で目的のための手段を選ぶ男じゃあないよ」
『だから君も実孫を切るにも躊躇いはないと?』
「最初に言っただろ。身内にこそ厳しくってね」

それは愛がない故の言葉ではない。
愛があるからこその言葉である。

『なるほど。つまり彼女は君にとって正しく最大の敵という訳だ。君がわざわざ彼女の位置を聞き出してまで執着した理由が分かったよ』

唯一倒すのに心を砕く相手だ。
目的のために手段を選ばないと言うのならば、だからこそ手ずから殺すのだ。

『あぁ……悪かった。認めるよ森茂。君を倒される側に配したのは間違いだった。君にも十分に勝ち残る資格がある』

敬意と喜びを含んだ声だった。
男は表情を変えぬまま電話越しに肩をすくめる。

「それってこれまでなかったって事? 酷いね」
『そう言う訳じゃないさ。けどまあ僕にとっては悪くない展開だ。君は君の目的のために励みたまえ森茂。
 水芭ユキは北西の市街地にいるよ。近づいたらもう一度連絡してくるといい、その時にまた詳しい場所を教えるから』
「また君お話しないといけない訳だ。正直君と話すのは疲れるから嫌なんだけどねぇ」
『そう言うなよ。もう無駄話はしないさ。これからは君を応援するよ』
「だからって何かしてくれるって訳でもないんだろう?」
『こうして話してやってるだけでも結構な贔屓だと思うけどねぇ』

こうして主催者と参加者が話をしているというのも結構な例外である。
他の参加者に知られたらつるし上げられても言い訳できない程に。

「ま、いいさ。とりあえず市街地を探して見つけられなきゃ連絡するよ」
『それでいいよ。精々己が理念に殉じたまえ』

電話はそこで途切れた。
森は片方を失ってしまった腕で携帯電話をしまいながら、その内容を反復する。

「勝利者の資格、ねえ」

つまり資格のある参加者とない参加者がいるという事だ。
そして森にはその資格がなかった。
これは恐らく、実際に勝ち残れる勝ち残れないの話ではない。
勝ち残った際に奴の目的に沿っているかどうかの話だろう。

「まあいいさ」

意識を切り替え視線を北西へと向ける。
今から彼はそこに向かわなくてはならない。
己の孫娘を殺すために。

【H-7 市街地/夕方】
【森茂】
[状態]:右腕消失、ダメージ(大)、疲労(極大)
[装備]:悪砲(1/5)
[道具]:基本支給品一式、携帯電話、S&WM29(0/6)、鵜院千斗の死体
[思考・行動]
基本方針:参加者を全滅させて優勝を狙う
1:ユキの下に向かい殺害する
2:他の『三種の神器』も探す
3:交渉できるマーダーとは交渉する。交渉できないマーダーなら戦うが、できるだけ生かして済ませたい
4:殺し合いに乗っていない相手はできるだけ殺す。相手が大人数か、強力な戦力を抱えているなら無害な相手を装う
5:悪党商会の駒は利用する
※無痛無汗症です。痛みも感じず、汗もかきません

132.世界の中心で愛を叫んだけもの 投下順で読む 134.炎のさだめ
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A bargain's a bargain. 森茂 Negotiation

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最終更新:2016年08月14日 00:16